あたしと、シンジは、キスをした。 二日前の、夜。 雨が降っていた、あの日。 あたしから、したの。 ・・・・シンジのくちびる・・・・・・ 温かかった・・・・・・・・・・。 かあああああああーっ。 な・・・・・なんでなのよお・・・・・・・。 なんであの時、あたしシンジにキスなんてしたのよお・・・・・。 ぼふっ。 ベッドの上で、クッションを抱き締める。 シンジの、ばかあ・・・・・・・。 あたしを、こんな気持ちにさせて・・・・・・・。 ・・・・・・・・ばかあ・・・・・・・・・・・。
続・何とも思っちゃ、いないんだから!
あたしの名前は、惣流・アスカ・ラングレー。 これだけ言えば十分よね。 世界最高の美少女様よ。 そして、この世の全ての富を掻き集めたよりも遥かに価値のある、 このあたしのファ、ファ、ファーストキスが・・・・・・・。 よりにもよって碇シンジ! 軟弱で、 鈍感で、 男らしさの欠片もない、 あのバカシンジに奪われちゃったのよ! え?自分からしたんだから”奪われた”って言うのは筋違いだって? うううううううううううるさい! あーもう! なあんであたしの思い出のファーストキスが、あんな奴のものなのよ! ・・・・・まあ、そうなってしまった以上、もうどうしようもないんだけど。 でも、百万歩譲って、シンジとのキスを認めるとしても、どう考えても それがあたしからっていうのが納得いかないわ! シンジとあたしがキ、キキ、キスするにしても、あたしからじゃなくて あくまでシンジから、それも土下座してお願いして、それをあたしが 許可する、っていう形になるのが当然でしょう!? 例えば、こんな感じに・・・・・・。 ・・・・・・・・・・。 「ア、アスカ。どうだった?今日の夕飯。」 「んー。まあまあね。 ま、ハンバーグだったから、とりあえずお褒めの言葉をやってもいいわ。」 「う、うん。ありがとう、アスカ。」 「?なに、ぼーっと突っ立ってんの? とっとと後片付けしちゃったら?」 「い、いや、そ、その、あの・・・・・。」 「なによ。男だったらもっとはきはきしなさいよ。」 「え・・・・・・っとその・・・・・お、美味しいって、思ってもらえたのなら、 その・・・・・。」 「だ・か・ら・なんなのよ?」 「ご、ご褒美なんて、もらえないかな・・・・って・・・・・?」 「はあ?ご褒美?さっきお褒めの言葉をやったでしょ?」 「う、うん。も、もちろんそれだけで十分嬉しいんだけど・・・・・。 でも、その・・・・・。」 「あーもう。結局、もっと何か欲しいわけね。何が欲しいの?」 「それは・・・・・・もごもご・・・・・・。」 「あん?聞こえないわよ?」 「キ、キスとか・・・・・・・・。」 かあああああーっ。 「な、なんであたしが、あんたとキスなんてしなきゃなんないのよ?」 「だ、だから、ご褒美に・・・・・。」 「・・・ふうん?あたしのキスは、ハンバーグ一個分の価値しかないって、 そう言いたいわけ?」 「え?ち、違うよ!」 「そう聞こえるわよ!」 「・・・・ごめん。誤解させちゃったなら、謝るよ。 でも、僕の気持ちだって、分かって欲しいんだ。」 「・・・・あんたの、気持ち?」 「うん。・・・僕が、アスカの事どう想ってるかぐらい、アスカだって 分かってるだろ?」 「そ、そりゃ・・・・・。 あんたがあたしの事好きな事ぐらい、とっくにお見通しよ。」 「なのに・・・。アスカは全然僕の気持ちに応えてくれない・・・・・。 こんなに尽くしてるのに・・・・アスカは・・・・・。」 「しょ、しょうがないでしょ。 あんただって自分があたしに相応しいとは思わないでしょ?」 「わ、分かってるよそんな事。 だ、だからせめて・・・・キスだけでも・・・・・。」 「・・・・・・・・・分かったわよ。」 「・・・・え?」 「分かったって、言ってるの。許可してやるからさっさとやんなさい。」 「い・・・・・いいの!?」 「そうよ。ほら早く。」 「う・・・・・うん・・・・・・・。」 「・・・どうしたのよ?」 「その・・・・する前に、一つ質問して・・・・いいかな?」 「なによ?」 「ア、アスカって、・・・・・キス・・・した事・・・・あるの?」 「そりゃ、あるわよ。当然じゃない。」 「え・・・・・・。い、いつ?」 「いつって言われてもねえ。 ドイツにいた頃からあたしはモテモテだったから。 本気で付き合った男は一人もいなかったけど、キスまでなら 何回もしてるわよ。」 「・・・・・・・・。」 「それがどうかしたの?シンジ?」 「・・・・・・いやだ・・・・・・・・。」 「え?」 「いやだよ・・・・。アスカが、他の男と、キスするなんて・・・・・・。」 「他の男って、あんたねえ・・・・・。」 「いやだ!やっぱり、いやだよ! アスカは、僕のものだ!僕だけのものなんだ! アスカと、キス出来るのは、僕だけなんだ!」 「ちょ、ちょっとシンジ・・・・・・。」 「ア・・・・・アスカあ・・・・・。」 「・・・・嘘よ。」 「?」 「今言ったのは、みんな嘘よ。キスした事なんて、ないわ。」 「え、え、え?」 「いつか・・・・大事な人が出来た時のために・・・・・・ずっと大切に 取っておいたの・・・・。」 「・・・・・・そ・・・そうなんだ・・・・・。 そ、そうだよね。アスカは、そんな軽い女の子じゃないよね。」 「・・・そうよ。納得したなら、早くやりなさい。」 「?」 「ほ、ほら・・・・・キス、するんでしょ・・・・・。」 「え・・・・だ、だって、大切に取っておいたんでしょ・・・・。 ファーストキス・・・・・。」 「・・・・・そうよ・・・・・。大事な人のために・・・・・。」 「!ア、アスカ!?」 「やっと分かったの・・・?どんかん・・・・・・。」 「だ、だって・・・・そんな・・・・・。」 「うれしかったよ・・・・。シンジがあたしに嫉妬してくれたの・・・・。 ヤキモチ、焼いてくれたの・・・・・・。 あたしの事、好き・・・・・?」 「あ、あああ当たり前だよ!大好きだよアスカ!」 「・・・・・大事に、してくれる・・・・・?」 「大事にするよ!アスカは、僕の一番大事な人だよ! 僕の宝物だ!」 「うん・・・・・。あたしは・・・・シンジのものだよ・・・・。 シンジだけのものだよ・・・・。」 「アスカ・・・。」 「ん・・・・・・・・。」 ・・・・・・・・・・。 ・・・・・はっ! なんでいつのまにか相思相愛の設定になってんのよ! あくまであたしはシンジを憐れんでキスをしてやる、っていう形じゃなきゃ 駄目なのよ! あーもういらいらする! ・・・・・・。 ・・・・・でも・・・・・。 ・・・・なんだろう・・・・・・。 いらいら・・・・するけど・・・・・。 ちょっと・・・・・違う感じ・・・・・。 ・・・ううん。 ほんとは・・・・いらついてなんか・・・・いない・・・・。 いらいらしてるって・・・・・思い込んでるだけ・・・・・。 いらいらしなきゃ、って考えてるだけ・・・・。 ほんとは・・・・・・・。 ・・・・・・。 ・・・・も、もういいわ。 独白、やめ。 そんなわけないじゃない。 あたしが・・・・シンジの事を・・・・・なんて・・・・・。 ・・・・・そうよ。 あたしは・・・・・。 シンジの事なんか・・・・・・。 なんとも思っちゃ・・・・・いないんだから・・・・・・。
後書き
皆さん、こんにちは。河井継一です。
どんどんどんどん暗く沈んで行く『僕のために、泣いてくれますか』の
息抜きのつもりで、LASな短編の続編をお届けします。
相変わらず恥ずかしい話ではありますが。
さて、ほんの少しだけ私的な(?)事を書かせて頂きます。
『ログアウト冒険文庫』の中に『砂の王』というマイナーな小説が存在します。
ゲームボーイ版『ウィザードリィ・外伝U』を元にして作られた、
いわゆるゲーム小説、という類の物です。
作者の名前はど忘れしてしまいました。
時代の流れに逆行するかの様に重厚な文体であり、とっつきにくくは
ありますが、間違いなくファンタジー小説としては超一級品でして、
渋いファンタジーがお好みの方に是非お勧めします。
以上、私信を終わります。
河井さんの『続・何とも思っちゃ、いないんだから!』、公開です。
「何とも思っていない」
語調が弱くなってきたアスカちゃん(^^)
心はすでに決まっていたのに、
それを認めることが出来ないプライド・・
ボウーと考えていると、
そっちに行ってしまうんですから。
妄想の世界では、
そっちに行き着くんですから。
あと一歩素直になれるのはいつのことでしょうね。
シンジも動かないのかな(^^)
さあ、訪問者の皆さん。
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