「終焉の果てに」第八話 癒される魂
三人は、新しく借りたキョウコとアスカの家へと入っていった。
「たっだいまー!!」
アスカの元気な声が響く。
「ほら、ママもぅ。」
「はいはい。ただいま、アスカ。」
「お帰りなさい、ママ。」
まるで天使のように微笑むアスカを見ていると、ミサトは本当に感謝した。この親子を再び再会させてくれた者に、心から感謝した。
「おっじゃまするわねー。」
アスカは、既に各部屋の物色をはじめたようだ。
キョウコは、キッチンを見ていた。
ミサトは、リビングのソファーでくつろいでいる。
各部屋の間取り、作りは、ミサトの家と同じだ。
「ねえねえミサトー、あたしの荷物どうしたのー?」
「ああ、私が運んどいてあげたわよん。感謝なさい。」
「ええーーーー!!あたしのもんに勝手にさわったのーーー!!信じらんない!!」
アスカがリビングに飛んできた。呑気な顔をしたミサトの前で、腰に手を当ていつものポーズをとる。
「あんた、あたしの物を勝手に見てないでしょうねーーー!」
その時、キッチンにいたキョウコがリビングにやってきた、怒っているようである。
「アスカ!葛城さんわね、アスカとママのためにこの部屋を用意してくださったのよ。
アスカの荷物も、すぐに此処で私と暮らせるようにって、わざわざ運んでくだっさたのに、それを今の言い方は何ですか!
アスカは感謝しても足りない位なのに、怒るなんて以ての外です。
きちんと葛城さんに謝って、お礼を言いなさい!
葛城さん、本当にごめんなさいね。アスカのことも今までいろいろお世話になったのに、本当にごめんなさい。」
ミサトは、呆けたようにキョウコを見ていた。
「あ、あ、いや別にいいんですよ。私も何かとアスカには助けて貰ったし。」
「そうですか……本当にごめんなさいね。ほら、アスカ!」
アスカは怯える子猫の様にビクッと体を震わし、泣き始めた。
「………ック……グスッ……ママ…ごめんなさい……ック……もうしないから……グスッ……あたしを嫌いにならないで
え……」キョウコが優しくアスカを抱きしめると、アスカはわんわん泣き出してしまった。アスカは、泣きながらキョウコにひたすら謝った。
キョウコは、アスカの背中をポンポンと叩いて、子供をあやすようにする。
やがて落ち着き出すと、優しくアスカに言い聞かせた。
「アスカちゃん、ママはアスカちゃんのこと絶対に嫌いになんかならないわ。
でも、今度のことはアスカちゃんが悪いのよ。ちゃんと謝れるわね。」
「……グスッ……はい…ママ……」
アスカは、ミサトの前に行きペタンと座り込んだ。
「…ック……ミサト、ごめんなさい…」
そう言いながら、アスカが頭をさげた。
ミサトは素直なアスカに少し驚いたが、その素直さが可愛くて可愛くてたまらなくなって、抱きしめた。
「いいのよアスカ。
アスカのことはよく知ってるから、意地っ張りなとこも優しいとこも、みんなひっくるめてアスカのこと好きなんだから。」
「ありがとう…ミサト……」
「さあ、湿っぽいのはもう終わり!今日は、パーっとやりましょう。」
「うん。」
ミサトの目にも、今のアスカは良い方に進んでいるのがよく分かった。
『シンジ君、アスカはもう大丈夫よ。後は、あなたが早く帰ってきなさいよ。』
パンパンと手を叩いて、場を切り替えるキョウコ。
「さあさあパーティーの準備をしないと。ところで葛城さん。」
「何でしょう。」
「何か、食べたい物があるでしょうか?」
「あたしは別に…………つまみさえあれば……」
さすがのミサトも少し恥ずかしいようだ。
「おつまみですね。アスカちゃんは?」
「あたし、ハンバーグ!」
「はいはい、ハンバーグね。それじゃあお買い物に行きましょうか。」
「ママ、あたしが案内してあげる。」
「じゃあ行きましょうか。」
「ミサトはどうすんの?」
「私は、エビチュを買ってこうようかな。キョウコさんも何か飲みます?」
「そうねー、私はビールでいいですよ。」
「あたしもビール飲みたいな……ママ、いいでしょ?」
「今日はいいわよ。」
「やったー!ありがとうママ♪」
「お買い物に行きましょう。アスカ。」
「うん!」
アスカとキョウコは、人が帰ってきはじめた、大三新東京市を歩いていた。ミサトはルノーでビールの買い出しに行った。
疎開していた人々も徐々にこの街に徐々に帰ってきていた。シンジのその思いで、復興したこの街に。
ネルフによる情報操作により、人々は何の疑いもなくこの街に暮らしていた。既にネルフとゼーレの戦いは、ネルフ側に傾いており、世界各国でも反ゼーレの運動が起き始めていた。ゼーレの幹部が次々と暗殺されているため、ゼーレは力を失ってきていた。そのうえ、ネルフにより、セカンドインパクト、サードインパクトの情報が多少改ざんされているが公開され、すべての責任はゼーレに押しつけられていた。徐々にではあるが、国連内のゼーレの発言力は弱まっており、逆にネルフの発言力が強まっていっていた。
そんな中、手をつないだアスカとキョウコが歩いていた。傍目から見れば、仲の良い姉妹にも見える。
キョウコは、エヴァに取り込まれている間、年はとっておらず20代後半のままだった。その上、ショートカットの赤みがかったブルネット髪、青みがかかった瞳、整った顔立ちに、抜群のプロポーション、これだけの美人は、そうお目にかかる物ではなかった。
隣にいるアスカも、色気に関してはキョウコには勝てないが、将来はそのキョウコさえも越える女性になることは、約束されているような美少女である。
街を歩いていた男性は、そのほとんどがこの二人に見とれた。ある者は隣にいる彼女につねられ、またある者は二人に見とれ電柱にぶつかるなど、それほど目立つ二人だった。
そんな中、二人は近くの大型スーパーに買い物に来ていた。
昔、シンジが買い物をよくしていた店だ。幾たびかアスカも付き合ったことがあった。ふとアスカの脳裏にシンジの優しい笑顔が浮かぶが、母といる喜びに掻き消されてしまう。
「それじゃあアスカ、今日のパーティーの分と、2、3日分の材料買って帰りましょう。」
「はーい♪」
買い物の間アスカは、これが食べたいあれが食べたいとキョウコにおねだりをしていた、そのたびにキョウコは苦笑し、それらの材料をアスカが押すカートに入れていく、瞬く間に必要な物をすべて買い込みレジへと向かう。支払いはキョウコの持っていたカードで行われた。キョウコは、弐号機よりのサルベージが行われた後、慰謝料として一人で暮らして行くには十分すぎるほどの金額を受け取っており、またネルフに研究者としての復職も決まっていた。ゲンドウのはからいで、しばらくはアスカと暮らせるようにと、仕事は無かったが。
両手にいっぱいの荷物を持って、二人は家路についた。
「ねえママ。」
「なあに。」
「あたしね、ママと二人でこうやって買い物が出来るなんて夢にも思わなかったの。
これからも一緒に行こうね。」
「ママもアスカと買い物できるなんて幸せだわ。」
「ずっと一緒ね♪」
「そうね。」
そうこうしているうちに、二人の家に着いた。
「たっだいまー」
「ただいま。」
キョウコは今日買ってきた物を冷蔵庫に入れると、早速準備に取りかかった。
「ねえママ、あたし何かお手伝いしたいな。」
「そうねー、じゃあこれやってくれる?」
「うん!」
今日の食卓に並ぶ料理が次々とできていった。
そんななか、玄関の方でチャイムと供にミサトの声が聞こえる。
「アスカー運ぶの手伝ってくれない?」
「ほら、アスカ手伝ってきなさい。」
「分かったわ、ママ。」
ドアを開けアスカが見た物は、エビチュの山。あきれ返るアスカ。
「ミサト、そんなに飲むつもりなの。」
ヒラヒラと手を振りながら。
「まあまあ、いいじゃない。今日はアスカとキョウコさんが暮らし始める記念すべき第一目なんだからん。」
「そうね、今日はどれだけ飲んでも怒らないわよ。ミサト。」
「そいじゃあ、運ぶの手伝ってくれる。」
「はいはい。」
運んだエビチュを冷やして、冷蔵庫に入れた後、アスカはキョウコの手伝いに着く。
ミサトは早速一杯やろうとするが、アスカの非難の声により断念する。今度はキョウコも横で笑っているだけだった。
そして、宴が始まった。
「「「かんぱーい」」」
澄んだグラスの音が響きわたる。
ミサトはひたすら飲み、そして食べる。こんなにも旨いエビチュはミサトにとって久しぶりだった。ここしばらく、加持のこと、シンジのこと、アスカのこと、辛いことを忘れるためにむりやり飲み酔いつぶれる、そんな酒が旨いわけが無く、ひたすら苦い涙の味の酒ばかりだった。今日は、そのうちの一つだけだが悩みが解消し、とにかくエビチュが旨かった。
アスカはキョウコが作ってくれたハンバーグを幸せいっぱいの顔でほおばり、多少のアルコールも入り、ひたすらはしゃいでいた。
キョウコは適度にエビチュを飲みながら、そんなアスカを見て微笑み、幸せいっぱいのようであった。
いつしか、大量のごちそうも三人の胃に消えていき、ミサトが持ってきたエビチュも底をついた。大半はミサトの胃に消えたようだが。
ミサトが帰った後、二人でかたずけをして、一緒にお風呂に入り、アスカの要望でキョウコの部屋のベットで一緒に寝ることになった。
「ママ……あたしね、ママが死んでから一人でがんばってきたの、あたしはエリートなんだってつまんない意地張って一人だったの。
あたしは、自分を隠すためのプライドを振りかざして生きてきた。
あたしは、みんな拒絶したわ。
結局、自分まで拒絶してしまったの……
でもね、ママに会えてそれがどんなにつまらない物だったか分かった気がしたの。
ママがいてくれたら、あたしは大丈夫。
きっと素直になれる。
きっと強くなれる。
自分の気持ちを偽らないで生きていけると思うの。
ずっと側にいるよね、もう、あたしを捨ててどこにも行かないよね、ママ。」
キョウコは、知っていた。アスカの退院する二日前にサルベージされたキョウコは、一日検査をして、次の日、ミサトからすべてを聞いた、アスカがどんな人生を送ってきたかをすべて聞いた。
そして、碇シンジと言う少年のことも聞いていた。アスカをきちんと見てあげていた少年のことを。また、今、彼がどのようになっているのかも。いずれは、彼に謝り礼を言わなければならない。シンジの状態については、ミサトから口止めされていた。アスカがもう少し落ち着いて、彼のことを伝えようとのことだった。
彼女は、自分の可愛い娘がこんなにも痛めつけられていたことに怒りを覚えると同時に、何もしてやれなかった自分を悔いていた。これから、アスカが一人立ちできるまではずっと側にいてやろうと誓った。
「ママは、アスカの側にいるわ。もうアスカを捨てたりしない。そんな悲しい目に二度と会わせない。約束するわ。」
「ママ……あたしが寝るまで抱きしめてて、あたしを離さないでお願い。」
「ずっと抱いててあげる。」
「お休みママ……」
「お休みアスカ。」
眠りにつく、アスカを優しく抱きしめるキョウコの姿は、マリアの様に聖なる物に見えた。
そう、すべての魂を癒す聖母に………
次回は、アスカ一人称で書いてみようかなと思ってます。
まだ手を着けてないんで、三人称になるかもしれないですけど。
明日考えましょう。
でわ、次回「第九話 本当の気持ち」で、お会いしましょう。
佐門さんの『終焉の果てに』第八話、公開です。
叱られて泣いちゃうアスカちゃん・・・
可愛いですね(^^)
その時にセリフ
「あたしを嫌いにならないでぇ」
辛いですね。
彼女のトラウマが染み出している言葉が重いです・・・
母と共に笑いあい、
買い物をする姿。
これまでの分を取り戻して欲しいですね(^^)
後はシンジだ。
さあ、訪問者の皆さん。
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