「零号機を、起動させます。」
事も無げに言い放つ彼女、特務機関NERV総司令、綾波ユイを目の前にして、彼女の「もう一つの頭脳」と仇名される副司令、赤木ナオコも流石にすぐには二の句が継げなかった。
「零号機、ですって?凍結したのではないの、あれは。第一、今はパイロットが…」
「問題ないわ。もう一人の、予備が届きます。」
刻は、せまっていた…
ACT−2
「Mother and Daughter」
「とくむきかん、ねるふ?」
箱根地下、約350メートル。巨大な斜坑を走る、カートレイン。いずれの台車の上にもその車以外の車両は見受けられない。それ、埃まみれの白い軽トラック。トンネルの中は息がつまる、と言う加持の勧めを聞いて、綾波レイは軽トラの荷台にちょこんと座ってブックレットのようなものを読んでいる。確かに運転席に座っているよりは快適なような気もする。当の加持リョウジは、ようやく運転から解放されたとばかりに、レイの目の前で寝そべってくつろいでいた。
「国連直属の非公開機関、まあ、いわゆる『秘密組織』ってやつかな。俺もそこの所属でね…って、おいおい、そんな眼て見ないでくれよ。別に『世界征服を企む悪の組織』とか怪しい代物ってわけじゃあないから。れっきとした『お役所』なんだって。」
秘密組織、などと怪しい単語を聞かされたとたんに、レイの紅い瞳が露骨にいかがわしいものを見る目付きになったので、流石の加持もたまりかねて釈明する。『まあ、当たらずしと言えども遠からず、って所だけどな…』とは思っていてもやはり言わない。加持の言葉に少し安心したらしいレイではあったが、それでもやっぱりおもいっきり不審げなジト眼を加持に向けているのは変わらない。紅いお眼々が雄弁に、『やっぱり加持さんてあやしいひとだったんだ。』と言っている…
「君のお母さんの作った組織なんだよ。」
説得ついでに矛先をかえようとレイの母、綾波ユイについて持ち出してみる。
「みんなのためになる、とっても大事なおしごとなんだって、先生がいってた…」
レイは急に無表情になり、遠くを見るような眼差しでつぶやき、そして、うつむいた。
「レイちゃん…」
微かに震えているらしいレイのか細い肩に、自分でも気づかぬ内に庇護欲を掻き立てられ…意識しないままその肩に手をのばしてしまう…
「…わぁ!」
「っ!ごっ、ごめん!別に他意はないんだ、いやほんと…え?」
自らの行動に気づいて我に帰り、この上変質者のレッテルまで貼られてはたまらんと弁解モードに突入した加持だったが…さっきまでの悲しみに震える少女はどこへやら、レイはもうお眼々キラキラで両の掌の指を胸の前で組み、前方を夢見る乙女の表情で見詰めている…その視線の先を眼で追って見ると…いつの間にか巨大な坑道の壁は消え、眼下遥かに広大な森と湖が広がり、普通ならば空のあるべき所を半球状の天蓋が覆い…そこから水晶で出来たシャンデリアを想わせる高層建築群が、ぶら下って、いる…そこから赤みがかった柔らかな光がひろがり、幾つもの金色の光が糸様のものをつたって天と地を結んでいる。リニアトレインの空中高架だ。
「きれい…」
あまりの切り替えの早さにあっけにとられていた加持だったが、苦笑を浮かべてレイを改めて観察する。肩まではない、が、決して短すぎはしない、淡い水色の、髪。柔らかな髪質なのだろう、きらきらと採光を照り返し淡い金色の光がその髪の間に遊んで見える。頬にかかったシャギーも愛らしい…どこか猫を想わせるやや吊り眼ぎみの、切れ長の紅い、そう、柘榴色の瞳。細く尖ったあご、母親譲りのあまりに整った顔立ち。ぬけるように白く、それでいて冷たさを微塵も感じさせない、淡雪のような肌。か細く、あまりに華奢なその肢体…驚くほどあの母親に似ていながら、まるで、違う。特にその顔立ちなど、髪と眼の色が違わなければ、綾波ユイの少女時代そのままなのではないだろうか…レイの資料を渡された時、気にかかっていた彼女の特異な髪と瞳の色。資料を用意した当の人物によれば、彼女が生まれる前に母が自ら被験者となって繰り返したある実験の結果生じた遺伝子異常であるらしいが…ユイはレイを出産するほんの数ヶ月前まで、周囲の止めるのも聞かずに実験を繰り返したと言う。皮肉にも、その母の非情な仕打ちが彼女にあの母さえ超える美貌を与えたのぁ
+$b$7$l$J$$!#$K$b$+$+$o$i$:!"0c$&!DL5 「ジオフロントだよ。箱根の地下、第三新東京市の真下を掘り抜いた、いや、こここそが第三新東京市本体と言うべきかな…ほら、あそこに見えるのがNERV本部。世界再建の要、なんて呼ぶ奴もいるがね。」 『その倍位の奴が、人類に巣食う寄生虫の巣だ、なんて言ってるがな…』 やがてまた、周囲は壁に閉ざされて行く… 「加持さぁん…」 「なにかな?レイちゃん。」 数十分後、加持とレイは彼等にとって巨大な迷路と化したNERV本部内をさ迷っていた。レイは一層不審げな眼差しを加持に向けている。そろそろくたびれても来たらしい。 「ここ、さっきとおった…」 「ははは…ごめん、しかし、まいったな、これは…しかたない、この手だけは使いたくなかったんだが…」 「業務連絡、技術一科の冬月主任、技術一科の冬月主任、作戦部、加持部長より呼び出しが入っております。至急御連絡ください。繰り返し…」 突然の呼び出しに、技術一科主任、冬月コウゾウはいまいましげに顔をあげた。彼の現在位置から呼び出しに応じる事自体、かなりの労力を要する作業だったからだ。ただでさえ作業は遅滞し、しかも急を要するのだ。とりあえず、手にした工具をベルトにつけたポウチに収め、リぺリングシートに付いたカラビナとエイト環の固定を解く。現在位置、ケイジ床からの高度35メートル。天井から下げたザイルに身体を固定しながらの調整作業である。眼の前の巨大な青い壁を蹴るなり降下を始める。 「あの馬鹿、何回道に迷えば気が済むんだ?」 「ずいぶんとごゆっくりだな、作戦部長様。連絡も入ってなかったそうだが?」 「ふっ、冬月先輩…悪い!無線がビートルごとオシャカになっちまって、それで…」 加持の眼前でいきなり開いたドアから、オレンジ色の作業用のつなぎを着て安全靴を履いたまま、その上から白衣を羽織ると言う格好で現れた冬月を見て、とりあえず、平謝りにあやまっておく。冬月はふとレイの方へ眼をやると、はっ、と表情を変える。 「加持っ!貴様まさか、このお嬢ちゃんと御休憩…」 「せっ、先輩!俺はロリコンじゃないっ!!知ってるだろ!ほら、レイちゃんが引いてるじゃないか!」 みれば、すでにレイはジト眼で加持と冬月を見比べている。『ここの大人って、みんな、へん。』警戒の色もあらわである。『こんな、へんしつしゃのやかた、で女の子ひとり。あたし、いったいどうなっちゃうんだろう?』…実際、大変な事になるのである。 「で、この子なのか?」 「だから、御休憩も、御一泊もしてないと…」 「そうじゃない!ファーストチルドレンなのかと聞いとるんだっ!」 とりあえず閑話休題して本題に入ろうと、二人とも急に真面目な顔つきに戻る。 「ああ。現在の所世界でたった四人しか確認されていない、マルドゥクの報告書による適格者、その中で最も早く確認、登録された少女、てわけだ。もっとも本人は今の今まで知らなかっただろうがね。」 「家族の同意とか、本人の精神状態とか、色々と複雑だからな。保護者さえ知っていれば、子供にいらんプレッシャーをかける必要もあるまい?その時が来るまでは、な。早期から訓練を開始した、サードの場合がむしろ特異なんだよ…」 「ま、どのみちマルドゥク機関の報告に頼るしかないのさ、俺達は。この子達にも、ね…」 「情けない話だがな…」 と、二人してレイの方を振り向く。話の内容なぞ全く理解していないレイだったが、どうやら自分に関わりのある事らしい、と、紅い瞳一杯に不安の色を浮かべている。それでも加持と冬月が少し心配そうに自分を見ていることに気づくと、無理してにっこりと微笑んだ。 「あのお袋さんとは、大違いだろ?」 「そうか?俺はそっくりだと思うぞ。」 論点がずれているようだ… 「じゃあ、後、お願いするわ。」 ナオコに現場の指揮を一任すると、ユイは足下のエレベーターに乗って床下へ降りていった。 「三年ぶりの母娘の対面と言うわけね…」 誰に言うともなく、ふと呟く。 「知らない世界ね、私には…」 やや自嘲的な響きが混じる。 「知らない方が、幸せか…状況は?」 「迎撃システム稼働率、7.5パーセント、残段数、再装填を含め3.2パーセントです。」 「準備完了したシステムから立ち上げて。残りの装填作業は同時進行。対空兵装も射撃可能なものは直射火力に転用を。」 「了解、システム、起動します。」 「目標接近、第三次防衛ラインまで、あと、600。総員、第一種戦闘配置。繰り返し…」 顔を見合わせる加持と冬月。 「こりゃ、やばい。」 「こっちだ。一気にケージへ抜けられる。」 冬月の後をついて、ダクトの這い回っている狭い通路を抜けると、オレンジ色の液体が流れる運河にでる。ドラム缶を繋いだポンツーンにはホバークラフトが一艘繋留されている。 「出るぞ、もやいを解いてくれ。」 レイが乗り込んだのを確認し、冬月は加持に促す。クリートに括られていたもやい綱を解き、加持も素早く船体に飛び乗った。スターターを入れると同時にファンが回転を始め、スカートの下のL.C.Lが飛沫となって舞い上がる。 「で、状況は?」 「零号機の凍結が解除された。初号機の艤装は、まだ5パーセントも済んでいないからな…」 「起動、するのか?この間の実験の二の舞じゃ、洒落にならんぜ。」 「現段階での起動確立は0.000000001パーセント、オーナインシステムとは、よく言ったものだ。」 「おいおい、それじゃ…」 「動かんと決めつけたものでもないさ、少なくとも、ゼロではないからな。」 「後は、神のみぞ知る、か…」 「神が我々の敵でなければよいが、な。」 やがて、彼等を乗せた船の前に、広い水面がひろがる。 「ひっ…こっ、これ、ろぼっと?」 突如目の前に現れた巨大な、赤く濁った一つ目の巨人。首から上のみが水面に突き出している。頭部を覆う装甲板は青と低視認色のツートーンで塗装され、その頭頂には巨大なレンズ様の部品、電磁波センサが取り付けられている。 「人の創り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン、我々人類の切り札だよ。これはその零号機、最も最初に完成した機体だ。本来なら試作機であり、実戦に投入されるはずではなかったんだが…」 おびえるレイを安心させようと冬月は説明する。要するに、『こわいものではない』と言いたかったのだが、レイにはあまり適切な説明とは言えなかった。いや、実際これほど恐ろしいものは他に存在しないのだが…しかし、レイは急に静かになると、聞き取れるのがやっとな、小さな声で尋ねた。 「これ…これもママがつくったの?」 「しばらくね、レイ。」 瞬間、天井のスピーカーから響いたらしい声に、レイは反応する。見上げれば、巨人の頭の向こう、ガラス張りの部屋、管制室が見える。そこに、その人影は…いた。 「ママ!」 張り裂けんばかりに見開いた紅い瞳には喜び、期待、恐怖、悲しみ、あらゆる想いが溢れかえり、しかし、やがて失望と悲しみの色のみに覆われて行く…うつむいて、小さく、つぶやく。 「どうして…あたしを…よんだの?」 「出撃、いいわね。」 その、余りに非情な声の意味を彼女は理解することができなかった…
あとがきスペシャルバージョン・
特報編
少年は、ただその水槽の前に立ち、淡い照明に照らさし出された魚達を見つめていた。
「スケルトンテトラ、新世紀の新種、か…」
白い、透明な淡水魚達を見つめる少年の頬を一本の、かすかに光る筋がつたっていた…
知らなければよかった、と思う。
「ただの、片思いなら、よかったんだ、それで。でも…」
君は手の届かないところにいたんだ、はじめから…
愛しくて、もどかしくて、それ以上に悔しくて。
水槽のガラスの壁の向こうの、白い、透明な魚達。見つめるだけで、決して触れることは出来ない。
その壁の向こう、水に満たされた世界に、僕は入って行く事が出来ない…
「人間に、ひとに生まれて来なければよかった…」
少年は動かない。ただその頬を濡らしているだけ…
「魚に、なってみないか。」
顔見知りの職員達の眼を避けて、足早に通り過ぎようとした、海水魚の水槽の前
声が、聞こえたような気がした。
ふと、その水槽が目に留まる。珍しくもない、小型の回遊魚。
どうかしてる。魚が、話し掛けるわけないじゃないか…
本当に、どうかしてる…
「Scomber japonicus。スズキ目サバ科。多年生の回遊魚。主に沖縄以北に分布。」
薄暗がりの中、人の気配、語尾にかすかな関西訛り。
「…出来るんですか、本当に…」
「さあ。それは、君次第…後戻りは、二度と出来ないが、ね…」
ひとときの、ほんの一瞬の沈黙、そして、紡がれる言葉。
「…かまいません。それで、彼女に触れることができるのなら…」
彼が去った後、闇の中、人気の絶えた水族館。
「これで、よかったのかね?」
「…わかりません。ただ、賽はなげられた。違いますか、師匠?」
「…お手並み、見せてもらおうか。」
「御心のままに。」
かすかに照らし出す常夜灯。台本を握る男の手、その表紙
原作 フラン研
脚本・監督 砂漠谷 麗馬
「六分儀シノブです」
「限界はあるさ。生物学的にはね。」「俺じゃ、だめなのか?」「死んだって聞いたわよ」
「…ずるいひと…」「僕が、本物の女じゃないからっ!!」
贋作・海辺の生活
「a little marmeid」
「このまま、海の泡になって、消えてしまえればいいのに…」
近日公開
アスカ(以下、ア)あんた、本気!?
砂漠谷(以下、鯖)問題ない。すべてシナリオどうりだ、ってね。師匠のゴーサインもいただいたことやし。いや、本当は、このリヴァース2話のあとがきスペシャルとしてやるつもりやったんやけど…
ア 間に合わないから予告編でお茶を濁そうってのね。ま、あんたらしいわね。
鯖 と言うか、なんかどんどん暴走を始めて、とんでもないものになりつつあるんよな。で、どうせなら前、後編位に分けて単独公開しようと。しかも、かなりやばい話になっとるし、公開させてもらえるかどうか不安になってな。R指定くらいならまだしも、X指定まで走ってしまう恐れが…
ア 人のふんどしで相撲をとっといて、その上それぇ!?ほんっと、しんじらんない奴ね、あんたって。
鯖 いや、これも一重にフラン研師匠のご厚意あればこそ、よ。まあ、オリジナルの格調を目指すってわけにはいかんけどね。レベル違いすぎるし…まあ、やれる範囲で出来るとこまでやろうと。
ア …大体なんでこんな無謀な事考えたのよ。
鯖 そー言うてもなぁ…ほら、あれ。
シンジ(以下、シ)うっ…えぐっ…やっぱり僕は、いらない人間なんだ(涙)…
レイ …洞木さん…(
ぽっ…)シ ううっ…
綾波ぃぃ〜っ!!(号泣)ア …なんか、ものすごい事になってるわね。それにあんたも、いろいろトラウマあるって言う話だしねー。
鯖 (大きなお世話じゃ!!)いや、もっとすごい事になるのは、これからなんやけど…
ア で、リヴァースの方はどうなるのよ。
鯖 それはもう大丈夫。この2話も、「あとがきスペシャル」の方で遅れただけやし、事後はコンスタントに更新するから。と、いうわけでリヴァースACT−3、「The boy like a coldsteall」ご期待ください!「贋作・海辺」も制作快調でございます。では、来週も素で素…
ア (金属バットで鯖をしばきつつ)いいかげんにしなさいよっっ!!
レイ …病棟へ。
砂漠谷 麗馬さんの『エヴァンゲリオン・リヴァース』ACT−2、公開です。
そろそろ出てきましたね、
オリジナル設定(^^)
冬月先生が軽い・・・。
あのおじさんが冗談をかますなんて事は・・・
あったかな?(^^;
「ぬるいな」
のセリフは本人ギャグのつもりはなかった・・・よね?
よく分からなくなって来ちゃった(^^;;;
さあ、訪問者の皆さん。
レイちゃんの描写に力が入った砂漠谷 麗馬さんに感想メールを送りましょう!