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         劇終


                     
written by TITOKU


あなたはまだ憶えているかしら?



あなたが好きだったこの映画館を。



古ぼけていて、ひどい音響の映画館だけど、



この雰囲気がいいんだよ。



あなたはここに来るたびそう言っていたわね。



わたしもここの雰囲気は好きだった。



でも、それはあなたの言っていたものとは少し違う。



わたしはここであなたが見せる子供のように純真な雰囲気が好きだった。



あなたったらいつも映画の主人公に感情移入しちゃって、



愉快なシーンでは思いっきり笑って、悲しいシーンでは涙をボロボロ流して、



わたしは横から見ていてすごく心配したのよ。



ねえ、知ってる?



わたしここで見た映画の内容、一本も憶えてないの。



わたしは映画より、あなたのことをずっと見ていたから。



その方が楽しかったから。



そして、嬉しかった。



あなたがここでわたしに見せてくれる姿が、



わたしだけのもののような気がして、



わたしはあなたにとって特別なんだって、



そうわたしに思わせてくれたから。



だから、今日が初めてなの。



ここで映画をゆっくり見ることが。



わたしは笑うことができるかしら?



あの時のあなたみたいに。



わたしは泣くことができるかしら?



あの時のあなたみたいに。



多分、無理ね。



だって、あなたがいないから。



だって、あなたを思い出してしまうから。



いつも座っていたこのシート。



ここはふたりだけの指定席なんだよ。



あなたはそうおどけていたわね。



それはわたしを笑わせようとしていたのかしら?



でもね、



来るたびに何度も何度も聞かされたら、



笑えるものも笑えなくなっちゃうわ。



でも、わたしはそれを聞くたびに笑ったわ。



だって、一度それでわたしが笑わなかったら、



あなたがとても悲しそうな顔をしたから。



あなたのその悲しそうな顔を見た時、



わたしまで悲しくなった。



だから、わたしは可笑しくなくても頑張って笑ったの。



私が笑うと、



あなたはとても嬉しそうに微笑んでくれた。



その優しい笑顔は、



わたしをあたたかく包み込んで、



とても幸せな気分にさせてくれた。



その笑顔を見るたびに思ったの。



あなたはわたしにとって特別な存在なんだって。



かけがえのない存在なんだって。



そんなこと思ったの初めてだったわ。



そう考えると、



あなたはわたしにとって、



初めての人でもあるわけね。



こら、



しっかり責任とりなさいよ。



そんなことを今さら言っても、



もう、遅いわよね。



わたしの隣の、



あなたの指定席である筈のシートには、



あなたの姿は見つけられない。



今の私には、



あなたが隣りにいない、



その事実が、



とても不自然なことに思えて。



それは、あなたが悲しい顔をした時以上に、



わたしをとても悲しくさせる。



「・・・逢いたいよ。」



わたしは自分でも知らないうちに、



自分の心のうちを呟いてしまう。



「逢いたいよ、シンジ。」



でもそれは、今では決して叶えられない夢。



わかっている。



わかっている、だけど、



抑えられない、抑え切れない。



叫びたい。



あなたの名前を。



そしてもう一度だけ、



私に向かって微笑んでほしい。



でもそれも、もう叶わない。



だってあなたは・・・・・



スクリーンに幕が降りる。



彼女と彼の間を閉ざすように。



彼女は自分が座っていたシートから立ち上がる。



その拍子に、



涙のしずくが一粒



彼の指定席だったシートに落ちて、はじけた。












                                         劇終−了−


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ver.-1.00 1997-10/17公開
ご意見・感想・誤字情報などは aaa47760@pop01.odn.ne.jpまで。

後書き

 今までめぞんに発表されてないタイプの作品を書いてみようと思って頑張ってみたら、こんな作品が出来上がってしまいました。いかがでしたでしょうか。私の今の正直な気持ちを申し上げますとはっきり言って恥ずいです。180以上の大男がこの作品をキーボードに向かってしこしこと打っている姿はとても寒いものがありました。(誰にも見られなくて良かった。)

 こんな作品でも感想を送ってやるという方がいらしゃったら、ぜひこちらまでお願いします。





                                     1997.10.TITOKU


 TITOKUさんの『劇終』、公開です。
 

 (誰にも見られなくて良かった。)
 これ、ありますよね(^^;

 シリアス物を書くTITOKUさんでもこう感じるんですから、
 甘々なLAS物を書いている私なども−−−

 知り合いには絶対知られたくないぞ(^^;

 

 
 完全復活を前に
 ”めぞんになかった作品”への挑戦(^^)

 ここに居ない。
 その訳を書かないことでの

 

 

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