「終焉の果てに」第七話 母
『シンジ、今日も来てくれるかな………
……ううん、きっと来てくれる。
シンジは、謝ればきっと許してくれる。』
それは、希望。
叶えられない、希望。
「アスカー、準備できたー」
「ちょっと待って、もうすぐ終わるからー」
アスカは、ボストンバックに着替えを詰めて、部屋の外で待つミサトの元へ、軽やかな足取りで向かう。
「ミサト、待った?」
「もう、何してたのよ。」
ミサトの言葉に、怒りの色はない。ひさしぶにりに交わす、アスカとのやり取りを、楽しんでいるようだ。
しかし、それは、どことなく無理にはしゃいでいる様な感じだった。
「レディーは、準備に時間がかかるものなの。」
「はいはい。
チッ、ガキのくせに」最後の言葉は、きっちりとアスカの耳に届く。むろん、ミサトはアスカに聞こえるように言ったのだ。今の自分の沈んだ気持ちを、アスカとの会話で、少しでも忘れようとしていた。久々に見る、彼女の怒った顔は、ミサトにとって、何よりの特効薬だったかもしれない。自分たちのために、精神崩壊を起こした少女が退院できることが何よりも嬉しい。もう一人の少年の顔がよぎるが、今は、この少女のことだけを考えようと心に誓った。
「ミ・サ・ト!!ガキってなによ、ガキって!!」
怒りのオーラに包まれるアスカ。
「あら、何か間違ったこと言ったかしら。」
「あたしのど・こ・が、ガキって言うのよ!!!」
「そう言うとこかしらね〜」
「ふん!!この天才超美少女パイロットの惣流・アスカ・ラングレー様に、あんたより劣るとこがあるってーの!」
「そうね〜〜〜そう言うことは、もう少し大きくなって、いったほうがいいんじゃな〜い。」
そう言いながら、ミサトは自慢のEカップを突き出す。
「キーー!!なによ!そんなにでかくちゃ垂れてるんじゃないの!!」
アスカも10代にしたら、抜群のプロポーションを誇るのだが、所詮は14才、「牛乳女」の異名を持つ、ミサトの敵ではない。
「あら!リツコと一緒にしないでくれる。私は、ぜ・ん・ぜ・ん垂れてないわよん。」
赤城リツコ博士がその場にいたら、その狂気の科学力でディラックの海を作り出し、問答無用で、その中にに放り込まれるような一言を放つミサト。
「偽物じゃないの?シリコンの詰めすぎは、体に良くないわよ!!」
「おあいおにくさま、これ全部自前よん。」
ミサトは、もう一度手で持ち上げて、アスカの目の前に突き出す。
「むー、加持さんに揉んでもらって、大きくなったって言うんじゃないでしょうね!」
「よく分かったわね。アスカも愛しのあの人に、大きくしてもらいなさいよ〜」
「なによそれ!!」
口喧嘩では、三バカトリオその他、数々の敵を轟沈したアスカであっても、相手は国際A級からかいライセンスを持つ、葛城ミサトである。仕方なく、この場は戦略的撤退を行う。あくまで敗北ではないのが、アスカがアスカたる所以なのだが。
「ところでさー、ミサト。」
「なあに、アスカ♪」
ミサト、久しぶりの勝利に上機嫌である。
「……あ………あの…ね………」
アスカが急に頬を桜色に染め、もじもじしだした。
『どうやら、シンジ君のことね。
今のアスカには、言わない方がいいわね。シンジ君との約束もあるし。
アスカが、もう少し落ち着いて、話しましょう。
たぶん彼女のおかげで、2、3週間で落ち着くわね。
その時は、シンジ君には悪いけど、約束破らせてもらうわ。
シンジ君を救えるのは、アスカだけのはず。
もう、私は誰も失いたくないもの。』
アスカは、消え入るような声で尋ねる。
「………あのね……ミサト……………
バカシンジ………いないの?………」ミサトは、自分の考えが、的中していたことを知る。しかし、ここでシンジのことを教えるわけには、いかなかった。アスカの精神状態は、まだまだ不安定である。今は、退院できることで多少落ち着いているが、今のシンジを見せれば、また精神崩壊を起こす可能性があった。シンジを一日も早く救いたいのは、やまやまだが、アスカがもう一度精神崩壊を起こせば、大切な家族を二人とも失うことになるかもしれない。今のミサトには、そんな綱渡りは出来なかった。
なるべく、普通に喋った。
「シンジ君ね、ちょっちテストと実験で、リツコに付き合わされて、今、松代の方に行ってるの。
なんだか、急に付き合わされてね。昨日、こっちを発ったわ。」
「そう………」
悲しげに、呟くアスカ。彼女の胸には、不安がよぎる。
「……あたしなんて……顔も見たくないのかな…………酷いこと…いっぱい言っちゃたし………」
「アスカ、シンジ君あなたの側にずっといたのよ。私たちが何を言っても離れなかったわ。だからそんなこと無いって。
それに、あなたの知っているシンジ君は、あなたのことそんなに嫌ってた?」
「………ううん…」
「元気出しなさい。シンジ君、すぐに帰ってくるわよ。」
「うん、そうだよね。」
「じゃあ、行きましょう。」
そう言って、二人は病院を後にした。
ミサトは、真剣な顔で呟いた。アスカに聞こえないように。自分自身を、励ますために……
「…………そう、シンジ君はきっと元気になる。きっと私たちの元へ帰ってくる。きっと………」
ミサトのルノーは、いつになく、ゆっくりと走っていった。
いつもは、走り屋が裸足で逃げ出すような運転で、シンジやアスカに二度と乗りたくないと言わせしめた、暴走運転である。そこいらのジェットコースターなど目ではない。
アスカは、何故こんなにもゆっくりと運転しているのか不思議だった。ミサトの車に乗ると聞いた時点で、かなりの覚悟をしていたのだが、無用な心配だった。
「ねえねえ、ミサト。今日は、やけに安全運転してない?」
「んー、シンちゃんにね、安全運転しろって言われたの。
アスカの事が心配だからって。アスカの体は、まだ本調子じゃないからって。良かったわね、アスカ。」
アスカは、赤くなるのが自分で分かった。…なぜ、あいつは人の心配ばっかりするんだろう。もう少し自分のことを心配したらいいのに。…そんな考えが、浮かんで、それを掻き消すように頭を振る。自分のことをごまかすように、呟いた。
「……
バカなんだから……」ミサトには、アスカの考えていることが手に取るように分かった。
『ほんと、アスカったら可愛いわね。
シンジ君のこと気になるって、素直に認めちゃえばいいのに。
アスカ自身もシンジ君が好きなのか、嫌いなのか分かって無いみたいね。
病室では、シンジ君にさんざん言ってたもんね。
しかし、シンジ君もあれだけ言われて、アスカの側にずっといたものね。
よっぽどアスカが好きって事に、気がついたのかな。
なんだか、レイにはいつもより素っ気なかったもんね。
この子達には、幸せに暮らして欲しいわ。
今まで不幸がいっぱいあった分、幸せを掴んで欲しい。
私は、結局掴めなかったけど、この子達ならきっと掴めるわ。いいえ、掴ましてみせるわ。
私の可愛い、弟と妹だもの。
そうそう、今アスカにあんまりシンジ君のこと、考えられたらこまるのよね……
電話するって、言われたら困るし……
すこし、アスカの考えをそらすか。
まあ、家に着いたら彼女に任せればいいし……』
そう考えたミサトは、アスカにとっておきのことを切り出すことにした。
「それより、今日はアスカに、すっごい退院祝い用意してあるの。アスカが、ずっと、ずっと欲しかったものよ。」
アスカの顔が、期待に満ちていく。
「なに!なに買ってくれたの!」
アスカは自分の欲しかった物をミサトが買ってくれたと思った。
アスカとシンジの小遣いは、普通よりは少しは多いが所詮は中学生、たかがしれている。シンジは締まり屋で結構お金を持っているが、アスカの性格では万年金欠である。無理も無かろう。その分、シンジにプレゼントと称して、お気に入りの物を買って貰っていた。可愛い故の特権である。
「な・い・しょ。」
ミサトは、ウインクしながら、微笑みかける
「むー、教えてくれてもいいじゃない。」
「楽しみは、後にとっとくものよん。」
「ふん、ミサトなんて嫌いよ。」
アスカは、プイっと横に向くと、頬を膨らませた。
その様に、クスクスと笑うミサト。
彼女らを乗せたルノーは、彼女らの家へと走っていった。
コンフォート17 11−A−2、彼女たちと、もう一人の優しい同居人の家。そのドアの前で、二人は立ち止まっていた。
「アスカ、目をつむりなさい。」
「なによー」
にやにや笑うミサトが気にかかる。
「ほら、いいから。さっさと閉じるの!」
「分かったわよ。」
強引なミサトの態度に、アスカは渋々折れた様な感じで目を閉じる。しかし、その心の中では、いったい何があるんだろうと、ドキドキしていた。
彼女の小遣いでは、とうてい買えないような、ブランド物の服やバック、アクセサリーが所狭しと頭の中を駆けめぐる。彼女も女の子だから。果ては、ステレオ、最新式の自転車、自分の大型テレビなどなど、既に頭の中は、アスカの欲しい物大博覧会である。そして、頭の中にチラッと優しい同居人の笑顔が浮かぶ、もしかしてと思うが、彼女はすぐに否定するが、彼は実験で松代に言っているはずだ。いたずら好きのミサトならともかく、シンジがこういうことをするとは到底思えなかった。今は、好き嫌いは別にして、一言シンジに謝りたかった。
……プシュー……
そして、ついにドアが開いた。
「アスカ、目を開けなさい。」
優しく、包み込むようなミサトの声が聞こえる。そのあまりの変わり様に、少し躊躇うが、アスカはゆっくりと目を開けた。
「……………う…………そ…………」
めいいっぱい開かれたその瞳から、涙がこぼれ落ちる。
ただ、ただ涙があふれた。
涙で霞んでいるが、十年間、一時も忘れたことのない姿がそこにあった。
「…………………マ……マ……………」
「お帰りなさい。アスカちゃん。」
すべてを包み込む、母の笑顔。
一度、失ったもの。
二度と手に入らないと、思っていたもの。
そのために、一人で生きていく決心をし、
そのために、父親も義理の母親も拒絶し、
そのために、脆いプライドで自分を隠した。
長年、求め続けたものが、そこにあった。惣流・キョウコ・ツェッペリン、アスカの母の姿があった。
「ママぁ!ママぁ!ママぁ!ママぁ!ママぁ!」
アスカは、キョウコの胸に飛び込むと、泣き続けた。キョウコも離すまいと、アスカを抱きしめ泣いていた。
ミサトは、そんな母と娘の再会を、嬉しげで少し悲しげな表情で見つめていた。
「ママ、ホントにママよね?夢じゃないよね?
でもどうして………………」
「私が説明するわ。」
そう言って、ミサトは簡単に説明を始めた。
「アスカ、エヴァ弐号機の中にキョウコさんがいるって事は、サードインパクトの前の戦闘で、気がついたわよね。」
「うん。ママが今まで守っててくれたんだって思った。」
「そのとおりよ。各エヴァのコアには、あなた達の母親の魂が宿っていたの。
キョウコさんは、エヴァの実験中に、その魂をエヴァに取り込まれたの。だから、周りから見れば気が触れた様になってしまったの。
でも今回、碇司令の命令で、弐号機の魂のサルベージが行われたわ。
シンジ君などのケースからデータが取れて、ほぼ一月で成功したの。
本来、肉体は無いんだけど、エヴァの肉体から再生されて、今の体があるって訳。
取り込まれた当時の体だから、私より少し若いんだけどね。
DNAの方も100%人間と同じなの。まあ、成功したのは神のみぞ知るって所ね。
だから、本物のアスカのお母さんよ。」
「ママ、良かった。ホントのママなんだ。ママ。」
アスカの頭を撫でながら、キョウコは子守歌を聴かせるように語りかけた。
「アスカちゃん、ママね、アスカのことずっと守っていたわ。
でも、あの時アスカのこと守りきれなかったの。
それが心残りでね。アスカのことずっと心配してたわ。
でも、アスカは無事で、アスカのことを傷つける者も、もう来ないって分かって、アスカに逢いたくなったの。
ママがおかしくなってから、アスカはずっとがんばってきた。
見ている方が辛くなるほど、アスカはがんばっていた。
だから、ママもがんばったの。
アスカに会えるようにがんばったのよ。
アスカ、こんなママだけど許してくれる?
娘になってくれる?」
「なにいってるのよママ、あたしはずっとママの娘よ。
ママこそもうどこにも行かないで………
ずっと、側にいて……お願い……」
アスカとキョウコは、抱き合ったまま泣き続けた。神が行ってくれたこの再会に。
「アスカ、アスカ、私の可愛い天使。もうどこにも行かない。アスカを離さない。」
「あたしもママを離さない。」
ミサトも泣いていた。これでたぶん、いや確実にアスカの心の傷はいやされる。本当に良かったと、心の底からの喜びで泣いていた。
「………
グスッ……さあ、感動の再会はそれくらいにして、家に入りましょう。隣の部屋を借りているから、そこで親子で暮らしてね。
アスカ、今までの分、取り返すぐらいしっかりと、お母さんに甘えなさい。」
「うん!」
笑顔を浮かべながら、アスカは答えた。それは、今まで見たどんな笑顔より輝いていた。
アスカの補完に当たって、シンジを使うパターンよく読んだので、無理矢理キョウコを復活させました。
キョウコの母の愛と、リツコの科学力で見事サルベージしたと言うことにしておいてください。
DNAも人間のと同じです。シンジも一度同じ目にあっていますが、人間として復活したのでそれと同じです。
ですから、某綾波のようにATフィールドを張ったり何かは出来ません。
キョウコママは、日本語を喋っていますが、天才科学者です。元々喋れるということにしといてください。
ちなみにアスカと同じで、漢字については、かなり弱いです。
でわ、次回「第八話 癒される魂」で、お会いしましょう。
佐門さんの『終焉の果てに』第七話、公開です。
おかん復活。
母の愛も復活(^^)
母の愛に触れて、
母の愛に包まれて、
アスカも復活でしょう(^^)/
このペースで言って、
締めはシンジなのかな?
その為にはシンジ自信も復活しなきゃ。
さあ、訪問者の皆さん。
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