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NEW TYPE EVANGELION

第弐拾九話
奇跡


カッ!

一陣の光を放ち、周囲にある物を全て飲み込んだ後辺りは再び宇宙の闇へと変わっていった。
だが、光を放った場所にある物は・・・・・何もなかった。

「とうさぁぁぁぁぁぁんっっっ!!!」

シンジの絶叫だけが、その場を支配していた。




依然、NERVは攻撃を受け続けている。
揚陸艇が自爆したのは遠距離攻撃を仕掛けてくる使徒の中心。
すなわちそれ以外のNERVに取り付いている使徒には何らダメージを与えなかったのである。

「くっ・・・・・しつこいわねぇぇっっ!!」
「いい加減に落ちさらせっ!」
「邪魔だよっ!」

NERVに取り付いている使徒に対するはアスカ、レイ、トウジ達。
シンジはと言うと・・・・

「・・・・・・・」

父親の死という現実に、成す統べなく、瞳を虚ろへと変化させていた。
結果、自分以外の人間がどのようになっているのか知る由もない。
NERV、アスカ達共々依然窮地に立っていることなど知ろうともしなかった。

「・・・・ぁ・・・・・ぁぁ・・・・・」

その目からは涙が流れているのかも知れない。
だが、その涙もLCLというエヴァの胎内においては何の感慨ももたらさない。

しかし、シンジが戦意喪失している場合ではなかった。
喪失している最中でも、使徒からの攻撃は休まってはいないのである。

それを解決すべく、責任のある人間が活を入れなければならない。
その役割にある人物・・・すなわち作戦部長、葛城ミサトに他ならない。

『シンジ君っ!気がついてっ!シンジ君っ!シンジ君っ!』
『・・・・依然初号機パイロットの深層意識、戻りませんっ!』
『NERVの被弾率、80%!』
『第8隔壁損傷っ!第12消火班出動してくださいっ!』

依然NERVへの攻撃を続ける使徒達。
彼らに連帯意識がないため、なおのこと悪い。
NERVへのダメージは、刻一刻と増え続けていった。

もちろん、それをただ手をこまねいてみているわけではない。
シンジを除くエヴァ、アスカ達がそれぞれNERVに取り付いている使徒を殲滅にかかっている。
しかし・・・・

「こんちくしょぅぅっっ!!」

数が多すぎた。
戦力差はゆうに10倍。
しかもNERV側は戦力の要であるエヴァ初号機改、シンジを欠いてしまっている。
5分かかってやっと1体の使徒を倒すので精一杯になっていた。
もちろん、残ったエヴァ総掛かりで、である。

まさに今、超弩級宇宙戦艦NERVは沈もうとしていた。

















『・・・・ココは・・・・何処だ?』

何の感触もない空間。
自身が自身と感知しない空間。
自分が自分であるかどうか分からない空間。

『・・・・・死んだのか?俺は・・・・』

その様な空間に、NERV司令碇ゲンドウは居た。

『それにしても・・・・何もない。三途の川すら見えないではないか・・・・』

自身の取り巻く環境に躊躇するゲンドウ。
戸惑うのも無理はないだろう。
自分が居るところ、そこから周りに空間全てが白一色と化しているからだ。

『・・・・・・・分からん。俺は死んだのか?それとも・・・まだ生きているのか?』

その様な疑問にふけっている最中、ゲンドウの周りに空間が突如変化し始めた。

『ぬぉ・・・・』

ゲンドウすらも白色に包まれると、彼は少しの間気を失う結果となった。








『・・・・ココは・・・・・』

ミーンミンミンミーン・・・・ジージージー・・・・

蝉の鳴き声。
そして・・・・

「・・・・・」

10代なのだろうか、可憐であろうとおぼしき少女をゲンドウは見た。
そしてその少女をみ、驚愕を覚える。
無理もない。

『・・・・まさか・・・・』

その少女の見えないところで、さらにゲンドウは見知った人物を見た。
付け加えるなら、その男は黒服にサングラス、と言うことだけだが。

監視をする男。
見張られている少女。

その組み合わせにゲンドウは驚きを隠せないでいる。
そう、それは事実、すなわち男こそ碇ゲンドウ、少女こそ碇ユイに他ならなかった。

『過去・・・・俺の過去・・・しかもユイを初めて知った頃の俺の過去か・・・・』

事実を受け入れる。
自分の目の前にある事実を受け入れるしかなかった。

「そこにいらっしゃるんでしょう?」

突如、ユイが口を開く。
それはゲンドウではなく、黒服の方のゲンドウに。

「・・・・」
「そうですね・・・あなたが私に対して何も言うことが出来ないことは、重々承知しています」
「・・・・」
「でも・・・此処に来て一緒にお茶を飲むのは何も問題ないでしょう」
「・・・・」
「いらして下さい。温かい紅茶が入りましたよ」

黒服のゲンドウは観念したのか、ユイの前に立つと、カップをおもむろに取り、そのまま一気に飲み干してしまう。
そしてそのまま先程居た位置までもどり、再び監視の体制に入った。

「まぁ」

くすくす。
その様な笑い声が聞こえてきそうな雰囲気である。




『確かにこれは俺がユイを監視していた頃・・・ゼーレの下級監視官だった頃の記憶だ・・・』

『だが・・・何故俺にこの様な記憶を見せる・・・・』

ゲンドウが顎に手を当て、考えにふけようとすると、辺りは再び白色へと変化していった。

『む・・・・』




「そろそろ教えて下さっても・・・良いのでは?」
「・・・・」

再び同じ風景が眼前にある。
しかし、先程とは違う。
黒服のゲンドウがユイのとなりに座っているところ。
これが先程の記憶と違っているてんである。

『これは・・・あれからしばらくした後・・・となると』

「・・・・」
「・・・・・・・分かった」

いきなりゲンドウが口を開く。
その唐突さに、ユイはいささか驚いたようだ。

「・・・ゲンドウ。六分儀ゲンドウだ」

『やはりっ!俺が六分儀姓を名乗ったとき・・・・初めてユイに対して口をきいたときだ・・・・』

鮮明に蘇るゲンドウの記憶。

『そうなると・・・次はおそらく・・・・』

そう考えるやいなや、ゲンドウの周りは三度白色へと変化する。




「そうですか・・・・・分かっていました。あなたが私を監視していたと言うことは」
「すまない・・・俺も”ゼーレ”に飼われている身・・・・」
「そう気にしないで下さい。私も・・・あなたに出会えて嬉しいのですから」
「ユイ・・・・」

このころのゲンドウとユイはお互いに理解し合い、それなりに親交を深めていた。
ただ、ゲンドウ自身が”ゼーレ”の雇われ犬だと言うこと以外は。

「私の家、碇家の当主は”ゼーレ”に肩入れすることにより繁栄した家。あなた方が監視に来るであろうと言うことは理解していました」
「・・・・」
「でも・・・来たのがあなたで・・・・私は良かった・・・・」
「・・・済まない」
「もう良いのです。”ゼーレ”が来たことよりあなたに出会えたことで・・・・私は・・・・」

ユイの言葉の続きを待たずして、ゲンドウはユイの言葉を遮った。

「私はこれからおまえを守っていこう」
「・・・・えぇ」
「”ゼーレ”とも決別する」
「はい」
「最後の仕事をした後・・・”ゼーレ”を抜け、俺は敵対する組織を作る。手伝って・・・・くれるか?」
「はい。あなたと・・・いつまでも」

互いに温もりを感じ会っている二人。
時にして1999年。
セカンド・インパクトと呼ばれる大災害の1年前の出来事である。

『そう・・・此処から俺の人生が変わった』

ゲンドウはその後、最後の仕事として”ゼーレ”の面々と共に南極へと向かう。
そこで”リリスの卵”を奪取。

『俺はそれをユイの前まで持ってきた。そしてユイの協力をあおってNERVを作った』

地球の”ゼーレ”に対抗するために結成されたNERV。
表向きは国連の外部組織となっているが、実状はゲンドウの私設軍隊にすぎなかった。
国連はただ、NERVが日本政府と何らか変わりないと認めただけにすぎない。

『しかし俺は・・・・ユイの家、碇家の財産を食いつぶしてしまった』

”リリスの卵”の解析。
それに伴う対使徒戦用兵器、汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンを開発。
さらには要塞都市第三新東京市の建設。
もちろん、国連からの資金はあったが、その額など雀の涙。
ほとんどは世界有数の資産家碇家の財産から成っていた。

『苦労させたな・・・ユイには』

いわゆる”お嬢様”だったユイは、ゲンドウと結婚して以来普通の生活を強いられることになった。
そのギャップからか、シンジを生んだ後1年ほどは病院で過ごす毎日となっていた。

『医者は産後の経過が良くないと言っていたが・・・・原因は全て俺にあるんだろうな・・・』

自責の念に駆られるがそれも今では無意味と知る。

『しかし・・・俺はユイのおかげで本当の幸せを知ったような気がする・・・』

それは紛れもない事実。
そして15年立った今でもゲンドウがユイを愛していることを再確認するのに、さほどの考えは必要なかった。

『ユイ・・・・』

ユイを想う。

『再び・・・俺はユイに会いたい。ユイに会わねばならん。死ぬ・・・・べきではないっ!』

そう願う。
その願いが、光となり、ゲンドウを白色へと染め上げる。

















未だにシンジの瞳に光は戻らない。
シンジの駆るエヴァンゲリオン初号機改も、その動きを見せない。

『シンジくんっ!シンジくんっ!』

エントリープラグの中にミサトの声が木霊する。
正確にはLCLを通してシンジの耳に直接音が通じているだけなのだが、それでも木霊しているように聞こえる。

「マヤちゃんっ!初号機の様子はどうなっているのっ?!」
「計器類に異常は全くありませんっ!オールグリーンッ!」
「じゃあ何でシンジ君は反応しないのよっ!」
「ちょっと!ミサトっ!」
「何よっ!リツコッ!」
「あたらないでっ!マヤは何もしていないでしょう?!シンジ君のことはほっておいて、あなたはすべきことをしなさいっ!」

切れかかったミサトをリツコが宥める。
既にミサトはシンジに対し、心配ではなく怒りをぶつけていた。

「第153番陽電子砲大破っ!」
「24区域居住区に火災発生!」
「メイン縮退炉、出力14%までダウン!」

ミサトが切れているときでも、使徒の攻撃は止まない。
もちろんアスカ達も使徒を殲滅していることに間違いはないが、それ以上に使徒の攻撃が激しかった。




「・・・さん・・・・と・・・・ぅ・・・・・さ・・・・・・」

未だにシンジに力は戻らない。
唯一シンジに力を与えるであろう、血の繋がった母親は眠ってしまっている。
絶望、その言葉が現実となり始めた。




『・・・・・・・・・・・・・・・・・・ろ』




「えっ!?」

突然の外部通信。
それに対し、NERVブリッジの面々は一斉にメインスクリーンに目を奪われた。
もちろん、アスカ達も攻撃の手をゆるめ、声のする方向に目をやる。
そこには。




『・・・・・・きろ』




『・・・・起きろ。シンジ』




『勝手に殺すな。起きろ、シンジ』

「とう・・・さん?」

『当たり前だ。よく見ろ』

シンジがモニターを拡大する。
そこには宇宙服に身を包んだゲンドウと冬月があった。
二人とも傷らしきものは見あたらない。

「でも・・・でもっ!」

『俺は大丈夫だ。だからシンジ。おまえは・・・成すべきことをしろ』

「・・・はいっ!」




これにより、戦力差が変化する。
NERV側、エヴァがそれぞれ3機+α(E−BIT)に対し、長距離専用使徒約30。
戦力比は5対30だったところ、シンジの復活により10対30まで回復した。

「ああああっっっっっ!!!」

咆哮。

「だぁぁっっっ!!」

叫び続けるシンジ。
それに続くように、アスカ達も次々と使徒を殲滅していく。
数の上では上回っていた使徒たちも、だんだんとその数を減らし続けていた。

「ああっ!」

手にしているアクティブ・ソードでアラエル形態の使徒をまっぷたつに切り裂くエヴァ初号機改。
その姿はまさに紫の機神と呼ぶにふさわしかった。

『NERVへのダメージはっ?』
『エヴァ初号機改の戦闘復帰により、ほぼ0になっていますっ!』

シンジの駆る初号機改は次々と使徒を蹴散らしていっている。
時折見え隠れする金色の粉がその強さの片鱗を見せる。

当然、アスカの駆るニュー・エヴァ弐号機もそれに負けてはいなかった。
手にしているプログレッシブ・ブレード2でアルミサエル形態の使徒をちょうど蹴散らしたところだ。

レイの駆るニュー・エヴァ参号機と、E−BITが伴っているエヴァ参号機のトウジは遠距離、すなわち援護に徹しているため、
使徒の殲滅記録はない。
それぞれポジトロン・ライフルRATとパレット・ライフルWでシンジ達を援護している。

子供たち全員で母艦を守る戦い、それを行っていた。
これが行えるようであれば、すなわち彼らは”戦士”と呼ぶにふさわしい。
たとえそれを当人たちが望んでいなくとも。




「はぁはぁはぁ・・・・もうすぐ・・・もうすぐっ!!」

使徒をすべて殲滅しかけようとしているところ、シンジ達の容態が変化する。
シンジ達自身の変化ではなく、彼らの乗るエヴァの変化。
エヴァ各機は時折金色に変化を始めている。
当然、使徒に対しての攻撃の手は休まっていない。
それどころか何か、圧倒的なものさえ感じさせる。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ・・・・・・」

これだけの戦闘を続けると、パイロットの体力が持つわけはない。
もちろん、それはブリッジのミサト達でも認知していた。

『いったん後退させることはできないのっ?!』
『ダメですっ!こちらからの通信がいっさい通じませんっ!』
『なんてこと・・・これではあの子たちが・・・・』

戻そうとしている。
しかし、許さなかった。
エヴァ自体が。

















「なぜ・・・ワシの邪魔をする・・・・」

暗く、それでいて広い空間に物体が一つ。

「ワシはただ、生きたいだけなのだぞ・・・・」

それは小さな物体だった。

「それを・・・邪魔するというのか」

つぶやきと同時に、それは質量を増していく。

「ならば・・・ワシ、この手で解らせよう。ワシがただ、生きたいだけなのだということを」

質量保存の法則を無視しているかのごとく、その物体はたちまちホール全体に拡大する。

「生きたいのだ」








輝く。

それはまさに宇宙を飲み込まんとする、金色の輝き。

人間の生命の顕れか、それとも機神の覚醒か。

それを解っているのは、彼ら、シンジ、アスカ、レイ、トウジ達だけである。

大人と呼ばれるもの達には理解できなかった。

その輝きの意味を。




使徒はすでに存在していなかった。




To Be Continued



NEXT
ver.-1.00 2000/02/24
ご意見・ご感想は y-mick@japan-net.ne.jpまで!!
次回予告

戦いは終わった。
失ってしまったものもあった。
子供達は多くの経験を胸に、地球へと帰還する。

次回、
NEW TYPE EVANGELION 最終話 Return to The Earth



あとがき

いやはや・・・本当は1月中に出す予定だったりします(汗)
遅れに遅れました。
最近では「ジオンの系譜」というものが執筆の邪魔をしていますので(´ー`)ノ

ま、とりあえず弐拾九話ができましたねぇ・・・・
ようやくこれも次が最終回・・・・です。
書き始めて2年強(爆)
何とか4月中には・・・終わりたいなぁ(遠い目)






 Y-MICKさんの『NEW TYPE EVANGELION』第弐拾九話、公開です。





 かわいい人。

 そう言えなくもない、ゲンドウとうちゃん若かりし日・・・・


 ユイ母ちゃんは、はっきり言えるけど。

 かわいいよね、ユイさん (^^)





 無事だったゲンドウ父さん。
 復活のシンジ。

 踏ん張ったアスカ・レイ・トウジ・・・・


 このまま一気に、一気にいけるか?

 ってか、いってくれ〜

 いけ




 大団円に向かって。



  ついでにユイさんも?!





 さあ、訪問者のみなさん。
 いよいよ最終回Y-MICKさんに関そうメールを送りましょう!










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