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[飛羽 駆夏]の部屋/
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新銀河世紀特務警察エヴァンゲリオン! #3
Amazing!
夜想曲<ノクターン>に包まれたカヲルの正体
1
G.C.2015 May.
昨日の夜、シンジがぐったりした様子で部屋に戻って来た。
何でも新開発の武器のテストがあったらしい。
シンジは週の半分はそっちの仕事へ行っている。
シンジのいる日にミサト一尉の機嫌が良いのは気のせいだろうか。
たまに2つが重なってしまうとシンジの帰りが遅くなる。
シンジの訓練の腕は俺達とほとんど変わらない。向こうでも訓練があるんだろう。
でもシンジは一体何の仕事をしてるんだろう?
KSAMのメンテナンスが終わったら直にアクセスしてみるつもりだが、
公のシステムにも載ってないなんて、一体どんな仕事なんだ?
ケンスケ=AIDAの日記より抜粋
「ほらっ、整列!」
ミサトの一喝に少年達が慌てて行動し始める。
「対応が遅ーい!!整列に限らず臨応対処の迅速さは
色々な仕事の早期解決にも関わるのよ、しっかりしなさいっ!」
「「はいっ!」」
最近のミサトはだんだんと荒っぽくなっていくようだ。
やっぱり機嫌悪いのかな、とケンスケは冷や汗をぬぐいながらそう思った。
バン!
「わあっ!」
ガン!ガン!ガン!
「な、渚さん!もう少し手加減してくださいよう!」
「何言ってるんだい。手加減したら訓練にならないだろう?フフフ」
模擬銃を打ち続けるカヲルの顔はうっすらと笑っている。
「くっ!」
シンジも銃を構え…ようとするがすぐに弾をよけて走り出す。
「ほらほら、しっかりしなきゃシンジ君。」
「…楽しんでますね。渚君。」
「そうね。」
システムオペレータのマヤ=IBUKIからコーヒーを受け取りながら、
リツコは返事をした。
計測器が目まぐるしい速さでデータを表示していく。
その正面にある2つのモニターには片方にはVREルームの、
もう片方には仮想空間の中にいる2人の姿が映し出されていた。
仮想空間は連絡船ケイジのブリッジの姿をとっているようだ。
シンジとカヲルは階段を駆け上り降りしながら戦っている。
「やっぱり同年代の子といると張り合いがあるんでしょうね。」
「…そうかもね。」
リツコはモニター横の受話器を取った。
『はい、こちらSecond。』
「ヒュウガ君?そっちのパターン解析出たかしら。」
『はい。データ2つじゃまだまだ心許ないですけど、
もうこの前のような失敗はやらかしません。』
「『使徒』の解剖の方は?」
『だいぶ進んでます。シゲルの方にデータが入ってると思いますけど。』
「じゃ、そっち経由で少し送って頂戴。」
受話器を置くリツコ。
「マヤ、例のファイルは?」
「あ、はい。S−M1のフォルダドライにコピーしてあります。」
リツコが手早くキーを打ち込んでいくと、ディスプレイにデータが滝上っていく。
「あ、そうだ。葛城一尉が怒ってましたよ。シンジ君を一人占めするなって。」
「フフフ、…成る程ね。でも、そういうわけにはまだいかないわ。」
新しくデータを打ち込んでいくリツコ。
モニターでは弾をよけ損なったシンジにカヲルが駆け寄っている。
「『使徒』が現れる限り、彼らは戦わなくてはいけない。彼もそろそろ決断すべき頃だわ。」
ピーという電子音がした。
リツコがモニター横のボタンを押して言う。
「はい、お疲れさま。10分休憩のあと、新しいプログラムを入れるわ。
今度は本部総監室よ。」
『はっ、はひ〜。』
『総監室ね。惣流総監座らせたままにしないかい?』
「あら、いいわね。やってみる?」
リツコがそう言ってヴァーチャルデータを立ちあげる。
―…先輩も楽しんでるみたい。
マヤはリツコの背中を見てクスリと笑った。
2
「ふうっ。」
「NERV」第4番船(宿泊船)内、2階大浴場。
各部屋にもシャワールームがあるのだが主に非常時用各階に設置してあるらしい。
「相当疲れてるね。シンジ君。」
体を洗浄していたカヲルがこちらを向いて言った。
その腕はソープの泡に負けないくらい白く、透き通るような肌。
「…当たり前ですよ。ずっと戦いっぱなしでしたし…。」
「確かに今日はちょっとハードだったね。」
シンジは湯から右手を出した。訓練中に負傷した腕がまだ少し痙攣している。
カヲルが浴槽の中へ入ってきた。
「腕、どうかしたのシンジ君。」
「あ、いえ、もう何ともないんですけど……VREシステムって不思議ですよね。本当は怪我をしていないのに同じ痛みを受ける…。」
「感じ方の問題だよ。たとえ作られたものであっても、それを見ている者にとっては現実なのさ。」
カヲルがシンジの隣まで寄ってきて笑う。
シンジもぎこちなく笑い返した。
ガラッ
「おう、なんや。シンジもおったんか。」
「トウジ…ケンスケも?」
入ってきた2人は浴槽に近い洗い場に腰掛けた。
「友達かい?」
「あ、はい。ルームメイトのトウジとケンスケです。」
「どうも。シンジ君のパートナーの渚カヲルです。」
「「あ、どーも。」」
パートナー!?と2人は顔を見合わせた。
「どうして2人とも、こんな時間に?」
「おう、シンジは知らんかったんやな。
ミサト一尉がお仕置きだっつうてわしらのおる3階全部水止めてしもうたんや。」
「ええ〜っ!」
「シンジが今日臨時でそっちの仕事行ったからさ。それにトウジのお袋さんから通信入って、
こいつ無茶苦茶長電話でさあ、で、こんな時間まで待ってたんだよ。」
「う…お前こそずっとパソコンで何かやっとったろうに。」
漫才を始める2人にシンジとカヲルは顔を見合わせて苦笑した。
「…で、シンジは今までずっと仕事だったのか?」
「え?あ、うん。って言ってもほとんど訓練なんだけどね。」
「ほーう。…で、お前とその…渚さんとで何の仕事しとるんや?」
「え…
「それは『秘密』だよ。」
とカヲルが人差し指を唇に当てて言った。
「秘密っスか。まあシンジの役職もシークレットやしなぁ。」
「でも表のシステムにも載ってないんだぞ。今日調べたけど。」
「…お前んなことやっとったんか?」
「男2人して、ぱぁとなぁ組んで、何かイヤ〜ンな感じ。」
「…お前の方がいかがわしいわ。」
「…?」
シンジは会話に割り込めずぼーっとしている。
「あはははは」
そんな3人を他所にカヲルは1人で笑っていた。
「は〜い、みんな整列して(^^)」
昨日と違って、ミサトはいやにごきげんだ。
「…何かいい事でもあったの?」
問いかけるシンジに、さあな、とケンスケは肩をすくめた。
「…今日から新しい練習を入れるわね。シンジ君大丈夫?」
「え?あ、はい!」
いきなり振られてシンジは思わず声を大きくした。
(フフフフフフフフフ。カワイイわ〜やっぱ。今日こそは気合入れて………え?)
『警戒警報発令、警戒警報発令、総員…
「何や、また出たんか?」
新米警官達がざわめき出す。先日のことがまだ頭に残っているのだろう。
「あの…葛城一尉」
目を落とすとシンジが進み出ていた。
「呼び出しが…入っているので…行ってもいいですか?」
確かに、胸の通信機が赤く点滅している。
(ちいいいいいいっっっ!!なんでこんな時にぃぃぃっ!)
とも思ったがミサトはにっこりと笑って、
「いいわ。行ってらっしゃい。頑張ってね。」
「はいっ!」
駆け出していくシンジをしばらく見送ったミサトはくるりと向きを変えて、
「ほらほらっ!騒いでんじゃないのっ!!静かにしなさいっ!!!」
やっぱり。
と、この時ケンスケは確信した。
シンジは第五番連絡船へ向かって走っていた。
『…シンジ君はそのまま西61フロアへ向かって。武器はカヲルが持っていくから。先についても無理しないでね。』
「はい、わかりました。」
シンジはエレベータに乗り込んだ。
「パターンの変化は?」
『ありません。現在位置からぴくりとも動きません。』
「そう。…悪いことが起こらないといいけど。」
電子板の表す回数がどんどん増えていく。
『シンジ君、聞こえる?』
「あ、渚さん、今エレベータの中です。」
『了解。その階に着いたら停止ボタンを押してIDカードをスロットルさせて。そうしないと開かないから。僕は今反対側にいる。出来るだけ動かないで、無茶は禁物だよ。』
「はい、わかりました。」
ガタン、とエレベータがとまった。
ドアを開く。
シンジはフロアへ飛び出そうとしてはっと立ち止まる。
何もないフロアの中心に青い正八面体のクリスタルのような物が浮かんでいる。
シンジの足が一歩エレベータの外へ出た。
と、青いクリスタルがいきなり輝いた!
「!!」
ドン!
打ち出された光が凄まじい速さでシンジを貫いた!!
「うわああああああぁぁぁぁ――――――――――――っっっっっ!!!!!!」
「『シンジ君!!』」
カヲルの叫ぶ声が聞こえたが、見ることができない。
痛い!!熱い!!熱い!!熱い!!肩…が……
シンジの脚がゆっくりと崩れ落ちていく。
揺れる視界に映った青いクリスタルが、再び輝いた!!
「シンジ君!!」
ドン!
バシュウウウウウゥゥゥゥ……………
(…え……?)
かすんでいく目でシンジはぼんやりと見た。
目の前に誰かが膝付いている。
その後ろに見える、赤い、壁のような物。
光はそこで弾かれて、壁に八角形の波紋が起こっている。
体の感覚がどんどん無くなっていく……
「…わかってるのかい…?…ラム…君は…凄く大変な事をしてしまったんだよ…わかってるかい?」
(…な…ぎ…さ……さ…ん…?)
目の前の人物がゆっくりと立ち上がる。
視界に辛うじて映るその左手に光が集まっていく。
カヲルはゆっくりと一歩踏み出した。
カッ!
と再びクリスタルが輝く!
しかし、光は打ち出されない。
「わかってるだろう…?…その力が…『僕』には効かないこと…。」
カヲルはゆっくりと、一歩、一歩、クリスタルに近づいていく。
カッ、カッ
と青いクリスタルが点滅するように何度も輝いた。
「愚かだよ…ラミエル。…すっかり変わってしまったね。」
カヲルの足取りは止まらない。
「…『レイ』に送ってもらったのかい?…それ…」
その体に光の粉がどんどん集まってくる。
「…君には…助けてもらったけど…もう……僕は君を許せない。」
カヲルの足が止まった。
再び、今度は先程より増してクリスタルが輝いた!
『さよなら』
シンジは目を見開いていた。
ゆっくりと、伸びるように両手を挙げるカヲルの黒いシャツの背中に、――6枚の、
白い、翼が生えてくる。
体が床からゆっくりと離れていく。
両手の間に白い光が集まり…収束して青白い、光の球となる。
カヲルはゆっくりと、その光を胸の前へ突き出した……
ドン!
「…!……君……んじ君!シンジ君!!」
(何だろ……あたたかい……)
「…シンジ君!しっかり!!しっかりして!!シンジ君!!!」
シンジはゆっくりと目を開けた。
視界がはっきりとしてくる。
そこには今にも泣き出しそうに歪んだカヲルの顔があった。
「……な…ぎさ…さん?」
「シンジ君!」
シンジは起き上がろうと体を起こした。
「うっ!!」
体を肘で支えようとして強烈な痛みが走る。
慌ててカヲルが支えた。
「痛…。」
シンジは不安定な体制で肩を押さえた。
しかし、痛みの走ったはずの右肩には、傷ひとつない。
そう、―――確かに『つらぬかれた』はずなのに。
「大丈夫?シンジ君」
カヲルが背中に手を入れてシンジを起き上がらせる。
「だい…じょうぶ…です、何とか。…すみません。」
ぎこちなく、笑おうとしてシンジは目を見張った。
いつも、にこやかに笑うカヲルが、目に涙を溜めている。
「あの…渚…さん?」
「…ンジ君…シンジ君!!」
「わっ!」
いきなり抱きつかれて、シンジは思わず赤くなった。
「シンジ君!!ごめんっ!ごめんよ!!こんな目にあわせてっ!ごめんっ!!」
「な、渚さん!?」
そこでシンジはカヲルの肩が震えていることに気が付いた。
「ごめんっ!…僕が…僕がもっと、もっと気を付けていればっっ!!」
「そんな、渚さ…
「そうだっ!僕が悪いんだ!みんな僕が!僕が!!僕がああっっ!!!」
泣いてる…あの渚さんが……
シンジはそっとその背に手を伸ばした。
さっき、翼の、あったところ……
「…渚さんは…ちっとも悪くないですよ…。…それに…僕を助けてくれたじゃ…ないですか。」
シンジはそっと、背中に触れた。
びくん、とカヲルが震え、泣き声が止まる。
「渚さん?」
シンジにしがみ付いていたカヲルが、ゆっくりと離れる。
その顔は、何かを決意したかのように張り詰めていた。
「…シンジ君…君に…話したいことが…あるんだ…。」
処理班が色を失った正八面体の石を運んでいく。
その石の中心は何かに貫通されたように空洞ができていた。
リツコが二人に駆け寄ってきたが、カヲルの顔を見ると…何も言わずに戻っていった。
ガコンガコン
自動販売機の取り出し口から缶を取り出すと、そのうちの1本をシンジに差し出した。
「あ、すみません。」
そのまま2人とも近くのソファに腰掛ける。
辺りには誰もいない。
隣のカヲルも…何も話そうとしない。
「………。……あの…渚さん?」
「カヲル。」
「え?」
カヲルはゆっくりとシンジの方を向いた。
「渚というのはリっちゃんが付けた名字なんだ。僕の、本当の名前は『カヲル』だけ。」
「え?」
「…シンジ君は何故、僕らが『使徒』と戦っているのか、わかるかい?」
「?…」
シンジは少々考え込む。
「それは…『使徒』が、攻めてくるから…。」
「じゃあ、どうして『使徒』は、攻めてくるんだい?」
今度はシンジも深く考え込んでしまう。
そういえば…どうして攻めてくるんだろう……
「…わかりません。…多分、『使徒』が人間に対して何か悪意を持っているんじゃないんですか?」
「正当防衛、…それもあるかもしれないね。でも、もうひとつ、理由があるんだ。」
「え?何ですか?」
シンジが驚いてカヲルを見る。カヲルはじっとその赤い瞳をシンジに向けて、言った。
「彼らは…ある『もの』を取り返しにやって来てるんだよ。」
「取りかえ…す?」
「そう。そして、そのうちの一つが―――『僕』だ。」
「!??どうして、どうして渚さんを?」
「それはね…シンジ君。」
突然、カヲルが立ち上がると、黒いシャツを脱ぎはじめた。
「?ちょっと、…渚さん?」
パサリ…とシャツを床に脱ぎ捨てると、シンジの目にカヲルのその真っ白い背中が映った。
「見て…シンジ君。…本当の…『僕』を…。」
そう言い終わるとカヲルは前を向き、ゆっくりと大きく息を吸い込んだ。
スゥ………
そして、少しずつ、ゆっくりと息を吐き出す。
フワ…………
それに合わせて、――カヲルの背中から生えてくる―――『もの』。
陽炎のように淡く、薄く透きとおる3対、6枚の―――『羽根』。
ゆっくりと大きく広げられる、『それ』は、まるで玉虫のように虹色に、輝る。
そしてその6枚のうち、上の1対の羽根だけが、さらに淡く、光を発していた。
「…な……渚さん…っ、…そ…れ……!!」
驚きながらもシンジはその6枚の羽根に、目を吸い寄せられていた。
きれいで…弱くて……まぶしくて………あたたかい……
なんか……まるで…妖精のよう………――――――――まさか!!
「……わかったかい?」
カヲルがゆっくりと振り返り、体をシンジの前へ向ける。
「そう…『僕』も……『彼ら』と同じ………『使徒』なんだ。」
3
「僕は、逃げてきたんだ。」
誰もいないラウンジの中、シンジとカヲルは対峙していた。
シンジは、ソファに座ったままカヲルを見上げている。
カヲルの瞳は、相も変わらず赤く輝いていた。
「僕は『使徒』の中で育った。『使徒』の言葉を習い覚え、
『使徒』の価値観を学び、そして…『使徒』の長として『使徒』を統括した…。」
「統括…。」
「『使徒』達は僕らの為に尽くし、僕らの云う事に従った。
―――僕がいなくなった後は『レイ』が1人でその役を負っているだろう。」
「『レイ』?」
「僕の『妹』だよ。…そして、僕の『片割れ』…。」
カヲルは少し目を細めた。『レイ』のことを考えているのだろう。
「僕とレイはいつも一緒だった。僕が見下ろせばレイも同じ物を見下ろしたし、レイが何か考えれば僕も同じ事を考えた。………当然か。同じ『もの』なんだし。」
カヲルは目を閉じて、頭を横に振った。
大切な人だったんだな…きっと。とシンジは思った。
カヲルのからだがわずかに発光し始めている。
話せば話すほど、光は増すようだ。
「…僕がいて、レイがいて、みんながいた…。それが、当たり前の毎日だったよ。退屈なんかしなかったよ。毎日が、僕たちの全てだった………―――――でも、終わってしまった。」
「え?」
カヲルはシンジをきっ、と見つめた。
「…変わってしまった。」
「いつの頃からかは解らないけれど、皆、少しずつ変わってしまって行った。毎日1人ずつ、1面ずつ、1部分ずつ。
僕がそれに気が付いた時には、周り殆どの『使徒』が変わっていた。」
カヲルの瞳が赤い光を増していく。それに合わせてからだも白く発光してきた。
「いつもと変わらないんだ。少し見ただけじゃ。でも、どこか違う。
どこかが、根本的に違うものに変わっていた。」
カヲルの髪が、肌が、背中の羽が、少しずつ光を増していく。
「そして、皆変わってしまったとき――――
――――――――――――――――――――レイが変わったとき、僕は、逃げ出した。」
シンジは思わず目をしかめた。眩しくてカヲルの姿を見ていられないようになっていた。
「僕が最後の一人だった。僕は変わりたくなかった。昔のままでいたかった。………変わってしまえばまた元のように皆といられたかもしれない。―――――でも!!
…僕は逃げた。…レイを…レイを…1人置いて………」
もう、カヲルの体は1つの発光体と化していた。
カヲルの表情が光輝いて見えない。
「…僕の力じゃ…戻せない。足りないんだ。…今の僕らじゃ…力が…っ、
でもっ、『力』を覚醒させる事こそが、『奴』の望み…だから…
だからっ…だからっ!!!!」
「渚さんっ!!」
シンジは思わず立ち上がり、光のカヲルを抱き寄せた。
「!!」
カヲルは一瞬びくっと震えたが、次第に、体を預け始めた。
わずかに、肩が震えている。
シンジはそっと右手でカヲルの髪をなでた。やわらかい手触りと、反射する光。
「…渚さんは…悪くないよ…。」
シンジはカヲルの頭にそっと顔を寄せ、優しく髪をなで続けている。
慰めの言葉はいらない。
彼自身が、ちゃんとわかっているから。
「渚さんは…強いね。」
「……っよくっ…なん、か…ないよっ。」
強いよ。
弱いことを、逃げたことを悔やみ、見つめる力がある。
悩み、苦しむことに立ち向かうだけの力がある。
あなたは、レイを助ける為に、ここに来たんでしょ?
レイや、みんなを、自分の力で助けたかったから、ここに居るんでしょ?
助けたかったから、逃げたんでしょ?
「……うっ…くっ…。」
思いを、感じ取るかのように、カヲルが小刻みに震えている。
シンジは、背中にカヲルの手の感触を感じた。
大丈夫、大丈夫だよ。あなたがレイを思う限り。
レイやみんなを助けたいと望む限り。
逃げたことから目をそらさない限り、あなたは、負けない。
「…僕は…信じるよ…。あなたを………ね?『カヲル』。」
「………くっ……ひっ………ひっく……」
カヲルの肩ががくがくと震え出す。
シンジはそれを包み込むようにそっとカヲルを抱きしめた。
肩越しに、押し殺すような鳴咽が聴こえてくる。
悲しければ―――――泣けばいい。
苦しいのなら――――叫べばいい。
つらいこと、悔しいこと……心の痛みを、思いきり吐き出してしまえばいい。
その思いこそが、力。
あなたの心の、本当の、力。
明日という光の道を開く為の、翼。
あなたが悩み、苦しみ…そうして選んだ、あなたが手に入れた道を開く為の、鍵。
………そうでしょ?
光がゆっくりと消え始める。
カヲルの背中の羽根も徐々に薄くなっていく。
シンジは左手をカヲルの背中に当てた。鼓動が伝わってくる。
ゆっくりと、その手でカヲルの背中を優しく叩く。
まるで、眠る子を慈しむように。
「…くっ、………ひっ…く…………」
カヲルの鳴咽は、その手になだめられるように徐々に小さくなっていった………
4
翌日。
「おはようございます。渚さん。」
「おはよう、…シンジ君。」
2人でエレベータに乗り込む。
今日は定期訓練。ミサトのチャンスは当分持ち越しになった。
にっこりと微笑みかえしたカヲルだが、すぐにふっと目をそらしてしまう。
「……?」
「い、いやっ、あのね、シンジ君。」
怪訝な顔をしたシンジに慌ててカヲルが少し顔を赤らめながらとりつくろう。
「昨日…恥ずかしいところ見せちゃったからね。…御免ね、シンジ君。」
「そんな…謝ることないですよ。」
シンジははにかみながら笑って見せる。
「…ありがとう。シンジ君。」
エレベータの表示が止まり、扉が開かれる。
「おはよう、カヲル、シンジ君。」
「おはよう、リっちゃん。」
「おはようございます。」
リツコは何やらたくさんの書類を近くのソファに積み置いた。
カヲルがソファに座り、その書類を片っ端からめくっていく。
シンジもその隣に座った。
「それにしても…昨日の『使徒』、出現場所も奇妙だったけど、あの倒され方…『あなた』が何かやったんでしょ?」
リツコは次々と送られてくるFAXを忙しく剥ぎ取っている。
「とりあえず適当に言っておいたけど…貴方らしくないわね。
監視のきいてる屋内で『力』をおおっぴらに使うなんて。」
「だあって、ラムが『僕の』シンジ君を傷つけたんだよぉ!?」
と言ってカヲルは片手でシンジを抱き寄せる。
「!?ちょっと…
「あら、いつのまにそーゆー関係になったワケ?」
「そんなのプライバシーだよ。野暮なこと聞く前に自分の方を頑張ったら?」
「はいはい、私の負けよ。どうもごちそうさま。」
「リツコさんまで〜」
山のようなFAXをカヲルに押し付けてリツコはそそくさと奥へ行ってしまった。
「…あの…渚さん?」
「い・や・だ・なぁ。『カヲル』って呼んでよシンジ君。」
そう言って抱き着いてくるカヲル。
シンジはなぜか思わず赤くなってあわてて押し返した。
「???どうしたんですか?一体、いきなり。」
「冷たいなあ。君と僕との仲じゃないか。ねえ?」
ねえ、って言われても。シンジは混乱している。
「???仲って…?」
「何言ってんだい。男の泣き顔見たくせに。」
「はあ?」
少し顔を赤らめて言うカヲルにますます混乱する。
「はあ……それにしても昨日のシンジ君の胸は暖かかったなあ〜シンジ君、見た目はけっこう華奢なのに意外とたくましいんだねぇ〜おまけでシンジ君まるで母親みたいにしてくれるから、僕思わずうとうとしかけちゃったよ。」
陶酔するカヲル。シンジの頭は無限ループを始めてしまう。
母親?やっぱりそうなのかなあ…家に居たときも皆を叱ってたのは姉さんだったし、
僕はなだめてばっかだったし……僕、男なのに…でもそれとカヲル君とどんな関係が…?……わかんないようぅ〜〜〜助けてよう〜〜、男の泣き顔??たくましい???たくましい母さん????
僕が母さん?????
シンジは知らず知らずのうちに胸の十字架を服の上から掴んでいた。
それに気づいたカヲルがふっと笑って言う。
「ねえ、シンジ君。両手をいっぱいに広げた指先から指先までと、自分の背たけって一緒なんだよ。知ってたかい?」
「え?」
――それが、正十字足るゆえん――
シンジの頭は更なる追加要素を含んで回転速度を上げてしまった………
「…変わったわね、カヲル。」
こぼさない様にコーヒー2つとミルクティーを盆に乗せながらリツコは呟いた。
ちらりと振り返るとじゃれあっている2人の姿が見える。
「私はもう…お払い箱かしら。」
考えを断ち切るようにリツコはふうっとため息を吐き、
飲み物とからかいのセリフを2人に持っていった。
次回予告!
「カヲル…くん。」
彼は、そらが好きだった。
「ロマンチストぉ!?」
彼は、うみが好きだった。
「そうだね…シンジ君。」
彼はこのせかいが大好きだった。
「シンジ君…?シンジ君!!?シンジ君!!!?」
Go to NEXT!
#4 Inpromptu
ちょっとしたあとがき付き対談
「どうも、駆夏です。#2のあとがきは後悔したので今回は自粛させて頂きます。」
「お待ちなさいっっ!」
駆夏「ああっ!この声と懐かしいフレーズはっっ!!」
ミサト「そう!新世紀エヴァンゲリオンのもう一人の主人公にしてヒロイン、葛城ミサトよっ!!」
駆夏「(え?そうなの?)ああっ!やっぱりミサトさん!!ちゃんと中止のお手紙送ったのにっ!」
ミサト「フッ、甘いわね。ただでさえ上の話じゃ目立たないこのワタシが、こんな目立てるチャンスをみすみす不意になんかするもんですか!」
駆夏「あううぅ(^^;)対談すると容量が大きくなって困るんですけど…大家さんのコメントがどんどん下になるぅ〜」
ミサト「そんな事はどーでもいいのっ!今日はちゃんとした目的があって来たんだから。」
駆夏「(大家さんごめんなさい^^;)目的って、上の話と関係ありますか?
ちゃんと補足説明しないと、今回のお話はちょっと迷いましたから。」
ミサト「大丈夫よ。あんたの文章力のせいですっかり目立ってないけど。」
駆夏「あうう、そ、それで一体何ですか?」
ミサト「ワタシが聞きたいことはただ一つ!!どーしてワタシが『ショタ』なのかってことよ!!」
(稲妻の効果音)
駆夏「ひいいっ!べ、別にショタなわけじゃ…」
ミサト「だぁ〜まらっしゃい!ワタシはただ、『純粋』に“おっしゃあっ!掘り出し物っ!”って思っただけなのに今回のは何よ!!…別にショタならショタでいいのよ。シンジ君かわいいし。でぇもっっ!!目立たなかったら変わんないでしょっ!」
駆夏「(結局はそこか^^;)い、いや、ミサトさんはいわゆる『鍵』として頑張って欲しいんですよ。これから気合い入れて頑張って目立つように何とか頑張りますから見逃してくださいよう〜
それからミサトさんはショタじゃないです。書けませんから(^^;)。」
ミサト「じゃあ上の『今日こそは気合い入れて…』の後はどうするつもりだったのよ?」
駆夏「えーと、『夕食を御一緒する』ですね。」
ミサト「…………。」
駆夏「あれ?どうしたんですミサトさん?」
ミサト「…まあいいわ。今日のところはこれで勘弁してあげるわ。でっもっ!!約束はきちんと守んなさいよ!」
駆夏「あうう〜頑張りますう〜…はあ…とてつもなく長くなってしまった。次も予想外にバカ長くなりそうだし…ええい!開き直りだっ!またまた全然説明できなかったけど今回のお話には大から小まで色々な伏線を張り巡らせていますっ!1人でふふふと含み笑いしているのも良いですけどあーだこーだろーと私に言ってくるのもおっけーです!それでは#4でまた御会いしましょうっ!!(ぜーぜー)」
ミサト「ねぇ〜ビール無いのぉ?」
駆夏「ああっ!ミサトさんまだ居たんですかっ!
ビールなんてあったら怒られますよ。未成年だし。」
ミサト「あらそうだったわね。でもコーヒーも置いてないのぉ?」
駆夏「(人んちの冷蔵庫勝手にのぞくなよ)コーヒーは飲めないんです。お茶で我慢してくださいよ…っはっ!こんな事してないで終わらせなければっ!それでわっ!次回もちょっと大きな伏線が出ます。…お願い。誰か気付いて。」
飛羽駆夏さんの『新銀河世紀特務警察エヴァンゲリオン!』#3、公開です。
カヲル。
人なつっこい笑顔の裏にある哀。
柔らかい態度に隠された悲しみ。
逃げてきた?、守るため?
カヲルの涙を優しく受け止めたシンジ。
いいパートナーですね・・・・
何だかカヲルは暴走しているようですが(^^;
さあ、訪問者の皆さん。
伏線たっぷりの謎をふりまく駆夏さんに貴方の感想を送って下さいね(^^)
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