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チルドレンINワールドカップ・優勝への長い道のり その3

 
−プロとアマチュア、彼と彼女−


 肩に重みを感じつつ彼は森の中を進んでいた。俺は何してんだとも思った。
肩の重みは少しだけ動いていた。









  一日前




 「ケンスケ君おはよう」
 「委員長おはよう」
 「私こっちでは委員長じゃないわ」
 「判ってるけど……他の呼びかたじゃしっくりいかないよ。トウジだって
 そう呼んでるんだろ」
 「ええ」
 「昨日の木曜日も行ってあげたのかい」
 「…………うん…………」
 「でもいつもなに話してんの。そろそろネタつきてこない?」
 「そんな事ないわ。2−Aのみんながまとまってこっちの町に疎開しちゃって、
 今度はこの学校に来たでしょ。だからその話だけでもいっぱいあるわ」
 「ふぅ〜〜ん。そんなもんかねぇ〜〜。まぁ愛する二人にはネタなんていら
 ないよねぇ」
 「な、なに言ってるのよケンスケ君。これは委員長としての公務として……」
 「あれ〜〜委員長じゃなくなったんじゃなかったんだっけ」
 「う〜〜〜〜ケンスケ君のばか」

 まっかか

 「そういえば、シンジや惣流それと綾波どうしてっかなァ〜〜」
 「そうねみんなどうしてるかしら。あのEVAが爆発しちゃってからは私達
 強制疎開させられちゃったからみんなとは会えないもんね」
 「でもEVAが爆発したのによく綾波助かったよなぁ」

 真実は残酷だ。

 「結構ケンスケ君綾波さん気にしてたもんね」
 「う〜〜ん。被写体としてね。まぁ嫌いじゃないな。なんつっても惣流と
 綾波は僕が見た所では学校のNo1&No2の美少女だからね。 綾波は
 神秘的だし。美人だし。魅力はいっぱいあると思うよ。でも彼女の目は
 シンジしか見てないよ。カメラマンの僕が言うんだ間違いないよ」
 「そうかしら。ケンスケ君と綾波さん、結構いい組み合わせだと思うわ。
 あ 先生が来た。さっ授業よ」









 放課後彼はまっすぐ家に帰った。一人だった。ジャーナリストの父は滅多に
家に寄り付かなかった。母はとうの昔に死んでいた。 

 とんとんとんとん

 彼は二階の自分の部屋へと上がる。カメラや戦艦のプラモデル、中には自作
らしいEVAのプラスチック造型まであった。壁にはいろいろな写真が引き伸
ばされ張り付けてあった。彼は机の端末へと向かうとこの数日行っている作業
を再開した。

 「もうちょっとで進入できる……」

 そう彼はクラッキングをしていた。NERVへつまりMAGIへである。本
来ならこんな行為はすぐ見つかり捕まる所だが、MAGIへの他からクラッキ
ングや妨害工作、そしてケンスケの才能が幸いしどうにか無事に済んでいた。

 そして彼は幸運に見舞われた。不運かも知れなかったが。ゼーレのMAGI
へのクラッキングと同時にクラッキングを開始した彼はMAGIの一部の情報
を手に入れた。使徒の事、EVAの事、ATフィールドの事、チルドレンの事、
それはNERVの上級職員なら知っているレベルのものだったが、公表されて
いる情報とは雲泥の差だった。

 彼はそこで気がついた。

 俺は秘密情報を手に入れた。って事は、やばい、NERVの保安部の連中が
くる。下手すると命が危ない。逃げなきゃ。でもどこに。そうだ逆にNERV
のそばに潜もう。あそこなら逆に気がつかれないかもしれない。よく知ってい
る森もあるしあそこなら少し時間が稼げる。その後どうかして親父に連絡とっ
て何とかしてもらおう。
 
 いつもの迷彩服に、いろいろな資材を持ち、彼は第三新東京市に向かった。









 翌日




 「なななんなんだ」

 そう戦自がNERVを攻撃していた。さすがのケンスケもこの展開にはつい
ていけなかった。

 「あ弐号機だ」

 弐号機は戦自を蹴散らしていった。

 「なんだあのカエルみたいなEVAは」

 ゼーレのEVAだった。

 「初号機が戦っている」

 わけが判らなかった。





 その時上空から光の塊が降りて来た。最初は天使のカップルかと思った。
一人は中性的な笑顔の美少年だった。もう一人は裸身の少女だった。やはり天
使だと思った。

 「綾波じゃないか!!!!」
 「君はケンスケくんだね」

 もう一人の天使がささやく。

 「お、おまえは誰だ!!!!」
 「渚カヲル。シンジ君の知り合いだよ」
 「シンジの????」
 「でもなんで……なんで……空を飛べるんだ!!!!」
 「見当がつかないかい?」

 MAGIの記憶が閃く。

 「空を浮かぶ……白い光……ATフィールド……使徒……もしかして」
 「そう。僕は使徒だよ。使徒だったと言うべきかな」
 「…………!!!!」
 「そう驚かなくてもいいよ。今では僕はシンジ君の味方なんだ。シンジ君か
ら君達の事は聞いているよ。少なくとも僕はシンジ君の仲間を傷つけたりはし
ないよ」
 「そそそんな事言っても」
 「今はそれどころじゃないんだ。シンジ君がピンチなんだよ。シンジ君を助け
る為にレイくんを預かっていてくれないかい。彼女疲労がひどくて動けないんだ」

 たしかにレイの体は白さを通り越して透明に近く見えた。

 「それでは頼んだよ」

 カオルは去った。

 レイは森の少し開けている、落ち葉だらけの地面に横たえられていた。始め
その青白くなった顔を呆然と眺めていたケンスケだったが、視線は徐々に下の
方に動いていった。白いうなじ、小さいが美しい胸、細いウエスト、そこまで
見た彼だったが

 「いけない」

 彼は小さく呟き、リュックから予備の迷彩服の上下を取り出すと、目をつぶ
り手探りでレイに着せていった。




















 彼女は今日も彼の病室をたずねていた。

 がらがら

 古風な引き戸を開くとそこにはついたてがある。

 「鈴原いる?」
 「おおいいんちょこっちや」

 彼は松葉杖を使い窓辺にたたずんでいた。

 「ハイおべんと」
 「いつもすまへんなぁ〜〜」
 「いいのよ残飯整理だから」

 彼女は大きな包みをベッドの脇の机に置く。

 「あれ見てんの?」
 「そうや」

 窓は第三新東京市の方を向いていた。小さいがはっきりとした爆炎と微かな
爆音がうかがえた。

 「なんで」
 「なんでってゆうても」
 「またなんで、私達の町で戦いが起きているの。なんで、なんでなの、いつ
まで続くの。昨日発表があったじゃない。脅威は去ったって。……もう……い
や……鈴原……もう誰も傷つくのはいや。もう誰も鈴原のような目には合わせ
たくない。好きな人が苦しんでいく所なんか見たくない。いやなの、もういや
なの」

 いきなり彼女は彼の背中から前に手を回しすがりつく。

 「そうやわしもいやや」

 少しふらつきながらも、彼女の手を握り、彼は言う。

 「だけどワシらにはなにもできへん。だから祈ろう。ワシ神様なんぞ信じて
あらへん。だけど祈ろ。いっしょに祈ろ。シンジや惣流や綾波やミサトさん達
が無事なのを祈ろ」
 「だけど鈴原あんなに…………」
 「大丈夫や。やつら今までさんざん奇跡をおこしまくったんや。今度も信じ
るんや」
 「うん……うん……うん……」

 少しの間すすり泣きが病室を支配した。

 「さあ。腹ごしらえや。祈るにしても腹へったらなにもできへん。」
 「そう……ね」
 「弁当や弁当」

 トウジが振り向いた。

 「あっ……」

 二人はもつれ合い床に倒れる。ヒカリを庇うようにトウジが体をひねる。
仰向けのトウジの胸にヒカリは飛び込んだ。しばらく二人はにらみ合ってい
たが、やがて、少し湿っていたヒカリの瞳から大粒の涙がこぼれだして来た。

 「い、い、いいんちょ、どっかうったんか、痛いんか」
 「違うわ。鈴原。はっきり言うわ。私、鈴原の事好き」
 「え、い、あ……」
 「だから二人で居られて嬉しいの。でも、私が今嬉しがっている時、あっち
ではアスカ達が戦ってるかもしれない。苦しんでるかもしれない。それが……。
悲しいの。私が卑怯に思えるの。自分だけ幸せになっている様な気がするの。
鈴原が傷ついた時ももしかしたら喜んでいたのかもしれない。私一人のものに
なると思って。心の片隅にそんな事があるんじゃないかって。とても恐いの。
自分がいやなの。ねぇ鈴原、ぅぅぅぅぅ…………」

 そばかすが涙で濡れる。
 セミの声が騒がしい。

 「いいんちょ。ワシ頭悪いからようわからんが、そんな事ないで。人を好き
になるんは悪い事やない。幸せになるんは悪い事やない。それにいいんちょは
惣流達を見捨てた訳やないで。こうやって心の底から心配してるやろが。いい
んちょは心の優しい子や。ワシが傷ついたのをほんまに心配してくれてる。だ
からいいんちょが悪いなんて、そんな事は絶対にあらへん。ワシもいいんちょ
の事好きや。ないた顔も好きやが笑った顔の方がもっとええ。だから笑ってや」

 二人は気付く。二人の言葉に。言葉は二人を赤くする。

 「と、と、とにかく腹ごしらえや」
 「そ、そ、そうね」

 ヒカリがトウジを引き起こしベッドに座らす。

 「今日はなにが入ってるんやろ……」
 「今日はね……」





















 彼は意識の無いレイを担ぐと芦の湖から離れていった。我流とはいえ普段か
ら鍛えているケンスケは体力があった。レイが羽のように軽いのも幸いした。

 後ろではEVAどうしの戦い、EVAとカオルの戦いが行われていたがそれ
どころでは無かった。彼は肩の重さが気になっていた。もとから被写体として
は気に入っていた。美しい青みがかった白髪。エキゾチックな赤い瞳。筆で書
いたような眉。滑らかなうなじ。ほっそりしたボディライン。確かに被写体と
して完璧だった。
 生きて帰れたら写真を撮らせてもらうように、頼んでみようと思った。笑顔
が撮れたらなぁと思った。撮った写真は自分だけの物にしたかった。誰にも見
せたくなかった。何だかよく判らなかった。
 
 とにかく僕の家まで無事に連れていこう。

 家から逃げだして来た彼はそう思った。




















 病室は静かになっていた。

 「鈴原、さっき言った事……その……あの……」

 検診は朝のうちに済んでいた。弁当もなくなっていた。ずっと二人だった。

 「ワシは男や。しっかり一人で動けるよぉなったら責任はとる」
 「え。せっせっ責任!!」
 「ちゃちゃうで。まずは弁当の責任や」
 「お弁当の責任?」
 「とにかく、待ってくれ」
 「う……うん」

 ぷ、ははははは

 「へんな鈴原」
 「いいんちょかて」
 「うんそうね。今はみんなの無事を祈りましょ」
 「そやな」




















 ケンスケはずいぶん前から気がついていた。誰かがつけてくる。何故だか判
らないが気配がわかる。こんな所で付けてくるのは敵だろう。NERVか戦自か?
どっちにしても命が無いかもしれない。綾波を連れているだけで申し開きはで
きないだろう。ならば、こちらから仕掛けるのみ。
 彼はリュックからロープとワイヤーの束を取り出した。



 戦自の岩永一尉は、楽しんでいた。撤退時に分隊の仲間とはぐれた時はしく
じったと思ったが、いい獲物に巡り合ったものだ。餓鬼が二人。もしかしたら
チルドレンとか言う奴等かもしれない。今は見失っているが、追いかけるのは
容易だ。下手なトラップのおかげで行き先が見え見えだ。一尉はほくそ笑んだ。



 ケンスケは目が血走っていた。どんなトラップも簡単に突破されているよう
だった。どうする。もうだめかもしれない。捕まったら終わりだ。それならば。
彼は血走った目をレイに注ぐ。そしてレイを肩から降ろし草だらけの地面に横
たえた。そして服を脱がせて、両手両足を広げた。レイはまだ気絶していた。
そして…………

























 一尉は驚いた。獲物を追いかけて森を踏み分けて行くとそこには…………

























 美しい白い少女が全裸で地面に横たわっていた。さすがに驚きそして見蕩れ
ていた。

 その時木の上から塊が落ちて来た。その塊は長いナイフを持っていた。ケン
スケだった。その時たしかにプロをアマチュアが出し抜きかけた。

 が

 一尉は気配に気付き転がりながら避けた。十分間合いを取った後すばやく立
ち上がる。

 「ぼうやなかなか見事なトラップだ。あんなお嬢さんが裸で寝てりゃだれで
も見蕩れるからな。その子は君の何だい。恋人かい。それとも兄妹かい」
 「うるさい」

 ケンスケはナイフを順手に握り親指を峰に這わせて持つ。そしてクラウチン
グスタイルに構える。

 「ほほー。ますますもって感心だ。ナイフファイティングの基礎が出来てい
るじゃないか。じゃ少し遊んでやるか。ぼ・う・や」
 「うるさぁ〜〜い。俺にもマタンキはついてるんだ」

 ケンスケはいきなり突っかけた。あっさりと横にかわされる。ケンスケはナ
イフを横に走らせる。しかし手首を取られ投げ飛ばされる。

 「おいおい、ぼうや。しっかりしてくれ。全然楽しめないじゃないか」
 「だまれ〜〜」

 数度ケンスケは攻撃をくり返したが、無駄だった。奇襲が成功しなかった今、
もう彼にチャンスは無かった。とにかく離れないと。綾波から離さないと。
どうにかなるとは思わないが他は思い付かない。彼はじりじりと後退した。

 「おやぼうや逃げるのかい。はぁはぁ〜〜。彼女から俺を引き離したい訳か。
じゃ先にこの子を苛めようか。白い肌に赤い血が一筋というのもなかなかいい
もんだぞ」

 一尉はわざとゆっくり綾波の方に向かう。

 「やめろ〜〜」

 ケンスケはあわてて綾波に跳び付く。

 「おやおや仲がいい事で。じゃまずは君から苛めてあげようか」

 一尉はケンスケから奪ったナイフを振りかざし降ろした。

 がぁーーー

 ケンスケの悲鳴が響く。ナイフは彼の背中にささっていた。

 「ぼうや痛いかい。その場所は痛いけどぜんぜん致命傷じゃない所なんだ。
まぁ痛いのも可哀想だからそろそろ二人そろってあの世に送ってあげよう。恋
人と一緒なら天国に行けるよ」

 そして再び一尉はナイフを抜き振りかざし降ろした。

























 彼と彼女は病室のベットに並んで座っていた。

 「そう言えば今日ケンスケ君も来るっていってたんだけど」
 「あいつ来てあらへん」
 「もしかして第3新東京市に戦闘見に行っちゃったのかなぁ」
 「さすがのあいつでもそれはあらへんやろ」
 「そうよね。でもそうすると何か用でも出来たのかしら」
 「戦艦の追っかけかなんかとちゃうか」
 「それならいいんだけど。何かいやな予感がするのよね」
 「いいんちょ、弱気になってるさかいそう思うんや」
 「そうよね。ケンスケ君は大丈夫よね」
 「もちろんや」

 みぃ〜〜ん、みんみんみんみんみんみん

 「じゃ、そろそろ私帰るから」
 「さよか。今日も済まんかったなぁ」
 「いいの…………だって責任とってくれるのよね…………」
 「なにかゆうたかぁ〜〜」
 「な、何も言ってないわ」
 「さよか。すまんが送っていけへんがまたな」
 「うん。じゃさよなら」

 がらがらがら

 病室の引き戸は閉まった。

























 ケンスケはナイフが抜かれるのを感じた。痛かった。とてつもなく痛かった。
一尉の台詞を聞いていても何も感じなかった。ただ自分の下に居る少女を助け
られなかったのが悔しかった。俺の軍事訓練って何だったんだろう。やっぱり
遊びだったんだ。せっかく自分の特技が役立つと思ったのに。ごめんね綾波。
一緒に死ぬのがシンジじゃないけど勘弁してくれ。
 ケンスケは死ぬ前にレイの顔をしっかり見ようと覗きこんだ。レイは目を開
けていた。
























 付近を白い光が満たした。レイとケンスケは無事であったが、一尉はナイフ
を握ったまま吹き飛ばされ付近の大木に背中から当たった。変な音がして一尉
の体がくの字に折れ曲がった。

 「ど、どうしたんだ。今のは何だ」

 またケンスケの頭にMAGIのデータがささやく。

 「あ、あれはATフィールド。綾波が作り出したのか?じゃ綾波って」

 彼は背中が痛いのも気にせず跳ね起き後ずさった。背中の傷は確かに致命傷
では無かった。痛かったが血止めをすれば動くのに問題無いようだった。彼の
前にはまた気絶してしまったレイが横たわっていた。白い少女は儚げに横たわっ
ていた。彼は少女を少し離れた所から見つめていた。

 静寂が辺りを覆った。

 そして

 少年は少女に服を着せ、続いて自分の傷の治療に取り掛かった。




















 日は暮れて行く。

 ヒカリは家で、病室での事を思い出して顔を真っ赤にしながら料理をしていた。
 トウジは夕食も済んで腹がいっぱいになって寝る事にした。










 レイは気がついた。夜のようだった。周りが野外で、自分は何かシートの上
に寝ていた。体はほとんど動かなかった。そばに誰か居るのがわかった。

 「だれ?碇君?」

 残念そうな声が帰って来た。

 「違うよ。ケンスケだよ」

 声の方向に無理して寝返りをうつと月明かりの中に、割れた眼鏡をした迷彩
服の少年が座っていた。

 「相田君が。なぜ」
 「偶然こっちへ来ていたら、戦闘に巻き込まれてね」
 「戦闘…………碇君達はどうなったの!!!!」
 「初号機と弐号機は無事みたいだったよ。カエルみたいなEVAは全部やっ
つけたみたい」
 「私なんでここに居るの」
 「渚カヲルっていう奴が気絶していた綾波を連れて来て預かってくれって
いったんだ」
 「彼が?」
 「そいつすぐ戻って行ったよ」
 「その後どうしたの」
 「その後ね…………そのあと戦自の部隊から逃げ回っていたんだ」
 「私微かに覚えている。私をしょって誰かが運んでくれたのを」
 「そうだよ。」
 「その後誰かがやって来て戦いになってケンスケ君が負けそうに
なって……そして私」


 レイは思い当たる。白い顔がケンスケを見る。


 「綾波、あれってもしかしてATフィールド?」
 「ケンスケ君、なんでATフィールドを知っているの」
 「MAGIにクラッキングして知ったんだ」
 「そう。じゃATフィールドを張れるのが何かも知っているのね」
 「使徒とEVAだね。たしか」
 「じゃ私が何かも」
 「使徒…………かな」
 「私も詳しくは判らない。自分の事なのに。でも全部話してあげる」





 彼女はケンスケに自分の生い立ちを話した。何故生まれて来たかという事、
クローンの事、三人目であるという事。ケンスケはだまって聞いていた。
ぴくりとも動かなかった。





 「なぜ僕にそんな重要な事を話すんだい」
 「わからない。私が人間じゃないのを知っているのに、ケンスケ君が助けて
くれたからかも知れない。もし私が恐いなら置いてって」 
 「なにを言うんだ!!!!」
 「私が恐くないの」
 「恐いさ。もし君が使徒だったらと思うとぞくぞくするよ」
 「じゃどうして?」
 「ぼくもよく判らないよ。ただ……綾波が……とっても奇麗だったから、そ
んな事どうでも良くなっちゃったんだ」
 「そう」



 レイはいつもの無表情だった。ケンスケは俯いていた。少し顔が赤かった。



 「よかった」
 「え」
 「もしケンスケ君がホントに置いてくって言ったらどうしようと思った。
私人間じゃないけどみんなと一緒にいたいの。昔はそう思わなかったけど、
今は生きたいの。ケンスケ君助けてくれてありがとう」
 「僕も助けてもらったから感謝なんていいよ」
 「それに奇麗なんて言われたの初めて。うれしい」
 「そ、そうかい」


 少し涼しくなって来た。夜は更けていく。


 「綾波今日はもう寝よう。明日体が動くようなら一旦第3新東京市を離れて、
僕の家まで行こう。ほとぼりが冷めたらネルフに連絡をとろう」
 「わかったわ。だけどちょっと寒い」
 「火は焚けないんだ。見つかるといけないんだよ」
 「じゃ上に掛けるものある」
 「あるよ」


 ケンスケは自分が包まっていたシートを掛けてやる。


 「まだ寒いわ」
 「体力を使い切ったみたいだね。でもこれ以上シートは無いし」
 「ケンスケ君。おねがい。添い寝して暖めて」
 「えっ」
 「おねがい。ほんとに寒いの」


 レイは青白い顔で震えていた。


 「わ、わかった」


 ケンスケはシートに潜り込む。そっとレイに体を近づける。そして少し躊躇
しつつも両手で抱きすくめる。服越しであったが二人の体は触れ合った。


 「ケンスケ君暖かい」


 レイは安心してすぐに眠りに落ちた。顔を赤くしていたケンスケもその内に
夢の中に旅立った。辺りにはセミの声が響いていた。








つづく
ver.-1.00 1997-07/14公開
ご意見・感想・誤字情報などは akagi-labo@NERV.TOまでお送り下さい!

 あとがき

 主役はケンスケです。脇役シリーズ第二弾です。春の映画ではほとんど出て
こなかったケンスケは実は頑張っていたんです。次回からは戦いも終わって、
みんなの復活編に入れそうです。りっちゃんにも頑張ってもらわなければ。

 とにかくワールドカップ優勝への道のりはまだまだ遠いです。




 まっこうさんの『チルドレンINワールドカップ・優勝への長い道のり』その3、公開です。
 

 ケンスケが活躍しているぞ!

 MAGIクラッキングと言う離れ業に
 戦自のプロとの無謀な渡り合い。

 ”キメ”とは行かないところが彼の彼たる所以でしょうか(^^;
 

 トウジとヒカリの二人と合わせて、
 この話ではケンスケとレイの接近が語られていましたね。
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 ワールドカップへの長い道のり、ホントに長い道のりを描くまっこうさんに励ましのメールを!


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