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めそアス外伝・頑張れEVAの仲間たち

他部門




 この話は「めそアスワールド」のサイドストーリーです。







 その1 こちら第三課




 「じゃウィスキー課長頼んだわよ」




 リツコは火器担当第三課専用作業場から出ていく。




 「すまないね。一週間の納期短縮よろしく頼むよ」
 「西田博士行くわよ」




 西田博士も後ろをついて行った。




 「相変わらずあそこの夫婦はかかあ天下ですね。ウィスキー課長」
 「おいおい、そんな事赤木博士に聞かれたら大変だぞ。ネルフでは私と西田博士は他人です、とか言って睨まれるぞ。悪くすると人体改造手術だぜ」
 「そうですね。でもその割には結構いちゃついてますよ」
 「まあな」




 彼等は第三課課長のザクレロリ・ウィスキー課長とその部下の主任である。ウィスキー課長は父がロシア人、母がロシア人と日本人とのハーフであるが日本人である祖母の血が濃いらしく日本人にしか見えない。名前も仕事上の名前だと思われる時が有る。




 「それにしてもまた納期短縮ですか。だいたい上の方は納期短縮しろと命令さえすればどうにか成ると思ってるんですかね」
 「まあな。技術者なんてノルマをきつくすればするほどよく働くと思ってるんだよ」
 「そうですね。赤木博士はどちらかというと科学者ですから要求がきついですね。西田博士はどちらかというと現場の人間だからああいう役割分担なんでしょうね」
 「そうだな。西田博士だと納期緩く設定しそうだからな」
 「納期といえばあの時を思い出しますね。ポジトロンライフルの時を……」
 「ああそうだな……」












 「第三課の意地に掛けても三時間で形にしてみせますよ」




 ザクレロリはそう答えると電話を切った。




 「課長三時間じゃ無理っすよ〜〜」




 課の第一主任が言う。




 「バカヤロー、少しは真面目に考えろ。いいかこいつを組み立てた後、現場に運搬、調整、試験そんだけあるんだぞ。あと三時間がリミットだ。こいつを組み立てないと子供達を丸腰で戦場へ出す事になるんだぞ」




 ザクレロリの声が大きくなる。作業中の課員達にも聞こえてくる。




 「いいか技術ってのはな、技術者ってのはな夢と未来を作る為にあるんだ。本当はこんな兵器を作る為にあるもんじゃねえ。これは悪魔の仕事だ。だがな使徒を倒さにゃ子供達の未来はねえんだ。だからよ俺は悪魔にだろうが魔物にだろうがなるぞ」




 ザクレロリの声は既に作業場いっぱいに響いていた。




 「いいかおめえら。俺達は神の使いと戦う為の兵器を作ってるんだ。最後にゃ地獄行きだ。ただなその代わりよ子供達が助かるんだ。これ以上の事はねえだろうが。いいかてめえら。死ぬ気で納期を守るんだ。いや、死ね。納期を守る為死ね。そんで又物作る為生き返ってこい。それが技術者魂だぁ」




 言う事は目茶句茶だが言葉は課員達の魂に響いた。




 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ




 作業場は課員達の雄叫びで満たされた。




 「課長……最高っす」
 「うだうだ言う前に手を動かせってんだ」
 「がってんだ親分」




 ちなみにザクレロリの祖母はちゃきちゃきの江戸っ子、部下の第一主任も親がそうである。おかげで興奮するといつも漫才になる。
 ザクレロリは五メートルもある作業台から身軽に飛び降りると作業の指示に向かう。主任もそれに続いた。












 ガラガラガラガラ




 「課長危ない」




 ザクレロリがしゃがんで作業をしている時だった。側に積んであった鋼材が突然崩れた。




 どん




 ザクレロリは誰かに跳ね飛ばされた。




 「関ぃ〜〜」




 新人の関だった。うつ伏せの彼の背中には大きな鋼材が乗っていた。彼は口から血を吐いていた。助かりそうに無かった。




 「宮村、医療部に連絡しろ。みんな手を貸せ」




 側に居る部下が集まってきた。皆で鋼材をそっとどける。




 「関しっかりしろ」
 「課長……だめです……わかります……」




 徐々に声が小さくなる。




 「課長……頼みます……子供達に……こいつを……子供達が……生き残るために……作ってやって……済みません……役にたてな……」
 「関ぃしっかりしろ」




 関は気を失う。ザクレロリは脈をとる。まだ微かだか有る。そこへ医療部の救急部隊がカートで医療カプセルを運んで来た。




 「そこを退いてください」




 課員を押し退け看護士と医師が怪我人に駆け寄る。素早く状況を見ると怪我人をカプセルに入れた。蓋を閉じる。




 「関は大丈夫ですか」
 「非常に危険な状態です。すぐ運びます退いてください」




 救急部隊はカートと共に去って行った。




 「課長……」
 「てめえら仕事だ」
 「関は……」
 「うるせえ。関の台詞を聞いたか。子供達にこれをだとよ。泣かせるじゃねえか。てめえら関の事を本当に心配するなら納期より早く仕上げて見舞いに行ってやれ。そうすりゃ奴も絶対死なん。俺が保証してやらぁ。やろうども判ったか」




 お〜〜〜〜




 また雄叫びがあがった












 ぼん




 とつぜん作業場で轟音が轟いた。




 「どうしたぁ」
 「課長レーザー切断機がオーバーヒートです。壊れちゃいました」




 つなぎ姿の女性が叫ぶ。




 「ばかやろぉぉぉぉ。てめえは切断機も扱えないのか。早く他の切断機で作業を続けろ」
 「課長ぉぉ今他の切断機は定期点検中で一台しかないんですぅぅぅ」
 「あほったれぇぇぇぇぇ。なんで道具は正、副、予備の三つ用意しておかないんだ」
 「予算がないんすよぉぉぉぉ」




 怒鳴りあいである。




 「しかたねえ。どれを切断すればいいんだ」
 「その鋼管です。チタン鋼の厚さ一センチですぅ」




 ザクレロリが走ってくる。長さ二十メートル、直径一メートル程の鋼管が壊れたレーザー切断機の側に転がっている。それには斜めに線が書かれ途中まで切断されていた。




 「どれ。……そうか」




 ザクレロリは周囲を見渡す。側にピアノ線の束が落ちているのを見つける。ピアノ線の束から二メートル程切り取る。




 「おまえら下がってろ」




 課員達は離れた。




 「主任、課長は何しようとしてるんですか」
 「そうかお前は見た事無かったんだな。今課長の秘技が見れるぞ」




 ザクレロリはピアノ線を右掌に一回だけ巻きつけ、後は伸ばして自然に這わせた。微妙に右手首を震わす。すると何故かピアノ線が徐々にまっすぐになってくる。右手を上げるとまるで細身の剣の様に見える。頭上まで手を上げる。そのピアノ線の剣も天頂に向かって立つ。




 「鋼線破斬!!」




 ピアノ線は振り降ろされた。




 シュン




 次の瞬間にはもうピアノ線はザクレロリの手元で束になっていた。




 「ほえ?主任どうしたんですか?」
 「おめえ鈍いな。ちょっと手伝え」




 主任と新人はチタン鋼管に近寄る。




 「ほえ〜〜切れてる。しかもケガキ線の通りに……」
 「課長の特技だよ。ネルフで課長になるにはあれぐらい出来ないと駄目なんだ。課長の先祖はロシア正教に悪魔呼ばわりされた妖術使いの家系だそうだ。あれは代々伝わる秘技の一つだってさ」
 「すご〜〜〜〜い。何かカッコイイ」
 「てめえら何ぼけっと話してる。早くそれ退けて次切るもの運んで来い」
 「はい。……きゃぁ課長手が血だらけぇ」




 ザクレロリの右手からは血が滴っていた。新人は駆け寄るとすぐ自分の子猫柄のハンカチでザクレロリの手を拭おうとする。しかしザクレロリは手を拭かせなかった。




 「サクラちゃんいいんだ。この技は必ず皮膚の表面を傷つける。その代わりによけい切れ味が増すんだ。さあ早く次の用意だ」
 「は、はい」




 新人は気迫に押されて言った。主任の元に戻る。




 「主任クレーン用意します」
 「おう頼む」
 「主任……課長ってかっこいい……」




 新人は内股で走っていった。




  「サクラちゃん大丈夫かなぁ……課長女癖悪いからなぁ……」












 「サクラちゃんとはどうなってるんですか」
 「遊んでやってるよ。さすがにあの子は若すぎるから丁寧にね」
 「何が丁寧なんだか……また前みたいに私にとばっちりが来るのはまっぴらですよ。課長はほんと手が早いから」
 「よく言われるよ。加持とためを張ってるって」
 「加持さんは女の子に夢も与えてるけど課長はただ女癖が悪いだけです」
 「おめえそこまで言うか……そういや関はどうだった。昨日見舞いに行って来たんだろ」
 「赤木博士のサイボーグ化手術から一ヶ月ですからね。最近はリハビリも進んでずいぶん歩けるようになってましたよ」
 「そうか。そりゃよかった。それにしてもあん時は予定より30分も早く上がったよな。一人工数が減ったくせに30分か。やっぱてめえら普段サボってやがるな」
 「そりゃないっすよ。だいたいあん時だって課長が葛城作戦部長に見栄張るから……。課長巨乳好きなんすか」
 「ばかやろ。だれがあんな垂乳。俺は赤木所長のペチャパイが好きなんだよ」
 「垂乳で悪かったわね」
 「いい度胸ねペチャパイとは」




 ぎく




 ぎぎぎと音が出るようにぎこちなくザクレロリとその手下は後ろを振返る。そこには鉄も溶けそうなオーラを背負ったミサトと大気さえ凍りつかせるような冷気をはらんだリツコが微笑んでいた。見事なぐらい優しさを感じさせない微笑みだった。




 ひっ




 ザクレロリとその部下は腰を抜かして座り込む。




 「ミサトと相談して納期緩めてあげようかと思って来たらこれだわ。ミサトどうする」
 「そうね。私がぼこぼこにした後改造なんてどう」
 「いいわね」




 ぽきぽきぽきぽき




 ミサトが手の指を鳴らす。




 しゅっしゅっ




 リツコがメスの素振りをする。




 ひえ〜〜〜〜




 作業場に悲鳴が響いた。
















 その2 ウグイス嬢の昼休み




 「お待たせカルカちゃん」
 「遅ぉ〜〜い。青葉君どこ行ってたの」
 「副司令にお説教食らってたんだよ。ちょっと雑用が遅れててね」
 「ふぅ〜〜ん」




 ここは作戦部計画立案室……ようするにミサト達の部屋……の横の休憩室だ。司令室直属オペレーターのシゲルは普段部下と作戦部に間借りしている。非戦闘時ここではミサトの指示に従う事になっている。




 「でお弁当は。今日シゲルの番だよね」
 「ごめん。昨日家に帰ってちょっと仮眠しようと思ったら朝になっちゃって、しかもぎりぎりだったから作れなかったんだ」




 シゲルは手を合わせる。




 「またぁ〜〜。もう」




 シゲルの横で可愛く頬を膨らませているのはB級職員の飛羽カルカだ。彼女はアナウンス室に勤務している。アナウンス室は彼女を含めてアナウンサー男女10人ずつの小さな部署だ。彼女は立案室に入室できないが隣の休憩室には入ることが出来る。




 「今日は食堂で何でもおごるからさぁ」
 「そう、じゃあ許してあげる。早く行こう」




 カルカはシゲルの手を掴むとスキップするように廊下に出た。シゲルはついていく。




 「カルカちゃん仕事は慣れた?」
 「うん。だってMAGIから送られてくるメッセージがディスプレイに出るのを読み上げるだけだもん」
 「そうだったね」
 「でも一つどうしても不思議なの。MAGIって凄く高性能なコンピューターでしょ。人間の声なんて簡単に合成できると思うんだけど」
 「それはね副司令の考えらしいよ。一つはこの前みたいに電気が止まった時や回線故障の時は走って伝令や運搬をする為。一つはアナウンスぐらい人間がやってもいいんじゃないかという事」
 「初めの方は知ってるわ。三日に一度は一日中体力トレーニングと梱包とかの練習だわ。本部の構成とか覚えさせられたもん。だからアナウンス室ってみんなC級職員以上なのよね。でも後の方は知らなかったわ。冬月お爺さんらしいわ」
 「そうだね」
 「でも私だけB級職員なのよね。他の人と同じ仕事やっているのに給料高くってなんか悪いわ」
 「まあ君の場合僕たちが実際作戦でオペレートしたりするところを見てるからね。口止め代わりのB級職員と言うところがあるね。B級以上は秘守義務が違うからね。なんせ銃殺もありえるから。だいたい君の事半ば強引にネルフに入れたしね」
 「うんそうね。あの時作戦の指揮見ちゃった後ここに軟禁されたもの。私もうこのままの姿で帰れないと思ったわ。ネルフの噂って言ったら秘密を見たら即射殺とか人体実験の材料になるとかそんな物ばっかり。それで解放されてから三日後にシゲル君から電話でしょ。私びくびくしながら電話に出たらデートの誘いだもん。思わず笑っちゃった」
 「あん時は笑われてこりゃ駄目だと思ったよ」




 二人は歩きながら食堂に向かう。昼飯時なので同じように食堂に向かう姿も多い。




 「だってシゲル君なんかおどおどしてたもん。そしたらなんか可愛く思えてついOKしちゃった」
 「可愛いって言われたの初めてだなぁ」
 「その後もこれでもかっていうぐらいデートしたでしょ。なんか押しきられたって感じだったわ」
 「おかげで有給残って無いよ俺」
 「いいじゃない。ここで会えるし。でもね初めての夜から十日後にシゲル君が訪ねて来たのはびっくりしたわ。いきなりネルフに入らない?って言うんですもの」
 「そうだね。確かに驚くよな」
 「しかも機密保持の為にネルフに入って何て言うんですもの。シゲル君説明下手過ぎよ」
 「そうだったね」
 「私笑いが込み上げて来ちゃったわ。騙されたんだ、初めからこんな事考えて口説かれたんだって。あの時は笑いが止まらなかった。悲しいんだかおかしいんだか判らなくって」
 「……」
 「その後も壊れたS−DVDの様に機密保持の為って繰り返すからますますそう思って笑いが止まらなかった」
 「ああそうだね」
 「そしたらシゲル君ポケットから小型拳銃出すんだもん。とうとう私秘密の為に殺されるのかと思ったわ。そしたら余計笑えてきて涙が出るほど笑えてきて、あの時は怖いのか悲しいのかおかしいのか判らなかった」
 「その……」
 「そしたらその拳銃私に握らせて信用できなかったら撃っていいよなんて言うんですもん。ますます訳判らなくて。これ本物かなぁと思って畳に向かって引金引いたら弾出るんだもん。びっくりと言うより呆れたわ」
 「あの時は俺も何をしていいか混乱してたんだよ。なんせカルカちゃんを失いたくなかったから……」
 「あのね、だからって素人の私に拳銃渡す人いる?めちゃくちゃよね」
 「その……」
 「私怖くなったわ。でとにかくシゲル君部屋から追い出したのよ」




 廊下には知った顔も時々見える。二人の会話を邪魔せず通り過ぎる。




 「そしたら今度はすぐにミサトさんが入ってきて、ネルフの作戦を見た人物は機密保持の為もあるが、その身柄の安全の為にもネルフへの入所を薦めているって言うのよね。素人でネルフの作戦を身近で見た人が一番敵対組織にとっては目標として狙いやすいって」
 「俺もそれを言いたかったんだよ」
 「あれで〜〜。あれじゃ誤解しない方がおかしいわよ。あの拳銃も身を守る為に貸し与えられる物だってミサトさんがちゃんと説明してくれたおかげでやっと判ったわ」
 「……」
 「ミサトさんって優しいわよね。説得手間どるだろうからって休みの日なのにつきあってくれたんでしょ」
 「そうだよ」
 「部下もいっぱいいるのに。人気が有るの判るわ」
 「そうだね。あれで酒そんなに呑まないで料理と家事が出来れば恋人にしたい人NO.1だよね」
 「あ〜〜ひど〜〜い。私が一番じゃないの」
 「ごめんごめん。だけとミサトさんが酒そんなに呑まないで料理と家事が出来るというのはありえないし……」
 「それもそうね」




 酷い言われ様である。なんだかんだ話しているうち二人は食堂に着いた。












 「副司令今日はお弁当なのでありますか」
 「可愛いお弁当箱ですね」




 冬月はシゲルにとっては怖い上司だがカルカにとっては優しそうなお爺さんなのであろう。
 二人がランチのトレイを持って空き机を捜しているとぽかんと空きスペースがあった。そこに行ってみると冬月がお弁当を食べていた。今更他の場所に行く訳にもいかず二人は冬月に面と向かって席を取った。




 「アスカちゃんが作ってくれたのだよ。いろいろな人に食べてもらい感想が欲しいらしい。それで年寄りなら舌が確かだろうと私の所に来たのだよ」
 「司令は一緒ではないのですか」




 のほほんとカルカが聞く。




 「碇はレイちゃんが作ってくれた弁当をにやつきながら食っているよ」
 「にやつきながら……」




 シゲルもカルカも思わず引いてしまった。




 「うむ。他人が見たらわからんだろうが私には判る。それで気持ち悪くなりここに来たのだよ」
 「やはり副司令でも気持ち悪いですか?」
 「うむ。当然だろう。私も人間だからな。まあ食事時に変な話はよそう」




 変な話にされてしまうゲンドウもいささか哀れである。




 「そうですね。アスカちゃんのお弁当の味はどうですか」
 「なかなかのものだよ。ただ私には少し味付けが濃いのと、和風のおかずの味付けがまだまだだな」
 「厳しい採点ですね」
 「その代わりミニハンバーグなどはなかなかだな」
 「そうですか」
 「ところで飛羽君はネルフにもう慣れたかな」
 「え、あ、はい」




 いきなり振られてどぎまぎするカルカである。




 「あのなんでB級職員の私を知っているのですか」
 「上級職員の交友関係の把握は私の職務なのだよ。それ以外にも直属の部下に可愛い彼女が出来たと葛城君から何度も聞かされれば知っておこうかなという気にもなる」
 「…………」




 真っ赤っかのカルカである。




 「それはそうと仕事の方はどうかな」
 「あ、はい。順調にやっています。もともとアナウンサー志望でしたし、ウグイス嬢のバイトもしていましたし。ただ体力トレーニングと荷作りと射撃の訓練が有るのは驚きました」
 「そうか。アナウンス部は普段の連絡業務のほかに非常時の物品の運搬や情報伝達を行う重要な部門だ。頑張りたまえ」
 「はい」
 「それではこれ以上二人の邪魔をするのもなんだろう。私は戻るとするか。ごちそうさま」




 冬月はきちんと空のお弁当箱に手を合わせると弁当箱を下に敷いてあった大きいバンダナに包んだ。弁当箱は赤地に小熊の絵、バンダナはやはり赤地に子猫の絵である。アスカの趣味であろう。立ち上がると弁当箱を後ろ手にぶら下げゆうゆうと去って行く。制服さえ着ていなければ近所の御隠居である。




 「行っちゃった」
 「行っちゃったね」
 「ねえ、そういえば何で私アナウンス部に配属になったの」
 「それ、俺ミサトさんに聞いてみたんだ。そしたらウグイス嬢だからアナウンス部よぉ〜〜んってお気軽な答えが返ってきた」
 「やっぱり……。ミサトさんってそう言う人なんですね」
 「そうなんだよ」




 なんやかんやでこれがカルカの標準的昼休みである。
















 その3 女子寮の大家さん




 俺の名は神田シンタロウ、ネルフの特殊監査部警護班の一尉だ。簡単に言うと女子寮の大家をしている。




 ふ




 本当は諜報の世界で活躍していたのだが俺の女がどうしてもと泣いて頼むので仕方が無くこんな所に居る。俺は女を泣かせないのが身上だからな。




 ふ




 もてる男は辛いぜ。




 ばき




 「あんたまたこんなとこで妄想を日記に書いてるわね。忙しいんだから早く庭の掃除やりなさいよ」
 「いてえなぁ。かあちゃんいいじゃないかこんぐらい」
 「何言ってるの。これから何人分の朝飯作ると思ってるの。緊縮財政でコック減らしたんだから」
 「わかったよアスヨ。愛してるよ」
 「そんなんじゃ騙されないわよ。仕事仕事」




 ふ




 今のは神田アスヨ二尉……俺の女だ。いっぱい居た俺の女の中では一番まともな奴を選んでやった。それでも俺には劣るがな。




 アスヨちゃぁぁぁんキック




 ばきべき




 「ぐ、いてえ。だいたい29にもなってアスヨちゃんはないだろうが」
 「なによ。だいたいアンタは私が居なけりゃ嫁のきてがなっかったでしょうが。この美貌、このプロポーション、この知性、この運動神経。どれをとっても私が上でしょ。何か文句有る?ええどうなの」
 「い、いえございません」
 「だったらいいわよ。ほんとにこの忙しい時にさっさと庭の掃除をすましなさい」




 ううう……そりゃ認めますよ。ドイツと日本のハーフで鮮やかな赤毛にきりっとした美貌、身長165CMで上から86、58、87。赤木博士と論争しても1時間は持つ上にインターハイ陸上短距離で優勝経験有り。音痴なのを除きゃ能力的には言う事ないよ……。でも……性格がきつすぎるじゃないかぁぁぁ〜〜。



 それに引替えチルドレンのアスカちゃん……いい。実にいい。音痴までは同じだがおしとやかで泣き虫……そそられるよなぁ〜〜。俺なんであんな気が強いのとくっついたんだろぉ。




 「あなた……」
 「は、ハイ」
 「今また変な事考えてたでしょう」
 「な何で……」
 「あなたほんとにアスカちゃんお気に入りね……」
 「な、なんでアスカちゃんの事だと……」




 アスヨはしばらくシンタロウをじっと見るとため息をつく。




 「あんた……ほんと小学生の時から進歩無いんだから……」
 「うっ……」




 なっ何でだ。何故アスヨにだけは簡単に頭の中読まれるんだぁぁぁ。冗談抜きで俺は諜報活動では一流だったんだぁ。アスヨと組んで数々の任務もこなした後この仕事についたんだ。何故に????




 「あなた今何故私には簡単に読まれると思ったでしょ」
 「うっ」
 「あなた本当に気付いてないの?」
 「何を?」




 ふぅ〜〜




 「じゃあ教えてあげる。あなたね……小学校高学年の時からの癖なんだけどね……私と二人の時は考えている事をぶつぶつと呟いているのよ……」
 「はぁ〜〜?」
 「ホントに気付いてなかった様ね」
 「ああ……」
 「そりゃ私といると安心するのは判るけどね。結構みっともないわよ」




 確かにそうだ。安心する。俺は惚れているからな。でもなんでアスヨは俺に惚れてんだ。




 「特に理由は無いわよ。ちっちゃい時から好きだったし」
 「うわ。またぶつぶつ言ってたのか。まあいいか。俺と同じく理由無しか」




 そうだよな。理由いらねえよな。惚れたりくっついたりすんのに。




 「そうよ。変なあなたね」




 ああ。この笑顔がたまんないんだよな。こいつ性格がよくってこの笑顔だもんな、俺にゃもったいないよな。




 「そんな事無いわよ。ホント弱気なんだから。こっち来なさい」




 がちっとアスヨに首ねっこを捉まれるシンタロウ。いつも二人のキスはこうだ。




 「大家さん達仲いいですね。ただいま」
 「うわ。ユウコちゃんお帰りなさい。夜勤開けだったね」
 「あらら、ユウコちゃんお帰りなさい」
 「じゃあとっても眠いのでおやすみなさい」




 背がとても高い女性がいた。口から上がアスヨの頭を越している。最近入寮したユウコだ。寮の玄関に向かって歩いていく。




 「そうだユウコちゃん」




 大家が声をかける。




 「なんですか」




 ユウコが振返る。




 ぴた




 ユウコの喉元にはシンタロウの握る柳刃包丁の切っ先が当てられた。シンタロウが愛用しているネルフマークのリツコ特製包丁である。彼はピストルの代わりにホルスターで脇の下に柳刃包丁を吊っている。




 「な、何を」
 「巧い整形手術だね。ただねユウコちゃんは純情な子でね。こういうのを見ると耳が真っ赤になるんだよ。それに僕は特技が有ってね、一度見た人間の特徴は絶対忘れないんだよ。君は本物のユウコちゃんとざっと見ただけで200箇所は違っているよ。でユウコちゃんをどこにやったのかな。うちの寮の娘達に手を出した以上覚悟は出来ているかな」




 シンタロウがまったく暖か味の無い微笑みを浮かべながら言う。アスヨが汗を拭くために持っていたタオルで偽ユウコの手を縛る。特殊な縛り方をしたため人力ではほどけない。




 「凄いわね。確かに私は本物じゃないわよ。人間でもないの」




 ぶち




 縛っていたタオルが弾け飛ぶ。偽ユウコは油断していたアスヨの後ろに周り込み両手を捻り上げる。




 「あう」




 アスヨの顔が苦痛に歪む。




 「私両手両足は機械式のサイボーグなのよ。さあその包丁だけでなく他に持っている武器も全部捨てなさい。さもないと愛しい奥様の両手を引きちぎるわよ」
 「あぎっ」




 いちだんとアスヨの腕を捻り上げたのかアスヨがうめき声を上げる。




 「わかった。まずポケットの銃から捨てるそれ以上はやめてくれ」




 シンタロウが泣きそうな顔で言う。左手でゆっくり銃をひきだし地面に投げ捨てる。偽ユウコの視線がちらりと動く。




 はいや〜〜




 その時アスヨが腕の苦痛をものともせず両足を跳ね上げた。その素晴らしく柔軟で筋力がある体は爪先を偽ユウコの目に叩き込む事が出来た。




 うぎゃぁ




 ぐぎゃぁ




 悲鳴が二人の口から上がった。目を潰された偽ユウコの口と完全に両肩の関節が脱臼したアスヨの口からである。
 偽ユウコが両手を離したためアスヨは地面に尻から落ちた。アスヨは苦痛で悲鳴を上げつつも転がってその場を離れた。両腕は動かない。




 うぎゃぁ




 偽ユウコは苦痛のためか目茶句茶に腕を振りまわしシンタロウの方に突進して来た。




 スパン




 シンタロウの包丁がきらめいた。偽ユウコの両手は鋼鉄の骨格を見事に両断され地面に落ちた。




 とりゃ〜〜




 今度はシンタロウのオーバーヘッドキックが偽ユウコの顎に炸裂した。偽ユウコは声も無く崩れ落ちた。




 シンタロウは着地すると素ばやく偽ユウコに近付き両足も切り飛ばした。気絶している偽ユウコの口を開き覗く。指を突っ込むと歯をひっこ抜く。




 「やっぱり通信機入れてやがった。まぁこの寮の敷地内だと全ての通信は不能だけどな」




 抜いた歯をポケットに入れた。気絶して当分おきそうも無い偽ユウコはそのまま置いておきすぐにアスヨの元に行く。




 「あなた。痛いわ……ううううう……痛いわ……うううう」




 アスヨは苦痛の為のたうち回っていた。両肩ははれ上がっていた。




 「おまえご免」




 どす




 シンタロウはアスヨの腹のつぼを突いた。びっくりしたような表情を浮かべてアスヨは気絶した。




 「すぐにネルフ本部の救急部隊を呼んでやるからな」












 「一週間で完全に治るらしいわね。まあ丁度いいから休んでいきなさいな」




 ネルフの高級幹部用の病室である。リツコが見舞いに来ている。アスヨとシンタロウはリツコの小学校時代の同級生である。最近判った事なのだが。




 「ところであのスパイ向こうから自供してくれたわ。あの子ねユウコちゃんにとても似ているので敵対組織に誘拐されたんだって。それで手足をサイボーグ化されてその中にリモコン爆弾しくまれたから逆らえなかったそうよ。分解しようとしても爆発するらしいの」
 「酷い話ね」
 「シンタロウが見事な腕前で切り飛ばしたせいで爆発はしなかったみたい。まあ私が作った特製包丁の切れ味もよかったけどね」
 「でもそうするとそのスパイの子も可哀想ね」
 「そうね。なんとか予算ちょろまかして両手両足一式まともなサイボーグ化してあげるつもりよ。目の方は治療をすれば治るみたいだから」
 「そうだねそれがいいよ。ところでりっちゃん、本物のユウコちゃんはどうした?」
 「加地君の部隊が救出に行ったわ。さっき無事救出してついでに完全に組織ぶっ潰したって連絡があったわ。加地君女の子いじめる相手に容赦無いから。まそんな訳でアスヨあんたは当分寝てなさい」
 「まあ私はいいのだけど、この人私がいないと何にも出来ないから……困ったわ」




 両腕を包帯でぐるぐる巻きに固定されベッドに寝ているアスヨは言う。ベッドの側ではリツコが足を組んで椅子に座り、シンタロウは側に立っている。シンタロウはアスヨに言われて頭を掻いている。




 「大丈夫よ。ナイ辺りに手伝わせれば?あの子最近日向君といちゃついてばっかだから時間はたっぷりあるようよ」
 「それは可哀想でしょう。僕が何とかしますよ」
 「ほんとにぃ〜〜。あなたがぁ〜〜」
 「りっちゃんちょっと夫婦二人で話が有るので席外してくれないか」
 「いいわよ。じゃアスヨお大事に」




 リツコは病室を出ていった。




 「アナタ何よ」
 「いやぁ〜〜久しぶりに完全に有利な立場だし、普段のうっぷん晴らしちゃおかな……何てね」
 「あ、あなた何をする気」




 シンタロウは身動き取れないアスヨの足の方に周る。




 こちょこちょ




 「あ、ひ〜〜。やめて、ひひひ。私、足の裏、ひひひ、弱いのよ……ひぃぃぃ…………えっ……今度はそこ……あん、いや、ああん……」












 ふっ 俺は神田シンタロウ……ネルフで一番クールでナイスな男だぜ。
















つづくかもね






NEXT
ver.-1.00 1998+12/26公開
ご意見・感想・誤字情報・らぶりぃりっちゃん情報などは akagi-labo@NERV.TOまでお送り下さい!




あとがき




 そういえば作戦部や技術第一課以外の部門は普段何をしているのか?と思いまして……。TVでも出た第三課とウグイス嬢の話です。後と大家さんも(女子寮の大家さんです……あくまで)普段はこんな感じだろうと……。




 えっと一回限りのキャラには声優さんの名前を付けました。ザクレロリ課長は無事にりっちゃんの改造手術を受けたそうです。女子寮の大家さん夫婦の名前に聞き覚えがあるのはきっと錯覚です。それにしてもベタな話だ……

 では










 合言葉は「全てのキャラに幸せを」




 ではまた





 まっこうさんの『めそめそアスカちゃん』外伝2、公開です。




 ザクレロリ課長、漢!

   女癖を除いて・・・

 ザクレロリ課長の部下達、漢っ!

   怪我をしても安心(^^)


 あつい魂を感じますぅぅ




 青葉さん、カルカさん、

 あつい、あつい愛を感じますぅ




 それに対して、
 神田一尉・・・・お、おまえわ(爆)




 見覚えのある名前にくらくらしますですます・・・





 さあ、訪問者のみなさん。
 脇にもフォローのまっこうさんに感想メールを送りましょう!




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