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 「じゃ今度はぼくの」




 レイがエプロンを脱ぎフライパンをテーブルに置くとノゾミが包みを開く。




 「はいお姉ちゃん」




 ジーンズの生地の可愛い帽子だった。




 「被ってみて」
 「うん」




 レイはちょこんと少し斜めに帽子を被る。




 「わぁお姉ちゃん。格好いい」




 確かにレイが被ると決まる。




 「ありがとうノゾミちゃん」
 「どういたしまして」




 えっへん




 そんな感じでノゾミは鼻の下を擦った。




 「じゃ綾波さん、それに合わせてノゾミちゃんと買って来たんだ」




 ケンスケが包みを渡す。




 「ええと。あポシェット」




 可愛いポシェットだった。レイはさっそく肩にかける。今日のレイのいでたちはハーフカットのジーンズにTシャツである。ノゾミの帽子とケンスケのポシェットはよく似合った。




 「うわぁお姉ちゃん似合うなぁ。ファッションモデルみたい」




 確かに似合う。




 「そうねレイはこの手の格好も似合うのよね」




 リツコも嬉しそうに言う。レイもなんとなくポーズをつけてみる。




 「あ、綾波さん」
 「なあに相田君」
 「あの悪用しないから写真撮らせて。僕のカメラマン魂がうずいてしかたないんだ」
 「うん。いいわ」
 「ありがとう」




 ケンスケはバックから一眼レフを取り出す。




 「じゃあまずそのまま正面で一枚」




 レイは言われた通りきおつけの姿勢で立つ。




 ぱしゃ




 「次に右手を帽子のつばに当ててウィンクをして」




 ぱしゃぱしゃ




 「じゃ次は惣流さん並んで立って」
 「私が?」
 「うん。友達同士で買い物っていうコンセプト」




 今日のアスカは釣りズボンとTシャツである。アスカは立ち上がるとレイの隣に行く。




 「そう。そこで手握って」




 アスカとレイは手を握る。




 ぱしゃぱしゃ




 アスカは席に戻る。




 「ありがとう。次は碇並んで」
 「え僕が?」
 「そう頼むよ」
 「うん」




 シンジは立ち上がるとレイの隣に並ぶ。




 「そういいね。そこで腕を組んで。彼氏とデートのコンセプト」




 ケンスケは完全に写真家に成りきっている。




 「腕組むの?」




 シンジが言う。照れくさそうだ。がレイはすぐに腕を組んだ。レイの頬がちょっぴり赤くなる。




 「ナイス。いいね」




 ぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃ




 「うんありがとう。久しぶりにいい写真が撮れた。う〜〜んこの充実感。綾波さんシンジ惣流さんありがとう。あもう腕離していいよ」




 レイは少し残念そうに腕を離す。アスカがじぃ〜〜と見詰めているのに気が付く。アスカもレイに気が付かれて初めて自分が見詰めていたのに気が付く。アスカも頬を少し赤くして微かに俯く。シンジとレイは席に付く。




 「後でプリントして渡すからね」




 ケンスケは上機嫌だ。




 「綾波さんあのぉこれ」




 アスカが大きな紙ぶくろをテーブルに置く。




 「開けていい」
 「うん」
 「奇麗……」




 レイは紙ぶくろを開けると呟いた。中からは極々薄い空色の生地に朝顔の柄の浴衣が出てきた。同じ柄のうちわと帯もあった。




 「プラグスーツのデーターをマヤさんから貰らって仕立てて貰らったからサイズは合うと思うの」
 「着ていい?」
 「もちろんよ」
 「じゃあ」




 レイは立ち上がるといきなり脱ぎ始めた。




 「うわ綾波」




 シンジは立ち上がり背を向けてレイを隠す。




 「綾波さんこんなとこで脱いじゃ……」
 「あっいけない……」




 アスカに言われてレイは気が付いたようだ。脱いだTシャツで下着だけの上半身を慌てて隠す。




 「レイとにかくTシャツ着なさい」




 リツコに言われてレイは素ばやくTシャツを着た。




 「一階へ降りてお風呂場の脱衣所で着替えましょう。いらっしゃい」




 リツコは浴衣を手に取ると立ち上がりレイを連れて階段を降りて行った。




 「……ええ乳や」




 ばき




 見事なヒカリの右フックである。




 「すずはらぁぁ」
 「なっなななんや。いいんちょが見られたわけではないやろがぁ」
 「ずずばらぁぁ」
 「わわわわわ判った。判ったいいんちょ、そんな顔くっつけて怒るなぁ〜〜」




 ヒカリは怒る事に頭が向いていた為トウジと唇同士が五センチぐらいになっているのに気が付かなかった。




 どん




 ノゾミはヒカリを取り押さえようとした。しかし、ずっと正座をしていたせいかつんのめりヒカリの背中にヘディングしてしまった。




 「…………」
 「…………」




 目を見開くトウジとヒカリ。哀れヒカリちゃん、まったくロマンチックでないファーストキッスであった。




 シュタ スタタタタタタタタタタ




 ヒカリはいきなり立ち上がると階段を駆け降りて行った。




 「えっう、あ、え」




 トウジは動揺のせいか変な声を出している。皆は唖然としていた。




 「すっ鈴原君追いかけてぇ」
 「えっあ」
 「女の子泣かせたのよ。責任とって……とにかく追いかけて」
 「おっおう」




 アスカに言われてトウジも立ち上がりヒカリを追いかけて階段を駆け降りて行った。




 「うっうっうっうえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」




 ノゾミが泣き出した。




 「うぇぇぇん……どうしよう……あうううううう……僕どうしよう……うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」




 アスカ並みの泣きっぷりである。




 「ノゾミちゃん……」
 「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「…………」




 アスカはノゾミの隣に移るとノゾミを抱きしめる。ノゾミはアスカの胸に顔を埋めて泣き続ける。少しずつ泣き声は収まってくる。アスカは優しくノゾミをあやす。丁度その時着替え終わったレイとリツコが階段を上がって来た。




 「どうしたの?いきなりヒカリちゃん駆け出していっちゃって。それにトウジ君も追いかけて行ったみたいだし。それになんでノゾミちゃんが泣いているの」




 リツコが言う。アスカが胸にノゾミを抱き頭を撫でながら理由を話す。




 「そうなの……」




 リツコはアスカとノゾミの側に座る。




 「ノゾミちゃんわざとではないのだから、よおく謝ればヒカリちゃんは許してくれるわよ」
 「ぐす……だって……ぐす……お姉ちゃん……ひっく……いつか好きな人と……二人だけで……ぐす……夕暮れの浜辺とかで……ロマンチックにファーストキスするんだっていつも言ってるんだもん……ううううううううわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」




 またノゾミの泣き声が大きくなる。




 「そうだったの……まあ好きな人とと言う点はうまく行ったのだし、ヒカリちゃんは優しくて強い子だからね」
 「でもでも……うううう」




 ノゾミは泣きやまない。




 「困ったわね……後でレイ、アスカちゃん、家までついて行ってあげて。多分今日はヒカリちゃんここに戻ってこないと思うから。ノゾミちゃんこうすれば。今度トウジ君にもっとロマンチックな所と時でキスしてあげるように頼んだら。相手は問題無いんだし」
 「うく……ううううう……うく…………」
 「ノゾミちゃん泣くのはアスカちゃんに任せて元気をだしましょ。人間はリカバー出来ない失敗はそんなに無いのよ」
 「あうううううう」




 しばらくノゾミは泣いていた。やがて泣き声が少しずつ小さくなってくる。やがて泣き声が止まる。ノゾミは顔を上げる。顔は涙でびしょびしょである。目は真っ赤で周りも腫れている。




 「はいノゾミちゃん。美少女がだいなしよ」




 アスカがタオルを渡す。自分用のタオルである。




 「ありがとう」




 ノゾミが情けないような表情をしてタオルを受け取る。タオルで顔を拭く。拭き終わった後もぼーっとタオルを見ている。




 「ノゾミちゃん元気を出しましょう……後で洞木さんの所へ一緒に行きましょ」




 レイが言う。




 「う、うん」




 沈んだ表情でノゾミが言う。




 「ノゾミちゃん元気だそうよ。シチュエーションも重要だけどやっぱり誰か?の方が重要なんだし、それは委員長もかなった訳だし」




 ケンスケが言う。




 「うん。でも……」




 またノゾミの瞳にじわ〜〜っと涙が滲んでくる。




 「さっノゾミちゃん。この話はここでお終い。今は時が過ぎるのを待つのがいいわ」




 リツコがノゾミの頭を撫でて言う。




 「うん」




 ノゾミが鼻水をすすり上げ顔をタオルで拭きながら言う。




 「ほら。アスカちゃんのプレゼント……似合うかしら。レイ立ってみて」




 レイが立ち上がる。浴衣はレイのサイズにぴったりだ。




 「うわぁ〜〜綾波似合うなぁ。綾波って浴衣とか割烹着とか和風の物が似合うね」
 「ありがとう碇君。惣流さんありがとう」




 シンジの素直な誉め言葉に微かに頬を染めながらレイはアスカに礼を言う。




 「どういたしまして。似合ってよかった」
 「あ綾波さん……あの写真……」
 「判ったわ」




 今度は2度目なのでレイは微笑んで応じる。胸にうちわをあて微笑む。




 「うわぁ綾波さん、最高だ」




 ケンスケは写真を撮りまくる。




 「なんて今日はいい日なんだ。綾波さんありがとう」
 「ちっともいい日じゃない」




 ぼそっと誰にも聞こえない小さな声でノゾミが呟く。




 「今度は僕の……」




 シンジは紙ぶくろからS−DVDを取り出す。




 「はい」
 「ありがとう」




 シンジはレイに手渡す。




 「僕も何がいいか判らなかったんだけど、綾波にはダンスに関係したものがいいと思って」




 ダンスミュージックのS−DVDだった。




 「ありがとう」




 レイはディスクを受け取ると胸にあてて抱きしめる。目を瞑る。少し経ち慌てたように目を開くと頬を赤くする。




 「碇君……聞いていい?」
 「もちろん」




 レイは包装を破くとプレイやーにかける。スピーカーからは緩やかなダンスミュージックが流れる。しばらく皆は音に聞き入った。




 「いいわね。レイよかったじゃない」
 「うん」




 胸に手をあて目を瞑り聞き入っていたレイが言う。丁度その時階段を上がってくる足音がした。




 とんとんとんとん




 トウジが部屋に入って来た。そして……




 「お姉ちゃん……」




 ノゾミが顔を上げて言う。ヒカリはトウジの影から出てくる。ノゾミの横に座る。




 「ノゾミ……」
 「お姉ちゃん……ごめんなさい……ぼく……うっく……ぼくわざとやったんじゃないんだ。ううう……お姉ちゃんを後ろからおさえようと……うっく……でも足しびれちゃって……ひっく……うっく……ごめんなさい……うっくうううううえぇぇぇぇぇぇん」




 またノゾミが俯いて泣きだす。ヒカリは優しく頭を抱く。




 「うえええええええええええん」
 「……いいのよノゾミ。もう過ぎちゃった事なんだし。わざとじゃないんでしょ」
 「うあああああん」




 泣き続けるノゾミと慰めるヒカリの横にトウジが座る。




 「さっもう泣くのはしまいや。ノゾミちゃん折角の美少女がだいなしや」
 「そうよ。トウジの言う通りよ。もう泣かないでいいのよ」




 ヒカリとトウジは二人でなだめる。




 「……ううう……お兄ちゃん……うっく……ごめんなさい……うぇぇぇぇぇぇん」
 「ワシは気にせんでもええ……男やからな」




 トウジは訳の判らない慰め方をする。しばらくするとノゾミの泣き声も小さくなってくる。やがて顔をあげる。




 「……うっく……お姉ちゃん……」
 「さあ今日は綾波さんの引っ越しのほかにミサトさんのパーティーの打ちあわせもしなきゃいけないのよ。ね」
 「……う、うん」




 まだ泣き顔のノゾミに比べヒカリは妙に明るかった。




 「じゃあ。始めましょう。ミサトさん達は来週の日曜日がいいのよね。惣流さん」
 「そっそうよ」




 いきなり仕切り始めるヒカリに唖然としながらアスカは応えた。




 「ええ。場所はこの前の多目的ホールがいいって」
 「そう。そうなると私達の手づくりパーティーと言う訳にはいかないわね」
 「そうね」




 レイもヒカリの元気に驚いているようだ。




 「そうすると……人員は……えっとリツコさん」
 「なあに」
 「この前のマヤさんの執事さんとメイドさん達に頼めないでしょうか」
 「……多分大丈夫よ……」
 「よかった。で全部任せるのもやだなぁ……。料理は無理にしても……ねえ皆でウェディングケーキ作らない?」
 「それいいね。俺賛成」
 「ワシも賛成や」
 「私も」
 「賛成」




 ノゾミも少し元気になってきたらしい。




 「お姉ちゃん私も賛成」
 「じゃ決まりね」
 「ミサト喜ぶわ。派手なの作ってあげましょ」
 「所でリツコさん……ミサトさんって資金あるの?」
 「そういえば……」
 「碇君や惣流さんに普段のミサトさんの話を聞いていると……何だかぜんぜん無さそうな……」
 「当たりよヒカリちゃん……お金が入ると服とえびちゅと車の修理費に消えるから……」
 「となると……資金どうする」
 「う〜〜ん」




 みんないきなり悩んでしまった。




 「マヤに出させるって手もあるけど……あそうだ、ネルフのお金使っちゃいましょ」
 「リツコさんどうするの?」
 「僕達のカード使うの?」




 ネルフのS級職員のIDカードはほぼ無制限の支払い能力を持つカードでもある。




 「どっちにしても経理に報告は行くでしょ。経理の人間巻き込むのよ。丁度いいの知ってるわ」
 「誰なんですか」
 「それはね……」




 リツコはにやにやしながら言った。
















 翌日の月曜日のシンクロテストをリツコに早めにきり上げてもらい、アスカ、シンジ、レイは三人で経理部第一経理課に向かった。




 「あの……」




 アスカが部屋の中央の課長席に座る男に声をかける。三十五才ぐらいの若づくりの男だ。席の上には「第一経理課長 ケビン・マイスナー」と書いた名札が置いてある。




 「なんだいアスカちゃん」




 日本語になまりはない。日本に長い様だ。




 「私の事知ってるんですか?」
 「それはもちろんだよ。ネルフの職員だからね。シンジ君もレイちゃんもどうしたんだい」
 「実はミサトさんと加持さん、結婚したんです」
 「知ってるよ。加地君もよく決心したもんだ」
 「で……その、あの来週パーティー開くんです」
 「僕達とマヤさんの親衛隊で」
 「ほぉ〜〜。まあ確かに派手な結婚式やれる状態じゃないからね。で」
 「で……あの、資金が無いんです。……ネルフで出してもらえません?」




 お金の事になったせいか今までにこにこと話していたケビンの表情が厳しくなる。




 「残念だけど……駄目だね。特に葛城三佐の場合相当公費を流用しているし。まあ見逃してるけどね」
 「でも……ミサトさん可哀想だったんです……今まで加持さんと離ればなれで……」
 「ん?」




 アスカの芝居が始まった。いかに二人が出会い愛し合う様になっていったか。いろいろな障害にもめげず二人で愛を育んでいったか。破局が訪れ別れたがまた劇的に出会い愛を取り戻したか。そしてゴールにたどり着いたか。それを九割の真実に一割の虚構を入れ、身振り手ぶりも激しく解説する。さすがIQ300を誇るアスカの台本に隙は無い。その上ナチュラルに泣ける事は武器となった。




 「……ううう……という事なんです……ひっく……だから……お金出してください……ううう」




 もうホントに泣いているアスカである。




 「……素晴らしい……なんていい話なんだぁぁ感動的だぁぁ……よし任せなさい。なあに司令の機密費ちょろまかせば済む事だ。うううううううう……感動的だぁぁ」




 ケビンは自分の世界に入っていた。




 「あうあう……ありがとうございますぅぅぅぅぅ……うううううう」




 泣いているアスカと感動しているケビンでうるさい経理課だった。












 「リツコさん行ってきました」
 「どうだった?」
 「ばっちりです」
 「ううううううう……ばっちりです……うぇんえん」
 「惣流さんもう泣かなくても」
 「……判ってるけど……止まらないのよぉ〜〜うぇんえんえん」




 三人は赤木研究室に戻って来た。所長室で話し込む。




 「でも何であんな簡単にOKしたのかなぁ」
 「それはねあのケビンはね、恋愛小説のファンなのよ」




 リツコが説明し出す。




 「恋愛小説?」
 「そうよ。特に主人公達が幾多の苦難を乗り越えて最後に結ばれるタイプの恋愛小説に目がないの。なんせ好きが高じて自分でそういう話書いてネットで公開しているぐらいだから」
 「そうなんですか」
 「それでお母さん惣流さんに出来るだけ泣ける話で説得させたのね」
 「そうよ。泣く事に関してはアスカちゃんの右に出る人は居ないから」
 「うぁんわんわん」
 「でもリツコさん何でそんな事知っているんですか」
 「ネルフの高級職員のデーターは全部頭に入っているわ。いつ役に立つとも限らないから」




 ニタリ




 リツコの意地の悪そうな笑い顔にみな思わず引いてしまった。アスカも泣きながら引いていた。
















 日曜日が来た。ネルフの多目的ホールの一室にミサトとリツコとアスカがいた。




 「ミサトさん……奇麗……よかったわぁぁぁぁんわんわん…………うううううう」
 「アスカちゃんありがとう」
 「ミサト、あなたやっぱりえびちゅが入らなければ美人ね。憎らしいぐらいウェディングドレス似合うわ」
 「ありがとう。でもねリツコの18才のウェディングドレス姿には負けるわ。やっぱこういう格好は若いと有利よね」




 ミサトは純白のウェディングドレスに包まれて椅子に座っていた。




 「そうでもないわよ。あの時の私なんてガキだったけどミサトは本当に奇麗」
 「おせいじでも嬉しいわ」
 「そうそう。亭主もよろしくって言ってたわ」




 こんこん




 「はい。どうぞ」




 レイが入って来た。




 「ミサトさんそろそろ時間です。控え室の方へ」
 「判ったわ」
 「じゃミサトしっかりね」
 「ええ」




 ミサトが立ち上がる。泣いていたアスカもタオルで顔を拭き立ち上がる。アスカとレイは学校の制服、リツコは黒いドレスを着ている。
 アスカがウェディングドレスの裾を持ち汚れない様にする。レイがミサトを先導する。三人は静々と廊下を進む。




 とるとるとるとる




 レイのポケットの携帯が鳴る。レイは携帯に出る。




 「ミサトさん……ナイさんから」




 レイは渡しずらそうに携帯を渡す。




 「はい……何……そう……そう……判ったわ。待機していて」




 ミサトは携帯を切った。少しの間たたずむ。




 「パーティーは中止よ」
 「えっ」
 「使徒よ。……ネルフに戻るわ。私と使徒はよほど相性が悪いみたいね」




 ミサトは携帯をレイに返す。被っていたベールを剥ぎ取るように脱ぐ。アスカに手渡す。




 「先に帰ってるわ。すまないけど皆に知らせてきてね」




 ミサトは先程の部屋に戻っていった。レイは携帯を手にアスカはベールを手に立ち尽した。












 「状況はどう」
 「ミサトさん……停止しています。現在第三新東京市の西2kmの上空に停止しています」




 発令所のモニターには第三新東京市の外れの草原の上に浮かぶ白地に黒い縞の入ったスイカみたいな物体が映っていた。零号機、初号機、弐号機はプログランス、ポジトロンライフル、ソニックグレイブを持ち使徒が草原に落とす影の側にいた。各機正三角形の頂点に位置し使徒を囲むようにしている。




 「西区の住民避難あと五分かかります」
 「判ったわ。それまでは三機とも待機よ」
 「「「はい」」」
 「リツコでも何でATフィールドの反応無いのよ」
 「判らないわ。新種の使徒かも」
 「マヤMAGIは?」
 「MAGIは判断を保留しています」




 オペレーター達はEVAへデーターを送る。




 「みんな聞こえる?目標のデータは送った通り。今はそれだけしか分からないわ。とりあえず住民の待避が終ったら……リツコどうする?」
 「司令と副司令がいないんだからあなたが最高責任者でしょうが」
 「それもそうね。じゃシンジ君住民の待避が終ったらポジトロンライフルぶち込んじゃって」
 「はい……いいんですか」
 「いいわよ。先制攻撃が効果的なのよ」




 が使徒が先に動いた。




 「え?消えた……」




 使徒の姿は瞬時に消えた。




 「どうしたん……うわ」




 ビービービービー




 「パターン青、使徒発見。初号機の直下です」




 マコトがさけぶ。




 「うぁぁぁ」




 初号機の上には球体の使徒、下にはその影が現れていた。初号機は使徒の影に呑み込まれほんの2秒で姿を消した。




 「シンジ君〜〜」
 「碇君〜〜」
 「二人とも待避しなさい〜〜」
 「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」




 アスカとレイは叫び声を上げてソニックグレイブとプログランスを振り上げた。それらの得物に沿って肉眼でもはっきり見えるほど強いATフィールドの刃が形成されていた。




 「「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」




 叫び声と共に零号機と弐号機は使徒の影に得物を叩き付けた。




 ばし




 一瞬使徒の影とEVA二機の得物の間でATフィールド同士の干渉が起きる。




 ピシピシ




 上空の球体と影にヒビが入った。




 アスカとレイはもう一度振り上げようとする。




 が




 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん




 球体のヒビが内部からこじ開けられる。何かが出て来た。血に似た使徒の体液であろうものに染まった初号機の手であった。
 初号機は雄叫びをあげつつ徐々に球体の中からせり出して来た。使徒の体液が大地を染める。




 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん




 また一つ初号機が吠えると球体はまっ二つに裂かれた。初号機が大地に降り立つ。使徒の影は既に物を吸い込む力が無い様だった。




 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん




 上空の球体はまるで蒸発する様に消えていく。影も縮んでゆき消えた。そしてそこには使徒の体液が撒き散らかされた草原と体液で赤黒く染まった初号機があった。
 零号機と弐号機は唖然としたように立ち尽していた。












 「惣流・アスカ・ラングレー、綾波レイの両名に三日間の独房入りを命じます」




 アスカとレイはミサトとナイに連れられてネルフ内の一室に来た。独房と言うより高級ホテルのツインの部屋の様であった。あの後動かなくなった初号機からシンジが救出されたのを見届けた後アスカとレイはEVAを降りた。降りた所ですぐネルフに連れてこられこの部屋に連行された。




 「今日のあなた達は私の指示を無視したわ。結果的には初号機とシンジ君を救う事に成ったわ。だけどそれは単なる偶然。もしかしたらあなた達と残りのEVAも失う事に成ったかもしれないわ」
 「「…………」」




 アスカとレイは黙っている。




 「今後もしこの様な事態になったらあなた達はどうしたらいいか二人で話し合ってみなさい」
 「あの……」
 「何……」
 「シンジ君は……」
 「彼は先程意識を取り戻したわ。無事よ」
 「そう」




 二人は少しほっとしたような表情をした。




 「では閉めるわ」




 ミサトとナイが部屋を出ると部屋の戸は閉められ鍵が掛かった。
















 一週間が経った。アスカとレイは三日間の期間が過ぎると家に返されていた。丁度その頃シンジも精密検査が終わり家へ帰っていた。




 「ふう。やっと終わりね」




 ミサトは後片付けの為一週間ネルフに缶詰になっていた。




 「ミサト入るわよ」




 作戦部長室にリツコが入ってくる。




 「そろそろ終った?」
 「丁度報告書司令に転送した所」
 「そう。こっちも使徒の解析終ったわ」
 「あっそ。で?」
 「結局あの地面に落ちていた影みたいのが使徒の本体だったみたいね。直径700メートル厚さは数マイクロメートル。使徒自体は異空間への入り口みたいになっていたらしいわ。外側と内側に向かいATフィールドを張っていてその入り口を保持していたみたい」
 「そう」
 「それにあの本体自体は事象の地平みたいになっていて外から中への一方通行の様ね」
 「そう。じゃATフィールドで叩き割ろうとしたアスカちゃんとレイちゃんは正しかったのね……会いずらいわ」
 「……ただ……それだけじゃだめだったわ。初号機のレコーダーを解析したら15時間経過していたわ。内部と外部では時の流が違っていたみたい。初号機のバッテリーは生命維持モードでも尽きかけていたわ。あんな力出る訳はないのよ。それに救出時シンジ君は気絶していたわ」
 「て事は……」
 「そう……また暴走。それもエネルギーゼロで……」
 「なぜ?」
 「さあ……目覚めたのかもね……彼女が……」
 「そう……制御できるの?」
 「判らないわ……」
 「……」
 「さてと私は帰るわ。ミサトは?」
 「二時間ぐらい後加持と帰るわ」
 「そう言えばあんた達新婚だもんね」
 「そんな気分じゃないけど……」
 「それもそうか……まあ気を楽にする事ね。じゃあお先に」
 「お休み」




 リツコは出て行った。ミサトはなんとなくため息をついた。












 「何か入りづらいわね」
 「葛城らしくないな」




 ミサトと加持はマンションの部屋のドアの前まで来た。




 「アスカちゃん……どうしてるかしら。会いにくいわ。結局独房から出す時も立ちあわなかったし……」
 「しょうがないさ……仕事だらけだろ。その為にナイ君をチルドレンの係りにしたんだろ」
 「そうだけど」
 「さあ。入った入った」
 「ええ」




 がちゃ




 「ただいま……」




 ポン ポン ポン ポン




 突如クラッカーが鳴った。




 「ミサトさん加持さん結婚おめでとう」
 「おめでとう」
 「おめでとう」




 そこには子供達とリツコ、マコトなどがいた。




 「えっええ」




 ミサトはうろたえていた。




 「ミサトさん結婚おめでとう、加持さん結婚おめでとう」




 アスカがまだ訳が判らないといったミサトの頭に背伸びをしてベールを掛ける。加持も後ろで唖然としている。




 「あっえええ」




 ミサトはまだうろたえている。




 「ミサトさん落ち着いてください。二人のパーティーいつ出来るか判らないし、出来る時にしないといつ使徒が現れるかもしれないし……」




 シンジが説明をする。




 「今日お母さんが帰って来て、ミサトさん達後二時間ぐらいで帰ってくるって聞きました。惣流さんと碇君に連絡してパーティーを開く事にしたんです」
 「綾波さんから連絡があったのでトウジやケンスケ君に連絡して用意しました」
 「そや。ミサトさんの為や。走り回って用意したんや」
 「そうだよ。僕もケンスケ兄ちゃんと一緒に買い出ししたりしたんだ」
 「ミサトさんウェディングドレスは用意出来なかったけどベールはあったのでそれで勘弁してください。ばっちり奇麗に撮りますから」
 「ミサト、加地君まあそう言う訳。おめでとう」




 ミサトは立ち尽した。加持も唖然としていた。




 「……ううううううう……みんな……ありがとう……」




 ミサトは泣き崩れた。




 「ミサトさん。泣かないで。折角のお祝いなんだし。泣くのは私の仕事よ」




 アスカはそう言ってミサトに微笑んだ。




もう少しつづく





NEXT
ver.-1.00 1999_02/04公開
ご意見・感想・誤字情報・らぶりぃりっちゃん情報などは akagi-labo@NERV.TOまでお送り下さい!




あとがき




 なんかベタな話が続いていますが……お許しを。それにしてますます戦闘シーンが少なくなっています。ちなみに割烹着が好きなのはあくまでも西田シンイチ博士です。作者ではありません。







 合言葉は「めそめそアスカちゃん」




 ではまた



 まっこうさんの『めそめそアスカちゃん7』、公開です。





 結婚おめでとう(^^)/   でし


 ついについにで
 やっとやっとで

 結婚おめでとうです。


 思うところはいっぱいでしょうが、

 シンジ君も
 アスカちゃんも
 レイちゃんも

 他子供達も
 大人達も−−

 みんなに祝福されて

 よかよかです〜



 特に”レイアスカシンジに”っていいよね。


 つらいオモイも多いけど・・



 使徒絡みの辛い思いなんて
 早くなくなって欲しいのね。。。




 さあ、訪問者のみなさん。
 今回も♪まっこうさんに感想メールを送りましょう!





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