TOP 】 / 【 めぞん 】 / [さんご]の部屋に戻る/ NEXT

「或はそれも幸福のカタチ」












第1話「Beginning on a sudden」

























時に、西暦2015年。



















「はぁ......またアスカったら実験用の試験管置きっぱなしで...ちゃんと洗浄しないと、....ってあれほど言っておいたのに...」

青年はひどく散らかった同僚の実験机を見て溜め息をついた。

彼女がまともに何かを片付けたためしはこの1年ないのだ。
それをいつも見かねて片付ける。放っておけばいいのだが....いかんせん、彼の奇麗好きの性格がそれを許さなかった。
すぐ傍に、わけのわからない液体が入った器が放置されているのも何か嫌な気分になる。

彼はやれやれ、といった表情でアルコールの入ったビンを持ってくる。
そして手早く試験管の中にアルコールを入れ、消毒、洗浄する。

ようやく彼も安心したのか、ふっと口元を綻ばせる。

碇シンジ、19歳。
近い将来、地球温暖化による水位上昇を見越して箱根の山奥に建造された「第3新東京市」。
その際に町外れに建てられた政府直属の研究施設、「人工進化研究所」の所員である。

18の時からここで新薬研究などをチームを組んで行っている。
チームは基本的に三人で一組。大抵は若年研究員が二人と経験を積んだ研究員一人の構成で行われる。

が、残りの二人は今この場にいない。

「またミサトさん、リツコさんの所かな....はぁ」

この部屋の主、葛城ミサトは今日もまたサボリ半分で別の研究室に行っていることだろう。シンジの口からまた溜め息がこぼれた。

「くぁ」

そしてもう一人...いや、もう一匹のこの部屋の住人が同情するように一声鳴いた。
実験動物だったのをミサトが引き取ってきた「温泉ペンギン」という新種のペンギンである。名前はペンペン。もちろん名付けたのはミサト。安直である。

「あ、もうお昼だね。ペンペンにもご飯作らなきゃね」

「くぁっ!」

彼は研究室備え付けの冷蔵庫の中から近くのスーパーの特売で買ってきた魚を2尾取り出し、皿の上においた。ペンペンがトタトタと歩み寄ってきてそれをいかにもおいしそうに丸呑みした。

「うーん、いつも思うんだけど、お前、そんな食べかたで味わかるの?」

「くぁ?」

それは、ペンギンのみぞ知る。

「さて、僕も昼食にしようかな....アスカは、どうするんだろ」

と、その時、噂をすれば影、というやつか、扉が勢いよく開いたかと思うと栗色の髪の女性が入ってきた。

惣流・アスカ・ラングレー19歳。
日本とドイツのクォーターで、シンジと同じ年にドイツの研究所から移籍してきた。その容姿からも研究所内での人気は高い。

シンジがほのかに思いを寄せる女性でもあるのだが....それは彼が奥手だという理由により相手に伝わっていない。
アスカはと言えば、どう思ってるんだかさっぱり。女心を知るにはまだまだ時間が必要のようだ。

「あぁ、アスカ、今お昼作ろうかと思ってたんだけど、どうする?」

「『イヤだ』って言っても作らせるわよ。お願いね......って、あぁーーーーーっ!!あんたまた勝手に試験管片付けたわねっ!」

一瞬、もしかしてまだ使うやつだったのかと焦るシンジ。

「え、あれって、まだ使う予定だったの?」

「実験はとっくに終わってるわよ。アタシが言いたいのはね、勝手に人のものをいじくらないで、ってことよっ!」

「だってアスカ。いっつも実験しっぱなしだし、言っても全然自分で片付けないじゃないか。」

「うっ....(引き)」

図星を突かれるアスカ。

「そんなことはどうでもいいから、さっさとご飯作りなさいよっ!お腹空いてるんだからっ!」

「はいはい」

いつも通りの、平和な会話であった。
これまた研究室に備え付けのカスコンロにフライパンを置き、自宅から持ってきたご飯を使って簡単なチャーハンを作る。研究室に似つかわしい食欲をそそる香りが漂う。

「はい、できたよ」

「何これ?相変わらず手抜きな食事ねぇ」

少しだけムッとするシンジ。

「だったら食堂に行けばいいじゃないか」

「やーよ。だってあの食堂高いし、量も少ないんだもの」

確かにもっともな意見ではあったが、何かが間違っている。
まぁ、チャーハンの材料を二人分持ってきている時点でシンジの負けではあった。

しばらくそんなとりとめのない会話が続いていると、扉が先ほどにも増して勢いよく開いた。

「「あ、ミサト(さん)」」

思わずユニゾンする二人。

「あ〜ら、二人だけの時間を邪魔しちゃったかしらぁ?」

ニンマリ、という擬音がぴったりな笑いを浮かべながら言うミサト。
シンジの顔が真っ赤になる。
アスカは猛然とミサトにくってかかる。

「何バカなこといってんのよっ!それよりも、午前中はどこをほっつきまわってたのっ!全然研究が進められないじゃない!」

「あ、ごっめーん、リツコの所に行ってたのよん」

「またですか、ミサトさん」

「また、ってどういうことよ、シンジ君?」

「だって、いっつもそうじゃないですか....あれ?」

ズキン

「?どうしたのよ、シンジ?」

「いや、なんか頭が痛くなって....おかしいな」

「ミサトがあんまりにもシンジに迷惑かけるからよ」

自分のコトはとっとと棚に上げるアスカ。

「なにいってんのよアスカ。シンジ君、風邪引いたんじゃない?」

「いや、でも熱もないし、頭が少し痛むだけですから....」

「ダメよ、風邪は引き始めが肝心って言うじゃない。リツコの所に薬があったわね。早速貰いに行きましょ。ほら、シンジくん」

半ば強引にシンジの手を引っ張るミサト。

「は、はぁ....」



丁度その頃、世紀のマッドサイエンティスト、赤木リツコ博士の研究室はちょっとした騒ぎが起きていた。

「やったわよ、マヤ、とうとう培養に成功したわっ」

「え?何がですか?先輩?」

「例のアレよ(ニヤリ)」

「あれをですかっ!で、どこにあるんです?それ」

「そこの机の上にサンプルの試験管を置いてあるわ。シャーレから移したやつよ」

机の上に並ぶ2本の試験管。

「すっごい!顕微鏡で見てみてもいいですか?」

「ちょっと待って、これはかなり重要なプロジェクトなの。だから所長に報告してこなくちゃね。うう、思い起こせば3年前....」

耳にタコができるほど聞いた苦労話がまた始まってしまった。
それをさりげなく遮ろうとするマヤ。

「あの、先輩、所長の所に早くいかないといけないんじゃないですか?」

「...それでその時西の空から.....え?ああ、そうだったわね」

いそいそと出て行こうとするリツコ。

「私が戻ってくるまでは決してそれに触れちゃだめよ...きゃっ!」

扉をでた所でぶつかる二人。
扉の外には丁度研究室に戻ってきた綾波レイがいたのだ。

綾波レイ、シンジたちと同じく19歳。
空色の髪、極端に白い肌。赤い瞳。アルビノと世間では呼ばれている。
普段から無口ではあったが、美人ではあったのでアスカと同じく所内での人気は高い。

「.....すいません」

「あいたた....、あら、レイじゃないの。あっと、急がなくちゃ。また後でね」

いそいそと廊下を歩いていくリツコ。
その時向こうからミサトがシンジの腕を引っ張りつつ歩いてきた。

「あらミサト、また来たの?コーヒーならマヤに頼んでね」

「なーにいってんのよ、今回はね、シンちゃんが風邪引いちゃったみたいなんで、ほら、あんたん所で試作してた強力なやつ、あったでしょ」

『試作』『強力なやつ』....シンジの顔から、さっと血の気が引く。

「あぁ、あれなら担当はレイだから、レイに言ってちょうだい」

「はいはーい」


そしてシンジを引っ張ったまま研究室に入るミサト。

「こんちゃー、病人一丁お届けにあがりやした〜」

実に脳天気。

「あら?シンジ君どこか悪くしたんですか?」

「ちょっちね、シンちゃん風邪引いちゃったみたいなのよん。ほら、ここって風邪薬の研究もしてたでしょ。さっきリツコに言ったらレイが担当だって言うからさ」

「あ、そういうことだったんですか。そういうことなら、レイ、出してあげて」

「....はい」

机の上に立ててある2本の試験管のうち1本を取り出し、中の液体をカプセルに納める。
「これ、薬。よく、効くから」

「あ、うん。ありがとう、綾波」

しかし少しだけ躊躇する。『試作』『強力なやつ』....おっかない響きの言葉が先程からずっと頭の中をぐるぐると回っている。

しかし、レイが先程から薬を飲むのを今か今かとじっと見つめているので飲まないわけにもいかず、一緒に渡されたお湯と一緒に『えいやっ』っと飲んだ。

「ん。これで大丈夫でしょう」

満足げなミサト。再びシンジの腕を掴んで出て行く。

「んじゃ、ありがとね〜、また来るわ」

「あ、ど、どうも、お世話さまでした」

騒がしい音を立てて出て行く二人。
入れ違いにリツコが帰ってきた。心なしか足取りも軽そうだ。

「あら?」

「どうしました?先輩」

「これ、減ってない?」

試験管の片方を指差すリツコ

「あぁ、風邪薬ですか。ええ、さっきシンジ君に飲ませてあげましたから」

しばらく惚けたような表情になるリツコ。

「これを、どうしたって?」

「いや、だから、飲ませてあげたんですよ」

「誰に?」

「だから、シンジ君にです」

「なんで?」

「風邪引いてたからでしょう?」

と、さすがにマヤもはっと気がつく。もしや..........













2本の試験管

よく似た色の液体


















二人は、しばらく、5分ほどだろうか、あっちの世界に行ってしまったかのような虚ろな表情でぼーっと見つめあっていた。

それを「?」といった表情でじっと見ているレイ。



支離滅裂な内容の叫びが研究室に響いた。

























一方こちらはミサトの研究室。

「ふーん、で、風邪は治ったの?」

実験用マウスに餌をやりながらアスカが聞く。

「うーん、気分的には楽になったかな」

「なぁに?シンちゃんの事がそんなに心配だったの?アスカ」

からかいモード全開の口調のミサト。

「ばっ、バカっ、何いってんのよっ、どうだっていいわよ、バカシンジなんか」

少し悲しげな表情になるシンジ。

「あぁら、ダメよぉ、そんな風に言っちゃ。シンちゃんキズついちゃうわよん」

「一生言ってなさい、ばかっ」

と、そんな平和な(?)会話を打ち破るようにしてドタドタと騒がしい足音がしたかと思うとリツコがものすごい勢いで入ってきた。
よっぽど急いできたのか、肩で息をしている。

「ちょ、ちょっと、どうしたのよ、リツコ」

「(ぜぇー、ぜぇー)....シ、....薬.....(ぜぇー、ぜぇー)」

「何言ってるんだかさっぱりよ、リツコ、落ち着きなさい」

普段一番落ち着きがない人が言ってもさっぱり説得力が無い。

「(ぜぇー、ぜぇー、ぜぇ)」

ふぅー、と大きく息を吐き出し、深呼吸するリツコ。

「碇、シンジ君」

「は、はい?」

突然名前を呼ばれて驚くシンジ。だが、リツコの次の言葉はシンジを更に驚愕させるものであった。
















「あなた、今から最高機密ね」

















つづく



NEXT
Version-1.00 1997-11/06公開
感想・叱咤・激励・「砲神エグザクソン激燃えっすよね!!」等は こちらへ

えーと、あとがきです。

やっぱめぞんEVAに入居させていただいたんだから、連載の1つでももちたいなぁ、でもネタないしなぁ....
と、考えつつ某ハヤカワSF文庫を読んでたら思い付いたのがこの話です。
あぁ、なんて便利なんだ、ハヤカワSF(おいおい)

さて、ネタを思い付いたのはいいがタイトルが決まらない。英語はなんか怪しいし、とりあえず日本語にするにしてもいい言葉は....で丸1日悩みました。
で、結果がこれなんですけど、どっかの名前とダブってたらどうしよう(びくびく)
似た名前はいくつか確認してますが、うーん、大丈夫だよね。多分。

さて、これはかなり重要な事なのですが....この話、LASです(爆笑)
アスカ派な人はそっちもお楽しみに。

全20話くらいを予定してます。って大風呂敷だな。

今回執筆時のBGM−CD:「SEGA TouringCar Championship」

それでは、以後ごひいきに。ってことで[さんご]でした。


 さんごさんの『或いはそれも幸福のカタチ』第1話、公開です。
 

 さ、最悪の事態だ・・・

 MADリツコさんの
 重要プロジェクトの
 例のアレ・・・

 な、なんてものを飲んじゃったんでしょう(^^;

 シンジくんに明日はあるのだろうか。

 ホントにホントにご愁傷様です〜
 

 追い打ちを掛けるように
 リツコさんのお言葉が・・

 「あなた、今から最高機密ね」

 シンジくん、
 リツコさんのオモチャ決定ー
 

 不幸の一番星シンジ。
 唯一の救いはLASとのあとがき・・。

 希望もって生きてね(^^)

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 タイトルに苦労したさんごさんに感想メールを書きましょう!!


めぞんに戻る/ TopPageに戻る/ [さんご]の部屋に戻る