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First Child

第四話「父親」



「俺は3年前、妹を殺したんだ・・・・・

その後、病室には沈黙が流れた。
そして、それから一言も話すことなく面会時間は終わった。
シンジとアスカとミサトは家に帰った。



「あ〜ん、もう! いったい、何なのよ〜。」

帰ってからずっとこの調子のアスカである。
ミサトは、少しあきれた顔をして、ビールを飲んでいる。

「話してもいいんだけど、リョウのやつ、やっぱりまだひきずってるみたいだったから。」

「もういいじゃない。そこまで言ったんだから、教えてよ。このままじゃ、夜も眠れなくなっちゃうよ。」

「う〜ん? ねえ、シンジくんも聞きたい?」

夕食の支度をしているシンジに声をかける。

「そうですね。やっぱり、気になりますよ。」

「でしょ。ほら、シンジもああ言ってるんだし、ね、ミサト。」

「はいはい。まあ、リョウのやつも知っておいても良いって言ってたしね。」

「やったね。シンジもきなさいよ。」

「うん。ちょっと待ってね。」

シンジは、夕食を持って、リビングにきた。
ミサトは一口、食事を口にすると、話し始めた。

「私も聞いた話しなんだけど、リョウの妹さん、馬鹿な不良に拉致されたらしいの。」

「拉致・・・・・ですか?」

「そう。そいつら、彼女があまりに抵抗するんで、彼女に暴行をふるったらしいわ。」

「ひどいことするわね、そいつら。」

アスカは、怒りに身をふるわせていた。

「リョウがその場を通りかかった時、彼女は血だらけだった。それを見た瞬間、リョウはそいつらに殴りかかって、全員を病院送りにしちゃったの。」

「何人いたんですか?」

「4人だったらしいわ。」

「それで、妹さんはどうなったの?」

「・・・・・その後、病院で息を引き取ったわ。」

「そう。かわいそうに・・・・・・あれ、でも、リョウは自分が妹を殺したって。」

「妹さん、リョウが駆けつけた時、まだ生きていたのよ。だから、リョウは妹を助けられなかったのは自分のせいだと言ってるのよ。」

「それで、妹を殺したって・・・・・」

「そんなのおかしいじゃない。あいつ、そんなんで罪の意識を感じてるわけ〜?」

「ええ。」

「ばっかじゃないの? そんなの、勘違いもいいところじゃない。」

「まあ、そうなんだけど、リョウの気持ちも分かってあげて。」

「そりゃあ、わからないこともないわよ。だけど、そんな風に思っても、自分が辛くなるだけじゃない!?」

「リョウは優しすぎるのよ。妹の死を誰のせいにもできず、自分を責めることしかできなかったのよ。」

「どうしたの? 今日は随分とリョウの肩をもつじゃない?」

「そんな訳じゃないけど、大切な人を失う辛さは私にも分かるから。」

「・・・・・ごめん、ミサト。」

嫌な沈黙が流れた。

「・・・・・そういえば、リョウくんって、独り暮らしをしているって、言ってましたけど、家族はいないんですか?」

「ううん。父親はいるらしいわ。一緒に暮らしてないだけ。」

「どうして、一緒に暮らさないんですか?」

「うん。いろいろと理由があるらしいんだけど、一番の理由は妹さんの死。それが、一番の原因でしょうね。」

そこへ、電話のベルがなる。
ミサトが電話をとる。

「はい、葛城です。・・・・・え? はい。・・・・・はい、わかりました。今から、そちらに行きます。・・・・・はい、すいません。」

ガチャ。
電話を切り、リビングに戻ってくる。

「どうしたんですか?」

「リョウがいなくなったらしいわ。」

「え?」

「それで、私はこれから病院の方に行ってくるわ。」

「あっ、僕も行きます。」

「そう、・・・・・アスカはどうする?」

「私は遠慮するわ。今、リョウに会ったら、何を言ってしまうか分からないから。」

「そうね。じゃあ、戸締まりだけはちゃんとしておいてね。」

「子供扱いしないでよ。」



シンジとミサトは、まず病院へ向かった。
病院に着くと、ミサトは、総婦長にこっぴどく絞られた。
ミサトは、リョウを探しに行くということで、難を逃れた。
駐車場に戻ると、ミサトが愚痴をこぼした。

「まったく、リョウのやつ、な〜に考えているのよ。見つけたらただじゃおかないわよ。」

「ははは、・・・・でも、これからどうしましょう? 探した方がいいですよね。」

「そうね。でも、心当たりなんてある?」

「心当たりですか? ・・・・・あっ、一ヶ所だけあります。」

「じゃあ、そこに行ってみましょう。」

シンジは、ポケットから一枚の紙切れを出す。

「でも、この場所って、そう遠くないですよ。こっちは、僕一人で行きますから、ミサトさんは車で、他の場所を探して下さい。」

「そうね。二手に分かれた方がいいわね。じゃあ、私はまず、ネルフの方に行って見るわ。」

シンジとミサトは二手に分かれた。
シンジは、少し急ぎ足で、紙に書いてある場所に向かう。
すると・・・・・

「・・・・いた。」

遠くの方にリョウの姿はあった。
リョウは、どこかに出かけるようだった。
声をかけようとしたが、今日のリョウは近寄りがたい雰囲気があった。
仕方がないので、シンジはそっと後をつけることにした。
10分か、15分くらい歩くと、リョウはある家の前に止まった。
しばらくの間、その場に立ち止まり、ゆっくりと門を開け、中に入っていった。

「ここは・・・・」

リョウが中に入ったのを見て、シンジも門の前まで来た。
そして、家の表札を見る。

「吹雪・・・・・そうか、ここが・・・・・」



リョウは中で、一人の老紳士に会っていた。

「お久しぶりです。義父さん。」

「お、おお。リョウか。まあ、座りなさい。」

「はい。」

リョウは、椅子に腰掛ける。

「ひさしいな。どうしたんだ、急に。」

「3年ぶりに日本に帰って来たんで・・・・・・」

「そうか。そんなに、堅苦しくなることはない。私たちは、親子じゃないか。」

「ありがとうございます。」

深く礼を述べる。

「・・・・・やっぱり、気づいていたのか?」

「・・・・はい。」

「いつから、気がついていたんだ?」

「ここに引き取られたときから・・・・」

「じゃあ、お前は、本当の家族ではないと分かっていながら、本当の家族であるように演じていたのか?」

「演じていた訳じゃないです。ただ、本当の子供でない俺に、優しく接してくれるあなた方に、打ち解けようとしていただけです。」

「そうか。だったら、昔の用にしていなさい。」

「・・・・はい。・・・・あの部屋は、あのままですか?」

「お前の部屋か? ああ、そのままにしてある。」

「ちょっと、すいません。」

リョウは、席をはずす。
部屋に入り、机の一番上の引き出しをあける。
中には、拳銃が一丁と、弾が6発入っていた。

「すいません。義父さん。」

リョウは独り言を呟き、拳銃と弾を上着のポケットにしまう。
そして、部屋をでた。

「もういいのか?」

「はい。今日のところは、これで失礼します。」

「うん? 久しぶりに会ったんだ。食事ぐらいしていったらどうだ?」

「今日は、やることがありますので。」

「そうか。・・・・一つ、聞かせてくれないか?」

「なんですか?」

「なぜ、お前は出ていったんだ?」

「妹が・・・・サヤカが死んだとき、義父さんは、「気にするな。」と言ってくれましたよね。」

「ああ。」

「実の娘が殺されたのに、血のつながりのない俺に対して、そんな事を言ってくれる義父さんの優しさが辛かった。だから、あの時、俺は逃げることしかできなかった。」

「そうか。私が苦しめていたのだな。すまない。」

「いいえ。義父さんには、言葉には表せないほど感謝しています。」

「さっき、お前は、「演じていたのではない。」と言ったな。それは、私も同じだ。お前のことは本当の息子のように思っている。」

「・・・・ありがとうございます。・・・・不出来な息子ですが・・・・・また、迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします。」

深くお辞儀をする。

「ああ。そんなことに、気にする必要はないぞ。」

「・・・・はい。」

リョウは、少し逃げるように家をでた。
家を出ると、シンジと目が合う。

「どうしたんですか? 涙なんか、流して。」

「えっ、いや、何でもないよ。」

慌てて顔を隠す。

「何かあったんですか?」

「親子のご対面をしてきただけだよ。」

そう言って、笑顔をつくる。

「やっぱり、そうですか。」

「あ〜あ。情けないところを見られちゃったな。どう? これから、飲みに行かない?」

「え? でも・・・・」

「いいじゃん。今、見たことを忘れさせてやるよ。」

リョウは、無理矢理シンジを連れて行った。



11時を過ぎた頃。
葛城家に電話が鳴る。
アスカが勢いよく電話にでる。

ガチャ

「もしもし、シンジィ? あんた、いったい、何やってるのよ。」

「ああ、ごめん。シンジくんじゃないよ。」

「リョウ? あんたも何やってるのよ。」

「今、シンジくんと飲んでるんだけど・・・・」

「あんた、シンジに飲ませたの? それで、どうしたの?」

「ミサトさんは、いるかな?」

「ええ。さっき帰ってきたわよ。かわる?」

「いや、かわらなくて良いから、悪いんだけど、ミサトさんにお金をかりて、迎えにきてくれないかな?」

「お金もないのに、飲んでたの?」

「ははは、ちょっと調子にのっちゃて。」

「わかったわ。で、どこ?」

「新箱根湯本駅の前の飲み屋。」

「じゃあ、電車で行くから、30分以内には、そっちに行く。」

「うん。わるいね。よろしく。」

リョウは電話をきり、お店のおばさんに声をかける。

「おばちゃん。お勘定。」

「あいよ。」

「これ。おつりは良いから・・・・」

「あら、悪いわね。」

「それでさあ、30分後ぐらいに迎えが来るから、それまで、あいつをおいてっていいかな?」

「30分ね。わかったわ。」

「じゃあ、よろしく。」

リョウは、酔いつぶれたシンジをおいて店を出る。

「ちょっと、余計なおせっかいだったかな? まっ、シンジくんも結構がんばってるみたいだし、ご褒美にはちょうど良いよな。」

リョウは、お店の前で、アスカが来るのを確認してから、その場を離れる。
アスカは、店に入り、きょろきょろとシンジ達を探した。

「おや、お迎えかい?」

「あっ、はい。」

「じゃあ、あそこにいるよ。」

酔いつぶれたシンジを指さす。

「あれ? もう一人は?」

「ああ、連れの方なら、勘定を払って帰ったよ。」

「へ?」

だまされたことに気がついたが、シンジをこのままにしていく訳にもいかないので、アスカはシンジをかかえ店をでた。
シンジを動かそうとすると、シンジは寝言を呟いた。

「アスカ・・・・・。」

少し驚き、シンジの顔をみる。
だが、起きる気配はまったくなかった。
シンジを半分引きずりながらも、駅まで連れてきた。
が、電車はもうなかった。
今になって思い出される、ミサトの言葉。

「アイツ、悪知恵が働くから、何をされるかわからないわよ。」

アスカの脳裏に浮かぶことはただ一つ。

「今度会ったら、覚悟しなさいよ。」

とは考えるも、今、どうしたら良いのかわからない。
歩いて帰れない距離ではないが、シンジを連れてではさすがにきつい。
ミサトに迎えにきてもらうという手もあったが、ミサトの運転する車には乗りたくなかった。
ミサトにもらったお金があったので、ホテルに泊まると言うことも考えはしたが、実行する勇気はなかった。
しかたなく、駅前の公園に行くことにした。

使徒襲来のせいで、人気は少ないのだが、それでも何組かのカップルはいる。
アスカは、あいているベンチを見つけ、シンジを座らせる。
アスカもその横に座る。
すると、シンジはアスカの胸に寄りかかってきた。

「えっ? ちょ、ちょっと・・・・」

一瞬、どかそうとはするものの、シンジの寝顔をみて、そのまま一緒に眠りにつく。
シンジは、あさひの光で目を覚ます。
シンジは、アスカに膝枕をしてもらうかたちで眠っていた。
二日酔いのせいもあって、なかなか状況をはあく出来ない。
だが、目の前に天使の寝顔があることによって、シンジを現実の世界へ引き戻した。
驚き、叫びそうになるが、ぐっとこらえ、ゆっくりと起きあがる。
シンジは頭をかきながら、昨日のことを考えるが、アスカと一緒にいる理由が思いつかない。

「くしゅん。」

アスカは、くしゃみをして目を覚ます。

「あっ、おはよ。だいじょうぶ?」

「くしゅん。・・・・うん。だいじょうぶ。」

「ごめん。僕のせいで。」

「別に、あんたは悪くないわよ。み〜んな、リョウが悪いのよ。」

「えっ?」

「それより、あたしが寝てる間に、変なことしなかったでしょうね?」

「そ、そんなことするわけがないじゃないか。」

「・・・・そうよね。」

少し、暗い表情になる。
二人はしばらくして、電車で家に帰った。
ミサトにとことんからかわれたのは、言うまでもないことだった。



酔いつぶれたシンジをおいていった、薄情者(?)のリョウは、あの後ネルフに行っていた。

コン、コン

「誰だ?」

「吹雪です。」

「入れ。」

ゆっくりとドアをひらく。

「失礼します。」

「何の用だ?」

「ちょっと、お話があって。・・・・すいませんが、副司令は席をはずしてもらえませんか?」

「うん? ああ、わかった。」

「すいません。」

冬月は、部屋をでていく。

「いくらお前とはいえ、司令である私に話しがあるときは、事前に連絡をしたまえ。」

リョウは、ポケットから拳銃を取り出し、碇司令につきつける。

「今日は、司令に話しがあったのではなく、父親である、あなたに話しがあってきたんです。」


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ver.-1.00 1998+02/02公開
ご意見・感想・誤字情報などは kazu@tos.ne.jp まで、よろしくお願いします。


RYO「どうも、洒落になってないほど、お久しぶりです。」

アスカ「ほんと、洒落になってないわよ。だれもあんたのことなんか、覚えてないんじゃない?」

RYO「そうかもね。でも、催促がいくつかきたから。」

アスカ「そんなのみんな、あんたのことをあわれんで、お世辞で言ってくれてるに決まってるじゃ
    ない。」

RYO「ま、まあ、そうだろうけどね。それでも、四話を読んで下さった方、ありがとうございま
    した。」

アスカ「あんたさあ、一応は、LAS戦士を名乗らせてもらってるなら、もう少しまともなのは書
    けないの?」

RYO「まともなのと言いますと?」

アスカ「キスシーンぐらい書いてよね。」

RYO「ははは、大胆ですね。・・・でも、それは、本編を崩すことになりかねなかったんで。」

アスカ「本編を崩す?」

RYO「そう。この話しは、一応、第拾弐話と第拾参話の間の話しだからね。ここで、キスをさせ
    ちゃうのはおかしいかな? って思ってね。」

アスカ「何をいまさら。今までだって、いくつも本編を崩してきてるんじゃないの?」

RYO「つじつまが合わない事はないと思うんだけどな。」

アスカ「ほんとかしら?」

RYO「自信はあるよ。もし、本編を崩している内容がありましたら、ご指摘お願いします。指摘
    して下さった方にはなにかいたしますので。では、次で、最終話なので、よろしくお願い
    します。」


 RYOさんの『First Child』第四話、公開です。



 First Childの重い過去。


 それを知ってしまったシンジ達は、
 何をするのでしょうか。
 何が出来るのでしょうか。


 First Childの強さは
 悲しい目にあった者のもつ優しさも−−。


 支え、支えられる。
 そういう面も生まれてきたでしょうか・・


 さあ、訪問者の皆さん。
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