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二学期が始まってからこの一週間、ちっとも好い事がない!
シンジはなにかと理由つけて、先に帰ってて、と身の程知らずなセリフをぬかすし・・・・
あたしの都合より自分の都合を優先させるなんてそれでバカシンジのつもり?
毎朝わざわざ起こしに来てやってるのは誰だと思ってんのよ!!
今朝なんかママに、ここ数日食欲がないんじゃないの?ハム残してるわよ、なんて言われちゃうし・・・・ええい、なんであたしがバカシンジのために小食にならなきゃいけないのよ!

そう、みんなあいつのせいだ・・・・・・
造りものみたいな顔した、なにが面白いのかいつもへらへら笑ってる、みょ〜にシンジになれなれしい、転校生!
もう我慢できないわ、今日こそあいつの正体暴いてやるんだから・・・・待ってなさい、渚カヲル!!
 
 
 
 

 シンジアスカの大冒険? その0
 

 冒険の始まり
 
 
 

「アスカは帰らないの?」

「うん、ちょっとね・・・」

「そう・・・わかったわ・・・・それじゃね、アスカ」

「またね、ヒカリ」

手を振りながらヒカリは教室を出て行った。
ヒカリはあたしが残った理由を勘付いているかしら・・・・?

放課後の教室にたった一人となったあたしは腕時計を見た。
4時十分前・・・・そろそろね。
鞄を持つとあたしは教室の外に出た。
昨日と同じならシンジはあそこにいるはずだ。
あたしは階段を上り4階をめざす。
4階には使われていない教室が多い。
遷都間近い第3新東京市ではこれから大勢の人の流入が予想されている。
この学校もそれを見越して、現在の生徒数が倍近く増えても大丈夫な様に建築されている。
だから空き部屋も多いってことね。
下からうまっていくから上になる程使ってる教室も少ないし、人気もあまりない。
4階にたどりつくと、右に曲がって廊下をまっすぐ進む。
そのまま突き当たりにある教室の手前であたしは立ち止まり、身をかがめた。
昨日、4時すぎにシンジとカヲルがここから出て来るのを見ている。
そのときは、二人の前に出て問い詰めるのは止めておいた。
今日、この日に犯行現場を押さえるために・・・・
こんな角の日当たりの悪い空き部屋で、なにやってるの?
低い姿勢で音をたてないように前進して教室の戸にへばりついた。
戸が少し開いている・・・・ここから様子を覗くことにしよう。
・・・・・薄暗い・・・電気がついてない・・・・いた!
教室の真ん中に・・・・なんだろ、二人の前にある青白い照明は?

・・・・なにあれ!?

八角形・・50cm位・・縁が青白く光って・・中でテレビみたいな映像が映ってて・・宙に浮いてる?!

・・・・・・立体映像?だけどこれは・・・・なんか違う。

とにかくあたしは八角の枠の中に視線を集中させた。
視力は1・5の2・0なんだから!
なんだろ・・・・・・映画?・・・ロボット同士が戦っている。
赤いのと紫の・・・・・なんで戦ってるんだろ?両方悪者ロボットみたいなのに。

カヲル?!・・・・ロボットの前に浮かんでるの・・・・

これってカヲル主演のSFX映像かしら。
シンジが食い入るように見ている。
こいつこれを見るためにあたしに隠れてカヲルと会ってたの?
 
 

しばらく戦った後、紫のロボットが赤いのをやっつけた。
視点が紫のほうのアップになってく。
カメラ(?)がロボットを突き抜けた。

・・・・・え?シンジ!?なによあのカッコ?

あれは・・・もしかしてシンジがロボットを操縦してるって意味?
いつこんなのに出演してたのよ、バカシンジ・・・
映像がまたロボットに戻った。
赤いほうが倒れて・・・その先には宙に浮いたカヲルが見えた!
ロボットの両手が伸びてカヲルをつかんだ。

「カヲル君!!」

シンジがカヲルに向かって叫んだ。
やけに思いつめた表情して。

「僕にはどうしようもないんだ・・・すまない」

カヲルは情けなさそうに首を横にふった。
こんな顔のカヲルを見るのは初めてだわ・・・・ ?
画面ではロボットにつかまれたカヲルがなにかしゃべってるみたいだけど、ここからじゃ聞こえない。
突然絵が静止画面になった。
それを見ていたシンジもカヲルも画面に合わせるかのように動かなくなっちゃった。
 
 

・・・・しばらく経って・・・・・・いきなり!

「きゃあっ!!」
 

あたしは思わず悲鳴をあげてしまった。
紫のロボットがカヲルを握りつぶし、首が吹っ飛んじゃったから!
なんて趣味の悪いシーンなの・・・・ 誰よ、監督は!
でも、これであたしがここにいる事ばれちゃったわ。
・・・・・・・?シンジもカヲルもこっちを振り向こうともしない。

「くっうああああ・・・」

シンジが大声をあげて泣き始めた。
・・・・・そう言えば小さい頃、似たような事があったっけ。
アニメ番組いっしょに見てて、主人公の父親がなんで死ぬ必要があるんだって時に殺されちゃってシンジがワンワン泣いて・・・・・シンジはのめりこみやすいのよね、昔から。
むっ!カヲルがシンジの肩に手をまわした。

「シンジ君・・・彼が使徒である以上運命をさける事はできない。だけど・・・僕らにもできる事が、救える人がいるはずなんだよ・・・・わかるね?」

なに言ってるんだろ?
まあいいわ、本人から直接聞けば。
あたしは戸を開けて中に入り、二人のほうに歩いていった。

「カヲル、その手はなによ、その手は」

「シンジ君をなぐさめてるのさ。遅かったじゃないか、ずいぶん待ってたんだよ、アスカ君」

「なんですってえ!」

「まあ怒らないで。訳はいくらでも説明するよ」

なによ、こいつ!シンジのほうには真顔であたしのほうに向いた時だけ笑顔になって!!

「あんたのその口元は信用できないのよ!なんなの、その宙に浮いてる画面は?」

「後で教えるよ、それよりシンジ君、そろそろ気を取り直してくれなきゃ。泣いてる時間はないよ」

シンジはその言葉を聞くと、やっと涙をふいてあたしを見た。

「・・・・アスカ、来ちゃったんだね・・・・」

「悪い?あんたが隠し事するからいけないんでしょが」

「・・・・」

「なに黙ってんのよ」

「まあまあアスカ君、説明は僕からするよ」

「その前にシンジにのっけてる手を離しなさいよ!」

「仕方ない、わかったよ」

名残惜しそうに手をシンジの肩から降ろすとカヲルは傍らに浮いてる八角の画面を見た。

「まずこれについて解説しよう。これは窓だよ」

「窓?」

「そう、こちらの世界ともう一つの世界をつなぐ窓だよ」

「もう一つ?」

カヲルは相変わらず意味不明の笑みを浮かべながら意味不明の言葉を口にした。

「そう、世界は二つある。平和なこの世界と君がさっき見たエヴァンゲリオンのいる世界だ」
 



 

それからカヲルの口から出た話はちょっとやそっとで信じることができない内容だった。
もう一つの世界・・・そこにはこちらと同じくあたしやシンジがいる。
だけどエヴァというロボットや使徒という怪物がいて、あっちの世界のあたしやシンジはエヴァのパイロットで・・・・
カヲルは超能力者で窓をあやつり向こうの世界を見れる。
・・・・・・って、これを信じろっての、本気で!!
だけど・・・・窓の現物が今、あたしの真ん前に浮かんでる。
考えてみると、これってけっこう気味悪い状態じゃない。
とりあえず、あたしはカヲルの言ってる事が本当だと仮定して会話を進めることにした。

「それであんたはシンジに今日までこの窓を見せてたってわけ?」

「そう。見せたのはここ二、三日だけどね」

「なんのために?」

「力を借りようと思ってね。君も含めて」

「?なんでよ!あんたの目的は何!?」

「向こうの世界のシンジ君を救いたい」

「えっ・・・・?」

意味が判らなかった・・・・えっと、そう言えば・・・さっき窓からシンジの乗るエヴァ?がカヲルを握り潰してた・・・・・あれは向こうの世界の・・・・・現実?!
そんな!シャレになんない!!・・・・自分の心臓が一気に大きく、速く、鼓動を刻むのが感じられる。

「ち、ちょっと待って!・・・向こうのシンジって、さっき見た・・・」

「そう・・・彼は自ら最愛の友を殺した・・・・彼が使徒だったから・・・使徒と人類、どちらかしか生き残れないから・・・・シンジ君の心は今、どれほど傷付いていることか・・・・」

話していくうちにカヲルの口元から笑みが消えて眉間にシワがよる。
こいつには不似合いな顔だけど、こいつなりに心を痛めてるってのは伝わってくる・・・
なんだかとんでもない事になってきたな・・・・・・だけど最愛の友ってなによ?

神妙な顔つきのままカヲルは話し続ける。

「向こうの世界、仮にエヴァの世界と呼ぼう。今エヴァの世界はとても危うい状態だ。人類存亡の危機って事さ。ましてエヴァのパイロットならなおさらね。エヴァの世界へ行くことは可能だ。この窓を扉とすれば」

カヲルが窓を見ると窓は次第に拡大して扉サイズになった・・・形は八角のままだけど。

「扉をくぐればエヴァの世界というわけさ。僕もまだ行ったことないけどね」

「待ちなさいよ、そんなまだあんたすら行った事もない、しかも危険な所に行けっての?ふざけないでよ!」

「ああ・・・もちろん、決めるのは君の意志だよ。ただ、行く場合はシンジ君とアスカ君の二人一緒だ。どちらか一人だけ僕について来るというのはだめだよ。僕一人か、三人で行くかってことさ」

一か三かって・・・どういう意味かしら?こいつ、なに企んでるの?
・・・・・シンジ!!あんたはどうするつもりなの?
さっきから黙りこくって・・・・なに考えているの?
急にシンジが気になりだしたあたしはシンジに向いて話かけようとした。

「シンジ!・・・・・?」

あたしはその後の言葉が出せなかった。
何?何そんな思いつめた表情してるの・・・・?
そんな泣き腫らした眼で見られちゃうと・・・・・・・もう、なんか言いなさいよバカシンジ!
 

「アスカは来なくていい・・・・僕は行くよ!!」
 
 

「なんですってえ!?」
 



 

扉が窓サイズに戻り、映し出す光景は変わっている。
そこは病院の一室、そしてベッドに横たわる患者は・・・・

「ひどいものね・・・・」

精神崩壊・・・そんな言葉があることも知らなかったわ。
あたしと比べて少し痩せてるというかやつれてるみたい・・・尤もあたしもちょっと痩せてる筈だけど。
なによりあの眼!・・・・眼は心の窓とはよくいったもんね。
意志のない人間ってこんな情けない目つきなんだ・・・
それにしても第三者として自分のここまで悲惨な姿を観察する事になるなんて思わなかった。
・・・・やだな、シンジも見てる・・・・こんなみっともないあたしを・・・違う、あたしじゃない!!
あたしは何が起ころうとこんなにはならないわよ、絶対!

「もういいわよ!いくら別人でもこれだけそっくりだと気分悪いわ!画面消して!」

「やれやれ、テレビじゃないんだから・・・」

カヲルはあたしの言う事を聞かずに窓をそのままにして話を続けた。

「とにかくこれが君達に窓を見せた訳だよ。僕は最初エヴァの世界のシンジ君を救う事だけ考えていた。しかしどうすればいいか思案してる間にアスカ君が使徒に精神汚染を受けた。傷付いたアスカ君とそれをどうする事もできないシンジ君を見て、考えが変わったんだよ。シンジ君を救うだけなら僕一人で可能じゃないかと思っていた。僕が彼の孤独に怯えた心の隙間を埋めてあげればね。だけどそれだけじゃ本当に救った事にならないんじゃないか?アスカ君も救わなければ僕の単なる自己満足にすぎないと・・・・・それにエヴァの世界はサードインパクトという人類を滅ぼしてしまう事態を引き起こすかどうかの瀬戸際なんだ。そうなったらシンジ君だけですませられない。サードインパクトをふせげるのはエヴァだけだ。
だからエヴァのパイロットである二人を救う必要がある。それが彼らの住む世界を救う事にもなる。だから僕は君達の学校に転校し、力を借りようとしたんだ」

なるほどそういう事だったの・・・・だけど世界を救うとこまで話が発展するとはね。
今一つ実感がわかない・・・窓のあっち側の世界だからだろうな。
で・・・・シンジよ!
相も変わらず情けない顔して窓を覗いて・・・・なによ、あんなの見たって仕方ないでしょ!

「シンジ、あんたさっきなんであんな事言ったの?!」

「アスカ・・・・もしサードインパクトが起きてエヴァの世界が滅びたら・・・・・こっちの世界はどうなると思う?」

「え?どうなるって・・・・」

まさかこっちも・・・・?

「なにも変わらないんだ。平和なまんまなんだ・・・・向こうとは関係なく」

がくっ

「だったらいいじゃない!!何が言いたいの?」

「だからアスカはわざわざ危険を冒して向こうに行く必要ないよ」

「だったらなんであんたは行くって言ったのよ!」

「ほっておけないんだ・・・・・」

シンジはまた、窓を見た。

「カヲル君にここ二、三日窓を見せてもらってるけど・・・・それは向こうのアスカがどんどん壊れていく所を見る事だったんだ!!もう黙って見ているのはいやなんだ!たとえ僕の知ってるアスカじゃなくても僕は・・・あんなアスカを・・・アスカがあんなままなのを・・・我慢できないんだ!!

あたしは思わず後ずさってしまった。
シンジのあまりの勢いに圧倒されて・・・・・シンジにこんな迫力が出せるなんて!

「すまない、シンジ君。僕の行動がことごとく後手後手にまわってしまったのを認めざるをえないね。君にあんなものを見せるつもりじゃなかったんだ」

「いいんだ、カヲル君・・・・だけど僕はアスカを連れてくつもりはない」

「待ちなさいよシンジ・・・・あたしは行く気はないわよ。だけどあんたを行かせる気もないわ!」

あたしは窓を指さした。
向こうの世界の無様な姿のあたしの映る窓を。

「あいつがいくらあたしそっくりだからといってあんたが行く事ないでしょ!元々住む世界が違うんだから!そういうのをよけいなおせっかいっていうのよ!!」

自分でもなんだかきつい事言ってるなって気がした。
でも・・・止められない!

「判ってるよ!だけど理屈じゃないんだ!僕は・・・何もしないであのままアスカを放っておいたら・・・・きっと後悔する・・・だから!」

なによ、あたしがこんなに心配してやってるのに!
あいつとあたしとどっちが・・・・・あれっ、あたし何考えてるの?

「二人とも、お取込み中悪いけどこっちをごらん」

カヲルの声にあたしとシンジは同時に振り向いた。
そこにはさっきと違う景色が窓に映っていた。
細長い金属の筒の様な物・・・・ふたが開くとなんだかとろっとしたオレンジの液体がこぼれだした。
誰かが走り寄って来た・・・・ミサト!?
窓の視点が筒に寄ると開いたふたの中の様子が見えた。
人がいる・・・・うずくまって・・・・震えている。
さらに視点が近づき顔のアップになる。

「シンジ・・・・・」

抱え込んだ両膝におでこをつけて、まるで痛みに耐えるかのように顔をしかめながら、シンジは涙をしたたらせていた・・・・・
ミサトが顔を近付けて何か言ってるみたいだけどシンジは聞こえてないらしい。
というより自分の周りのものを拒んでるって感じだった。
さっき見たおぞましい光景があたしの脳裏を過った。
こいつ、カヲルを・・・・・だからこんなに・・・・・ シンジ・・・・
あたしの知ってるシンジじゃないのに・・・・何?この気持ちは・・・・
上から押しつぶす様な重苦しい感覚があたしの心を支配し始めた時、凛とした声が響いた。

「シンジ君は相当傷付き苦しんでいる。そんな彼に僕は今まで何もしてやれなかった。でもそれも今日までの話だ。僕は・・・・・・明日、エヴァの世界へ出発する!」

「カヲル君!」

「明日ですって!」

どういうつもり?こっちは今さっき事情を知ったばかりなのよ!
シンジとえらい差をつけてくれるじゃない。
なんでもっと早く説明してくれなかったの!

「もしかしたら僕はエヴァの世界へ行く事に怯えがあったのかもしれない。だから旅の扉を開くのを先送りにしていたんじゃないかと自分に問い掛けた事もあった。君達に接触するのにも日数を費やしてしまったしね。だけど後悔してる場合じゃない。今、行動しないと手後れになる!シンジ君、アスカ君、明日までに答えを出して欲しい・・・・自分の意志でだ!君達がNOと言っても僕は一人でも行くよ」

カヲル、あんた・・・・・・
あたしはカヲルが生半可な覚悟じゃないって事を今、やっと理解した。

カヲルが手を触れると窓が縮小してゆき、二、三秒で消えてしまった。
日当たりの悪い教室の中に灯っていた唯一の光源がなくなり、あたりに黄昏の寂しさがひろがった。

「これで僕の話は終わりだ。明日の朝いつものように学校に登校してきた時、答を聞かせてほしい。YESでもNOでも僕の君達に対する気持ちは変わらない。会えて良かったよ・・・・」

言いおえるとカヲルはやっと彼らしい笑顔をあたし達に投げ掛けた。
これまでカヲルの造りものみたいな顔からわいて出る笑顔は、気持ち悪いだけだったけど・・・・
こいつの笑った顔を見てほっとしたのは初めてだわ。
カヲルはカヲルなりに悩んでたのね、ずっと。
人には言えない特別な力を持ってしまっために、もう一つの世界を知ってしまったために、色々と・・・・・

さて・・・・・・

あたしはシンジを見た。
シンジはうったえかける様な眼であたしを見つめ返す。
・・・・・そうね、帰ってからじっくり話しましょう。
明日まで時間は十分あるんだから。
 



 

「食べたくない」

「どうしたの、アスカ?」

あたしが食卓にもつかずに部屋を素通りしようとしたから、当然ママが問い掛けてきた。

「なんだか食欲ないの」

「アスカ!近頃おかしいわよ?少し位ならともかく、まるごとなんて・・・何があったの?」

「べつに・・・・」

口ごもるしかなかった。
適当な答なんて用意してないし、思い浮かびもしない。

「そんな訳ないでしょ!アスカ・・・ママには話してくれないの?!」

心配そうに問い詰めるママを制してパパが冷静な口調で聞いた。

「アスカ、体の調子がおかしいのか?医者に診てもらったほうがいいぞ」

「パパ!そんなんじゃない!・・・んだから・・・・」

明日は答をカヲルに伝えないといけないのに医者なんか行ってられない。

「じゃあ、なんなんだ?」

手に持ったフォークを置いてパパがあたしをまっすぐに見た。
パパはちゃんと答えないと目を離してはくれそうにはなかった。
ママもパパにならい姿勢を正してあたしをみつめる。
困っちゃったな・・・・・

「とにかく体がどうのとかじゃないわ、ホントよ」

「じゃあ、心のほうか?恋の悩みとか」

「ええっ?な、何言ってんのよパパ!」

「どうなんだ、キョウコ?」

「どうって私に言われても・・・」

パパ!勝手に話を進めないで、もう!

「シンジ君と喧嘩したのかな・・・最近シンジ君への愚痴が増えたと思わんか?」

「そうですわね、今朝も怒りながら起こしに行ったし・・・」

二人とも眼前でひそひそ話しないでよ!
パパが再びあたしに視線を向け、真面目くさった顔で言った。
 

「やっぱり恋の悩みだったか」

「パパ!!どういう意味よ!!」
 

一気に頭に血が昇ったあたしはそのまま部屋をどすどす足音たてて出て行った。
ホントに何考えてるのよ!・・・・・でも結果的にはこれでパパとママから逃れられた。

・・・・・少し頭を冷やそう。
あたしはバルコニーへのガラス戸を開けた。
もともと最初からここに行くつもりだったしね。
外に出るとあまり涼しいとは言えない風があたしの顔へ横なぐりに吹きつけてきた。
前方には見慣れた景色・・・・・・夜になりたての空に、数える程の星のまたたきが見える。
その下に無数の光の点描を作り出しているビルの明かり・・・・大方は、マンションのものだ。
そこではここと同様に、人の生活というものがある・・・・それぞれの・・・幸せかどうかは別として、とりあえず平和な・・・・・
だけど今日知ってしまったもう一つの世界では・・・・
こっちの世界でも平和でない所もある。
でも海の向こうの話、まさに対岸の火事ってやつで実感もないし、どうにかしようって気もしなかった。
あたしは・・・・どうしたいんだろう?
あっちの平和でない世界と不幸な人達を。
バルコニーの手摺にもたれたあたしの髪を、ぬるいけど強い風が真横になびかせる。
 

「ねえ、シンジ・・・」

「・・・・・・・」

やっぱりいたか。
そんな気がしたのよ。
偶然じゃなくてお約束ね。
あたしは瞳だけを右に向ける。
シンジは左手を手摺の外に伸ばした。
風になびいているあたしの髪に触れる。
大胆ね、そんな事して恥ずかしくはないの?
壁を一枚隔てたバルコニーの左隣と右隣・・・・
壁際に寄り、手摺から頭を出せば会話をする事ができる。

「アスカ ・・・・どうするつもり?」

まだ決めてない・・・それを考えるためここに出たのよ。

「あんたは自分だけで行くって言ってたわね?」

「うん・・・」

「カヲルは二人一緒じゃなきゃだめだと言ったのに、なぜ?」

「だってアスカ・・・・・危険だし」

「それはあんたもでしょがー!」

何考えてんのよ!こいつ!
あたしに危険なものあんたに安全なわけないでしょ!

「だけど!・・・アスカは危険を承知で向こうの世界へ行けるの?そこまでして助けたい人がいるの?」

・・・・あたしは今日窓を見たばかりだ。
シンジのように感情移入をしては・・・・って誰に?
・・・・とりあえずシンジのほうを確認しとこう。

「シンジが助けたいのはあっちのあたしだけ?」

「ううん・・・・アスカと僕。あの二人を救えばエヴァの世界も救われるらしいし・・・・だけどやっぱりアスカの事が気になって」

あたしが最優先か。
当然よね、救いがいがある状態だったし。
だけど・・・・・・

「本当に救えるの?あんな廃人同様なのに」

「わからない・・・・・でもやらなくっちゃ!!あのままにはしとけないよ!」
 
 「そう・・・・」

シンジも覚悟は出来てるのね。
その原因があたし・・・もう一人の・・・複雑・・・・・
シンジが向こうの世界のあたしに入れ込んでるのはなぜかむっとする。
だけどどうして入れ込んでるかというと、あたしにそっくりって事が関係してるわけだし・・・・そんな理由で窓の向こうの異世界へシンジが行く気になるなんて!
ただの幼なじみなのに・・・・・・

あたしはどうなんだろう?
向こうの世界のシンジ・・・・友達を殺して・・・打ちひしがれて。
窓から見た様子じゃ殻に閉じこもっているみたいな感じだったわね。
あのままいけば彼も廃人になるかも・・・・・それでもあたしは無視できるの?
・・・・ふう、なんだか胃が痛くなりそう・・・・・

「アスカ」

「はっ!」

つい考え込んじゃった。
やだ、あたしどんな顔してたんだろ?

「答が出せないようなら、行かないほうが・・・」

「なんですってえ!」

どういう意味よ、あたしがそんな優柔不断な人間なわけないでしょ、あんたじゃないんだから!
決めたわよ、今、答を!!

「答ならもう決めてあるわよ、百万年前から!! 行・く・わ!!

「ア、アスカ!だってカヲル君に窓を見せてもらった時は反対してたじゃないか〜」

「何言ってんのよ!あんたは行く気じゃないの、バカシンジ一人に行かせられるわけないでしょ!!危なっかしくて」

「そんな・・・・」

「決定よ!」

シンジは沈黙した。
こうなれば何を言っても、あたしが却下する事くらいバカシンジだって判ってる。
あたしも沈黙した。
決定したはいいけど後、何を 言えばいいのかわかんない。
何かないかしら・・・・・
 

「・・・・・・・」
 

「・・・・・・・」
 

気まずいって感じじゃない。
ただなんとなく時間が流れて・・・・こういうのも悪くないか・・・・・・
 
 

風がやんだ。
シンジの目の前までのびていたあたしの髪がたれ下がってく。
右手で髪をつかむと手摺の内に引き入れた。
きっかけなんだから何か言おうか・・・・・・

「えっと・・・・あっちのシンジもバカシンジなのかしら?」

もー、何言ってんのよ、あたしは。

「何言ってんだよ、アスカ」

「なんですって!」

悪かったわよ、いいのが思いつかなかったんだもん。
でも、もしバカシンジだったら・・・・それはそれでいいかもしんない。
シンジはバカシンジだからシンジなんだから・・・・

「危険な旅なんだよ、わかってる?」

「わかってるわよ!冒険に危険はつきものよ!」

冒険、そうか冒険なんだ・・・・・
危険を冒してでも行く価値があるから。
しかもただの冒険じゃない、ある事さえ知らなかった異世界への冒険!
あたしは星の数が増えていく夜空をながめながら笑みを浮かべた。
 
 

「シンジ・・・・・・これは大冒険になりそうね!」
 

返答なし・・・・呆れられちゃったか。
 



 

食卓の料理はすでにかたづけた後だった。
せっかく気持ちがふっきれたのに・・・・・
今さら食べるなんて言えないし。
仕方ない、冷蔵庫に夕張メロンゼリーが残ってたはずだから、あれで我慢しとこう・・とほほ。
 



 

うらやましい・・・・・・・
なんでこいつはこんなにぐっすり眠れるの?
危険な旅と言ったのはあんたでしょが、その前夜によく熟睡できるもんね!
こっちは結局ロクに眠れなかった。
朝方になってウトウトし始めて危うく寝坊するとこだったわ!
もう時間がない。
それじゃ・・・アスカ、いくわよ!
 

「こら〜!バカシンジ、起きろ〜〜〜!!」
 
 

やっとシンジをたたき起こし、着替えやらなんやらして登校準備をシンジがやってる間、おばさまに紅茶をお呼ばれしたあたしはシンジをせかして食事をさせて、いってきまーすの一言とともにシンジを外に押し出して、学校目指して走り出す・・・・っていつもの通りじゃない、今日は冒険の日なのにシンジとはそんな話全然してな〜い!!
 走りながらでも話そうか・・・・・
 



 

始業時間ぎりぎりに校門をくぐり抜けると、

「やあおはよう」

なんとカヲルが笑顔でお出迎えしてくれた。

「お、おはよう、カヲル君」「おはよ・・・」

もう授業始まるってのになに突っ立ってんのよ、こいつ?

「ミサト先生はまだ来てないよ、だからもう少しゆっくりできる」

そうだったの。
あの遅刻魔〜、車なのに遅れるってのが腹立つのよ、あたし達は足使って来てるのに!

「ということで、答を聞かせてもらえるかな?」

授業前なので、だだっぴろい校庭には人っ子一人いない。
密談するには適当だけど・・・・なんか変。
まあいいか、それでは答を・・・・

行く!
  行く!

声がユニゾンしちゃった。
カヲルが苦笑しながら言った。

「やはり二人一緒を条件にしたのは正解だったね。君達をばらばらの状態にはしておけないよ」

「どーゆー意味よ!」

「とにかく良く決心してくれたね。感謝するよ、ありがとう」

「べつにあんたのために行くんじゃないわよ。自分の意志で決めたんだから」

「僕もだよ・・・」

カヲルはさらに表情をくずし、満面の笑みになった。
 

ぐおおおおおおんっ
 

あれは!ミサトのルノーの爆音!
駐車場への通路を見ると例によってすごい勢いで!
あれが道路だったらスピード違反よ。

「とりあえず教室へ行きましょ」

「うん」

「じゃあくわしい事は後で打ち合わせよう」
 
 



 
 
 ミサトの授業が始まる前にカヲルがあたし達に渡したのはワープロで打たれた文書をとじて作ったノートだった。
同じ物を一冊ずつ。
シナリオだそうな。
あたし達は授業中に教科書の内側に隠してこれを読みふける事になった。
内容はというとエヴァの世界の二人を助ける段取り、そして最低限知っておく必要のある予備知識、さらにくわしい、それこそネルフやゼーレの最重要機密までのってた。
他にはややこしい人間関係など・・・・・チルドレンってみんな悲惨。
救わざるをえないじゃない、これじゃ!
シンジ、これ読んで泣いちゃだめよ。

そんな調子で四時間目が終わると2バカやヒカリ達をなんとか振り切り(けっこう大変だった!)裏庭で打ち合わせを始めた。
まずまっ先に言っておかなきゃいけない事は!

「このシナリオは何!?なんであたしがシンジを抱きしめなきゃいけないの!!」

「だから用は元気づけてくれたらそれでいいんだよ、シナリオ通りでなくても」

「シナリオ通りでなくていいのね?分かったわ」

「カヲル君、いつ決行するの?」

「今日の2時さ」

「ええ?!」

「驚くことないでしょ、時間がないんだから」

「だから午後の授業はさぼってもらうよ。いいね?」

午後の授業は理科だっけ?いいや、あんなの。
 
 



 
 

学校を抜け出し、うちのマンションの屋上に着いた。
ここは人があまり来ないから。

「そろそろ2時だ、心の準備はできたかい?」

「今さらじたばたしないわよ、ねえシンジ?」

「うん・・・・」

かなり緊張してるな、こいつ・・・・あたしもだけどね。
カヲルは・・・・・・わからないわね、こいつだけは。
カヲルが右手を前に出すと青白い光がきらりと輝き、一気に1m半程の八角形の枠となり、中が周りと違う光景になった。
カヲルは窓の視点を色々と移動させ、最後にもう一人のあたしのいる病室に固定させた。

「・・・・よし!しばらくは病室に人は来ない。行こう」

カヲルは窓に触れ、ずぶりと両手を突っ込んだ!
さらに頭を突っ込む・・・・なんだか不格好。
と、急に頭を戻して、こっちに向かってにっこり笑いかけた。

「ここまでなら過去に何度もやったんだ。さあ、僕に続いて!」

カヲルは一気に窓の向こうに飛び込んでゆく。
その時窓は扉になった・・・・・
カヲルの姿が扉に吸い込まれ、消えた。
いや、消えたんじゃない・・・・・・扉の向こうでカヲルが手招きしてる。

「・・・・・シンジ」

あたしは震える手でシンジの手をつかんだ。

「アスカ・・・・」

「シンジ、いくよ・・・・せーの!」

あたし達は扉めがけて飛び込んだ!!
 



 

監視カメラに扉の青白く光る縁が重なり、何も写らなくしている、そうな。
あたしがそっちばかりを見てるのは、悲惨な姿のもう一人の自分を見るのがいやだから。
でもいつまでもこうしてられないのよね、あたしが主役なんだから。

「それじゃ、始めるわよ」

「うん」

「ほら、二人とも扉に首突っ込んで、早く!!」

言われる通り二人は扉に首を・・・・こら!シンジ振り向くな〜!!

「見たらコロスわよ!!」

シンジに凄むとあたしは服を脱ぎ始めた。
次に・・・・こいつに付いてるコードを取って・・・・急がなきゃ!
ほんと、やだなあ・・・・あたしそっくりの生ける屍・・・ううん割り切らなきゃ!
服を脱がせて・・・・・・あたしが着て・・やだ、じっとり・・・とにかくこれでOK!
はっまだだめ!こいつに制服着せなきゃ!!
二人ともふりむかないで!
・・・・・・ふう、やっと終わった。

「いいわよ!」

間抜けな状態で突っ立ってる二人のお尻をポンとたたくとあたしはベッドに寝転んだ。
はずしたコードをつける。

「ええと、これはここらへんかしら?」

「アスカ、それはそこじゃ・・・」

う〜わかんない!

「とにかく心音と点滴が正しきゃ後は適当でいいわよ」

「そんないいかげんな・・・・」

なんとかつけ終わるとベッドの下に転がってるもう一人のあたしを眺めた。
やはり少し痩せてるわね、まあこんな状態じゃ当然だけど。
でも、それはお互い様・・・・
まさか最近食が進まなかったのがこんなとこで役に立つとは思わなかったわよ!
さて、後は・・・・・

「それじゃ、僕達は行くよ・・・・」

シンジとカヲルがもう一人の・・・この呼び方面倒ね、エヴァアスカを肩にかついだ・・・う〜ん、これも今いち。
ちょっとの間あたしだけこの世界にとり残されるのか・・・・

「アスカ・・・・・また後でね・・・・がんばって!」

「うん・・・・」

扉に向けて進んでく。
ゆっくりと三人の体が扉に吸い込まれていった・・・・・
扉の向こうからシンジが手を振る。
あたしも手を振ると、シーツをかぶった。
二つの世界をつなぐ扉が縮小して消えていく。
カメラも復活するはずだ。
これからあたしはあたしを演じなければならない・・・・・・
 
 
 

・・・・・足音が近づいて来た。
鼓動が高鳴る。
落ち着いて!
やって来るのはバカシンジじゃない、大丈夫よ。
 

がちゃり
 

ドアの開く音がした。
 
 

あたしの冒険が始まった・・・・・・
 

その0終わり
 



 

その5予告
 

二つの世界のシンジとアスカ。
これからいったいどうするのか?
マージャンでもやるか?ちがーう!
ええと、カヲルのシナリオによると今後の身の振り方は・・・・シナリオなんて役に立つの?
次回シンジアスカの大冒険その5、
 

アスカとシンジとシンジとアスカ(仮題)
 

「なんで今回だけ仮題なの?」
 



 

え〜、なんで番外編かというと、まずタイトルどおりの話を書きたかったということ。
あとはその1に至る経過や細かい部分を詳しく説明するということで・・・・
映画はわからんままやったしな〜。
次回は・・・・・なんとも言えないです。

「エヴァと愉快な仲間達」をプレステごと買ってしまった。
シンジの望みって何?
まさか・・・・・・・・
 

ver.-1.00  1998+7/24公開
ご意見、御感想、誤字などの情報は m-irie@mbox.kyoto-inet.or.jp まででっせ





 えいりさんの『シンジアスカの大冒険?』その0、公開です。




 冒険への旅立ち〜


 もう一つの世界の自分と幼なじみ。

 分かり易いシンジと意地っ張りのアスカ、
 どちらも、所詮別人とほっておくことが出来ないんですよね。

 優しいよね(^^)


 もう一つの世界の自分のため
  ではなく、
 もう一つの世界の幼なじみのため

 ホンマにええ子たちや・・・



 自分に複雑な嫉妬をする学園アスカ、可愛いね♪

 自分以外を見つめるシンジ、
 でも、それはもう1人の自分、
 EVAアスカのために危険を冒そうとしてくれている、
 危険だから来るなと言ってくれる、

 学園アスカちゃん、複雑だけど嬉しそう?!






 さあ、訪問者の皆さん。
 一言でも全然OK、感想メールを書きましょう!



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