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めそめそアスカちゃん7・好き




めそめそアスカちゃん7・好き




 アスカは永遠に続くかと思われる苦痛の中にいた。身動きが取れないアスカに対して敵は執拗に責め続けた。肉体的な責めと言うよりじわじわと心が犯されていくその様な責めだった。
 アスカは耐えた。やはりそばで身動きが取れないシンジをまき込みたくなかった。痙攣を続けていたが歯をくいしばりなんとか我慢していた。しかしもう少しで苦痛の呻き声を出してしまいそうだ。もう我慢出来なかった。




「うううううううううう…………」




 もう駄目だった。












 「うぇうぇうぇうぇうえええええええん。びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。痴漢よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」




 満員電車の中、半身の体勢でアスカの胸を触っていた痴漢は、フルパワーの泣き声の直撃を耳にくらい鼓膜が破れ気絶した。
















































 その子は奇麗で可愛くて才能豊かで魅力的。
 みんなも知ってる中学生。
 でも彼女には一つ秘密があったのです。
























 彼女は




























     泣き虫だったのです




















めそめそアスカちゃん7

好き



























 「うわアスカさん〜〜」




 側で泣き声を聞かされシンジも気絶しかかったが慣れもあってどうにか堪えた。ただ周りでは犯人以外にも気絶している人がいる。シンジは無理矢理周りの人を押し分けてアスカの横に来る。




 「アスカさん落ち着いて」
 「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」




 アスカは泣きやまない。シンジは覚悟を決めた。




 「アスカさんごめん」




 シンジは右斜め後ろから首に左手を巻き付ける様にしてアスカの口を掌で塞ぐ。気絶してアスカの方に倒れ込んでいる痴漢とアスカの間に右手をさし込み離そうとする。




 びく




 今のアスカはがっちりとシンジに抱きしめられ口を押さえられているという非常に危ない格好である。シンジが痴漢を引き離す時、シンジの右手が強くアスカの胸を擦っていった。アスカは今まで胸に感じていた嫌悪感からいきなり訳の判らない感覚を感じ、びっくりして泣きやんでしまった。




 むに




 電車の揺れの為アスカの胸をカバーしているシンジの手が強く押し付けられる。




 びく




 アスカは胸の辺りが熱くなる様な気がした。顔は真っ赤になる。




 「アスカさん落ち着いた?」




 シンジはアスカの胸をカバーしているという事だけに頭が行き自分が触っているという認識がまったく無かった。




 こくこく




 アスカは泣く事も出来ないぐらい頭がぼーっとしていた。とりあえず頷いた。




 「じゃ口から手を離すから泣かないでね」




 シンジは左手を口から離す。また電車が揺れた。




 「あ……」
 「大丈夫……。次の駅で降りて駅員さん達にこの痴漢をつき出して、あと他の気絶した人達も介抱してもらわなくちゃ」
 「……うん。あ」




 アスカは顔が真っ赤になっていた。




 「もう少しだから我慢してね」
 「……うん。ひっ」




 アスカはもう頭の中がぐちゃぐちゃだった。












 「アスカさん。大丈夫」
 「ひっく。うっく…………」




 とりあえず次の駅で二人は降りた。周りの乗客に協力してもらい気絶している痴漢と乗客を降ろす。リツコから渡されている護身用催眠スプレーを痴漢に拭き付けた。シンジはまたしくしく泣き出したアスカをベンチに座らせる。近付いて来た駅員にネルフのSクラスのIDカードを見せて事情を話した。駅員達は気絶している乗客達を介抱し、痴漢はその駅に駐在しているネルフの保安部の職員に引き渡された。
 第三新東京市の主要な駅、建物、公共施設などには保安部の人間が必ず駐在している。ほとんどがネルフ高級幹部の保護の為だ。先程の痴漢は本部で尋問されるだろう。単なる痴漢か何か他の組織と関係あるか調べるためである。もちろん二人には護衛の為私服の保安部の部員がついているが、出来るだけチルドレンに自由な気分を持たせる為滅多な事では姿を現さない。




 「あ……あの、それで……捉まれてた胸大丈夫?」




 さすが鈍いシンジならではの質問である。




 「ひっく…………………………シンジ君の……ばっかぁ〜〜〜〜うぇぇぇぇぇん」




 バキ




 アスカの一撃がシンジの頬に決まった。平手ではなくグーである。もっとも力があまり入っていなくシンジは痛くなかったが。




 「えっあっごめん」
 「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「お願いだから泣きやんで。早くナイさん来てくれないかなぁ」




 相変わらずぼけた会話である。












 「おまたぁせぇ〜〜〜〜」
 「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。ナイさぁぁぁぁぁぁぁぁん。シンジ君がうぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「あれシンジ君。何かしたの。駄目じゃないアスカちゃんショックを受けてるんだから」




 ナイはまだピーピーと泣いているアスカとおたおたしているシンジを見渡して言う。




 「僕は何にもしてませんよ。アスカさんが痴漢に襲われて大声で泣いて周りの人気絶したから、口を押さえて胸を手で覆ってあげただけです」




 きっぱりと言うシンジである。




 「あの……シンジ君。それって……アスカちゃんの胸を触っていた事にならない?」
 「うああああああああああああん。ナイさんまで大きな声で言う〜〜びえええええええん」
 「あわわ、アスカちゃん落ち着いて」




 処置無しである。












 「で今日は格闘訓練の後二人でどこ行ってたの?レイちゃん捜していたわよ。もしかして……デート?」




 アスカとシンジはナイのEVで一緒に帰る所である。




 「違います」




 シンジが言う。




 「うん」




 少し間が空いてアスカも言う。やっと泣きやんでシンジの隣でおとなしくしている。




 「じゃなあに?」
 「それは……あの秘密です」
 「ふぅ〜〜ん。あやしいわね」
 「あのナイさん。最近性格がミサトさんしてません?」
 「性格がミサトさん……プロポーションならともかく性格が……」




 ナイの顔がみるからに引きつっている。




 「あ、そんなショック受けないでください」
 「性格がミサトさん……性格がミサトさん……ぶつぶつ」




 ナイの目がどこかへ行っている。




 「ひぇぇぇぇぇナイさんの目が怖いよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「性格がぁぁぁぁぁぁ」
 「二人とも落ち着いてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」




 ショックで危ない目つきで車をふっ飛ばしはじめたナイ。シンジは怖くて泣き出したアスカに抱きつかれて、なぜネルフの女性は美人なのにどこか変なんだろうと思った。












 「綾波こんにちは」
 「綾波さんこんにちは」
 「碇君、惣流さんこんにちは」




 ここは作戦部作戦立案室である。今日は夕方から簡単なシンクロテストが有る。




 「二人でどこに行っていたの」
 「ちょっとね」
 「ちょっとね」
 「そう。その袋なあに」




 レイはアスカの持っている袋を指す。




 「あっこれ。……えっとちょっとね」
 「そう」
 「綾波とは関係ないから……」




 シンジが場を繋ごうとする。




 「私先行ってる」




 レイはすたすたと部屋を出て行った。




 「……綾波さん怒ってる」




 もうアスカの瞳は涙でいっぱいだ。




 「そんな事無いよ。……行こう」
 「でも……怒ってるよぉ」
 「だから行って言ってこないと」
 「でもそうしたらばれちゃう」
 「あっそうか。でもやっぱりとにかく行かないと」




 シンジがアスカを引っ張って廊下に出ていく。




 「青春すねぇ〜〜」
 「ほんとそうだよな」
 「そうよねぇ」




 マコト、シゲル、ナイはのどかにそんな光景を見守っていた。












 「綾波さん……」
 「なあに」




 シンクロテストも終えアスカとレイは更衣室で着替えていた。服を畳むようになったが相変わらずレイはポンポンと恥ずかし気も無く着替える。それに比べてアスカはチマチマと着替える。




 「ええと、その今日シンジ君とは……えっとシンジ君に買い物つきあってもらったの……」
 「そう」
 「たいした物じゃないの」
 「そう」




 アスカにはレイがとっても怒っているように見えた。




 「だから気にしないで……」
 「そう」
 「あの……土曜日の引っ越し手伝いに行くから」
 「ありがとう。お先に。さようなら」




 レイはそう言うとスタスタと更衣室を出ていってしまった。




 「うっうっ……やっぱ綾波さん怒ってる……うっうっうっうっ」




 アスカはベンチに座ってしくしくと泣き出した。




 「どうしよう……うっく」












 ぴんぽん

 ぴんぽん




 「綾波僕だよ碇だよ」




 がちゃ




 「こんにちは、碇君、惣流さん」




 レイが戸を開いた。




 「こんにちは綾波さん」
 「綾波こんにちわ」
 「なあに」
 「なあにって……あの」
 「さっき綾波さん、お、怒ってたみたいだから……」
 「なんで……私怒ってないわ……今日私忙しいからまた」




 ばたん




 レイは戸を閉じた。




 「綾波開けてよ」




 がちゃ




 中から鍵のかかった音がした。




 「鍵掛けちゃった」
 「うううう……やっぱり怒ってるんだぁ……しくしく」
 「綾波って頑固そうだからきっと開けてくれないだろうな」




 シンジは頭を掻く。




 「うううううううう…………しくしくしくしく」




 シンジは閉じたドアとアスカを交互に見つつ困っていた。












 「ふぅ〜〜〜〜ん。そういう事なんだ」




 ミサトはえびちゅ片手に頬杖をして聞いている。葛城家の夕食後の光景である。




 「ミサトさん私綾波さん怒らしちゃった……ぐす」




 うるうるとするアスカである。




 「でもそんなに怒るほどの事では無いと思うんですけど」
 「乙女心は複雑なのよ」
 「??」
 「シンちゃんはまだ判らないか……ねえアスカちゃん」
 「えっあの……どういう意味?」
 「あらぁ〜〜とぼけちゃって。今日デートだったんでしょ。このこの」




 アスカはそのつもりも少しはあったらしく顔を赤くする。




 「違いますよ。必要なものがあったから二人で買い物に行っただけですよ」




 ちょっぴりアスカが残念そうだ。




 「……ふう〜〜ん、そう。まあいいか。そうねぇレイちゃんの場合は言うなれば両親に見捨てられたって感じなんじゃないの。ちょっとおおげさだけど」
 「「両親?」」




 アスカとシンジがはもる。




 「そう。レイちゃんって感情の働きが戻ってきてからっていつもアスカちゃんとシンちゃんと一緒にいるでしょ。で二人を見て感情をどんどん取り戻していった訳じゃない。要するにアスカちゃんは母親シンちゃんは父親みたいなもんよ」
 「私が母親」
 「僕が父親」




 アスカとシンジは驚きの声を上げる。




 「そうね。レイちゃんはある意味まだ生まれてから数ヶ月の赤ちゃんと同じだわ。そんな赤ちゃんが両親に置いていかれたら泣いたりすねたり怒ったりするでしょ。そんな所なんじゃないかしら」
 「……そうなの……私お母さんなの……」




 アスカが俯く。




 「そうよ。もちろんレイちゃんの場合本当の赤ちゃんじゃないから泣いたり暴れたりする訳じゃないけどね。それに友達に仲間はずれにされたって思っているのもあるわね」
 「……後でちゃんと説明しなきゃ」
 「そうね。まあ落ち着いて考えられるように明日の方がいいかもね」
 「…………」
 「アスカちゃん、余り心配しなくてもいいわよ。明日になればレイちゃん機嫌直すわよ」
 「はい。判りました」
 「アスカちゃん元気無いわね。ビールでも呑む?」
 「……あのミサトさん」
 「なあに」
 「私……大人になって……お母さんになれるのかな」
 「どうしたの急に」




 アスカはミサトの顔を見上げる。




 「ミサトさんは私のママの事知ってる?」
 「ええ惣流・キョウコ・ツェッペリン博士よね」
 「うん」
 「ママの最後は?」
 「最後?」




 シンジが不思議そうに聞く。




 「…………知ってるわよ……」
 「??」
 「シンジ君……私のママ発狂して最後に自殺したって話はしたわよね」
 「う、うん」




 アスカは静かに話す。




 「ママ自殺する前に私を……私を殺そうとしたの。私を道づれにしようとしたの」
 「えっ……」




 シンジは絶句する。アスカは辛そうに話し続ける。




 「私今でも覚えてる。私の首を絞めるママの手の感触。苦しくて頭の中がキィーンと鳴って。ママがあなたを置いていかないわって言うのが微かに聞こえて。そこで意識がとだえて」
 「アスカさん……」
 「ママ狂っちゃったの……。EVAの実験失敗して狂っちゃったの。ほんとは私EVA怖いの……。私もママみたいに狂っちゃうんじゃないかって。私大きくなって大人になって子供生んでも育てられない様な気がして……。EVA怖いの……。でも乗りたいの。弐号機はママの作ったEVAだから。ママの残してくれたものだから。でも怖いの」
 「アスカちゃん……」
 「ミサトさんEVAってなんなの……。私怖いの。でも乗ると懐かしい気がするの。怖いけど乗らなければいけないような気がするの。乗っていると何か一緒にいるような気がするの。……私何言っているのかなぁ。私勉強して訓練してEVAうまく動かせるようになったのに……。私どうしたんだろ……」




 アスカは疲れたように表情が無くなっていた。泣いていなかった。




 「アスカちゃん。最近戦闘が無くて緊張がほぐれたから逆に心の疲れが出てきたのよ。心配しなくてもいいのよ。キョウコさんの頃はEVAの技術も低かったから不幸な事が起きたのだけど今はそんな事はないわ。あなたのお母さんの死を無駄にしたつもりはないわ。アスカちゃんこういう時はお風呂入って寝ちゃいましょ。そうだ一緒にお風呂入りましょ。ちょっち狭いけど」
 「う、うん」




 アスカが頷く。




 「じゃシンちゃん後片付けお願いね」
 「はい」
 「アスカちゃんは先入っててね。下着とか持って行くから」
 「うん」




 アスカは立ち上がりとぼとぼと浴室に向かった。




 「アスカさん大丈夫かな……ねえミサトさん」
 「……大丈夫だといいんだけどね。私達がEVAに乗れたらねぇ」
 「……ミサトさん、EVAって何ですか。僕も不思議なんです。戦闘の時は怖いけど、乗っていると何故か懐かしい気がするんです」
 「EVAは神経接続による操縦とATフィールドの発生を特徴とする汎用人型決戦兵器よ。それ以外の何物でもないわ」
 「……そうですか」
 「そうよ……さあてと私も行くかなっと」




 ミサトも浴室に向かった。しばらくシンジはミサトが消えた方をぼけっと見ていたがやがて立ち上がると後片付けを始めた。












 ミサトは玄関のドアの方でする物音で目が覚めた。今日は三人で居間に布団を敷き寝ていた。アスカを守るように両脇にミサトとシンジが寝ていた。今アスカとシンジは丸まってくっつきそうにすぐ側に寝ていた。二人を起さぬ様その場を音を立てずに離れる。側のテレビの後ろの隠しポケットに入れておいたデトニクスを取り出す。強靭な筋力で音を立てずに遊底を引き初弾を薬室に送り込んだ。
 今物音はダイニングの方からしていた。明かりが灯っている。ミサトは物音を立てずに近付いていく。




 「葛城ぃえびちゅもらってるよ。おっ下着に大きなTシャツ一枚だけとは色っぽい」
 「……なんだ。加持かぁ。あんたどうしたの」
 「なんだとは御挨拶だね。丁度こっちに来る用があって遅くなったから泊めてもらおうと思って」」
 「ふぅ〜〜ん、そう。丁度良かった。加持……抱いて」
 「それはそれは。どうしたんだい」




 加持はミサトが起き出してくるのを予測していたのかえびちゅを二本出していた。椅子にだらしなく腰掛けながら片方を呑んでいる。ミサトはデトニクスの撃鉄をハーフコックにして机に置く。隣の椅子に座るとえびちゅを呑み始める。




 「アスカちゃんが、EVAが怖いって。EVAが懐かしいって。乗らなくっちゃいけないように思うんだって……。そうぽつりぽつりと言ったのよ」
 「そうか」
 「私辛かったわ。とりあえずさ、慰めが欲しくなっちゃったのよ。昔みたいにめちゃくちゃにしてよ」
 「そうか……まあ呑もうや。呑んだら隣のフラット忍び込んですっか。ここじゃ二人が起きちまう」
 「そうね」
 「元気出せよ。威勢のいい方が葛城らしいぜ。まあしんみりしてるのも色っぽいと言えば言えるけどな」
 「そう……明日になったら元気出すわ。そうでないとあの子達が可哀想だから……」
 「そうだな……」
 「ねえ加持私の事どう思う」
 「どうって……そりゃマイハニーさ。麗しの君さ」
 「ふざけないで……どう思ってるの」
 「……俺が唯一惚れた女さ……」
 「そ……じゃさ……当分一緒に居てくんない……ちょっと疲れちゃって……なんなら結婚してあげてもいいわよ……あん時逃げちゃったけどさ……」
 「どうしたんだい……嬉しい申しでではあるけどね」
 「今日アスカちゃんとキョウコさんの事話してたのよ。あの子は母親への思いに囚われている。当然と言えば当然だわ。まだ13才だもの。でもさ……」
 「なんだい……」
 「私も同じだって気が付いたの。父さんへの思いに囚われてるって。八年前何で逃げ出したか判ったのよ。あんた父さんに似てるって事。自分の目標だけに突き進んで周りを不孝にして……そんなふうに思っていたのよ。今でもそうかも」
 「そうかい……まあ俺が我が道を行くタイプなのは認めるよ」
 「でさ私って加持の事、父さんに似てるから好きになったのか……好きになった男が父さんに似ていたのか考えたのよ」
 「で、どっちなんだい」
 「判らない」




 ミサトはえびちゅをぐっと空ける。




 「でもさ一つだけはっきりした事があるのよ。私加持の事好きなのよ。……私さ今支えが欲しいの。ごめん、勝手だと思うわ。こんな時にだけすがって。でもさ、もし許してくれるなら加持にすがりたいのよ」




 ミサトは立ち上がると冷蔵庫からえびちゅの缶を二つ取り出した。また席に戻る。




 「……確かにずるいな、葛城。俺が逆らえるはず無いの判ってて言うんだからな」
 「……ごめん」
 「じゃもう一度八年前の台詞を言うぜ。それに答えてくれ」
 「うん」




 ミサトは椅子にしっかり座り直した。加持もだ。




 「葛城」
 「はい」
 「俺の嫁さんになってくれ」
 「はい」




 しばらく二人は黙っていた。




 「やっぱ感激だな」
 「……」




 ミサトは椅子を加持の横に持ってくる。身を寄せる。




 「この場合抱きしめるのが普通かな……」
 「そう思ってるなら早くしなさいよ」
 「へいへい」
















 「ほらほらアスカちゃん、シンちゃん起きた起きた」
 「おはようございますミサトさん……ふぁぁぁ……早いですね」
 「ミサトさんおはよう。どうしたのこんなに早く」
 「たまにはね。でさぁ…………朝食作ったんだけど食べてくれる」
 「……」
 「……」
 「何でそこで黙るのよ」
 「そう言う訳じゃ」
 「アスカちゃんじゃどういう意味」
 「あっあの……まだ死にたくない……ごめんなさい」




 アスカは恐怖ですでに顔中涙でぐちゃぐちゃだ。




 「あなた達……よくそこまで言ったわね。何があっても食べてもらうわ」
 「ごめんなさぁぁぁい 。何も逆らいません。それだけは許して」
 「うっうっ……怖いよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉうぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」












 「あのミサトさん」
 「なに」
 「あの……食べられます」
 「ほんとシンちゃん」
 「ええ。お味噌汁。そうだよねアスカさん」
 「うん。この前作ってくれた殺人的な御味噌汁と違う。はっきり言ってまずいけど」
 「そう……」




 ミサトが少し黙る。




 「アスカちゃん」
 「なあに」
 「実は……私加持と結婚するの」
 「……!」
 「ごめんなさい、落ち着いて聞いてね」
 「うっうん」




 アスカは既に涙目でミサトを見詰める。




 「昨日夜加持が呑みに来たの。私……辛かったの……ごめんねこんな事あなた達に言う事じゃないんだけど……あなた達を戦場に送り込んでるのが……やっぱり辛いの……ごめんなさい……一緒に支えてくれる人が欲しいの……ごめんなさいアスカちゃんシンジ君……私だけ逃げちゃって……でも……」




 ミサトが俯いた。居間は静かになった。ずっと静かだった。




 「ミサトさん」
 「なあにアスカちゃん」
 「ミサトさん……支えてくれる人が欲しいだけなんですか?」
 「……違う。一緒に居たいの。今は支えてもらうだけになるけど……いつかは支えてあげたいの。私……私……」




 ミサトは言う。




 「ごめんなさい。私やっぱり加持が好きなのよ。気付いちゃったのよ。昔無理に振ったけど駄目だったの。ごめんなさい……アスカちゃん」




 ミサトは俯いたままだった。シンジは二人の会話に入れない。アスカはミサトを見詰めて言う。




 「ミサトさん私に断る必要なんか無いわ……でもずるいな……同じ頃に生まれたの。やっばり私じゃお子様だもん」
 「アスカちゃん……」
 「でもいいの……ぐすん……ミサトさんも加持さんも二人で居ると幸せそうだもん。勝てないって判ってたもん。でもずるいな。同じ頃に生まれてたら勝てたかもって……」
 「そうね……私ももし御嫁さんにするなら私よりアスカちゃんがいいと思うわ。でも絶対誰にも加持は渡さない。スケベでキザで馬鹿で女ったらしで……でも世界で一番私を愛してくれて、私も一番この世で一番愛してる、加持は私の、私は加持の……それ以外無いのよ」
 「ミサトさん。僕はおめでとうって言います。嬉しいです」
 「ミサトさん。私も……悔しいけど……おめでとうって言うわ。……ぐす。うんやっぱり二人の間割り込めそうに無いもの。それにミサトさん貰らってくれるぐらい心の広い人って加持さんぐらいしか居ないから」
 「ありがとう」
 「ただし二つ条件が有るわ」
 「なあに」
 「絶対幸せになってね。そうじゃなかったら私加持さん誘惑しちゃうから」
 「もちろん幸せになるわ。そのつもりよ」
 「それと……これは絶対よ。料理覚えて……今のミサトさんの料理毎日食べたら……加持さん病気になっちゃう」
 「……そう。私の料理個性的だから」
 「ミサトさんそれは違います。個性的じゃなくてまずいの間違いです」
 「はっきり言わなくても……」




 珍しくミサトが弱気である。




 「か、もしくは料理は加持さんがやって残りの家事を全てミサトさんがやるとかの分担制にした方がいいです」
 「それが現実的かもね。加持明日にはここに引っ越してくるからその時家事の分担は決める事にしましょう」
 「えっ加持さん一緒にここに住むの」




 アスカが驚く。




 「そうよ。加持持ち物なんて着替えぐらいの男だから私が加持のマンション行くより楽だし……だいたいあなた達と一緒に住まないと意味無いしね」
 「部屋ありませんよ」
 「別に問題無いわ。あいつが私の部屋に一緒に住めばいいのよ。それこそ持ち物が無いから大丈夫」
 「じゃあ、すぐにミサトさんは加持ミサトになっちゃうの?」
 「今日司令の許可を貰らったらね」
 「えっ、どうしてシンジ君のお父さんの許可が要るの?」
 「ネルフの職員は結婚や妊娠や恋愛の自由は制限されてるのよ。上司の許可がいるわ。私の場合は司令ね。それに父さんが死んで三年後に母さんも死んでから司令は親がわりだし……」
 「……知らなかった……ミサトさん……父さんに利用されているだけなんじゃ……」
 「シンちゃん、そんな事無いわよ……って言っても信じないか。まだまだ時間がかかるわねこっちの話は」
 「ミサトさん……父さんの話はよしましょう。僕はまだよく判りません。まだもっと考えたい……」
 「そうね……時間はたっぷりあるわね」
 「ミサトさん」
 「なあにアスカちゃん」
 「私二人にどう接すればいいの……やっぱりミサトさんずるい。いきなり結婚するって言って。しかも明日から一緒に住むなんて……ぐす」
 「え〜〜と、その、ごめん。今まで通り……とは行かないか。でもさ、結婚してもあいつは多分浮気者のままでいつもと変わらないだろうし、私も一緒に居るからってべたべたはしないだろうし、実質的に変わるのは加持がいつもこの家に居るって事ぐらいよ。いつもって言ったってあいつはもともと家に居る事が少ないし。アスカちゃん加持に甘えるのは今まで通り自由よ」
 「……余裕見せてる……ぐすん」
 「あっあの。そう言う意味じゃなくて……年上の人に憧れたり甘えたりするのも重要と言うかごく普通な事だし、その……アスカちゃん私達夫婦の妹になってね。ごめんなさいね。やっぱり私って日常の事って無能力者なのね。何かするとすぐ二人に迷惑掛けちゃう……」
 「ミサトさんそんな暗い顔しないで。せっかく結婚決心したんだから」
 「……ミサトさん……私まだなんか納得できないけど……祝福するわ。そんなミサトさんが暗い顔すると加持さんまで可哀想だし。それにミサトさんの事お姉さんだと前から思っているし……だから……その……おめでとう」
 「……ありがとう二人とも……」
 「私今日から小姑になるわ。加持さんが幸せな結婚生活送れるようにミサトさんをしっかり教育するの」
 「そうだね。今度は加持さんがミサトさんから逃げ出すようになったら冗談にならないし」
 「……この、そこまで言う。……でもよかったわ。二人にちゃんと祝福してもらえて」
 「私二人とも好きだから……でも加持さん不幸にするようだったら私が誘惑しちゃうからね」
 「いいわよ。そんな事は絶対無いから」
 「あ〜〜あ惚気てる。リツコさんみたいだ」
 「いいじゃない。リツコみたいと言えば私達当分夫婦別性で行くわ。仕事の関係上ね。入籍は済ますけど。だから当分葛城ミサトよ」
 「そうなんだ」




 アスカもいつのまにか泣きやんでいる。




 「あらもうこんな時間よ。実はさぁ……二人のお弁当作ってみたのよ。これ」




 ミサトは立ち上がりキッチンからアスカとシンジの弁当箱を持って来た。




 「えっおっお弁当ですか」
 「……ううう……お弁当」
 「食べてくれるわよね……」




 にやり




 ミサト逆襲である。




 「アスカさん……加持さんの為だ……命がけで食べようよ」
 「うん……ぐす……ううう……加持さんの為に犠牲になるわ……愛って耐える事なのね……うううううううう」
 「あんた達ねぇ〜〜〜〜」




 やはり朝から騒がしい葛城家であった。












 「シンジ君」
 「なあにアスカさん」




 二人は並んで登校途中である。レイの待つベンチへ向かう所だ。




 「昨日からなんか疲れちゃった……」
 「そうだね」




 アスカはぴとっという感じでシンジに肩が付くぐらいひっついて歩いていく。




 「ミサトさん幸せそうだったね」
 「うん」
 「アスカさんも元気出してね」
 「うん。……でも当分誰かを好きになれないなぁきっと。ねえシンジ君」
 「そんな事ないよ」
 「そうかなぁ」




 二人は歩いていく。




 「シンジ君……」
 「何?」
 「シンジ君…………私の事どう思ってるの……」
 「えっ……その……」
 「……ううん……いいわ。今の質問やっぱり忘れて」
 「あ……うん」




 少しアスカは肩を離す。二人は無言で歩いていく。歩調が落ちた二人を他の通学途中の生徒達が追いぬいていく。




 「シンジ君……」
 「……なあに」
 「綾波さん待っていてくれるかなぁ」
 「いるよきっと。綾波って優しいし……ミサトさんも大丈夫って言ってくれたじゃないか」
 「う、うん」




 また二人は黙って歩いていく。学校の人気者二人がいつもとは違う雰囲気で歩いているのを見て興味津々で眺める通学中の生徒も居る。




 「あ、綾波だ」
 「綾波さんだ」




 二人がいつもの場所に着くと、レイはいつもの様にベンチに座っていた。いつもの様に文庫本を読んでいた。




 「綾波」
 「綾波さん」




 二人の声にレイは気が付いたようだった。すばやく立ち上がると鞄から封筒をとり出す。封筒をアスカに握らすと、レイは駆けていった。




 「あ、綾波さん」
 「綾波」




 レイは思いっきり走っているらしく二人が呆然としているうちに姿が小さくなり、角を曲がって見えなくなった。






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