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ユニゾン、そして

 

第二話  公然の秘密 後編


 

 第三新東京市。特務機関NERVのある要塞都市である。ここにシンジ達の通う中学校がある。

「はぁっはぁっはぁっ…どうやら間に合ったようね」

 アスカが先頭を切って教室に入った時に、ちょうどチャイムが鳴った。みんな遅刻をせずに済んだらしい。

「ふー、ギリギリセーフってとこやな。二人とも、明日からはもっと早よう来るんやで」
「ゴメンね、鈴原。今度から気を付けるから」
「あ、ああ。素直に謝るんやったらそれでええんや。うん」

 いつもと違い素直に謝るアスカに調子がくるってしまうトウジ。
 どうやらまだ先生は来ていないらしく、教室はまだ騒がしい。各自自分の席につき荷物を机の中にしまう。
 シンジの席は出席番号が近いので、綾波レイの隣だ。レイはかなり早くに登校しているらしく、今日もいつものように自分の席で誰と話すでもなく静かに本を読んでいた。
 シンジはレイに近づくと隣の椅子にそっと腰を降ろした。

「綾波、おはよう」
「……おはよう」
「…あのさ、綾波は僕たちの事‥知ってるよね?」
「ええ。赤木博士から聞いているわ」

 まわりに聞こえないように、小声で話しかけるシンジ。レイもシンジの意図を悟ったのか、いつもよりも小声になる。まあ、教師の来る前の教室などざわざわと騒がしく、めったな事では聞かれたりはしないが。

「その事なんだけど、みんなには内緒にしておいてくれないかな?」
「碇君がそうして欲しいなら‥わかったわ」
「あ、あと今の僕はみんなからはアスカにしか見えないから、みんなの前ではアスカって呼んでね」
「‥わかったわ」
「ばれないように気を付けなさいよ、ファースト」
「ア、アスカ!もうっ、びっくりさせないでよ」

 いきなりの背後からの声に、びくっとして振り向くシンジ。誰かに聞かれたのではないかとひやひやものだ。
 アスカの方はというとシンジとレイがひそひそ内緒話をしているのが気にくわないようで、こめかみのあたりをピクピクさせている。しかし、話の内容が内容なだけに怒ることもできないのだ。まあ、この後なんらかの形でシンジにしわ寄せがくるだろうが‥。

「わかってる。碇君の困るような事はしないわ」
「あ、ありがとう。綾波」
「…………」

 二人ともうつむいて赤くなる。そんな二人にアスカの肩はぷるぷると震えている。

「ちょっとファースト、なに赤くなってるのよ。シンジも いい雰囲気になってるんじゃないわよ!」
「ご、ごめんアスカ」
「謝る必要はないわ。碇君は悪くないもの」
「な、な、な‥ぬぁーんですってぇー」
「ちょ、ちょっと二人とも…」

 シンジには二人の間に火花がパチパチとしているのがはっきり見える。しかしどうしたらいいものか、ただオロオロするばかり。
 そこにアスカがシンジの席に座っている事に疑問をもったトウジが修羅場状態の三人に話しかけてきた。

「おーい、なに朝からもめとんのや。それに惣流、お前の席はそこやないやろが」
「あ、ちょっと綾波に話があっただけ‥

 最後の『よ』あたりが小さくなるところに、まだシンジの照れが感じられる。

「どーせシンジの事でもめとったんやろ。三角関係も大変やなー」
「いやーんな感じ!」

 遠目からにはシンジ達がなにを言い合っているのかは分からなかったのだろう。トウジはいつもの三角関係のもつれだと思ったのだ。ケンスケも加わって勢いが増したせいか、クラスメイトもくすくすと笑い出す。毎朝よく飽きないものである。

「静かにしてください!鈴原もバカな事ばっかり言ってるんじゃないわよ!」

 親友のピンチだ、とヒカリが助け船を出す。

「まぁまぁいいんちょ、ええやないか。ホンマの事なんやし」
「ば、ばかなこと言ってるんじゃないわよっ!」

 とうとうアスカも切れたのか、顔を真っ赤にして叫ぶ。顔が赤いのは怒っているからだけではないようだが。しかしトウジは冷静につっこむ。

「ないわよって、なに女みたいなしゃべり方しとんのやシンジ」
「う…こ、細かいこと気にするんじゃないよっ。男らしくない!」
「男らしくない‥わ、わいは全然気にしとらへんで!」

 トウジは一番きつい事を言われたのか、ぷいっとそっぽを向く。『わいは男や、わいは男や、わいは……』と一人ぶつぶつ言っている。
 他のみんなもシンジのいつもと違う迫力にぴたっと静かになった。

ガラッ

 気まずい雰囲気の中、老年の教師が教室に入ってきた。生徒達が慌ただしく自分の席につき始める。

「う〜、みなさんおはようございます。では出席を取ります〜」

「綾波」
「‥ハイ」

「碇」
「はいっ」

「・・・」
「はい」

「・・・」
「はい」

「・・・」

 出席を取り始めた静かな教室に、怪しく眼鏡を光らせる人物が一人。そして人差し指で眼鏡をくいっと上げると一言つぶやいた。

「怪しいな、あの二人。何かあるな‥‥ニタリ」

 そう言って愛用のデジカメの手入れに余念がないケンスケであった。

 

 

 

「さあー!メシやメシや!!くぅーーっっ。この為にガッコ来とるようなもんやな!」

 いつものメンバーで屋上に集まっての昼食だ。
 ヒカリは鞄の中からトウジ専用のばかでかい弁当箱を取り出すと、ちょっと恥ずかしりながらもトウジに手渡す。

「はい、鈴原。お弁当」
「おおっ、いつもスマンなあ。いいんちょの弁当は最高やからな。いただくでー」

 さっそくガツガツと食べ始めているトウジに、ぱあっと顔をほころばせるヒカリ。

「うん!明日も作ってくるからねっ」
「うまうま!!」

 その光景を微笑みながら見ていたアスカに隣から自分に対して今と同じセリフがくる。

「はい、お弁当だよ」

 シンジが微笑みながら、すっと弁当を差し出す。その笑顔に思わずアスカの頬も朱に染まる。

「あ、ありがと…(な、なんで自分の顔みて赤くならなきゃいけないのよっ)」
「はんや、へふらひいほほもはるもんやは(なんや、珍しいこともあるもんやな)」

 トウジがエビフライを口いっぱいに頬張りながら言う。

「ちょっと鈴原、口に入れたまま喋らないでよ。へぇー、今日はアスカがお弁当作ってきたんだー」
「あ、あの‥わ、私だってたまにやる‥むぐ‥」

 シンジが言いかけると、横からいきなりアスカが口をふさぐ。

「くくっ、明日は雨が降りそうだな。ゴフッ‥」
「そうだよっ、実はアスカは料理の天才なんだから!僕なんか足元にもおよばないよ!!」

 ここぞとばかりに自分の事を誉めちぎるアスカ。その横にはアスカの裏拳をくらってのびているケンスケの姿があった。

「ねぇねぇアスカぁー、ちょっと一口食べさせてよ」

 アスカの作った弁当に興味のあるヒカリはちょっと甘えておねだりしてみた。

「う、うん。いいよ‥ハイ」

 ヒカリがすりすりっと寄って来たので、ぼっと顔が赤くなるシンジ。

「じゃー、この卵焼き一つもらうわね。おいしそー。ぱくっ」

 ヒカリは弁当箱から一際おいしそうな卵焼きを見つけると、早速一つ取って食べてみた。

「うんっ、おいしいわよアスカ!!でもなんか碇君の味付けに似てるわねえ」
「あ、そ、それは僕がアスカに教えてもらったからじゃないかな。アスカは僕の料理の師匠なのよ‥だよっ」
「へぇー、だから似てるのね」

 よくそこまで平然と嘘がつけるものだ。シンジはあきれて、もうどーでもいいやという感じで自分の弁当を食べ始めていた。

「も、もういいでしょ洞木さん。アスカが僕のために作ってくれた弁当だから‥その…」

 ばれるのではないかとヒヤヒヤしているアスカは早く弁当を返してもらおうとするが、どうやらヒカリはそれを違う意味に解釈したらしい。

「あ、ごめんね碇君。はい、ありがと」
「あ、うん。別にいいのよ、だよ」

 ヒカリから弁当を返してもらうと早速、好物のシンジ特製から揚げを口へと運ぶ。

「いただきまーす。もぐもぐもぐ‥うんっ、やっぱりおいしい!」
「アスカの愛妻弁当だもんね」
「ヒカ…洞木さんっ。ゴホッゴホッ」
「ふふふっ、ごめんごめん」

 喉につまらせてゴホゴホと咳きこむアスカに、ポットからお茶を注いで手渡すシンジ。

「だ、だ、大丈夫アスカ?はい、お茶だよ」
「あ、ありがとシンジ。ゴクゴクゴク‥‥。ふー、どーなる事かと思ったわ」 

 落ち着くと、二人はヒカリ達の不思議そうな視線に自分達の失敗に気づく。

「「あっ!!」」
「‥ねえ、やっぱりおかしいわよ二人とも。お互いの名前を間違えたり、碇君は女言葉を使うし…何かあったの?」
「ななな、だから何でもないんだってば。ね、アスカ」
「そ、そうだよ。気のせい‥
「くくく、昨日の事故と何か関係があるんじゃないのか?」

 いつのまにか復活していたケンスケがキラッと眼鏡を光らせながら鋭いとこをつく。

「昨日の事故?」
「ひのーのひほやほ?(昨日の事故やと?)」
「ああ。なんでも昨日の作戦実行中にエヴァパイロットになんらかの事故があったそうなんだ。パパの所でも話題になってたのさ」

 ヒカリの顔がサーっと青くなる。やはり親友の身に何かあったのでは?と考え始めたらどんどん悪い方に想像が膨らんでくる。

「今日会って確かめようとしたんだけど、どこもケガらしいものはなかったからな。今まで聞かなかったんだ」
「(くうぅぅぅーーーっっ。普段は目立たないくせに、なんでこんな時ばっかりしゃしゃりでてくんのよ、コイツは!!)」

 よりによって一番知られたくない相手に気づかれ、アスカは苦悶の表情を浮かべる。シンジなどはこれ以上ないくらい情けない顔で、助けを求めるようにアスカに視線を向ける。

「どうした?二人とも顔色が悪いぞ。くくっ図星だな?」
「ねえアスカっ。事故があったってホントなの?大丈夫なの?」
「あ‥いや。その……」

 ヒカリが心底心配そうにシンジへと詰め寄る。目が少し潤んでいるのがアスカにも分かる。

「(ヒカリ‥私はこっちなのよ…。そんな目をしないで‥。やっぱりヒカリ達にだけは話した方がいいかしら‥)」

 話すべきかどうか、と苦悩するアスカ。親友のあんな顔を見せられては無理もない。
 いつになくシリアスな雰囲気があたりに漂う。

 

 

「ほーや、はいほーふはんは?(そーや、大丈夫なんか?)」

 ‥緊張感台無しである。

「(もうっ、ムードが台無しじゃない!…ねえ、シンジ‥。話した方がいいかな?)」
「(うん‥みんな心配してくれてるし、やっぱり正直に話した方がいいんじゃないかな?)」
「(そうね‥これ以上嘘をつくのも心苦しいしね)」
「(……………)」

 あれだけ散々嘘をついておいて何を言うのか、と思ったが口にだしては言わないシンジだった。少しは学習しているようである。
 そしてアスカは思い切ったように口を開く。

「‥みんなよく聞いて。事故があったっていうのは本当なの」
「い、碇くん。じゃあやっぱり」
「うん。でも心配しないで、実は‥‥」

 

 

 

 

「そうだったのか。うん、それだったら今までの二人の行動もうなずけるな」
「そういう事だったの…心配したわよもうっ」
「ゴメンね‥ヒカリ」
「ううん、もういいの。でも大変だったでしょ」
「うん。まあ、いろいろとね」

 事の次第が分かって安心したのか、しかしシンジと話しているようでまだぎこちなさがある。

「でも碇君の身体でよかったわね」

 ヒカリは今まで嘘をついていたアスカをちょっとからかってみた。

「なな、何いってるのよヒカリっ」
「ふふっ、アスカったら照れちゃって。かわいー」
「もうっ、こっちは大変なんだから!ヒカリも鈴原と入れ替わってみたら分かるわよ、この苦労が」
「なななな、なにを言うのよっ。べ、別に鈴原は関係ない…」
「あれー?顔が赤いぞー」
「もうっ‥」

 などと恋する少女二人がそんな話しに夢中になっているその時に、トウジとケンスケの二人はこっそりシンジを屋上の隅に引っ張っていた。

「(おいシンジ!どやった?)」
「(どうって?)」

 トウジが何を言っているのか全然理解できないないシンジ。あきれたようにケンスケも詰め寄る。

「(とぼけるなよ。見たんだろ、どうだった?)」
「(だから何をさ?)」
「(昨日、風呂入る時に見なかったのか?)」
「(え!?)」
「(外見からだけでもこれだけナイスばでぃなんや、生はごっついええやろ?)」

 ようやく二人が何を言わんとしているのかを理解して、かあーっと赤くなるシンジ。

「ななななな、何言ってるんだよ!見てないよ!!」
「(しーーーーっ!!!声がでかい。とぼけなくてもいいんだぜ、幸せは分かち合うのが友達だろ‥な?)」

 そういうとケンスケはポケットからすっと愛用のデジカメ『盗撮くん一号』を取り出す。

「(今までは隠し撮りだったからな、あまりいい絵が撮れなかったんだ。シンジが一つ協力してくれれば俺達は一気にに大金持だぜ!)」
「(そやそや。協力せいシンジ)」
「(ででで、でもアスカにばれたら殺されちゃうよ)」
「(バレなきゃいーんだろ、バレなきゃ。そんなドジはしないよ)」

 ずずずいっとシンジに詰め寄る二人。シンジは困った様な、それでいてちょっと興味がある様な顔をしながらずりずりと後ずさる。
 もう後がない所まできた時、二人はシンジの表情が急に変化した事に気づく。口をぱっくりと開けて恐怖に怯えながら固まっているのだ。

「どうした、シンジ?」
「ああああああ…アスカ」
「「え!?」」

 二人が振り向くとそこにはアスカとヒカリが仁王立ちになっていた。

「あ……いや…その…冗談だよ、なぁトウジ」
「そそそそ、そやそや、単なる冗談なんや。気にしんとき‥な?」
「ふーーん。冗談ねえ……」

 ニコニコと不気味に笑いながら二人を見つめるアスカ。ヒカリもぶちきれ寸前である。

「すーずーはーらーっ!!」
「「ひ、ひえぇぇぇぇぇ!!!し、使徒っ!?」」

 

 

 翌朝、登校して来た生徒達に屋上からす巻きにされて吊るされている二人が発見される事になる。
 彼らは『使徒が‥使徒が‥』と口走るばかりで、ただ恐怖に怯えたように震えているだけだった。

 もちろん『盗撮くん一号』はボッシュートとなっていた。

 


- 続く -
ver.-1.00 1997-08/26公開
ご意見・感想・誤字、脱字情報などありましたら こちらまで。


[作者コメント]

BPM:「いやー、とうとうバレちゃいましたねー」

アスカ:「まっ、いずれバレるとは思ってたわよ」

BPM:「でもケンスケ達のアルバイトにも、少しは協力してあげればいいのに…」

アスカ:「アンタばかぁ?そんな事できるワケないじゃない!」

BPM:「そうでしたね。アスカ様の美しい身体はシンジ君だけのものでしたからね」

アスカ:「ななな、何言ってるのよっ!」

BPM:「それに・・・・・・アスカ様も見たんでしょう?」

アスカ:「なにをよ?」

BPM:「シンジ君の身体ですよ。もうとぼけちゃって、コノー」

アスカ:「(かあーーー!!)み、見てないわよっ」

BPM:「第一話で見たじゃないですかー」

アスカ:「あ、あの時は慌ててて良く見えなかったのよ!」

BPM:「またまたぁ。トイレはどーしてるんですか?そんな感じの質問もいくつかきてますよ」

アスカ:「な‥ト、トイレぐらいうまい事やってんのよ!なんせアタシは天才なんだから!!」

BPM:「そうですか‥。で、どうでした?大きかったですか?」

アスカ:「んー、並ってとこかしらねー・・・・って何言わせるのよ!」

BPM:「・・・・・やっぱり見てたんだ」

 

次回予告

浅間山火口にまだ胎児と思われる使徒が確認される。

使徒退治にマサカリかついで出かけたアスカとの対決は!?

そして、なぜ!D型装備がFF7に登場するのか?(古いな)

次回をまてぇい!


 BPMさんの『ユニゾン、そして』第二話、公開です。
 

 ついにばれた二人の秘密。

 まあ、あれだけボロを出していて、
 ここまで持ったのが僥倖とも言えるのですが(笑)
 

 ケンスケに対する私の認識が偏見ではないということが分かったので少しホッ(^^;

 でも、
 変態オタクメガネのケンスケ。
 このぐらいで諦めてくれるんでしょうか・・・

 スカートに慣れていないシンジ。
 無防備なポーズを取っちゃうんじゃ・・・ (;;)
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 貴方の感想をメールにしたためましょう!


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