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ユニゾン、そして
第三話 温泉気分のマグマダイバー 後編
「えーーーーっっ!!部屋ひとつしかないのーっ!?」
ホテルのロビーにアスカの声が響き渡る。
ミサトが予約してくれたこのホテルはなかなか感じのよさそうな所でアスカの顔をほころばせるには十分であったのだが、いざチェックインを済ませようとしたところフロント係の男から返ってきた言葉は『部屋は1つ』であった。
何事かと他の客達の視線がアスカの方に集まる。それに気づいてか、顔を赤らめ今度は少し声を落として問いただす。
「こちらではその様に承っておりますが」
「他に部屋はないのっ?」
「申し訳ございません。団体のお客様が何組か入られましたので、空き部屋はございません」
「どうするアスカ、諦めようか?」
「くううっ」
そうは言っても、そう簡単に温泉を諦められるアスカではない。
別にシンジと同じ部屋でも別によかったのだが、そこは自分の気持ちを素直に表現できないアスカ。あとひと押し、なにか自然に納得させる事ができる理由が欲しかった。
「うーん、うーん」
頭を抱え、うんうんうなっている。
その時、フロントの男から思わぬ一言が発せられた。
「この部屋は特別に露天風呂もついておりますよ」
アスカの肩がぴくっと震える。そして、にたぁ〜と笑うと男の方に身を乗り出した。
男はアスカの不気味な笑いにずずずっと後ずさる。
「ろてん‥ぶろ?」
「は、はい。お客様お二人だけでごゆっくりお入りになれます」
ぴくくうっ
(ふ、ふたりっきり…)
「どうなさいますか?」
「ろ、露天風呂ねぇ…。じゃ、そーゆー事なら‥」
アスカは『しょーがないわねー』と渋々了解したという振る舞いをしてみせた。…が、口元の笑みは隠しきれなかった。
(こ、こわひ……)
それを見て顔をひきつらせる男だったが、そこはプロ。すぐに気を取り直して自分の仕事へと戻る。
「そ、それではこちらに御記入お願いします。‥‥えー、碇シンジ様と碇アスカ様ですね」
「ええっ!?」
アスカがつたない字で自分とシンジの名前を記入していく。それを見て男が発した言葉に声に出して驚くシンジ。顔が熱くなってくるのが分かる。
「ご兄妹さまですか?仲がおよろしいですね」
「そうよ悪い?夫婦にでも見えたってぇのっ!?」
「い、いえ。別にそんな意味で言ったのでは‥」
「だったら余計な事は言わなくてもいいのよ。ほら、早くキーをよこしなさいよ」
「あ‥も、申し訳ございません。どうぞ…」
アスカはフロントからひったくる様にキーを奪うと、シンジを引っ張ってずんずんとエレベーターの方へと進む。
辺りの視線が自分達に向いているのが感覚的に分かる。が、今のアスカにはどうでもいい事だった。それを無視してエレベーターに乗りこむ。二人きりだ。
ウイィィィィン
静かだ。エレベーターの音だけが耳にはいる。
二人は何か話すわけでもなく、ただじっと静かに立っていた。
しばらくして先に口を開いたのは今までずっと黙っていたシンジだった。
「ねー、アスカ。なんで同じ名字にしたのさ?」
シンジはなぜアスカが二人とも自分の名字にしたのか気になってしょうがなかった。しかしあの場で聞くのはなんとなくためらわれたので、二人だけになるのを待っていたのだ。
「アンタばかぁ?別の名字にしたら変に勘ぐられるじゃないのよ。ただでさえ、同じ部屋に泊まるってのに‥」
「考えすぎじゃないかなぁ」
「アンタは甘いのよ」
「そうかなぁ…」
びしいっと指をさして言うアスカだがシンジはまだ納得した様子ではない。その後もシンジは、だからアンタはお子様なのよ‥などとくどくどと言われるはめになる。
そしてアスカ達が去った後のフロント…
先程のフロント係の男は側の女性従業員にグチをこぼしていた。
「ふー、まいったよ。あの男の子、女の子みたいなしゃべり方する割には随分勇ましいじゃないか」
「ふふっ、ご苦労様。‥‥ねえ、あの二人…本当に兄妹だと思う?」
「…どうだろう?怪しいところだな。全然似てないしな」
「そうねえ。後ろにいた女の子なんて顔真っ赤にしてたものね」
「まったく最近の子供ときたら…」
アスカ、予感的中である。
ウイィィィィン‥‥
(しかし碇アスカかぁ…。ふふふっ、なんだか本当に夫婦みたいねっ)
「・・カ」
(って事はコレって新婚旅行!?じゃあ、今夜は初夜って事に……きゃっ、何考えてるのかしら私ったらっっ)
「・スカ」
(もしシンジがその気になってきたら‥どうしよう。ううん、シンジになら私…)
「ねえ、アスカ」
『アスカ、愛してるよ』
『シンジ‥あたしも……』
『アスカあっっ!!』
『シンジぃっっ!!』
「なんちて、なんちてー♪」
妄想に一人小躍りしているアスカ。
「…ア、アスカ?」
(あっ、でも今はアタシシンジの身体なんだっけ……。ま、なんとかなるでしょ。男の身体で‥‥ってのも興味あるし‥‥ムフッ)
だんだんと妄想が危険な方向へと傾きはじめ、ニタニタと薄気味悪い笑いをうかべている。それを怪訝そうに見つめるシンジに気づくと、シンジの首に手をまわし、耳に息を吹きかけながら甘い声をだす。
「どどど、どうしたのアスカ?」
「いいのよ‥シンジ。アタシはいつでもオッケェなのよぉ‥‥」
「ア、アスカ?」
すでに目がいっちゃってるアスカは、目の前のシンジに妄想の続きをねだる。
その時チンッとエレベーターの扉が開かなければ、本気でシンジの貞操は危なかったかもしれない…
エレベーターを降り部屋の前までくると、アスカは先程フロントからひったくったカード式のキーを取り出した。
ピッ
静寂に包まれた廊下に『ガチャ』とロックが外れる音が響く。中に入るとそこは、想像していたよりは遥かに良い造りだった。シンジは結構気に入ったらしく、はしゃいで早速部屋を見てまわっていた。
「ふーん。可もなく不可もなくってとこかしらね」
アスカは少し大き目のソファーを見つけると、そこに腰を降ろしそうつぶやいた。アスカの性格からすれば、これは誉め言葉の部類に入るであろう。
バスルームもゆったりとしていた事もアスカの機嫌を良くした。二人で入っても窮屈そうには思えない。ミサトのマンションの倍はあるだろうか。
そして、この他にも露天風呂が付いているのだ。
「で、こっちはベッドルームかな?」
いろいろ見てまわった後、二人は最後に残された部屋の前に来ていた。そのドアをゆっくりと開けそして愕然とする。
「「なっっ!!」」
シンジ達の目に映ったものはベッドだった。一つの…そう、仲良く二つの枕を並べたベッドがそこにあったのだ。
部屋を見回すが、他には見当たらない。
「こ、これって…」
シンジが指差しながら、アスカの方へと振り返る。
「やっぱりミサトにはめられたようね」
「やっぱりって…知ってたの?」
「部屋が1つしか予約してなかった時点でミサトの奴が何か企んでるのは分かってたわ。あの遊び好きな女が自分はいいから、あたし達だけでも温泉に行ってこいなんておかしいと思ったのよ」
「そう…。じゃ、じゃあ今日はこのベッドで…い、一緒に寝るって事‥かな?」
シンジは期待混じりに聞いてみた。
「はぁ?なに言ってんのよ。アンタは床で寝るのよ!」
「そ、そんなぁ‥‥」
一人で寝るにはこのベッド大きすぎるんじゃぁ…などとブツブツ言っているシンジだったが、アスカは全然聞いていない。
「そんな事より温泉行きましょ、温泉。露天風呂へGO!」
シンジの前にはいつのまに着替えたのか、浴衣に首からはタオルを下げどこから見ても温泉スタイルのアスカが立っていた。そしてシンジをおいて一人露天風呂へと向って行った。
「そんな事って言っても‥。あ、もう待ってよーアスカぁー」
:
:
:
「うわぁーーーーー。すっごーーい」
完璧な岩風呂だった。歩く度に足の裏に感じる岩肌の感触が一層温泉へ来たという事を実感させてくれた。
そして景色も言う事なしであった。辺りには雄大な山々がそびえ、第3新東京市では見る事のできない程の緑にうめつくされている。
すでに日は落ちていたが、木々は月明かりに照らされ一種幻想的な雰囲気を創り出していた。そしてさらさらと微かに聴こえる川のせせらぎ。
これらが今だけは、二人だけのものだった。
「うーーーーん、最高よねーシンジ。ほらほら見てぇ」
空を見上げれば輝々と光を放つ月が、そして数多の星々。
「う〜〜ん、空気もおいしい〜」
そして、それに紛れるかの様に月夜を舞うUNのヘリ……
「そうそう、UNのヘリ………って、ええっ!?」
パラパラパラパラ
2、3機のヘリが視界に入る。ミサト達はまだ事後処理に精を出している事だろう。
「もうっ、台無しじゃない!」
誰のせいでそうなったかなどという思考は持ち合わせていないらしく、とたんに不機嫌になるアスカ。しかしそれも一瞬の事で、この空間はそんな事も忘れさせるかのように二人を優しく包み込んでくれていた。
「さ、シンジこっち来て。洗ってあげるから」
「う‥うん……」
気分を取り直してシンジを前に座らせるとシンジの、というか自分の玉の肌を丹念に磨き始める。シンジも黙ってされるがままにする。
「ふんふんふーん♪」
ゴシゴシゴシ
ご機嫌である。シンジもこの様子ならこのまま無事に一日を終えられると、ホッと一安心する。
(いつ何が起きるかわかんないからねー、しっかり磨いとかなきゃ。むふっ)
ゴシゴシゴシ‥‥
「ふぅ…。さ、終わったわよ、先に湯に浸かってなさい。あたしもすぐに行くから」
「うん……」
そう言うと、アスカは手慣れた様子で今度は自分の身体を洗い始める。
(むっふっふ〜。シンジと二人っきり〜。これで二人の距離もぐぐぐっと縮まるわねっ。ふふふ〜ん、悪いわねぇファーストぉ)
アスカは身体を洗いながら、これからの作戦を練っていた。
(にょっほっほっほっほ〜〜〜)
シンジの貞操の危機はすぐそこまで迫っていた。
「さて、終わりっ。一緒に入ろシンジ」
チャプン
アスカは湯に浸かるとそっとシンジの横に座り、さりげなく腕をからませる。シンジはびくっと身体を震わせたが、そのまま離れる事もなく腕にアスカの存在を感じていた。
まあ、ここで離れたら後でなんと言われるか分かったものではないが。
(シンジったら固まっちゃって、顔も真っ赤にして…。くくくっ)
自分の身体に寄り添って何が嬉しいのだろうか。しかしアスカにとっては『シンジと一緒にいられる』というだけで十分であった。
「ねえシンジ‥なんでさっきから黙ってるの?」
「・・・・・・」
アスカはさっきからうつむいたまま黙っているシンジを不思議に思いながら、つんつんと頭をつついてみた。
「ねえったらぁ。‥‥ん?」
シンジの様子がいつもと違う事に気づく。目をぎゅっと閉じ、うつむいているのだ。心なしか顔も赤くなっているような気がする。
(シンジどうしたのかしら?目なんかつむっちゃって……え?)
そこでやっとシンジの様子がおかしかった原因がわかる。そう、今日はシンジに目隠しをしていなかったという事に。
「あーーーーっっ!!さてはアンタ、見たわね!!」
ザバァッと勢いよく立ち上がるとアスカは耳が痛くなる程の大声で叫んだ。
シンジがさっきからおとなしかったのは今日は邪魔物(ミサト)がいなく、露天風呂に自分と二人きりだという事に緊張しているものだとばかり思っていたのだがなんの事はない、単に14才の少年には刺激的過ぎる光景にのぼせていただけだったのだ。
あ、鼻から血が‥‥‥
「だって‥いつ‥もはアス‥目隠し‥つけ‥」
「だってじゃないでしょ!!」
聞く耳もたずのアスカはそののぼせ上がって赤くなった顔をつかむと、ぶんぶんと振りまわした。この追い討ちを食らってか、シンジはもう限界寸前である。
「でも今日‥アスカ何‥も‥言わなかっ‥‥‥」
ぱた‥
そこでついに力尽き、湯面につっぷしてしまうシンジ。
「あああっっ!シンジ、大丈夫っ!?」
「ガボガボガボ‥‥‥(だ、大丈夫じゃ‥ないみ‥たい‥‥)」
シンジが平和な日々を送れる事になるのはまだまだ先の事になりそうだ。
アスカに引きずられて部屋に戻ってきたシンジは、氷を額にのせソファーの上に横になっている。アスカはだいぶ落ち着いてきたシンジの顔を見て安心すると、その横に座り目を合わさないように顔を隠す。
(シンジ…やっぱり見ちゃったのよね……。キレイだって思ってくれたかな‥‥‥)
「・・・・・・」
(やっぱりまだ恥ずかしい…な)
「・・・・・・」
「・・・・・・」
―――気まずい沈黙が流れる。
「テ、テレビでも見よっか?」
「うん……」
そんな雰囲気に耐えられなくなったのか、部屋に備え付けてあるTVの事を思い出すとアスカはスイッチを入れた。
「ポチッとな」
ボタンを押す時のこの名ゼリフは、セカンドインパクト以降も健在のようである。
アスカはシンジの隣にクッションを抱えて座ると、黙ってテレビをじっと見つめている。
しばらくすると、うっすらと映像が映し出されてきた。それに続いて音声も次第に大きくなってくる。
‥‥するとそこには温泉宿にはお馴染みの――そう、アダルト放送が映し出されたのだった。
『おおおおおおおお、奥さん!!』
『ああんっ。ダメっ、ダメよ上原さん!』
『ぼぼぼ、ぼかぁ…ぼかーもおっ!!』
『あああんっっ』
「わあぁぁっっ!」
プチッ
タイミング最悪である。
さらに気まずい雰囲気になってしまった。
(えええいっ、なんでこう裏目裏目にでるのよぉ)
恥ずかしさのあまり火照った顔から今にも湯気がでそうだった。
(あう〜、顔が熱いー。…なんか喉も渇いちゃったわねー、何か飲み物ないかな?)
アスカはふらふらと冷蔵庫の前に来るとドアを開けた。中から出てくる冷気が心地よい。
しばらく涼んでいたが当初の目的を思い出すと、ごそごそと中をあさり探しはじめる。
(なーにかないっかなー。‥‥‥!?)
どうやらお好みの物が見つかったらしい。
「アスカぁ、なにやってんの?」
ごそごそと何かやっているアスカに気づいたシンジが声をかける。そしてその声に振り向いたアスカのその手には2本のビールが握られていた。
「ねぇシンジ、これ飲んでみない?」
「えっ!?ダメだよっ。僕たちまだ未成年だよ!」
シンジは酒などにあまりいいイメージを持っていない。まあ、あの保護者の生活ぶりを見ていれば分からなくもないが。そういう訳で本当は未成年という理由で飲まないと言うよりも、どちらかというとそちらの理由の方が強かった。
「なぁーに言ってんのよ。今時中学生でもお酒ぐらい飲むわよ」
「そ、それはアスカを基準にして言ってるんじゃないの?」
「そんな事ないわよ。ミサトだって私達ぐらいの頃にはもう飲んでたって言ってたし」
「そ、そりゃミサトさんならありえるけど…」
「つべこべ言わず、さっさと飲みなさいよ!」
そう言ってアスカはビールの栓を開けると、無理やりシンジの口へと流し込んだ。
「むっ、むごごごご‥」
「ほらほら、どんどん飲みなさいよっ」
シンジに無理やり飲ませつつ、自分の分も栓を開け飲みはじめる。
ごきゅごきゅごきゅ‥
「ふうっ…。ほらアタシも飲んだんだからアンタもどんどん飲みなさいよね」
「のひぇー、お助けぇぇぇぇぇ」
アスカはさっきまでシンジがのぼせて寝込んでいた事などとうに記憶の彼方へ追いやり、またいつものようにシンジをオモチャにして遊んでいた。
やはりシンジは不幸の星の元に生まれてきたとしか言いようがなかった。
…そして、一時間後……
「どわはははははははっっっっ!!!」
そこには、ただのヨッパライがいた。
「あ〜す〜くわぁ〜。飲んでる〜〜?」
「のの、飲んでるわよ…」
「ほらほら、もっと飲め飲めぇーー」
なるほど、シンジ君は酒を飲むと性格変わるようだ。
辺りには空瓶が散乱していた。そして何本目だろうか、シンジは新しく栓を開けた瓶を両手に持つと、今度はさっきとは反対にアスカに強引に飲ませようとする。
「そ、その‥。アタシはもう十分飲んだから…」
「ぬわにぃ〜、オレの酒が飲めないってかあ〜?」
「い、いや…その…」
シンジのあまりのパンサーチェンジぶりに戸惑いながらも、シラフになったら覚えてなさいよ!と心の中で叫ぶアスカ。そして二度とシンジに酒を飲ませまいと誓うのだった。
さらに一時間後
「…っぐす‥。うわあああぁぁぁぁん!なんだよぉー、もっと僕に優しくしてよぉー」
「ハイハイ。ほら、泣かないでよ」
「うわあぁぁぁぁぁん!」
実は泣き上戸だったのか?
「ほらぁ‥。もう寝ましょ、ね?」
「グス‥‥うん」
(こ、こーゆーシンジも……かわいい…な)
アスカの母性本能を直撃したのか、いつになく優しくシンジをベッドまで連れてくると、そっとシンジの横につき添い寝をしてあげるのだった。
「ずっと…今日はずっと一緒にいてあげるから‥ね」
「うん‥‥ありがとアスカ。……おやすみ」
そうして幸せそうに眠るシンジの寝顔を見ると心が安らぐ事に気づくと、思わず笑みがこぼれるアスカだった。
「おやすみ…」
そして、アスカもやっと眠りについた頃‥
もそっ
もそもそ‥‥
「‥えっ!?」
ごそごそ‥‥
(も、もしかしてシンジ‥‥)
もそもそ‥‥
「あんっ……ちょ、ちょっとシンジ‥あっ‥‥」
もそもそ‥‥
「んくっ‥はぁっ‥‥」
まだまだ夜は長かった……
ぐーーーおーーーぐががぁーーーーすーぴぴぴーーー
「う……ん、はっ…知らない天井だ」
お約束のセリフを言ってしばらくすると、だんだん意識がはっきりしてくる。
「あ、そうか。昨日は確かホテルに泊まったんだっけ。アスカは‥と‥‥!?」
すーすーすー
隣からかすかな寝息が聞こえる。恐る恐る横を向くと、まさに目の前に自分の顔が、アスカがいたのだった。
「のわぁっっ!なんでアスカと寝てるんだっ!?」
「う‥‥ん。もぉ〜なによぉ〜」
(そ、そんな!?確かアスカは昨日僕に床で寝ろって…)
昨日の晩の事を懸命に思い出そうとするが、なにぶん酒の飲み過ぎで記憶が一部とんでいる。そこがまた彼を不安にさせるのだった。
「昨日アンタが全然寝かしてくれなかったんだから、もう少し眠らせてよ〜」
「ね、寝かせなかった!?」
「そうよ〜。シンジったら昨日はもうスゴかったんだから〜」
「す、スゴかった!?」
アスカの爆弾発言に血の気が引いていく。
(も、もしかしてボクはアスカを無理やり……な、なんて事をしてしまったんだ!…でも今ボクはアスカの身体なんだよなあ。こ、こーゆー場合も、襲ったっていうのかな?うーん…)
一人悩んでいるシンジを横目に不思議がりながら、さらにアスカの一言が。
「あんなにハゲしいものだとは思わなかったわー」
(うわあああああ!!!や、やっぱり僕はアスカをっっ。覚えてないのが悔しいぃぃぃぃ)
本音はやっぱりそこか。
あんな事やそんな事を想像していっちゃってるシンジくんであった。
「アンタ、寝相すご過ぎんのよー」
「のおぉぉぉぉぉっっ‥‥‥へっ?」
「まったく‥全然眠れなかったわよ」
「ね、寝相?」
「…何だと思ったのよ」
「え、いや…何でもないよ。は、ははは‥」
いつもならシンジのその不信な表情に疑問を抱くのだが、朝に弱くまだ寝ぼけているアスカは普段の様な思考を巡らす事ができなかった。そのせいでいつもシンジはアスカを起こすのに苦労させられている。まあ今回はそのおかげで無事にすんだのだが。
「ほら、さっさと帰り支度しなさいよ。一泊だけなんだから」
「う…分かったよぉ」
結局何もなかった事に安心し、少しばかりがっかりしながら言われるままに二人分の帰り支度をするシンジであった。
乗客もまばらな帰りの電車の中、他に誰もいない車両に二人は腰掛けていた。
「楽しかったね」
「そうねえ、なんだか慌ただしかったけどね」
昨日の出来事を思い出しアスカはいたずらっぽく、ふふふっと笑う。それを見てシンジは本気で『かわいい』と思った‥が口にはださなかった。
「‥でもやっぱりアタシは家の方がいいな。料理もシンジの方がずっと美味しいし‥」
無意識のうちにでてしまった言葉に驚き赤くなる二人。
「あ‥ありがと。……家に帰ったらアスカの好きなもの作ってあげるからね」
「うんっ」
「また…行こうね」
「うん、今度は…身体が元に戻ってから二人で行こっ」
その日が一日でも早く来る事を祈りながら二人は家路へとつくのだった。
「「ただいまー、ミサト(さん)」」
たった一日離れただけなのに、なぜか懐かしく思える我が家に着くと彼らの保護者に帰宅を告げる。
「「ぬおっ!?」」
玄関を入り、目の前にあらわれた光景に絶句する二人。
そこにはエビチュの空缶の海に横たわるミサトがいた。手には中身の入ったエビチュを持っている。まだ飲む気か。
「おっかえりぃ。二人っきり温泉、ひっくぅ。くぅーーーっっ、いいねぇー若いもんは。どう?しんちゃん、バシッとキメた?」
とりあえず、アスカに美味しい料理を食べさせてあげられるのは部屋をかたずけ、この酔っぱらいを何とかしてからになりそうだった。
-第四話へ続くかな? -
ver.-1.00 1997-09/20公開
ご意見・感想・誤字、脱字情報などありましたら
こちらまで。
[作者コメント]
BPM:「いやー、今回は二人ともいい雰囲気でしたねー」
アスカ:「ア、アタシは別にどーでもよかったんだけどね」
BPM:「そうですかー?結構嬉しそうじゃないですかぁ」
アスカ:「な、何言ってんのよ!」
BPM:「めでたくシンジ君と結ばれた事ですし」
アスカ:「だからあれは寝相だって言ってるでしょっ!」
BPM:「ま、そーゆー事にしときましょ」
アスカ:「むー」
次回予告
すんません、まだまだ考えてないっす・・・・・・
アスカ:「だからアンタはへっぽこって言われるのよ!」
ああああっっ、とうとう予告までとられてしまったぁっ!
アスカ:「アンタの居場所なんかないのよ!」
ううう・・・ぐす(T_T)次回を待てぇいっ!
アスカ:「あんま期待すんじゃないわよ」
BPMさんの『ユニゾン、そして』第三話後編、公開です。
お、温泉・・・
こ、混浴・・・
だ、ダブルベッド・・・
この素晴らしい状況で、
喜んでいるのは・・・女のアスカ(^^;
シンジ、”変”だぞ!!
あっ!
シンジにしてみれば、中身がアスカとはいえ、
自分の体に対して”その気”になるわけはないのか?!
となれば、
自分の体を前にして妄想しているアスカが”変”なのか??!!
うむむ、
アスカにすれば”シンジ”がいるのがいいのかな・・
ラブラブですね(^^)
さあ、訪問者の皆さん。
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