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ユニゾン、そして

 

第四話  楽しい学校生活? 前編


 

《ガガッ‥こちらD地点。以上ありません》
『よし。監視を続けろ』
《ガガッ‥了解》

 ここはシンジ達の通う中学校。
 その校舎の陰に、人目をはばかるように男達はいた。
 上司とその部下らしき男の二人組。上司風の男が無線での通信を終えると懐から何やら取り出すとスッと立ち上がった。

『私は少し席を外す。後は頼んだぞ』
『はっ』

 そう言って男は校内へと消えてゆく。

『今日こそは……』

 男は呪文のように何度も何度も同じ言葉をつぶやいていた。

 


 

ザワザワザワ…

 そろそろ生徒達が登校してくる時間だ。辺りが騒がしくなってくる。
 すると先程校内へと行った男が戻ってきた。何をしてきたのかは分からないがその表情から目的は達成されたと分かる。あえて部下の男はその事を聞かなかったが。

『待たせたな』
『いえ。問題ありませんでした』
『よし、引き続き監視を怠るな』

 男達は再び物陰に潜み、時が来るのを只じっと待ち続けた。

 

 

《ガガッ‥》

 不意に無線からの応答があった。男達は表情に緊張がはしる。

《ガガガッ‥目標D地点通過。まもなくそちらに到着します》
『なにっ!?』

タッタッタッタッタ…

『も、目標を肉眼で確認!』
『むっ』

 部下の声に顔を上げると、その指差す方向へと目をやった。その時彼の視界に一人の女子生徒が映った。
 栗色の髪に、おそらく外国の血が入っているのであろうか蒼い瞳を持つ少女。そして髪には赤いぽっちりを付けている。エヴァンゲリオンのパイロット、セカンドチルドレンこと惣流・アスカ・ラングレーだ。

「はあっはあっはあっ…。何とか間に合ったー」

 彼等は知らない。シンジとアスカの身体が入れ替わっているなどという事は。
 その事実を知っているのはネルフでも実験に関わった者と、シンジ・アスカの親友達だけだった。
 そしてそれを知らないが為に、この男の計画が失敗するという事を本人が予測できなくとも仕方のない事だった。

『か、かわいいなぁ‥』

ぼそ

 そうつぶやく彼等の胸に光る[A・F・C]のバッジ。この学校にはアスカのファンクラブがある。この男達、実はそのアスカ・ファンクラブの会員だったのだ。
 そしてこのリーダーらしき男こそ、ファンクラブ会長その人だった。

『最近惣流さん、以前にも増してかわいくなりましたよねー』
『ああ。ほんと前みたいにすぐ暴力を振るわなくなったし、何だかおしとやかになったな』
『時々男言葉なのがちょっと気になりますけど‥またそこがそそるんですよね。あの容姿にあの性格。くうーーっ、最高ぉっっ』

 部下の男(彼は副会長)は滝のように涙を流しながら感激している。

『しかし俺は以前の彼女も良かったんだが。一度あの足でげしげしと踏まれて…』
『へっ?』
『い、いや何でもない。…それより靴箱を開けたぞ』

ぶわさっっ

 地面に数十通もの手紙が散らばる。アスカ宛てのラブレターだ。そしてシンジは少し考えた後、それらを拾い上げると鞄の中へとしまった。

『をををっ!か、鞄の中にしまってますよ!!』
『こ‥こんな事初めてだ』

 ファンクラブではラブレターを出したり、告白をしたりなどの行為は許されない。ただ皆で暖かく見守るだけで抜け駆けは厳禁だった。其れ故に会員以外の男からのアスカ宛ての手紙があると気になってしょうがないのだ。
 今まではアスカは誰からの手紙であろうと一度たりとも受け取った事がなかったので、彼等の心配は現実のものとなる事はなかったのだが。

『そんな…。今までは誰からのラブレターでもあのおみ足でぐりぐりと踏んでいたのに…』
『か、会長…』
『…案ずるな。惣流さんも何か考えのあっての事だろう』

 そう副会長を説得しながらも頬が緩むのをこらえるのに必死な会長だった。

『(くっくっくっ。とうとう俺の時代がやって来たようだな)』

 

「何やってんのよ」

 二人が片や落ち込み片や感激に浸っているその時、一人の男が現れた。彼らの敵、アスカにしつこく付きまとう(彼らの中ではそう見られている)碇シンジがだ。

『ちっ、何だ碇の奴か。惣流さんと同じパイロットだか何だか知らないがいい気になるなよ』

 二人はあからさまに不機嫌な表情になる。

『そういや碇の奴も最近はずいぶん変わったらしいな』
『ええ。喋り方は女みたいなんですけど性格は随分と好戦的と言うか、野蛮と言うか…』
『うむ‥』

 以前のシンジからは考えられない事に疑問を感じない訳でもなかったが、男の事など考える回路は彼は持ちあわせていない。少し間を置いて「ま、いいや」の一言でかたずけてしまう。

『それともう一つ。なんでも惣流さんに近づくヤローどもには容赦ないって話ですよ』
『けっ、彼氏きどりかよ。惣流さんが本気で相手してると思ってるのかね』

 彼のシンジに対する敵対心は益々高まってゆく。

 そしてそんな事に気づく様子もない当の二人はというと…

「まーたラブレター?全く懲りないわねぇ。ちょっとかしなさいよ」
「あ、うん」

 シンジからラブレターを受け取ったアスカはそれを地面に落とすと、靴を履いたままの足でぐりぐりと踏みつけた。

『ああっ、あいつ俺の苦心の作を…足蹴にしやがった!惣流さんならまだしも、碇なんかに何で踏まれなきゃいけねーんだ!』

ぷつん

 その時彼の中で何かが切れた。

「アスカ‥」
「こんな物わざわざ仕舞う事ないわ。これで十分よ」

 シンジはアスカのあまりの行動に呆然とし、声もでない。

『いかりーーー!!死にさらせえーーー!!!』
『か、会長っ!?』

 いきなり物陰から飛び出すと、副会長が止めるのも聞かず会長は猛然とアスカに向って突進していった。

どんっっ!!

 外見はシンジでも、中身はアスカという事を知らない会長は本気で体当たりをかました。アスカは突然の事に反応できず、靴箱に吹き飛ばされた。

「いったーーいっ。何すんのよ!!」
『うるせー、このカマヤローが!』

 まだ怒りが収まらないのか、今度は手を振りかざす。

「やめろっ!」
『っっ!?』

ぱしっっ

 咄嗟にアスカをかばう様に立ちふさがるシンジ。しかし勢いづいた拳は止める事ができず、そのままシンジの頬へと吸い込まれていった。

『あああああ‥。そ、惣流さん……』

 その場にうずくまり痛みを堪えながら抗議の視線を向けるシンジ。会長は自分のしでかしてしまった事にぶるぶると震えている。

「ひどいじゃないか、いきなり殴り掛かるなんて!」
『あ‥‥‥す、すみません…。でも碇の奴が俺の手紙を踏みにじったんで…つい…』

 会長は声を絞り出すように言った。

「あれ‥君が書いたの?」
『は、はい…』
「そう…悪い事しちゃったね。でも暴力はよくないよ」

 憧れのアスカに言われて、頭を下げもうダメだと落ち込む会長。一方、シンジが自分の事をかばってくれたと喜び、うな垂れている彼にざまーみろといった視線を送るアスカ。
 それに気づいたシンジはキッとアスカの方を睨みむと、今度はアスカに対しても怒りだした。

「アス‥シンジもだよ!あんな事されたら誰だって怒るよ、謝りな!」

 普段大人しいだけに、いつにないこのシンジの剣幕はアスカにはこたえた。
 最近やっといい雰囲気になってきていたのに、ここでシンジに嫌われたら‥と思うと顔面蒼白になるアスカ。
 アスカは男の方を向くと素直に頭を下げた。

「…ご、ごめん。アタシが悪かったわ」
『あ、いや‥。分かってくれればいいんだ……』

 二人共心底反省しているようなのでこれ以上責めるのも可哀相だと、シンジは二人の手を取るとお互い前に出させる。

「ほら、二人とも仲直りの握手して」
「‥うん」
『‥はい』

がっし

 お互いに手を握り合い、仲直りの印に握手を交わす。シンジもうんうんとうなずいている。
 本人達もぎこちないながらも微笑み、その場は治まった……かに見えた。

ぎりぎりぎり‥

 アスカが力いっぱい相手の男の手を握る。
 会長もお返しにと力の限り手を握り返す。

「(アンタのせいで怒られちゃったじゃないのよっ)」
『(こ…こぉ〜のヤロォ〜)』

ぴくぴくぴくっっ

 シンジには気づかれぬよう、顔では笑っていながらも二人の額には血管が浮きでていた。
 こりない二人である。

 

 

……そして

「アスカ‥じゃなかったシンジ。そろそろ行こう。遅刻になっちゃうよ」
「うん……ゴメンね」

 落ち込んでまだ元気のないアスカを心配してか、耳元でそっとささやくシンジ。

「いいんだよ。アスカが本当は優しい子だって事は分かってるから」
シンジ…

 アスカの顔がパアッと明るくなる。アスカはシンジに寄り添い腕を絡めると、らぶらぶで教室へと向った。
 そして一人残され涙をながして悔しがる会長。……いや一人ではないようだ。彼の肩を後ろからポンポンと叩く人物がいた。

『ん?副会長ではないか。どうした?』
『か〜いちょぉ〜〜〜。抜け駆けは、げ・ん・き・ん じゃなかったんですくわぁ〜〜っ!?』
『うおおっっ、すまん!見逃してくれっっっ』
『ゆ〜る〜し〜ま〜せ〜ん〜よぉぉぉぉぉ』
『ひえぇぇぇっっ』

 こうして、男は会長の座から引き摺り下ろされた。

 


 

ガラッ 

仲良く教室に入ってくる二人。まだ腕をからめている。

「「おはよう!」」

 ユニゾンさせる二人。

「おっ!おはようさん。二人とも」
「おはようシンジに惣流」
「おはよ。アスカ、碇君」

 トウジ、ケンスケ、ヒカリ。いつものメンバーは既に登校しており、自分達の席についていた。

「ところで今日はどうしたんや?遅かったやないか」
「いや、アスカがまた寝坊しちゃってね。ははは…ぐげっ」

 シンジの後ろからチョークスリーパーをかけるアスカ。完璧にきまっている。

「シンジぃー、それは言わないって約束したでしょー(怒)」

 シンジは手足をばたばたさせ本気で痛がっている。助けを求めるように涙目で親友達に哀願の視線をむけた。
 シンジ達の事情を知る彼等は親友のピンチだ、と助けに入る。もちろんトウジとケンスケだ。

「おい、ええかげんにせんか。痛がっとるやないか!」
「そうだぜ。何があったか知らないが、そのへんで許してやれよ」
「うっさいわねっ。アンタ達にはカンケーない事なのよっ」

 聞く耳もたず。怒ったアスカの手に入る力がさらに増す。

「あだだだだだだ‥」

 そこに意外な、一人の少女の助け船がはいる。
 その少女はアスカを無理やりシンジから離れさせると、アスカの前に立ちはだかった。

「ふう‥‥助かったよ綾波。ありがとう」
「…いいのよ。アスカ、もうやめてあげて。痛がっているわ」
「レ、レイ…。うるさいわね!この身体はアタシのもんなんだからアタシの勝手でしょ!」

ざわわっっ

 アスカの言葉に教室が騒然となる。アスカはなぜみんなが騒いでいるのか理解できず頭の上に?マークが3つほどついていた。
 そしてワケわかんないわよっ!と苛立って叫んでいるアスカにそっと耳打ちするヒカリ。

「ちょ、ちょっとアスカ。今のセリフはかなり危ないわよ」
「へ!?なんで??」
「だって知らない人からしてみれば、碇君がアスカの身体は俺の物だって言ったのと同じじゃない?」

ぼっっ

 一瞬にしてアスカの顔が真っ赤になった。

「あ、アタシはそんな意味で言ったんじゃぁ…」
「でも他の人達にはそう聞こえたんじゃない?」

 ヒカリの言う通りだった。爆弾発言を聞いてしまったクラスメイトの男子達からは、

  「く、くそうっ。まさか碇の奴もう惣流さんとっっ!?」

 と悲痛の叫びが。そして女子達からは、

  「きゃーーっっ!!碇君、だいたーーーんっっっ」

 などなど。

「ううう、誤解を解こうにも本当の事は言えないし…。恥ずかしい……」
「まあいいじゃないアスカ。これで公認の仲になった事だし。ふふっ」

 結構面白がっているヒカリだった。

 最後にシンジ君の一言。

「ああ……胃がイタイ………」

 合掌。

 チ――ン

 


- 続く -
ver.-1.00 1997-10/08公開
ご意見・感想・誤字、脱字情報などありましたら こちらまで。


[作者とアスカのコメント]

BPM:「おーい、上のは何だぁー?」

アスカ:「何って、見たまんまじゃない。アタシとあんたのコメントでしょ」

BPM:「なんか異様に<作者>の字が小さくありません?<アスカ>って文字はでかいのに…」

アスカ:「気のせいよ。それより今回のあたしの扱い、ヒドくない?」

BPM:「いやあ、そんなつもりは……少しあったけど

レイ :「碇君は私が守るもの」

アスカ:「なっ…今レイの声が聞こえなかった!?」

BPM:「気のせいですよ」

アスカ:「気のせい?…ふんっ、まあいいわ。…次はアタシとシンジが…らぶらぶなお話にしなさいよ(ぼそ‥)」

BPM:「えっ?なんですって?よく聞こえませんよー」

アスカ:「う…うっさいわね!らぶらぶにしなかったらコロスわよっ!」

 

次回予告

家庭科の時間。女子はケーキを作る事に。

シンジはその料理の才能を発揮しみんなを驚かせる。

そして男子の授業はサッカー。アスカ大活躍!?

次回を待てぇいっ!


 BPMさんの『ユニゾン、そして』第四話前編、公開です。
 

 アスカとシンジがラブラブしているいると傷付く人々(^^;

 アスカとシンジがイチャイチャしていると怒りに燃える人々(^^;;;

 酬われない連中[A・F・C]・・・
 

 こうしてみると、
 ケンスケってのは、まだ、恵まれていたのか?!

 いや、
 「男三人女三人のグループにいながらあぶれる」
 なんてのはトンでもなく辛いことだろうなぁ(^^;

 

 
 [A・F・C]の反抗はあるのか!?

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 アスカちゃんに脅されている(^^;BPMさんに感想メールを送りましょう!


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