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My Heart To ...
 第一部 第一話   傍観者−1−
   Written by おち・まお




気が付いた時には『ここ』に居た。

『ここ』は不思議な世界だった。
無限の広がりを持つ世界。全く風のない、動きのない空気。
深い青色一色に満たされて、淡く輝くその世界。

(そう‥‥だ)

微かに動き出した意識がそう考える。
『まるで海の底にいるようだ』
そう考えるのが、一番この世界を表すのに都合がいいように感じた。

そしてこの世界を埋め尽くすように浮かぶ、無数の大小さまざまのシャボン玉の様な水泡。
指先でちょっと触るだけで。そっと息を吹きかけるだけで。
ただそれだけで消え去ってしまいそうな、薄く壊れやすそうな水泡。

光輝く水泡たち。淡く光を放つ水泡たち。鈍く光を放つ水泡たち。
今にも消えてしまいそうな水泡たち。
そのほとんどが全く動くことなくその場にとどまっている。
数少ないいくつかが、時折、何も音をたてずに消えてしまう。

儚い世界。それでも『そこ』は、美しい世界だった。







フシギナ…コウケイ…







注意深く、一つの水泡に近づく。
その水泡は他の物と比べると幾分大きく、そして淡い輝きを放っていた。

そっと手を差し伸べて、その水泡に触れてみる。
注意深く、壊してしまわないように。
すると何の抵抗もなく、スルスルと水泡の中に手が入っていってしまった。

(…!!)

その瞬間、何か巨大な感情が流れ込んでくる。
嫉妬…恐怖…苦痛…憤怒…
どれとも区別が出来ないが、それは他人の激しい感情。
そして強制的に感じるその感情は、私の心を痛みで引き裂こうとする。

私は慌てて水泡の中から手を引き抜く。
その途端に感情の流入も痛みもなくなる。
ほっとした私は、ある事に気がついた。

(…シンクロしたんだ)







トテモイタイ…







もう一度、今度は用心しながらそっと水泡に触れる。
分かっていながら止める事ができない他人の感情の流入。
それでも今度は、それ程痛みを感じなかった。
私は眉をしかめながら、いくつかの水泡に触れていく。

水泡に触れる事によって、様々な人々の姿が目に浮かぶ。
何かを叫んでいる中年の男性。すすり泣く少女。
呆然としている青年。眠っているかのように横になっている老女。

それぞれの水泡の中で色々な人が何かをしていた。
私の心になだれ込んでくる感情も、強さも激しさも違っている。
多かれ少なかれ彼らは皆苦しんでいるように見える。
その事に気がついて、私の困惑は大きくなっていく。

(ここはどんな世界なんだろう?)

私は答えを見つけようと、静かに移動をしながら周りを見回す。
目の前に広がるのは、先ほどと全く変わっていない深海の様な世界。
どこまでも続く果ての見えない世界。数え切れない程の水泡。

(……あ!)

そして私は『彼』を見つけたのだった。







キミハボクトオナジダネ







その無限の空間と水泡だけの世界の中心に、『彼』は浮いていた
まるで私には聞こえない音を聞いているかのような雰囲気。
目を閉じて、心持ち顎を上げて、耳をすませている。

静かにその場にたたずんでいる『彼』。

私は『彼』には数度しか会っていない。
そして『彼』はもはや死んだはずだった。
私もその瞬間を見下ろしていたのだから。

渚カヲル。

私は意を決して彼の目の前に降り立つ。

『彼』は気がついていないのか。それとも無視をしているのか。
前と変わらぬ姿勢のまま、そこに静かに立っていた。







ナゼ?







「やあ、久しぶり」

どれほどの時間が過ぎた頃なのか。
目を閉じたままの『彼』が静かに声をかけてきた。

聞き覚えのある声。『彼』の存在感。
幻でもなんでもない『彼』が目の前にいる。
この世界に対する困惑とは別の、小さな疑惑が芽生え始める。

「綾波レイ…君」

ゆっくりと目を開けて私の方を見る『彼』。
その口元に浮かぶ優しげな微笑み。
全てが私の記憶の中の数少ない『彼』と一致する。

(同じ色…の瞳)

私はその瞳を見つめる。いや、睨みつけていた。
その視線に気がつき、『彼』は苦笑いを浮かべる。

彼の側には今まで見た中で一番大きな水泡が漂っていた。
しかも二つ。どちらも生きているかのように、ゆっくりと明滅を繰り返している。
時々、水泡の表面が波打つようにブルブルと震えている。

(…え?)

私の中に突然浮かんだ、その不思議な感情。
一言で言えば『知っている』という確信とも言えるこの気持ち。それは…

(…碇君と……あのセカンドチルドレン?)

思わず私はその二つの水泡に近づこうとしていた。
しかし少し動いたところで、『彼』に行く手を阻まれてしまう。
私はまた『彼』を睨み付ける。しかし先に言葉を発したのは『彼』の方だった。

「気をつけた方がいいよ。
 この二つの水泡は、他とは比べ物にならない程の苦痛を抱えている…
 不用意に触れば君も巻き込まれる事になるからね」
「『ここ』がどんな世界なのか、貴方は知ってるのね?」
「さぁ…ね」

そして沈黙。私の質問に『彼』はすぐに答える気はないようだった。
その態度に少し腹をたてて、私はまた『彼』を睨み付けた。
『彼』は私の視線をはぐらかす様に、一言付け加えた。

「すぐに分かるよ」







クルシミガ、トオリスギテイク



















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ver.-1.00 1999_03/24公開
ご意見・感想・誤字情報などは ochimao@ops.dti.ne.jp まで。




 おち・まおさんの『My Heart To ...』第一部 第一話、公開です。



 お久しぶりのおち・まおさんの
 めぞんでの初の連載♪



    ・・・・めぞんで”新連載”って・・今年初??
    わーいっっ(^^)



 幻想的な空間での
 不思議な光景
 謎な出会い。



 カヲルもレイもなぜここにいるのかな、
 カヲルは何をしようとしているのかな、
 大きな泡の中身はやっぱり?!


 すべてがふわふわ漂っています〜


 見たい、先を!






 さあ、訪問者の皆さん。
 めぞん1年ぶりのおち・まおさんに感想メールを送りましょう!





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