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リツコは言い知れぬ恐怖を感じていた。

今、自分に向かって歩いてくる人影の正体もさることながらそれの放つ気配に対して

心の底から恐ろしさを感じていた。

「誰?。」

聞いても、答えることなくこちらに向かってゆっくりと進んでくる。

急いで、部屋から出る。

ここなら、明るい。

相手の正体も見ることができる。

だが、惜しむらくはミサトの様に銃を携帯していないことであった。

「さあ、正体を見せてもらうわよ。」

自分を鼓舞するように相手に向かって叫ぶ。

だが、光の中に現われたその正体を見てリツコは体から急速に力が無くなっていくような

錯覚を覚えた。

「れ、レイ…?。」

消えた1体分はそこに現れた。

 

 

少年は夜中だというのに町の中を鼻歌まじりに歩いていた。

「予定より、早く着いたから噂のサードチルドレンにあってみようと思ったのにねぇ。」

途中で誰に言うでもなく、独り言をつぶやく。

「匂うわ。」

突如、後ろから女性の声がして驚いて振り向く。

「いきなりなんだい?、失礼だね。」

「あなた、操られている自由のにおいがするのよ、渚カヲル。」

「急になにを言いだすんだい?、第1、君は誰だい?。」

「黒井ミサ。

いい事、あなたが思っている程、あなたは自由ではないわ、気をつけるのね。」

そう言い残し、瞬き一つの間にその姿を消してしまった。

「ただのリリンではないようだね。」

 

 

 



第5章 光と影のラビリンス PARTU

 

 

 

「レイというのか?、この体の持ち主は?。」

レイの姿を持ったものはリツコに近づきながら嘲るようにそう話し掛けてきた。

だが、レイと違い髪はまるで光りを反射しない黒、漆黒とでもいうのだろうか、

そして、右目が瞳孔も虹彩もない血の様な紅い瞳、対して左目の瞳は髪と同じように黒く

右目と同じく瞳孔も虹彩もなかった。

「な、なんども言わせないで!、あなたは誰?!。」

震える声で、それに再度問い掛けるリツコ。

「恐いか?、私が恐いか?。」

凶悪な笑いを顔に浮かべて近づいてくる。

(恐いわ。)

「少しわね。」

そう言って後ろに下がろうとしたとき、そこにすでに壁が迫っていた。

「ふふ、強がってはいても所詮、ただの人間、少々質はおちるがおまえの血なら

しばらくは持つだろう。」

それが、リツコの喉に手をかけようとしたときリツコは、とっさに体を横に回転

させてよけた。

よけると同時にそれの腹部を懇親の力を込めて蹴り飛ばした。

相手の言っている事の意味がよく判らなくとも、少なくとも身の危険が迫っている事は

理解できる。

リツコは、相手がどうなったかの確認はしないで外に向かう出口に走り出した。

「ぬかったわ。」

蹴られた腹部を抑えながら立ち上がったそれは、リツコを怒りのこもった双眸でにらみ

つけたかと思うと、追いかけて走りだした。

 

(いったい、あれはなに?、まさか使徒ではないし。)

リツコは走りながら、今追いすがってくるものの正体を考えていた。

すでに、靴は脱ぎ捨てている。

ハイヒールは、蹴るのには有効かもしれないが走るとなるとまた別だ。

「こういう時に限って、誰もこないのね。」

なかば、やけ気味に走りながらつぶやく。

後ろが気になるが、こんな時に後ろを振り返って速度を落とすわけにはいかない。

だが、突然自分の右腕に激痛が走った。

思わず振向くと、かなり近づいてきたそれが片手からATフィールドのようなものを

飛ばしている。

それが、リツコの右腕を切り裂いた。

反動で、リツコはその場に倒れてしまった。

(ATフィールドなら、監視にかかるわ!。)

そう思ったが、すぐにここの監視システムは自分が解除していた事をおもいだした。

作業の邪魔になるかもしれなかったからだ。

痛みをこらえて立ち上がると、さらに前へと歩を進めた。

だが、先ほどのようには走る事ができない。

右腕の出血も大分ひどい。

(反応が、あっても確認できないのでは駄目ね。)

 

 

 

マヤは、中々リツコが戻ってこない事を心配していた。

だが、自分のカードではリツコのいるセントラルドグマまで降りる事はできない。

「司令も、副司令も帰ってしまったし、先輩どうしたんですかぁ。」

20代半ばとはおもえないようなしゃべり方で泣き言を言うが顔は真剣であった。

リツコがいない今、セントラルドグマの監視システムを復帰させる事ができない。

しかも、微量ながらATフィールドの反応が検出されたようなのだった。

だが、微量すぎる上に、わずかな間だったので確認がとれなかった。

「下じゃ、先輩の実験が行われているのかも知れないし…。」

マヤたちオペレータ達には、まだ事の真相が発表されていない。

そのため、セントラルドグマの反応で警報を出す事がためらわれていた。

だが、マヤはなんとなく胸中に沸き上がる不安を消す事ができなかった。

 

 

 

高度もあり、また分厚い装甲と地層に覆われているため、エンタープライズのセンサーは

ATフィールドの反応を捕らえることができなかった。

まだ、センサーがATフィールドに合わせた調整がされきっていない事もある。

それらが、災いした。

だが、それだけではなかった。

 

 

 

リツコは痛みと失血でつらくなってきたがここで諦めるわけにはいかなかった。

あの、レイの姿を借りたものの事を伝える前に死ぬわけにはいかない。

「そんな事になったら、無様よ。」

自らの気力を振り絞るためにも声を出しさらに進む。

先ほどまで自分のいた所が音もなくはじける。

(くっ、ATフィールドだけでないわね!。)

破片を背中に浴びながらリツコは確信した。

ATフィールドだけならこんな床の中から爆発させるなんて事はできないはずであった。

後ろから追ってくるそれは、狂笑を上げながらリツコをもてあそんでいた。

なにに向けるでもない、怒りと憎悪を身にまといただ破壊を楽しんでいるようである。

新たな風の刃が、目に見えない刃がリツコに襲いかかってきた。

 

 

 

マヤは、何とかゲンドウや冬月に連絡を取ろうとしたが二人ともなぜか連絡がつかない。

「もう、先輩になにかあったらどうすんですかぁー。」

半ば、八つ当たり気味に受話器をたたきつけると今度は端末に向かって座った。

なんとか、下への監視網を再開させようとゆう魂胆であった。

「あ、そうだわ!。」

端末をいじり始めてすぐマヤはある事に気づいた。

「そうよ、先輩のチームからキーを借りればいいじゃない。」

リツコといっしょに作業していたチームが先に戻っている。

その事を忘れていた自分に腹を立てながら、マヤは彼らのいる部屋へ向かった。

 

 

 

エンタープライズは、監視衛星と思しき物が近寄ってきたために場所を変えた。

どこの監視衛星かは判らない。

どこの国旗もついていないのだ。

エンタープライズは、衛星から隠れるために一時的に月の裏側へ待避した。

 

 

 

「衛星が見失っただと?。」

「いかにも、奴等はこれで消えたのか?。」

「判らぬ、だが、これで済んだとも思えぬ。」

ゼーレは、ネルフの監視衛星とは別に打ち上げられた監視衛星を使いエンタープライズ

を確認しようとしていた。

だが、判別可能な距離に近づける前にエンタープライズに気づかれ逃げられたのだ。

 

 

 

マヤは、彼らのいる部屋に向かってあるきだした。

その部屋に近づいた時見慣れぬ人影を見た。

「誰?。」

その人影が消えた廊下の角を曲がったときには、そこに誰の姿もなかった。

「気のせいかしら?。」

いくらなんでもこんな時間に黒尽くめの女性がいるはずはないだろう。

なんとなく納得のいかないまま、その処理班の部屋にはいった。

だが、彼らはすでに仕事を終えて帰宅してしまっていた。

 

 

 

レイの育った部屋の中で、切り裂かれた白衣が舞った。

「くふっ。」

リツコは、すでに右腕だけでなく右の脇腹も左足のアキレス健の部分も切り裂かれていた。

もう、走れない。

そう思って諦めかけていた。

「どうした、もう楽しませてはくれないのか?。」

一人で残ったのはいかにも不用心だったわ。

そう考えてはいるが、まだ諦めるわけにはいかない。

まだ動けるのだから。

(アスカ、いえ、あなた達偉いわ、よくあの状況で戦いぬいたわね。)

第15、16使徒戦でのアスカやシンジやレイの事を思い出し改めて感心していた。

リツコはなんとか立ち上がると、また前進を始めた。

一歩ごとに激痛が走る。

「よいぞ、おまえの血なら私が目的を果たすまではつかえそうだ。」

後ろから、レイににた声で話し掛けてくる。

だが、いちいちかまってはいられない。

かまうだけの時間も体力もないのだから。

 

 

 

ついにマヤは、思い余って葛城ミサトに電話をかけた。

ミサトは、状況を聞くと二つ返事で快諾してくれた。

「いそいで、下さい、葛城三佐、いやな予感がするんです。」

「判ってるわ、マヤ、30分でつくからね。」

 

「加持、あんたどうする?。」

「俺も行こう、リッちゃんとは古いつきあいだしな。」

しゃべり方とは違い、真顔の二人は銃を手にするとすばやく出かけた。

 

 

 

「おまえの血、今ここで浴びさせてもらおう。」

そういうと、それは今までとは違いさらに大きな刃を作り出したようだ。

その刃をリツコに向けて投げつけた。

顔をそちらに向けたリツコはさすがにもう駄目だと思い目を閉じた。

 

 

 

今日の一件を知っているだけに、二人は急いだ。

「なにか起きてるのよ、リツコが長々と連絡いれないなんてないもの!。」

「そうだな、リッちゃんは葛城とはちがうからな。」

「そうよ。」

ミサトはそう言うとさらにルノーの速度を上げた。

 

 

 

ガン、という鈍い音が室内に響いた。

どうやら自分の命が続く事を知り、リツコは目を開けた。

そこには、剣をもった少女がたっていた。

「ごめんなさい大分、遅くなってしまったわね。」

少女はリツコに振向いて言った。

「おのれ、黒井ミサ!、またしても私の邪魔をするか!。」

それは、少女、黒井ミサに向かって憎らしげに叫んだ。

「闇を裏切り、自らの体をうしなっても未練がましくこの世に残った哀れな奴。

ヘカテ!、今度こそ消してやるわ!。」

(ヘカテ?、どこかで聞いたわね…。)

リツコは、体が限界に来た事ととりあえず味方らしい者が現れて床に倒れこんだ。

「消す?、ミサ、今度はそうはいかないよ。」

それ、ヘカテは、ミサに向かい強力なATフィールドを展開した。

「ミサ、一時的とは言え手に入れたこの体、私はさらなる力を得たんだよ!。」

(そうだ、セカンドインパクト前に少しはやった香水。)

ヘカテの声を聞きながら、昔の記憶をリツコは思い出していた。

「ヘカテ、18年の間に大分ぼけたわね。」

ミサが静かに悪態をつく。

出血の多さも手伝ってリツコは、意識がはっきりしない。

(18年…?。)

だが、ミサの言葉の内容の異様さは理解できる。

ヘカテのATフィールドに魔法陣が現れる。

それを、ミサに向かって投げつけるヘカテ。

今よければ、リツコにあたるためミサはよけられない。

「アードナイ・ハーレイツ」

そう呟くと剣を大きく振り下ろした。

二人を切り裂くために飛んできたATフィールドは、ミサの振り下ろした剣によって

粉砕されてしまった。

「なに!?。」

ヘカテは驚きの声を上げた。

まさか、逆に切り裂かれるとは思っていなかったのだ。

「ヘカテ、やはり衰えたわね。」

そう言うとミサは、ヘカテ以上に凶悪な微笑を浮かべた。

 

 

 

「マヤ!、どうリツコからなにか言ってきた?。」

30分も懸からずにネルフ本部に到着したミサトは、ルノーから降りるとすぐにマヤに

確認を取った。

「いえ、まだなにもありません。」

「なにもないって、マヤちゃん他の部署や自宅は調べたのか?。」

加持が念のために聞く。

が、マヤは死んだと聞いていた加持が現れ一瞬凍り付く。

「マヤ!、どうなの!?。」

ミサトは、マヤの意識を現実に引き戻すために大きな声を出した。

「あ、は、はい!、現在可能性のあるところは全て確認を取りましたが、どこにも

いません。」

可能性としては最後の一つはゲンドウのところではあるが、今日の様子ではその事はまず

ありえない。

 

 

 

ヘカテは、自らの放ったATフィールドがもろくも粉砕された事に困惑していた。

それもただのATフィールドではない。

自分の魔力を加算したものだ。

「ばかな!。」

ヘカテはさらにミサに向かってATフィールドを展開する。

物理的な攻撃をこれで抑えるつもりである。

ミサは、リツコを後ろにかばい正面に立つ。

「人間どもの人類補完計画。

私にとっても好都合なんだよ、ミサ。

これ以上、昔のようにおまえに邪魔はさせないよ。」

一歩、ミサ達に近づく。

「ネットの中に逃げ延びてまで、不様に生きて来たのかい?、ヘカテ。

見落としたのは迂闊だったよ。」

ミサもまた、ヘカテに近づく。

「ここのコンピューターはよくできている。

それだけじゃないよ、ニグレドの夜に頼らなくても私は私の体を手に入れられるのさ。」

また一歩進む。

(にぐれど、の、よ、る?。)

リツコは聞きなれない言葉を聞いた。

今の、少しはっきりしない意識の中でも記憶に残って行く。

「ここのコンピューターができた時から根城にしていたのね?。」

リツコの方を伺うミサ。

まだ、彼女は持ちそうだ。

そう、思ったがいつまでもヘカテの相手をしていては助かる者も助からなくなる。

「カスパーというやつが一番居心地がいい。」

「亡霊としてかい。」

「ははは、違うよミサ、女としてさ!。」

(かすぱー、おんな?。)

 

 

 

ミサト達は、セントラルドグマへの入り口に立っていた。

「いいわ、加持。」

「よし。」

加持は手にしたパームトップから延びたケーブルの先についたカードのフェイクに情報を

入力し、ドアを開いた。

「行くわよ、マヤ。」

「はい。」

三人は、その先にむかった。

「加持、マヤを頼むわよ。」

そう言うと、ミサトはさきに駆けていった。

「葛城さぁーん、先輩をおねがいしますー。」

マヤの声が背中に響く。

「なにが、起きてるか知らないけど無事でいなさいよ。」

何事もなかったら、一晩奢らせてやる。

これは言葉にはださなかったが。

 

 

 

ミサは、ヘカテのその言葉を聞きあきれたように言った。

「5000年以上生きて、まだ女にこだわるのかいヘカテ。

いい加減諦めたらどうなのさ。」

「ふ、諦められないよミサ。

美しかった、私の体は朽ち果て、さらにお前達に破壊された。

幸いネットの中に逃げ延びたからよかったがね。

だが、ここで私の体を蘇らせるに相応しい体をみつけたんだ。

しかも、三つもね。」

「あの子達は物じゃないよ、ヘカテ。」

「物だよ!、闇の支配者たる私にとってはね!。」

さらにATフィールドを強めるヘカテ。

「その、闇を裏切ったお前は、もう支配者でもなんでもないんだよ。

お前は、もはやただの暗黒さ!。」

 

 

ミサトは、レイの育てられた部屋に来た。

見ると、血溜りのなかにリツコが見える。

近寄ろうとしたとき部屋の中央付近で対峙する二人を見た。

一人は、黒井ミサ。

そして、一人はレイの体だけを手に入れたヘカテ。

その二人の間には、ATフィールドと輝く五芒星が火花を散らしていた。

ミサは剣を構えている。

「あ、あんた達!。

リツコになにをしたの?!。」

その怒気を含んだ声に一瞬ひるんだヘカテのすきを突き、ミサはヘカテめがけて剣を振り

下ろした。

「ミサ、今日は邪魔が入った。

だが、私はこれで諦めたわけじゃないからね!。」

そう言うと、ヘカテは壁に吸い込まれる様に消えていった。

「私だって、逃がすつもりは無いわよ。」

消えた空間に向かい、言葉を返すミサ。

「黒井さん、リツコはどうしたの?。」

ミサトがリツコを抱きかかえて聞く。

「ヘカテに襲われたのよ。」

「ヘカテ?、何者よいったい。」

「落ちた、邪悪な月の女神ってとこかな?。」

「なによ、それは!。

ちゃんと答えないと…。」

「後にしてくれない?、早くしないとこの人は死ぬわよ。」

そう言うとミサは、懐から小さな革の袋を取り出した。

「ミ、ミサト。」

リツコはまだ意識があった。

小さな声ではあるが、ミサトに話かけた。

「なに、リツコ。」

「あの子達に気をつけるように伝えて。」

呼吸を整えるとさらに話を続けた。

「あの子達を狙っているのは、ゼーレや日本政府だけじゃないわ。」

「わかったから、もう喋らなくていいから。」

ミサトがそう言ってもさらに何かを言おうとするリツコ。

だが、力尽きて気を失った。

「リツコッ!。」

「どいて!。」

ミサが、ミサトを押しのける。

そして、リツコに金色の粉をふきかける。

それと同時に、加持とマヤが追いついてきた。

「葛城!、リッちゃんは?。」

だが、目の前に無言で横たわる血まみれのリツコをみて押し黙る。

「せんぱあい、目を開けてくださいよ。」

マヤが泣きながらリツコの側にしゃがみこんだ。

「手をだすなら、なんでこんなことになる前に先輩を助けてくれなかったんですか?。」

泣きじゃくりながら、ミサにつかみかかるマヤ。

「ふざけた事をいわないで。

早くこようにも、この建物の中は付呪と法陣だらけじゃない。

私の、魔術も乱されてすぐにこれなかったのよ!。」

ミサが腹立たしげにいう。

言われて見ればそのとおりだが、マヤの悲しみは止まらない。

「でも、でも、先輩が死んでしまって。」

「死んでないわよ、まだ。」

ミサの言葉に3人が、同時にミサの顔を見る。

「仮死の粉をかけたから、あと十数時間はもつかも知れないけど、急がないと

本当に死んでしまうわよ。」

そう言って、立ち上がる。

「生きてるんですね。」

「そう言ったでしょ。」

ミサはそれだけ言うと、部屋からでて行った。

加持は、何気なくその後を目で追ったがドアの所にきたときちょっと目を離した。

「加持、リツコを運ばなくちゃ。」

ミサトにそう言われたからだが。

だが、再び目をドアの所にやった時にはミサの姿は影も形もなかった。

 

この部屋にあるベットが車輪付きの、病院タイプの物であるため3人は苦労なくリツコを

本部施設内に移動することができた。

だが、怪我の状態、とりわけ切り裂かれた右腕と、アキレス腱の所はネルフの医療施設に

おいても治癒は難しかった。

「そんな、リツコはもう右手を使えないんですか?。」

「神経が完全に切断されています。

足も絶望的でしょう。」

ミサトはその言葉を聞き何も考えることができなかった。

「そんな、なんとかしてください。

こままじゃ、先輩が…。」

マヤも哀願する。

たしかに、今のままなにも出来ない右腕になってしまうのはリツコにとってもつらい事で

あろうことは予測できる。

ついさっきといってもいい時に、リツコ自らの告白を聞いたミサトならなおさらである。

「マヤ。」

少し考えていたミサトが口を開いた。

「はい?。」

「エン…、宇宙船の様子はどうだったの?。」

ミサトは監視衛星が近づいた時に姿を消したと聞いた。

もしかしたら、エンタープライズは姿を隠す装置をもっていてまだあの場所に居るかも

しれない。

そう、考えてのことだったが、あいにくとエンタープライズに遮蔽装置はない。

「報告では、船首を回転させて月の方へ向かって消えたと。」

「そう、残念だわ。」

「葛城、お前がなに考えているかわかるけどな。」

「加持、わってるんなら考えて。」

「あの、二人ともなに考えているんですか?。」

マヤが泣きはらした目で二人を交互に見る。

 

 

 

リツコは子供、それも小さい子供の頃の夢を見ていた。

父親がいないための、さびしい時の夢を見ていた。

 

 

 

「連絡を取りたいのよ、宇宙船、いえ、エンタープライズにね。」

「エンタープライズですか?。」

マヤは、急に宇宙船の名称が出てきたことに驚いていた。

「そうよ、アスカもシンジ君もレイもそこにいるし、アスカの怪我も治してくれたわ。」

「まってください、葛城さん。

アスカちゃんの怪我って、そんなに簡単に治るものではなかったでしょう。」

「だが、アスカ自身の話によれば2時間で治してもらったそうだよ。」

加持がミサトの話を引き継いだ。

 

 

 

「だからさぁ、リツコ、1かいでいいからあたしたちを手伝ってよ。」

リツコは中学生になっていた。

「でも、私そんなこと出来ないよ。」

困った声で、断るリツコ。

「大丈夫よぉ、なんせそのオヤジが一度あたしたちといるリツコみちゃってさぁ。

なんか、それ以来照介しろしろってうるさくってぇ、ね、おねがぁい。」

要は援助交際と言う奴である。

「駄目、やっぱり私できない。」

断るリツコに向かってその級友は

「大丈夫、これかしたげるから!。」

そう言ってリツコの胸元にはやりの香水を降りかける。

「ちょっと、これってヘカテじゃない。」

「なんだ、リツコも知ってんじゃない。」

 

 

 

マヤは話を聞いて顔を輝かせていた。

「じゃ、やはり味方だったんですね。」

「そうよ、今の所はね。」

だが、連絡のとりようがなければ味方とはいえ役にはたたない。

「葛城、シンジ君たちの携帯はどうなんだ?。」

 

 

 

「ただいま。」

祖母と暮らしているリツコが家に帰ると珍しく母、赤木ナオコが来ていた。

「母さん、ひさしぶりね。」

「ほんとね、どう、元気?。」

「うん、まあまあ。」

「よかったわ。」

「なんか、疲れたから寝るわ。」

「明日もいるからね。」

「そう。」

リツコは、床に入ると涙を流した。

友人だと思っていた人物がただ、援助交際、平たく言えば売春なのだが、の手駒として

しか、自分を見ていなかった事。

そして、その行為を断ったためにもう友と呼べる人物がいなくなるかも知れない事に。

ふと、額に乗せられた暖かい感触。

母の手であった。

「なにがあったのか知らないけど、リツコ。

あなたは、最高の女の子よ。」

「ありがとう、母さん。」

リツコは母の手を握りしめた。

「気がついた?。」

涙に霞む視界のむこうにストロベリーブロンドの女性が自分の額に手を添えている姿が

見えた。

「ここは?。」

自分の声とは思えない程かすれている。

「エンタープライズの医療室よ、安心して。」

「エンタープライズ?、アメリカの?。」

「違うわ、宇宙のよ。」

その言葉を聞いてリツコは宇宙船の中に居る事を理解した。

「さ、少し休みなさい。

治療を終えたとはいえ、まだ貧血が少しあるし、神経の結合も完全じゃないわ。

休まないと本当に右腕も左足も使えなくなってしまうわ。」

そういって、ビバリーはリツコのバイオベッドを調整した。

 

 

 

「間に合ったみたいでよかったわ。」

ミサトが心底ほっとした声で言った。

「そうだな、これでとりあえずリッちゃんは安心だな。」

「でも、どうして宇宙船の人と知り合えたのですか。」

マヤの質問にミサトは

「話すと。一晩じゃ終わらないかも知れないから。」

そう答えてから、空を振り仰ぎ

「でも、なんでシンちゃんの携帯にレイがでたのかしら?。」

そう一言つぶやいた。

 

 

レイは、シンジもアスカも目を覚まさなかった事を確認してまた、シンジのベッドに

潜り込んだ。

別に、リツコの事が気にならないわけではなかったが、シンジやアスカに妙な心配を

かけさせない様に彼女なりに気を使っての事だった。

それに、エンタープライズに収容されたならリツコは大丈夫だと思ったからだ。

なにより、シンジもアスカも今日の事でかなり疲れているらしい。

そう、思っての事だった。

 

 

 

ピカードは、ブリッジで監視衛星の軌道を変える事を指示した後、再び自室にもどった。

やむを得ない事とはいえ、電磁パルスで破壊した監視衛星を回収するために持ち主が回収

用の船を出すかもしれないからだった。

(しかし、Q同士の争いに巻き込まれた経験はなかったな。)

別に、黒井ミサとヘカテがQという訳ではないが超越的な力があるらしいという所では似

たようなものである。

今後の事を考えると地上にもスタッフをおいた方が安全かもしれない。

そう思いながら歩いていった。

 

 

 

「衛星の故障はしかたがない。」

「さよう、宇宙船の正体がわからぬが碇がみずからの職務をまっとうするように

しなければならない。」

「そうだ。

碇、貴様が17番目の使徒を初号機の手によって抹殺することを期待している。」

一通り話しあうとと、ゼーレ達は姿を暗黒の中に消した。


NEXT
ver.-1.00 1998+2/20公開
ご意見・ご感想・お見舞いの品は Deep Space 6まで!!

ああ、こんなことになってしまってまずいかなー。

まずいよなー。

なにぶつぶつ言ってるの?。

あう、リツコさん、なんかここにあらわれるの始めてなんじゃないですか?。

そうね、で?、なにぶつぶつ言ってたの。

いや、リツコさん切り刻まれてしまったし出血多量で死にかけたしへたすると

リツコさんの実動部隊に標的にされてしまうかも。

そうねぇ、まっこうあたりが一番怒ってるかもしれないわねー。

うう、まずいなー、今攻撃されたら防御スクリーンが落ちてるしな。

はあ?。

うう、まずい、光子魚雷が無くなってしまった!!。

あなた、なに言ってるの?。

え、いや、なつかしのベーシックプログラムのゲーム、スタートレックやってんです。

やはり、徹底的に改造したほうがいいわね。

ああ、せっかく復活したのにぃぃ。



 SOUさんの『FIRST CONTACT』第5章 PARTU、公開です。



 「Q」−−−じぇねきゅーの「Q」じゃないよね(^^;


 凄いやつでしたね、

 リツコさんを遊び半分で切り刻んだりして。


 イタイ奴ですね、ぷんぷん       (^^;



 こいつは、なにやら、チルドレンを狙っているようで・・・

 あぅ、心配 (;;)




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