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チルドレンINワールドカップ・優勝への長い道のり その9

女の闘い




 シンジはマスターを見て驚いた。




 「青葉さん」
 「おや。シンジ君。久しぶりだね」
 「青葉さんってギタリストとして再出発するんだってマヤさんが言ってましたけど」
 「いや〜〜そのつもりだったんだけど現実は厳しくてね、俺ぐらいの腕じゃぜんぜんなんだよ。んで、食いつなぐ為シンジ君のお父さんに資金を借りて喫茶店兼パブを開いたんだ」
 「父さんから……何か裏がありません」




 シンジがシゲルをじっと見る。




 「…………ばれてるか。簡単に言うとここ連絡先兼避難場所でもあるんだよ。まだいろいろあるかも知れないだろ」




 シゲルは言う。マナとマユミ以外は納得しているようだった。二人は何が何だかわからない様子だ。




 「まあ店先では何だから入った入った。今日は貸し切りだよ」




 一行はぞろぞろと店に入った。店は4人用のテーブルが4つある。脇には少しスペースもある。カウンターにはコーヒーの器具と豆、酒瓶などがある。




 「マスターとケンスケ君達知り合いだったの?」




 マナが聞く。




 「ちょっとね。俺ネルフの職員だったんだ。それ以上は秘密だけどね」
 「じゃ時々来る美人の奥さんも?」
 「ああマヤは今でもそうだよ」
 「するとケンスケ君やシンジ君達の事くわしいんですね」
 「まあね。それはともかく皆座りなよ。狭い店だけどね」




 シゲルは四人用の机をくっつけた。一旦店の外に出ると営業中の札をひっくり返し準備中にした。店内に戻るとそこには熾烈な戦いがうまれていた。シンジ及びケンスケをめぐっての席争いだ。結局のところ机の一方にヒカリ、アスカ、シンジ、マユミが並び反対側にはマナ、ケンスケ、レイ、トウジと並んだ。カヲルはテーブルの端の席に着く。




 「さてと、皆何がいいかな。今日は俺の奢りだよ」




 シゲルが言う。




 「じゃ私ホット。アメリカンで」
 「私はウィンナーコーヒー」
 「ワシはホット。ブレンドや」
 「鈴原とおなじの」




 皆口々に注文する。




 「マスター、ケーキもいい?」




 ちゃっかりとマナが聞く。




 「ん〜〜まあいいよ。女の子には一人一個づつまでは奢りだよ」
 「やったぁ〜〜」




 アスカとマユミ、レイとマナも甘い物の前では一時休戦らしく仲良くメニューを見ている。




 「私ショートケーキ」
 「私はモンブラン」
 「私はチーズケーキがいいわ」
 「私はチョコケーキ」
 「私はワインケーキにして」




 皆楽しそうである。ヒカリだけはトウジと離れてしまい不機嫌そうだったが。シゲルは皆の注文を聞くとカウンターに戻っていった。




 「それにしてもよかったわ。また皆で集まれるなんて」




 ヒカリが話し出す。




 「そうね。私もそう思うわ。ほんといろいろあったのよねぇ〜〜。今生きてるのが不思議なぐらい。ほんとよかったわ。バカシンジもレイもケンスケもおまけにカヲルも無事だったし。まあこれも全て私の普段の行いがいいからよねぇ」




 アスカが普段の調子で言う。嬉しそうだ。




 「あのぉ〜〜」




 マユミがおずおずと話し出す。もちろん演技だ。




 「あの皆さんの事についてはネット上で凄く有名になってますけど、実際はどうなんですか。あの、たとえば、碇君と惣流さんは恋人同士でもう、あの、その、深い仲だとか、あ、ごめんなさい」
 「なっ、何言ってんのよ。シンジは私の下僕よあくまでも下僕。だいたいネットで流れている噂や小説は全部デマ。私が人類を救ったのはともかく、私とシンジとレイの三角関係とか、私がシンジにべた惚れとか、私がシンジに迫ったとか、キスしたとか、ぜぇ〜〜〜〜んぶデマだからね」




 はあはあと息をつき言い切るアスカ。後のほうではずいぶん墓穴を掘っている。




 「アスカ落ち着いて。何か凄いこと言ってるわよ」




 ヒカリが慌ててアスカに言う。がアスカは一度言ったら後には引けぬといった感じである。




 「だいたいこの朴念仁でとろくて鈍くて女心が判ってくれないけどいざっという時は頼りになって料理と洗濯は上手いがあんまり目立たない、だけどチェロがとても上手くって優しい奴のどこがいいのよ」




 アスカも何を言っているのか自分で判らなくなる。




 「アスカ今ののろけ?」
 「な、なんでよ、その……いいじゃないのもう」




 アスカは照れ隠しかほっぺたを膨らませ怒った振りをする。が、真っ赤になった顔が嘘だと皆に大声で言っているようなものだ。




 「そうなんですか。碇君と惣流さんってやっぱり恋人なんですね」




 マユミが念を押す。アスカの暴発を誘っているようだ。




 「違うって言ってるでしょ!!」




 アスカもよくよく意地っ張りである。周りは口が挟めなくおろおろしていた。




 「ほらほらアスカちゃん落ち着いて」




 シゲルがコーヒーを運んでくる。タイミングを見計らっていたようだ。コーヒーの香ばしい香りでやっとアスカも落ち着いてきたみたいだ。周りを見回し視線が集まっているのを見て恥ずかしそうに身をちぢこませた。




 「ねえ碇君達今後どうするの」
 「そやそや、皆どないすんねん」




 ヒカリとトウジが聞く。




 「どうって、学校に通って普通に生活するよ。ネルフも手伝うけどね」
 「でももうEVAは使わないんでしょ」
 「整備なんかを手伝うんだ」
 「そうなの。アスカはどうするの。日本に残るの?」
 「うん。まだネルフが私を必要としているし。逆に帰ろうと思えば何時でも帰れるしね」
 「そうよね、離れたくないわよね」




 ヒカリはアスカとシンジに向かい微笑む。




 「な、なによ別にシンジと離れたくないなんて言ってないからね!!!」
 「碇君とは言ってないわよ」
 「ヒカリまで……もう……わかったわよ、シンジと離れたくないって言えばいいんでしょ」
 「そうや、惣流人間素直が一番や」




 トウジも突っ込む。ヒカリとトウジ見事なペア攻撃である。一方反対側ではレイ、ケンスケのラブラブフィールドが形成されつつあった。




 「ケンスケ君砂糖とミルクは?」
 「僕砂糖いらない。ミルクたっぷり」




 レイはケンスケのブレンドを手元に寄せるとミルクをたっぷり入れ素早くかき回す。カップの取っ手を右に向けケンスケの前に戻す。ケンスケは右利きだ。ケンスケはカップを右手で取るとコーヒーを啜る。



 「青葉さん、美味しいです」
 「そうかい。それは嬉しいな」
 「ケンスケ君、私にも飲ませて」




 レイはそう言うとケンスケの頬に自分の頬をくっつくほど近づける。レイはケンスケのカップをつかんでいる指を摘まむようにして自分の顔の前に動かす。ケンスケが傾けるカップのコーヒーを啜る。




 「美味しい」




 白磁のコーヒーカップに薄くレイの口紅が残る。二人の動作に不自然さはまったくない。馴れているのだろう。あまりの自然なべたべたぶりに周囲は言葉を失った。




 「ん、どうしたの?」




 ケンスケが不思議そうに言う。レイも不思議そうな顔をしている。




 「あんた達それが普通?」




 あまりに強烈な場面の為、アスカは自分がからかわれていたのも忘れた。




 「何が?」




 レイは不思議そうに答える。




 「そ、そう」
 「綾波さん、羨ましい……」




 本音が出るヒカリ。ここまで行くとからかう気にもならないという見本である。




 「はいケーキだよ」




 皆が固まっている時にちょうどシゲルがケーキを持ってくる。レイはケンスケの指から手を離し姿勢を元に戻した。レイの前にはショートケーキが置かれた。レイはショートケーキをフォークで切る。その小片をフォークで刺すと、ケンスケの口の前に持ってくる。ケンスケは躊躇無く口に入れる。




 「ケンスケ君美味しい?」
 「うん。美味しいよ」




 レイとケンスケは微笑みを交わした。周りは完全に固まった。身動き一つ出来なかった。最初に動いたのはトウジだった。




 「ケ、ケンスケもうワシはなにも言わん。綾波を大切にするんや」
 「へ?もちろんしてる。ちゃんと綾波の部屋にはサバイバルグッヅを一式置いて何時でも緊急時に備えているし、ちゃんと対人用警戒装置もリツコさんに頼んで増設してもらっているよ。その辺の特殊部隊が束になっても綾波の部屋まではたどりつけないよ。それに今の僕なら素手で熊だって虎だって倒してみせるよ」
 「ワシが言いたいのはそう言った事では……いいんちょ何とかゆうてくれ。ワシはもうあかん」
 「そ、そう言われても、そのがんばって……」
 「「何を?」」




 レイとケンスケが聞き直す。皆はあまりの状態に今だコーヒーにもケーキにも手を付けてはいない。




 「ア、アスカなんか言ってあげて」
 「そう言われても……レイあんたどこまでケンスケと進んでるの?」
 「進んでるって?」
 「だから、その……キスとかそうゆうことよ」
 「おはようとお休みなさいのキスだけだけど」
 「「「「どしぇ〜〜〜〜」」」」




 アスカとシンジ、ヒカリとトウジは変な踊りを踊っていた。




 「ケンスケ恥ずかしくないの?」




 シンジが聞く。




 「日向さんにからかわれ続けたから馴れたんだ。最近日向さんミサトさんの影響で性格軽いんだ」




 ケンスケが事もなげに言う。おもむろにアスカが言う。




 「レイ私初めて心の底からあなたに負けたと思ったわ。もうこうなったら早く行くとこまで行って結婚でも何でもしちゃいなさい」
 「うん」




 やっとレイが赤くなった。結婚とかお嫁さんとかの言葉には弱いみたいである。




 「僕もその気だよ。綾波さんが相手ならこの歳で人生決めても悪くないしね」




 ケンスケが言う。おかげでまた皆が固まった。少したった後状況を打破したのはトウジだった。




 「さよかぁ。まあ仕事出来る歳になったら、綾波もろうてやりぃ〜〜や。皆応援するで。なぁいいんちょ」
 「そ、そうね。ケンスケ君頑張って」




 ヒカリの言葉と共に皆金縛りが解けた。がマナは皆と少し違っていた。




 「ケンスケ君って綾波さんとそんな仲だったの……私……私……ケンスケ君の事が大好きなのに」




 マナが思わず言ってしまった。我慢が出来なくなっていた。もう作戦も何もなくなってきた。マナは椅子をけ飛ばすように立ち上がるとレイの後ろに立った。マナはレイがまだ持っていたフォークを叩き落とした。フォークは机に突き刺さった。レイは振り返るとマナの顔を見上げた。レイの顔を困惑の表情が覆う。マナはレイの手を掴み引き釣り上げるように立たせる。戸を蹴り飛ばすように開けるとレイを引きづり出す。いきなりの事態に唖然としていた皆もやっと外に飛び出した。店の前には二人の姿がない。




 するとどこからともなくヒステリックなマナの声が聞こえてきた。




 「あなたをここでぶちのめしてやる。私はこの中学の副番なのよ。私が勝ってもケンスケ君はなびかないのはもう判ったわ。でも……でも……私の気が済まないのよぉ〜〜」




 バン




 何かの崩れた音が響く。




 「店の裏に空き地がある。多分そこだ」




 シゲルが叫ぶ。皆は駆け込んだ。その空き地には土管や古い木材が積んであった。そこでは美少女二人が舞っていた。




 「あなたを切り刻んであげるわ。これはチタン合金よ。木や石は切れないけど人の皮膚ぐらい簡単よ」



 マナは右手にピアノ線みたいな細い針金を巻き付け振り回していた。レイはぎりぎりで躱していく。ネルフでの戦闘訓練と使徒との実戦の賜物であろう。




 「綾波」




 ケンスケが止めようとする。




 「こないでケンスケ君。私自分で戦う。ケンスケ君を戦い取る」
 「わかった綾波。使うのは守りにだけだぞ」
 「わかったわ」




 ATフィールドの事だろう。




 「二人で見せつけるんじゃないのよぉ」




 二人の息があった会話によけい激昂するマナである。前にも増して激しく右手を振り回す。レイは躱し続けた。その内マナの右手から血が滴ってきた。




 「マナさん。だめ。それ以上戦ったら指が千切れちゃう」
 「あなたの顔を傷つけてやる。指ぐらいなによ」




 皆は息を飲んで戦いを見守っていた。するとマユミがするするっとレイの後ろに近寄りレイを押さえた。その為レイはマナの針金を避け切れず左肩を少し切られた。血が滴る。レイは顔をしかめる。




 「マナやっちゃえ」




 マユミが言うと同時に二つの事が起きた。マナが右手を振りかぶった。ケンスケがレイを助けようとした。がそれよりも早く赤い影がレイとマユミに駆け寄り、空中で前転をし、マユミの肩口にあびせ蹴りを放った。マユミはレイを放し転がって蹴りを避けた。その為レイはマナの一撃をかろうじて避けた。赤い影は奇麗に着地すると立ち上がり腰に左手をあて右手をマユミに向け言った。




 「あなたの相手はこの惣流・アスカ・ラングレーよ」
 「ちょうどいいわ。私もそのシンジって子狙ってたのよ。マナみたいに本気じゃないけどね。彼氏の前であなたを叩きのめしてあげるわ。私がこの学校の番長よ」
 「いいわよ。相手になるわ。シンジ、ケンスケ手を出さないで。これは私とレイの女の意地を賭けた戦いよ」




 アスカとマユミも戦い始めた。シンジはやはり止めようとした。が、シゲルがシンジを止めた。




 「青葉さん何するんですか」
 「大丈夫だシンジ君。レイちゃんはいざとなればATフィールドを使えばいいし、アスカちゃんに喧嘩で勝てる女子中学生がレイちゃん以外にいると思うか?女の子だってどうしても引けない時があるだろう」
 「でも」
 「大丈夫だよ。ケンスケ君を見なよ。信じてるよ」




 ケンスケは確かにじっと戦況を見つめていた。シンジもそうする事にした。ヒカリはレイとマナの戦いを見た時点で失神していた。トウジが抱えて店の中に連れていった。








 決着は意外と早く着いた。レイが相変わらず躱すだけなのに業を煮やしたマナがいきなり左手の袖からも針金を出し横に振った。レイはとっさに飛びのいたが、針金はレイのウエストに巻き付き締め付けた。マナは左手を思いきり引いた。針金がレイの細いウエストに食い込む。




 「うっ」




 レイの口から苦しそうな声が上がる。




 「とどめよ」




 マナが右手を振りかぶった。レイは覚悟を決めた。一瞬レイの体の後ろに微かな光が走るとウエストに巻き付いた針金はばらばらと切れて落ちた。




 「なんなの」




 マナが驚愕の叫びをあげる。マナは右手の針金を振り下ろす。レイは両手の指を開いて腕を体の前で交差させ振る。空中の針金はやはりばらばらに切断される。




 「水鳥拳」




 レイはそう言うとマナの懐に飛び込んだ。左手でマナの右手首を掴み右手の手刀の先端をぴたりとマナの喉に押しつけた。




 「私の勝ち」




 シンジとケンスケ、シゲルの三人は理解していた。レイが極細いATフィールドを発生しマナに気がつかれないよう針金を切断したのを。わざと拳法の様な構えをして見せかけた事を。
 二人はしばらく動かなかった。レイは無表情にマナの顔を見つめていた。マナの顔から徐々に狂気の色が抜けていった。瞳からの涙と共にマナの口から言葉がこぼれてきた。




 「綾波さん……ずるい……喧嘩まで強いなんて……私初めて男の子好きになったのに……本気で好きになったのに……ケンスケ君彼女いないって言ってたのに……私の写真いっぱい撮ってくれたのに……それなのに彼女が美人で強くって世界を救ったヒロインで……ずるいずるいわよ……ケンスケ君うそつきよ」



 マナは泣きながらレイに持たれかかるように膝を地面についた。両手の針金は滑り落ちていた。右手の指は血だらけだった。レイはマナの右手を放すと同じく膝をついた。レイはマナを抱きしめた。




 「違うの。戦いの中で恋に落ちたの。私もケンスケ君も初めて人を好きになったの。二人で命を助け合ったの。分け合ったの。だからもう離れられないの。だからケンスケ君うそつきじゃないの。ごめんね。ごめんね霧島さん……」
 「ずるい……ずるいよぉ……」




 マナもレイを抱きしめた。マナはレイに頭を預けて泣いた。ずるいと言い続けた。




 「さあ二人とも傷の手当てをしよう」




 シゲルが二人に言う。レイは泣きじゃくるマナを優しく立たせる。レイはマナを店の方に連れて行った。ケンスケも二人の後ろを着いていった。








 一方アスカとマユミの戦いはもっとあっけなかった。二人はほぼ同じ姿勢で相対していた。足を肩幅ぐらいに開き右足を少し前に置く。両手の平は軽く握られ、腕は胸の前に自然な形で構えられていた。いずれ劣らぬ美少女が二人静かに微動だにせず向かい合っている。絵のように美しかった。双方動けないようであった。シンジもぴくりともせず見守っていた。




 その時レイのうめき声がアスカの耳に入った。アスカがちらりと視線を動かした瞬間マユミが動いた。素早い踏み込みと同時に鋭い右の手刀がアスカの喉を襲う。アスカはまさにマユミの手の幅だけ右に動き手刀を躱す。マユミの右手はアスカの髪の中を滑っていく。アスカは踏み込んだ。




 どす




 鈍い音がした。二人はお互いの肩に顎を乗せるような形で固まっていた。マユミの右手は手刀を放った形のまま伸びていた。やがて右手が下に落ちるとマユミは崩れるように地面に横倒しになった。アスカは正拳をマユミの鳩尾に突き刺した格好のまま立っていた。パワーファイター同士の一撃の勝負だった。




 「ふう〜〜」




 アスカが息を吐き緊張をとく。アスカは振り向くとシンジに笑顔を見せる。




 「ア、アスカ、マユミさん大丈夫?」




 アスカはたちまち般若の様な形相になる。美人なだけに怖い。




 「シ〜〜ン〜〜ジ〜〜あんた、なんで先にこの女の事気にすんの」




 アスカが怒ったまま問い詰める。




 「だってアスカは負ける訳ないし、アスカを信じてるから」




 アスカはしばらくシンジを睨んでいたがやがて一つため息をつくと情けなさそうな顔つきになる。呆れているのであろう。




 「あんたって人は自分の彼女より、倒れてる子を気にするのよね。相変わらず他人に優しいと言うかなんというか……まあいいわシンジちょっと手伝って……あらレイも勝った様ね、まあ当然よね……この子あの土管にもたれ掛けるから。この子なら大丈夫。手加減したから気絶しているだけよ」
 「うん。判った」




 アスカとシンジは二人でマユミを抱えると運び土管にもたれ掛け座らせた。マユミはまだ目を瞑り気絶していた。




 「シンジあなたは店に戻ってて」
 「アスカ……」
 「大丈夫よ。もう話し合うだけだから」
 「判ったアスカ。先に戻って綾波達の様子を見てるよ」
 「それがいいわ」




 シンジは側で見ていたシゲルと共に店に戻っていった。




 「それにしてもシンジ君、君も相田君も将来夫婦喧嘩で絶対勝てないな」
 「そうですね」
 「ほう。やっぱりアスカちゃんは将来碇夫人か」
 「からかわないでくださいよぉ〜〜」
 「まあいいじゃないか。ま俺もマヤには勝てないしね。あの童顔ですぐ泣き落としやるからね」
 「それってのろけですか?」








 「さてとどうしようかな」




 こちらはアスカである。今だ目覚めないマユミを見下ろしている。




 「いっその事とどめさしちゃったりして……」




 物騒なことを言っている。すこしそのまま見ていた後マユミの横に腰を下ろした。土管に持たれかかり空を見た。そろそろ夕焼けに成りかかっている空に雲が浮かんでいた。




 「私って戦いから逃れられないのかなぁ……ねえレイ」




 そう言ったアスカは少しぼっとしていた。そのうちマユミが身じろぎをした。アスカはそちらを振り向く。マユミがぼんやりと目を開く。少しそのままにしていた後アスカのほうを振り向く。




 「私……負けたのね」
 「そうよ」
 「そう……負けたの……こんなの初めて。まったく相手にならなかったなんて」
 「まあね。私はこれでも命をかけた実戦経験がいっぱいあるプロなのよ」




 穏やかな会話をかわす二人である。




 「そうか……そうよね。私みたいなお山の大将と違って世界を救ったヒロインだものね」
 「その言い方はやめて。あの戦いは奇麗なものじゃなかったのよ。私もシンジもレイもそれこそ何度も死にかけ狂いかけたのよ。戦いが終わってからも学校にこれるようになるまで凄く苦しんだんだから」




 二人の少女の顔を夕焼けが赤く染めていく。




 「ごめんなさい惣流さん。そうなの。知らなかったわ。噂っていいかげんなのね。惣流さんってまるで女王様の様に喜んで綾波さんやシンジ君を率いて戦ってたって」
 「あ、それは確かに少しあるわ」
 「そうなの」
 「そう」




 二人ともぼんやり空を見る。




 「ねえ惣流さん」
 「なあに」
 「自由にしていいわよ」
 「何を?」
 「私を」
 「へ?」
 「煮るなり焼くなり。番長の座は譲るわ。どう見てもあなたが学校最強だし」
 「そんなの興味ないわ。それに本気出したらレイやカヲルは私の数百倍強いし」
 「そうなの。上には上がいるのね」
 「まっ何時でも挑戦には乗るわよ」
 「もういいわ。なんかあまりにも完敗すぎたのですっきりしちゃった。憑物が落ちたみたい」




 また沈黙が辺りを覆う。少ししてアスカは立ち上がった。お尻についた土埃を叩いて落とす。手をぱたぱたたたき合わせて埃を落とす。マユミも立ち上がろうとするがまだ足にきているらしくふらふらとして足を滑らす。アスカはあわてて手を伸ばそうとしたが届かない。倒れそうになったマユミの頭の先には土管があった。




 「あっ」




 アスカが叫んだ。もう少しで頭を土管のコンクリートにぶつけそうなマユミを受け止めたその影は、アスカに気配も感じさせなかった。




 「美しいお嬢さん大丈夫かい」
 「渚さん」




 マユミは自分の目の前に銀髪の少年の顔を見た。急に自分の顔が熱くなるのを感じる。




 「ふぅ〜〜ん。ちょうどよかったわナルシス。彼女つれていってあげて」
 「もう話はいいのかい」 
 「いいわよ。ま、私の完勝だったし、マユミはどうやらシンジにそんなに興味はなさそうだし」
 「わかった」
 「じゃさき戻ってるわよ。それとマユミ、もう本当はあまり戦いたくないんだ。だからシンジと私は静かにしておいてね」
 「うん。ごめんなさいアスカさん」




 アスカはその声をきくと後ろ手で手を振り店に戻っていった。後にはカヲルとマユミが残された。




 「さ、僕達も店に戻ろうか」




 カヲルは軽々とマユミを両手に抱えた。




 「えっ、え……私歩けます」




 アスカと争っていた時とはうってかわって顔が真っ赤である。




 「ふらついていたろう。さ、手でつかまって」




 マユミはおずおずと手をカヲルの首にまわした。




 「ありがとう」
 「どういたしまして」




 カヲルはマユミを抱いたまま店に向かった。




 「重いでしょ。私着痩せするけど結構デブだから」
 「いいや。羽根の様に軽いとは言わないけどね」
 「そう」




 マユミは悩んだ。いつもの様に男の子をからかう言葉が出てこない。どうしたのか。まさかこの私が一目惚れなんかを……。初めての感情にマユミは困惑していた。




 「どうしたんだい」
 「なんでもない」




 そうこうするうち二人は店の戸の前に着た。カヲルはマユミを抱いたまま戸を背中で押して開け店内に入った。店内は様子が一変していた。ヒカリはまだ気分が悪いらしい。仮眠用のキャンパスベッドに寝かされていた。チルドレン達の待避所も兼ねているこの喫茶店にはこんなものもあった。トウジとシンジ、アスカはヒカリの周りに椅子と机を動かし座っていた。一方レイとケンスケは別の机でまだすすり泣いているマナを慰めていた。マナの右手は手当てがしてあった。レイの左肩の出血も止まっている。制服にマナが切り裂いた痕が無い所を見るとそんなものまで常備しているらしい。シゲルはカウンターでごそごそやっていた。
 戸が開く音と共にアスカとシンジが振り返る。トウジはヒカリが心配でそれどころじゃないらしい。レイ、ケンスケは気づいていて視線をちらりと向けたがすぐマナの方に戻した。シンジもマユミが大丈夫そうなのでにこりと笑う。アスカは二人にウィンクをする。マユミはまたもや赤くなる。カヲルはマユミをマナの近くの椅子に座らせる。




 「渚君ありがとう……」
 「どういたしまして」




 カヲルのスマイルに一瞬気が遠くなるマユミである。




 「シンジ君、洞木さんは大丈夫なのかい」
 「私は大丈夫よ。ただまだちょっと気分が悪いだけ」




 ヒカリが答える。




 「そうかい。レイ君、霧島さんはどうだい」
 「大丈夫血は止まったわ。それにもうしっかり三人で話したから」
 「それはよかった」




 カヲルはマユミのそばの空いている椅子に座る。




 「皆ちょうどそろったね。今日はもうおもいっきりサービスだ」




 シゲルは皆にもう一度飲み物を配る。




 「ケーキも別の種類の物をつけるよ」




 シゲルはもう一品ずつケーキを女子達に配った。




 「さ、霧島さん、ケーキ食べましょ」




 レイが言う。




 「うん……ぐすん……ありがとう。レイさん」




 マナは絆創膏だらけの右手で顔の涙を拭く。




 「このモンブラン美味しいわよ」




 レイはフォークで一口すくい口にした後マナに勧める。マナは少し躊躇した後自分もフォークで少しすくい食べてみる。




 「美味しい」




 マナは泣き笑いのような表情でレイに言った。店の中をほっとした空気が流れた。




 「これがチーズケーキか。リリンはなかなか美味いものを作る」
 「リリン?何のことですか?」
 「ああ単なる口癖さ。僕の」




 カヲルは言う。マユミはカヲルの一挙手一投足から五感を離せなくなっていた。これって……恋?私一目ぼれしたの?そんなぁ……私男の子を本当に好きになっちゃったの。








 「ねえシンジ」
 「なあにアスカ」




 アスカのひそひそ声にやはりひそひそと声を返すシンジである。




 「あの二人」
 「カヲル君と山岸さんの事?」
 「そうよ。見てみなさいよ完全にあの子カヲルにまいってるわ」
 「そう」
 「そうよ。あんた相変わらず鈍いわね。面白い組み合わせよね。ナルシスと女番」
 「そう言うアスカは山岸さんより強いじゃないか」
 「まぁそうね。私は天が荷物を与えたいい例よ。地上最強の美女。いい響きだわ」
 「アスカ、荷物じゃなくて二物だよ」
 「そ…そうとも言うわね」




 こっちも緊迫感のない会話である。一方ヒカリもやっと起き出してきた。




 「鈴原どうなったの」
 「大丈夫や。みんな仲ようなったで。ほら綾波と霧島は一緒にケーキつっついてるし」
 「そうよかった。アスカ」
 「あ、大丈夫ヒカリ」
 「うん。もう終わったの」
 「そうよ皆仲直りしたわ。それどころかほらマユミなんかカヲルに一目ぼれって感じよ」
 「よかったわ。何だか心配したらおなかすいちゃった。アスカそのワインケーキ貰える?」
 「いいわよ」








 「よかった。どうなる事かと思った。こんな事でチルドレンに大怪我でもされたひにゃ司令に殺されるよなぁ」




 一人ほっとするシゲルであった。こうして波乱の初日は過ぎていった。
















 次の日の朝、リニアで通学のシンジとアスカ、レイとケンスケそしてカヲルが駅を降りると、トウジとヒカリそしてマユミとマナが待っていた。ヒカリが言う。




 「霧島さんと山岸さんが一緒に登校したいって」
 「私はいいわよ。シンジは」
 「僕もいい。カヲル君は」
 「僕は構わないよ」
 「俺もいいよ。綾波さんは」
 「私もいい」




 皆わだかまりはないようだ。




 「ありがとう」
 「ありがとう皆」




 マユミとマナは微笑んだ。今度は演技ではない心からの微笑みだった。




 「じゃ学校へ向かってレッツゴー」




 アスカの威勢のいい掛け声と共に皆は移動を開始した。
















 土曜日、いつもの様にトウジはネルフでリツコの診察を受けていた。




 「リツコはん、最近ナツミの奴ずいぶん動けるようになりましたぁ。これもリツコはんのおかげです。どうもありがとさん」
 「私は自分の仕事をしたまでよ。ただナツミちゃんの場合筋肉がそうとう弱ってるから自力で歩くのはまだ半年はかかるわよ」
 「わかってます。そやけど今度はちゃんと訓練すればきちんと治るのやから今までとは違います」
 「そうね。早く治るといいわね」
 「そしたらナツミといいんちょ遊園地へつれていかなあきまへん。いいんちょが五月蠅いんや。ナツミと遊園地行くっちゅうて」
 「あら、トウジ君が洞木さんと行きたいんじゃなくって?」
 「わ、ワシはそんな事あらしません。遊園地なんか男が行くとこやない」
 「じゃそういう事にしといてあげましょう。ところでトウジ君お願いがあるの」
 「なんでっしゃろ」
 「実はね、サッカーやってほしいのよ」












つづく







NEXT
ver.-1.00 1998+01/13公開
ご意見・感想・誤字情報・りっちゃん情報などは akagi-labo@NERV.TOまでお送り下さい!


 あとがき



 「奇跡って言うのは起してこそ意味が有るのよ」かぁ〜〜ミサトさんいい事いうなぁ。今度はアルゼンチンとクロアチア、ジャマイカを倒して本戦出場だ。あのめちゃめちゃな作戦よりは確率はずっと上だぞ。そうしたら喜んで「チルドレンINワールドカップ」書き直しますよ、わたしゃ。頑張れ日本代表。
 それにしても一時はどうなる事かと思った。悪い方に書き直し覚悟してました。

 さてこの作品の後書きですが実はエバを初めて知った時思った事が、レイちゃんと南○水鳥拳のレイって似ているという事なんです。両者ともカタカナでレイだし、細いし、主人公の為に死んじゃうし(かわいそうですよね)。SSを書き初めてから何時かこの場面を書こうと思っていました。やっと念願がかないました。
 念願かなったと言えば、第九話になってやっとこさサッカーが出てきました。と言っても最後に言葉だけですけど。それにしても何話になったらワールドカップに行きつくのかなぁ。セカンドインパクトまでには終わらせないと……おいおい(^^;
 それではまた。



 それにしてもワールドカップ優勝への道のりはまだまだ遠いです。





 まっこうさんの『チルドレンINワールドカップ・優勝への長い道のり』その9、公開です。
 

 

 アスカとレイ、
 女の戦い・・

 恋愛、
 戦い、
 勝利、
 理解、
 友情(^^)
 

 青春ですよね〜
 

 英雄の素顔を見たマユミ達の態度もステキでした(^^)
 

 

 そして、
 遂に出てきました!
 「サッカー」が!!

 

 サッカーの話題が出てきたことで、
 あの日の興奮が再び心に沸き上がってきましたよ。

 代表にはぜひぜひ1次リーグを突破して欲しいものです(^^)/

 勝利の女神
 1人は出てきたので、後二人、どこからか出てきてくれないかな(^^;
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 小説の感想、サッカーの話。まっこうさんにメールを送りましょう!



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