「終焉の果てに」第拾壱話 告白の情景
その日、碇シンジは飛び起きた。
いつも幼なじみの惣流・アスカ・ラングレーが、たたき起こしに来るまで、惰眠を貪る彼が珍しく起きてしまった。
彼の見た夢が原因だった。
『なんだったんだ…今の夢…
ひどい夢だったな…
アスカに嫌われて…
アスカに憎まれて…
僕はアスカの側を去って…
自殺するなんて…
イヤだ!
アスカとは、ずっと一緒だったんだ。
ずっと一緒にいるんだ!
僕はアスカが好きなんだ!』
シンジがこの気持ちに気がついたのは、ごく最近だった。
一月ほど前、シンジのクラスに転校生が二人きた。
渚カヲルと綾波レイ。
二人は双子の兄妹だった。姓が違うのは、家庭の事情で違うのだと説明を受けた。
元々あまり他人に感心のないシンジにとっては、どうでもいいことだったはずだった。
しかし、シンジにとって大きな問題が起こった。
カヲルがアスカに、レイがシンジにアタックし始めたからだ。
シンジにとって、レイは最初に綺麗な子だなと思った以外に別に関心はなかった。
事実、レイはシンジの幼なじみのアスカと比べても、負けないぐらいの美人だった。
日本人の父とスウェーデン人の母を持つレイは、青みがかったプラチナブロンドに赤茶色の瞳を持ち、北欧系の顔立ちとスレンダーなプロポーションは人形を彷彿させた。性格は神秘的な見た目とはそぐわず、明るく、よく喋り、皆にすぐうち解けた。
一方、カヲルはプラチナブロンドに零と同じ赤茶色の瞳を持ち、都会的な美少年の雰囲気を漂わせ、クラスの女子を虜にした。性格もつかみ所が無く、その雰囲気にいっそうの拍車を掛けた。
シンジの関心があったのは、カヲルの方だった。
カヲルの人気を目の当たりにし、そのカヲルがアスカに熱烈に迫っていたからだ。
アスカは素っ気ない態度をとっているが、いつカヲルに惹かれるかシンジには不安だった。
それまで、アスカとはずっと一緒だった。
二人の両親は、ともに親友で家も隣だった。
シンジとアスカは、物心が付く前から今の中学まで、ずっと一緒にいた。
シンジは、特にアスカを意識することは無かった。
ただ、こうやってずっと一緒に入れたらいいなと、ぼんやり思う程度だった。
カヲルの出現で、シンジはアスカを好きだって事に気がついた。
アスカがいなくなる不安。
シンジは、アスカとカヲルがつきあっているのを想像して、ぞっとした。
やっとシンジは気がついた。
ずっと昔から、アスカが大好きだったことに。
『今日こそ、きちんとアスカに言うんだ。
アスカが大好きだって言うんだ。
あんな夢みたいになるのはごめんだ。
何もしないんじゃダメだ。
きちんと気持ちを伝えて、ふられるんだったら、元々それまでなんだ。
逃げないで、自分に素直になるんだ。』
シンジはずっと迷っていた。
もし、ふられたら今の関係まで壊れてしまう。
それが怖かった。
もう、今までのように喋れないかもしれない、遊べないかもしれない。
しかし、今日見た夢のせいでシンジは決心した。
ただ流されるのではなく、自らの手で切り開いていこうと。
「よし!今日こそやるぞ!!」
その頃、アスカはモーニングシャワーを浴びていた。
赤みを帯びた金髪、青い瞳、芸能人も裸足で逃げ出す可愛い顔、きめ細かい白い肌、抜群のプロポーション。
日本人、アメリカ人、ドイツ人のクウォーターのアスカは、それぞれの良い部分だけで構成された超一級品の美貌に磨きをかける。
好きな男の子に少しでも綺麗に見てもらいたい為に。
『まったく、バカシンジの奴は、いつになったらあたしの気持ちに気がつくんだろうな……』
アスカは小学校4年生の時からシンジが好きだった。
普段はボケっとして頼りが無くて、いつもあたしが守ってあげると、思っていたアスカだったが、その時にシンジの強さに気がついた。
二人は、親に内緒で山の方へと遊びに行った。
いつも、両親達には行ってはダメと言われていた場所だった。
そう言われれば、行きたくなるのが子供の性分だった。
アスカはいやがるシンジを引っ張って、山に探検に出かけた。
全然大したこと無いなと、思っていたとき、アスカとシンジは野犬の群に囲まれた。
アスカは怯えて何もできなかった。
がたがたと震えて、ただシンジにしがみついた。
シンジは、そのアスカを見て意を決して棒を持ち、野犬の群からアスカをかばった。
シンジは何カ所も噛まれ、血塗れだった。
それでもアスカを守り続けた。
偶然通りかかった、大人が来なければ二人ともやられていたかもしれない。
シンジはすぐに病院に運ばれた。
その途中で、シンジは「アスカ大丈夫?どこも痛くないの?怪我してないの?」とアスカに聞いてきた。アスカがプルプルと首を振ると、「よかった。アスカが無事で。」と言って微笑んだ。アスカはその血塗れの微笑みを見て、ワンワン泣いた。「シンジ死んじゃヤダ、シンジ死んじゃヤダ、シンジ死んじゃヤダ。」と泣き続けた。
シンジの怪我は大したこともなく、手当をして両親を待っているときもずっとシンジはアスカに微笑んでいた。
二人の両親が大慌てで駆けつけ、怪我が大したことないと分かると、二人はこっぴどくしかられた。
その時もシンジはアスカをかばった。
「僕が行きたいって言って、アスカを無理矢理連れていったんだ。だからアスカは悪くないんだ。僕が悪いんだ。」と、アスカをかばった。二人の両親の前で、手を広げてアスカの前に立ち、アスカをかばった。
アスカはその背中がすごくたくましく見えた。
後で、アスカがシンジに「シンジを引っ張っていったのは、あたしなのになんで?」と、聞いたら。シンジは「アスカは女の子だから、僕が守らなきゃいけないんだ。」と、微笑みながら答えた。
アスカは、両親に本当のことを話して謝った。
二人は怒りもせずに、ただ、アスカの頭を撫でてあげた。
アスカの両親は、シンジの両親に事の次第を話して謝った。
次の日、シンジの枕元に前から欲しかったテレビゲームのソフトがあった。
父ゲンドウに聞くと「褒美だ。」と、素っ気なく言って新聞で顔を隠した、その横で母ユイは、クスクスと笑っているだけだった。シンジは、まあいいやと思っただけで、アスカを誘って一緒に遊んだ。
その事件からアスカは急激にシンジに惹かれた。
本当は、強くて優しい幼なじみに。
アスカの朝は早い。
シャワーが終わった後、料理がほとんど出来ない母キョウコに変わって、朝食を作り、シンジの分と自分の分のお弁当を作る。
『ホント、ママって料理の一つも作れないのかしら。
ちょっとは、ユイおばさまを見習って欲しいわ。』
アスカの料理は、すべてユイ直伝である。
ユイは、アスカのことを自分の娘のように可愛がり、いつかは我が息子のお嫁さんにと考えていた。
一方、キョウコもシンジが可愛くて仕方がなく、アスカのお婿さんにならないかしらと考えていた。
二人の母親は、お互いの子供が結婚できるようにと、様々な作戦を考え、実行した。
また、その計画にシンジの父ゲンドウとアスカの父アーネストが荷担していたのは、言うまでもない。
その計画の一端が、今アスカが作っているシンジのお弁当だった。
ユイ命名の「ラブラブお弁当大作戦」は、壮大な計画で進められた。
まず、キョウコは料理が出来ないことにした。
本当はユイにも勝るとも劣らない腕前だったが、アスカの料理の腕前を上げるために出来ないことしたのだ。
次に、ユイがアスカに料理を教え、シンジが好きな味付けを体で覚えさせる。
最後に、ユイがアスカに「シンジのお弁当作りたいけど、忙しくてとても出来ないわ。しょうがないから、シンジには購買のパンで我慢してもらおうかしら。あんな物はおいしくないのよね。どうしようかしら。」と、アスカに聞こえるようにぼやいた。アスカは、自分の分のついでにシンジにお弁当を作るとユイに告げ、次の日からシンジはアスカのお弁当を食べていた。
作戦は大成功に終わった。
後は、煮え切らない二人にいかに自分たちの気持ちを確認させるかだった。
ここで、ゲンドウとアーネストの出番となった。
ゲンドウは、国連直属研究機関ネルフの所長。
アーネストは、国連直属査問機関ゼーレの所長。
この二人は、ありとあらゆるコネを職権乱用で使いまくり、ある双子を使うことにした。
兄の名は渚カヲル。
妹の名は綾波レイ。
二人が小さいときに両親が離婚し、別々に引き取られて育てられた。
お互い、自分の兄妹にものすごく会いたかったが、互いの親が許さなかった。
その親も、同時期に死亡して、二人は別々の孤児院に入れられた。
お互いの行方さえも分からなかった。
その二人の元にゲンドウが現れた。
ゲンドウは、二人の両親を知っていた。
二人とも我が強く、互いを傷つけ会っていた。
ゲンドウにとって、あまり好きな人間ではなかった。
しかし彼らの息子と娘は、互いを思いやり、優しく、明るかった。
ゲンドウはこの兄妹が不幸になることが許せなかった。
やがて夫婦は離婚し、兄妹は別々に引き取られた。
時が流れて、ゲンドウはこの二人のことを忘れていた。
そして、シンジとアスカのための調査をしていた、アーネストの口からこの二人のことが聞こえた。
全くの偶然だった。
二人の事情を知ると、ゲンドウは二人の元へととんだ。
二人を引き合わせ、二人で住むマンションも第三新東京市に買った。
ユイはこのことを聞いて、喜んでゲンドウに協力した。
幸い、ゲンドウとユイはネルフの所長と副所長を勤めていたので、稼ぎは半端でなかった。
二人はゲンドウに礼を言い、何でもするから言ってくれと頼んだ。
そこで、ゲンドウは自分の息子とその幼なじみの話をして、出来たら協力してくれないかと頼んだ。
二人はこの面白そうな話に飛びつき、喜んで協力することとなった。
この後、ゲンドウとアーネストはその権力で学校側に圧力をかけ、二人をシンジとアスカのクラスに転校させた。
当然、シンジとアスカが小学校からずっと同じクラスなのはこの二人の仕業である。
ユイ命名の「ラブラブ告白大作戦」は、ついにスタートした。
アスカはシンジのことを好きなのは、ユイにとって見え見えだったし、シンジも自分の気持ちに気付いていないが、アスカが好きなことは、ユイに見て取れた。
後は背中を押してやるだけだった。
アスカはお弁当が仕上がると、いつものように隣の幼なじみの家へと向かう。
作っておいた朝食にはラップをかける。
アスカは朝食を、いつも隣で食べていた。
アスカの元気な声が碇家に響きわたる。
「おじさま、おばさま、おっはようございまーす!」
ユイは笑顔で迎える。
ゲンドウは新聞を読んだままだ。未だに照れくさいらしい。
「おはようアスカちゃん。」
「ああ……おはよう。」
「じゃあ、シンジを起こしてきますね。」
そう言い残し、アスカは階段をカモシカのように駆け上がった。
キッチンでは、ユイの叱責の声が飛ぶ。
「あなた、アスカちゃんにもう少し愛想良くできないんですか。
照れくさいのは分かりますけど、アスカちゃんは将来のシンジのお嫁さん候補本命なんですよ。」
「ああ、分かったよ、ユイ。」
「もう。」
そのやり取りは、階段を上っていたアスカにも聞こえる。
もちろん、ユイは聞こえるように言ったのだが。
アスカはお嫁さんの一言を聞いて、トリップした。
『シンジのお嫁さんかぁ………
いいな………
朝はおはようのキスでぇ、シンジを起こしてぇ………
………………………………………………………………………………
って、いけない、いけない、早くバカシンジを起こさなきゃ。』
アスカは勢い良くシンジの部屋のドアを開けた。
「バッカシンジー!起きろー!………って………えっ!!」
シンジは既に制服へと着替えて、なにやらガッツポーズをして、ブツブツ言っていた。
突然ドアを開けられてあわてふためくシンジ。
「あっ、えっ、えっと、もうそんな時間なの?」
シンジのいつもと全く違う行動に戸惑っていたアスカだが、すぐに不機嫌になった。
「バカ!起きてるなら、起きてるって言いなさいよ!」
そう言い残し、アスカはドカドカと階段を下りていった。
実は、アスカにとってシンジを起こすことは非常に楽しみだったのだ。
少々のことでは起きないのでシンジの寝顔をみれるし、起きた直後のボヤッとしたシンジの顔は、ギュッと抱きしめたいくらいに可愛かった。特に今日は月曜日だったので、三日ぶりにシンジの寝顔がみれると喜んでいたのが、当てが外れたためアスカは不機嫌だった。
残されたシンジは、アスカの理不尽な怒りの原因が分かるはずもなく、頭を悩ませた。
そんな時、階下からアスカの声が飛ぶ。
「ほら!なにしてんの!バカシンジ!!」
シンジはあわててキッチンへと向かった。
『やばい!これ以上待たせたら、アスカが爆発する。』
彼の長年の経験が警報を鳴らしていた。
シンジがテーブルに着くと朝食が始まった。
「「「「「いただきます。」」」」
食事の最中もアスカは不機嫌だ。
身に覚えがないシンジは、頭に?マークを飛び回せ、ちらちらとアスカを見ていた。
そんな二人を見てユイが声を掛ける。
「どうしたのアスカちゃん。シンジに何かされたの?」
「バカシンジに、そんな度胸ありませんわ。おばさま。」
アスカは素っ気なく答える。
「それもそうねー」
二人に会話を聞いていたシンジは、カチンときた。
「な、なんだよそれ!どういう意味だよ!」
「そのまんまの意味よ!バカシンジ!」
二人を見ていたゲンドウが口を歪める。
可愛い息子ほど虐めたくなる。ひねくれたゲンドウだった。
「フッ………お前には失望した。
我が息子ながら、何と情けない。」
「なんだよそれ!」
「貴様のせいで、せっかくのユイの食事がまずくなるではないか。」
「どうして僕のせいなんだよ!」
「当たり前だ。
アスカ君が怒っている。
つまりはお前が悪い。
すべての諸悪の根元は貴様だ。
そうだろアスカ君。」
むちゃくちゃな三段論法である。シンジをからかうことに関しては、超一流のゲンドウである。
「そうですわ。おじさま。み〜んな、バカシンジが悪いのよ。」
今日のアスカは特に不機嫌だった。
「シンジ!アスカちゃんにきちんと謝って、仲直りなさい。」
ユイのとどめの一言が飛んだ。
いつもは怒りはするが、結局アスカに謝るシンジだったが、今日は違った。
アスカに告白する決心が付いたとこなのだ。
ついにシンジは爆発した。
「なんだよ!!なんだよ!!なんだよ!!
そんなに僕が嫌いなのかよ!!
もういいよ!!
知るもんか!!
せっかく、アスカに言うつもりだったのに!!
ただの幼なじみじゃないって気がついたのに!!
そんなに僕のことが嫌いなのかよ!!
もういいよ!!」
シンジは怒鳴り散らして、椅子を蹴倒し家を飛び出した。
「えっ…………………」
『シンジ……あたしのこと好きって言おうとしたのよね。
そうよね。
ただの幼なじみじゃないって……
シンジそう言ったんだよね。
どうしよう……
シンジ怒っちゃた……
なんにも悪くないのに……
あたしが悪いのに……
どうしよう……』
アスカは呆然と呟いた。
「……おばさま…どうしよう……
……シンジに嫌われちゃう……
……どうしよう……
……どうしよう……」
そして、ついに泣き出した。
「……っく…ふぇぇぇぇん…シンジに嫌われちゃった…どうしよう…ふぇぇぇぇん……」
アスカの背中をさすってあげたユイは、ゆっくりとアスカに言い聞かせた。
「アスカちゃん、シンジはアスカちゃんのこと嫌ったりしないわ。」
「……っ……ほんと……」
涙を流しながら、上目遣いでユイを見つめるアスカは、死ぬほど可愛かった。
ユイは思わずアスカを抱きしめた。
『ああ、この子が早く娘にならないかしら。』
「本当よ。おばさん断言するわ。絶対アスカちゃんを嫌ったりしないわよ。」
「…………よかった……」
安堵のため息をつくアスカ。
ユイの顔がいたずらを思いついた子供のようになる。
「と・こ・ろ・で、アスカちゃん。」
「……はい。」
「そんなにシンジのことが好きなの?本当のこと聞かせてくれないかしら。」
アスカの顔がポンっと音を立てて真っ赤になった。
「……えっ……あ……あの…………………………好…き…で…す……」
更に赤くなるアスカ。トマトのようである。
ユイはこの可愛らしさに、更に腕に力を込める。
『本当に可愛いわね。これぞ女の子の醍醐味よね。全くシンジは、こんな可愛い子を泣かして。』
アスカのあまりの可愛さに、自分たちがシンジを怒らせたのを、すっかりと忘れているユイであった。
「アスカちゃん。私達でシンジを探してくるから、シンジの部屋で待っててね。」
アスカはこくりと頷いた。
「ほら、あなた。ボサボサしてないでシンジを探しに行くわよ。」
「ああ……」
「じゃあ、アスカちゃん、待っててね。」
そう言い残して、ユイとゲンドウはシンジを探しに行った。
「あなた、シンジの居場所分かります。」
「問題ない。あいつの行動パターンなど研究済みだ。」
どうやらすっかりと、仕事のことも学校のことも忘れているようだった。
その頃、シンジは近くの公園にいた。
昔、アスカとよく遊んだ公園だ。
シンジは公園の片隅のベンチに座って、なにやらブツブツ言っていた。
「…………アスカはやっぱり僕のこと嫌いなのかな…………
せっかく、アスカに好きだって言うつもりだったのに……
もう、どうでもいいや………
疲れたな…………」
その時、ユイの声が響いた。
「シンジ!」
「か、母さん……」
「シンジ、帰ってらっしゃい。アスカちゃんも待ってるから。
アスカちゃん泣いてたわよ。シンジに嫌われた、どうしようって。」
シンジは、アスカが泣くことなど小学校4年の時以来、見たことがなかった。
「ア、アスカ泣いてたの!」
「そうよ、今シンジの部屋にいるわ。
さっさと行って自分の気持ちを伝えてきなさい。」
「わ、分かった!」
シンジが駆け出そうとしたとき、ゲンドウが声を掛けた。
「シンジ、アスカ君を守ってやれ。お前の仕事だ。」
「分かったよ!父さん!」
シンジは笑顔で、アスカが待っている部屋へと向かった。
「あなた急いで戻らないと。(ニヤリ)」
「そうだな。(ニヤリ)」
「準備は出来てますの。」
「任せておけ、この時のために最新式のデジタルビデオカメラをセットしておいた。」
「さすが、あなた。」
「フッ………」
「さあ、急いで帰らないと。」
「そうだな。」
ゲンドウとユイは息子の一世一代の晴れ舞台を見るべく、全速で家へと帰った。
シンジは、部屋の間にいた。
大きく深呼吸をして、ノックする。
「アスカ。入るよ。」
返事を待たずにドアを開ける。
アスカはベットの上に座り、両手を胸の前でギュッと握りしめ、うつむいていた。
『アスカってこんなに可愛かったんだ…………
……………………………………………………
そうだ、アスカに言わなきゃ。
逃げちゃダメなんだ。』
シンジは拳を握りしめ、意を決した。
「ア、アスカ聞いて欲しいことがあるんだ。」
「………うん…」
「…僕は………アスカのことが好きだ!!
アスカを誰にも渡したくない!!
アスカにずっと僕の側にいて欲しい!!」
……ハア……ハア……
シンジがアスカを見ると、アスカはポロポロと涙をこぼしていた。
真珠のような滴を……
「……あ…あたしも……シンジが……好き……
…ずっと…好きだったの………
……あたしの側にずっといて………お願い…シンジ……」
シンジが優しくアスカを抱きしめる。
「ずっと側にいるよ。
どこにも行かない。
アスカの側にいる。
誓うよ。」
「あたしもシンジの側にいる。
離さない。
絶対にシンジを離さない。」
「アスカ…………」
「シンジ…………」
そして、
二つの影は一つになった。
二人にとって、永遠のような時が流れる。
それは誓い。
永遠の誓いだった。
やがて、どちらからともなく、そっと唇が離れた。
「シンジ、ごめんね。
ひどいこと言ってごめんね。」
「いいんだよ。
僕もアスカを泣かせちゃったし。
おあいこだよ。」
「……うん。」
……………………………
「ねえ……シンジ。
あたしのこといつから好きだったの?」
「たぶん……ずっと好きだったと思う。
でも、自分で気がついたのは、渚君が来てからだったんだ。」
「どうして?」
「渚君、アスカのこと好きだ。つきあおうって、アスカに迫ってたでしょ。
僕は、アスカのことを取られるんじゃないかって、ものすごく不安だったんだ。
アスカが僕の側からいなくなって、渚君とつきあったらって考えたとき、
アスカのことがどうしようもないくらい好きだって気が付いたんだ。
それに…………笑わない?」
「笑わないよ。話して、シンジのこと何でも知りたいの。」
「うん、ありがとう。
それにね、今朝夢を見たんだ。
とってもひどい夢だった。
何かと戦っていて、みんなが傷つき、死んで行くんだ。
アスカもボロボロになったのに、僕は何もできなくて。
アスカに嫌われて、憎まれて………
僕が自殺しちゃうんだ。
そんな風になりたくないって、思った。
だから今日こそ、アスカを好きだって言う決心が付いたんだ。
今まで言えなかったのは、怖かったんだ。
もし言ってしまったら、今の関係も壊れるんじゃないかって。
アスカは、いつから僕が好きだったの?
僕もアスカのこと何でも知りたいから聞きたいな。」
「うん。
あのね、シンジのこと好きになったのは、小学校4年生の時なの。」
「それって、あの時のこと?」
「そう。あたしいつも偉そうにしてて、なんにも出来なかった。
ただ震えてただけだった。
シンジは必死にあたしを守ってくれたの。
犬から、親から守ってくれたの。
あの時のシンジの笑顔は忘れない。
血塗れになっても、あたしのこと心配して微笑んでくれたあの笑顔は、一生忘れない。
あの時から、ずっとシンジが大好きだったの。
それにね。
綾波レイがシンジのこと好きだって言ってたでしょ。
あたし不安で、不安でどうしようもなかったの。
あたし、シンジのことこんなにも好きなんだって思ったの。」
「僕達、一緒だね。」
「フフ…そうね。
あの二人には感謝しなくちゃいけないわね。
あたしとシンジの仲を取り持ってくれたみたいなものだもの。」
「そうだね。」
「そうよ。」
「ねえ……アスカ……」
「なに。」
「もう一度、キスしていいかな……」
「バカ、そう言うことは聞かないモノなの…………んっ…………」
その頃モニターを見ていた二人は……
「ねえ、あなた。今の聞いた、シンジが「もう一度、キスしていいかな。」ですって、シンジも結構やるわね。
後で、キョウコとアーネストにも見せなきゃね。」
「シンジも成長したな。」
「この調子だと、以外と早く孫の顔が見えそうね。」
「早いモノだな……」
「そうね。まだまだ子供だと思っていたけど、いつの間にか大人になるのよね……」
「寂しいか?」
「そうね……ねえ、あ・な・た、もう一人作りましょうか?
キョウコの所にも作らして、今度は逆がいいわね。
それでもう一度、くっつけるってのはどう?」
「う、うむ……しかし、そう旨くいくか……」
「あら、あなたが頑張れば女の子が出来ますわ。
アーネストには、程々にしてもらって…………
アーネストも男の子が欲しいて言ってたし……
いいわね……恋する娘の母親……いいわあ……」
「………相談してみるか。」
「このビデオ見せに行ったときに、しましょ。」
「うむ。」
シンジとアスカは、夕方までそのまま抱き合っていた。
何度も唇を重ね。
お互いの気持ちを確かめあった。
心の不安がとれ、それぞれ部屋で眠りにつく二人。
「シンジぃ、愛してる…………」
「アスカぁ、愛してるよ…………」
LASです。
ベタベタの学園エヴァです。
うう〜、書いてみたかったんだい。
これの続きが読みたい方、メールください。ご希望が多かったら必ず書きます。
でわ、次回「第拾弐話 罰を与えしモノ」で、お会いしましょう。
ゴロゴロゴロ
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……………………………………………
佐門さんの『終焉の果てに』第拾壱話、公開です。
人はLASに帰るのだ(^^;
なんてね(^^;;;;
重い展開、
かすかな希望、
あたたかな救い、
残酷な事実。
辛いことの多い『終焉の果てに』に、
LASの風が(^^)
303号室でこの夢を見るシンジ・・・
次はこの反動が来るんでしょうね (;;)
さあ、訪問者の皆さん。
ハイペースな更新を続ける佐門さんに感想メールを送りましょう!