TOP 】 / 【 めぞん 】 / [まっこう]の部屋に戻る/ NEXT


チルドレンINワールドカップ・優勝への長い道のり その2 −子供達は−



 アスカは震えていた。EVAパイロットを保護するため無理矢理エントリプ
ラグに詰め込まれ弐号機と共に芦の湖の湖底に射出されていた。水面からは戦
自の爆雷が漂い落ちては爆発し弐号機を次々に揺らしていた。









 「なによ。もうだめなのよ……弐号機は動かないのよ……
  動かせないのよ…………ママ……ママ……助けてママ…………」
 「なぁにアスカちゃん」
 「ぁ……幻聴も聞こえてきちゃった……ほんとにもうお終いなのね」
 「ここに居るわよ、アスカちゃん」
 「もうお終いだわ……」





















 アスカはプラグの中で胎児のように丸まっていた。こんなのうそよ、私はE
VAのエースパイロットなのよ、何でも一番なの、操縦だって、勉強だって、
けんかだって、世界一なの、誰もが私を惣流・アスカ・ラングレーを賞賛する
わ、そうよ誰もが夢見るあこがれの美少女なの……


 ……夢の美少女なの……
 ……夢の……夢…………


 あれそっちの方が夢なのかしら、私って泣き虫の女の子だったっけ、頭がおっ
きくてよくニ頭身ってからかわれたっけ、赤毛で魔女っていわれたっけ、いつ
もママに抱きついていたっけ。人形と一緒じゃないと眠れないんだっけ。そっ
か夢か、夢なんだ。じゃ目をさまさなきゃ。起きたらママを手伝って朝ごはん
作らなきゃ。ごはん食べたら、髪を三つ編みにしておめかししなくっちゃ。隣
のシンジ君おこしに行かなくっちゃ。シンジ?シンジってだれだっけ?そんな
子知らないわ。どうでもいいわ。もうすこしすればママが起こしてくれるわ。













 「アスカちゃん」



 アスカは目を開いた。薄暗いプラグの中で彼女の瞳は違うものを見ていた。

 「ママ、そこに居たのね、ママ」
 「ええ、起きたら一緒にいきましょ」
 「ママ、みんながいじめるの」
 「ママがやっつけてあげるわ」

 それは狂気だったかもしれない。アスカは確かに母の温もりを感じた。これ
までに無い感覚がアスカをおそう。その時EVAとのシンクロ率は200%を
越えていた。

 湖底で戦自の爆撃に曝されていた弐号機の四つの目が輝きはじめた。


















 戦自の戦艦は爆雷の投下を続けていた。戦艦の指揮官である宮村二佐は次々
と上がる水柱を眺めていた。
 これまでネルフの奴等にはさんざんばかにされた。俺達の切り札のNN爆雷
も効かない相手が、あんなオモチャみたいなロボットに倒されるなんて、巨大
ロボット物のアニメじゃあるまいに。
 だが奴等も終わりだ。施設内は特殊部隊が行っている。あいつも行っている
からもはやうち漏らす事も有るまい。彼は銀色のサイボーグのことを思い出し
ていた。
 そろそろとどめにNN爆雷を叩き込んでやるか。あのロボットをぶっ壊せば
我々が日本で最強の軍事組織だ。いや実戦の数から行っても世界一かもしれな
い。ついでに世界征服でもしてやるか。こんな下らない事を考えるぐらい彼に
は余裕があった。彼の顔を邪悪とも言える微笑みが被った。


























 ゴォン

 突然それは襲ってきた。船乗りとしてあまり感じた事のない動き。戦艦は徐々
に空中に持ち上がりつつあった。

 「艦長!!!!」

 副官の大槻三佐が叫ぶ。

 「ネルフのロボットが、赤いやつが、我々の船を持ち上げています!!」

 弐号機はATフィールドを使い水面の上に立ち上がると、戦艦を湖畔の戦車
大隊にむかい投げ付けた。






 アスカは狂っていた。再起動した弐号機の中で、母の魂と会った。心は動き
だしたが、その心には他の全ての存在への憎悪と殺意しかなかった。

 「私からエースの座を奪ったシンジを殺してやる……
   私とママをいじめる戦自の奴等を殺してやる………
    殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる………」






 水面を歩く弐号機に対して、唖然としていた戦自の重機動兵器師団ではあっ
たがすぐさま攻撃を再開した。





 が





 弐号機の敵ではなかった。戦車大隊の砲撃は全てATフィールドに防がれた。
航空部隊のミサイルの直撃も功をなさなかった。その姿は宿敵である使徒その
ものである。
 弐号機は、戦自の重機動兵器師団をアリのようにつぶしていった。
 最後の戦闘車両を押しつぶした時、閃光がほとばしった。自爆用のNN兵器
が爆発したのだった。しかし今の弐号機には毛ほどの傷も負わせることはでき
なかった。

 アスカは怒りのため緑色に光る瞳で周囲を見廻す。そして、急に地面に黒い
影がうごめくのを見た。上を向く弐号機。




 「エバァシリーズ。完成していたの…………」

そこには純白のEVAが空を舞っていた。



















 初号機は、芦の湖から少し離れた場所に射出されていた。まだ幾つか残って
いる兵装ビルのシャッターをこじ開けパレットガンを取り出し、弾倉をチェック
する。劣化ウランの弾は200発以上入っていた。パレットガンを左手に持ち変
えるとプログナイフを右手に装着し、刃を起動する。




 「よし行くぞ。」

 震えた声で呟くと、弐号機にむかって初号機を走らせていった。

 「もう一人はいやなんだ。アスカ今行くよ。行っても助けられないかもしれ
ないけど、今行くから。一緒に死んであげるぐらいはできるから。もうなんだっ
ていいや。とにかく行くよアスカ…………」
 「だめよ碇君。みんなで一緒に生きるの…………」

 シンジの頭の中に声が響いたかと思うと、急に初号機の横にATフィールド
が張られるのを感じた。思わずパレットガンを向け振り向くシンジ。






 そこには顔見知りの少女が裸身で浮かんでいた。彼女の背中からはATフィー
ルドの膜がふんわりと生えていた。

 「綾波!!」
 「碇君。死ぬなんて考えちゃだめ。そしたら二人目の私はどうなっちゃうの。
あの時の事は覚えてないわ。わからない。どうしてそうしたかわからない。今
の体になってから、バックアップしてあった記憶を元に戻したの。記憶は戻っ
たわ。だけど……どうしてかはわからなかった。でも昨日ケンスケ君が昔撮っ
たみんなとの写真を見ていたら、涙が何故か出てきたの。碇君が掃除してくれ
た事やみんなでラーメン食べた事が頭に浮かんできたの。みんなともう一度こ
んな事をしてみたくなったの。それでわかったわ。二人目の私はきっと碇君と
生きたかったの。だけどあのままだと碇君が死んじゃう。だから死んだの。」
 「綾波思い出したの!!」
 「思い出した訳じゃないのかもしれない。私は二人目と違うもの。だけど多
分思いは同じ。今の私はATフィールドが張れるわ。人間じゃないもの。でも
みんなと一緒に生きたいの。碇君と。アスカさんや葛城三佐と。だから一緒に、
アスカさんの元に行きましょう。そして生き延びましょう。」
 「わかったよ。綾波、一緒に行こう。」

 初号機とレイは、弐号機のもとへ急いだ。




















 弐号機は追い詰められていた。ゼーレのEVAはそれほど動きは速くない。
とはいえ9体のEVAは手にした剣を次々にふるって来た。弐号機は囲まれな
いように動きつづけていたが、とうとうアンビリカブルケーブルを切断されて
しまった。
 プラグ内の表示は残り5分30秒を示す。
 切断されたケーブルの端を持った弐号機は、鞭のように一機の敵EVAの首
に巻きつけ引きずり倒した。プログナイフを敵EVAのプラグにむかって突き
刺す。ダミープラグが破壊されてそのEVAは動作を停止した。

 それを見た他の敵EVAは、牽制するだけで近寄らなくなる。弐号機が斬り
かかっていってもかわすだけの動作をくり返していた。






 アスカはあせっていた。もう稼動時間は30秒を切っていた。それでも敵E
VAを追い回しつづけた。

 急にエントリープラグの中が真っ暗になった。稼動限界が来たのだった。そ
して急に傍らから何かが居なくなるのを感じていた。






 「ママァ!!おいていかないで。」

 アスカの絶叫がLCLの中に響く。そしてアスカは気を失った。










 レイと初号機は弐号機の元へむかっていた。起動こそはケーブルを使い外部
電源を使用した初号機であったが、今は機内のS2器官によって動いていた。
一方レイは空を飛んでいた。今でははっきりと羽の形をしたATフィールドを
背中より4枚はやしていた。レイは速かった。彼女のATフィールドはEVA
2〜3機分にもあたるものであり、そのすべてを飛行のために使っていた。月
を背に白い裸身で空を飛ぶレイ。その姿は女神か天使の様に美しい。






 初号機を走らせながらシンジはアスカの事を考えていた。キスした事を思い
出していた。また動けない彼女を汚した事も思い出していた。今行くよアスカ。
助けに行くよ。助けた後嫌われてもいいや。生きていれば、そう生きていれば……。
 シンジの思いは初号機を極限まで加速した。








 ほぼ音速に近い速度で飛行したレイは、動かなくなった弐号機に近づき、弐
号機の頭に立った。そして両手を広げATフィールドを全開にする。そのAT
フィールドは弐号機をつつみ白く輝いた。
 始めゼーレのEVAは周りを取り囲むだけであった。がいっせいにレイのA
Tフィールドに向かい剣を叩きつけはじめた。レイの顔が徐々に苦痛に歪み、
ATフィールドが小さくなっていった。その光景は、巨人を愛してしまった天
使を折檻する煉獄の魔物の群れのようであった。 








 遅れて到着した初号機は、その光景が見えた途端、パレットガンを掃射した。
あまり効果は無いように見えたが、敵EVAの内4機が初号機に向かってきた。
初号機は咆哮をあげて飛び掛かっていった。






 一方レイは苦痛に耐えていた。4機に減ったとはいえ敵EVAの攻撃はレイ
のATフィールドに衝撃をあたえレイを苦しめていた。その美しい眉は苦痛に
歪み、唇は紫色になっていた。碇君早くして。もう耐えられない。早くしない
とまた私死んじゃう。すべてを忘れちゃう。もういや。もう忘れるのはいや。
この思いを、この心を。だから……


 大きな衝撃がレイを襲い、気絶した彼女は地面に向かって落ちていった。


 「綾波!!アスカ!!」

 シンジの絶叫が走る。






















 その時であった。地面から白い光の塊が飛び上がってきて、レイを受止めた。
 その光は弐号機を取り囲んでいた敵EVAをすべて跳ね飛ばした。

 「シンジ君久しぶり。」
 「カオル君!!!!」
 「取り敢えず話は後だよ。レイくんを安全な場所へ置いてくるから。」

 カオルは一瞬で消え、また一人だけ戻ってきた。

 「シンジ君、今の僕は君の味方だよ。もう君を裏切ったりはしない。もう僕
は人を滅ぼす事はしないんだ。事情は後にしよう。まずは僕のダミーを使った
こいつらをやっつけてからだ。」

 カオルのATフィールドは壮絶な強さを持っていた。敵のEVAを跳ね飛ば
し切り裂いていく。シンジは弐号機に害がおよばないようにATフィールドを
張っているだけだった。そして、戦いは終わった。










 夕暮れの中立ち尽くす2機のEVA、そしてその横には少年が浮かんでいた。

 「カオル君、僕は君を殺したのに……何で生きているの。」
 「僕のコアはこの瞳なんだ。だから今までかかってゆっくり再生したんだ。」
 「僕は君をころしたんだ……。」
 「わすれろ。」
 「え!」
 「あれはあれで正しかったんだ……いや正しいかは僕は知らない。なんせ僕
は使徒だったんだから、人間の事情なんてね。ただ今は僕もレイくんみたいに
人間としていきたいんだ。だから忘れていいよ。生き返った事だし。それより
もアスカ君を助けたほうがいいと思う。レイくんは信頼できる人に預けてきた
から大丈夫だけど、アスカ君はさっきのぞいたら心が消えかかっていたよ。」














 「シンジ君誰と話しているの?」

 戦自のジャミングにより、とぎれとぎれにはなっていたが、かろうじて音声
信号だけが発令所から伝わってきた。

 「ミサトさん!!!!そっちも大丈夫だったんですね。カオル君なんですよ。」
 「カオル君って…………第17使徒!!!!」
 「だけど味方なんです。レイとアスカと僕を助けてゼーレのEVAをやっつ
けてくれたんです。」
 「だけど使徒なのよ!!!!」
 ミサトの声は絶叫に近い。

 「ネルフの皆さん。とりあえず言い争いよりもアスカさんを助けたほうがい
いですよ。」
 「カオル君。そうだね。」

 シンジは通信を無理やり切ると初号機を弐号機に近づけた。カバーを剥ぎ取
りエントリープラグを引きずり出した。自分もエントリープラグをエジェクト
し外へと出る。空を漂うカオルに地面へと降ろしてもらいプラグに近寄った。
緊急用の開閉レバーを使いプラグのハッチを開こうとするが、無理矢理引き抜
いた時に変形してしまったらしく開かない。

 「シンジ君、退きたまえ。」

 カオルはATフィールドでハッチを切り飛ばした。

 溢れ出るLCL。中には血の気を失ったアスカが浮かんでいた。

 「アスカ!!!!」

 シンジはアスカを抱き上げて、外へ出した。心臓は動いていたが、息はして
なかった。瞳はどんよりと濁っている。EVAのパイロットであるシンジは応
急処置の教育は受けていた。アスカを仰向けに地面に横たえ、腹を押しLCL
を吐き出させる。プラグスーツを緩め、上半身を露にさせる。肺に締付けがな
くなったところで、首の下に手を差し込み気道を確保し鼻をつまんで口移しで
息を吹き込む。
 シンジにとっては何時間も人工呼吸をしていたように思えたが、実際はほん
の2〜3分でアスカは呼吸を再開した。アスカの瞳の青さが徐々に鮮明になっ
ていく。









 「アスカよかった……生きてて……よかった……
   一緒に生きよう……嫌われても何でもいいや……
    一緒に生きよう………………………………………」

 母にすがる幼児の様に、シンジはアスカの胸に顔を埋めて泣いた。

 黙って見つめていたカオルは、ひとつため息をつきシンジの肩に手をおいた。

 「シンジ君。どうやらアスカさんもとりあえずは大丈夫みたいだね。僕は消
えるよ。君やネルフの人達が僕を受け入れてくれるのなら、ここに君と葛城さ
んで来てくれ。毎日日暮れごろにはここにいるから。受け入れられなくても今
更サードインパクトを起こす気も無いよ。僕は人間として生きてみるつもりだ
し。シンジ君を苦しめたくないし。」

 そう言うとカオルは空へと消えた。泣きながらアスカを抱きしめていたシン
ジには止める暇も無かった。遠くからは聞き覚えのあるミサトの車のモーター
音が聞こえてきた。



              


つづく
ver.-1.00 1997-07/10 公開
ご意見・感想・誤字情報などは akagi-labo@NERV.TOまでお送り下さい!
 あとがき

 春の映画のポスターで、うずくまるアスカと裸身で手を広げるレイの姿があっ
たのに、映画には出てこない。それでこの話を書きました。レイが裸なのはドグ
マから直行の為です……。それにしてもまだアスカは狂ったまんまだしレイは危
ないし……………。
 題名と違って当分サッカーは出てきそうにもないです。なんせ皆を落ち着か
せて学校生活に復帰させないとそれどころじゃないですから。そうしたらU20辺
りから始まるかな?

 とにかくワールドカップ優勝への道のりはまだまだ遠いです。

 まっこうさんの『CinW.C. 優勝への長い道のり』その2、公開です。
 

 なんと、カヲル再登場!
 首とばされた彼がまさかの復活ですね(^^)

 「全員を幸せにする」まっこうさんの決意。
 死んだ人も救い出してしまいましたね。

 このペースで「全員の幸せ」を成就させて下さい(^^)
 ・・・たとえ夏映画がどうなろうとも(^^;
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 辛いノリだったEVAのラストを補完するまっこうさんに暖かいメールを!


TOP 】 / 【 めぞん 】 / [まっこう]の部屋に戻る