息せき切って駆けつけたのはQ-8フロア。
正面入り口までの廊下のいたる所に沢山のへこみが出来ている。
シンジは走り込んで思わず顔をしかめた。
フロアは無残なまでにボロボロになっている。
壁や床だけでなく天井にまで破壊された後が残り、
窓も割られたらしく閉じられた緊急用シャッターにまでも無数のへこみが出来ている。
ガタン
シンジはライフルを構えて音のした方を向いた。
『シュロロロロロロ………!!』
金色のボディで腹部に赤い球の収まった『使徒』。
最初の奴にも似ていなくも無いその姿。
違うのは体の色とそのいでたちだった。
まるで万歳をしているようなそのフォルム。
それがすばしっこくぴょんぴょんと走り回ってまるで遊んでいるかのようだ。
ガタン
足元のガレキにつまずいて壁にぶち当たり、穴を増やす壁。
『使徒』の方は平然と踊り続けている。
「あ!」
シンジは目を凝らした。
変な形に曲げられた金属パイプの柱の陰に、2人の男が座り込んでいる。
1人は気絶しているのか、それをもう一人の男が支えて青ざめている。
シンジと目が合うと必死ですがりつくような顔をした。
シンジはもう一度しっかりとライフルを構え直した。
シンジの射撃は名手とはいえない。もし外せば2人まで巻き込んでしまいそうだ。
おまけでまたうかつに攻撃すると分裂してしまうかもしれない。
シンジは手近にあったガレキをつかんだ。
そのまま2人とは反対の方向に思いっきり投げる。
ガッ
さほど大きな音はしなかったが、
『使徒』はその音がした方向へぴょこぴょこと走っていく。
2人との距離が離れた。
その間にシンジは2人の元へ駆けつける。
「大丈夫ですか?」
「オ、オレは何とか……で、でもレンゼフが!!」
シンジはハンカチを取り出して
頭から血を流している気絶した男の額を押さえた。
「押さえててください。とにかく『あいつ』を何とかしなければ。」
シンジは2人を背にして立ち上がった。
これならば誤射で傷つくことはない。
ライフルを腰にしっかりと据えて、狙いを定める。
『使徒』は先程の場所からまたさこさこと動き回っている。
………コアに当てれば、分裂しないかもしれない。
シンジは狙いを定めるがせわしなく動き回る上に、
目標のコアはひどく小さい。
『使徒』は今度は入り口近くにあった柱にぶつかる。
衝撃でパイプの柱が天井から抜け、ガレキがバラバラと落ちてくる。
ガン
ものの見事に大きいのに直撃した
『使徒』は思わず頭を押さえてうずくまるような格好になった。
「今だ!」
シンジはトリガーを引こうとした、その時、
「な……何よコレぇー――――――っっ!!!」
奇声のした方を見れば先程の少女が入り口に立ち尽くしている。
「なっ…何で!?」
シンジはあ然としたがすぐにはっと気がついて駆け出した。
まだ痛がっていた『使徒』は突然立ち上がったかと思うと
両腕をぶんぶんと振り回した。
「キャアッ!!」
左腕が少女に伸びる!!
「危ないっ!!」
とっさにシンジは少女を覆う様に身を伏せた。
ぶうん!
大きく腕を振った『使徒』はその反動でずでんと転んでしまう。
「ふう…」
「……ちょっと、早く退きなさいよ!」
「え?あ、ああっごめんっ!」
慌ててシンジは横に降りた。
「ケガはない?」
「アンタが押し倒したせいで背中が痛い。」
「ええっ!?ご、ごめんっ。」
「もうい
少女は倒れてもがいている『使徒』に目を向けた。
「一体何なの!?『アイツ』」
「あ…え…と…し、『使徒』だよ。」
「『シト』?何よそれ?」
「え?え……と…」
シンジは考え込んでしまった。そういえば『使徒』って何なんだろう!?
「…わかんないならいいわよ!要するに『敵』ってことでしょ!?」
「え、あ、まあそうだね…。」
「ドンくさい奴ねぇ……。だったらさっさと倒しなさいよ。武器持ってんだから。」
言われてシンジはおたおたと立ち上がった。
しかし、どう攻撃したものか。
うかつに手を出せばまた分裂してしまうかもしれない。
コアを狙えば何とかなるかもしれないが、
この距離からではコアに当てることは難しい。
接近すれば何とか当てられるかもしれないが、
あの暴れようでは下手に近づけない。
どうしよう………どうしたらいい??
「………なあにぐずぐずしてんのよ!!もう、貸しなさいよ!」
「えっ?あっ!!」
あっという間にシンジの手からライフルがなくなる。
少女は奪い取った武器をあちこち点検し始めた。
「あ、危ないよ、返してよ!」
「うるっさいわね!アンタよりマシよ!!どいて。」
少女はシンジを押しのけると『使徒』に向かってライフルを構えた。
「だ、だめだよ、うかつに攻撃すると分裂しちゃうんだ、多分。」
「分裂ぅ!?そう。…だったら」
おもむろに少女はライフルのトリガーを逆に動かした。
ヒュイイイイイ………ン、と怪しげな機械音がライフルから発せられる。
「体を残さなきゃいいのよ!!」
少女はトリガーを思いっきり引いた。
ガチン
ズドオオオオオ……ン!!!
「うわああっ!!」
大出力で放射されたエネルギーが『使徒』に直撃する!!
『シュヤアアアァァァァ………!!!』
悲鳴と共に『使徒』の身体は蒸発するように光に掻き消えていく。
凄まじい光の中でシンジは少女の顔に釘付けになっていた。
少女はまるで戦いに歓喜しているかのように、笑っている。
そして、勝利に満ちているその顔は、とても、輝いていた。
3
「ふうっ。」
少女はライフルを降ろすと大きく息をついた。
『使徒』のいた場所からは蒸気だか煙だかが立ち昇っている。
跡形も残っていない。
シンジは思わず身震いをした。
「ホラ、これ返すわよ。」
ガシャンとライフルをを投げ渡される。
少女を見るときっと目を釣り上げてシンジを睨んでいた。
「で?一体何だったのよ?あの『使徒』っていうのは!?」
「え…?」
「何であんな化け物がここにいるのよ!?」
「あ、え……と…」
「どうしてアンタみたいのが銃持って戦おうとしてたのよ!!?」
シンジは回答に詰まって押し黙ってしまった。
何か前にもこんな事があったような………
しかし目の前の蒼い瞳は今度は見逃してくれそうもない。
おまけで彼女の質問は全部シンジには答えられないものだった。
(ああう…どうしよう……このまま黙ってるわけにもいかないし………
どうしよ〜〜〜誰か助けてぇ〜〜カヲルく〜〜ん(;_;))
「やあ、シンジ君。」
「え?…うっわあっ!!!」
いきなり後ろに立っていたカヲルを見てシンジは思わず飛び退いた。
「かっカヲル君…いつからそこに……」
「いや、ついさっきさ。しかしシンジ君凄いねえ。
1人でイスラフの片割れを倒すなんて。えらいえらい。」
カヲルはにこにこと笑ってシンジの頭をなでている。
「いや…あの…実は、彼女が……」
シンジはおずおずとカヲルの手をどけて横にずれた。
シンジの陰に立っていた少女の睨み付けるような視線がカヲルのものと合わさる。
「あれ?」
「おや?」
三秒間の沈黙。
「…っあああああっ!!!アンタ確かリツコの所の!!?」
「やあ、君は確か惣流総監のお嬢さんじゃないか。」
「帰ってきてたのね。火星での仕事はどうだった?」
シンジ達は第2船A4ステージ第19ラボラトリ、
Secret firstの作戦会議室へ戻ってきていた。
「まあまあよ。バカな政治家が2人いて仕事が1つ増えちゃったけどね。」
「そう。大変だったわね。」
一緒に付いてきた少女はリツコの出したブラックコーヒーを受け取ると
一気にあおった。
その姿を向かいの席に座ったシンジが上目遣いでちらりと見ている。
「……コーヒーの銘柄変えた?」
「あら、わかる?ちょっと年代物をブレンドしてるのよ。
前のやつはミサトが気に入って持って行ってしまったから。」
「ふーん。」
「誰なんですか…?あのコ。」
シンジは隣に座っていたカヲルに小声でそっと尋ねた。
カヲルはおかしそうに微笑んでから、
「ああ、シンジ君は新入りだから知らなかったんだっけね。
彼女の名前は惣流・アスカ・ラングレー。
日系クウォーターでシンジ君と同じ14歳。
10歳でEUのハウゼル経済大学を卒業して「NERV」に就職。
今の階級はCommodre。社会公安機構2課の切り込み准将だよ。
ちなみに惣流・A・タカヒロ総監の愛娘でもある。」
「ええええっ!!」
シンジは思わずまじまじと少女を見た。そんなに凄い人だったんだぁ…
視線に気付いたのかアスカと呼ばれた少女はコーヒーカップを置くと
シンジを一睨みしてリツコに振り向いた。。
「リツコ、それにしてもどうしてアンタほどの人物がSecret firstなんて
変な名前の役職を掛け持ちしてるのよ。おまけで渚カヲルまで入れて。」
「あら、Secret firstはれっきとした部所よ。設置されたのが10年前。
私が配属されたのもその時よ。」
「その割には極秘じゃない。」
「あんな『もの』と戦ってることを公にはできないでしょう?
見たんでしょ?」
「まあ…ね。じゃあもうひとつ!」
いきなりビシッと指差されてシンジは当惑した。
「どーしてこんなペーペーのド新米が銃持って戦ってんのよ!
アンタでしょう!あの物騒なライフル作ったのは!!」
「あら、あのシステムに気がついたのはあなただけよ。」
リツコはコーヒーを一啜りすると言った。
「それにシンジ君は優秀なのよ。ここと新人訓練とでめきめきと腕を上げているわ。
そして、シンジ君も一応私達と同じなのよ。」
「私達と!?…って……まさか!?コイツが??」
今度は驚愕の顔で見られてシンジは訳が分からない。
隣のカヲルは面白そうに成り行きを見つめているばかりだ。
リツコはフフッと笑って、
「そう。彼の名は『碇』シンジ。…間違いなく『彼女』の子供よ。」
ガンガン
乱暴に総監室のドアが叩かれる。
「誰だね。アポイントも無しに。」
急の客人に冬月は眉をしかめてモニターを見た。
「私よ。パパ。」
その声に惣流タカヒロは書類から目を上げた。
開かれたドアから現れた娘のそのいでたちに少々笑みを見せたが、
その表情を見て再び真面目な顔つきに戻る。
「何のようだね、アスカ。再会の挨拶ではなさそうだが。」
「それは後回しよ。パパ、教えて頂戴。知っていること全てを。」
「…何のことだね?」
少女はつかつかと机に歩み寄り、バンとその机を両手で叩いた。
「『Secret first』。そして、あの『使徒』についてよ。」
「アスカ……」
父は、妻譲りのその蒼い瞳を見つめながら、
これから起ころうとしているものに対して思いを巡らせた…。
Continued!
ver.-1.00 1997-06/30公開
ご意見・ご感想・質問などなど、
こちらまで!
次回予告!
「…『Guaredian』?」
ときは、螺旋の如く
「Sカスパーの…ね。」
ひとの想いは砂の如く
「移動した!?まさか!??」
永劫の旅人は故郷の前で何を想うのか…
「拒絶したか………彼を。」
Go to NEXT!
#6 Barcarole
第3新東京市内某喫茶店ティフェレトにて
駆夏「あ、こちらです。」
惣流タカヒロ「や、待たせてしまったかな。はじめまして。」
駆夏「こちらこそはじめまして。
今日は本当お忙しい中御足労下さって有り難うございます。」
タカヒロ「いやいや、今日はオフだから堅いことは抜きで。」
駆夏「そうですね。それじゃあ今回のお話について、」
タカヒロ「今回は変わった始まり方だったな。」
駆夏「ええ、何か思わせぶりな感じでいいな、と思って。ミステリー系のドラマとかで結構使われている物を自分なりにやってみたんですけど。」
タカヒロ「ほう、ではあの使徒の鳴き声は?」
駆夏「あ、あれは一応オリジナルです。
分裂した奴の見分けをつける為にこんな風に鳴くんじゃないかなって。(笑)
本編では鳴いてなかったですけど。」
タカヒロ「なるほど。(ウェイトレスに)あ、カプチーノを一つ。」
駆夏「最愛の(?)アスカさんについてはどうでしたか?」
タカヒロ「そうだな…あの子には母親のことでかなり苦労を掛けてしまったからな…」
駆夏「……あ、あ、あの…ネタばれになりますんで追憶モード入らないでください(^^;)」
タカヒロ「何を言ってるかね。
君が出した伏線になぜ私が合わせないといけないのかね。」
駆夏「そんな事言わないでくださいよ。(;_;)
パーソナルだけは私のオリジナルなんですから。」
タカヒロ「そう言えば何故今回のゲストは私なのかね?
アスカがメインの話ではないのか?」
駆夏「え?でも主役はシンジ君ですよ?
予告フォローしてくれたのはありがたいですけどそんな事振れ回ってたんですか?」
タカヒロ「『彗星の如く現れて圧倒的強さで使徒を倒し世界の大いなる謎に挑む!!』
とかいうようなことを言っていたよ。」
駆夏「ずべ。(つっ伏した音)…ま、まあ登場したばかりですし、
そういう風になるかはこれからの頑張りによるということで…(^^;)」
タカヒロ「気をつけてな。あの子の事だから脅迫もしくは憑依しに来るかもしれんよ。」
駆夏「じ、自分の娘を……それではこの辺で。今日はどうも有り難うございました。」
タカヒロ「いやはや、こちらこそ。」
駆夏「次回はサンダルフォンですね。それではみなさん、
#6でまた御会いしましょ〜。」
タカヒロ「そう言えばさっきの話だが、なぜ今日は私なんだね?」
駆夏「え?あ、実はタイトルに『自己中娘』と書いてしまったので、
もーしかしたら怒りにくるんじゃないかな…
と思いまして場所も変えたんですけど。まあ、杞憂みたいでしたね。」
タカヒロ「来てるぞ。『彗星の…』の頃から。君の後ろに。」
駆夏「わあああっっっ!!」
飛羽駆夏さんの『新銀河世紀特務警察エヴァンゲリオン!』#5、公開です。
騒動の中、その騒動に負けないけたたましさでやって来たアスカ。
来た早々いきなりゴタゴタの中心に突っ込んできましたね(^^
そう、アスカ・・・
もうエヴァ小説では圧倒的にシンジとラブっちゃう彼女ですが、
ここには”カヲルくん”がいるぞ。
何だかシンジくんも、”カヲルく〜ん”状態だし・・・
危ない、楽しみ(^^)
さあ、訪問者の皆さん。
宇宙を舞台にする飛羽駆夏さんに貴方の感想を届けましょう!
【 TOP 】 /
【 めぞん 】 /
[飛羽 駆夏]の部屋