その3 「やっぱあんたバカシンジだわ・・・」
アスカは自分の体にまとわり付いているコード類を引き剥がし出した。
かなり大ざっぱに2、3本まとめて引っこ抜いていく。
それまで気にも留めていなかったが、さっきから線がつながったままシンジに接していたのだ。
いったん邪魔だと感じるとこの上なくうっとうしくなる。
こんな物必要ない・・・・・・
そんなアスカの様子を見つめながらシンジが物言いたげな表情を浮かべている。
そのことに気付くと、アスカはコードをはずしながらシンジの疑問に答える事にした。
「信じられない?カヲルが生きてるってのは」
「・・・・・それは・・・生きてて欲しいよ」
「そうね・・・簡単には信じられないでしょうね・・・・ミサト!」
「えっな、何?」
どうもうまくアスカとシンジの会話に入り込めず傍観者になってしまっているため、ふいに声をかけられると慌ててしまう。
それだけシンジとアスカの仲が良好ということではあるが。
「一応証拠があるのよ、カヲルがここに来たという・・・あんた達がここに来る少し前だと思うけど」
アスカが天井の監視カメラを指差す。
「あれが故障していたはずよ、短時間の間だけどね。もしかしたら他の機械も・・・要するにその間にカヲルがここに来たってわけ。本人がそう言ってたっていうか、アタシの心に語りかけて来たの。痛ちっ」
アスカは体に付いていた最後の線、点滴のチューブを抜き取った。
「嘘だと思うなら監視カメラの映像ビデオを確かめに行ったら、ミサト?」
「わかったわ・・・・だけどそれよりあなた自身は大丈夫なの?病み上がりなんだから無理はさせられないわ。まず検査をしておかないと」
「 平気よ!心の病だったんだから正気に戻れば問題なしよ!」
ベッドからするっと降りるとすっくと立ち上がる。
「着替えはどこよ?外の空気を吸いたいわ、薬臭い病室はもうまっぴらだわ」
「だめよ!まだ」
「そんなに心配?じゃあ、シンジに付き添ってもらうわ。たのむわね、シンジ!」
言いながらシンジの肩に肘を置き、頬杖ついてもたれかかるアスカ。
「え?ア、アスカ!なにするんだよ?」
情けない位慌てながら、肩にかかった重量を必死に支えるシンジ。
そんな事にはお構いなしにアスカは話を続ける。
「ミサト、体の検査もシンクロテストも後でいくらでもやったげるから、今は外出を許可してよ。それにカヲルが生きてるのにこんなとこでのんびりしてていいの?確かめる必要があるんじゃない?とにかくちょっとの間でいいの、夕方までには帰って来るわ。お願い、無理はしないから!」
ミサトは強硬に外出を主張するアスカを少々疑問に感じていた。
確かに彼女の性格ならすぐにも病院を出たがって不思議はない。
しかしミサトはなんとなくその言葉に裏がありそうな気がしたのだ。
「いくら頼んでもこれだけは聞けないわ・・・第一どうしてそこまでして出たがるの?」
「それは・・・・」
アスカは口ごもった。
「・・・・・だから・・・あたしもシンジも今迄ずいぶん大変な目にあってきたじゃない・・・少しくらい息抜きの時間が欲しいの・・・・この先もきっと大変なんだろうし」
(それだけではないようね・・・だけど・・・・)
伏し目がちにつぶやくアスカを観察しながらミサトは思う。
もしかしたら、アスカの言葉の裏にあるものはとても他愛無い事かもしれない。
たとえばシンジと二人っきりになりたいとか・・・・
そういえば、今もやけにシンジにくっついている。
それも疑問と言えば疑問だが。
「ミサトさん、僕からもお願いします!アスカは・・・やっと戻って来たんだ・・・だから!」
シンジがアスカに同調するに至って、ミサトは決断した。
ネルフが、大人達が勝手な都合でエヴァのパイロットである彼等に大きな負担をかけ、つらい思いをさせてきたのは事実なのだ。
二人とも尋常でない傷付き方をした・・・アスカなど、さっきまで廃人だった。
突然のアスカの目覚め、渚カヲルの生死及びその関与、疑問は残るけどそれを解き明かすのはちょっと位後回しにしてもいいんじゃないか・・・・・それより今彼らにしてやれる事を優先させたほうが・・・・
「わかったわ、いってらっしゃい。ただし、夕方までには帰ってくるのよ。わかったわね?」
「入っていいわよ!」
シンジが病室のドアを開くと着替えをすませたアスカがベッドに腰かけ髪の手入れをしている。
「もー、ここには櫛もないの?どういうつもり!それに着替えがなんで制服なのよ!」
愚痴りながら指で髪をとくアスカ。
親指をのぞく四本の指で、長い栗色の髪がすかれる度にきらきらとなびく。
シンジはそのしぐさをぼんやりと眺めていた。
窓から射し込む陽の光を受けてきらめく細い髪は、シンジが見とれるに十分なものだった・・・・
髪を整え終わったアスカは後ろを振り向くと窓に映った自分の姿を検分し始めた。
「・・う〜む・・・・・いいか、こんなもんで!」
顔を正面に戻すとアスカはシンジに向かって右手を差し出した。
「??」
「なにボケボケっとしてるのよ!あたしは病み上がりなのよ、少しはいたわりの気持ちがないの?」
「あ・・ごめん」
シンジは恐る恐る差し出された手を握った。
ベッドから降りるとアスカはシンジの手を握り返した。
「いい?あたしはもう元気だけど、もしかしたら足元ふらついて倒れるって事もあるかもしれないからあんたに手を引いてもらう事にしたの!わかってる?」
なんだか素直じゃない言い方だけど、そのほうがアスカらしいかと思いつつシンジはうなづく。
「わかったよ・・・」
「じゃあちゃんとリードしなさい、バカシンジ」
「うん・・・」
シンジはアスカと手をつなぎながら残った手で病室のドアを開いた。
廊下に出ると二人並んで歩き出す。
(・・・・・あれ?)
数歩進んで、シンジはアスカを引く手が予想以上に重たいと感じた。
視線をアスカに移すと自分の歩調に追いつけないのか、やや後方を歩いてる。
まさに手を引かれている状態だ。
(そうか、やっぱりまだ回復してないんだ・・・・)
そう認識したシンジは出来るだけアスカに負担をかけないように、気を使いながら歩く事にした。
外へ出た二人を待ち受けていたのは、廃虚となり巨大な湖ができた第3新東京市だった。
廃虚、といってもその惨状をしめす物の大部分はすでに水没してしまっている。
昼の一番暑い時間帯の太陽に照らされたその景色は美しいものですらあった。
蝉の鳴き声が耳に響き、熱風が体にまとわり付き、直射日光が肌をさす。
シンジは心配そうにアスカの様子を見る。
あまり病み上がりの者には良い環境だとは思えない。
せめて帽子でもかぶってれば、などと考えながら話し掛ける。
「アスカ、大丈夫?かなり暑いけど・・・」
「平気よ、日本に来てどれだけ経ってると思うの!」
答えながら周りの景色をきょろきょろと眺めている。
「・・・・・見慣れない風景ね・・・」
「・・・・・・・」
ついこの前まで人が住んでいた場所。
零号機の爆発で消えてしまった町。
(そう言えばアスカは綾波の事は知ってるんだろうか・・・・)
思いついた疑問を口にする勇気はシンジにはなかった。
相変わらずアスカは物珍しそうに湖の景色を見ている。
彼女が心を閉ざしたのはこの湖が出来た頃とたいして変わらないはずだ。
見慣れないのも無理ないだろう。
しかしシンジにとってこの湖の情景はすでに忘れられないものになっている。
(ここはカヲル君と初めて出会った湖だ・・・・・)
ぎゅっ
(!?)
シンジの手が引っぱられている。
それまでシンジに引かれていたアスカが急に前に出たのだ。
「ア、アスカ?」
「もう少し近くに行きましょ」
ぐいぐいぐいっ
「アスカ、病み上がりなんだろ、そんなにずんずん歩いたら・・・うわ!」
どてっ
「あんたがコケてどうすんのよ!」
「ごめん・・・」
「はやく立ちなさいよ!」
アスカは握っていた手でシンジをひき起こすと、再び歩きだした。
シンジは慌ててアスカについて行く・・・・・
湖畔に近付くにつれ、それまで見えていなかった破壊の傷跡が徐々に目につきだした。
まずコンクリートの瓦礫が鋭角的な頭を湖面からのぞかせ、その後方に斜めに傾いた電柱が生えている。
さらについこの前まで高層ビルと呼ばれたもの達が寄り重なって突き出ている。
月並みな言い回しをすると湖面に立った墓標といったところか。
そして・・・・・
湖畔に辿り着いた二人を首の欠けた天使の像がむかえ入れた。
波打ち際の数メートル手前でシンジは立ち止まる。
「ふう〜、やっとついたわね」
「・・・・・うん」
その場に腰掛けるアスカ、だがシンジは立ったまま天使の像をながめている。
(あそこに・・・・カヲル君が・・・すわってた)
像の欠けた首の部分に視線が定まる。
(カヲル君・・・・本当にアスカの言うように生きてるの?)
「?どうしたの」
「あ、いや・・・・・ここでカヲル君と出会ったんだ・・・」
「えー、ホント!?聞いて無いわよ〜!」
大げさに驚いて見せるアスカ。
しかも感傷的な気分などいとも簡単にぶち壊す、かん高い声で。
なんだか調子が狂ってしまう・・・・
「まあ、わざわざそんな事までカヲルがあたしに伝えるわけないか。とにかくあんたも座りなさいよ!」
「あ、うん・・・・」
腰をおろしながらシンジは違和感を感じざるをえないでいた。
アスカはカヲルが生きているのを当然の事として受けとめている。
しかし自分はその事を信じ切れていない。
それがアスカとの間に妙な感覚のズレを生じさせている。
そのズレを埋めるにはアスカからカヲルのことを聞き出すしかない。
「アスカ、あのさ・・・・」
「何?」
「いや・・・その・・・」
「だから何よ」
「カヲル君のことだけど・・・」
「・・・・気になる?」
アスカの口元にほのかに笑みが浮かぶ。
「うん・・・」
「あたしなんかより?」
「え?ええっそ、そんなことは!・・・だ、だから、あの」
思ってもみないアスカの一言に狼狽しまくるシンジ。
その一挙一動を実に楽しそうにアスカは観察する。
「ぷっ、なに言ってるのよ、ふふふふ」
「だ、だってアスカ・・・」
ごろんっ
アスカは体を後ろにそらしてそのまま寝っ転がった。
仰向けになり脇腹を押さえて笑い続ける。
「 おかしい・・・・くすくす」
「な、なんだよ!そんなに笑わなくてもいいじゃないか」
「シンジ、あんたも」
笑いながらシンジの二の腕をつかみ引き倒す。
「あっ」
ごろんっ
ふたり並んで仰向けになった。
(アスカ?・・・・どうしちゃったんだろ)
シンジは真横にあるアスカの顔に疑問の眼を投げ掛けた。
それには応じず、まっすぐに空をながめているアスカ。
ぬける様な青い空が写り込み、同じ色の瞳をさらに美しく際立たせている。
シンジは頭の中に居座る疑問を忘れて見とれてしまう・・・・・・・
・・・・シンジもアスカの瞳の示す方向をながめてみた。
雲ひとつない青で埋め尽くされた視界の真ん中に、いつもと変わらぬ夏の太陽が熱を伴った光を落とす。
じわじわと汗が顔から浮き出てくるのを感じるが気にはならなかった。
むしろ安らいだ気持ちになっているのがわかる。
(いつ以来だろう・・・・こんなに心が落ち着いた気分なのは・・・・・・)
そう考えた直後、カヲルと過ごした一日を思いだしシンジは心の中で呻いた。
(つい一昨日のことじゃないか・・・・そんなことすら忘れてるなんて・・・・最低だな)
自分を嫌悪してみても今の心の安らぎが揺るぐ事はなかった。
流されるようにしてシンジはカヲルの事をアスカに問うのを忘れていく。
(このままの状態がちょっとでも長く続いてくれたら・・・・・・・いいな・・・・・)
・・・・・天を見つめたままアスカがささやいた。
「シンジ・・・・」
「なに・・・・?」
「・・・あんたやっぱバカシンジだわ・・・・・」
「なんだよそれ!?」
「ふふ、ふふふ、なんだか安心したわ、シンジがバカシンジのまんまで。ふふふ」
「 どうしたんだよアスカ・・・・なんだか変だよ!」
「そうね、今日はシンジにサービスしすぎたみたい・・・・ま、いっか」
アスカは上半身を起こした。
その表情から急速に笑顔が消えていく。
いままでと打って変わって真剣な眼差しでシンジを見据える。
「シンジ・・・・カヲルに会いたい?」
「え!」
びっくりして起き上がるシンジ。
「あいつも忙しいみたいだからあたしにあんたを任せたんだろうけど、いつかは会わなきゃいけないんだしね。どうする?シンジ」
シンジは言葉も出ない。
彼女の口振りからすると、自分以上にカヲルと親密なのではとさえ思える。
アスカとカヲルの間にいったい何があったのだろう・・・?
「なにポカンと口開けてるの!会う?会わない?」
「そ、そりゃ・・・会いたいよ」
「決まりね!ただし会いに行く前に・・・・」
アスカの表情がにわかに思いつめたものに変化する。
「約束して。たとえ何が・・・・・・・・・いや、いいわ・・・・・後で・・・」
言葉を中断すると、うつむいて目を伏せる・・・
「どうしたの?」
「いいから行きましょ!ここじゃ場所が悪いわ。シンジ・・・」
アスカが手を差し出した。
一瞬シンジはちゅうちょしたが、立ち上がりながらアスカの手を取り引っぱり上げる。
アスカはお尻についたホコリをポンとはらうとシンジに目で合図した。
そしてシンジは行きと同じ様にアスカの手をひいて歩き始めた・・・・
(本当にカヲル君に会えるんだろうか・・・・アスカ?)
シンジにはアスカを引く手が再び重く感じられた。
病室を出た時と同じ重さ・・・さっきはシンジを引っぱり回した事ほどだったのに。
少し遅れぎみに歩くアスカはシンジに隠すようにして不安げな表情をつくっていた・・・・
「おお〜!」「まあっ」
青葉シゲルと伊吹マヤの感嘆の声を背中で聞きながら彼はモニター画面を睨んでいた。
「もう少し前!」
傍らで彼の上司の冷静な声がする。
感動的な場面だし、もう少し見ていたい気もするが逆らうつもりはない。
「はい」
昨日の様な部下と上司の関係をはみ出た会話は期待してない。
当然だろう、あの時は状況が特別だったのだから。
日向マコトはビデオを過去へと遡らせた。
画面上にシンジとミサトがいなくなり、アスカがベッドに一人の状態となる・・・・・その時!
「あっ!」
突然画面が青白い光に覆い尽くされた!
「何これ!?」
ミサトが驚きの声を出している間もモニター画面の高速逆再生は続き、十数秒間青白光が瞬いた後に再びアスカ一人の映像に戻った。
「今の光はなんなの?」
「ちょっと待ってください・・・・・これは・・・・機械の故障じゃありません」
「どういう事?」
「つまりこういう光がカメラに映っていた考えるのが適当です。時間にして十分程」
「そんな・・・・どうして今まで気がつかなかったの?」
「病室の監視カメラですからね・・・それに壊れてたわけではないですから・・・・すぐに気がつかなくても不思議はないです」
(そんなものかしら?それともアスカにエヴァを動かせなくなったから監視体制が・・・)
自分の考えに不快感をおぼえたミサトは振り切るように指示をだした。
「光のくわしい解析を急いで!」
「はい!」
ミサトはくるりと振り向くと総指令の席を見上げた。
あいにくというか幸運にもというか座席の主も副指令も不在だ。
さてこれからどうするか・・・・
(アスカが鍵ね・・・)
そのアスカは外でシンジとデート?の最中だ。
もちろんガードは見張っているだろう。
復活したアスカをどう思うかは知らないが。
今すぐ二人を連れて来る事はいくらでも可能だ。
しかしそうするつもりはない。
彼らに少しでも安息の時間を与えようと決めたのだから。
ネルフの指揮官としては誤った判断だとしても。
(4時か・・・・)
腕時計を見ながらミサトは思う。
(5時になったらお迎えにでもいこうかしら?)
こんな時に何を呑気な事を考えているのだか・・・・そんな自分がおかしくなってきた。
「ぷっくすくす・・」
突然ふるえだしたミサトの背中をマコトが何が起きたのかといった表情で見た。
他人の思い出し笑いとはたとえ好意を持っている人でも無気味なものだから・・・・
シンジとアスカが戻って来たのは病棟ではなくネルフの本部内だった。
アスカが浴場へ行くと言い出して聞かないので仕方なくここまで来てしまった。
「こら、なぜ止まるのよ!」
「ね、ねえ何きょろきょろ周りを見ているの?さっきから・・・」
本部内に入ってからアスカはずっとそうだった。
「あんたね、もしミサトがまだ報告してなきゃあたしが回復した事はまだ非公式ってことよ!そんな時にあたしがあんたに手を引かれて、こんなとこうろうろしてたら怪しまれるに決まってるでしょ!」
「あ、そうか・・・」
「今んとこ誰にも声かけられてないけど・・・・少しはあんたも警戒なさいよ!」
本部内に入ってからまだ良く知った顔には出くわしてない。
しかし考えてみればネルフ職員の中で、二日前からアスカが入院してた事を知っている者が何人いるだるうか。
末端の職員がどこまで知らされていたかどうか・・・・知らされてないほうが都合はいいのだけど。
浴場へと続く通路を二人は敵地にいるかの様に用心しながら歩いてゆく。
「ほら、また止まる!」
「いや、着いたよ」
「あ・・・・・・」
シンジ見てる方向をアスカも見ると・・・・浴場のドア。
「・・・・・男湯じゃないの!!」
「うん」
「うんじゃないでしょ、もう!」
アスカは隣の女湯のドアを見ると、シンジの手を引っぱり突き進んだ。
「ア、アスカ?」
ドアをあけるとシンジを押し込む。
「うあっ!」
女子更衣室に転がり込んだシンジは慌ててあたりを見回す。
どうやら誰もいない様だ。
「ふぅっ」
「こら!何きょろきょろ見てるのよ、スケベ!!」
腰に手をあてジロっとシンジをにらむアスカ。
「違うよ、誰かいるかと思って」
「あっそ」
ドアにもたれて一息吐くと、シンジ同様あたりを見回す。
「ここには監視カメラはないわよね・・・」
あったら大変だ。
「ねぇ、アスカ。どうするの?」
「カヲルに会いたいんでしょ」
「え!!」
「だったらもうすぐ会えるわ・・・・ん」
アスカが視線をシンジからはずした時、シンジは背後で光が点滅したのを感じた。
(?なんだろ)
かつん・・・・
同じく背後で音がした。
(足音・・・?)
「シンジ、はやく後ろ向いて・・・・」
アスカの声のトーンが優しいものに変わっている。
(もしや・・・・・)
シンジは恐る恐る首を後ろにひねる・・・・
「やあ、シンジ君」
今シンジの目の前で微笑みをたたえている少年は、まさしく!
「・・・・・カヲル君!!」
「やっと会えたねシンジ君、この時が来るのを待ち望んでいたよ」
カヲルはゆっくりとシンジに近付いてくる。
手をのばすとシンジの両肩にのせた。
満面の笑顔で・・・・・
シンジの体が震えた。
「辛かったろうね・・・・僕はそれを取り除くためにここに来た」
「カヲル君・・・・」
シンジはすでに大粒の涙を流していた。
「良かった・・・生きていたんだね!!」
シンジはカヲルに抱きつくと、呻き泣きだした。
アスカが蘇った時と同じように・・・・・
「ううっう・・・カヲル君・・・・」
シンジを受け止めたカヲルはその赤い瞳をちらりとアスカに移した。
アスカがうなずく・・・・複雑な面持ちで。
うれしそうでもあり、悲しそうでもあり・・・・
しばらく抱擁が続いた後、シンジは少し体を離した。
たとえカヲルが無事だと判っても、これだけは言わずにいられない。
シンジはカヲルを見つめながら声を絞り出した。
「カヲル君・・・・・ごめんよ、僕は・・・・あの時・・・・カヲル君を!!」
「な、なにを言うんだシンジ君!」
その端正な顔に狼狽の色が浮かぶ。
カヲルにはあまりにも不釣り合いな表情。
シンジはこんなカヲルを見るのは初めてだった。
「・・・・あれは・・・・・もういいんだ・・・・」
眼をふせながらつぶやくカヲル・・・その声は心なしか切な気に聞こえた。
こんなカヲルも見た事がない。
自分が言った謝罪の言葉が、カヲルをここまであわてさせるのか・・・・
それはカヲルが自分をいたわる気持ちのあらわれなのだろうか。
シンジが考えをめぐらしていると、今度ははっきりした口調でカヲルが話しかけてきた。
「それより聞いて欲しい、シンジ君。僕は君に元気になってもらいたいからここに来た。この気持ちは本当だ。だから約束して欲しい事がある」
「えっ約束?」
「たとえこれから何があっても負けずに生きて欲しい・・・それが約束だよ」
「カヲル君、どうしてそんな約束を・・・・」
「それが僕の願いなんだ。他にはなにも望まない」
カヲルの顔が次第に真剣なものに引き締まっていく。
それにひきかえシンジは未だカヲルの意図する事が理解できないでいた。
戸惑いをみせるシンジに横からにょきりとアスカの顔が割って入った。
「シンジあんたわかってんの?!こいつはこいつなりにあんたの事心配してるのよ。本気で・・・そうでなきゃあんたの為にここまでしないでしょ!」
「アスカ?・・・」
シンジの脳裏に疑問がかすめる。
「アスカはカヲル君をどこまで知ってるんだよ・・・・なんでそこまで判ってるんだ!」
シンジの非難めいた口調には僅かに嫉妬がまじっていた。
その事を知ってか知らずか、慌てふためくアスカ。
「ええっ?なんでって・・・・なんでかしら?」
なぜか自問自答してしまった。
そんなアスカを押し退ける様にカヲルの声が響く。
「シンジ君、事情は後で説明するよ。だから今は約束して欲しい。お願いだ!」
シンジをまっすぐに見つめるカヲルの口元に笑みはない。
むしろ切羽詰まったものさえ感じる。
それもシンジの事を思ってのことだとは分かる。
けれど・・・・
(何があっても負けずに生きて欲しい・・・・できるだろうか・・・?)
アスカとカヲルが目の前に元気な姿をみせている今なら可能な気がした。
それにこれ以上こんなカヲルの顔を見たくはない。
「わかったよ・・・・約束するよ、カヲル君。だから・・・・笑ってよ、カヲル君らしく!」
「ありがとう、シンジ君・・・・」
シンジが見慣れた笑顔をやっとカヲルは取り戻した。
安堵の顔となったシンジから離れると二、三歩後退する。
「それじゃあ始めよう」
「始めるって何を?」
それには答えずカヲルは右手を前に出した。
手のひらから青白い光が湧き出る。
ものの一秒で光は数十cmの八角形に成長した。
(ATフィールド!でもなんで・・・・?)
「カヲル君!いったい何をするの?」
八角形はさらに倍程の大きさに成長していく。
カヲルはその透明な八角形越しにシンジを見ていた。
今度は笑顔のまま。
「シンジ君、準備は整ったよ・・・・・」
その3終わり
その4予告
なんとか意識を取り戻したアスカ。
しかし頭を打った後遺症からか記憶の混乱がみられる。
病院へ行くアスカとキョウコにシンジもついて行くが・・・・
次回シンジアスカの大冒険その4、
窓を開ければ・・・
「▲?!」
しんどい・・・・おそらく今回が一番書きづらい話では?
壁ですなあ〜
その4で一区切りです。
それまではこの調子でしょう。
全然タイトルどうりの話になっとらんなー。
我慢、我慢・・・・そのうち楽しくなる?
ver.-1.00 1998+06/14公開
ご意見、御感想、誤字、脱字、つっこみ(ぼけも可)などは、
m-irie@mbox.kyoto-inet.or.jp までお送りやす
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