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まったくもう!バカシンジの奴!
あたしは怒っていた。
あたしの不機嫌な理由。
それはあのバカシンジのせい。
あたしの筆頭下僕、という名誉ある地位につかせてやった恩も忘れて、
昨日あいつが、何を言ったと思う!?

『うるさいな。』
『子供みたいなわがまま言うのはやめろよな。』

バカシンジの奴!
この、あたしの、お誘いを、うるさい、ですって!?
わがまま、ですって!?
いつからそんなに偉くなったのよ!
そういう訳で、あたしとシンジは今喧嘩中。
あいつが謝ってくるまで、絶対に許してやらないんだから!
泣いて、土下座して、もうけっして惣流様に逆らいません、って言うまで、
絶対仲直りしてやらないんだから!
・・・今日は土曜日で、学校は休み。
だからバカシンジと顔を合わせる必要はないの。
あー、気分いい。



ふん。ほらシンジ。早くあたしにお詫びの電話をかけて来なさい。
今謝れば、レベルAの調教で済ませてやるわよ。



きっと、もうすぐ玄関のチャイムが鳴るわ。
で、そこには買い物袋を提げたバカシンジが立ってんのよ。
あいつはこう言うに決まってる。
『そ、惣流様。昨日は大変な失礼を。この通りお詫び致します!
 心を込めた料理を御馳走させて頂きますので、どうかお許し下さい!』
・・・・・ってね。
ほら、早く来なさいって。
料理がハンバーグだったら、レベルBの調教で済ませてやるわ。



きっと、あたしのお叱りが怖くて、勇気が出ないんだわ。
あいつ臆病だしね。



ひょっとして、あまりに大それた事をしでかした罪悪感から、
自殺しようとしてるとか・・・・・・・・!
・・・・って、んな訳ないじゃないのよ。



あー!もう!お腹空いた!
こうなったらバカシンジの所へ押しかけてやるわ!
お昼を作らせるついでに、あたしに謝罪するチャンスを与えてやるの。
ああ、なんてあたしって優しいのかしら!
よーし。待ってなさいよ、バカシンジ!









何とも思っちゃ、いないんだから!


あたしが、惣流・アスカ・ラングレーよ! え?知らない? 信じらんない! この第三新東京市で、このあたしの名前を知らないなんて、 あんた頭どうかしてんじゃない? ・・・・まあ、いいわ。 なら、自己紹介してあげる。 あたしの名前は、惣流・アスカ・ラングレー。 第三新東京市第壱中学校の二年生よ。 容姿端麗、成績優秀。才色兼備とは、まさにあたしの様な人間の 事を言うのね。 一部ではあたしの事を高飛車だとか、生意気だとか言う向きもある様だけど、 そんなのは只のひがみね。 あたしは天才として、当然の振る舞いをしているだけ。 分かる? ・・・・・あ。 いつのまにか目的地に到着していたわ。 え?どこかって? あんた話聞いてなかったの!? バカシンジの家に決まってるでしょ! シンジは生意気にも、あたしのとことおんなじ位のレベルの高級マンションに 一人暮らししてるわ。 なんで子供のくせに一人暮らしなんてしてんの、って聞いたら、あいつ 寂しそうに、父親に捨てられた、って言ってたわ。 で、それっきり、なんにも言わない。 あたしも、何も聞かなかったわ。 あいつも一応色々と苦労してんのね・・・・・・って、 何しんみりしてんのよ! よし、行くわよ、アスカ! ・・・・・・・。 な、何呼び鈴押すだけで緊張してんのよ! 緊張するのはバカシンジの方! あたしは悠然と構えてればいいの! ぴんぽーん。 ・・・・・・・・・。 反応、なし。 もう一度。 ぴんぽーん。 やっぱり、反応なし。 な・ん・で、このあたしがわざわざ来てやったって言うのに、留守なのよ! あーっ!イライラする! 無駄足だったじゃない! ・・・・・・・・・あ、そうだわ。 バカシンジの隣の部屋には、葛城ミサトっていう女がいるの。 ミサトの部屋に遊びに行こっと。 ぴんぽーん。 ・・・・・・・・。 なんでミサトまで出掛けてるのよ! ・・・・・もう!こうなったら、最後の手段よ! ぱしゅうん。 え?何の音かって? シンジの部屋の玄関のドアを開けた音よ。 え?電子ロックが掛かってる筈なのに、どうやって開けたのかって? それは秘密よ。 ばれたら後ろに手が廻っちゃうもの。 「ふん。勝手にあがるわよバカシンジ。」 あたしは礼儀正しい人間だから、一応そう断る。 下僕の部屋はあたしの部屋でもあるんだから、そんな必要ないんだけどね。 ・・・ふん。相変わらず小奇麗な部屋ね。 シンジは男のくせになよっちい奴で、スポーツも勉強も出来ない。 でも神様はどんな情けない奴にも一つぐらいは取り柄を与えるみたいで、 シンジの場合は家事がそれ。 掃除、洗濯、炊事、どれをとっても手際良い。 特に料理はシンジの得意中の得意。 シンジのはんばーぐなんて、そりゃもう絶品なんだから。 あ、そんな事考えてたら余計お腹が空くじゃないのよ。 ま、ともかくあたしと、それから先刻ちらっと名前を出したミサトは、 そんな便利なアイテムのシンジを、毎日毎日こき使ってるわけ。 え?シンジが可哀相? べっつにいいのよお。 言ったでしょ?あいつはあたしの下僕なの。 あたしに使われる事にこそ喜びを感じるんだから。 あーっ!早く帰って来なさいシンジ! 暇で暇でしょうがないでしょ! うーん。冷蔵庫を漁ってみたけど、こういう時に限って全然材料がないし。 あ、クッキーがあった。 とりあえずこれでも食べてお腹を誤魔化しておこうっと。 ・・・・暇だわ。 テレビはろくなのやってないし・・・・。 シンジもゲーム機の一つぐらい持ってなさいよ。まったく。 あ、何これ? 小説? ぺらぺら・・・・・。 ふんふん・・・・・。 何よこれ!全然面白くないじゃない! もー。 こうなったら、やる事は一つね。 ふっふっふ。 シンジの寝室を覗いてやろうっと。 下僕にプライバシーなんて無いのが当然だけど、心優しいあたしは 家捜し紛いの真似は今迄しなかったの。 でも、今日こそ全部見てやるわ。 シンジの人に言えない恥ずかしい部分を全部見てやるんだから。 がちゃり。 ここが、シンジの寝室。 ベッドがあって、クローゼットがあって、勉強机があって。 はっきり行って、殺風景。 ポスターか何かでも貼っときゃいいのに。 そう言えばあいつファッションセンスも無いし、ひょっとして美的感覚が 決定的に欠けてんじゃないかしら。 えーっと・・・・・とりあえず最初は、っと・・・・・。 やっぱり、ベッドの下ね。 男の子は皆そこにいやらしい本を隠してるって言うしね。 友達が言ってたわ。 やーね男って。 すけべで、ばかで。 ん・・・・・っと・・・・・・。 ・・・・あ、なんか、あった。 んしょ・・・・・っと。 ・・・・えー!何よこれ! 女子高生通信!? シンジの奴よりにもよって随分変態的なの持ってるわね。 ひょっとして制服マニアとか? ぺら。 きゃー! ぺら。 やだー! ぺら。 わー! ・・・・・・ふー。 なかなか最近の女子高生は過激ね。 シンジの奴、これ一冊しか持ってないのかしら。 それとも他の場所にもっと隠してんのかな。 まあいいわ。 次は机の中よ。 どんな恥ずかしいアイテムが見つかるか楽しみね。 ごそごそ。 ・・・・・・・・・・。 えっと・・・色鉛筆に・・・・・・。 絵の具セットに・・・・・・。 参考書に・・・・・。 勉強のノートに・・・・・。 何よ!なんにも無いじゃない! どんな面白いものがあるかと思ってたのにい・・・・・。 ・・・・・あら?何これ? ・・・・・写真? ・・・・・・・・・・。 えー!何よ! 何でシンジ、あたしの写真なんて持ってんのよ! しかもこれ隠し撮りじゃない! ・・・・・あ、そうか。 相田の奴から買ったのね。 ・・・・で、でも・・・・。 なんで、シンジの奴・・・・・。 あ、あたしの、写真なんか、大事そうに机の引き出しの中に・・・・・。 ・・・・そ、そりゃ、下僕として、ご主人様の御真影を所有するのは ある意味当然なんだけど・・・・・。 でも・・・・・。 ・・・ま、まさかバカシンジ、あたしの事・・・・・! だ、駄目よ駄目! バカシンジ!あんたとあたしとじゃ、 全然! 全く! 釣り合わないわ! あーもうシンジ! 身分違いの恋は実らないものなのよ! よーし。シンジが帰ってきたら、はっきり言ってやろう。 はっきりと引導を渡してやるわ。 それがシンジのためなの。 ああっ、やっぱりあたしって優しいわね。 ・・・・だ、だけど・・・・・。 身分違いの恋が実る・・・・って言う話も、時にはあるものよね・・・・。 シ、シンジとあたしが・・・・・・・。 ・・・・・・・・。 『ア、アスカ様!聞いて欲しい事があります!』 『な、なによバカシンジ。』 『ぼ、僕は、ずっと、ずっと、以前から、アスカ様の事をお慕いしていました!』 『えっ・・・・・・・。』 『ア、アスカ様。いや、アスカ。 ほ、本気なんだ。本気で僕は、アスカの事を・・・・・。』 『ちょ、ちょっと、何言ってんの。やめなさい。あっ・・・・・。』 『ア・・・アスカ・・・・・・・。』 『や・・・・やだ・・・・シンジい・・・・・。』 『アスカ・・・・好きだよ・・・・・・・。 どうしようも無いぐらいに・・・・・好きで・・・・好きで・・・・・・。』 『・・・・・・・・ほ・・・・・・ほんとに?』 『ほ、ほんとだよ!こんな事で嘘なんて吐けないよ! アスカは、僕が初めて好きになった人なんだ! そ、そして・・・これからも、ずっとアスカだけなんだ!』 『シ・・・シンジ・・・・・。』 『・・・・ご・・・・ごめん・・・・僕・・・・・。 アスカ、僕なんかにこんな事言われても、迷惑なだけだよね・・・・。 僕は、何の取り柄もないし、性格も暗いし・・・・。』 『あ、あの・・・・・。』 『で、でも、好きなんだ! アスカを、誰にも渡したくない! アスカを、僕だけのものにしたい! アスカあ!』 『そ、その・・・・・・・・・・・・・・・・・・好き・・・・・・・・・・。』 『・・・・・・・・え?』 『・・・・す・・・・・・好き・・・・・・・。』 「・・・・・ア、アスカ?』 『・・・・あたしも・・・・・好き・・・・・・・。 シンジが・・・・・好き・・・・・・・・・。』 『ほ・・・・ほんと!?』 『・・・う・・・・うん・・・・・・。 あたしも、ほんとはずっと好きだったの・・・・・。 でも、あたし素直じゃないから・・・・・。 勇気が出なかったから・・・・・・・・。 う、うれしいよお。シンジい・・・・・・・。』 『アスカあ!』 『シ、シンジい・・・・・・・・・・・・。』 ・・・・・・・・・。 ・・・・はっ! な、何考えてんのよ、あたしは! バカシンジとあたしがあ!? そんな事、天地が引っ繰り返っても有り得ない事よ! あたしは、あんな奴の事なんか、別にどうでもいいんだから。 ・・・・な、なのに・・・・・・。 どうして、こんなにどきどきするのよお・・・・。 ・・・・・・そ、そうねえ・・・・・。 き、きっと、シンジも、これが身分違いの恋だって、ちゃあんと 分かってるのよ。 それに気付いたから、イライラして昨日はあたしにあんな事 言っちゃったのね。 か、可愛いとこあるじゃない。 ゆ、許して、あげようかな。昨日の事。 土下座はともかく、一言ごめんって言ってくれたら、そのまま黙って 仲直りしてあげよっかな。 うん。 そうよね。 ・・・・そろそろ、シンジ帰って来るかなあ。 ・・・・・・・・。 ・・・・早く・・・・帰ってよお・・・・・・。 ・・・・・あ、あの、い、言っとくけど、お腹が空いたからシンジの帰りが 待ち遠しいのよ!ただ、それだけ!ほんとよ! あたしは、シンジの事なんか、何とも思っちゃ、いないんだから!

 


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ver.-1.00 1997-11/05公開
ご意見・感想・誤字情報などは kawai@mtf.biglobe.ne.jp まで。

後書きの様なもの

皆さん、はじめまして。
『僕のために、泣いてくれますか』の河井継一と申します。
入居させて頂いてから二ヶ月以上もたってから”はじめまして”も何も
ないかもしれませんが、連載の方では後書きを書いた事が無かったために、
ご挨拶が遅れました。
力の足りない所も多いかと思いますが、よろしくお願い致します。

さて、今回の読み切りに関してですが、分かる方には分かるかと思いますが
『僕のために・・・・』のサイドストーリー的な位置づけになっています。
ちょっと・・・・と言うか、かなり恥ずかしい話になってしまいましたが、
さらりと読み流して下さい。
一応、『僕のために・・・・』を御存知ない方でも楽しめる筈です。
好評でしたらシリーズ化するかも知れませんし、不評でしたら
連載一本に集中するつもりです。
感想メールなど、お待ちしていますね。


 河井さんの『何とも思っちゃ、いないんだから!』、公開です。

 

 
 うわわわ−−

 ア、アスカちゃん、ダメだよ〜
 家捜し何かしたら(^^;

 うわ−

 見付けてしまったのね・・
 シンジくんの秘密の本・・・

 おおお−

 見付けたんだね、
 シンジくんの秘密の気持ち。

 

 
 暴走妄想

 素直なアスカちゃんの気持ち
 素直でないアスカちゃんのいいわけ
 

 くーーいいなあぁ
 彼女の可愛さ爆発ですね(^^)/

 

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 ゴロゴロ転がったあとは河井さんにメールを送りましょう!!


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