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めそアス外伝・頑張れEVAの仲間たち
キス
この話は「めそめそアスカちゃん6」のサイドストーリーです。先に向こうを読んでね。
その1
みんなこんにちは。僕洞木ノゾミ。第壱中の一年生だよ。自分で言うのもなんだけど美少女なんだ。だけどみんな僕の事を男の子みたいって言うんだよ。失礼だよね。確かに胸はぺっちゃんこだけど去年からブラジャーだってしてるんだよ。僕だっていつかはアスカお姉ちゃんやミサトおばさんみたいに胸が大きくなるもんね。
んでねぇ僕実は今……恋してるんだ。相手は……ケンスケお兄ちゃん。
そこ、なんで笑うんだ。え、なんであんな変人好きかって。
ひどいぞ人の想い人つかまえて。
でもね僕だって初めは変人って思ったんだ。お兄ちゃんには内緒だよ。始めて会ったのは去年の三月の末だったんだ。お兄ちゃんが引っ越して来たんだよ。きらきら光るメガネにいつも迷彩服着てカメラ持ってる変な奴と思ったよ。
いつもキョロキョロしてすぐパチパチと写真を撮ってて何かやだなぁと思ってたもん。だけどトウジお兄ちゃんとケンスケお兄ちゃんすぐ仲良しになったからよくヒカリお姉ちゃんは一緒にいたよ。
どっちにしてもずっと変な奴としか思ってなかったんだ。
でもね半年前偶然なんだけど学校の帰り道でケンスケお兄ちゃんに会っちゃったんだ。道の反対側を歩いていたんだよ。その時はどっちも一人だったんだ。ケンスケお兄ちゃんは僕の事気が付いていない様だったよ。ちょうどその時ちっちゃな野良猫が道に飛び出したんだ。まだこんな小さな子猫だよ。だけど車にはねられちゃったんだ。ちっちゃい体は丁度お兄ちゃんの目の前の道路に転がってきたんだよ。はねた車はそのまま逃げちゃったんだ。酷いよね。
お兄ちゃんそうしたらすぐ道に飛び出てその子猫を拾ったんだ。危うくお兄ちゃんまで車にはねられそうだったんだよ。ビービーとクラクション鳴らされていたよ。でも僕が遠くから見てもその子猫助かりそうに無かったんだ。だけどお兄ちゃん迷彩服のポケットからバンダナを取り出して一生懸命血止めをしてたんだ。
そのせいでお兄ちゃんの迷彩服や手は血だらけになったんだ。でもその子猫すぐに痙攣して死んじゃったんだ。僕道の反対から見ててもすごく悲しかったよ。お兄ちゃんもしばらくぼーっとその子猫見てたんだ。でも少し経った後歩き出したんだ。道を歩いていた人達は血だらけのお兄ちゃんを見て気味悪がっていたけど腕の中の死んだ子猫を見て納得してたみたい。
僕お兄ちゃんに見つからない様に道の反対側を追いかけていったんだ。するとお兄ちゃん公園に入っていったんだ。僕は急いで側の歩道橋を渡ったよ。公園の入り口からそっと中を覗いたら、お兄ちゃん小さなスコップで大きな木の根元に穴を掘っていたんだ。きっといつも持ち歩いているサバイバルツールなんだね。お兄ちゃん穴を掘り終えると子猫の血をバンダナできれいに拭いてあげたんだ。でもう一枚の新しいバンダナを取り出して子猫をくるんで穴の中に入れて埋めてあげたんだ。そしてしゃがんでずっと手を合わせていたんだよ。
しばらくするとお兄ちゃん立ちあがって公園の入り口の方へ来たんだ。僕慌てて隠れたよ。お兄ちゃんは気が付かないで行っちゃったんだ。僕少し迷ったけど木の側に行って子猫の為に祈ったんだ。
それからお兄ちゃんの事が気になりはじめたんだ。昔はキョロキョロしてしつこい視線だって思ってたけど、いつでも注意力が有って鷹の様に鋭い視線の様に思えたんだ。それに前は何でも写真に撮る閑人と思っていたけど、今は美しい物は逃さない優秀なカメラマンって思っているんだ。不思議だよね。同じ事をやっているのに昔と今ではこんなに違って思えるなんて。あ、昔の事はお兄ちゃんに言っちゃだめだよ。だけどこの時はまだよく判らなかったんだ。
で今度はレイお姉ちゃんが転校してきた頃の事なんだ。お兄ちゃんがレイお姉ちゃんの写真をトウジお兄ちゃんと一緒に売っているって話を聞いちゃったんだ。僕やばいと思ったよ。そんな事知れ渡ったら皆に嫌われちゃうって。でもその時僕不思議に思ったんだ。なんで僕お兄ちゃんの事を心配してるのかなぁって。僕一週間ぐらい悩んじゃった。僕いつもはご飯を二人前ぐらい食べるのに一人前ぐらいしか食べなかったから看護婦やってるコダマお姉ちゃんが心配してたみたい。
そしたら判ったんだ。僕ケンスケお兄ちゃんの事大好きなんだって。気付いた時は顔が燃えちゃうかと思うぐらい熱くなったよ。鏡見たら真っ赤かだったなぁ。でも不思議だったよ。まるで少女漫画みたいなんだもん。皆に迫害されているヒーローの秘密をたった一人だけ知ってるヒロインみたい。
それからは毎日いろいろな事考えちゃった。でも隠しどりの事忠告できなかったんだ。そんな事やっていると女の子に嫌われちゃうよって。だけどお兄ちゃんが嫌われて僕が慰めてあげればお兄ちゃんは僕一人のものなんて考えちゃって。僕って嫌な子だよね。
そしたらあの事件が起きたんだ。チャンスだと思ったんだ。仲直りさせてあげれば僕きっとケンスケお兄ちゃんと仲良くなれるって。でもねヒカリお姉ちゃんの様子見てたらそんな考えなくなっちゃった。すごく辛そうだったし悲しそうだったんだ。人を好きになるってこんなに大変な事なんだって思ったよ僕。
だからどうにかして仲直りさせてあげようと思ったんだ。でもお姉ちゃん達僕の助けなんか無くってもちゃんと仲直りしたんだ。僕かえって邪魔してトウジお兄ちゃんに怪我させちゃった。リツコおばさんがいなかったら顔に怪我残る所だったんだ。僕家に帰ってわんわん泣いちゃった。そしたら一番辛いはずのヒカリお姉ちゃんが慰めてくれたんだ。やっぱりお姉ちゃんは大人だなぁと思ったよ。
でもよかった。皆仲直りして。僕ケンスケお兄ちゃんのお弁当毎日作るようになったし。お姉ちゃんほど上手じゃないけどお兄ちゃん美味しいって食べてくれるんだ。優しいんだよ。
そうそうこの前ヒカリお姉ちゃんとトウジお兄ちゃんとケンスケお兄ちゃんと僕で遊園地行ったんだ。でもねヒカリお姉ちゃんが照れまくって全部の乗り物四人で乗ったんだよ。せっかく2X2で来たのにそれは無いよね。だけどとっても楽しかったよ。
でさぁ。とうとう昨日ケンスケお兄ちゃんと二人でデートだったの。二人で空母見に行っちゃった。空母の一般公開の日で甲板に乗れたんだよ。僕お兄ちゃんと二人で来たのと空母に乗るの初めてだから嬉しくって甲板を走り回っちゃったんだ。
それでしゃがんでビデオを撮っているお兄ちゃんのとこへ走っていったらお兄ちゃんの前で転んじゃったんだ。お兄ちゃん自慢のビデオを投げるように捨てて僕を支えてくれたんだよ。だけど支えきれなくて二人して甲板に倒れ込んじゃった。
そして
僕
お兄ちゃんと
キスしちゃったんだ
転んでキスしちゃうなんて漫画みたいだね。凄くびっくりしたよ。何が起きたか判らなかったもん。でもすぐに判って飛び起きちゃった。で思いっきり駆け出しちゃった。とにかく恥ずかしかったんだ。空母を降りてずっと走って息が続かなくなった所で道にぺたんと座り込んじゃった。とにかく頭の中は恥ずかしくって訳判らなかったんだ。
少し経ったらお兄ちゃんが追い付いて来たんだ。僕恥ずかしかったけど立ちあがったんだ。で僕言ったんだ。
「お兄ちゃんごめんなさい。お兄ちゃん頭は打たなかった。ビデオ大丈夫だった」
幸い大丈夫だったんだ。でね僕少しお兄ちゃんをからかってあげようと思ってこう言ったんだ。
「さっきの僕のファーストキスなんだよ。お兄ちゃん責任とってね」
て。でもファーストキスは本当。僕初めてだったんだもん。けどからかうつもりだったんだけどなぜだか涙が出て来て止まらなくなっちゃったんだ。僕がしくしく泣いていたらお兄ちゃんがどうすればいいのって言うんだ。お兄ちゃんも戸惑っていたみたいだったよ。だから僕こう言ったんだ。
「ちゃんとキスして」
って。お兄ちゃん少し戸惑っていたけどすぐに僕のあごに手をかけてキスしてくれたんだ。でもねお兄ちゃんも少し震えてたんだよ。その後少ししてから二人で帰ったんだ。でもその日は最後まで一言も話せなかったんだ。お兄ちゃんの顔恥ずかしくって見れなかったよ。お兄ちゃんも同じだったみたい。
明日学校で会ったら何話そうかなぁ。でも二人でまた何も話せないかも。そしたらお姉ちゃんにまた何か言われるのかなぁ。明日が楽しみだなぁ。さぁてとお姉ちゃんとお弁当の下ごしらえして寝ようっと。明日も早起きしてお弁当作らなきゃ……。
その2
「青桐三尉ご苦労様。あなたのレポート読んだわ。これなら泥尾夫妻にレイちゃんを預ける事が出来るわ」
「はい」
ナイはリツコの所長室で泥尾夫婦に関する調査報告書を提出していた。
「具体的な話は私が直接会って話す事にするつもりよ。これでレイちゃんも夜寂しい思いをしなくてすむわ」
「そうですね」
レイの下宿予定先のレポートは無事リツコの手に渡った。
「で今日からは別の任務に付いてもらうわ。ミサトには連絡ずみよ」
「はい」
「次は子供達のお手伝い」
「お手伝い……ですか」
「と言っても何だか判らないわね」
リツコはコーヒーをすする。二人は応接セットで向かい合って座っていた。ナイの前にもコーヒーカップがあった。
「こんどレイちゃん達の学校学園祭があるのよ」
「学園祭ですか。懐かしいなぁ」
「でもないんじゃないの。あなた若いんだし」
「えへへ、そうですね」
なんとなく恥ずかしそうにコーヒーを飲むナイである。
「で、その学園祭でレイちゃん達喫茶店やるのよ」
「レイちゃん達のウェイトレス姿可愛いでしょうね」
「マヤも同じ事言ってたわ」
「マヤ先輩もですか」
サーティーズ、マヤ、ナイは学校も先輩後輩の仲である。
「それで私の部屋のコーヒーメーカーと昔レイちゃん用に作ったパン焼き機やケーキメーカーや自動タコ焼き機を改良してそれを貸してあげる事にしたのよ」
「そうなんですか」
「そこで今回の任務なんだけど、レイちゃん達チルドレンが楽しい学校生活をおくれる為にこの装置を完璧に仕上げたいの」
「そうですよね。学園祭って一大イベントですからね」
「そうね。それでナイにはこの装置から出来るコーヒーやケーキの試飲と試食をして欲しいのよ」
「あ、何だか楽しそうな任務ですね」
「もちろん他の人にも試食はしてもらったけどこういう物はあまり他人数で試食すると味がぼけるのよ。だから最終的な調整はナイの舌に頼ろうと思うの」
「責任重大ですね」
「そうよ。お願いできるかしら」
「はい。喜んで。でもいいのかなぁこんな事仕事にして」
「ナイ……甘いわよ」
「へ……なんでですか」
リツコのメガネがキラリンと光ったのを見てナイは思わず引いてしまう。
「これから試食しなければいけない食べものの量はね……一日にケーキを100個タコ焼き50皿パフェ類を40個これだけあるのよ。それを四日間連続で。タコ焼きはシンイチがパフェ類はマヤが食べるけどケーキはあなたが一人でよ」
「ええええええええ」
「そのうえ各種コーヒーを20杯。はっきり言って人間の限界に近いわ」
「む、無理です。私まだ死にたくありません」
「大丈夫よ。強烈な消化薬……これは市販薬ね。それと私の特製の痩せ薬を出すから」
「え、リツコさんの痩せ薬……け、結構です。消化薬だけいただきます」
「そう。いいの。じゃ明日9時丁度に第一実験室に来てちょうだい」
「は、はい」
「では青桐三尉通常業務に戻って。それから明日は緩い服で来てちょうだい。私は計画を変更はしない人間だからね(にやり)」
「はい(ひえ〜〜)」
ナイは部屋を出た。このままでは美しい体のままマコトの元に行けないと思った。誰かにこの無理な試食を止めもらえる様頼もうと思った。誰にするか。西田博士……だめだ、完全に尻に敷かれてる。マヤ先輩、いろいろな意味でリツコ命である……だめ。だいたい赤木研究室の人は全部だめ。じゃミサト部長、決着が付かない……だめ、加持さん……頼むと後が怖い……だめ。マコトさん、くやしいけどリツコさんには歯がたたない……だめ。え〜〜とあれもう一人いたような……いいや。司令と副司令、頼みに行けない……だめ。子供達なら勝てるけどそれは出来ないし……え〜〜と誰かいない……あ、寮の大家さんならもしかしたら。
あわてて携帯を取り出すナイである。
「もしもし」
「もしもし神田ですが」
「大家さんこんばんわ。青桐です」
「ナイちゃんか。どうしたんだい」
「え〜〜と至急お願いが有りまして……実は私今度アスカちゃん達の学園祭……」
「あ聞いたよ。自分からケーキの試食係を買って出たんだって。子供達の為とは言え花の乙女が大変だよね。リツコさんから聞いたよ。がんばってね。で頼みはなんだい」
「いえ、あの結構です」
「そうかい。じゃ遅くならない様に頑張ってね」
「はい失礼します」
ナイは思った。リツコは役者が数枚上だと。ナイは観念した。とぼとぼと作戦立案室に向かった。
「ナイ甘いわよ。行動パターンはお見通しよ」
ネルフ内の全ての通信をモニター出来る装置の前でリツコがにやついた。
翌日ナイはあきらめてだぼたぼの上下ジーンズ姿で職場に現れた。直接実験室に行く。部屋は普段と違い物がほとんどなかった。あるのは調理機らしき機械とコーヒーメーカーと食器、これらのものが高校の理科の実験室みたいな部屋に置いてあるだけだった。だれもいなかった。
「もしかしたら中止かしら……」
甘いとは思いつつもナイは期待していた。しかし相手を間違えていた。リツコに計画変更は存在しなかった。
「お待たせ〜〜〜〜」
妙に嬉しそうな声を出してリツコが部屋に入って来た。新しい機械のお広めはマッドエンジニアにとって至福の時である。後ろにはありとあらゆる原料が積まれた台車を押した西田博士と紙のファイルと端末を抱えたマヤが入って来た。
「おはようございます」
「おはよう〜〜〜〜」
「博士機嫌いいですね」
「まあね。さっそく準備準備」
とリツコはいきなりポケットより注射器を取り出す。ナイに向かいにこりと微笑む。しかしナイはその微笑みで気絶しかかった。リツコに目の前で注射器を持ち出されて平然としているのはネルフでもシンイチとマヤぐらいであろう。
「な、何ですかその注射器は」
「試食の下準備よ。まあ簡単に言うとお腹いっぱいにならない薬」
「え……いいです……私胃が大丈夫がだからですからなんでだから」
もう恐怖で口がうまく回らないナイである。立ちあがってじりじりと後退する。
どん
何かに背中が当たった。何かががっちりと肩を押さえる。
「ナイちゃん別に怖くないよ。安全な薬だから」
「に西田博士放してください」
ニタリ
シンイチはにたついた。
ひえ〜〜
ナイの喉から悲鳴が漏れた。
「そうよナイ。先輩を信じなさいよ」
ニタリ
マヤが横でにやついた。
ひえ〜〜
「そうよナイちゃん。悪い様にはしないから」
ニタリ
リツコが注射器片手に迫ってきた。
ひえ〜〜
きゅ〜〜
ナイは気絶した。
「ナイ起きて。後30分で最初のケーキが焼きあがるわ」
がば
リツコの声で目が覚める。ナイは思った。これは夢よね。きっと私注射なんかされてないのね。
がやっぱり実験室であった。机の端には注射器が転がっていた。
「マコトさん汚されちゃったよぉ〜〜」
と違うキャラの台詞を呟くナイ。視線がどっかに行きかけている。
「何ぶつぶつ言っているの。20分以内にこのコーヒーとケーキについてのアンケートを記入するのよ」
「ぶつぶつぶつぶつ」
「ナイいつまでもそうやってると…………改造よ」
ぼそっとリツコが言う。
「かいぞう…………か改造……いやぁ〜〜。ひぇぇぇぇぇぇぇ。は、はいすぐ書きます」
改造という言葉で正気に戻るナイ。ネルフでリツコの改造とミサトの飲み代ぐらい恐ろしいものはない。
「いい子ねナイ」
と微笑みかけるリツコ。ナイは恐怖で震えあがりながらアンケートを書く。
「で今後のスケジュールだけど10:00から30分毎に10個ずつのケーキが出るわ。全て食べて残り時間でアンケートを即記入。これをくりかえすのよ。いい事全部食べなさい。残したらお仕置きよ」
「残しません、絶対に残しません」
ナイ慌てて言う。リツコにお仕置きと言われて逆らえる人間はいない。
「で次の一時間はコーヒーを20杯……これは簡単よ。小さいカップだから。それでやっぱりアンケート。次はやはり一時間でケーキ20個を試食。そこで一時間休憩後、三時間で計60個のケーキを試食。これで一日のスケジュールはお終い」
「鬼、悪魔、年増……」
小声で呟くナイ。
「あらナイちゃん何か言ったかな」
「な、何も言ってません」
「私、鬼や悪魔はよく対立組織の人間に言われてるから慣れてるのよね〜〜。ただ年増って言った人間って……不思議なのよね、この世から消えてるの、跡形もなく。戸籍なんかもなくなっちゃって、もともと存在しなかった事になってたりするのよねぇ〜〜。ほんと不思議だわ」
にこり
リツコがナイに微笑んだ。ナイは恐怖で失神寸前である。それでも震える手でアンケートを終わらす。
「あらアンケート終わった様ね。じゃあ始めましょうか。ナイちょっとからかい過ぎた様ね。ごめんなさい。あれは冗談よ。改造したり悪口一つでこの世からいなくなったりする訳ないじゃない」
「そ、そうですよね」
うふふふふふふ
リツコの優しい微笑みでやっと落着いたナイである。
「最近はね……」
ぼそっと言うリツコ。再び凍りつくナイであった。
「冗談よ。ほんと可愛い子なんだから。さてと丁度十時ね。ちゃんと出来ているかしら」
リツコはいかにも怪しい機械に近付く。ナイは機械を見る。ふと気が付くと部屋の端では、マヤがパフェを、シンイチがタコ焼きを食べながらアンケートを書いている。
「リ、リツコさんさっきのほんとに冗談ですよね」
「当然よ。ミサトがねナイってからかうと凄く可愛いって言うから、シンイチとマヤと一緒にからかったのよ」
「そうですよね。よかったほんとに改造されるかと思った」
「私だってそんな事はしないわよ。昔瀕死の重傷を負った諜報部の部員をサイボーグにして助けた事はあるけどね。今度佐門に変わってレイちゃんのガードになった小林ソウなんかがそうね」
「へぇ〜〜そうなんですか。佐門さんはどうしちゃったんですか」
「彼は第壱中近くでのガードに変わったわ。学園祭に備えてね」
「そうなんですか。知らなかった」
「あら保安部怠慢ね。ナイに教えなきゃいけないのに」
ち〜〜ん
その時機械が音を発した。それにしても変な形だ。何故調理の機械にいっぱい電球がついていたり、紙テープがはき出されたりするのかナイには判らなかった。
「あのぉ〜〜その電球や紙テープって何なんでしょうか」
「趣味よ」
「趣味」
「そう趣味。機械はこうでなければいけないの」
にやり
ナイはそれ以上聞く事に恐怖を感じた。リツコが機械のボタンを操作すると機械の下部からトレイが出てきた。部屋にいい香りが広がる。
「美味しそうですね」
「うまくいっているようね」
さっきまで怖がっていたナイであったが甘いものには弱いらしくコロっと機嫌が良くなった。トレイには皿に乗ったいろいろな種類のケーキが10個並んでいる。
「凄いですね。いっぺんに色々な種類のケーキが出来るなんて」
「そうそれも工夫した所よ。こうすれば売れ残りにくいでしょ。それにどんなケーキでも10分で完成するわ」
「ほんとですか、さすがぁ〜〜。ショートケーキ、マロングラッセ。ちゃんともう温度も下がっているわ。チーズケーキ、ワインケーキ、シュークリーム、あれ、これ何ですか」
ナイが細長いギョウザ型のケーキを指す。ふと嫌な予感がした。それに少し嫌な匂いがするような気がした。
「これね。バナナを半分に切ってスポンジケーキで包んだのよ。簡単だけど美味しそうでしょ」
ナイの顔色が変わった。ナイはバナナが苦手だった。匂いをかぐのも嫌なぐらいだ。
「バナナ……あうう……あのぉ」
「なあに」
「私バナナだめなんです」
「そう。で」
「残しても……」
「残すつもり。私の機械の作品を……」
にやり
リツコが微笑む。ナイはリツコのにやりとバナナを秤にかけた。
「……いいえ。食べます」
「そう。いい子ね。じゃお願い」
こうしてナイは試食を始めた。
食べはじめてみると、さすがに美味しかった。
「うわ〜〜このシュークリーム美味しい〜〜」
ほくほく顔のナイである。
「ほらナイ、アンケートもちゃんと書いてよ」
「はいもちろんです。こうなったらどんどん引き受けます〜〜」
「現金な子ね」
リツコも苦笑いである。
「あのぉ〜〜」
「なあに」
「一割増しで試食しますから……バナナは……」
「食べたくないと言う訳……」
リツコがナイをじっと見る。ナイは麻酔無しで解剖される小動物の気持ちが判った。
「しょうがないわね。それは私が試食するわ」
「は、はい」
ほっとするナイである。
「じゃ頑張ってね」
リツコはマヤの元に向かった。
その後ナイはケーキとコーヒーを食べ飲み続けた。不思議にお腹がいっぱいにならない。あの薬も結構いいもんだとナイは思った。意外とあっさりその日の試食は終了した。
「ナイご苦労様。はいこれ消化薬よ」
「リツコさん、このケーキとコーヒーなら子供達の喫茶店うまくいきますね」
「そうだといいわね」
「それと朝の注射、結構使えますね。錠剤にして売り出したら宴会用に皆買いますね」
「そうね。ただ健康には悪そうね。ところで本当に痩せ薬いらないの」
「い……いいです。これでも太らない体質ですから」
やはりリツコの薬の複数投与は避けたいナイであった。
「じゃ今日は帰っていいわ」
「はい失礼します。よっこいしょ。さすがに胃が重いです」
「明日も同じ時間にね。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「あらナイどうしたの。目真っ赤にして」
「昨日のコーヒーのせいでほとんど眠れなかったんです」
「ふぅ〜〜〜〜ん。じゃあ今日はコーヒーの試飲は無しでそのぶんケーキを増やしましょう」
「はい」
睡眠不足のせいでぼへ〜〜としているナイはなんとなくそう答えた。その日も試食が始まった。
そして次の日も同じく試食が行われた。最終日の試食は金曜日の16:00に終った。パフェとタコ焼きの試食は前日に終っていた。
「ナイご苦労様。おかげで自信のもてる仕上がりになったわ」
「初め苦しかったけどなんか途中で慣れてきちゃいました」
「ところで本当に痩せ薬要らないの」
「い、いえ結構です」
やはりリツコの薬は怖い。ただ満腹防止薬は貰らってもいいかなぁと思うナイである。
「じゃあ今日はもういいわ。それと今回はきつい任務だったから特別にボーナスが出るってミサトが言ってたわ」
「本当ですか。うれしぃ。欲しいイヤリングあるんです」
「よかったじゃない」
「じゃあリツコさん失礼します」
どたどたどたどた
ナイはスキップするように部屋を出ていった。
「あの子大丈夫かしら」
「ミサト部長、マコト先輩お久しぶりでぇ〜〜す」
「あらナイちゃん終ったの」
ナイが作戦部作戦立案室に行くとミサトとマコトが談笑していた。
「それでどうだったんだい」
「ばっちりですマコト先輩。これでシンジ君達の喫茶店うまくいきます」
「それは良かったじゃない。ナイを貸した甲斐があったわ」
「ほんとだ。ところでナイちゃんなんか久しぶりのせいか違って見えるよね。髪型変えた」
「いいえ。だぼだぼのジーンズルックだからじゃないですか」
「なんとなく……そうだなぁ〜〜そう、グラマーになった感じ」
「グラマーだなんて……ぽっ……そんな……えっグラマー」
急にナイの顔色が固まる。
「どうしたんだい」
「あ、すいません、ちょっと失礼します」
ナイはどたばたと部屋を出ていった。
「どうしちゃったんですかね、ナイちゃん」
「さぁ、日向君が誉めたから照れ隠しじゃない」
この二人のんきで楽観的である。
「す、すいません」
「あらどうしたの青桐さん」
ここは医療部の健康相談室である。結構どじでよく転ぶナイはすり傷で度々お世話になっている。中には女医が一人いるだけだった。
「メ、メジャーと体重計貸してください」
そこらじゅうに轟くような大声を出すナイである。たまたま他に人はいない。
「体重計はそこにあるけど。メジャーは……はい」
女医は机の中のメジャーを渡す。
ナイは恐る恐る体重計に乗る。
「!?△▽◇■★※」
さっと飛び退く。
「こ、これは……そ、そうよダボタボのジーンズルックは重いのよ……」
そう言うや否やぽんぽんと上半身下着姿になりウエストを計る。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ナイの表情が固まった。
「ウ、ウエストが○cmもぉ〜〜〜〜」
目がいっちゃっているナイ。ふらふらと部屋を出て行こうとする。
「ナイちゃん、服着て服」
慌てて女医がナイを捕まえる。
「ホヘ?」
やっぱりいっちゃってる。
「あらナイどうしたの」
赤木実験室にナイがふらふらと入って来た。
「リツコさぁ〜〜〜〜ん」
地獄の底から響いてくるような低音である。さすがのリツコも引いたぐらいだ。
「やせぐすりぃ〜〜〜〜」
「あれ要らないんじゃなかったたの」
「ウェストがぁ……○センチも太くなっているんですぅ〜〜」
どよぉ〜〜〜〜んと湿度を一気に二〜三十%上げそうな声である。漫画なら顔に縦線が入る所だ。
「そういう事。じゃあ処方してあげるわ。ついでにミサトと交渉してダイエット休暇取れるようにしてあげる」
「リツコさん……うううう……リツコさんは乙女の味方ですぅ」
うまい具合に丸め込まれるナイである。元はと言えば試食が原因である。
「もしもしミサト……ナイなんだけど休暇あげてくれない。……ダイエット休暇よ。ほら試食でウェストが○センチも太ったんだって。……そうそうなのよ。……そう……一週間いいのね……太っ腹じゃない。じゃ伝えとくわ」
リツコは電話を置く。
「休暇いいそうよ。一週間もくれたわ。ネルフのトレーニングセンターも使い放題よ」
「うるうる。ありがとうございます」
「じゃ早速薬ね。これは新陳代謝を活発にして脂肪の蓄積を防ぐ薬よ。副作用としては一時的な新陳代謝の異常増加。これの例として筋力が出過ぎて疲れてしまうなんていう事があるわね。まあこれは処方を守れば大丈夫よ」
「はい」
ごそごそリツコは薬棚から瓶を持ってくる。中にはカプセルが入っている。
「これを一日一錠寝る前に飲んでね」
「判りました」
「今日はすぐ帰ってこれを今日だけは2錠飲んですぐ寝なさい。薬に体を慣らすためよ」
「はい」
「まぁ1週間もすれば元どおりよ」
「はい。判りました。それでは早速失礼します」
「頑張ってね」
「はい」
どたどたどたどた
ナイは走って部屋を出て行った。
「大丈夫かしら。あの子マヤ以上だからねぇ〜〜」
凄い評価をされている。
それはともかく翌日からナイの涙ぐましいダイエットが始まった。一日中トレーニングセンターで運動をしまくる。しかも昼の時間は避けている。マコトが空手の練習に来るからだ。聞くも涙の乙女心である。しかしそれは五日目の水曜日に起こった。
「マコト先輩、一手ご指南願います」
「いいよ。ナイちゃん。なんか久しぶりだね。あれ頬がげっそりしてるよ。大丈夫かい」
「はい。今までが太ってたんです」
「そうかい。じゃあどこからでも掛かってきなさい」
「はい」
やっとウェストが元どおりになりナイスバァディに戻ったナイは、マコトの練習時間を狙いトレーニングセンターに現れた。マコトは道着で自然体、ナイは卸たてのピンクジャージで狼拳の構えである。
三メートルの距離で相対する。ナイ軽く踏み込んだ。
が、自分でも信じられない速度でマコトの懐まで飛び込んでしまった。
ごつん
きゅ〜〜
ナイは気絶した。
「ふぇぇ」
「気が付いた様ねナイ」
「私どうした……あ、先輩と練習中に先輩の顔が迫ってきて……あれ」
「ナイが日向君と衝突して気絶したのよ」
「そうなんですか」
「直接の原因はね」
ナイはリツコの所長室の仮眠用ベッドに寝かされているらしい。周りには猫グッツが多い。
「直接ですか」
「そう。でも元はと言えば私のせいね」
「リツコさんの」
ナイは訳が判らない様だ。
「あなたご飯食べないでしかもあの薬2錠ずつ毎日飲んでたでしょう」
「え……なんで判るんですか」
「血液検査したのよ、念の為。そしたら一発よ。あなた体重は元に戻ってまったくの空腹でしかも新陳代謝が異常に加速してたの。だから体重に比較して筋力が出過ぎてごっつんこ。だめじゃないの指示通りに薬は使わなきゃ。あのままだと何もしなくても倒れる所だったわよ。念の為栄養剤注射しておいたからだいじょうぶだけど」
「リツコさんごめんなさい」
「まあ、元はと言えば私が悪いのだからお説教できないわ。代わりに別の人に叱ってもらうわ」
リツコはそう言うと部屋を出て行ってしまった。
「やあ」
代わりにマコトが入って来た。
「せ先輩」
「無理してダイエットしてたんだってだめだよ。健康第一だよ」
「え、あ、はい」
「リツコさんが俺からよく言っていてくれって」
「はい」
「ナイちゃんは十分魅力的なんだし」
「は……はい」
「無理せず自然に一所懸命めげずに頑張る、これがナイちゃんだろ。特に最近はチルドレンの世話なんていう重要な仕事に付いたんだからね」
「はい」
日向はチルドレンの秘密は知らない。それでもナイには嬉しかった。
「それよりさっきはすまなかった。避けきれなかった」
「私こそごめんなさい。おでこぶつけて」
「あれ、覚えてないの」
「え、何がですか」
「いやいいんだ」
「な……なんですか。教えてください」
「別にいいだろ」
「気になります……教えてください」
「……ええと。じゃあ、さっきはおでこぶつけてナイちゃん気絶した後思いっきりディープキッスした形になってしまって…………」
「!!!!」
「しかも俺も少しぼーっとなったから思いっきり抱きしめてたんだよ」
「!!!!」
「すまん。皆の前で恥かかして」
マコトは手を合わせる。
ガビーン
ナイの顔にはそう書いてある。
「う……うう……ううう……うううう……うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。先輩とのファーストキッス覚えてないなんてぇぇぇぇぇぇぇぇうわわわわわわわわわわわわわわわわわん」
アスカなみの泣き方である。
「あナイちゃんごめん泣きやんで……」
ナイは止まらない。
「うわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわん。びええええええええええええええええええん」
その後20分も泣かれてさすがにマコトもいらだって来た。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜ウルサイ。じゃあこれでどうだ」
がば
「うわわわわわわわわわわ……むぐぐぐぐ…………あん…………」
「予想通りの展開ね、ミサト」
「そうねリツコ」
「日向君もやるぅ〜〜」
「マコトやったな」
「男はそうでないとな」
「次はプロポーズの場面の観察だね」
ディープキッスをしている二人をモニターで見ながら盛りあがる赤木研究所所員とミサト達であった。
つづくかもね
あとがき
で「めそアス」「あるレイ」の外伝です。本当はめぞんEVA 100万HIT記念で出すつもりでした。で間に合わなくなったので外伝となりました。その証拠に大家さんのキスねたがありません。
内容はお約束通りキスの話です。ラブコメのキスは
1.偶然でなければいけない
2.少しどじでなければいけない
3.しかも必然性も欲しい
4.女の子が主役である
という訳の判らない信念で書いてみました。アスカちゃんレイちゃんのキスはいつの事やら……
合言葉は「全てのキャラに幸せを」
ではまた
まっこうさんの『めそめそアスカちゃん』外伝、公開です。
みんなが幸せになる「まっこうワールド」♪
EVAキャラだけでなく、
オリキャラもね。
ケンスケとキスしたノゾミちゃんは不幸?
誰だ、そんな事を言っているのは!(笑)(爆)
めそアスのけんすけ君はかなりイケテルぞ、
ノゾミちゃんは見る目あるよね(^^)
ナイさんも、
美味しい物いっぱい食べれて、
ダイエットもできて、 元に戻っただけか・・(^^;
マコトさんと−−
マコトとキスしたノゾミちゃんは不幸?
誰だ、そんな事を(以下同文)
みんな楽しげで良いよね〜
さあ、訪問者の皆さん。
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