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ユニゾン、そして
第二話 公然の秘密 前編
チチチチチ……
小鳥のさえずりが辺りに響く。第3新東京市に新しい朝がやってきたのだ。
その鳴き声にもぞもぞと起き上がる影がひとつ。小鳥のさえずりで目が覚めるとはなんとロマンチックなのだろう、と思われるがその少女はただの少女ではない。美少女なのだ……っと違う違う。確かにとびきりの美少女ではあるのだが‥
「ふあぁぁ〜〜」
朝か…とまだ眠い目をこすりながら起き上がろうとする。その時のはずみで胸に手が触れる。年齢の割に豊かなバスト。自分の胸に手が触れただけなのに赤く染まる顔。そして一言つぶやく。
「夢じゃなかったのか…」
ジャバジャバジャバ
目と火照った顔をさますために顔を洗う。冷たい水が心地よい。
「ふうっ、やっぱり戻ってないや」
鏡に映る自分の姿を見て、そして自分が置かれている状況を否応無しに再確認させられる。
この美少女、惣流・アスカ・ラングレーなのだが、彼女の身体は今では碇シンジのものだった。…表現のしかたに問題があったようだ。つまり今、彼女の身体にはシンジの魂が宿っているのだ。
「まさか、こんなマンガみたいな事が実際に起きるなんてなあ」
昨日の事が思い出される。アスカとの見事なユニゾン、そして使徒せん滅。そう、ここまでは順調に事は進んでいた。しかしこの後で、思いもよらぬ事が起きたのだ。
魂の交換。リツコがシンジに事の次第を説明する時、分かりやすいように使った言葉だ。シンジとアスカの精神があまりにも同調しすぎてしまったために、二人の魂が入れ替わってしまったという事だそうだ。
そういう訳で今アスカの身体にはシンジがいるのだ。
「ふうっ‥ま、考えてもしょうがないや。リツコさんもそのうち元に戻る方法が見つかるって言ってたし」
わりと楽観的に考えているシンジは、それよりも今はもっと 重大な事が差し迫っている事を思い出す。
「あっ、それよりも朝御飯とお弁当を作らなきゃ。手を抜くとすぐ怒るからなあ、アスカは」
そう言いながらも嬉しそうに台所へ向い、いそいそと朝御飯を作り始める。傍から見ていると、愛しい恋人のために朝食を作る健気な少女にしか見えないという事に気づいていないのだろうか。
「ふわわぁぁ〜。おはよアスカ‥じゃなかったシンちゃん。あらっ?いい香りね」
「あ、ミサトさん。おはようございます。もうすぐできますからね‥ってまたそんな格好で」
毎度の事ながら、ミサトが人には見せられないようなだらしのない格好をして起きてくる。トウジなどが聞いたら羨ましがるのだろうが、さすがにシンジも毎朝見せつけられては慣れてしまい一言文句を言っただけでまた料理にもどる。
「ねえ、アスカはまだ起きないの?」
「ええ、まだ寝てますよ。さてと、朝御飯もできた事だしアスカ起こしてきますね」
「旦那様を起こしにいく新妻みたいねー」
「もうっ、なに言ってるんですかー」
「新婚夫婦の『おはよう』の挨拶は、昔からキスって相場が決まってるのよー。がんばってね♪」
シンジはもうビールを飲み始めているミサトを横目に、朝っぱらから酔っぱらいの相手などしていられないと思ったのかアスカの部屋へと向う。
アスカの部屋の前に来たシンジは、確認のためノックをする。これをしないと、こっぴどく怒られるのだ。
トントントン
「アスカ、朝だよ。御飯もできたから起きてよ」
「・・・・・・」
「アスカ、起きてよ。朝だよ」
「・・・・・・」
「入るよアスカ」
ガラッ
一向に起きてくる気配がないので部屋の中へ入ろうとするシンジ。そこにはシーツにくるまり可愛い顔をしてすーすーと寝息をたてるアスカがいた。シンジにとっては見慣れた自分の顔のはずなのになぜだか顔が赤くなる。
さっきのミサトの言葉が脳裏によぎる。
(おはようの挨拶は昔からキスって相場がきまってるのよ…)
「なっ、なに顔赤くしてるんだろ。自分の寝顔に見とれるなんて。ぢつは僕ってナルシスホモ?カヲルく〜ん」
などとワケの分からない事を言いながトリップしているシンジ。自分がこの部屋になにしに来たのかもう忘れてしまっているらしい。
「はっ、そうだ。アスカを起こさなきゃいけなかったんだ。ねえっアスカ、起きてよ!」
「う、う〜〜ん。シンジぃ…むにゃむにゃ」
「え!?も、もしかして僕の夢を見てるのかな!!」
「う〜〜ん、このバカシンジ。コロスわよ‥むにゃむにゃ」
「夢の中でまで僕をいじめてるのか…」
それでもアスカを起こそうとするとはなんと優しいのだろう。‥イヤ、起こさなかった時の事を考えれば当然の行動かもしれない。
「ほらっアスカ、起きて。遅刻しちゃうよ」
「う〜ん。え!?なんでアタシの顔が目の前に…あ、シンジか。おはよ、もう朝なの?」
「おはよ、アスカ。朝御飯もできてるから早く起きてね」
「わかったわ。今起きるから。ふわわぁぁ〜」
まだ寝ぼけているせいか自分の顔が目の前にあるのに一瞬戸惑ったが、すぐに状況を把握し冷静になる。
「さてと、起きるかな。ん?なんか下半身に違和感が‥ひっ、ひえええっ!!」
「どうしたのアスカ!」
「な、なんか硬いモノが…くぉ〜のっバカシンジ!エッチ、バカ、ヘンタイ!!」
パアァァン
朝から景気のいい音をさせてシンジの頬に紅葉をつくる。
「ひ、ひどいよアスカ。朝なんだからしょうがないじゃないかあ」
「ああっ、しまった!アタシのぷりちーな顔に紅葉がっっ。叩くならシンジの顔ねっ」
パンッ
そういうと自分の頬を叩くアスカ。
「い、痛い…」
とことんへっぽこなアスカである。
「ふー、美味しかったわよシンジ。」
シンジ特製の朝食を堪能して満足そうなアスカ。さっきの事はもう忘れているらしい。
「おそまつさま。食後の紅茶はいる?」
「ありがと。一杯もらえる?」
「あ、シンちゃん。私にもねー」
「はいはい。今入れますから待ってて下さいね」
さっきまでビールをがばがば飲んでいたミサトの言葉にアスカの表情は少しむっとする。実際テーブルの上には空缶がごろごろ転がっていた。
「ミサトあんたねぇ。さっきまでビール飲んでたんだから紅茶なんていらないんじゃないの?」
「そー言わないでよ。シンちゃんの入れた紅茶、美味しいんだもの」
「確かにね。悔しいけどシンジの入れた紅茶は最高だわ」
「まあ、愛しいシンちゃんの紅茶を一人占めしたい気持ちは分からないでもないけどね」
「べ、別にそんなんじゃないわよ!勝手にすればあ」
アスカが顔を真っ赤にして抗議しているところに紅茶を入れたシンジがやってきた。
「もう。二人ともなにけんかしてるの?ほら、紅茶でも飲んで落ち着いたら?」
すっと二人の前に紅茶を差し出す。アスカお気に入りのティーカップだ。
ほのかに漂ういい香り。アスカも怒っているのを忘れて紅茶に手を伸ばす。
「ありがとシンジ。ん〜、いい香り」
存分に香りを楽しんでから一口飲み、今度は舌で味わう。
「うんっ。味もなかなか。さすがシンジね」
「ありがとアスカ。そう言ってもらえると嬉しいよ」
「ほんと、シンちゃんの入れた紅茶は最高ねーー。ごくごくごくっぷはっ」
「まったくミサトは‥紅茶の楽しみ方ってぇのを知らないのかしら。ブツブツ」
ミサトの飲み方にあきれながらまた一口、口にはこんでいく。
「ところで二人とも」
みんなで食後のティータイムを楽しんでいる時に、のんびりした口調でミサトが二人に話しかけてきた。
「え、なんですかミサトさん」
「なによ、ミサト」
「もうこんな時間なんだけど‥ゆっくりしてていいの?」
そう言って時計を指差す。
「「あああああ!!しまったあーーー!!!」」
「シンジ、急ぐわよ!」
「あ、待ってよ。じゃ、ミサトさん。行ってきます」
「行ってくるわよ、ミサト」
「いってらっしゃーい」
ガチャ、ドタドタドタ…
はあっ。まったく見てて飽きない二人ねー。
二人がいなくなった部屋にミサト一人。誰に言うでもなく、ぽそっとつぶやいた。
通学途中、アスカは走りながらシンジに厳重に注意をしていた。
「いい、ずえったいアタシ達の事はしゃべっちゃダメよ。あの三バカ二人組に知れでもしたら何言われるか分かったもんじゃないわ」
「う、うん。ばれないようにするよアスカ」
「ちゃんとアタシの振りをするよの。アンタが変な事すればアタシのイメージがくるっちゃうんだからね!」
「わ、わかってるよ」
そうこう言ってるうちに、みんなとの待ち合わせ場所に着いた。トウジにケンスケ、ヒカリの三人。まだみんな待っていてくれたようだ。
「遅いで、二人とも。なーにやっとんのや。また夫婦ゲンカでもしっとったんかいな?」
三バカのうちの一人、シンジの親友でもあるトウジだ。いつものように上下そろいのジャージを着ている。
「「ごめんごめん」」
二人は息を切らせながら声をそろえて謝る。
「また夫婦ゲンカでもしっとったんかいな?」
「そ、そんなんじゃないよ」
頬を赤く染めながら言うシンジに、まゆをひそめるトウジ。
「なんや惣流。今日はえらいしおらしいやないか。いつもやったら思いっきりつっかかってくるのに」
「え!?そ、そう?」
シンジはなんとかごまかそうと必死だ。幸いアスカには聞こえていなかったらしい。
「おはよう、シンジに惣流」
こちらも三バカの一人で、シンジの親友ケンスケ。いつも携帯しているデジカメで美少女の写真を撮っては売りさばいている。なかなかのしっかり(ちゃっかり?)者だ。軍事オタクでもある。
「おはようさん。シンジ、惣流」
トウジもケンスケに続いて挨拶をする。それにシンジが答えたのだが。
「あ、おはよう。トウジ、ケンスケ」
「「「 !? 」」」
みんなが一斉にシンジの方を見る。
「ア、アスカ。いつから鈴原の事を名前で呼ぶようになったの?」
ヒカリがシンジに恐る恐る聞く。ケンスケの事は耳に入ってないようだ。ケンスケ哀れなり。
シンジがオロオロしているその時、アスカの肘鉄がみんなには見えない様にシンジの脇腹にヒットする。
「え、そ、その…ぐふっ」
「(アンタ、さっき言ったばっかりでしょ。ほんとにアンタばかぁ?)」
「(ご、ごめんアスカ。今度からは気をつけるよ)」
「(まったく‥フォローしてあげるから話合わせなさいよ)」
「(うん、ありがと。やってみるよ)」
「まったくアスカ、冗談でしょー?(ほらっ、シンジ)」
「そ、そうなんだ。冗談なんだよ」
「なんや、そうやったんかいな。びっくりしたでホンマ」
「そうよー。アスカも人が悪いんだからー」
どうやらヒカリも納得してくれたようである。
「(いい?アタシの見本をちゃんと見てるのよ!)」
「(う、うん。わかったよ)」
「おはよ!トウジにケンスケ」
アスカは明るく二人に挨拶をした。
「あ、ああ。おはようさん。なんやシンジ、今日は元気やなー」
「まあね。たまにはそーゆー時もあるよ」
「そんなもんかいな」
ふーん、と言いながらも納得するトウジ。単純である。
「あそうだ。おはよう、アスカに碇君」
「おはようヒカリ」
「あ、おはよう!ヒカリ‥あっ」
トウジ達と話していたところへいきなりのヒカリの言葉に、思わずいつもと通りに答えてしまうアスカ。親友のヒカリに声をかけられたので、ついつい地がでてしまったようだ。
シンジはまた肘鉄をくらうのはイヤなのでちゃんと返事をしたのに、また同じ事の繰り返しである。
「し、シンジ。いつからいいんちょの事を名前で呼ぶように‥」
「碇君。そ、そんな‥私には鈴原が。ぶんぶんっ。でも碇君も結構かっこいいし、優しいし、笑顔が素敵だし。んーどうしたらいいのっ!!」
そこに、すかさずシンジがフォローを入れる。
「もー、シンジもじょーだんなんでしょ。アタシがやったからってマネしないでよね!」
パコン
小気味の良い音がした。シンジは軽くアスカの頭を叩いたつもりだったが調子に乗りすぎたらしい。
「ははは‥そう!じょーだんなんだよ。みんな本気にしないでよー」
「なんや、シンジもそうか。なんか今日は二人ともおかしいで」
「ははは、そ、そうかな?」
笑ってごまかすアスカだったが目が笑っていない。そしてシンジはそのことに気づいていなかった。この後シンジは地獄を見る事になる…合掌。
ちーん
「ほならガッコ行こうか。はよせんと遅刻するで」
トウジの言葉にみんな時計を見る。まだ走ればギリギリ間に合う時間だ。
「じゃ、みんな急ごう!」
アスカは言うがはやいか、もう走り出している。みんなもそれにつれて走り出す。
「ああっ、だめなのよー。碇く〜ん。私には……」
まだトリップしているヒカリであった。
- 続く -
ver.-1.00 1997-08/20公開
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[作者コメント]
BPM:「ううう……シクシク(T_T)」
アスカ:「ちょっとアンタ、なに泣いてんのよ」
BPM:「ああっ、アスカさん!これはうれし泣きなんですよ。もうこんなにもの人が私の小説を見て下さってると思うと。ううう‥」
アスカ:「おーよしよし。これもひとえにアタシのおかげね!」
BPM:「そ、そうですか。さすがアスカさん。いや、アスカ様ー!!」
アスカ:「(くっくっく。これでまたアタシの下僕が一人増えたわね)‥ところで第二話、やっとできたみたいね」
BPM:「あ、そうなんですよ。『第二話 公然の秘密 前編』お待たせしました。今回のアスカ様はさらにへっぽこでしたね」
アスカ:「アンタが書いたんでしょうがっ!」
BPM:「ひいいぃっ!すみません!!」
アスカ:「この次はちゃんと書くのよ。アタシが大活躍するようにしてよね!」
BPM:「さあ、どうなる事やら‥」
アスカ:「くぉ〜の、ぴしっぴしっ。急いで書かせるからみんな見捨てないで待っててやってねー。あ、待てーー」
BPM:「ひいいぃぃぃ〜。お助けえ〜〜〜」
次回予告
とうとうアスカとシンジの秘密はばれてしまうのか!?
トウジやケンスケの反応は??
そしてヒカリはまだトリップしているのか?(笑)
次回をまてぇい!
BPMさんの『ユニゾン、そして』第二話前編、公開です。
単純バカのトウジにばれることはないと思うけど、
ケンスケには要注意。
ケンスケにばれたら大変だよぉ〜〜
絶対、
「色っぽいポーズの写真を撮らせて」とか、
「パンチラ位いいだろ」とか、
「この棒アイスに舌をはわせて」とか・・・
なんて言うに決まっている!
偏見?
いいや、アイツはそういう奴だ!(笑)
で、その写真を売りさばくに決まっている〜〜
アスカちゃんを汚すに決まっている〜〜〜〜
あっ・・すいません、壊れていました(爆)
とにかく、ケンスケには要注意・・・・まだ言ってる(^^;
さあ、訪問者の皆さん。
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