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チルドレンINワールドカップ・優勝への長い道のり その7
謎の転校生
「姉貴」
「教室ではマユミって呼びなさいって言ってるでしょ。何よマナ」
ここは嵐山第一中学校。第一といっても第二第三がある訳ではない。もともと第3新東京市の衛星都市である嵐山町は、さほど人口が多くはない。町には小学校、中学校、高校が一つずつあるだけである。
山岸マユミ、霧島マナ、この二人は3年A組の生徒である。ふっくらとした美貌のマユミ、細身の儚げな笑顔のマナ、二人は嵐山第一中学校のNO.1、NO.2の美人である。がもう一つの面でもNO.1、NO.2である。彼女達はこの中学の番長と副番であった。
今は授業開始前の朝の一時である。
「今日転校生がまとめて5人も来るわよ。しかも全員うちのクラスよ」
「へぇ〜〜で、めぼしい子はいそう?」
この二人はラブハンターとして一部に有名である。彼女達と付き合いその後捨てられずたぼろとなった男子生徒は数知れない。
「ところが私の情報網でもよくわからないのよ」
「ふぅ〜〜ん、それは不思議ね。となると逆に期待が持てるってもんよ」
「そうかもね」
一方教室の反対側では
「いいんちょ今日やで」
「うん、楽しみね」
「そうやな」
「そう鈴原今日は皆の分もお弁当作って来ちゃった」
「それでいいんちょの机の周り紙袋ばっかなんかいな」
「昼休み屋上に持ってくの手伝ってくれる?でもまだ重い物持てないかなぁ」
「弁当だったらいくらでも持てるわい」
などと夫婦の会話がかわされていた。どこへ行っても人望があつい彼女は三年進級と同時に学級委員長になっていた。
「でも鈴原がまた二本の足で歩けるようになるとは思わなかったわ」
「ワシもや」
トウジは四ヶ月前の事を思い出していた。
「鈴原君これがあなたに移植する足よ。以前入院していた時に採取した細胞から作っておいたの」
「へぇ〜〜。確かにワシの足にそっくりですわ。少し細いようですがどうしますかぁ〜〜」
「それについては訓練で鍛えてもらうしか無いわね」
ここはネルフ付属病院外科病棟特別作業棟生科学実験室。大きな水槽には人の左足が培養液に浸かっていた。色々なパイプも循環している。
「この横の骨みたいなのはなんですかぁ〜〜」
トウジが隣の水槽を指して言う。
「鈴原君まずそこに座って」
トウジとリツコは向かい合ってパイプ椅子に座る。松葉杖は壁に立てかけてある。
「今日、これを見せたのは鈴原君に許しを乞うためよ」
「リツコはんその話は別にいいですわ。足さえ治してくれれば。リツコはんも全力でやってくれはるみたいやし」
「ええ、もちろん私の全能力を使って頑張るわ。でも今言いたいのはその事ではないの」
「なんですかぁ〜〜」
「妹さんのナツミちゃん、まだ下半身不随よね」
「そうです」
トウジが暗く答える。
「その妹さんの事なんだけど」
「その事はもうしょうがないと思ってます。シンジのせいやない」
「ち、違うのよ。そうじゃないの。私の言いたいのは許しを乞いたいのはその事じゃないの」
突如堰を切ったように話し出すリツコをトウジは呆然と聞いていた。
「私はあなた達兄妹を利用したのよ」
「どういう事ですかぁ」
「エバは、動かす為には生贄が必要なの。そのパイロットの肉親が」
「えっ!!」
「初号機にはシンジ君のお母さんの体が、弐号機にはアスカちゃんのお母さんの心が入っているの」
「なんやて、じゃワシの乗った参号機は……」
「そうナツミちゃんの血液と脳波のコピーを使ったわ。エバの技術も進歩してその人間自体を取り込むことはなくなって実害は無かったけど、あなた達兄妹を利用した事にはかわりは無いわ。そう私はナツミちゃんを直す約束で入院させたけど、ほんとは利用する為に入院させたのよ」
リツコが苦悶の表情を浮かべ言う。
沈黙が部屋を支配する。
「なんで、なんで黙っててくれんかったんです。ワシだってそんな事聞いたら憎まずにはいられんです」
「ごめんなさい。ごめんなさい鈴原君。あの頃は私悪魔に魂を売ってたわ。でも今は、今でも悪魔に魂を売っているかもしれないけど、もう黙っているのに耐えきれなくなって来たのよ。子供達の命を道具としてしか扱ってこなかった自分に」
「その悪魔はシンジのおやっさんですか?」
「ちがうわ、ちがう、あの人の事ではないわ。違うの、違うのよ、絶対違うわ、私が独断でやったのよ、私の為に、エバの技術の為にやったの、あの人は関係無いわ」
悲鳴の様な声のリツコ。
「なんでそこまで庇うんですかぁ。だれが見てもシンジのおやっさんのせいですわ」
「お願い、違うのよ。憎むんなら私を憎んで。お願いよ。あの人はもう十分罰せられているわ。だからお願いよ。私を憎んで。お願いだから」
俯くリツコの眼鏡の縁から涙が滴り落ちる。
「リツコはん。いい大人が子供の前で泣くもんやありません。ワシおなごに泣かれるんが一番苦手なんですわ。泣かんでください」
「…………鈴原君。妹さんは私が必ず直して見せる。鈴原君に使う治療法は妹さんにも使えるわ。鈴原君より時間はかかる。一年ぐらいは。だけど必ず兄妹でいっしょに走れるようにして見せる。だから……だからあの人を憎まないで、許してあげて。憎むんだったら私だけにして。お願い」
今はリツコのすすり泣き以外に物音はしない。
「リツコはん。許すとしたらナツミがする事です。ワシはなんにも言いません。だからナツミを治してやってください。そしたらワシからナツミに言ってあげます。もう許してやろって。だからリツコはんは全力でワシらを治してくれればいいです。そしたらワシはもうそれでいいです。リツコはんそれでナツミはどうなりますかぁ」
「……鈴原君。ありがとう」
「まだ許した訳ではありまへん」
「そうね。じゃあ説明するわ」
リツコは白衣の袖で顔と眼鏡の拭いながら立ち上がった。
「ナツミちゃんの怪我は脊椎損傷による下半身麻痺よ。昔だったら一生下半身は動かなかったわ。今度採用するこの技術では壊れてしまった脊椎をクローン再生して、損傷した部分と置き換えるの。さっきの骨がその再生した脊椎よ。ただしトウジ君の場合と違い、神経の数が段違いに多いから手術がとても難しいの。だから順番としてトウジ君の手術で十分データを取ってからにしたいの」
「やっぱりワシは実験動物ですかぁ」
「ご、ごめんなさい、トウジ君」
「あ、リツコさん。また泣かんでください。泣いたら仕事にならんさかいに。リツコはんは史上最強のマッドサイエンティストでしょうが。悪魔に魂売ったんなら、悪魔をこき使ってでも治療を成功させてください。そうすれば悪魔だって天使になれるかもしれないです」
「そうね。私はマッドサイエンティストだったわね。どんな技術でも成功させなくっちゃね。悪魔だって天使に出来るわね」
「その意気です。それでこそリツコはんや」
「わかったわ。じゃあ早速もっと治療の成功確率が上がるように頑張るわ」
リツコの目にやっと光が戻って来た。トウジは複雑な表情でそれを見つめた。
「鈴原君。どう気分は?」
「リツコはん手術終わったんですか?」
トウジの病室だった。左足の移植手術が終わり麻酔がとけ目をさました所である。彼は下半身全体を特殊なプラスチックのギブスで固定されていた。
「ええ。無事にね。今は麻酔が効いているけど、そのうち痛くなってくるわ。まず痛くなったら第1段階成功。少なくとも感覚の内痛覚はある訳だから。次に足に触覚が回復するかどうか。これが第二段階。最後に足を動かす訓練。でもきっとうまく行くわ」
「さよかぁ。ところでこれでナツミの手術に目処はたったんですか」
「ええ今度の手術で随分データが取れたわ。たぶん一月後には彼女も手術をする事ができると思うわ」
「それはよかった。よろしくお願いします」
「まかしてね。ところでこれから一週間後のギブスが取れるまで世話をする人を紹介するわ」
「看護婦さんですかぁ」
「ま、見てのお楽しみ。入ってらっしゃい」
病室の戸が開いた。
「い、いいんちょ!!!!」
「鈴原……」
病室の入り口におさげの少女が恥ずかしそうに立って居た。
「この子がどうしても世話をしたいって聞かないのよ。幸い学校も正月休みだし、専門的な看護は病院のスタッフがやるとしても身の回りの世話をしてくれる人が居るのはいい事だしね。そうそう鈴原君のご飯は病院の器材と材料でこの子が作る事になっているからね、だから逆らうとご飯抜きねきっと」
「リツコはん。これは……その……」
「鈴原、私じゃ迷惑?」
ヒカリが悲しそうに聞く。
「いやそうやないがその……」
流石の男トウジも言葉につまる。
リツコがトウジの耳元で囁く。
「鈴原君、観念しなさいよ。彼女心配で心配で仕方ないのよ。私も女だからヒカリちゃんの気持ちはわかるわ。前鈴原君言ってたでしょ。女の涙に弱いって。彼女断ったりしたら、きっと一週間泣いて暮らすわよ」
リツコの的確な脅しである。
「しゃ……しゃぁないなぁ、いいんちょそれじゃ世話になるわ」
そっぽを向き答えるトウジ。
「うん」
心の底からの笑顔を浮かべヒカリは病室に入ってくる。
リツコはトウジの一生は決ったなと思った。
ギブスが取れる日が来た。リツコとヒカリ、そしてシンジやアスカ、レイ、ケンスケと狭い病室に知り合いがぎっしりと詰めかけていた。
「じゃギブスを外すわよ」
リツコは強化プラスチックのギブスの根元のつまみを一つ一つ外していく。そして全て外した後、ギブスを取り外す。
そこには、確かに足があった。右足と比べると青白く、とても細かったがまぎれもなく左足がくっついていた。左足根元の接合部分はほとんど滑らかに繋がっていた。ちょっと見には手術痕は見えない。
「リツコはん。足なんにも感じないんですが?」
心配そうにトウジが聞く。
「まだ感覚麻痺用の薬が効いてるからよ。今から中和剤を入れるからね。感覚も戻るけど、痛みも戻るわ。我慢してね」
リツコは一本の注射をトウジの左足にうつ。病室のみんなは息を呑んで見守っている。
「痛たたたた。確かに痛くなって来ましたわ」
「鈴原大丈夫?」
ヒカリが心配そうに覗き込む。
「大丈夫や。これくらい」
「じゃ鈴原君次ね」
リツコはピンセットで左足の裏を突っつく。びくっと足は痙攣した。
「痛っ。なにしますのや」
「反射系も大丈夫。神経は通っているわ」
お〜〜〜〜
病室を歓声が包む。
「後は随意筋ね。まず左足を上にして横向きになって」
「こうですか」
そのとおりにするトウジ。
「そう。じゃまず足の指を動かして見て」
みんなが注目する中、トウジは口をへの字に曲げて気張っている。すると足の指がぴくぴくと痙攣するようにわずかに動いた。みんな固唾を飲んでいる。
「いいわ。次足首を動かしてみて」
足の動かし方を思い出して来たのか、足首は苦労せずに動いた。ただし少し角度を変えられる程度であったが。
「はい。それじゃ最後に膝を動かしてみて」
彼の左膝は徐々に曲がっていき右足の上から落ちた。
リツコはトウジを仰向けにしてやり楽な姿勢にさせた。そして宣言する。
「手術は成功よ」
やった〜〜〜〜
誰ともなく声が上がる。
「今は少ししか動かないけど、リハビリを続ければスポーツ選手にだってなれるわ」
「そうですか。リツコはん。ほんとにありがとう」
男トウジもよほど嬉しいらしく、目に涙を溜めている。
「私は職務を果たしただけよ」
「これでワシの分はちゃらですわ。後は妹をよろしゅう」
「わかったわ。私が絶対治して見せるわ。じゃあ私は早速ナツミちゃんの治療スケジュールをたてるわ。トウジ君ギブスがとれたと言ってもこれから一週間は足を動かしては駄目よ。後で具体的な指示を出すからそれに従ってね。じゃ私はちょっと離れるけど皆トウジ君の左足を動かしちゃ駄目よ」
リツコはそう言い残すと病室を出ていく。彼女は白い廊下を歩きながら呟く。
「あの人も少し救われるわ……」
彼女はナツミのいる病室へ向かっていく。
トウジの病室では二人が泣きべそをかいていた。
「トウジよかった。ほんとによかった。うっ」
「鈴原、鈴原ひっく、うっく」
シンジとヒカリである。
「センセ男が泣くんやない。もう今度こそ足の話はお終いや。今度謝ったりしたら、ぱちきや」
「わかった。トウジ。もう言わない。とにかくよかった」
「おう、半年もしたらセンセよりも速く走れるはずや」
がやがやと歓喜の声が続いた。少し経った後ざわめく病室でアスカが言った。
「さあそろそろ病人は静かにしてあげないと。ほら看護のヒカリ以外は病室を出た出た」
そう言うとアスカはヒカリにウィンクをし皆を押し出しにかかった。
鈍いシンジを除いてはトウジに声を掛けて病室を出ていった。ぼーっとしていたシンジは、アスカに耳を引っ張られて出ていった。
病室はヒカリとトウジの二人となった。いきなりの静寂である。
「鈴原」
「なんや」
ベットの脇の椅子に座ったヒカリにトウジは答えた。
「おめでとう」
「ありがと」
「鈴原よかったわ。ほんと。もう大丈夫よね」
「おう」
「よかったわ。ほんとよかった…………」
病室はまた静寂が支配した。
一ヶ月が経った。日曜日の昼前にトウジの病室をヒカリが訪れた。弁当持参である。
「トウジおべんと」
「おう。いつもすまんな」
「いいの。残飯処理よ」
「最近は舌が肥えてもうていいんちょの弁当やないとあかんようになってしもうた」
「そう。嬉しい。それってずっとお弁当作っててことね……きゃ」
「なにぶつぶつ言ってるんや」
「なんでもない」
「そうや今日は杖を使えば1メートルぐらいは歩けるようになったんや」
「ほんと。それはよかったわ」
「リツコさんが言うにはワシの左足クローン培養中も電気刺激と擬似負荷を足に掛けて運動をさせておいてくれたっちゅうんや。リツコさんの受け売りでどういう意味やら知らんがのう」
「ふぅ〜〜ん。私わかるわ」
「いいんちょすごいな」
「私運動生理学や解剖学をアスカに習って猛勉強したから」
「さよかぁ〜〜。またそんな難しい事なんでしたんや〜〜」
「えっ……その……まあいいじゃない。それよりやって見せて」
「おう」
トウジは杖を取るとゆっくりベットを降りる。そして杖を使いながらよろよろとヒカリの方に歩いてくる。一歩二歩その足取りは危ういものだが確かに歩いていた。そしてヒカリの傍まで来る。
「やったわね」
ヒカリの言葉にガッツポーズをとるトウジ。だがその時すこしずり下がっていた自分のパジャマをふんずけてトウジはバランスを崩す。慌てて手を差し出すヒカリ、しかしトウジを支えきれずに二人して床に倒れ込んだ。仰向けのヒカリの上にズボンがずり下がったトウジ。しかもヒカリを庇う為トウジの手はヒカリの頭の後ろに巻いている様に絡んでいる。かなりいや〜〜んな光景である。二人がボーとしていると……
「ヒッカリ〜〜〜〜来てるんでしょ〜〜」
お約束である。
がらがら
しーん
「ご、ごゆっくり。ひ、避妊だけはしたほうがいいわ、ヒカリ」
アスカは病室を退散した。
「アスカぁ〜〜〜〜ごかいよぉ〜〜〜〜」
「ちがうんやぁ〜〜〜〜」
二人の叫びが病室に響いた。
「ナツミちゃんも手術後少しずつ感覚が戻ってるみたいだし」
「そやな。最近は足くすぐるとわかるようになって来たんや。ほんの少しだけど動かせる様にもや。リツコはんは後半年で歩けるようになるちゅうてる」
「そうしたらナツミちゃんと三人で遊園地に行かない。ナツミちゃん行きたがってたし」
ヒカリは少し赤く頬を染める。
「そ、そんなもんいいんちょとナツミで行ったらええ。遊園地なんて男が行く所やない」
トウジも赤くなってる。気が合う二人。
トウジは左足の移植手術が成功し、今では歩けるまでに回復していた。そお遠くない内にスポーツも出来るようになるらしい。最近のトウジは、毎日妹のナツミを見舞いっているだけでなく週に一度はネルフ運動生理研究所にも行きリハビリ及び運動機能のチェックを受けていた。ネルフは現在では研究機関となっている。
きんこんかんこん
ホームルームの時間が始まった。
がらがら
教室の戸が開くと初老の教師が入って来た。ヒカリとトウジはこの教師を見るたびに第一中の老教師を思い出すのであった。
「え〜〜今日は転校生を紹介する」
話し方も似ている。
「なんと五人も入ってくる。じゃみんな入って来なさい」
きゃ〜〜〜〜
うぉ〜〜〜〜
教室を男女の歓声が被いつくした。
眼鏡にそばかすの少年を先頭に、空色に見えるほど薄い色の髪に赤い瞳の儚げな月を思わせる美少女、頼りなさげにも見える母性本能をくすぐる黒髪の少年、赤みがかった金髪に青い瞳柔らかい顔立ちと東洋と西洋のいいとこ取りの美少女、完全な銀髪に赤い瞳中性的な容姿と神秘的な雰囲気を持つ美少年。これらの少年少女が教室に入って来たのだ。彼等はその順番で黒板の前に並んだ。
「ケ、ケンスケ君だ。ね、ねえ姉貴」
「だからマユミって呼べって言ってるでしょマナ」
「今回当たりね」
「そうね私はあの真ん中の子がいいわ。可愛いじゃない」
「わ、私はケンスケ君がいいわ。やっと帰って来てくれたのね」
「マナあんたも変わりもんね。あの軍事オタクのどこがいいの」
「そ、それは人それぞれよ」
「ふうんでもさっきから隣の子と仲よさそうだわよ」
「ふん、そんなの始末するまでよ」
「あらあら、恐いわね。手加減してあげるのよ。相手は普通の人間なんだから」
「マユミこそ。あの子をずたぼろにしない事ね」
なかなか恐い会話である。
「え〜〜と、じゃあ紹介をしよう。向こうから相田ケンスケ君、綾波レイさん、碇シンジ君、惣流・アスカ・ラングレーさん、渚カヲル君だ。それぞれ自己紹介をしてもらおう。相田君は皆もちろん知っているね。一時的にお父さんの仕事で転校してたが戻って来たそうだ。自己紹介は省く事にしましょう」
ケンスケはどこに行っても不憫だった。
「じゃ綾波レイさんから自己紹介を始めて」
「綾波レイでよろしくお願いします」
レイはニッコリ微笑んで小さいながらもしっかりした声で言った。
おお〜〜〜〜
少年達だけでなく少女達からも歓声が上がる。それ程可愛い笑顔であった。
「私は隣町の第一中学校から来ました。小さい頃から体が弱くて施設に入ってましたが、最近は学校にも来れるようになりました。少し非常識な所もあると思いますので…………」
レイの明るく話す姿を見て、シンジは昨日の事を思い出していた。
「今日ここに集まった人間は、ネルフのAAAクラスの情報の持ち主だ」
研究機関となったネルフの所長室。ゲンドウは、シンジ、アスカ、カヲル、レイ、ケンスケ、リツコ、ミサトを前に話していた。
「明日から皆は学校に行くわけだ。そこで最後のブリィーフィングを行う。まず君達の立場だ。ゼーレは根絶やしにした。また情報操作で私達は無罪放免という事となっている。世界を救った英雄として」
ゲンドウは表情を変えず続ける。
「がしかし各国の軍部、犯罪組織、軍事産業はエバ、チルドレン、使徒の秘密を狙っている。そのため君達には今までどおり護衛が付く」
「父さん監視じゃないんですか」
「護衛のみだ。また当分は本部の宿舎で生活してもらう。ただ学校の中は護衛が付けられん。そこで出来るだけ一緒に行動して欲しい。レイそしてダブリスは皆を守る力がある。もし何かあったら力を使ってもかまわん。あとでもみ消す」
「僕はシンジくんの安否しか興味が無い。がシンジくんの悲しむ顔を見たくも無い。まあ自由にやらしてもらうよ」
カヲルが言う
「それでも構わん、後始末はする。レイとダブリスにはちゃんとした戸籍を用意した。綾波レイと渚カヲルは私の遠縁の孤児という事になっている。二人とも小さい時は体が弱く施設にずっといた事になっている。詳しくは葛城君に説明を受けろ」
「父さん。彼は渚カヲルだよ。ダブリスと呼ぶのはやめてよ」
「シンジくんいいんだ。ダブリスでもカヲルでも変わりはしない。宣言させてもらうよ。僕は今でも使徒だ。だが人を滅ぼす気も無い。人の仲間として生きるつもりだ。まぁそうじゃなきゃ学校なんて行かないよ。とにかくシンジくんの為にこのメンバーは僕が守るとしよう。あと葛城さん、アスカさん、僕に対する警戒を解いてくれないですか。確かに使徒で恋敵でなんていったら警戒するかもしれないですが。シンジ君の同居人に警戒されると色々とやっかいだ」
「私の使徒に対する恨みは消えてないわ。でもシンジくんの友達を憎みきれないって最近は思っているわよ。まあ勝手にしたら」
「私もよ、大体あんた男でしょ。あれ使徒って性別あったっけ。とにかくシンジの敵じゃないんなら私の敵でもないわよ。だいたい恋敵てなによ。バァ〜〜カ」
「それはよかった。じゃ僕は後はどうでもいいですよ」
「そうか。それでは続ける。君達がエバのパイロットであるという事はさすがに隠しきれなかった。がエバ自体の秘密はまだ漏れてはいない。これは世界を滅ぼしかねん情報だ。何があっても死守してくれ。それとレイの秘密だ」
座っていたレイの体がびくっと震える。
「レイの秘密がばれたら人間として生きていけないだろう。みんなでレイを守ってやってくれ。頼む」
「司令」
「なんだねレイ」
「私の正体は何?」
「お前は…………私の娘だ」
「司令の」
「ユイが初号機に取り込まれた時、何回もサルベージが行なわれた。がほとんどが失敗した。最後のサルベージの時にお前がコアより生まれた。始めはユイかと思ったが別人だった。それがレイお前だ。あとはレイお前も知っているな」
「はい」
「お前はユイとエバの遺伝子が混じりあって出来た子供だ。ユイの子供でもある。ならば私の娘でもある。しかし私はお前を自分の目的だけの為に使った。今更父とはいえんな」
「司令。私は司令とユイさんによってこの世に生まれました。おかげで皆と会えました。泣く事も笑う事も覚えました。だから……司令はお父さんです。ユイさんはお母さんです。だから……これからはお父さんと呼びます」
「ありがとうレイ」
沈黙が支配する。
「最後に…………すまん。全ての責は私にある。これから出来るだけの事はするつもりだ。これでブリィーフィングを終わる」
……………………よろしくお願いします」
「はい綾波さんありがとう。質問はまとめて最後にしましょう。次に碇シンジくん」
「僕も隣町の第一中学校から来ました。綾波さんや相田君、惣流さんとは同じクラスでした。…………」
アスカもシンジの隣で昨日の葛城家での会話を思い出していた。
「アスカはどうするの」
「どうって?」
夕食後シンジとアスカとミサトはコーヒーを片手にテーブルを囲んでいた。ミサトもめずらしく素面である。
「この後どうするの?」
「だからどうって?」
「このままここに住むの?」
「何言ってんのよ。バカじゃない。当たり前よ」
「そ、そう。それならいいよ」
「アンタ私がドイツに帰るとでも思ったの」
「いや。そうじゃないけど」
「はっきりしないわねぇ」
ミサトはコーヒーをすすりながら二人を交互に見ている。口は挟まないみたいである。
「あの、これからもここに一緒に住むのかなぁと思って」
「当然でしょ。引っ越しめんどくさいし、一人暮らしは面白くないし」
「そうなんだ」
「誤解しないでよ。ここなら食事も家事も分担だし楽なだけなんだから」
「それだけなの」
「な、何期待してるのよ。あの時は気の迷いよ。体も心も弱ってたからあんな血迷った事言っちゃったしやっちゃったのよ」
アスカは赤くなりながら恥ずかしそうに言う。
そんなアスカを見てシンジも赤くなり俯く。
「そ、そうだよね。これまでどうりだよね」
「そうね。アンタには感謝はしてるわよ。なんだかんだ言っても私立ち直れたし。それにアンタには悪い事しちゃったし。でもアンタも悪いのよ。もっと早く好きって言ってくれればきっと私壊れなかったのよ」
「え、なんて言ったの」
「なんでもないわよ」
アスカは勢いよく席を立った。自分の部屋に戻ろうとするが、気が変わったようにシンジの席の後ろに廻る。座っているシンジの両肩に両手をつくと体重をかけて乗っかる。
「シンジ。今までどうりやろう。今度はほんとに三人で家族になろう」
アスカはそう言うとシンジの頭にもたれかかる。
「うんそうだね。アスカ。ミサトさん」
シンジの言葉と同時にずっと黙っていたミサトもうなずく。
アスカはシンジの肩から降りるとスタスタと自分の部屋に戻っていく。
「じゃバカシンジ、夕食の後かたずけやってよね」
「え今日はアスカの番じゃないか」
「今頭で私の胸触ったでしょ。その分働きなさい」
「そんなぁ〜〜。ほんとわがままなんだからなぁ」
「まぁまぁシンちゃんアスカも照れくさいのよ。言い馴れない事言ったから」
アスカは後ろ手で手を振ってそそくさと部屋に入ってしまった。
……チェロを弾きます。よろしくお願いします」
「はい碇君ありがとう。次は惣流さん」
「私も隣町の第一中学校から来ました。惣流・アスカ・ラングレーです。シンジが言ったようにここにいる皆と一緒のクラスでした。その前はずっとドイツにいました。私クォーターなんです。…………」
アスカの声を横に聞いて、自己紹介というものも面白い概念だなぁと渚カヲルは思う。昨日ミサトとリツコにブリィーフィングを受けた内容を思い出す。使徒である渚カヲルにとって思い出すという概念は、あまりあてはまらないかもしれない。彼にとって時間の流れは、過去も未来も現在も全て同じ物だからである。とはいえ人間と付き合いも長くなった彼は昨日のリツコとの会話に意識を動かしていた。
「渚君、君は結局これから何をするつもり」
リツコはカヲルに問いかける。ブリィーフィングの後、リツコはカヲルを連れて自分の研究室に戻った。
「リリンというより現人類の文化に興味があります。それと使徒には絶対無い集団生活というのにもね。恋愛や友情なんて物も、完全生命体である僕には関係なかったから興味深いですよ」
「じゃあほんとにシンジくんを口説くつもり?」
「べつにシンジくんだけじゃなく好意に値する人はいますよ。リツコ博士、あなたもなかなか興味深いです」
「そう?」
「ええ。リツコさんの心の壁はものすごく強固ですが一人にだけは大穴が開いているみたいですし。それに僕の体の構造は人類の男とほぼ同じですから人類の女性に興味があります」
「じゃあ二人でいると危険かしら」
「そうかもしれませんね。こんな事したりするかも」
カヲルはリツコの両手をつかむと壁に押し付ける。ATフィールドを少しだけ使い白衣のリツコを大の字に壁に張り付けにする。白衣の前を切り裂く。リツコの青いボディコンの前のファスナーを降ろす。黒い下着と白い肌があらわになる。リツコは特に動揺した様子はなくカヲルに言う。
「それでどうするつもりなの。あなたみたいな美少年にお相手してもらうのは光栄だけど、今の所男には不自由してないわ」
「そうらしいですね。まあよしときましょう。ネルフの責任者カップルを敵にまわすのはやっかいです」
カヲルはATフィールドを解く。リツコはファスナーを上げると壁に寄り掛かり腕を組む。
「ほんとに、学校に行くつもりなのね。なにやっても止める手段は無いけど正体だけはばれないようにしてちょうだい」
「そうするとしましょう」
「それとシンジ君にあまりちょっかい出すとアスカに弐号機でコアごと潰されるわよ」
「ご忠告、感謝します」
…………よろしくね」
パチ
アスカの音の出るようなウィンクを見て、男子生徒たちは生唾を飲む。ただ旧2−Aの生徒たちはまたかと言うふうにあきれている。
「はい惣流さんもありがとう。最後に渚君」
カヲルは前髪をわきのほうに手で払ってから話し出す。その一挙手だけでクラス中の女性からため息が出た。
「私はごく最近まで綾波さんがいた施設にいました。実を言うと学校生活は初めてなんです。いろいろとわからない事も多いので皆さんよろしくお願いします……」
カヲルは前もってブリィーフィングを受けた内容通り話していく。話している自分の顔に痛いほどの視線を感じる。これだけでも面白いとカヲルは話しながら思う。
……です。ではよろしく」
最後に軽く口を開いて微笑む。これもブリーフィングを受けた内容だ。ただこれはリツコが生活の知恵として伝授したものだ。目眩いをおこしたらしく女生徒が3人ばかり机に突っ伏した。
「はいご苦労さん。まとめて質問の時間にしましょう」
教師のその声と同時に皆が一斉に質問をし始めた。
「惣流さん好きな男性のタイプは」
「渚さん付き合っているひといますか」
「綾波さん写真部の専属モデルになってください」
がやがや
収拾がつかない。
すると……
「みんないっぺんに質問したら碇君達こたえられないでしょ。手を上げてね。私が順番にさすわ」
ヒカリである。いいんちょはどこに行ってもいいんちょであった。
なぜかクラスの皆も納得してしまう。これも洞木ヒカリの人徳と魅力ゆえであろう。
「手をあげて。まず山岸さんどうぞ」
「え〜〜と、碇君はどこに住んでいるんですか」
山岸マユミのこの質問にクラスに緊張が走る。彼女のラブハンターとしての面は学内でも有名だ。
「ぼく達はネルフ本部の宿舎に住んでいます。ネルフの関係者なんです」
ざわざわ
クラスのあちこちがざわつく。現在は研究所として公開組織となっているネルフであるが、外部から見るとなぞの部分が多い。悪の組織ゼーレとそれが作り上げた生物兵器である使徒と戦った国連の機関という事になっている。一般的には胡散臭い組織と思われているようだ。
「碇君どうもありがとう。じゃ次の人。じゃ西山君」
「噂で聞いたんですが。皆さんはあの使徒と戦ったロボットのパイロットなんですか?」
五人は顔を見合わす。アスカが意を決して話そうとするのを遮りシンジが話し出す。
「はっきり言ってそうです」
クラス中がカヲルの時とは別の意味で息を飲む。シンジは続けた。アスカがシンジの、レイがケンスケの手をおもわず握る。
「ただお願いしたい事があります。ぼく達はあのロボットに乗っていろいろな目に合いました。すごい辛い思いもして来ました。出来たらその話はしないで欲しいんです。いつか話せる時が来たら話すかもしれません。今のネルフについては広報係代わりとは言いませんが出来る範囲で答えるつもりです。みなさんわがまま言ってすいません。」
シンジは深々と頭を下げる。五人はそろって頭をさげた。
「わかりました。もう頭を上げてください。あれ相田もそうなのかい」
「いやなんとなくつられて」
「ふ〜〜ん。ところで相田と綾波さん、碇君と惣流さんってそういう関係ですか?」
質問していた西山が二組が手をつないでいる事を指し示す。
指摘されて、ケンスケとレイは慌てて手を離し真っ赤になったが、シンジとアスカは……
バシッ
「何やってるのよこのスケベ」
アスカは自分で握っておいておきながら、いきなり振りほどくと右の平手打ち(というか張り手)をシンジの左頬にくらわす。
「いてぇ〜〜何すんだよアスカ」
「うるさいわねアンタがいけないんでしょ」
早速夫婦喧嘩モードに突入する。
またしても教室は大混乱となっていた。
「マユミ、あの惣流とか言う子なかなかの玉よ。碇って子食べちゃうの結構大変そうね」
「あらマナだって。ケンスケ君とあの娘相当ラブラブよ。早めにかたずけないとやばそうね」
「そうねうふふ……」
「ええうふふ……」
と騒々しくも危なくチルドレン達の学生生活は再開した。
つづく
あとがき
エバの女性達って魔女みたいですよね。生まれついて特異な能力を持つ者。数百人を抹殺した少女。子供達を死線に送り出す女指揮官。感心できないと言いつつ人体実験を手伝う技術者。でも彼女達はそうしたくなくてもせざるを得なかった理由があります。
でもリツコさんは違うと思います。全てを承知で全てを行ってます。一番罪深いのはリツコさんでしょう。悪魔に魂を売って、人の命をもて遊び、友を裏切り、人を殺す。確かに魔女ですね。でも彼女は、愛してしまった相手がたまたま悪魔だったんですよね。だから彼女が、贖罪の道を進めば、何時かは本来の可愛いりっちゃんに、優しく情けが深い女性に戻れるはずです。また本来の天女みたいな女性に戻れるはずです。そして天女に愛されれば悪魔も普通の男に戻れるでしょう。私はそれが書きたいのです。
という事で学園ラブ米編?でもリツコさんがやたら出て来ます。
それにしてもワールドカップ優勝への道のりはまだまだ遠いです。
まっこうさんの『チルドレンINワールドカップ・優勝への長い道のり』その7,公開です。
【全てのキャラに幸せを】
まっこうさんのコンセプトは着々と受け継がれていますね(^^)
日常を失い、
辛い日々を過ごしてきたチルドレン達と周りの人々。
彼らも次第に日常に復帰していっています。
シンジ・アスカ・レイを補完する物語は数あれど、
リツコさんを救うストーリーは少なかった・・・
まっこうさんの愛は
そのリツコさんを救おうとしていますね(^^)
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