「終焉の果てに」第拾参話
寛容な世界、どうしようもない僕
………………だめ………………できない………………
…………シンジ…………ごめんね………………………
…………………あたしには…………できないの………
………シンジを…………楽にしてあげられないの……
……………ごめんね……………シンジ…………………
アスカは、ゆっくりとシンジの首から手を離し、優しくシンジの頬にふれる。
「あたしってバカね………
どうして、こんなことしようとしたんだろう………
シンジを殺してどうするの?
あの時のシンジの気持ち分かるな………
シンジもあたしを殺そうとした。
たぶん同じ気持ちね。
苦しんでいるのを見たくなかった………
あたし達って似たもの同士ね。
シンジ。」
アスカは、シンジのほっぺたを指でつつく。
「こらっ。
こんなにもこのアスカ様が心配してるんだぞ。
早く起きなさいよ。
でないと、シンジなんか嫌いになっちゃうんだから。」
アスカは大分落ち着いたようだ。
直視した惨い現実にすぐには対応できなかった。
シンジの首を絞めるという行為がアスカ自身を落ち着けたかもしれない。
アスカがよく見るとシンジの体は至る所に傷があった。
使徒との戦いによる物。
自らの命を絶つためについた物。
「シンジぃ………………………」
アスカはシンジの顔を覗き込む。
その時、シンジの目から涙があふれた。
その瞬間、アスカに希望がともった。
「シンジ!ねえ!シンジ!」
「………
う………うう………う………………」口にはめられたギャグの隙間から声が漏れる。
「まってて、今外してあげるから。」
そう言うと、アスカは、あわてて口にはめられたギャグを外した。
か細い声が漏れる。
「………………
ア………ス……カ…………ア…ス…………カ…………」「なに?あたしは、ここにいるわ。」
アスカは、シンジの手を優しく握ってあげる。
「………どう…し……て…………や……める……の………はや…く……ころ……し…て………」
アスカの顔に悲痛の色が浮かぶ。
「シンジ、どうしてそんなに死にたがるの!
みんな、アンタを必要としているの!
お願いだから生きて!
アンタが必要なの!」
「…ぼくは…ひとを……ころ…した…んだ……たくさん…こ…ろした………アス…カもき…ずつけ…た………
……ぼ……くは………わ…るい…こと…を……た…くさん……し……た……
…ば………つを……う…けなく……ては……いけ……ない……………
…………ぼ…く…は………たの……しんだんだ…………
……きず……つけて…こ…ろ…して………
………ぼくが……いってた……
……アスカ……ころし…てくれないの…………
………やっぱり…じぶん…で…しなく……ちゃならないん…だね………
…さいごに………アスカのかお……みれてよかった………
………さ…よなら………」
そう言うと、シンジは自らの舌を噛み切ろうとした。
「だめ!!」
アスカはとっさにシンジの口を掴み、その行為を防ぐ。
その時、病室のドアが開き、ミサトが入ってきた。
「ミサト!シンジが……」
ミサトは何も言わず、シンジの口にギャグをはめる。
「アスカ、とりあえずここを出ましょう。」
「で、でも、シンジが……」
「いいから早く!」
ミサトの強い語気に押され、アスカは渋々病室を後にする。
「シンジ、また来るからね。」
ミサトとアスカは、長い廊下を歩いていた。
アスカは俯いたまま、
「………ミサト、アタシじゃ駄目なのかな………
シンジの力になってあげられないのかな………
当然よね…………」
弱気なアスカにミサトの叱責の声が飛ぶ。
「アスカ、自分に自信を持ちなさい。
シンジ君は形はどうであれ。
意識が回復したの。
アスカのおかげなの。
あなたにしかできなかったことなのよ。」
「でも……アタシはシンジを殺そうとしたの……」
「知ってるわ。
見てたから。
アスカを攻める事は誰にも出来ないわ。
アスカの気持ち、痛い程良く分かったから。
元気出しなさい!
そんな顔じゃあ、シンちゃんに嫌われるわよ。」
アスカの顔に笑顔が戻る。
「うん!」
「キョウコさんは、今ネルフ本部の方にいるから、アスカも行きなさい。
それと、これだけは忘れないで、シンジ君はどんなに変わってもシンジ君だから……」
「?」
ミサトの言葉の意味が分からずに首を傾げるアスカ。
「さあ、もういいから、キョウコさんの所へ行きなさいよ。」
ミサトはそう言って、アスカの背中を叩く。
「分かった。じゃあね、ミサト。」
そう言い残して、アスカは走っていった。
「ふう……………」
ミサトの顔が暗くなる。
「ごめんね………アスカ……シンジ君……」
ミサトは一人、ゲンドウの執務室へと向かった。
暗闇の中、老人が三人ほどいた。
「あれの可動迄どのくらいだ。」
「後1時間もすれば。」
「議長、ついに切り札を出すのですな。」
「そうだ。最早、人類補完委員会は我々三人。
最後の望みを掛けよう。」
「情報はネルフ側には漏れておらんのですかな。」
「知ったところで奴らには何もできまい。
こちらの情報によれば、エヴァは二体とも起動できる状態ではない。
初号機を奪えば、こちらのダミーで、もう一度我々は神になることが出来る。
そのための量産型だ。」
4体が建造中でしたのが、幸運でしたな。
幸い、ダミーも残っていますし。」
「これが我々に残された最後の幸運だ。
諸君、我々はここで勝利の瞬間を待つとしよう。」
「そうですな。」
「我々が再び神になる時が来るのだ。」
ゲンドウの執務室は重い空気に包まれていた。
そこには、碇ゲンドウ、碇ユイ、冬月コウゾウ、赤木リツコ、葛城ミサトの面々の沈痛な表情があった。
ゼーレのS2機関搭載型のエヴァが輸送機に乗せられ飛び立った。と言う情報がゼーレに潜り込んでいるスパイから送られていたからだ。その目的は、初号機を奪い再びサードインパクトいやフォースインパクトを起こすためとの報告だった。現在、起動できるエヴァはない。弐号機は、そのコアにいたキョウコをサルベージしたため、全く起動しない。初号機は、サードインパクト時エヴァと一体となった影響で、シンジとならシンクロするが、シンジは起きあがれる精神状態ではない。まさに八方塞がりだった。
「もう少し、早くにゼーレの動きを掴めれば何とかなったものを……」
コウゾウの呟きが漏れる。
「今更言っても始まりませんよ。冬月先生。」
「しかし、碇。」
「他に道はありません。」
ゲンドウの瞳には冷たい光が宿る。これから息子にすることを考えれば、冷静になるしかなかった。
「あなた……………」
「シンジへの償いは私がする。
ユイ、君はシンジを包んでやってくれ。」
「碇司令、それで大丈夫と思えますか。」
「どういうことだね、葛城三佐。」
「どう償うおつもりですか。」
「簡単なことだ。私がシンジの憎しみを全て受ければいい。
その上でシンジに殺されてやってもいい。」
ミサトは、侮蔑と哀れみの表情をゲンドウに向けた。
「シンジ君のことを、ちっとも分かっていませんね。」
「どう言うことだ。」
「あの子は、そんなことをしても喜びません。
彼の苦しみを増すだけです。
碇司令、逃げないでください。
シンジ君から逃げないでください。
あの子に向かってあげてください。」
「葛城君…」
「あなた、私からもお願いするわ。」
「ユイ…」
「私からもですわ。碇司令。」
「赤木君…」
「そう言うことだ、碇。
私からもお願いするよ。」
「冬月先生……………………
……………分かりました。
私は逃げていただけかもしれないな。
一度シンジと正面から、ぶつかってみることにしよう。
これでいいんだろ。ユイ。」
「はい。あなた。」
ユイは穏やかな表情を浮かべていた。また、ゲンドウも穏やかな表情を浮かべていた。シンジが生まれ、幸せだった日々の顔だった。
ゲンドウは再び表情を引き締める。
「赤木博士、後2時間で可能かね。」
リツコの顔も冷たく変わる。
「サードチルドレンは、分裂症あるいは多重人格症を引き起こしかけています。
もう少し時間があれば何とかなったんですが、あまりにも時間がありません。
急な事になりますので、後にどのような影響が出るかは、全く予測がつきません。」
「そうか…………戦闘の間は持つのか。」
「恐らく2、3日は持つと思われますが……」
「それだけ持てば十分だ。
やりたまえ。」
「よろしいですか。」
「他に道はない。早速かかりたまえ。」
「はい。」
リツコは、ミサトを促し一緒に執務室を後にした。
リツコとミサトの表情は、凍てついていた。
「あなたこれしかないんですね。」
「そうだ。
シンジは完全に壊れるかもしれん。
私はどうしようもない親だな。
シンジのセカンドチルドレンへの思いさえ利用しようとしている。
人のためとはいえ、およそ人のすることではない。」
「碇、そう自分を責めるな。
我々も同じことだ。」
「シンジに償いきれないことをするのね……
私も母親失格ね。」
「事が終われば、セカンドチルドレンに全てを話す。
その上で、あの子がシンジを受け止めてやれば何とかなるかもしれん。」
「私達、最低の親ね。」
「ああ……こうするしかないんだ。」
三人は机の上のファイルに目を落とした。
其処にはこう記されていた。
「サードチルドレン洗脳計画」
なんだか、シンジ擁護派から剃刀メールが来そうな、展開になってきました。
ううっ、別にシンジのこと嫌ってるんじゃ無いんです。
叱責、恐喝、剃刀メール待ってます。
でわ、次回「第拾四話 ウォッシュ・ブレイン」で、お会いしましょう。
佐門さんの『終焉の果てに』第拾参話、公開です。
シンジに救いは一向に現れませんね・・
アスカの存在でもダメなのですから、
次が見えない辛さ・・
ゼーレの最後のあがきは
状況を変えるのでしょうか。
なにやらありそう−−。
さあ、訪問者の皆さん。
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