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チルドレンINワールドカップ・優勝への長い道のり その4

 
−後始末−


 「何よアンタ」


 それが彼女の第一声だった。呼吸が戻ったとはいえ意識不明だったアスカを、マコトが運転するミサトのルノーでシンジ達はネルフ本部の医療室に運びこんだ。本来だったら専門の医者が治療を行うはずであったが、戦自との戦いで死亡していた為赤木博士が診察をおこなった。診療室に運びこまれてすぐにアスカは意識を取り戻した。弐号機とシンクロし戦った結果むしろ意識自体はしっかりしているようであった。意識が戻って一時間後シンジは面会を許された。















 「何よアンタ」


 アスカは落ち窪んだ瞳に嫌悪の情をたたえ続ける。


 「アンタどんな面提げてここに来たのよ。今まで私を見捨てていたくせに、今度は私を見舞いに来たとでも言うの。どうせ自分一人でいるのがいやになっただけなんでしょ。なんで私が使徒に心を犯された時助けてくれなかったのよ。なんで弐号機がママがやられそうな時にすぐ来てくれなかったのよ。もう遅いのよ。いい事教えてあげましょうか。私ね犯されたのよ。体もね。シンクロ率がゼロになって廃墟をさまよっていた時に数人の男に強姦されたのよ。痛かったわ。恐かったわ。そん時何考えてたかしってる?悔しいけどアンタの事よ。もしかしたら助けに来るかもってね。バカみたいだったわ。シンジ私それから後もずっと覚えてるのよ。あんた私の病室で何をしたのよ。でも無様ね。結局アンタあんな事しか出来なかったんだもんね。情けないわよね。アンタそうやって一生うじうじしていなさいよ。その顔見るだけで気持ち悪いのよ。気持ち悪いだけじゃないわ。憎いわ。そんな出来損ないの様な奴にエースパイロット取られちゃったんだからね。そうよ憎んでやるわ。アンタさえまともならママも死ななかったわ。アンタのせいでママは死んだのよ。そう体が治ったらアンタを殺してやるから」


 今や彼女の瞳には狂気と殺意さえこもっていた。


 「アスカ、また来る」
 「そうね、毎日来るといいわ。アンタの自己満足の為にね。その方が私も都合がいいわ。来てくれた方が殺し易いもの」


 アスカのか細い罵声を背にシンジは病室を後にした。
















 レイは朝の光と共に目を醒ました。森の中の空気は涼しかったが寒くは無かった。横にはケンスケの顔があった。不思議な気分だった。何か暖かい気持ちがした。


 「ケンスケくん朝よ起きて」


 レイはケンスケに呟く。しかしケンスケからはうめき声が帰ってくるだけだった。


 「どうしたのケンスケくん」
 「傷口が痛い…………」


 今やケンスケの体はガタガタと震え、額は汗だらけであった。ケンスケはぶつぶつと呟くと再度意識を失う。


 「ケンスケくんしっかりして」


 レイはシートの間から抜けだすと、ふらつきながらも立ち上がった。ATフィールドを展開してみる。大丈夫だ。レイは重力を遮断しケンスケを抱きかかえるとネルフ本部の方へ向かって行った。




















 「アスカ、また来たよ」


 今日もシンジはアスカの病室へと来る。俯きながらベットのそばの椅子に座る。


 「何しに来たの。アンタに出来る事は無いわよ。それとも今日は襲ってみる?今の私なら抵抗できないわよ。アンタにはできないわよね。身動きとれない時でも襲えなかったんだから」
 「アスカお願いだからそんな事言わないでよ。アスカの事好きなんだよ。」
 「気持ち悪い事言わないでよ。アンタは誰でもいいのよ。一人じゃなきゃね。アンタのこと許さないわ。ずっとアンタの事苛んでやる。いつか殺してやる。そお言えばアンタ、ファースト他の男に取られたんですって。それもあの軍事オタクに。当然よね。あれだけアンタの事気にしていた子に何もしてあげられなかったんだもんね。いい気味だわ」
 「おねがい。アスカ。許してよ。そうだよ。一人でさびしいだけかもしれないよ。だけどもし一緒にいてくれるならアスカがいいんだよ。アスカじゃなきゃだめなんだよ」
 「今更なにを言ってんのよアンタは。そんな台詞一ヶ月遅いわよ。私の心や体を元どおりに出来るとでも言うの。ママを蘇らせる事でもできんの。じゃなきゃどっかいってよ」
 「わかったよ。アスカまた来るよ」


 シンジは今日も病室を後にした。
























 彼はふと目を醒ました。目の前には板敷きの床がある。どうやら床にそのまま寝ていたらしい。体にはタオルケットが掛けてあった。周りを見渡すと見た事の無い部屋だった。八畳ぐらいの部屋に大きいベットがおいてある。窓際には熊と猫のぬいぐるみ。大きい本棚があり恋愛小説で埋まっている。本棚の横には箪笥があった。あれ、ここはどこだ?あれ、俺は、誰だ?彼は自分にかかっているタオルを跳ねのける。Tシャツと短く切ったジーンズを穿いていた。何となく頭を掻くと、長い髪は後ろで束ねられている。彼は立ち上がるとドアに向かった。取っ手を廻してみる。鍵はかかっていないようだった。戸を開けるとそこは居間になっていた。そこのソファにはショートカットの童顔の女性が眠り込んでいた。彼には、その女性の顔に覚えがあった。もう少しで喉から出そうだった。


 「あっ…………マヤちゃん」


 彼の声でその女性も目を醒ました。


 「え、マヤちゃんって、シゲルくん記憶が戻ったの」


 マヤはいきなり立ち上がる。たちまち瞳は涙で一杯になり、シゲルの首根っこにしがみついた。


 「よかった。よかった。一ヶ月よ。一ヶ月も記憶が戻らなかったのよぉ」


 マヤは泣きじゃくる。


 「一ヶ月って?」


 いきなり抱きつかれオロオロしながらシゲルは問い返す。


 「覚えてないの?」
 「俺何してたの?そういえばなんかすごい事があったような気はするけど」
 「ネルフが戦自と量産型EVAに襲われたの。いっぱいの人が死んだの」


 思い出してマヤはますます泣きじゃくる。


 「え、みんなは。みんなはどうなった」
 「発令所まで戦自は責めてきたわ」
 「それで。その前に座ろうか」


 シゲルはマヤをソファに座らす。そっと隣に腰を掛ける。座ると少しマヤが落ち着いてくる。


 「もう少しで皆殺しになるという時に、先輩が出した薬を青葉くんに注射したの」
 「へっ?俺が?赤木博士の薬を」
 「そうしたらいきなり青葉くんスーパーマンのように強くなって戦自の潜入した部隊をやっつけちゃったの」
 「へ?????」
 「ほんとよ。発令所を取り戻した私達は対人用トラップを使って施設内の部隊を殲滅したの。そして初号機と弐号機をバックアップしたの。本部外の戦自の部隊と量産型EVAはシンジ君達がやっつけたわ」


 シゲルはすこしあきれ顔になっていた。


 「俺そんな事をやったの」
 「そうよ。先輩がくれた薬って副作用があるの。体を強化する代わりに知能が戻らなくなる可能性があるって。シゲルくんそれを聞いても戦自をやっつける為に投薬してくれって」
 「なんでそんなおっかない事したんだろう」
 「覚えてないの?」
 「うん」
 「シゲルくん、投薬の前に、私の事…………好きだって言ったの。生き残ってって言ったの」
 「あっ。そうだ。おもいだした。そうだそうだったんだ。マヤちゃんを助けたくってあんな事したんだ」
 「思い出したの」


 少し二人の間を時が流れる。


 「そ、それで、みんなは無事かい」
 「日向さんにミサトさん。先輩、司令は無事よ」
 「副司令は?」
 「どうやら副司令だけは戦自の捕虜になってたらしいの。けど司令が交渉して身柄を取り戻したわ」
 「子供達はどうなったんだい」
 「3人とも無事よ。今の所シンジくんはミサトさんの所、アスカちゃんは入院中。そんなに重傷じゃないわ。レイちゃんはネルフの施設内に相田ケンスケくんと住んでいるわ」
 「相田くんって?」
 「彼女の同級生なの。レイちゃんを助けたんだけど、その時重傷を負ってしまって、ネルフの医療室に運びこまれたの。ケガはもう治ったんだけど、彼がレイちゃんを助けた時に彼女が機密事項を漏らしてしまって、彼半分軟禁状態のようなものだって。ただレイちゃんが絶対離れたくないって言っているので一緒にいるみたい」
 「そうか」
 「あと……」
 「あとなんだい」
 「第17使徒」
 「第17使徒がどうしたんだ」
 「彼が人間の仲間になったの」
 「なかま……だって。奴はシンジ君が倒しただろ」
 「そうよだけど蘇ったの。ただ人を滅ぼすのをやめたんだって。みんなとシンジ君やアスカちゃんやレイちゃん達と人間として生きたいんだって。それでゼーレの量産型EVAを倒すのを助けてくれたの」
 「それで司令達はなんて」
 「司令は……受け入れたわ」
 「そうなんだ」
 「今彼もネルフの施設内にいるのよ」


 シゲルは黙って天井を見上げ少しの間考えていた。


 「いろんな事があったんだ」
 「ええ」
 「俺はどうしてたんだい」
 「戦自の部隊をやっつけた後、疲れていきなり眠り込んだわ。二時間ぐらい眠った後、目を醒ましたんだけど、その時はまるで幼児みたいだったわ。歩いたり、座ったりの動作は出来たけど自分からはなんにもしなくなっていたの。先輩はこの状態はいつまでも続くかもしれないって言うし、私わーわー泣いちゃった」
 「泣いてくれたんだ」
 「だって生まれて始めて好きって言ってくれた人が……初めて好きになっちゃった男の人がそんなになっちゃったんですもの」
 「そうなんだ。へ?」


 言ってから気がついたらしく、マヤは顔を真っ赤にして俯いていた。シゲルはシゲルで驚いていた。マヤは慌てたように話を続ける。


 「ええっと、そうシゲルくん一人じゃなんにも出来なくなっちゃったので誰かが面倒見ないといけないって話になったの。でその時にはシゲルくん私になついちゃってて、しょうがないから本部内の施設に部屋を借りて世話をしてたの。ここ本部施設内の一室よ」
 「なついちゃったって……」
 「覚えてないの?シゲルくんよく指しゃぶって、それで反対の手で私の制服掴んで先輩の研究室まで診療に何回も通ったのよ。それにお風呂やお手洗いも……連れてってあげたわ。それに…………夜になっても私にくっついて離れないから……いっしょに……その……ベットで寝てあげたわ」


 二人とも顔を真っ赤にしていた。


 「そ、そう…………」


 何か話題を変えよう。彼は恥ずかしそうに部屋を見渡していた。


 「マヤちゃんって恋愛小説好きだね。あの本棚にもいっぱいある」
 「うん中学生の時から読んでるの。ちっちゃいころ私ガリ勉でお友達も少なかったの、だけどそれじゃだめって中学の先輩が貸してくれた本を読んではまっちゃった。おかげで未だに、白馬に乗った王子様が迎えに来てくれる夢を見てしまう時があるわ」


 また話がとぎれた。シゲルはまたきょろきょろした。


 「あっ俺のギター」
 「うん。シゲルくんの部屋から日常品を持ってくる時にいっしょに持って来たの。二本あったけどこっちの木の方を持って来たわ」
 「これ俺が最初に手に入れたギターなんだ。ありがとう」
 「シゲルくんって何でギター引いてんの」
 「なんでって……ありきたりな話だけど彼女に告白したかったんだ」
 「彼女って?」
 「高校時代に好きな女の子がいたんだ。どうやって告白しようか迷ってたんだ。ある日テレビでセカンド・インパクト前のリバイバルのアニメをやってたんだ。ムーミンって言うんだけど。知ってる?」
 「あっ知ってる。カバのお話ね」
 「あれはカバじゃなくて妖精だよ。それはともかく主人公のムーミンの仲間にスナフキンて言う吟遊詩人がいるよね。ムーミンが困った時や悩んだ時にギターを弾いて励まして上げるんだ。それを見てギターを弾いて告白しようと思ったんだ」
 「そうなの」
 「その後楽器店まわったんだけど高くってとても買えなかったんだ。ある日商店街を歩いていたらちっちゃな骨董品やがあったんだ。なんとなくふらっと入ると、すぐ店の奥の方に目がいったんだ。そこには古いギターが置いてあったんだよ。古いけどちゃんと手入れはしてあったみたいだった。正札がそばにあって(ギター  YAMAHA製)とだけ書かれてあったんだ。ずっとそれを見ていたら後ろから声がかかったんだ。


{ぼうずそれがほしいかい}


 そこには優しそうな初老のおじさんが立っていたんだ。俺は答えたよ。彼女に告白したい事、ギターが欲しい事、でもお金があまり無いこと。するとおじさん、いつ告白するんだいって聞くんだ。一ヶ月後の彼女の誕生日と答えたさ。そしたら一ヶ月分のバイト代でゆずってくれるって言ったんだ。しかも毎日ギターの稽古をつけてくれるって。何度も何度もお礼を言ったさ。あとで聞いたらおじさんもそのギターで奥さんに告白したんだって。それからはバイトと稽古に明け暮れたんだ」
 「それで告白どうなったの」
 「うん。誕生日の一週間前に彼女が転校しちゃってパーさ」
 「残念ね」
 「まあね。でもその時はギターを弾くのが好きになっちゃってあまり気にならなくなってたよ」
 「骨董屋のおじさんは?」
 「いまでも店をやってると思うよ」


 ぼろん


 ギターを軽く爪弾く。


 「シゲルくん」
 「なあにマヤちゃん」
 「その練習した曲私に聞かせて」
 「いいよ」


 彼の古びたYAMAHAのギターから「スタンドバイミー」の曲が流れだした。
 マヤは目をつぶり黙って聞いていた。シゲルがギターを弾き終わっても二人は無口だった。


 「シゲルくん」
 「何だいマヤちゃん」
 「きっとシゲルくんの告白ってうまくいってたわ」
 「そうかい」
 「だって……私にはうまくいったもの……私の王子様」


 マヤはシゲルの胸にすがった。シゲルは慌ててギターを置くとマヤを抱き閉めた。


 その夜、マヤはシゲルと不潔な仲になってしまった。















 「アンタまた来たの」


 シンジが病室に入ると、アスカは果物ナイフをぎこちなく使いリンゴを剥いていた。まだ神経が完全には治っていないらしく、うまく剥けないでいた。


 「アスカ剥いてあげるよ」
 「結構よ。アンタの触ったものなんか食べたくないわ」


 彼は椅子に座って呟く。


 「アスカ、お願いだ。僕を許してよ。もう絶対見捨てないよ。好きなんだよ。愛してるんだよ」


 最後の方の彼の言葉はほとんど消えかかっていた。


 「愛している?お手軽な言葉ね。そう愛しているの。じゃその言葉に答えてあげるわ」

 アスカはベットを降りるとシンジに近づき彼を立たせた。呆然としているシンジに顔を寄せキスをする。長いキスが終わった後シンジは自分の脇腹を見た。そこには果物ナイフが刺さっていた。

 音もなく崩れるシンジ。声も上げずのたうちまわる。


 「アンタを殺すって言ったでしょ。キスはおまけよ」


 青い瞳ががシンジを見下ろす。


 「これが私の味わった痛みよ。心と体の」


 シンジは動かなくなってくる。


 「これからもっともっと苦しめてあげるわシンジ。シンジ…………何動かなくなってんのよ。まだだめよ。まだ憎み足りないわよ。だめよ。今死んじゃだめよ。ちゃんと急所は外してるでしょ。ちょっと。なによ。だめよ…………だめ…………だめ〜〜〜〜だめ、シンジ死んじゃだめ〜〜。だめ一人にしちゃだめ。私もうアンタを憎むしか生きていけないのよぉ。お願いだから死なないでよ。もう一人にしないでよぉ。いやシンジ一人にしないでぇ」


 アスカの悲鳴につられるように入って来た医師が見たものは、腹を刺されて血まみれになった少年とすがりついて泣く少女の姿だった。

























 彼女と彼はホテルの一室で抱き合っていた。獣の一時がすぎた後、女はベットの脇に置いてあるえびちゅのカンを取りフタをあけた。喉に一気に流し込む。


 「ミサトさん」
 「またさんを付けてる。ミサトでいいわよ。なあにマコトくん」
 「僕もマコトでいいです。アスカちゃん達どうなったんですか」
 「結局アスカの一時的錯乱って事になったわ。シンちゃんも死ななかったからね。ただアスカは軟禁状態だけど」
 「そうですか」
 「私のせいだわ。あの子達を本当に保護しててあげてたらこんな事にはならなかったわ。でもこれも偽善かもね。なんせ彼等を戦場に送りこんだのはまさにこの私なんだから」
 「ミサトさんは精一杯やりましたよ。私はミサトさんの指示に従って後悔したことはありませんでしたよ」
 「そうかしら」
 「そうですよ。むしろこれからあの子達をどうしてあげられるかですよ。僕も手伝います。これからはぼく達はずっと一緒なんですから」
 「ありがとう。そうね。昔の後悔や責任は私達が背負ってあの子達は幸せにしてあげたいわ」
 「その後悔と責任の半分は僕が背負いますよ」
 「ありがとう」


 彼女はえびちゅをベットの脇に置く。


 「ミサトさん今は忘れましょう。ベットでは考え事はやめましょう」
 「そうね。わかったわ。ごめんなさい。マコト…………もっとしよ」


 夜は更けていく。





















 

 アスカは彼の病室を訪れた。シンジは薄っすらと目を開き彼女を見ていた。 彼女は椅子をベットの側に寄せるとそこに座った。


 「べつに見舞いに来た訳じゃないわ。分かってると思うけど。アンタを殺そうとした事は私の一時的錯乱という事になったわ。本気だったのにね。おかげでこの病室はいる時も身体検査受けたわ。ナンセンスよ。今のアンタなら素手で十分だわ。でももうアンタを殺すのはやめたわ。アンタに付きまとって一生責め苛んでやる。恨んでやる事にしたの。どのみちアンタも私も他に相手はいないしね。片や戦自を殲滅し数千人を殺した殺人鬼の女、片やその女を見捨てて原因を作った男。そう考えて見ればお似合いだわ。ほらシンジなんか言ってみなさいよ」
 「アスカ愛してる……」
 「アンタバカ。なに言ってんの、気持ち悪いわね。アンタ私に殺されかけたのよ。恨み言の一つも言ってみなさいよ」
 「アスカまた前みたいに一緒に暮らそう……」
 「アンタほんとにバカね。いいわ。一緒にいてあげるわ。アンタを苦しめる為に。いい誤解するんじゃないわよ。別にアンタが好きでも愛してるんでもないからね。一人でいると私が私を壊しちゃう。アンタはその身代わりよ。だから早く体治すのね。私を一人にしない事ね」
 「ありがとうアスカ…………」


 疲れたのかシンジはまた眠りにつく。


 「何礼言ってるのよ。アンタを苦しめるって言ってるのよ。何故そんな幸せそうな顔して眠れるのよ。アンタほんとにバカよ……」


 椅子に座って俯く彼女の膝には、数滴のしずくが落ちていた。そして小さな泣き声が病室に響いた。





















 「…………ということです。結局ネルフ職員の内、およそ4割が死亡。4割が重傷。 1割が軽傷。現在動けるものは、D級職員までふくめて1割ほどです」


 ミサトの報告を肩に包帯を巻いたゲンドウが受ける。


 「チルドレン達はどうだ」
 「現在、セカンドチルドレンは病院へ収容治療中です。弐号機とのシンクロのおかげでむしろ病状は良くなっています。サードチルドレンも治療中です。セカンドチルドレンとサードチルドレンの間の緊張関係は若干やわらいで来たようです。これ以上の事件は起こらないと思われます。フォースチルドレンは変わりはありません。ファーストチルドレンは本部内の部屋に暮らしています。依然友人と一緒です。引き離そうとすると、ATフィールドまで使い抵抗する為そのままにしてあります」
 「わかった。チルドレン達は現状のままでいい」
 「はい」
 「ダブリスはどうしている」
 「本部内の部屋に住んでいます。これといって変化はありません。毎日赤木博士の研究室で自分を研究材料として提供しています」
 「そちらも現状維持でいい」
 「彼がチルドレン達に会いたがっていますが」
 「私の立ち会いのもとでのみ面会を許す。そう伝えたまえ」
 「はい」
 「情報戦の方はどうなっている」
 「そちらについては赤木博士より報告します」
 「現在各地に生き残っている工作員を総動員してマスコミ、政治家を押さえています。今回の事件と使徒達の来襲は総てゼーレが仕組んだ事として世論を誘導しそれを真実とするように仕向けています。表舞台には見栄えのいい副司令と葛城三佐に立ってもらっています。あとMAGIを使いイロウルアタックをかけます」
 「イロウルアタックとはなんだ」
 「第11使徒イロウルの生体パターンを利用したコンピュータウィルスです。地球上のコンピュータの99.99%は乗っ取る事が可能です。ほぼ世界中のコンピュータやデータバンクも私達の味方になってくれるはずです」
 「わかった」
 「以上で現状報告を終わります」
 「ごくろう。さがっていい」
 「司令」


 ミサトが聞く。


 「なんだね」
 「質問をしてもよろしいでしょうか」
 「言いたまえ」
 「ありがとうございます。これからどうするおつもりですか」
 「どうとは」
 「ネルフやEVAをです」
 「人類補完計画が白紙に戻った以上、ネルフやEVAは不必要だ。だが同時にそれらは完全にオーバーテクノロジーだ。それらが悪用されないように管理していく為にもネルフは存続させる。ただし将来は研究組織にするつもりだ。元々ここにいる皆は学者だったものが多い。そのほうがいいだろう。自衛の為に諜報部と一定の武力は残すつもりだが」
 「もう一ついいでしょうか」
 「なんだ」
 「チルドレン達はどうなるのでしょうか」
 「EVAの管理の為協力はしてもらう。しかし戦闘はもう無いだろう。彼等は護衛と監視がつくとはいえ一般の生活に戻れるはずだ」
 「はいわかりました。それでは失礼します」


 執務室を去ろうとするミサトとリツコに向かいゲンドウは声をかける。


 「葛城くん」
 「はい何でしょうか」
 「あの子達をたのむ」
 「え!」
 「私は今更何も直接してやることはできない。あの子達が拒むだろう。せいぜい財政面と政治的な始末をしてやれるだけだ。だが君は違う。心も開いてくれるだろう」
 「そんな事はありません。碇司令。いつかはシンジ君も心を開いてくれます。それにレイちゃんだって……」
 「そうか。ともかく頼む」


 ゲンドウはいつもの口調で話を打ち切った。


 「わかりました。それでは失礼します」


 二人は総司令執務室を後にした。












 アスカは毎日シンジの病室を訪れた。訪れては彼を罵倒していった。彼を罵倒していくたびに瞳の狂気と殺意の色は薄れていった。シンジは少しずつ回復していった。


 レイはケンスケと一緒に暮らしていた。二人とも体は良くなっていたので、ネルフ職員の内教員免許を持つ者に毎日勉強を教えてもらっていた。本部のプールで一緒に泳いだりもした。出来る範囲内で、本部を案内もした。ケンスケは喜んでいた。レイはその笑顔がとても嬉しかった。


 トウジは今日も病室でヒカリの弁当をぱくついていた。皆が生きているという事だけは元チルドレンの特権で知らされていた。ただその事を隣に座っているヒカリには言えないのが辛かった。











 ある日ゲンドウがリツコの研究室を訪れた。


 「リツコ君計画は順調か?」
 「はい。世界中のコンピュータおよびデータバンクの85%は押さえました。あと3日で計画完了です」
 「わかった」
 「司令どうなさったのですか」


 いきなりゲンドウはリツコを抱き寄せる。


 「あ、まだ執務中です」
 「かまわん」
 「誰か来ます」
 「君の研究室は他の人は入ってこないはずだ」
 「どうされたのですか」
 「疲れたのだよ。目標がなくなって。後は後始末だけにしか私は役に立たない」
 「勝手な言い草ですね。貴方はその目標の為に私をさんざん利用したくせに。今度は泣き言を言って慰めてもらいに来たんですか」
 「…………」
 「たとえ後始末にしか役立たなくても、私の為には役に立ってもらいます。いつか心の底から貴方に愛してると言わせますわ」
 「そうか」


 ゲンドウは離れた。


 「邪魔したな」
 「司令。また夜に来てください。レポートも出来上がっていると思います。たっぷり説明の時間もあります」
 「わかった」


 彼は部屋を出て行った。リツコは奥の仮眠室を片付けることにした。









つづく





ver.-1.00 1997-07/23公開
ご意見・感想・誤字情報・りっちゃん情報などは akagi-labo@NERV.TOまでお送り下さい!

 あとがき

 そうそうなんです。私の話の中ではみんなラブラブになるんです。
 特にアスカちゃんとりっちゃんには最後に思いっきりラブラブに幸せになってもらうんです。人は生きてさえいれば幸せになれる可能性があるんです、てね。ということで次回こそはサッカーの話を出したいなぁ。

 それにしてもワールドカップ優勝への道のりはまだまだ遠いです。


 まっこうさんの『チルドレンINワールドカップ・優勝への長い道のり』その4、公開です。
 

 遙かなるワールドカップへの道。

 連載当初は本当に「遙かなる」でしたが、
 なんだか少しずつ見えてきたような気がします。
 

 次第に和らいでいく雰囲気。
 徐々に近づく思い。
 段々消えていく緊張感・・・・
 

 少しずつ平和が見えてきました(^^)

 

 

 

 アスカは犯られっちゃたんですね (;;)

 状況から見ればそう考えるのが自然なのかな。
 でもそれじゃ余りにも「そのまんま」でしょ・・・・

 大体あの廃墟に人がいたのか・・・・・火事場泥や、バカヤンキーがいるかも。

 諜報部は身に危険が及ばない様に人払い位してたでしょう・・・なにもない所だしそんな人員取らないか。
 レイプだけですまない可能性は多々あるし・・・レイプは見過ごすかも。
 幾ら何でも死なれたら・・・・・平気かな、用済みだし。
 

 うーん、「犯られていない」は旗色悪いな(^^;

 じゃ、じゃあさ。
 バスタブ横に畳まれてた服に汚れはなかった・・・よね?
 

 アスカ人の希望的観測(苦笑)

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
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