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運動会(後編)




「やっとメシや・・・」
疲れきったトウジの声に五人が言葉も無くうなずく。
「ごっはん、ごっはん♪」
となりでミサトが嬉しそうに歌っている。
ミサトは唐草模様の風呂敷をほどき、五段重ねの重箱を出した。
「みんなぁ、お弁当よん♪」
そう言って重箱を広げる。
「ミサトさんの弁当・・・」
「相田ケンスケ、感無量です」
トウジとケンスケが涙を流す。
ミサトの料理の腕を知っているシンジ、レイ、アスカは既に逃げ出して遠くの方でシンジの作った弁当を食べている。
ヒカリはトウジのために作った弁当を抱え、ハンカチを噛んで涙を流していた。
「「いっただっきまーす!」」
トウジとケンスケの声が響き渡る。
・・・かわいそうに・・・まだ若いのに・・・自殺する気なのか・・・
周りのネルフ職員の囁く声は二人の耳には全く入らない。
二人が全く同時に箸を口へと運んだ。
ぱくり
時間が止まる。
「「うっげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・」」
グラウンドに響き渡る絶叫。
世界が回る。
トウジとケンスケは泡を吹きながら走り出した。
「ああっ、神が見える!!!」
ケンスケが意味不明な事を叫ぶ。
「うひっ、うひうひうひ」
トウジは気持ち悪い笑い声をあげる。
「鈴原!」
ヒカリの叫び声も聞こえないようだ。
が、しばらくすると力尽きて二人とも倒れる。
「何食べさせたんですか!」
ヒカリがミサトにむかって怒鳴る。
「・・・ええと・・・ただの卵焼きなんだけど・・・ペンペンに食べさせた時は壁とか天井とか走りまわったから・・・」
「何でそんなもの食べさせたんですか!」
ヒカリの声に言葉をさえぎられたミサトは続きを話す。
「・・・ほら、運動会って体力使うでしょ・・・だからスタミナつくかなと思って・・・それに後でペンペン、感謝の印にビール持ってきてくれたし・・・」
「くれたし?」
「・・・そんなに元気出るなら、今日のメニューにぴったりかなと思って・・・えへへ」
ミサトは笑ってごまかそうとするが、ヒカリはそれを許さない。
「それで?」
「やっぱりペンペンで試したのがまずかったのかしら?こんな事になるんだったらリツコの所にでも行ってエヴァの生体パーツかなんかで試した方が良かったか・・・」
「そういう問題じゃありません!!!」
ミサトの声をさえぎり、ヒカリが怒鳴る。
「よくも、よくもあたしの鈴原にぃ」
そう言ってミサトの首を絞め、ガクガクと揺さぶる。
「ぐええ・・・」
ヒカリに首を絞められ、ミサトは潰れたカエルのような声を出す。
そこに都合よくトウジとケンスケが目を覚ます。
「うっ、身体がうごかへん?」
「身体が動かない?相田ケンスケ一生の不覚!」
・・・身体が動かない?チャ〜ンス・・・
ニヤリ
ヒカリの笑みにミサトの表情が凍る。
ヒカリはミサトの首を絞めていた手を離し、トウジの方へと駆け寄る。
ゴツン
ミサトの後頭部が地面にキスする。
白い火花と共にミサトは夢の世界へと落ちていった。


「すずはら〜ん♪」
倒れているトウジにヒカリが駆け寄る。
「委員長・・・」
トウジがヒカリに向かって呻く。
トウジを抱えあげ、抱きしめるヒカリ。
「い、委員長?」
ヒカリの普段とはあまりにも違う反応にトウジは不信感を抱いた。
が、そんなトウジの反応をヒカリは全く気にしない。
「大丈夫?鈴原」
そう言ってトウジの顔を胸に押し付ける。
トウジは真っ赤になって声も出せない。
ヒカリはいきなりトウジの顔を胸から離し、トウジの目を見つめる。
「・・・あたしは鈴原が好き!世界で一番鈴原が好き!」
「・・・え?」
トウジには状況が飲み込めない。
「鈴原、愛してる。世界で一番愛してる!」
真っ赤になって俯いたヒカリを見て、トウジもやっと状況を理解した。
ヒカリの顔から視線をはずし、真っ赤になる。
「・・・鈴原はあたしのこと嫌いなの?」
俯いたままヒカリが言った。
「いきなりそんな事言われても、どう答えたらええんか・・・」
戸惑いがトウジの心を支配する。
ヒカリのことを嫌いな訳ではないが、女として愛しているかどうかわからない。
「・・・もし嫌いなんて言ったら・・・」
ニヤリ
ヒカリの笑みを見て、トウジは今自分が動けない事を思い出した。
・・・断ったら殺されるかもしれへん・・・
トウジは戸惑う自分の感情より、安全を選んだ。
「・・・委員長のこと、嫌いなわけあらへん」
トウジにはそう答える以外、自分の安全を保証する方法は無かった。
「ありがと、鈴原♪」
そう言って再度トウジを抱きしめるヒカリ。
トウジの顔にヒカリの胸があたる。
・・・ええチチしとる・・・
トウジはそう思った。
倒れたまま涙を流すケンスケには誰も気がつかなかった。


「・・・ヒカリ、どうしたの?」
食事が終わり、帰ってきたアスカがトウジの腕に抱きついているヒカリを見てケンスケに尋ねた。
「うるさい、惣流。トウジと委員長は敵だ」
ケンスケの返答は要領を得ない。
「アンタ、誰に向かってそんな口きいてんのよ!!!」
アスカの怒鳴り声にもケンスケは反応せず、トウジとヒカリをにらんでいる。
どがっ
アスカの後ろ回し蹴りがケンスケのこめかみにヒットした。
「偉そうな事言ってんじゃ無いわよ!このバカ!!!」
腰に手を当て、倒れたケンスケをにらむ。
「オタクのくせに生意気なのよ!!!」
やくざキック。
やくざキック。
やくざキック。
「うっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ケンスケの絶叫があたりに響き渡る。
ケンスケを蹴りながら笑っているアスカ。
耳を押さえ、目を閉じるシンジ。
ケンスケの事など、どうでもよいレイ。
鬼気迫る表情をするアスカに近づきたがらないネルフ職員。
ケンスケの救いを求める絶叫は意味も無く青空に響き渡った。


「それで何があったの?」
地面を這いずるケンスケにシンジが尋ねる。
「・・・何で助けてくれなかった・・・」
「だってあの状態のアスカを止めれるはずないし、そんな事で怪我するなんてバカバカしいじゃないか」
「・・・お前に期待した俺がバカだった」
「そ・れ・で、なにがあったの?」
アスカがあらためてケンスケに尋ねる。
ケンスケは脅えながらもさっきあった事をかいつまんでシンジとアスカに説明する。
「ふーん」
そう言ってアスカは黙り込んだ。
シンジの方をちらちらと意味ありげに見る。
しかしシンジはその視線には全く気付かない。
はぁ
アスカがため息をつく。
・・・まったく、シンジは鈍いんだから・・・
アスカがそう思ってシンジの方を見ていると、シンジがレイに話しかけた。
少し離れているので話の内容ははっきりとはわからないが、レイが赤くなっている。
いらいらするアスカ。
シンジに向かっていきなりドロップキックを放つ。
「あうっ」
吹っ飛ばされるシンジ。
そのシンジを抱き留めるレイ。
普段なら真っ赤になるシンジだが、あいにく意識が無い。
カクカクと首が揺れる。
「・・・どうしてそういう事するの」
シンジとの会話を邪魔されたレイが無表情でアスカに尋ねる。
「うるさいわね、にやけたシンジの顔が気に入らなかったのよ!文句ある?」
「・・・私と碇君が話してたのに嫉妬したのね・・・」
かあっ
アスカは真っ赤になる。
「でもだめ。碇君は私のもの」
ぶんっ
アスカがいきなり回し蹴りを放つ。
が、その蹴りはA・Tフィールドに阻まれる。
「いたたたたたたたた」
向こう脛を押さえ、転げまわるアスカ。
アスカに向かって冷たく笑うレイ。
「卑怯よ、そんなもの使うなんて!」
「・・・負け犬の遠吠えね・・・」
にらみあう二人。
そこにマヤの放送が響く。
「こほん、ダンスに参加されるかたは急いで第三入場口に集合して下さい」
「「ダンス?」」
アスカとレイの瞳が輝く。
「行こ、シンジ」
「行きましょ、碇君」
そう言って二人でシンジを引きずる。
二人はシンジを引きずったまま第三入場口へと向かった。
後にはいちゃつくトウジとヒカリ、気絶したままのミサト、そしてそしてアスカに蹴られ、ボロボロになったケンスケが残されていた。


「これだけしか参加しないの?」
アスカの疑問の声も当然で、集合場所にはシンジ達三人しかいなかった。
「ダンスに参加する人は今から配る物を受け取って一列に並んで下さい」
眼鏡の兄ちゃんが拡声器で喋り、ロン毛の兄ちゃんがモジャモジャした何かを配る。
「何だろう、これ?」
気が付くとここに連れてこられていたシンジが呟く。
「知るわけないでしょ」
「・・・私、知らない・・・」
二通りの返答が帰ってくるが、それはシンジの疑問を解消する物では無かった。
「それでは皆さん、それを鼻の下につけて入場して下さい」
眼鏡の声が響く。
・・・もしかしてつけヒゲ?・・・
三人の考えが一致する。
「いやぁ、何でうら若き乙女がこんなモノつけなきゃなんないのよ!!!」
そう言ってアスカは眼鏡に食って掛かる。
「そんな事言われても、これは司令の命令ですから」
ゲンドウの命令?
三人が顔を見合わせる。
「ダンスはやめておこう」
シンジの声に二人はうなずく。
三人そろって走り出そうとする。
しかしまたもや現われ、行く手を阻む黒スーツ達。
「今度は何なのよ!」
叫ぶアスカ。
「一度参加した競技を途中で抜ける事など許さん」
またもやどこからともなく響く声。
朝と同じようにどこからともなく現われるゲンドウ。
しかし一つだけ朝とは大きく違う点があった。
ゲンドウは象に乗っていた。
「・・・父さん、どこから出てきたの・・・」
「ふっ、人には知らなくてもいいこともある」
「・・・答えになってないよ」
「碇司令、どうして象に乗っているのですか」
シンジに代わり、アスカが尋ねた。
「君は知らんのか?白馬の次は象、これは前世紀のアイドルからの慣例だ」
「知らないよ、そんなの」
シンジが呟く。
アスカもレイも同感と言いたいのであろう、シンジの方を見て頷いた。
「まあいい。とにかく一度参加した競技を途中で抜けることは許さん、これは命令だ」
そう言ってゲンドウは去っていった。
地面に残る象の足跡がなぜかシンジは妙に気になった。


行進曲が鳴り、三人が一列になって入場する。
三人ともつけヒゲをつけている。
シンジを挟んでアスカが前、レイが後ろだ。
三人は三者三様の表情をしている。
・・・シンジにこんなカッコしてるとこ見られるなんて・・・
・・・父さん、何でこんなバカな事するんだろ、はぁ・・・
・・・つけヒゲ、碇君と一緒、何だかドキドキする。これが嬉しいと言う事なのね・・・
三人がそんな事を考えていると、いきなりグラウンドの中央が割れ、ステージのような物が迫り出してきた。

ちゃ〜、ちゃちゃちゃちゃん、ちゃ〜ちゃちゃちゃちゃん、ちゃちゃっちゃん
ちゃちゃちゃちゃちゃ〜ちゃんちゃ、ちゃ〜んちゃんちゃちゃちゃ・・・・・・・・・・

どこかできいた事のあるような音楽が流れる。
同時にステージの裾からタキシードを着て、鼻の下につけヒゲをつけたゲンドウと冬月が変な動きをしながら出てきた。
音楽にあわせて動く。
どうやら踊っているようだ。
手の甲を上に向け、腕を上下に動かす。
踊りながらステージの上を一回りしたゲンドウがどこからかフェンシングのサーベルを出した。
ゲンドウに向かって冬月が踊りながらジャガイモを投げる。
サーベルにサクッと刺さるジャガイモ。
「「なに、あれ?」」
シンジとアスカが呟く。
「・・・ヒゲダンス・・・」
以前教育と称してリツコに加藤○と志○けんのヒゲダンスのビデオを見せられていたレイにはゲンドウと冬月がステージの上で何をやっているのかがわかった。
突然冬月がステージから降りてきてシンジの腕を掴む。
シンジは強引にステージへと上げられた。
ゲンドウがサーベルをもう一本取り出してシンジに渡す。
シンジは何が起きているか理解しないままそれを受け取る。
突然冬月がジャガイモを投げた。
とっさにジャガイモをサーベルに突き立てるシンジ。
観客席から拍手が上がる。
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
「・・・僕はここにいてもいいんだ・・・」
観客の声に、突然トリップするシンジ。
調子に乗って冬月が投げるジャガイモを次々とサーベルに刺す。
観客の拍手はさらに大きくなる。
シンジは観客席の方を見ようとした。
そのとき。
冬月の投げたジャガイモがシンジの頭に当たる。
ピタリと止まる拍手。
気まずい空気があたりに流れる。
し〜んとした会場にひときわ大きくゲンドウの冷たい声が響く。
「失敗した者は必要ない。早く帰れ」
そう言ってシンジのつけヒゲをむしり取る。
シンジはうつむいて客席へ向かって歩きだした。
アスカとレイが舞台に駆け上がり、ゲンドウに食って掛かる。
「どうしてシンジにそんな事言うのよ!それでもシンジの父親なの?」
「・・・碇君悲しんでた、あなた碇君の敵ね・・・」
そう口々に言ってアスカは拳を振りかざし、レイはA・Tフィールドを展開する。
あせったゲンドウは必死に弁解する。
「わ、私はだな・・・そう、そうだ、シンジの父親としてだな、シンジに強い男になってもらいたくてシンジに辛く当たるのだ。そういう事にしておこう」
「「そういう事にしておこう?」」
指の骨をポキポキ鳴らすアスカ、A・Tフィールドでシンジの刺したジャガイモをサーベルごとみじん切りにするレイ。
既に冬月は逃げ出していた。
二人の無言の圧力にゲンドウはとっさにごまかそうとした。
「ふ、二人とも、やってみないか?結構楽しいぞ」
そう言ってレイに無理矢理サーベルを押しつけた。
ゲンドウがレイに向かってジャガイモを投げる。
さくっ
そんな音を立ててジャガイモがサーベルに刺さる。
「・・・」
レイは何も言わないが、アスカには何となく嬉しそうに見えた。
気に入らない。
「・・・ファースト、今度はアタシが投げるわ」
そう言って近くにあるカゴを自分の方に引き寄せると、その中から一番大きなジャガイモを掴んだ。
「・・・いくわよ」
レイの顔面に向かって全力でジャガイモを投げる。
がつん
鈍い音をたて、ジャガイモがレイの顔にあたる。
レイの鼻から鼻血が垂れた。
「ふん、いい気味だわ」
レイの鼻血を見て冷たく笑うアスカ。
レイは鼻血も拭かず、アスカをにらみつけ、いきなりサーベルをアスカの方に投げる。
ビィ〜ン
アスカの耳をかすって壁に刺さったサーベルが震える。
アスカの耳から一筋、真っ赤な血が流れ落ちた。
アスカとレイが無言でにらみあう。
あまりの恐怖にそこから逃げ出そうとするゲンドウ。
が、いきなり動けなくなる。
誰かに襟首を引っ張られている。
ゲンドウは後ろを振り向いた。
そこには鬼の形相をして自分よりもはるかに背の高いゲンドウのジャージの襟を掴むアスカがいた。
ニヤリ
アスカが笑う。
ゲンドウは死を覚悟した。
「ユイ、今から会い・・・」
ゲンドウが最後まで呟く前にアスカが叫ぶ。
「どっせぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!」
ゲンドウの身体が一直線にレイの方へと飛んで行く。
ベキッ
レイの張ったA・Tフィールドに直撃し、愉快な音を立てて地面に落ちるゲンドウ。
首が少し変な方向に曲がっている。
倒れたゲンドウには構わず、にらみ合うアスカとレイ。
「アンタとは一度本気で決着つけなきゃと思ってたのよ」
「・・・あなた、嫌い・・・」
レイがA・Tフィールドを展開する。
A・Tフィールドに押し潰されるステージ。
アスカはステージから飛び降り、A・Tフィールドを避ける。
「アンタ本気でアタシを殺そうとしたわね!!!」
そう言って手に触れた何かをレイに向かって投げた。
ボコッ
またもや奇妙な音を立てゲンドウは崩れ落ちた。
「アンタ、そんなものばっか使って卑怯よ!!!」
「・・・悔しかったらあなたも使えば・・・」
「そんなもの使えるわけないでしょ!!!」
「・・・無能ね・・・」
「ムッキィー!!!」
「・・・あなた、猿?・・・」
「誰が猿よ、この人形女!!!」
「・・・私は人形じゃない・・・」
レイの言葉と同時にA・Tフィールドがアスカに襲いかかる。
襲いかかるA・Tフィールドを素手で止めるアスカ。
既に人間の領域にはいない。
A・Tフィールドを素手で弾いたアスカは武器を探してグラウンドの隣にあるネルフ本部への直通エレベーターに飛び込む。
A・Tフィールドを展開したままアスカを追うレイ。
観客席にいた人々を巻き込み、弾きとばす。
悲鳴と怒号が飛び交う観客席を通り抜け、アスカを追ってエレベーターが降りた後の空洞へと飛び込む。
A・Tフィールドを展開し、ゆっくりと地下へ降りていく。
行きがけの駄賃にとワイヤーを切る。
遥か下からトラックが正面衝突したような音が聞こえてくる。
「ぶっ殺ーす!!!」
真下から罵声が聞こえた。
「・・・ゴキブリみたい・・・」
もし誰かが聞いていたら、アスカの生命力にレイと同じ事を感じただろう。


「ああ・・・」
大量の怪我人と全壊したネルフ本部を前に冬月は頭を抱えた。
冬月の隣にはぼろぼろになったジャージを着て立っているアスカとレイがいた。
アスカはバツの悪そうな表情をしている。
レイは相変わらず無表情だ。
「・・・何ということをしてくれたのだ・・・」
冬月の呟きにビクッと震えるアスカ。
「ははははははははは」
冬月の口元から乾いた笑い声が漏れる。
・・・副司令が壊れた・・・
アスカはそう思った。
その瞬間、冬月がゆっくりと二人の方を向く。
その瞳には諦めの色が漂っていた。
「一つだけ聞こう。君達には理性とか節度とかそういう物はあるのか?」
「人を動物みたいに言わないでくれる!アタシは・・・」
相手が上司なのを忘れてアスカは文句を言う。
「ではこの惨状はなんだ。これを見ても君は何か言えるのかね」
冬月の言葉にアスカは黙り込む。
「綾波君は何か言うことは無いのか?」
「・・・二号機パイロット、嫌い・・・」
「・・・他には」
「・・・碇君、好き(ポッ)・・・」
「なぁんですってぇ!!!」
またもやにらみ合うアスカとレイ。
「いいかげんにしないか!」
普段温厚な冬月の怒鳴り声に二人は固まる。
「君達二人はどうしてそんなに仲が悪いのだ。普通は共に死線をくぐり抜けた仲間として友情とかそういう物が芽生えるはずではないのか。大体君達には・・・」
延々と続く冬月の説教。
冬月の前には正座をさせられるアスカとレイがいた。

冬月の説教が三十分ほど続いたころ、どこからともなくミサトがシンジを連れてやってきた。
「ふっくしっれいぃ」
どこで飲んできたのか、完全に酔っている。
「・・・なんだね、葛城君?」
説教をやめてミサトの方を向く。
ミサトが敬礼して喋り出した。
「副司令、一つ質問はへてひただひます」
呂律が回っていない。
「・・・用件を早く言ってくれ」
「この運動会の優勝者は誰なのでひょうか?」
ミサトの質問に冬月は呆れかえった。
「・・・葛城君、この状況を見てよくそんな事が言えるな」
「ひぇ?」
「運動会は途中で壊滅、つまり優勝者は無し。優勝賞品の有休一ヶ月も無しだ」
「せっかく頑張ったのにぃ」
泣き崩れるミサト。
そこに冬月が更に追い打ちをかける。
「セカンドチルドレンは君の管轄だったな。監督不行き届きだ。減給五十パーセント、三ヶ月」
「・・・それは碇司令の命令ですか?」
「いや、私の独断だ。だが碇は入院する事になったから今は私の命令が絶対だ」
「そんなぁ」
「それとシンジ君」
「なんですか、冬月さん」
「君があの二人を何とかする事。これは司令代行命令だ」
「そんなの無理ですよ!」
「無理でもやってもらう。それとも君は拘束されて赤木博士の実験台になる方がいいのかね?」
「えっ?」
シンジの頭の中に、自分をこき使うアスカと優しくしてくれるレイ、そして怪しい薬を無理矢理飲ませようとするリツコの姿が浮かんだ。
「アスカのことは加持さんに任せた方が・・・」
「加地君は今ネルフのドイツ支部に行っている。帰ってくるのはいつになるか分からん」
他に逃げる方法は無いか?
「ええと、僕これから風邪を引くので・・・」
「それは大変だ。赤木博士の薬を飲んだほうがいいぞ」
冬月が笑う。
シンジは自分に逃げ場が無い事を悟った。
「そうか、やってくれるか。それなら通常のパイロットの給料に五十パーセントの危険手当てを上乗せしよう」
・・・僕の命はそんなに安いのか・・・
シンジの心の声は誰にも届かなかった。



それから一ヶ月間、唯一壊れずに残ったネルフの拘束室からはアスカの怒鳴り声、鉄製の壁のきしむ音、そしてシンジの断末魔の悲鳴が聞こえ続けた。
ネルフ職員M・Kの証言:「シンジ君早く帰ってこないかしら。洗濯物溜まっちゃって」
同R・Aの証言:「シンジ君タフね。今度解剖してみたいわ」
同I・Mの証言:「せんぱぁい、愛してます(はぁと)」
同M・H及びS・A:「「もっと出番をぉ(涙)」」
同K・Fの証言:「このまま碇を十年ほど入院させるにはどうすればよいのか・・・」
シンジの身体を心配する者は誰もいなかった。



The End





ver.-1.00 1997-10/29公開
ご意見・感想・誤字情報などは black@mail.dddd.ne.jp まで。
あとがき
作者「ふう、やっと終わった」

?「ちょっと待ちなさいよ。これじゃアタシがただの筋肉バカみたいじゃないの!!!」

作者「ああ、誰かと思えばアスカ君か」

アスカ「何がアスカ君よ!ヘボ作者の分際で偉そうに言ってんじゃないわよ!」

作者「何をそんなに怒ってるんだ?」

アスカ「怒りもするわよ。これじゃあアタシのいいとこまったく無しじゃないの!書き直しを要求するわ」

作者「そんな事を言われてもねえ。あ、ちょ、ちょっと待った。わかったから回し蹴りはやめてくれ」

アスカ「と言うことは書き直すのね!」

作者「悪いがそれはできない。その代わりに次は君が希望する者を書こうじゃないか」

アスカ「その言葉、二言は無いわね」

作者「勿論だとも。で、次はどんなのがいいんだ?」

アスカ「・・・LAS(真っ赤)・・・」

作者「はあ?LAS?そんなの誰が読むんだ?」

アスカ「アンタバカぁ?勿論あたしの二億四千万の下僕が・・・って、アンタLASって何か知ってるの?」

作者「勿論だ。LASってのは『らぶりぃ青葉シゲル』の略だろ?」

アスカ「この大馬鹿者ぉ!!!(びしびし)LASは『らぶらぶアスカ×シンジ』の略よ!!!」

作者「要するに君はシンジ君といちゃつきたい訳だな」

アスカ「そうよっ、悪い!?」

作者「いや、別に構わないが。じゃあレイ君は出番無しか」

アスカ「もちろん。アンタはアタシとシンジのらぶらぶな生活を書いてればいいの。ファーストなんて必要ないわ」

作者「またヤバい事を・・・レイ君に聞かれたら酷い目に合うぞ」

アスカ「いいのよ。ファーストなんて恐くないわ」

?「・・・あなた、嫌い・・・」

アスカ「誰よっ・・ってファースト!何か文句でもあるの!?」

レイ「・・・あなた、邪魔だわ・・・」(A・Tフィールド展開)

アスカ「それはこっちの台詞よ!!!」

作者「ここも危険になったのでそろそろ後書きを終わらせてもらいます。読んで下さったみなさま、ありがとうございます。それでは」

巨大な爆発音

音声切断

画面暗転


 はに丸さんの『運動会』後編、公開です。
 

 EVAメンバーオールスターキャストの運動会(^^)
 

 沢山の人が登場すると必然的に出番が減る面々・・

 ケンスケ
 シゲル
 マコト・・

 不憫な人たちです。

  まあ、彼らは”スター”ではないので、
  オールスターキャストではお呼びでないか(^^;

 
 
 あ、
 マヤさんもほとんど出て無いぞ (;;)
 

 清楚な常識人は
 アスカxレイにはかなわない−−
 

 ヒカリさえ切れたキャラになっている『運動会』ですから、
 出ない方が幸せだったのかな?(笑)

 

 

 さあ、訪問者のみんなさん。
 めぞんデビュー作を書き上げたはに丸さんに感想メールを送りましょう!


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