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EVANGELION  〜神話にならざる少年〜

 

第壱話

       サイカイ

 


 

 「これは……?」

 巨大な――恐ろしく巨大な、それこそ洒落にならないほどの大きさの顔が、そこに鎮座していた。紫色を基調とした鬼のような造作のそれは、生気のない瞳で虚空を凝視している。シンジは無言で、自分の隣にいる男に顔を向けた。

「これがこの遺跡の目玉のひとつ――千年以上前にこの遺跡で造られたとされる最大最強、そして最凶のゴーレム……人造人間エヴァンゲリオン。三体あるとされるうちの一体だ……」

 いつもの、薄く笑みを浮かべたままの表情で、彼はつぶやいた。歳の頃、三十歳前後――全体的に、ラフな印象の男だ。よれよれになった皮ジャケットに手を突っ込みながら、彼は『顔』――エヴァンゲリオンを見上げた。

「人造人間……エヴァンゲリオン……?」

「そう。たしか、古代語で『福音をもたらす者』とかそんな意味だ」

 説明口調で、男――加持リョウジは続けた。

「しかし、そんなことは重要なことじゃあない。大切なのは――」

 一息。視線をシンジへと戻し、続ける。

「大切なのは、こいつが前世界の崩壊を引き起こしたってことだ」

「これが……!? これが、前世界のすべてを粉々にした『天使』……?」

 『天使』――その総数十七体とされる、伝説にのみ語られる存在である。彼らは地上のすべてを灰燼に帰すと、その姿をいずこへと隠したとされている。もっとも、口伝のみで語られている代物だ。そのほとんどが眉唾物だとシンジ自身は思っていたのだが……

 シンジの呟きに、リョウジは苦笑をもらした。

「違うさ。まあ、まったく違うとは言わないが――そうだな……似てはいるが、異なるもの――それが、一番正しいだろうな」

「? どういうことです?」

 シンジの問いに、リョウジは皮肉げな笑みを浮かべた。その姿に、なにかぞくりとするものを感じて、シンジは数歩後ずさる。

「それは――」

 リョウジか口を開いた、その刹那――

 どごおぉぉぉんっ!――

 爆音。振り向けば、この部屋と外界とを閉ざしていた隔壁が完全に粉砕されていた。千年にわたって降り積もった埃は宙に舞い、中には炎を燻らせている物まである。そしてその中を潜り抜けるように、ひとりの女が姿をあらわした。

「こんにちわ、盗掘屋さん……こんないいお天気に、こんな穴蔵でなにをやっているのかしら?」

 歳の頃は、二十代後半といったところだろうか。軽くウェーブのかかった黒いセミロングの女性である。服装は、町中で出会ったとしてもたいして気を引きそうもない、化粧っけの無い物だった。しかし、彼女自信の魅力はそれを差し引いてもあまりある。しかし――

(丸腰……?)

 訝しげに、シンジはその女性を眺めた。厚さ十センチの、特殊素材の隔壁を粉砕したのだ。それこそ、前世界の遺産でもない限り、人間にどうこうできる代物ではない。しかも、女など論外だ。となれば、残った答えは一つしかない。そしてシンジは、彼女の胸元にその証拠を見出していた。

「ネルフの紋章――魔術士!?」

 シンジの叫びに、彼女は満足げな笑みを浮かべる。右手を腰に添えながら、

「遺跡への不法侵入、および盗掘行為、か……普通は国家反逆罪が適用されるんだけどね――これを見られたからには、死んでもらうわよ?」

「それはそれは……参ったな。見逃したりはしてくれないのか?」

 リョウジが、軽い口調で言う。女はにこりと笑って、次の瞬間、凄絶なまなざしで告げてきた。

「つまんないこと言ってないで、とっととくたばれって言ってんのよ。あんたたちみたいな馬鹿がいるから、こっちの仕事は全然進まない……! 相手するのも馬鹿馬鹿しい……一撃で消し炭にしてあげる!」

 言い終わるのと同時、女は両腕を突き出し、間髪入れずに熱衝撃波を打ち出した。規模は、先ほど隔壁を粉砕したものの約三分の二――彼らを消し炭にするには、十分といえる。女は怒りの感情しか浮かんでいない双眸で、ふたりの侵入者を睨み付けた。放たれた熱衝撃波が、彼らを包み込もうとする……

 が。

「なに!?」

 熱衝撃波は、ふたりの寸前で、音も立てずに霧散した。威力が減退したとか、術に失敗したとか、そういった次元ではない。明らかに、『消滅させられ』た――

 何故……!?

 女がそう思った瞬間、のんびりとしたリョウジの声が聞こえてきた。

「悪いが、無駄だ」

 見れば、顔には余裕の笑みすら浮かんでいる。

(馬鹿にされている……!)

 頭にかっと血がのぼり、女は次の熱衝撃波を放とうと意識を集中する――

「相変わらず過激だなぁ。なあ、葛城?」

 その刹那――彼女のは、凍り付いたように動きを止めた。聞き覚えがある――というより、忘れられない声だった。もっとも聞きたくない、しかし、もっとも聞きたかった声――

 我知らず、彼女はうめいていた。

「なんですって……?」

 驚愕に目を見開いて、女は目の前の、男のほうを凝視する――

「な……あなた、加持――加持リョウジ!? それじゃ、一緒にいるその子は……!」

 そう言って、彼女は呆然と腰を抜かしている少年に注がれる。彼女の表情は更なる驚愕に彩られ、そして彼女は絶叫した。

「シ――シンジ君!!」

「……え?」

 シンジは呆然としながらも、鋭く囁かれたその言葉をしっかりと聞き取っていた。彼女が――ネルフが、盗掘屋に過ぎない(しかも見習いでしかない)僕のことを知っている?

「あなた――僕のこと知ってるんですか? 一体どうして――」

 が、シンジの声は彼女に届かなかったらしい。彼女はリョウジを見据えると、身構えながら怒鳴っていた。

「この裏切り者が―― 一体なにしに戻ってきたのよ!?」

「――これをシンジに見せておきたかったんだ」

「あなたは今、反逆罪で大陸中に指名手配されているのよ――なのに、そんな理由で戻ってきて……殺してくれっていってるようなものじゃないの!」

「俺はそんなに間抜けじゃない。うまくやるさ」

「逃げられると……思っているの? ここはネルフの管轄下なのよ? 忘れたわけじゃないでしょうに」

「君こそ忘れているんじゃないのか? 俺の二つ名――知らないとは言わせないぜ?」

 リョウジがそう低くつぶやくと、女は息を呑んだ。彼の表情は、なにも変わっていない。だが、気配だけが極端に鋭くなっている。殺気ではない。言うなれば――闘気。そんなリョウジに対し、彼女はゆっくりと完全な戦闘体勢に入り――そして、畏敬の念を込めてつぶやく。

「”処刑者”加持リョウジ――そして”審判者”碇シンジ……か。確かに、荷が重いわね」

「それに、君には俺は殺せても彼を殺すことはできない。なにしろ大切な適格者だ……失うわけにはいかないだろう?」

「……適格者は全部で三人いるのよ? ひとりくらいいなくなったってどうってことはないわ」

 だが、リョウジは微笑んだまま――右手を振り上げ、叫ぶ! 女の全身に、強烈な圧迫感!

「――崩!」

 ずしゃぁっ! そんな音を立てて、不可視の衝撃波が彼女の横を通り抜けていった。女は無意識に、衝撃波が駆け抜けていった跡を見た――

「な……!」

 女から、およそ一メートルあまり離れた場所に、まるで巨大なつめが抉り取ったかのような、巨大な爪痕が幾条も造られていた。

「そんな……たった一瞬で……これだけの威力を……?」

 ――次元が違う……自分の魔術では、彼には勝てない!

 二年前とは……彼女が知っている時代の彼のものとは、雲泥の差がある。一体、二年間の間になにがあったの?――

「次は、外さない――どうする?」

 リョウジは、笑みを絶やさない――彼は、そういう男なのだ。たとえどんな状況にあっても、彼が笑っていないところを見たことがなかった。少なくとも、彼女は。

 変わっていない――彼女は、葛城ミサトはそう思った。彼は変わっていない。なにもかも。

 瞬間、ミサトは全身から戦意が失せていくのを感じた。それを止めようとはせずに、彼女は全身の力を抜いた。

(だめだ……やっぱり、戦えない……)

 ミサトはゆっくりと、道を譲るようにその場から退いた。それを見て、リョウジも腕を下ろす。

「――すまない」

 リョウジはそれだけをつぶやいて、いつのまにか気絶していたシンジを担ぎ上げて、その場から去っていった。

 沈黙。ミサトは、ゆっくりと面を上げた。目の前には、はるかな昔からそこにたたずんでいる一体のゴーレム。それを見据えながら、ミサトはつぶやいていた。

「……リョウジ……どうして、黙って消えたりしたの? どうして、戻ってきたのよ……」

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 夢。

 夢を見ている。それだけは、はっきりと自覚できた。

 はじめ、真っ暗だった視界に、ぼんやりと光が射し込んでくる。視界に、周りの光景が浮かびあがり――シンジはただ、それを見ていた。

 目の前には、異様な光景が広がっている。暗い、暗い巨大な空間。一体ここはどこなんだ……? そんな疑問を持ちながら、彼は、そこに浮かんでいた。下方には、奇妙な色をした水を湛えた湖がある。奥には、白い巨大な物体――

「なんだ……? あれは……?」

 それは、人の形をしていた。が、明らかに人ではない。全身が異様なほど真っ白で、下半身がない。傷口――とでも呼んだらいいのだろうか、下半身を失った上半身の下には、無数の人間の足が生えている。醜悪――と一言で片づけてしまうにはあまりにも奇妙な物体。それは、後ろにある十字架に貼り付けにされるような形で、ただそこにあった。

「う……?」

 一瞬、吐き気を催すが、なんとかそれを落ち着ける。その上で、彼はその物体の顔を見上げた。顔には、七つの目が彫り込まれている、奇妙な形の仮面が取り付けられていた。それがこちらを見つめているような気がして、シンジは顔を顰める。と――なにか、脳裏にひらめくものがあった。

「……? あの仮面――」

 には、なんとなく見覚えがあった。記憶を、掘り返そうとする――

 彼は二年前以前の記憶を失っている。原因はわからない。まあ、当たり前だが。しかし、その仮面――というか、その物体には、明らかに見覚えがあった。今までにはなかったことだ。もしかしたら、夢という形で記憶の一部が戻ってきているのかもしれない。そんな事を思いながら、彼は意識を脳の奥深くへと落としていく……

 脳裏に、光がひらめいた。その刹那。

「う――うああぁぁぁぁっ!?」

 頭に、激痛が走った。焼き鏝で脳を直接引っ掻き回されている――そんな感じだ。シンジは激痛に身をもだえさせながら、それが収まるのを必死に待つ――

「い……一体なにが……?」

 数分後、激痛はまるで潮が引いていくかのように、急速に消えていった。乱れた息を直しながら、シンジは額に浮かんだ冷や汗をぬぐう。と――

 ごうぅん――

 重々しい音を轟かせて、白い物体のちょうど正反対に位置する壁がゆっくりと開かれて行く。これもまた、恐ろしく巨大な扉だ。おそらくは、今の人間の技術では造ることはもちろん、再生することすら不可能だろう――

 その扉の向こう側から、何者かが入ってくる。

「――――?」

 入ってきたのは、十四、五歳ほどの少年だった。白い肌に、銀髪の少年。その容姿は、まるで名工の手による逸品のようだ。彼の、怪しげな輝きを放つ深紅の双眸は、真っ直ぐに先ほどの十字架に貼り付けになっ定屡白い物体に注がれている。そして、驚くべきことに――彼は、宙に浮いていたのだ。

「人間……なのか? いや……違う!」

 シンジの感覚が、目の前の少年を人間以外のものと認識した。理由はない。ただの直感だ。だがシンジは、それに確信を持っていた。彼は……あれは、人間ではない。

 少年は、憂いを含んだ表情で、何事かをつぶやいていた。よくは聞き取れない。だが、断片的に聞き取ることはできた。

「……アダムに還えらなければ…………滅ぼしてまで…………」

 ――ぴしり。なにかに亀裂が入るような音が、頭蓋の中に響き渡ったような気がした。アダム。あだむ。ADAM……

「あ……ああああ……」

 なにかが砕ける音、そして頭痛が、いっぺんに襲ってきた。だが、まだ耐えられないほどではない。シンジは再び、視線を少年に移した。

 今度は少年は、驚愕に目を見開いている。

「…………そうか……そういうことか、リリン……」

 ひとり、納得とも諦めともとれぬ声を吐き出す。刹那、扉のほうから再び轟音。少年は、視線を背後に移す。シンジも、それに習うように視線を移した。

「! あれは……!」

 シンジの目に飛び込んできたもの――それは、二体の巨大なゴーレムだった。そのうち片方には、明らかに見覚えがある……

「あれは――たしか、エヴァンゲリオンとかって……!」

 それは確かに、遺跡で加持リョウジに見せられた巨大な顔――エヴァンゲリオンだった。紫色を基調とした鬼のような顔。それの足元には、紫色の巨人によく似た、赤い巨人が頭にナイフを突き刺したまま倒れ込んでいる。その傷口からは、紫色の体液が流れ出していた。

「エヴァンゲリオン――千年前のゴーレムが、なんで――?」

 ともあれ、目の前であのエヴァンゲリオンが稼動している……僕は、一体どこに居るんだ!?

 エヴァンゲリオンは赤い巨人をまたぎ、ゆっくりとした動作で少年に歩み寄る。そして、次の瞬間、少年の身体を鷲づかみにした。

 少年は、悲鳴ひとつあげなかった。それどころか、笑みを浮かべてさえいる。

(なんだ――恐怖でおかしくなったのか?)

 が、そういうわけでもなさそうだった。少年の目には、明らかに理性の輝きが見て取れる。少年は、エヴァンゲリオンに向かってなにかを語りかけていた。

 なにを話していたのか――その内容は。一向に聞き取れなかった。が、一言だけ、明確に耳に入ってきた。

「……さあ、僕を消してくれ……」

「な――!? 正気か!?」

 思わず叫んでしまう。が、それはエヴァンゲリオンも同様だった。虚ろにたたずんでいるその体躯からは、あからさまに動揺しているのが感じられた。

 シンジは、ただ見ているだけだった。なにもできない。できるわけがない。

 これは、ただの夢なのだから。だが――

「なんなんだ……? 一体僕は、なにを見てるんだ!?」

 そして、約二分後。

 ぐしゃり。

 少年の身体は完全につぶされ、その頭は奇妙な色をした湖へを沈んでいった……

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

「人類補完計画――ですか?」

 怪訝そうに、リョウジは聞き返した。

「そうだ。知っているかね?」

 答えたのは、白衣姿の老人である。すでに六十歳は超えているだろう。しかし、背筋はしゃんとしており、双眸には若々しい光が見て取れる。彼は消毒液の匂いの染み付いた白衣を脱ぐと、近くのハンガーにそれを引っかけた。冬月コウゾウ。診療所の、ただの医者である。だが彼は、別にと組貴官ネルフの副司令という立場も持っている。もっとも、そちらのほうはほとんど形骸化しているが。

「そりゃ、聞いたことはありますが……千年前に発案されたっていう、あれのことですか?」

「そうだ。人類補完計画――伝説によれば、旧世界の末期に自らの存在をより高次元の存在へと誘うべく計画されたとされている。もっとも、その計画は発動されることはなかったようだが。結果として旧世界は崩壊し、生き残った人類は現在の状況にあるわけだが――」

 そこまで言って、彼は口を閉ざした。自嘲気味に笑みをもらし、リョウジに向き直る。

「すまない。つい昔の癖が出てしまった。こんな事は、すでに君の知っていることだったな」

「いえ――ところで、いきなりどうしたんです? 急にそんな昔話を――」

「MAGIを覚えているな?」

 冬月は、は、いきなりそうつぶやいた。いきなりのことに、リョウジは訝しげに表情を変えたが、すぐに答える。

「『MAGI−SYSTEM』――ジオフロント遺跡発掘の際、その中心にあったピラミッド型の砦。その中で発見された大型の有機コンピュータ――何重にも封印が施されている上に、ほかのコンピュータとは違い、人工的とはいえ、知性が備わっている。現在は、操作方法の解明中だったはずですが?」

「それが二ヶ月ほど前、解明されたのだよ。一度操作が可能になると、彼女は次々に知っていることを吐き出してくれたよ――」

「彼女?」

 怪訝そうに、リョウジは聞き返した。彼女――彼は、MAGIを彼女と呼んだ。冬月はまた苦笑して、

「便宜上、ネルフではあれを『彼女』と呼んでいる――あれには、ある女性の人格が移植されているのだそうだ。まったく、人格を移植するなど想像もできん話だが。……それでその彼女だが、起動と同時にジオフロント遺跡の全機能、とまでは行かないが、大方を復活させた。現在内部を調査中だが、近々本部施設を遺跡に移動することになるかも知れん。なにしろ、大陸でももっとも強靭な場所だからな、あそこは」

「それはわかりますが――それとさっきの話と、なんの関係があるんです?」

「――千年前の記録――『ネルフ』と呼ばれた組織の、戦闘記録および……人類補完計画の概要だ」

「……!」

「これが実在した、ということは――伝説……いや、伝承はすべて、とはいかなくとも、大部分が事実だと認識したほうがいいな」

 ――と、リョウジが口を開く。

「冬月先生。彼らは、私が――私たちがやろうとしていることを、すでに掴んでいますか?」

 それに、冬月は肩をすくめて、

「彼らだって無能じゃない。すでに掴んでいるか――あるいは、掴んでいないとしても時間の問題だろう。いずれにせよ、あの男は私のことを消したがっている。そろそろなにか仕掛けてくるさ」

そこまで言って、冬月は顔を後ろへ――白い清潔そうな布で隔てられた向こう側へと、視線を向ける。そこには、少年がベットの上で寝息を立てているはずだ。なんの変哲もない――ただの少年が。

「いまだ、目を覚まさないか……」

「ええ、あの状態に入って、すでに五時間が経っています。先ほどご覧になったとおり、外傷は一切ありません」

「それはわかっているが……場所が場所だけに、気になる。確認するが、初号気のせいではないんだな?」

 視線をリョウジに戻しながら、冬月。リョウジは一瞬、考えるそぶりを見せ……首を振って、否定してくる。

「断言はできませんが――どちらかといえば、魔術の衝撃波に煽られて気を失ったというほうが正しいと思います」

 冬月は沈黙して、、再び視線を後ろへと向けた。一瞬顔を歪めて、そしてため息と供に言葉を吐き出す。

「まったく、老い先短いというのにこんな厄介ごとに巻き込まれるとはな」

「すいません、冬月先生。ですが、貴方以外に私に力を貸してくれそうな方は、他には居なかったもので……」

 言葉ほどにはそう思っていないような表情で、リョウジは言った。もっとも、冬月も謝罪を期待してたわけではない。ともかく、もう後戻りはできなくなったわけだが……

「―――――!」

 そういえば。

 ふと、唐突に、冬月は、自分が大切なことを忘れているのに気がついた。つい数日前、ネルフから送られてきた報告書――その内容を、いきなり思い出したのだ。

「加持君、すまん、大切なことを忘れていた……」

「なんです?」

 めずらしく、きょとんとした表情を見せて、リョウジは聞き返した。

「それがな……アスカ君が、ネルフを出奔したらしいのだよ」

「は――?」

 その発言に、リョウジは間の抜けた声で答えた。

 


あとがき

 どーも、始めまして。隠者の紫と申します。

 四ヶ月……長かったなー。別に忘れてたわけじゃなかったんですけどね。

 書いては消して書いては消しての繰り返しで……次々と作品を発表されている皆さんはすごいなー、などと一人思っている今日このごろです。

 第壱話「サイカイ」ようやく公開できました。ほんとは本編に沿って……って考えてたんですけどね。でもそうするとかなりくどい話になってしまうんで、心機一転、大まかな内容はそのままにファンタジーでいくことにしました。ファンタジーじゃないような気もするけど。

 時代設定は、一応映画版の後ということになっています――でも僕、映画見てないんですよね。これでまともなものが書けるのだろうか……

 不安だ。

 

 ともかく、第弐話ではいよいよアスカが登場する予定です。それと、ほとんどなにもしなかったシンジも少しは動かしていきたいと思います。綾波は……未定です(^^;)

 読んでいただけた方はメールいただければ幸いです。「読んだ」の一言でもかまいません。自分も出してないのに何を言ってるんだという気もしますが、それではこの辺で

1997.12

隠者の紫


NEXT

ver.-1.01 1998+03/25 公開

ver.-1.00 1997-12/17 公開

ご意見・感想・誤字情報などは summon@kk.iij4u.or.jp までお送り下さい!


隠者の紫さんの『EVANGELION 〜神話にならざる少年〜』第壱話、公開です。
 

 ミサトさんと加持が使ったのは・・・魔法!?
 

 1000年前、
 2年後、

 時間の関係が入り組んでいますね。

 シンジが見た見る夢に
 ストーリが見えてくるのかな?
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
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