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「ぐーてん・もるげーん!」
突然、イヤホンを通して大きな声が耳に入ってきた。
そっと声の発信源の方を向くと、一人の赤毛の少女が教室に入ってきたところだった。
途端に彼女はクラスの女子、男子を問わず皆に囲まれる。
「・・・・・・・・・・・。」
僕は何気なくS−DATのボリュームを下げる。
「おはよう、アスカ。」
「おっはよっ、ヒカリ。今日もあっついわよねー。」
「ね、ね、アスカ、昨日のドラマ観た?」
「あったりまえじゃなーい!あれ観ないで何観るっていうのよォ。
ま、今回はちょっと展開、わざとらしかったけどねえ。」
「あ、やっぱりアスカもそう思った?特にさ、ゴローが浮気に走るシーンとかさ、」
「そうそう、あれはちょっと無いわよねー。」
彼女達の会話は全く終わる気配も無く続いていく。
そして常に話の中心に居るのが赤毛の少女、惣流さんだった。
惣流・アスカ・ラングレー。
彼女が転校してきてから、数週間がたつ。
名前から判る通り、彼女は日・独のクオーターで、
つい最近まで海外で生活していたらしい。
そこですでに大学まで卒業してしまっているという話もあり、
彼女は抜群に成績優秀だった。
のみならず、スポーツ万能で、性格も社交的、その魅力的な容姿ともあいまって、
彼女はいっぺんにクラスのヒロインの座を手にしていた。
そしてやがて、彼女が”魔法使い”であるという事実が明らかになるに至って、その地位は不動のものとなった。
・・・・・・僕と惣流さん。対照的といえばこれほど対照的なものもないだろう・・・・・・  


僕のために、泣いてくれますか

第二話


 

 

「では、今日はこれで終わります。最近この辺りも物騒ですから、気をつけて帰るように。」
担任が言い終わると同時に、教室は喧騒に包まれた。
今日も一日が終わった。
いつもならこのまままっすぐマンションに帰るのだが、今日、僕は一つの決意をしていた。
計画を実行に移すため、僕は前の席に居るクラスメートの目の前にまわると、静かに
声をかけた。
「・・・・・・・・相田君。」
「うん?何だ、碇?」
くせっ毛の少年が顔をあげる。眼鏡が一瞬、光を反射する。
「あの・・・・・・これから、ちょっとでいいんだけど、時間とれる?」
「ん?ま、そりゃいいけど、何の用だ?」
「いや、ここじゃ、ちょっと・・・・・・。」
「ふうん?」
彼は、何だろうな?という感じで首を傾げる仕草をする。
そこへ、ちょっと離れた所から声がかけられた。
「おおい、ケンスケ、早よ帰ろうや。」
「あ、ちょっと待ってくれよトウジ。すぐ来るからさ、教室で待っててくれよ。」
「あ?ああ、わかった。」
「じゃ、行こうぜ碇。」
「うん。」
僕と彼−−−−相田ケンスケ君は、連れ立って教室をでた。
僕らは階段を登り、やがて屋上近くの踊り場に辿り着いた。
ここならほとんど人も来ない。
「で、どうしたんだ碇、話って?」
「う、うん。それなんだけど・・・・・・。」
僕は口篭もった。決心はしていたはずだけど、いざとなるとやはり少し恥ずかしい。
「・・・・・・・・・・・・。」
相田君は急かす様子も無く、じっと僕が話し出すのを待ってくれた。
こういう彼の性格は僕にはとてもありがたい。
「その・・・・・・相田君ってさ、その・・・・・・。」
「ん?」
「校内の・・・・女の子達の写真撮って・・・・・・・皆に売ってるよね・・・・・?」
「ああ、まあね。写真は俺の生きがいだからな。ま、趣味と実益をかねて、ってやつでさ。」
「そ、それでさ・・・・・・・。」
僕はちょっと躊躇った後、言葉を口にした。
「ぼ、僕にも一枚、その、売ってくれないかなって・・・・・・?」
僕はそのまま俯いてしまった。きっと鏡を見たら真っ赤な顔をしているに違いない。
「へえ、ふうん、碇がねえ・・・・・・。」
相田君は何となく面白そうな顔つきで僕の顔を覗き込む。
「で、誰の写真が欲しい?美人どころは大抵押さえてあるぜ。あ、それとも女子更衣室の盗撮とかがいいのか?ちょっと値は張るけどな。」
「ち、ちがうよ!」
僕は慌てて否定した。
「その・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ・・・・・・・・・・・・・・。」
「そ?」
「惣流さん・・・・・・・・のやつを・・・・・・・・・・・。」
僕の頭はすでにオーバーヒート寸前だった。
恥ずかしい、恥ずかしい。
「惣流のか・・・・・・惣流は人気が高いから、ストックをいつも持ってるぜ。
それで気にいらなけりゃ、ネガも大量にあるし、そこから選べばいい。」
「う、うん、ありがとう。とりあえず見せてもらえるかな・・・・・・。」
「いいぜ。」
相田君は鞄をごそごそと探ると、十数枚の写真を取り出して床に並べた。
そこには惣流さんのいろんな表情が映し出されていた。
笑ってる顔、怒ってる顔、自信たっぷりな顔・・・・・・・・。
それらはまるで眩しい光のように僕の目を焼いた。
こころなしか周囲がパアッと明るくなった様な気までする。
「えっ・・・・・・・・・・・・と・・・・・・・・・・・。」
僕はしばらく逡巡したあと、一枚を手に取った。
「じゃ・・・・・これ・・・・・・。」
「まいどあり。碇ならツケにしておいてもいいぜ。」
「いや、いいよ・・・・・。」
僕は硬貨を彼に渡した。
「これ一枚だけでいいんだな?じゃ、また欲しくなったらいつでも言ってくれよ。」
そういって彼は階段を下ろうとする。僕はちょっと慌てて声をかけた。
「あの、相田君、あの・・・・・・・・。」
「わかってるよ。この事は誰にも話さない。商売は信用第一だからな。」
「あ、ありがとう・・・・・・・。」
相田君は二ッと笑って行ってしまった。
僕はしばらく今手に入れたばかりの写真を見つめると、それを鞄の中に仕舞い込んだ。
そっと、宝物を扱うように・・・・・・・・・。  

 

「ただいま。」
自宅であるマンションの一室に帰ると、僕は無意味に呟いた。
もちろん答える相手はいない。
ただの習慣の様なものだ。深い意味はない。
僕は帰り道に買ってきた食料品の類を冷蔵庫に仕舞ってしまうと、すぐに寝室へ向かった。
服を着替えるのももどかしく、鞄から例の写真を取り出す。
惣流さんの写真。
それは、どうやら校庭の水飲み場で撮られたものらしかった。
水飲み場の台の上に腰掛けている少女。
あまり面白味の無いショットだ。
人に見せればそう言うかもしれない。
もっと彼女の個性を強烈に表している写真は幾らでもあった。
しかし何故か僕は、これに魅入られてしまったのだ。
何気ない表情。
学校の中という現実から離れ、ほんの一瞬、夢想の世界へ飛び込んだ。
あえて例えて言うなら、そんな風に表現できるだろう。
その目は校舎の方を向きながらそれを映してはおらず、
何か常人には窺い知れない深奥を見据えていた。
相田君もこの目に魅せられてシャッターを切ってしまったのかもしれない。
・・・・・・・僕にも、この時彼女が見ていたものを見ることができるだろうか・・・・・・。
それは、あまりにも難しい事に思えた。
何しろ彼女は”魔法使い”なのだ。
魔法使い達の領域に、僕ら一般人が踏み入る事などできようはずもない。
「アスカ・・・・・・・・・・・・。」
僕は呟くと、はっとして思わず周囲を見回してしまった。
何てことを。・・・・・・よりにもよって、惣流さんの名前を、しかも呼び捨てにするなんて。
激しい自己嫌悪に陥りながらも、僕は先程のあまりに甘美な感情に、
抵抗する間もなく屈してしまった。
「アスカ・・・・・・・・。」
再び呟く。

ア・ス・カ

そのたった3文字の単語は、まさしく魔法のごとく僕の心を縛った。
胸が締め付けられ、苦しさと心地よさが同時に僕の魂を揺さ振ってくる。
「アスカ・・・・・・・・・・。」
もう一度呟く。
「アスカ・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
もう一度。
「アスカ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
写真をぎゅっと胸に抱く。
「アスカ・・・・アスカ・・・・・・アスカ・・・・・・・・・・・アスカぁ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
ピンポーン。

僕の、ささやかではあるけれど甘美なひとときは、
無粋な訪問者によって終わりを告げられた。
ピンポーン。
間を置かず再び玄関のベルが鳴らされる。
・・・・・誰だろう?
新聞の勧誘か、それとも宗教関係か。
腹立たしさを覚えながら(理由は言うまでもないだろう)僕は玄関のドアを開けた。
すると。
「やっほー。シンちゃん。げんきしてた?」
能天気な声が降りかかってきた。
そうか。この人か。
僕はなんとなく納得しながら、わからないように溜め息をついた。
僕の目の前に立っているのは、すぐ左の部屋に住んでいる、”おとなりさん”だった。
かなり奇麗な女性で、年齢は二十代の中盤から後半ぐらい。
長い黒髪が艶やかしい。
ところが彼女は、妙に子供っぽいというか、図々しいというか・・・・・・・
ともかくそういう性格で、僕はなにかと迷惑していた。
ビデオの予約を代わりにするのは日常茶飯事。
鍵を無くしたと言われて僕の部屋のベランダを通らせてあげた事も何度もある。
今日はどんなお願いをしに来たのだろうか。
「・・・・・・何の用ですか。」
「なあによお。そんなつっけんどんな言い方しなくったっていいじゃない。
やっぱさあ。こう、ニコッと笑って
”何か御用ですか?僕、お姉さんのためなら何でもします。”
とか言ってくれたらとっても嬉しいんだけどなあ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何の用ですか。」
僕はもう一度、先刻と全く変わらない口調で繰り返した。
彼女は拗ねた子供の様な顔つきになる。
「シンちゃーん。あたしの事、キライなの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
僕は無言で答える。
彼女の言う事に素直に相手して答えていると、いつのまにか彼女のペースに
はめられてしまうのだ。
「シ、シンちゃん。黙ってるなんて。
やっぱりあたしのことがキライなのね!
そうよ、そうにきまってるんだわ!
どうせあたしなんて、う、う、う。」
嘘泣きを始める彼女。
分かっていても僕はつい答えてしまった。
「・・・・・・そ、そんな事はないですよ。」
途端におとなりさんはパアッと顔を輝かせる。
泣いたカラスが・・・・・・・というやつだ。
「シンちゃん、あたしの事、嫌ってるわけじゃないのね?」
「え、ええ。まあ・・・・・・。」
「じゃあ、好き?」
ほらきた。
「い、いや、その・・・・・・・・・。」
「好き?」
たたみかけてくる彼女。
「だ、だから・・・・・・・・・。」
僕はしどろもどろになる。
もっとも僕を狼狽させているのは会話の内容ではなかった。
彼女は今、タンクトップに短パンといういでたちなのだ。
しかもノーブラ。
そして彼女は僕の目線に合わせて、軽く身を屈めている。
つ、つまり・・・・・・・
「ちょ、ちょっと、その格好、やめてくれませんか?
その・・・・・・・胸が。」
「え?」
彼女はしらじらしく自分の胸元を見る。
そして。
「やあだあ。シンちゃんってば、どこ見てるのよお。
エッチなんだからあ。」
・・・・・・・・よく言うよ。
最初っから計算しつくして行動してたくせに。
彼女は屈めてた身を起こすと、言った。
「ね、シンちゃん。あたし夕飯作ったの。
なんだったら一緒に食べない?」
「・・・・・・・・は?」
「夕飯、御馳走してあげるって言ってるの。」
僕は耳を疑った。
これまで彼女には迷惑の掛け通されだったけど、
一度として彼女にお礼とかされたことは無かったのだ。
僕は初めて彼女の事をいい人かもしれない、と思い始めた。
「ね、どう?」
「え、あ、い、行きます、行きます。」
僕は反射的に答えてしまった。
「良かった。じゃ、あたしの部屋でね。」
「はい。」
・・・・・・・・・・そして。
僕の目の前には、凄まじい景観が広がっていた。
彼女の部屋の中だ。
しかし、とてもじゃないけどこの部屋が僕のそれと間取りが同じとは信じられない。
それほど散らかっていた。
まず目に入る物。
それは酒だ。
ビール。
ウイスキー。
日本酒。
スコッチ。
焼酎。
この部屋の持ち主には、酒以外に趣味はないのか、と言いたくなるほどの数の
缶、そして瓶。
それらが部屋のいたるところに並べられ、転がっているのだ。
その上コンビニの弁当の容器や、紙屑等のゴミも大量にあり、
女性の部屋というよりも山賊の潜んでる洞窟を思わせた。
居間しか見てはいないけれど、寝室等の他の部屋も、
どんな状態かは想像するに難くなかった。
「・・・・・・・相変わらず、凄い部屋ですね。」
「まあね。ちょっち、散らかってるかもしんないけどね。」
「・・・・・”かもしんない”?」
僕はこっそり呟いた。
「それじゃあたし、準備するからシンちゃんはテーブルの上片付けといて。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
部屋のあらゆる場所の例に漏れず、
テーブルの上もまたすごかった。
・・・・・・これを片付けるって・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・仕方ない。
僕は決意した。
「じゃ、お願いね。」
「待ってください。」
「なあに?シンちゃん。」
「食事は後回しです。先にこの部屋を全部掃除しましょう。」
「・・・・・・へ?」  


それからたっぷり三時間後。
おとなりさんの部屋はみちがえるように奇麗になっていた。
ゴミはみんな袋に入れて片付けてしまい、
ほうきや雑巾まで持ち出したおかげだ。
「あーーーーーーーーつかれたあ。」
彼女は精も根も尽き果てた、という感じでテーブルにうつぶせている。
「でもさあ。ここまでする事なかったんじゃない?
テーブルの上だけすれば良かったのに・・・・・。」
「そんな事ないですよ。やっぱり部屋全部奇麗な方が食事もおいしいですよ。
というか、それ以前にこんな部屋の中で生活してたら
いつか身体壊しますよ。」
「ありがと、シンちゃん。あたしの事心配してくれてるのね。」
「え、いや、その・・・・・・。」
そういえば、どうしてここまでしておとなりさんの部屋を掃除しなければならないんだ。
僕は自分で思ってるより世話焼きなんだろうか?
「じゃ、ちょっち遅くなっちゃったけど、お食事にしましょっか。
温めなおしてくるわね。カレー。」
「はい。」
台所に立つ彼女の姿を見て、僕は何だか心が温まるのを感じた。
こちらへ引っ越してから今まで、こんな風に誰かの手料理を
食べるという事はなかった。
・・・・・・いいもんだな、こういうのって。
僕は自然と、彼女と世間話をする気になった。
「あの、葛城さん。」
「んー?なあにい?」
彼女は鍋の中をかきまぜながら答える。
「”学院”の方のお仕事はどうですか?やっぱり忙しいですか?」
「うーん。特別忙しいって事はないけどね。
けっこう暇な時間とかもあるし、
授業もいいかげんにやってるから。」
「い、いいかげんって・・・・・・。」
「はあい、出来たわよ。」
彼女がお盆を捧げてやって来た。
お盆の上にはカレーライスと水の入ったグラス。
それをテーブルに乗せると、彼女は僕と合い向かいになって座った。
「ね、シンちゃん。」
「はい?」
「葛城さん、ってのはやめてくれないかな?他人行儀だし。
ミサト、でいいわよ。」
「あ・・・・・・はい、ミサトさん。」
「よろしい。」
僕はちょっと気恥ずかしかったが、嬉しかったのも事実だった。
「じゃ、食べましょっか。」
「はい。いただきます。」
僕はスプーンを手に取った。
ぱくっ。
カレーを一口口にした瞬間。
うっ。
「どう?シンちゃん。おいしい?」
「は、はい。とても。」
「よかった。せっかくいつものお礼にって御馳走するつもりだったのに、
変な料理だったら目も当てられないもんね。」
「は、はは・・・・・・・・・。」
僕は正直泣きたい気分だった。
よくよく考えてみれば普段あれだけ乱れた部屋で生活している人の料理なのだ。
つまり・・・・・・・そういうことだ。
「あ、そういえばシンちゃん。」
「は、はい?」
もしもおかわりを勧められたらどうしよう、と悪夢の様な想像に囚われていた僕は、
彼女・・・・いや、ミサトさんに呼びかけられて我に帰った。
「惣流・アスカ・ラングレーって娘、知ってる?」
「えっ!」
突然、こんな所で聞くとは思わなかった名前を聞いて、
ちょっと大袈裟なリアクションをしてしまった。
「ど、どうしたの?シンちゃん?」
「い、いえ、なんでも・・・・・・。
でもどうして彼女の事知ってるんですか?」
「うん。こないだ家の”学院”に転入して来たのよ。
聞いてみたら彼女、壱中だっていうし。
学年も一緒だから知ってるかなって。」
そうか。
そういえばこの町には”学院”は一つしかないんだった。
魔法使いの惣流さんがミサトさんの勤める学院に通うのも当然だった。
ちなみに、”学院”というのはいわゆる”魔導学院”の略称だ。
”魔法”は学べば誰にでも使えるという類の物ではなく、
ごく一部の才能ある人間、すなわち”魔法使い”だけの学問であり、力だ。
必然的に魔法を学ぶための公的な教育機関は存在せず、
若き魔法使い達は自らの師を探す必要がある。
魔法の資質に関しては遺伝による所が大らしく、
魔法使いを親や祖父母に持つ子供はやはり魔法使いである事が多い。
そういう場合ならば師を探す問題は関係ないのだが、
そうでない魔法使い達にとってはこれは大きな問題となる。
そのために学院が存在するのだ。
学院は、一言で表現するならば、学習塾の様なものだ。
魔法を学ばんとする魔法使い達が謝礼を支払ってそこに所属し、
先輩の魔法使い達が彼らを教える。
詳しい所は僕もよくわかってはいないのだけれど、
大雑把に説明するとこんな所だろうか。
ミサトさんはそこの教師の一人で、当然魔法使いなのだ。
「彼女、一緒のクラスなんですよ。
もうクラスの・・・・・・って言うより、学校中の人気ですよ。」
「へえ。クラス一緒なんだ。でもやっぱりね。」
「はい?」
「彼女の人気の事よ。アスカ、あの子、可愛いしね。
学院の中でも目立ってるわよ。
外見はもちろんとして、魔法に関してもね。
彼女、まだ経験は足りないけど魔力そのものはすでにあたし以上よ。」
「はあ・・・・・すごいですね。」
「まあ、その辺をやっかんでる他の生徒なんかも多いけどね。
アスカももう少しあの性格を何とかしないと、
いつか刺されるかもね。」
僕は、はは、と笑う。
たしかに惣流さんは人気も高いけれど、悪く言う人も何人もいるようだ。
彼女はさっぱりした気持ちの良い性格ではあるけれど、
それと同時に少し高飛車な所がある。
少しある、どころではなく高慢そのものだと万人が認めているけれど、
僕はそんな所も・・・・・・・
「ごちそうさま。」
僕とミサトさんは同時にカレーを食べ終わった。
話をしている間もずっと食べ続けていたのだ。
自分の料理を食べる時、ミサトさんがどんな反応をするか興味があったけれど、
彼女は顔色も変えずぱくぱくと食べていた。
性格だけでなく味覚も尋常ではない。
ひょっとすると魔法使いは皆、こんな特徴ある性格をしてるんだろうか。
惣流さんもあまり普通とは言えない性格だし。
ナプキンで口の周りを拭ってる僕を、ミサトさんはじっと見て、言った。
「・・・・・・ありがとね、シンちゃん。御飯、全部食べてくれて。」
「へ?いや、お礼言うのは僕の方ですよ。
夕飯御馳走になっちゃって・・・・・・・。」
「でも、不味かったでしょ?」
「!・・・・・・い、いや、そんな事ないですよ。とっても・・・・・。」
ミサトさんは苦笑しながら言う。
「食べてる時の表情見れば分かるわよ。
あたし自身はよくわかんないんだけど、
あたしって料理かなり下手らしくってね、
友達からは殺人的だ、って言われてるくらいなの。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「美味しいよって言ってくれる人もいるけどね、
そういう人もやっぱり一口食べて箸を置いちゃうの。
食事を済ませたばかりだとか理由つけてね。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「そんなで、あたしの料理全部食べてくれたのって、
今まででも一人しかいなかったわ。
だからシンちゃんが全部食べてくれたの、嬉しかったな。」
「そんな事ありません。」
僕はきっぱりといった。
「とっても美味しかったです。」
「い、いや、あのねシンちゃん・・・・・・・」
「あの、たしかにその・・・・・・・料理そのものは・・・・・なんでしたけど・・・・・・。
でも、ミサトさんが、僕のためにこんな風に御飯作ってくれたって、
それだけでもう、嬉しくて・・・・・・ほんとに・・・・・・・。」
「シンちゃん・・・・・・。」
胸の奥に何か熱い物が込み上げて、それが喉元へとせりあがってくる。
僕はひょっとしたら今泣いているかもしれない。
それでも構わない、と思った。
今泣く事は、ちっとも恥ずかしい事じゃない、そう思った。  

 

ほんとに・・・・・・
美味しかったです・・・・・・・
ミサトさん・・・・・・・・・

 


NEXT
ver.-1.00 1997-09/01公開
ご意見・感想・誤字情報などは kawai@mtf.biglobe.ne.jpまで。

 河井さんの『僕のために、泣いてくれますか』第二話、公開です。
 

 アスカと接点を持てないシンジ。
 ・・・かなり珍しい展開ですね。

 明るいLASでは無いようです。・・・・興味深い!(^^)
 

 こっそり写真を買って、
 それに話し掛ける。

 きっとあのクラスには沢山いるんでしょう。

 ・・・本編EVA・学園EVAでも隠されたそういうキャラがいたことでしょう。
 

 人との関わりに苦しむシンジ。
 どうなっちゃうんでしょうか・・・
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 感想・意見を河井さんに送りましょう!


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