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大ぼけエヴァ

第弐話「ひしめく群獣」

ピ〜ンポ〜ンパ〜ンポ〜ン

「あ〜、やっと終わった。」

生徒ではなくミサトのセリフだ。
生徒以上に授業が退屈な教師ミサト・・・・
「それじゃね〜」

ミサトが出ていくと同時にクラス中の生徒がレイの前にあつまってきた。
真っ先にヒカリが話しかける。

「あたし洞木ヒカリ、仲良くしましょ、わからない事あったらなんでも聞いてね」

などと委員長の手本みたいなこと言ってると、横からトウジが割り込む。

「わたくし鈴原トウジいいます!以後よろしゅうに。鈴原です!」

「鈴原、なにやってんの!」

「どけよトウジ!ビデオ撮ってんだから!」

「なんやと!」

シンジはそんな会話に加わらずアスカの様子を覗き見る。
アスカは苦虫噛みつぶしたような顔でこっちを見ていた。

(アスカ・・・なんでおこってるんだよー、僕なにもしてないのに・・・)

シンジが思い悩んでる所へレイが声をかけてきた。

「碇くん、次の授業は何?」

「へ?」

「へ?じゃないでしょ!次の授業も教科書借りられるかと思って。男女別の授業もあるし」

「あ、そっか。えーとつぎは・・・あっ

「ど、どうしたの?」

「次は実験の時間だ・・・・」

瞬間、クラスが凍り付く。レイの転校さわぎでほとんどの生徒が忘れていたのだ。
ただならぬ雰囲気にとまどうレイ。

「いったい実験がどうしたっていうのよ・・・・・」




「ほっほっほサキエル、シャムシェル、ガギエル、それに・・・・カオル、ごはんですよ〜」

薄暗い室内に金髪が鈍く光る。

「もうすぐ授業だからおとなしく食事しててねー私の可愛い天使たち・・・」




「ここが理科室だよ」

そう言いながらシンジは戸を開ける。

「ねえ碇くん、理科の先生ってどんなひとなの?」

「うん・・なんていうか、とにかく・・・あぶないんだよ」

「それじゃわかんないでしょうが!」

背後からアスカがわって入る。

「赤木リツコ、第3新東京市立第壱中学校のマッドサイエンティストよ。理科準備室に勝手に自分専用の鍵つけて誰も入れないようにしてるの。その中で得体の知れない研究をしてるって噂よ。しかも授業の半分が実験!教科書に書かれた実験は必ずやらなきゃ気がすまないって性格で特に解剖の実験の時は・・・ 眼がいってるのよ!

一気にしゃべって息の荒いアスカにレイが聞く。

「じゃあこれから解剖の実験があるの?アスカさん」

「ハァッハァッそうよ!・・アタシあんたに名前言ったっけ?」

「碇君の机に書いてあった」

「・・・・・(真っ赤)あのね」

「フルネームもおしえてよ、アスカさん」

「惣流アスカ・ラングレーよ!」

「ふ〜ん、ラングレーは姓なの?名前なの?」

「アンタいっぺん殴ってもいい?」

「やめてよ、ラングレーさん」

「アスカでいいわよ!」

「あの、アスカも綾波ももうすぐ授業が始まるから・・・仲良くしてよ」

「ぬぁんですってえ〜」

勇気を出して二人の間に口をはさんだシンジをじろりとにらむアスカ。

「よく聞いてよ!これからカエルの解剖やらなきゃいけないんだよ。僕ら三人一組で!」

「へ?」(レイ)

「あ!」(アスカ)




リツコ先生はミサト同様、席順に無頓着である。
生徒が勝手に席を決めているが、理科室の机は三人掛けだ。
シンジの席は窓側の最前列、しかもアスカと二人だけ。
端数が二人なのでこうなったのだがレイは当然この机にすわる事になる。
レイは左の窓側に腰掛けた。
左からレイ、シンジ、アスカ、ちなみに右隣の机はヒカリ、トウジ、ケンスケ。

「ごめんねー、二人っきりのとこを。」

「アンタ、まだやる気なの?」

「だから二人とも、これから大変なんだから・・・」

ピ〜ンポ〜ンパ〜ンポ〜ン
チャイムが鳴った。いっきに緊張する理科室の空気。
理科準備室のドアが開くと、金髪に白衣、ゴム手袋つけてポリバケツを持った赤木リツコ先生が現われた。
すばやくドアを閉めカードキーでカギをかける。
ドアの向こうを見る間もあたえない。
ニッコリ笑いながら教卓につく。

「はーいそれでは・・・欠席者いないわね、感心、感心、じゃあお待ちかねのカエルの解剖を始めまーす!」

誰も待ちかねてない!
欠席者がいないのは欠席するとリツコにチェックされ、後で不幸な目に会うという噂があるからにすぎないのだ。

(これがこの学校のマッドサイエンティストかあ)

リツコを初めて見るレイの感想はというと・・・

(それほど異常って感じでもないけど。ミサト先生と違って楽しそうに授業をやろうとしてるようだしね。・・・やけに目の荒い白衣ね。毛糸でもない し・・・?う〜ん、まっいいか)

リツコは教卓にポリバケツをドンと置くとフタをとる。

「この中にみんなが解剖するカエルがはいってます。トノサマガエル、ガマガエル、イボガエル、アマガエル、よりどりみどりよぉ〜、さあ、早い者勝ち!みんな取りに来て〜」

そう言われてはいそうですかと取りにいけるもんではない!
生徒が皆、動けないでいる中でレイが立ち上がった。

「私が取りに行くね。こっちに引っ越して来る前の家、けっこう田舎でカエルなんか飽きるほどいたから全然大丈夫よ」

さっそくバケツの前まで行くと素手で選別を始める。

「あら、あなた転校生ね。」

「綾波レイです、よろしくー」

「あなたなかなかの手際ね、スジがいいわ!」

「そうですか、てへへへ・・・」

(リツコ先生と会話がはずんでる・・・・)

(この女、怖いものなしなの?)

シンジとアスカが呆れる中、レイはバケツから一匹のカエルを選びだして戻ってきた。

しかし持ってきたカエルは・・・なんと頭から足の先まで30cmくらいはある!

「ねーとって来たよ、一番大きなの。食用ガエルっていうのよ、これ!」

「アンタバカァ?!一番おっきいのとってきてどーすんのよ!」

ドサッ

「うわああああああ」

「キャ〜直接机に置くな〜」


「だいじょうぶ、死んでるみたい」

パニック状態のとなりの様子を見ていてケンスケは思った。

(なるほど、こりゃ確かに早いもの勝ちだ・・・・)

急いでバケツまでたどり着くと一番小さなアマガエルをつまみあげる。

「おおお、ようやった、ケンスケおまえはたいしたやっちゃ!」

「な〜に、サバイバルゲームで鍛えてるからね、はっはっは」

「とにかく小さいのでよかったわ、カエルには変わりないけど」

トウジ達が喜ぶなか、早いもの勝ちの意味を知った他の生徒達はあわててバケツに殺到する。
そしてそれこそ早い順に小さいカエルをゲットしていった。




「さあ、みんなカエルはいきわたったわね。」

上機嫌のリツコは自分用のカエルを三匹、調理用のマナ板に並べた。
解剖の手順を3段階に分けて説明するため、わざわざ三匹使うのだ。
そのため横長のマナ板を用意しておく周到さ。
もはや本人の楽しみだけのためにやってるとしか思えない。
マッドサイエンティストと呼ばれるのもムリもない所だろう。
まず、一匹目のイボガエルの腹をピンセットでつまむ。

「最初に腹の皮膚をピンセットでつまみ、解剖ばさみで縦に切ります。そして、そこから後ろ足のひざ当たりまで切って・・・」

リツコの顔は実に嬉しそう、目がより目になり口元には笑みさえこぼれてる。
快楽に酔いしれているリツコのその姿に生徒達は戦慄する。

「どう、わかったでしょ?あの先生のヤバさ」

「うん・・・・」

さすがのレイもアスカの問いかけにうなずくしかない。

「・・・前足はこう。さあ、ここまでみんなやってみなさ〜い。」

そういうと、自分は二匹目のモリアオガエルの皮を切り始める。

「あたしパス。シンジやって」

「そんな・・・なんで僕に押し付けるんだよ」

「アンタ、男でしょ、こういう事はかよわい女性やらせるもんじゃないわよ」

チョキチョキチョキ。

「レイ!アンタいつの間に!」

「これでいいかなっと。さっきも言ったけど私の前住んでた所でよくカエルにストローをお尻にさしてプーっと空気を・・・」

「それはさっきは言ってないわ」

「とにかく私にまかせてよ。だいじょーぶ!」

レイはてきぱきと作業を進めていく。

「シンジ、レイって変わってるわねえ」

「うん・・・・」

レイのキャラクターをつかみきれないでいるシンジ。

(かわいい子には違いないんだけど・・・・・でもなんか気になるな)

一方、リツコは二匹目のモリアオガエルの皮をピンで止め終わった。

「さて、このようにひろげた皮をピンで止めます。いわば張り付け状態ね。こうやって固定しておいて・・・・いよいよ肉や骨をメスで切るのよ〜、だから早くピンで止めるとこまでやってちょうだい、ね」

そう言いながら三匹目のツノガエルをさばき始めるリツコ。

(あのババァ、カエルのたたりで早死にするわ)

アスカがそう思っていた所にレイがすっとんきょうな声をあげた。

「あ、しまったあ」

「ど、どうしたの、綾波」

「ピン刺す前に中開いちゃった!」

「ええっ?」

見るとすでに内蔵が見えるほどカエルの胸のあたりがひらかれてる!

「うわっ」

目をそむけるシンジ。

「ねえ、碇君、アスカ、これ心臓かしら?」

「見たくないわよ、そんなもん!」

「見ちゃダメだ、見ちゃダメだ・・・」

「だって、どっくんどっくん動いてる・・・あれ、このカエル死んでるんじゃなかったっけ?」

「生きてるわよ」

ひえっリツコ先生!」

いつのまにかリツコが後ろに立っていた。

「麻酔で眠らせただけだから。はやく解剖しないと麻酔が切れるかもよ。特におっきいのはね〜、うふふふふ」

たのしそーに笑って立ち去るリツコ。

「じょーだんじゃないわよ、レイ、アンタどーして一番おっきいのを取ってきたのよ」

「だいじょうぶ、ピンで動けないようにしとけばっと・・」

レイがピンを三、四本刺したその時、
びくっ

「あっ」


突然、カエルがもがきだした!

「キャアアアアアアアーーー」

「ひいいいいいいえええーー」


「ダ、ダメよ動いちゃ」

体長30cmの大きさではピンなど意味はない。
板を背負ったままムクリと起き上がり四つんばいになる。

「モー、モー」

「ひぃっ、な、なんでアンタ、モーモー鳴くのよ!」

「ア、アスカ、食用ガエルはまたの名をウシガエルというの・・・」

こんな状態でQ&Aしてる場合じゃない。

ぴょん

カエルはアスカに向かって跳んできた!

「ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜」

アスカは反射的にシンジを起こす時に使う必殺の脳天唐竹割りを見舞った!

グシャッッ「 モォォ〜」

内臓飛び散らしながら吹っ飛ぶカエル、その先には・・・理科準備室のドア!
ドアには曇りガラスの窓があった、そこめがけてカエルが突っ込む!

ガッシャアアアアン

「ああ!」


真っ先に反応したのはリツコである。
恐ろしい速さでドアまで走り、カードキーを取り出すとカギを開け、中に入るとカギをかける。
割れた窓から破片を取り除き、素早くボール紙をガムテープで張り付けてふさぐ。
この間20秒!
リツコは片手にガラスの破片が頭につき刺さった血みどろのカエルを持って出てきた。

「ほほ、続けましょうか・・」




「ぜーったいおかしいで、んぐ」

トウジは焼そばパンをほおばりながらしゃべる。
今は昼食時間、教室でシンジ達が食事をしている所だ。
いつものシンジ、トウジ、ケンスケの三バカトリオにアスカ、ヒカリ、それにレイも加わっている。

「だいたいあの後、リツコ先生めっちゃテンション落ちまくりやったやないけ」

「そうだな、なんだか割れたガラス窓のほうばかり見てたようだし・・」

ウーロン茶飲みながらケンスケが相槌を打つ。

「あの中なんかあるで」

「なにがあるってのよ?」

シンジのウインナーを横取りしながらアスカが問う。

「そんなもん、入ってみな分かるけえ!」

「ねー、それじゃ入ってみるの?」

2個目の夕張メロンパンの袋をあけながらレイが聞く。なんだかうれしそう。

「よしなさいよ、鈴原、勝手に入っていいわけないでしょ!」

「そうだよ、第一あのリツコ先生の私物化してる部屋だよ、いったい中に何があるかわかんない・・・危険すぎるよ」

ヒカリとシンジは反対派にまわった。

「今しかない!窓がボール紙やしな」

「・・・・よし食事が終わったら作戦を実行に移そう」

「なにいうんだよ、ケンスケ!無謀だよ!」

「シンジ、これは究極のサバイバルゲームかもしれない・・・いやゲームじゃない、実戦だ!ドアの向こうは戦場だ!血が騒ぐぜぇぇぇ」

ミリタリーおたくの世界に入り込むケンスケ・・・もはや説得不能だ。

「よし、多数決や、賛成のもん手ぇ上げろ」

トウジ、ケンスケ、レイ・・・そしてアスカも手を上げた!

(そんな・・・なんでアスカまで〜)

シンジの不幸はここから始まったのだ・・・




「ね〜、やっぱりやめましょうよ〜」

「アホ言え、ここまで来て今さらやめられるかいな、イインチョは帰ってええで。」

「そ、そんな・・・・」

普段とちがいトウジに強気に出られて絶句するヒカリ。
さすがのヒカリも4対2では分が悪い。
唯一の味方、シンジもあてにできそうにない。

「ほーらシンジ、アンタも覚悟決めなさい、今日こそはあの金髪変態マッドサイエンティストババァの正体暴いてやるわ」

「ううう・・・」

ケンスケは鞄からふだんは鉛筆削るのに使ってるサバイバルナイフを取り出した。

「よし、まず窓のボール紙を切る!」

ブスッスコスコスコ・・・ボール紙はあっさり切り取られた。
中をのぞく。

「暗くてよく見えないな・・・やはり誰か中に入らないとな」

「ね〜、やっぱりやめましょうよ〜」

「窓は小さいからな。中は暗いし・・・ってことはだ」

「なんや?」

「細身で眼のいい者が入るべきだ」

いざとなると、さりげなく自分を除外するところがセコいケンスケ。
アスカがジロリとシンジをにらむ。

「シンジね」

「えっなんで僕が!」

「アタシら女子がやったら入るときスカートの中丸見えじゃない!まさか見たいってんじゃないでしょうね」

「くくく、パンツ覗き魔・・・」

「よっしゃ、きまりや!」

シンジの抵抗もむなしく結局窓から侵入させられる事になった。




ここは職員室。昼食を終えたミサトが物思いにふけっていた。

「あ〜、転校生を紹介した後、すぐ授業始めたのはまちがいだったわねぇ〜」

「あ〜、窓をガラスのままにしておいたのはまずかったわね〜」

「あのあと生徒に自己紹介でもさせておけば一時間まるごとつぶせたのに」

「ドアのセキュリティシステムに金かけすぎて窓まで手が回らなかったのよね」

「こんど転校生来たらもっと時間かせいで・・・」

「早く窓をチタン合金の板でふさがなきゃ・・・」

「あら、リツコいたの?どうしたの顔色悪いわよ」

「あら、ミサト、ちょっと授業で事故があって」

授業=実験・・・ミサトはそれ以上聞かないことにした。
ミサトとリツコは大学時代からの親友である。
そのころ一度実験中のリツコを訪れてひどい目にあって以来、ふだんと実験中ではリツコのモードが切り替わるのを知り、そっちの人格にはかかわらないようにしてる。

(さわらぬ神にたたり無しってね。なにか別の話題をさがさなきゃ)

ミサトがそう思ったそのとき!

ピピピピピピピッ

リツコは白衣のポケットからポケベルともたまごっちとも手りゅう弾ともつかない代物を取り出した。
液晶画面にバチアタリシンニュウと出ている。
リツコは授業終了後、大慌てで窓からの侵入者用センサーをでっち上げておいたのだ。

「いけない!理科準備室に誰か侵入したわ!」

「なんですって!」

急いで職員室を出ていくリツコ。

(やだな〜、よりによってあんな所に!でもほっとくわけにもいかないし・・・え〜い当たって砕けろよ!)

ミサトはリツコの後を追うことにした。




「い、痛いよトウジ」

「もう少しで尻が入る、がまんせい!おい皆手伝え」

「ね〜、やっぱりやめましょうよ〜」

「え〜い、このバカシンジ!」

アスカがいつもシンジを起こす時の要領で尻に張手を見舞う。

バシン!ズルッゴン・・・

尻が抜け、シンジは頭から床に落っこちた。

「痛った〜」

「大丈夫か?早よ電気のスイッチさがせ」

「うう〜ん・・・スイッチ?」

シンジは起き上がるとあたりを見回す。
暗い。窓からさしこむ光をたよりにドアの周りをしらべるがスイッチはない。

「ないよ・・・ふつうドアの近くにあるもんじゃないの?」
「よし、これ使えよ」

ケンスケがペンライトを差し出した。
受け取ってスイッチを入れる。
光を当てた先にはビーカー、フラスコ、メスシリンダーなど置かれた棚、ヘビやカエルなどのホルマリン浸けが置かれた机、そして・・・

「わっ」

「どないした!」

「・・・・なんだ人体模型か・・」

「どあほ、ビビるやないけ」

「ね〜、やっぱりやめましょうよ〜」

「シンジ、もっと奥の方に光当ててみいや」

奥の方は真っ暗でなにも見えない。
光を当てると・・・・

「?ウサギ小屋・・・」

「なんやと?」

「ウサギ小屋みたいなのがあるんだ」

「よっしゃ、行ってみいや」

「え〜!やだよ、もう」

「あほか、いつまでもドアの前にいても探せる範囲かぎられてるやろが、早よいけ!」

「でも・・・」

「バカシンジ!男でしょ、いきなさい!」

「ね〜、やっぱりやめま・・・誰も聞いてくれないのね・・・うっう」

「碇君がんばってー」

「ううう、人事だと思って・・・・」

仕方なく奥へ歩き出す。
足が震えてはやく歩けない。
今、シンジの心に恐怖が足元から這い上がってくる。
やっとの思いでウサギ小屋にたどりつき、ライトを当てる。
シンジの鼓動がいっきに高まった。
ウサギ小屋の扉らしきものが見えた時!

「あなたたち、なにやってるの!」

「うわっ」


シンジは突然のリツコの声に驚き、ころんでしまった。
小屋の扉にぶつかり、扉のかんぬきがはずれる。

「うう〜ん・・・」

シンジが体を起こすと扉がゆっくり開いてゆくのが見えた。
反射的にライトをあてる。
シンジは扉の中から出てきたモノと目が合った。
しかし、シンジと合ったそのモノの目は・・・・・・複眼だった!

「うわああああああああ」

シンジの悲鳴をよそにそのモノはゾロゾロと出てくる。

「い、い、い、い、いもむし・・・

数十cmはあろうかという、いも虫の群れがシンジの前ではい回っている。
そのうちの何匹かがシンジの体にはい上がってきた!
恐怖のあまりまったく動けないシンジ。
そして一匹のいも虫がシンジの手から肩へ、肩から首へ、首か ら・・・・・・・・・・・顔へ!

「うッひはっへほっっほふふふふ・・・・うわ〜

シンジは失神した・・・・・・




「カイコですってえ?」

ミサトが叫んだ。ここは保険室、の前の廊下。
ミサトにリツコ、トウジ、ケンスケ、ヒカリがいる。

「そうなの、あれはカイコの10齢なの」

「じゅーれい?」

「そう、カイコの幼虫は4回脱皮して5齢まで成長してサナギになるの。普通はね。」

「普通はねってリツコ、あんた・・・」

「私の母が高校生の頃は授業にもあったのよ、カイコの実験。カイコには頭部の後ろにアラタ体がありアラタ体ホルモンをだす。胸部には前胸腺があり前胸腺ホルモンをだす。この2つのホルモンが分泌されてる間はカイコは脱皮を繰り返すの。」

(難しそうな話。苦手だわー)

ミサトは顔をしかめる。

「カイコは5齢になるとアラタ体ホルモンが分泌されなくなり、繭をつくりサナギになるの。もし、4齢の時点でアラタ体をとっちゃったらどうなると思う?」

聞かれても誰も答えるような気分じゃない。

「4齢でサナギになるのよ。他にもカイコの体の真ん中を糸でしばるとホルモンが後ろに流れなくなって前は幼虫、後ろはサナギなんてゆかいな事もできるのよ〜。で、ここからが本題!もし5齢になってもカイコにアラタ体ホルモンを注射し続けたら・・・・」

リツコの目が輝く!

「6齢になるの!母にその後どうなるのか聞いたらやはり6齢はムリがあって死んでしまうらしいってことなのよ。だけど!そんなこと実際にやってみなければ解らない!それからよ、私の研究が始まったのは・・・あのカイコ達は私の大切な研究成果なの。失敗を繰り返すこと十余年、やっと10齢までたどり着いたの、うふふふふふ・・・」

(いけない、狂気モードにはいってる!)

警戒するミサト。

「どう、放射能なんかじゃ現実には生き物は巨大にはできない、遺伝子操作の一言ですますんじゃ夢がない、私の研究には、あのカイコには、少女の素朴な疑問から出発した夢とロマンがあるのよ〜!」

(少女の夢とロマンをそんなものにかけるとは・・・そりゃ結婚できんわ・・・)

ミサトはよく今までリツコと親友でいられたものだといまさらながら呆れ返ってしまった。

「という訳で今回の事はないしょにしてね。御願い!」

「あんた気絶した者までいるのよ、理由はどうあれ!」

「そこをなんとか!私のかわいいカイコ達の吐いた糸で編んだスカーフあげましょか?腹巻きもあるわよ。あったかくて感触いいのよ、これが。この白衣もそうなのよ」

白衣を見せながらポーズをとるリツコ。

普通のカイコが数cmだから体長数十cmのカイコの吐く糸なら太さも十倍くらい・・・道理で白衣の目が荒いわけだ。

ミサトは数十cmのカイコが糸を吐く姿を想像して気分が悪くなった。

(うえ〜気色悪い。とにかく事を穏便にすませないと)

マッドな状態のリツコを怒らせたらどんな目にあわされるか分からないのだ。

「そうねえ私はどっちかというと身につけるものより・・・」

「わかったわ。フランス料理のいい店知ってるのよ、今度行きましょ!」

「ううん、そんなのいいわ。エビチュビール2ダースで手を打ちましょ!」

「・・・・ミサト、あんたって人は・・・」

「あんたに呆れられたくないわよ」

本当に呆れはてたのは二人の会話を聞いてたヒカリ、トウジ、ケンスケだった・・・




「うう・・・・」

シンジは眼を覚ました。
天井が視界に広がる。

(知らない天井だ・・・・・)

よく見るとその天井にはり紙がしてあった。

ここは保険室でーす(はぁと)

誰か知らないけど実に行き届いた配慮である。
シンジは保険室のベッドで眠っていたのだ。

(そうか、保険室かあ・・・)

「シンジ!」「碇くん大丈夫?」

シンジの視界に二人の少女が割って入る。

「あ・・・・アスカ、綾波・・・」

「シンジ、あんなことさせてアタシが悪かったわ、ごめんなさい・・・まさかこんな事になるなんて!」

「碇君、私も調子にのりすぎたみたい。ゴメンね」

(?、なんでアスカがこんなやさしいんだろ?それになんでこんなとこで寝てるんだろ?)

シンジは記憶をたどる。

(ええっとたしか・・・・・・いもむし・・いもむし?)

「い、いもむしいいい、うわあああっ」

「シンジ!」「碇くーん」

シンジはふたたび深い眠りについたのだった・・・・



                   第弐話完


次回予告

夫婦ゲンカ・・・それはシンジが一度もみた事のないもの・・・
レイが碇家を訪れたその日、シンジとアスカはユイとゲンドウの最初で最後の夫婦ゲンカを目撃する!
次回大ぼけエヴァ

第参話「ならいいですわ」


さて、この次も

「ユイ、話を聞いてくれえ〜〜〜〜」


NEXT
ver.-1.00 1997-07/06   公開
ご意見、感想、誤字などの情報は、 m-irie@mbox.kyoto-inet.or.jpまでお送り下さい!
神田さんの意見を取り入れセリフの間を開けました。どーでしょーか?
カイコの資料を探そうと高校の参考書を立ち読みしてびっくり、今は授業にないんですねーカイコの実験。
そら年とるわけや。これでは巨大カイコにリアリティ感じてもらえんなー。
次回はある意味正念場。映画公開にまにあうか?

 えいりさんの『大ボケEVA』第2話、公開です。
 

 イってるぞ・・・リツコ・・・
 怖い・・・・
 MADの二つ名。正に本領発揮。

 それに対等つきあえるレイ。
 キャラ濃いなぁ(笑)
 田舎時代の想い出がまた凄い(^^;

 転校初日ですっかり馴染んだ愛らしさ。
 それとのギャップが最高ですね(^^)
 

 シンジの苦難の学園生活に合掌です。
 

 さあ、訪問者の皆さん。
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