TOP 】 / 【 めぞん 】 / [まっこうの部屋]に戻る/ NEXT

めそめそアスカちゃん6・キスとめそめそ







 「うぇ〜〜ん。しくしく。うぇ〜〜ん。しくしく」
 「惣流さんどうしたの」




 朝教室にぼけーっとした顔のシンジと一緒に泣きながらアスカが入って来た。それを見てヒカリが慌てて聞く。




 「しくしく。裸で……うっく……五時間も……ひっく……シンジ君……うっく……」
 「なっなんやてぇ〜〜〜〜センセとうとう……」
 「碇……大人に……」
 「ふ不潔よぉ〜〜〜〜」
 「誤解だょぉ〜〜〜〜」
 「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
















































 その子は奇麗で可愛くて才能豊かで魅力的。
 みんなも知ってる中学生。
 でも彼女には一つ秘密があったのです。
























 彼女は




























     泣き虫だったのです




















めそめそアスカちゃん6

キスとめそめそ



























 「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「アスカさぁ〜〜ん。頼むからちゃんと説明してよ」
 「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「そうだ綾波説明してよ」
 「昨日三人とも裸で五時間いたの」
 「やっぱりそうやないけ。しかも綾波もやないかぁ〜〜」
 「三人で……碇は遠い所へ行ってしまったんだな」
 「不潔よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「綾波説明を省略しないでよぉ〜〜」
 「昨日プラグスーツなしでEVAに乗るテストをしたの。その時ネルフの電源系に故障が起きて裸のまま五時間エントリィープラグにいたの」
 「そうなんだよ。で独りぼっちで暗いところに裸で五時間もいたんだ。だから怖かったらしくって昨日からアスカさんずっと泣いているんだ」
 「そないな事かいな。センセすまん誤解みたいやな」
 「昨日からアスカさん泣き通しなんで僕まで眠れなかったんだ」
 「ひぇぇぇぇぇぇぇぇん……シンジ君……うっく……冷たいよぉぉぉぉぉぉぉ〜〜うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「あっごめん。頼むから泣きやんでよぉ〜〜」




 ようするにイロウルである。それにしても相変わらず賑やかな2−Aであった。












 「え〜〜と今日のLHRの議題ですが、そろそろ学園祭も近づいてきましたので2−Aの出し物を決めたいと思います」




 ヒカリが黒板の前で言う。一時間目はLHRである。あれから担任の八谷先生が懸命にアスカを慰めた。その甲斐もあってアスカは泣きやんだが八谷先生は疲れきって教室の隅の椅子でぐったりしている。LHRでは席は自由に動かせるのでレイはアスカとシンジの側の席に代わっている。




 「皆さん何を学園祭で発表したらいいか手をあげて発言してください」
 「タコ焼き屋や、これしかない」




 トウジが気合のこもった声で言う。




 「タコ焼き屋」




 ヒカリは黒板に書いていく。




 「あの……喫茶店がいいと思います」




 アスカが言う。料理の腕を奮えると思っているのだろうか。




 「劇がいい」
 「うぉぉぉぉぉぉ」




 レイが手を挙げて発言すると、驚きの歓声が教室にあがった。レイは仲間のあいだ以外では未だほとんど話さない。




 「綾波が発言した……」
 「しかも劇がいいって……」
 「綾波が一番言いそうに無い劇だって……」




 ざわざわざわざわ




 「はい、静かにして」




 ぴた




 静かになる。さすがヒカリである。




 「他にはありませんか……ではこの中から多数決で決めたいと思います」




 結局タコ焼き屋はトウジのみ、劇と喫茶店は僅差で喫茶店に決まった。




 「劇やりたかった」




 少しレイがしょんぼりしているようだ。




 「あっごめんなさい。私が喫茶店なんて言ったから劇できなくて。ごめなさい……しくしくしくしく……ひっく」




 アスカがしゃくり始める。




 「惣流さん泣かないで。私喫茶店でもいい。コーヒー好きだから」




 レイはそう言ってから不思議そうな顔になる。




 「私コーヒー好きなの」




 アスカとシンジは気付いた。またレイが昔を思い出している事を。




 「だめ綾波さん考えちゃ」




 アスカは泣いてるどころではなくレイを止めた。




 「うん」
 「よかった。綾波、アスカさんいい事があるよ。こう考えたらどうかな。綾波はウェイトレスやコックさんの役を演じるんだ。もちろんそれ自体もしっかりやらないといけないけど。たとえば一時間毎に服装を変えてウエイトレスをしてそれを役として演じきってみるとか」
 「そう。いいかもしれない」
 「あ、そうね。服もいっぱい着れるし」




 シンジの提案にレイとアスカは結構乗り気なようだった。




 「センセそれいいわ。ついでにメニューにタコ焼きも入れるちゅうのはどや。それをお茶と共に浴衣の女子が運んでくる……かぁ〜〜いいやないか」




 いつのまにやら近づいていたトウジは、未だにタコ焼きから頭が離れないらしい。




 「それはナイスだね。それに出来たら一時間毎ぐらいに男子と女子でウェイターとウェイトレスを交換するんだ。そうすれば綾波さんや惣流さん目当てと碇目当てが入れ代わるしね。出来たら毎回服装も変えるとよりいっそういい。これ提案していいかい」




 やはり近くに来ていたケンスケが言う。




 「いいけど……僕目当てって」
 「センセは気にせんでいい」
 「そう」




 シンジは不思議そうである。アスカやレイほどではないがシンジの生写真も結構女子に人気がある。
 ケンスケの提案は意外にもあっさり皆に受け入れられた。












 「へぇ〜〜面白いわね」
 「ほんとね」




 その日のシンクロテストも終わり赤木研究室でチルドレン達とリツコ、ミサトなどがくつろいでいた。




 「レイちゃんも劇できなくて残念だったけどまた来年の学園祭までお預けね」
 「来年私きっと生きてない」




 レイはぽつりと言う。




 「な、何を言ってるのレイちゃん。生きてるに決まってるでしょう。来年だってその次の年だって生きてるに決まってるじゃないの」




 リツコが逆上したような声を出す。思わずアスカが涙目になったくらいだ。




 「あ……ごめんなさい。驚かしてちゃって。でもそんな事ないからね。私達の命と魂にかけてもそんな事はないから。信じてね」
 「そうよレイちゃん。史上最強のマッドサイエンティスト赤木夫妻とこの世で一番の美貌と強運と発案能力を誇る戦略家が付いているのよ。死ぬなんて事は絶対ないからね」
 「そうだよ綾波。僕とアスカさんも一緒だから大丈夫だよ」
 「うん」
 「そうよ。ぐす。来年は一緒にシンデレラの役競いましょう。ぐす」
 「うん。そうする」
 「そうね。頑張って今から練習していくのよ。そうそう、ところで喫茶店やるのよね」
 「うん」




 アスカはごしごしと鼻の上をこすりながら言う。




 「それなら一週間待ってくれないかしら」
 「何を」
 「実は前から究極のコーヒーメーカーを研究していたのよ。この研究室にあるこれも私が研究した物なの。これでもそこいらへんの喫茶店なんか敵ではないぐらい美味しいコーヒーを入れるわ。でも私に言わせるとまだまだなのよ」




 リツコのお目目がキラリンと光る。皆その異様な迫力に少し引いてしまった。




 「それを一週間で仕上げるわ。あと今レイちゃん用にあるホットミルクメーカーを微調整して、それと自動給茶装置や自動ケーキ製造器と自動タコ焼き機も作らなきゃ。……ミサト」
 「なっなにリツコ」




 いきなりぎろりと視線を向けられびびるミサトである。




 「ナイを一週間借りるわよ」
 「ど……どうぞ、一体何をやらせるの」
 「資材の調達と試飲・試食係よ。飲んで飲みまくって食べて食べまくってもらうわよ」




 あわれ青桐三尉は一週間毎日コーヒーを飲み続けさせられ、ケーキとタコ焼きを食べ続けさせられ、全然眠れない上に○kgも太ってしまうという悲惨な目に合ってしまったという。さすがに可哀想な為ミサトが特別に休暇を与えたということである。もっともその特別休暇の一週間は毎日ネルフ内のプールに通い元のナイスバディに戻るのに費やしたそうである。




 「ところでウェイレスとウェイターの切り替えの時に衣装も代えるのよね」
 「そうです」
 「ならばっと……ちょっとマヤぁ〜〜来てくれる」
 「はぁ〜〜い先輩」




 赤木所長を先輩と呼べる唯一の人物伊吹マヤがひょこひょことやって来た。相変わらず妙にバランスが悪そうだ。




 「マヤ今度アスカちゃん達学園祭で喫茶店開く事になったのよ」
 「へえ〜〜そうなんですか。アスカちゃんやレイちゃんのウェイトレス姿可愛いでしょうね」
 「そう、それなのよ。であなたのコレクション使いたいのよ。あの頃あなた結構体つき小さかったからばっちりじゃないかと思って」
 「そうですね……いいですよ」




 勝手にリツコとマヤの間で話が進む。チルドレン達はきょとんとしている。




 「あのぉ〜〜話がよく判らないんですけど……」




 アスカが言う。




 「あら、ごめんなさいね。実はマヤって伊吹財閥の跡取り娘なのよ」
 「え……結構有名ですよね、伊吹財閥って……」




 シンジが驚いてマヤをまじまじと見る。マヤは手のファイルを顔に当てて照れている。




 「でこの子、17歳ぐらいの時コスプレにはまったのよ」
 「「「コスプレ」」」




 子供達がユニゾンする。




 「そうコスプレ。ありとあらゆる種類の衣装をそろえてたわ。ウエイトレスやウェイターの衣装も有ったわよね」
 「ええ日本に存在した全てのファミレス、喫茶店、ファーストフードの制服を男女とも、他にもスチュワーデスや看護婦さん、女医さん、先輩みたいな女性のエンジニア、もちろんネルフの全種類の制服、まず日本で制服と言えるもので無いものはないです。ほかにも時代劇の衣装とかも……計一万着ぐらいあります」




 マヤが少し顔を上気させ拳を握り絞めて話し出した。




 「確か男物も有ったわよね」
 「はい先輩。私が男装した分と弟が着た分もあります」
 「マヤには三つ歳下の弟がいてね……次期伊吹財閥の当主なんだけど……その子にも無理矢理つきあわさせたのよ」
 「男物も五千着は有ります。双方とも窒素封入で保管してるの。私の大切な青春の思い出なんで保管用の家を一軒建ててもらってじいやが管理しているわ」
 「家一軒……凄い。あのじいやって」




 アスカが不思議そうに聞く。




 「じいやって私のお付きの執事なの。私が小さい頃からいつも側にいてくれたわ。トビヲと付きあったのもじいやが信頼できるって言ったからなの」
 「マヤったらネルフに入ったから次期当主候補から外れちゃって、勘当とは言わないけど実家とは行き来あまり無いのよね。私なんかその件で伊吹財閥に怨まれているわ。あのじいやだけは別みたいだけどね」
 「お父さんやお母さんは」




 シンジが聞く。この手の話は気になるようだ。




 「セカンドインパクトで死んじゃった。気にしなくていいのよシンジ君。私には先輩もトビヲもじいやもいるしね」
 「可哀想マヤさん……しくしくしくしく……うっくひっく」
 「アスカちゃん泣かない泣かない。それに可愛い弟や妹がここにはいるし」
 「うん……ひっく……」
 「じゃ先輩、ネルフの女子寮に隣接している多目的ホールに衣装を運んでそこでアスカちゃん達のクラスメイトに選んでもらいましょう。どうせもう着れないんだし仕立直ししてプレゼントするわ」
 「すっごぉ〜〜い」




 おもわずアスカは言う。涙も引っ込んだようだ。




 「いいんですか」




 心配性のシンジらしい。




 「いいわよ。その方が衣装も喜ぶもの」
 「私に着られるものある」




 レイが聞く。最近は衣服にも興味が出てきたようだ。




 「もちろんよレイちゃん。絶対有るわ。さてと準備しなくちゃ」
 「マヤちゃんちょっち待って。少し考えた方がいいわ」
 「なんでですかミサトさん」
 「マヤちゃんネルフの職員だから色々と言われるわよ。衣服で子供達を手なづけようとしているとか」
 「え……そんな気は全然有りません」
 「もちろん知っているわ。だから一応形式だけどお金は取ったほうがいいわよ。仕立て代として……そうね一着に付きファーストフード一回分ぐらい」
 「なるほど」
 「ミサトにしてはいい考えじゃない。この子そういう金銭感覚ないから」
 「リツコだって億万長者じゃない」
 「リツコさんもそうなんですか」




 アスカは驚く。




 「そうよ。赤木家って結構由緒有る旧家だし、それとは関係なしにナオコさんとリツコと西やんの特許料で裕福なのよ。貧乏なのは私と加持よ。親戚縁者どこをどう探しても貧乏人よ」




 あれだけ呑兵衛でカーマニアならなお更だとシンジは思った。口には出さなかったが。




 「まっそれはともかく、どうかしらマヤちゃん」
 「そうですね。額は後で考えてみます」
 「それがいいわね。私もそれまでに機械を仕上げるわ。試飲・試食会も兼ねましょう。アスカちゃん達もそれでいいかしら」
 「はい。明日学校でそう提案してみます」
 「来週が楽しみだね」
 「「うん」」




 シンジの声にアスカとレイが元気に静かに応えた。
















 翌日授業が終わった後のHRでマヤコレクションの事を発表すると大反響が有った。




 「今皆の端末に転送したデーターが全部マヤさんのコレクションです」




 アスカが教壇の前に立って言う。シンジが端末を操作してデーターを学校のデータベースに入力したようだ。




 「これ奇麗だわぁ〜〜」
 「をこの制服いいじゃないか」
 「うわぁ。この服えっち〜〜」




 教室の皆は端末をばんばんと操作して歓声を上げている。




 「この服ほんとにくれるんですか」




 女子生徒の一人が言う。




 「ただではありません。この服を皆に仕立てしたて直す代金を貰らうそうです。一着につきファーストフード一回分ぐらいにするつもりだとマヤさんが言っていました」




 アスカが答える。




 やすうい〜〜




 教室のあちこちから声があがる。




 「それにさ、きっとその代金も実質的にはただになると思う。昨日碇に聞いた後伊吹さんと赤木さんに連絡して聞いたデータを元に計算したんだ。予想売上、器材のレンタル代、材料費その他を計算に入れてもその衣服代は軽々出るよ」




 ケンスケが手を上げ発言する。さすがにこういう計算はうまい。




 「皆もしこの提案に異議が無ければ早速連絡しますけど」
 「あのほんとに兄弟もこの衣装もらっていいんですか」
 「いいそうです。ただそれ以外の関係者はだめだそうです。あまり人数が多いと混乱するのでこうしました。一人が何着手に入れてもかまわないそうです」
 「今おこずかいが無い場合は」
 「伊吹さんが2ヶ月間立替えます。ただしその場合お金で揉めるといけないので前もって親権者の許可を貰らってきてくださいとの事です。後何かありますか」




 特に何も無い様だった。




 「じゃあ連絡しておきますので。それと明日中に自分が着たい服十着ぐらいをピックアップしてカタログ番号を相田君にメールしておいてください。今のところ衣装の試着会は次の日曜日の午前、コーヒーやケーキの試飲・試食会は午後の予定です」
















 土曜日は晴れていた。




 「ねえ惣流さん、私達だけ先に衣装試着したりしていいのかな」




 ヒカリが言う。シンジ、アスカ、レイ、トウジ、ヒカリ、ケンスケはネルフの多目的ホールへ向かっていた。




 「いいんじゃないかな。だって明日は僕たち案内係みたいなものだから」




 シンジが答える。




 「そやそや気にする事ない」
 「私鈴原みたいにずぼらじゃないもの」
 「なんやてイインチョもう一度いうてみ」
 「まあまあ夫婦喧嘩はついてからにしようよ」
 「「夫婦やない(じゃないわよ)




 ヒカリとトウジは顔を真っ赤にして怒鳴る。




 「見事なタイミングだよね碇」
 「ほんとうだケンスケ。僕とアスカさんのユニゾンの時よりぴったしだね」
 「私もそう思う」
 「私も」
 「…………」
 「センセいい度胸や……最近よくいうやないか」
 「と、トウジ落着くんだ」




 最近は使徒がでない為平和である。












 「へえ〜〜中奇麗なんだ。僕ここに入った事ないから知らなかった」
 「私も」
 「私も」
 「さすがネルフの施設や。つくりがしっかりしとるで」
 「そうね」
 「天井も高いし」
 「まあね」




 マヤがネルフの多目的ホールの中を案内する。




 「今日はナイさんこないんですか。ここのところ見ないですけど」
 「実は……ナイねぇ……自動ケーキ製造器で出来たケーキの試食を一週間続けたらね……ウエストが○cmも増えちゃって……ミサトさんがダイエット休暇許可したから一週間お休みよ」
 「ウエストが○cmも……うっうっ可哀想……可哀想よ〜〜〜〜びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「うわアスカさん落着いて」
 「だってウエストが○cmよぉ〜〜うわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわん」




 何があっても騒がしいメンバーであった。




 「ぐすん、ぐすん……凄い」












 多目的ホール内の集合所にはこれでもかというほどの衣装が並んでいた。びーびーと泣いていたアスカも泣きやむ程だ。入り口の近くに一人の初老の男が立っていた。品のいい笑いを浮かべている。




 「じいや子供達を連れてきたわ」
 「お嬢様準備はととのってございます」
 「紹介するわ。じいやよ」
 「お嬢様付きの執事をしております斉藤リュウと申します。何なりとお申しつけください」




 リュウは穏やかな微笑みと共におじぎをする。子供達も慌てておじぎをする。




 「僕碇シンジです」
 「私惣流・アスカ・ラングレーです」
 「綾波レイです」
 「洞木ヒカリです」
 「鈴原トウジです」
 「相田ケンスケです」




 次々と自己紹介になった。




 「あの〜〜なんて呼んだらいいんですか」




 アスカがリュウに聞く。




 「ご自由にお呼びください」
 「じゃあじいやさんでいいですか」
 「もちろん結構ですよ。ところでマヤお嬢様今日はどのようにいたしますか」
 「そうねこの子達の服選びに三時間ぐらい。丁度おやつの時間になるので先輩の自動タコ焼き機や自動ケーキ製造器で焼いたタコ焼き、ケーキ、コーヒーメーカーや自動給茶機のコーヒーやお茶でおやつね」



 「かしこまりました」
 「先輩は」
 「先程より機械の最終調整と申されて隣室にいらっしゃいます。終わるまでは立ち入らないでくれとの事です」
 「そう。それじゃさっそく試着しましょうか。じいや着付けや仕立ての人達は」
 「はい。ただいま」




 パチ




 リュウが指を鳴らすといきなり背後から数人の男女が現れた。男はリュウと同じく執事の姿、女はメイド姿である。子供達はいきなりの登場にびっくりした。




 「ご用がございましたらなんでもこの者達にお申しつけください」




 リュウの言葉と共に執事とメイド達はおじぎをした。




 「は はい」




 シンジがびっくりしながらも返事をした。




 「じゃ皆好きな服選んでね」
 「「「はい」」」




 子供達は散りじりになり自分の選んでおいた服を探し始めた。番号が振ってあるとはいえ数百着もあるので大変だ。




 「マヤさん、折り入ってご相談が有ります」
 「なあにケンスケ君」
 「実は自分はネルフの制服が着たいであります」
 「ネルフの制服……」
 「以前碇がいえ碇君が来ているところを見たであります」
 「あれね。IDカードを作る為にシンジ君とアスカちゃんとレイちゃんは制服作ったわよね」
 「ぜひ…ぜひとも、お願いいたします」




 ケンスケは腰を90度以上曲げる様なお辞儀で頼み込む。




 「ケンスケ君頭を上げて。ん〜〜困ったなぁ。ネルフの制服って特殊なのよ。なんせ着ているとよほどの事が無い限りフリーパスだから」
 「そこを曲げでぜひぜひ」
 「どうしよう。じゃちょっと待ってね。先輩に聞いてくるから」




 ぱたぱたぱた




 マヤは隣室に小走りで駆けていった。一方集合所の反対の着衣室では早速ヒカリがお目当ての着物を着付けてもらっていた。江戸時代の飯屋の娘の衣装だ。着衣室は八つ作ってある為今日は一人が一つずつ使っている。ヒカリは着付けてもらうと早速皆に見せに行く。




 「どうかなぁ」
 「イインチョよく似合うやないか。それでタコ焼きと茶、盆に乗せて運べば町角の看板娘や」
 「そう……」




 ヒカリは赤くなっている。




 「え〜〜ワシはあったぁ。阪神ウルフズのユニフォームや」




 ヒカリが下を向いてもじもじしている間にトウジはさっさと行ってしまった。ヒカリ、残念。








 「碇君、どう」




 飛行機のパイロットの制服を探していたシンジは声の方に振り向く。




 「……」
 「……似合わない」




 そこには黒いスーツをピシリと決めた男装のレイが立っていた。微かに眉が心配そうに歪んでいる。




 「……そ、そんな事ないよ。とっても似合うよ。奇麗なんでびっくりしちゃった」
 「そう」




 レイはそう言うとくるっと後ろを振り向いてすたすたと歩いていってしまった。着衣所に入る。




 「あ綾波どうしたの。あれ僕変なこと言ったかな」




 シンジは心配そうに着衣室の方を見ていた。シンジが悩んでいると後ろから声がした。




 「シンジ君どうしたの」
 「うん綾波が……あ、アスカさんひらひらしてる」
 「うん」




 シンジが振り返るとそこにはファミリーレストランのウェイトレスの格好をしたアスカがいた。超ミニスカートにひらひらのいっぱい付いた薄手の上着である。




 「それどこの」
 「これア○ナミラーズっていうファミリーレストランのウェイトレスの制服なの」




 シンジは目のやり場に困った。アスカのすらっとしていながらしっかりとした両足がミニスカートから伸びていた。その上中学生とは思えない豊かな胸がきつそうに薄手の上着を盛り上げていたからである。




 「どうシンジ君」




 アスカはスカートの裾をつまんでターンした。




 ぶち




 丁度一回転してシンジのまっ正面にアスカが向いたところだった。むりやり押し込めていたアスカの胸が回転した時の遠心力で上着のボタンを弾き飛ばし丸見えになってしまった。白い下着に包まれた豊かな胸が完全にはみ出した。




 シンジはぽかんと口を開けていた。アスカは表情が凍りついていた。少しの間静寂があたりを覆う。




 「びびびびびぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」




 フルパワーのアスカの泣き声があたりに響いた。側にいたトウジが駆けよって来る。




 「どうしたんやぁ〜〜。なに惣流胸はだけとるやないけ。センセ何したんや」
 「ト、トウジ誤解だよ」




 アスカはぺたんと床に座り込み手はぺちゃっと垂らし大きな口を開け上を向いてびえびえ泣いている。胸もはだけたままである。シンジはおろおろしている。




 ばさ




 その時だった。すっと近づいていた執事のリュウが自分の上着をアスカの前に掛け胸を隠した。そして足を床で鳴らし、アスカの目の前で指を鳴らす。




 とん ぱち




 すると不思議な事にびえびえ泣いていたアスカがいきなり泣きやむ。涙目ではあるが何かきょとんとした顔になる。リュウが指を鳴らしたと同時にメイドの一人が近寄って来ていた。




 「さ、お嬢様あちらでお着替えください」




 リュウはアスカを胸が見えない様に立たせる。アスカをメイドが支えて試着室に連れて行く。途中でアスカはまた泣き出したがぐすぐすと鼻をすする程度である。




 「……どうなったんですか。アスカさん」
 「そや訳わからん」




 シンジとトウジが訳の判らないといった表情でリュウに聞く。




 「あれは一種の催眠術です。マヤお嬢様も昔は泣き虫だったのでよくああやって……おっとこれは内緒ですぞ」




 リュウは口の前に指を立てて微笑む。その穏やかな笑顔にシンジとトウジも思わず微笑んでしまった。




 「アスカちゃんどうしたの、じいや」




 マヤが丁度やって来る。




 「アスカお嬢様は…………です」
 「そう。でアスカちゃんは」
 「お嬢様は今試着室で着替えておいでです」
 「そう。じゃ出てきたらシンジ君慰めてあげてね」
 「はい」




 やがてレイやヒカリ、ケンスケも集まってくる。アスカの泣き声で集まったのであろう。シンジが状況を説明した。




 「もう少しすれば惣流さん出てくるわね」




 ヒカリが言う。




 「そうだね」




 シンジが答えた。




 「そうそうケンスケ君、さっきの制服の事なんだけど」
 「はい」




 マヤの言葉にケンスケは直立不動で返事をする。




 「先輩に相談したら、一着プレゼントするって。いつもシンジ君達がおせわになっているからって」
 「そ、そうでありますか。この相田ケンスケご恩は一生忘れません」




 ケンスケは深々とお礼をする。




 「但し条件が有るの」
 「どんな、でありますか」




 ケンスケは顔をあげると心配そうに聞く。




 「条件として、まず町中では着ない事、自分の家以外の建物で着る時は必ずネルフの職員と一緒の時に限る事。ただしネルフの職員はシンジ君やアスカちゃんレイちゃんも含むわ。もちろんこの制服を悪用したら子供とはいえ刑罰が待ってると考えてね。でさすがに高級職員用……チルドレンや私達などの制服はだめね。D級職員用になるけどいいかしら」
 「もちろん結構です。ありがとうございます」
 「そうそれじゃ来週までには作っておいてあげるわ。サイズ計ってもらってね」




 マヤがそう言うと執事の一人がさっと寄ってきた。




 「あちらへどうぞ」




 執事はケンスケを試着室に連れていった。












 「リツコはん前からただ者や無いとは思ってましたんや。このタコ焼きたまりまへん。自動タコ焼き機で作ったのとは思えまへん」




 先程からトウジが感動している。




 「ありがとう。気にいってもらえて嬉しいわ」




 リツコが微笑みを返す。皆が試着を終えたのは丁度三時だった。子供達とマヤ、リュウは隣室でリツコの機械によるケーキやタコ焼き、コーヒーやお茶を味わっていた。




 「でもナイさん可哀想ですね」
 「そうねぇ。見る間にぷくぷくとしてきちゃって。でも初めに言ったのよ、太らないための薬あげようかって。それ断っちゃうから」
 「えっいくら食べても太らない薬が有るんですか」




 ヒカリが目を輝かせて聞く。アスカも身を乗り出す。レイとマヤは特に興味が無い様だ。




 「ええ、ちょっと副作用が有るけど」
 「リ、リツコさんの薬の副作用…………」
 「あらアスカちゃん試してみる」




 プルプルプルプル




 アスカは思いっきり首を横に振った。薬を無理矢理飲まされるところを想像したのか目に涙を浮かべている。




 「へんなアスカちゃんね。副作用と言ってもちょっと動物っぽくなるだけよ」




 ニコっとリツコは笑いかけた。が皆はニタリと笑われたように思った。全員引いてしまった。マヤやレイ、リュウまでもがである。




 「みんな変ね」
 「あっこのシュークリームキ美味しいですね」




 ヒカリが何とか立ち直り聞く。




 「そう。よかったわ。ケーキを焼くのは自動的にやってくれるけど生地作りは人間の手でするようになっているわ。そうじゃないと皆の腕の奮いどころが無いでしょ。このコーヒーメーカーもちゃんと味の調整つまみを残しておいたから」
 「さすが先輩。教育的観点も外さないですね」
 「そのとおりでごさいます。さすがリツコ様」
 「あらじいやもやあね。リツコ様なんて。リツコさんとか君でいいわよ」
 「いいえお嬢様の命の恩人にそのような事は申せません」
 「リツコさんってマヤさんの命の恩人なんですか」




 シンジがびっくりして聞く。




 「じいやったらおおげさなんだから。昔マヤが誘拐された時奪い返したのよ。シンイチとプチ、ビーと協力してね。マヤが赤ちゃんの頃だけど。そしらこの子ったらなついちゃってね」
 「プチ、ビーって誰ですか」
 「昔飼ってた猫よ。これ以上は秘密」
 「え〜〜聞きたい」




 アスカが言う。




 「ちょっとね。この話はお終い」




 少し厳しい口調でリツコが言う。なんとなく気押されて皆は聞くのを止めた。




 「そうそう、じいやこのアイスコーヒー試してくれない」




 リツコはそう言うと少し厚い陶器のようなコップを差し出す。




 「氷が入っていると徐々にコーヒーが薄まってきちゃうでしょ。だから容器自体に冷却機構を付けたのよ。それでも元のコップより50グラム重くなっただけよ」
 「なるほど。それでは失礼いたします」




 リュウは優雅な手付きでコップの取っ手をつまみコーヒーを口にした。




 「この雑味のない味は……水出しコーヒーですか」
 「さすがね、じいや。そのとおりよ」
 「いえ。そこにそれらしきガラス器具ありますので」




 リュウが示した先には化学の実験器具のようなガラス器具があった。




 「リツコさん、水出しコーヒーってなんですか」




 ヒカリが聞く。




 「私知ってる。コーヒーの成分を水で抽出するの。すると変な味が溶け出さないからコーヒー美味しいの。ただ水で抽出するから時間がかかるのですこししか取れないの」
 「あらレイちゃんよく知ってるわね」
 「博士がコーヒー好きだから。調べたの」
 「……ありがとうレイちゃん」




 リツコの表情がより穏やかなものになった。アスカはそれを見てとても嬉しく思った。




 「そう。それでね、私もただの水出しコーヒーの装置を作ったわけではないわ。この装置の規模としてはこれまでの三倍の量のコーヒーが取れるわ。具体的に言うと朝九時からおやつの三時まででコーヒーカップ3杯分ね。これは目玉商品にしていいわ。コーヒー好きならたまらないから」
 「さすがやリツコはん。客よせまで考えてあるちゅうのは」
 「でも、アスカちゃんやレイちゃん、ヒカリちゃんのウェイトレス姿があればそれで十分じゃない」




 リツコが微笑みながら言う。リツコの言葉にアスカとヒカリは顔が真っ赤になった。レイは特に変わらない。




 「リツコさん。お茶が人によって違いますね」




 ケンスケがメガネを光らせて言う。




 「ケンスケ君やるわね。その自動給茶機は対象の状態によって三つのパターンで給茶出来るの。喉が乾いていそうな人にはぬるめで味を薄く量をいっぱい、普通の人にはごく普通に、お茶の味を味わいたい人には熱くて味を濃く量を少なくね」
 「なるほど」
 「タコ焼きを食べてる最中は薄いお茶、食べ終わったら普通のお茶、最後の〆に濃いお茶なんてどうかしら」
 「さすが先輩ですね」




 マヤはさっきからもぐもぐと山のようにケーキとタコ焼きを食べ続けている。




 「マヤさん大丈夫ですか」




 シンジが心配そうに言う。




 「お嬢様は昔から事のほか食が太くていらっしゃいます。その割にはお太りになられません」
 「やあねじいや。まぁでも本当の事だしね。先輩の太らない薬貰らっているから大丈夫よ」
 「え副作用が有るんじゃ……」




 アスカも心配そうにマヤを見る。




 「大丈夫よ。先輩の薬って新陳代謝を動物……私の場合は猫並みにして脂肪を蓄積しない様にするのよ。そのかわり夜になると少し猫っぽくなるの。まあでもトビヲなんか喜ぶしかえって好都合よ」
 「お嬢様はしたない」




 リュウがたしなめるがマヤはけろっとしている。アスカとヒカリは真っ赤になった。シンジとトウジは鈍くて判らない。レイはぜんぜん判らない。ケンスケはにやりと口の端を釣り上げた。やれやれといった感じでリツコが微笑んでいた。そんなこんなで試食会は無事終了した。








 「でどうだったかしら」




 リツコが言う。




 「これならばっちりです」




 ケンスケが言う。さすがにこういう催し物ではリーダー的存在になっている。




 「久しぶりに儲かりそうだ」
 「久しぶりって」




 アスカが聞く。ケンスケとトウジは顔を見合わせる。意志が伝わったようだ。




 「ごめんなさい」
 「スマンかんにんや」




 ケンスケとトウジが急に立ちあがりアスカ、レイ、シンジ、ヒカリに向かって謝る。




 「どうしたの」




 レイが不思議そうに聞く。




 「実は俺達、惣流さんや綾波さんやシンジや委員長の写真売りさばいて儲けてたんだ」
 「「「「!!!!!!」」」」
 「そやケンスケが撮影、ワシが売りさばいてや」




 部屋が静かになった。




 「ひどい……鈴原がそんなことするなんて」




 ヒカリは唖然とした顔をしていたがやがて下を向き顔を覆う。しくしくと泣き出した。




 「びどいわ。私の写真…………うううううううううう」




 アスカもやはり顔を覆って泣きはじめた。よほどショックだったらしくいつものように大声ではなくむしろしくしくと泣きはじめた。
 一方シンジとレイは困惑しているようであった。




 「どうしてそんな事したの」




 シンジが聞く。アスカとヒカリは静かに泣き続けている。




 「え、あの……ワシらは」
 「トウジ僕が説明するよ。初めは綾波さんだったんだ。綾波さんが転校してきた時奇麗だなぁと思って写真を撮ったんだ。その時はもちろん綾波さんに断ったんだ。でもその頃の綾波さんって何も答えてくれなかったから勝手に撮ったんだ」




 レイとシンジは黙って聞いている。ケンスケは続ける。




 「でトウジと二人で見ていたら他の男子が寄ってきたんだ。同じように奇麗だぁとかいっていたんだそいつ。そして写真譲ってくれって言ったんだ」
 「それでワシが100円で一枚売ったるて冗談かましたらほんとに金出したんや。そん時ワシらつい受け取ってしもうたんや」
 「それからは話が伝わったみたいで次から次へと写真売ってくれって男子が来て僕もいろいろな綾波の写真撮って売ってしまったんだ」
 「イインチョは……ワシ昔イインチョの浴衣姿見たことあるやないけ、ワシとケンスケと一緒に縁日に行った時や。可愛いと思ったのを思い出したんや。だからイインチョの写真売れると思ってつい……かんにんや」
 「あとはずるずると……シンジはEVAのパイロットで女子に人気が有ったし、惣流さんは言うまでも無いし」




 部屋は静かになった。リツコとマヤとリュウも黙って聞いていた。




 「でもこの前のミサトさんのパーティーで綾波さんの歌聞いたらとても悪い事したような気がして……なんか皆を汚してしまったような気がして」
 「ワシもや」
 「それでトウジと手分けして写真回収したんだ。ほぼ回収できたけど完全ではないんだ」
 「そや」
 「今まで言い出せなかったんだ。皆すまない。僕とトウジが欲の皮をつっぱらしてしまったんだ。ごめんなさい」
 「皆かんにんや」




 ケンスケとトウジはうなだれたまま立ち続けていた。アスカとヒカリはしくしく泣き続けていた。部屋は誰も話すものがいなかった。時間が過ぎた。




 「お嬢様がた」




 少し経った後リュウが口を開いた。




 「確かにお二人がした事はとても恥ずかしい悪い事でございます。弁解の余地はございません」




 リュウの言葉にますますケンスケとトウジは首をうなだれる。




 「しかし元々はお嬢様がたの美しさを愛でようと思いしてしまった事でございます。私も初めて女性の美しさを感じた頃は堪らなくその方達の写真が欲しいと思った事がございます。お二人も元々はそういう気持ちしかなかったに違い有りません。しかし人の心というものには魔がさす時がある物でございます。お二人もそうであったろうと察します。しかしお二人は自分達で過ちに気が付かれ、ちゃんと出来うる限りの後始末をされました。もちろんそれで全てが許される訳ではございません。お嬢様方は叱咤をするべきと存じます。しかしその後は私に免じてお許しを願いたいのです。だれにでも出来心はあるものでございます。それにお嬢様おぼっちゃま方は仲のよいご学友とお見受けします。この時期の友は一生を通しての友となりうるものでございます。それが一度の過ちで壊れてしまうのは私としましてはとても惜しい事なのです。ぜひアスカ様レイ様ヒカル様そしてシンジ様、お二人をお許しになってください」




 リュウはそう言って頭を下げた。部屋はしばらく静かだった。




 「リュウじいやさん頭を上げてください」




 シンジが言う。




 「僕はいいです。トウジもケンスケも反省しているし実害はないから」




 ケンスケとトウジはまだうなだれたままだった。




 「鈴原」




 ヒカリが顔を覆ったまま涙声で言う。




 「イインチョ……」
 「嫌い、嫌い、だいっ嫌い、ひどい、鈴原って男らしくって卑怯な事しないってしないって信じてたのに、ケンスケ君も写真好きだけどそんな事しないって思ってたのに……」




 ヒカリが涙声で続ける。ケンスケとトウジは言葉を発する事が出来ない。




 「嫌いよほんと嫌い……きっと許せない……きっともう絶対だめだと思う……今は絶対許せない……今はだめ、とにかくだめ」




 ヒカリは立ちあがる。




 「今はだめ……明日もここにこれない……学園祭も出れないかもしれない」




 まだ顔を覆ったまま言う。




 「私帰る……今ここにいれない……嫌い……帰る」




 ヒカリは小走りに部屋を出ていった。




 「マヤ送っていってあげなさい」
 「はい先輩」




 マヤも出ていった。




 「私も帰る」




 アスカも立ちあがるとふらふらと部屋を出ていった。




 「あ、アスカさん」




 シンジはアスカの後ろ姿と部屋の中を見比べ躊躇した。




 「碇君、惣流さんを送ってあげて」
 「え、だけど綾波」
 「私よく判らない。凄く恥ずかしくていやな事のような気もする。だけど皆に好かれているような気もする。きっと私より惣流さんのほうが辛いと思う。だから行ってあげて」
 「う、うん」




 シンジはまた少し躊躇したが部屋を出ていった。
 部屋はまた沈黙に包まれた。
















 翌日アスカは部屋に篭ったままだった。部屋の外から話しかけても何も反応が無かった。たまたまミサトは休みだったのでシンジはアスカの世話を任せることにした。




 「そりゃ女の子だったらショックよね。シンちゃんはどうなの」
 「あまりいい気はしません。けど実害ないし二人とも謝っているし今後やらないという条件で許しました」




 珍しく早起きしたミサトはエビチュ片手に詳しい話を聞いた。




 「レイちゃんはどうだったの」
 「綾波はよく判らないって。凄く恥ずかしくて嫌な気もするけど、皆に好かれている気もするって言ってました」
 「レイちゃんらしいわね」
 「昨日あれから綾波から電話がありました。今日は手伝いに来るそうです。昨日はリツコさんが二人に説教をして帰したらしいんです」
 「そう。問題はこれからよね。アスカちゃんとヒカリちゃんもそうだけどレイちゃんも徐々に酷い事されたと気付くはずだから」
 「そうですか」
 「そうよ」
 「ともかく今日はケーキやタコ焼きの下準備は僕と綾波とリツコさんでします。衣装のほうはリュウさんの関係者の方がしてくれるそうです」
 「あマヤちゃん親衛隊ね」
 「そうなんですか」
 「そうよ。実はネルフの二尉以上って自分の身を完全に守れないとなれないの。なんせ一人一人がかけがえの無い専任スタッフだから。たとえば私はワンマンアーミー、加持はサイレンサー、リツコ達は白い悪魔夫婦ってその筋では言われているの。マコト君だって鬼手流空手の師範代で100人抜きが出来るぐらい。シゲル君も暗器の使い手で凄く強いのよ」
 「……凄いんですね。でもマヤさんとどう関係が有るんですか」
 「ところがマヤだけは一切そのての戦闘能力が無いのよ。でも彼女にはガーディアンズっていう特別警護隊がいつも付いてるのよ。伊吹財閥が一族警護用に雇っている部隊なの。まあ私が知っている限り私兵では世界最強ね。その精鋭部隊がリュウさん率いる執事とメイドの部隊なの。リュウさんはもともとあの部隊の最高指揮官よ」
 「そうなんですか。知らなかった」
 「あの人はマヤちゃんが生まれてからはマヤちゃんの警護一筋なんですって。しかもお付きの執事もしているのよ」
 「へえ〜〜」




 思わぬ話にシンジはびっくりした。




 「まあ関係ない話では有るわよね。ともかく今日は頑張ってきなさいね。アスカちゃんは出来るだけ私が慰めてあげるから」
 「はいミサトさんお願いします」




 シンジは頭を下げた。












 その日シンジは忙しかった。初めケーキの下地作りはシンジ、アスカ、レイ、ヒカリでやる予定だった。しかしアスカとヒカリは表れなかった。レイは約束の時間に表れたが




 「後で」




 と言い姿を消してしまった。しかたが無くシンジは機械の最終調整にやって来たリツコと下地作りを黙々と行った。ケンスケとトウジはホールで受付をしている。ホール内はリュウ配下の執事とメイド達が2−A組の生徒達の衣装合わせを手伝っていた。












 とんとん がちゃ




 「あ綾波、アスカさん、洞木さん」




 お昼頃シンジとリツコが一休みしていると三人が部屋に入って来た。レイは普段と変わった様子は見られなかったがアスカとヒカリは俯き沈んだ表情をしていた。




 「もういいの」




 シンジは聞く。
 三人から返事はなかった。




 「シンジ君外を手伝ってきたら。ここは私が面倒見るから」




 リツコが言う。シンジは肯くと部屋を出た。












 その日の朝アスカは起きた後ぼーとしていた。目の周りがむくんでいるのを感じた。嫌な涙が出たと思った。だからむくんでいるのだと思った。部屋の窓を開けた。ベッドにまた座りぼーっと外を見ていた。何回かシンジが起しに部屋の前で呼んでいるのが聞こえた。返事をする気にならなかった。
 そのまま外を眺めていた。自然と涙が目に溜まってきた。ぽろぽろと流れ落ちた。座ったまま泣き続けていた。




 「惣流さん、入るわ」




 誰かが戸を開けて入って来た。レイだった。アスカは動かなかった。レイは静かに戸を閉めた。しばらく戸の近くに立っていたがやがてアスカの横に座った。レイは黙っていた。




 「私……」




 アスカが口を開いた。




 「飛び級繰り返してたからクラスメートなんていなかったの。家も研究所の中にあったから同い歳の子近所にだれもいなかった」
 「そう」




 レイは静かに言う。アスカもう涙は流していなかったが俯いて続けた。




 「皆年上ばっかり。いつも珍しそうなで見られてたわ。それにやっぱり泣き虫だからうっとうしがられたの」
 「そう」
 「……日本に来るって決まった時絶対中学に入れてもらうように言ったの。友達欲しかったの」
 「……」
 「女の子の友達も男の子の友達も出来たわ。楽しかった」
 「そう」
 「それなのに、あんな恥ずかしい事されるなんて」




 ぽたぽた




 また涙が流れ始めた。




 「私写真が売られてたの知っていたの」




 レイが言う。アスカはレイを見る。




 「私知ってた。でもどういう事か判らなかった。なんで私の写真買うのか判らなかった。それに……私恥ずかしいって良く判らない。恥ずかしい事なの」
 「…………うん。そうよ女の子が知らない間に自分の写真売りさばかれるのは恥ずかしい事よ。……ぐす」
 「そう……」
 「そうよ……ぐす」
 「私昨日恥ずかしい事って判った気がした。でもずっと考えたらまた判らなくなったの。皆に好かれているからいいとも思ったの」
 「でも綾波さん……うっく」
 「私ずっと何もなかった。だからあれが恥ずかしい体験だと判らなかった。今でも判らない。でもお友達が減ってしまうのが嫌なのは判るの」
 「でも……二人とも……酷い……うっく」
 「きっと悪い事なんだろうと思う。だから怒りに行きましょう。悪い事したら怒るの。きっとそうすればよくなると思う」
 「……」
 「私もう一人は嫌い。友達がいなくなるのも嫌い。だから怒りに行きましょ」
 「……う、うん……ぐす」




 押しきられるアスカである。




 「今日約束の時間に洞木さん来なかった。だから先に洞木さんの家に行きましょう」
 「そうなの。洞木さんも来なかったの……綾波さん私準備をするから外で待っていてね」
 「うん」




 レイは部屋を出た。












 「どなたですか、あ、アスカお姉ちゃん、レイお姉ちゃん」




 髪の短い男の子と間違えそうな少女がドアから顔を出して言った。




 「お姉ちゃん迎えにきたんでしょ、今引っ張ってくるわ。その前にあがってね」




 洞木ノゾミはそう言うとドアを開ける。




 「おじゃまします」
 「おじゃまします」




 ノゾミは二人を居間に案内した。




 「お姉ちゃん達ちょっと待っててね、今連れてくるから」




 パタパタパタパタ




 ノゾミは二階に上がっていった。




 「ヒカリお姉ちゃん、アスカお姉ちゃんやレイお姉ちゃんが呼びに来てるよ」




 二階でノゾミの言う声が聞こえてくる。




 バタバタバタハタ




 「今来るって。ヒカリお姉ちゃん昨日から部屋に篭ってるの。だから今日はコダマお姉ちゃんの朝ご飯だったの。コダマお姉ちゃんへたなのよね、料理。おかげで今日の朝ご飯はシリアルだけだったんだよ。ねえねえヒカリお姉ちゃん鈴原お兄ちゃんと喧嘩しちゃったてほんと。昨日マヤさんがコダマお姉ちゃんと話しているの聞いちゃった」
 「……あのそれは……」




 アスカが口を開きかける。




 「ノゾミ……あなた何聞いてるの」
 「あ、ヒカリお姉ちゃん」




 ヒカリが居間に入って来た。チャイナドレス風のパジャマのままである。アスカと同様目の周りがむくんでいた。




 「じゃ、ごゆっくり。僕部屋にいるね」




 ノゾミはばたばたと二階の自分の部屋に戻っていった。ヒカリはテーブルの椅子を引き座る。




 「洞木さん、今日行かないの」




 沈黙を破ったのはレイだった。




 「……行きたくない」




 精気の無い表情でヒカリが呟く。




 「でも行かないと、そのまま。お友達じゃなくなるかもしれない」
 「……鈴原があんな事するなんて。好きなのに……」
 「……そう好きなの……」
 「………………………………うん」




 微かにヒカリは肯いた。アスカは黙ったままだ。




 「……私好きって事も恥ずかしいって事も良く判らない。昨日の事も良く判らなかった」
 「……なぜ。綾波さん一番被害にあったのに」
 「……私。……転校してくる前の記憶が無いの」
 「えっ」




 ヒカリは驚いた。




 「本当は関係者しか言ってはいけないの。だけど洞木さん友達だから、きっとそう。だから言うの」
 「……」
 「私EVAの実験の失敗で記憶も感情も失ったらしいの。失った事も判らなかった」
 「綾波さん……」




 ヒカリは瞳をレイに向ける。




 「友達もいなかった。友達って判らなかった。でも碇君に会って少しずつ判って来たの。アスカさんと会って洞木さんと会って判って来たの。今も良く判らないけど。友達っていてくれるといい。心が暖かくなる」




 ヒカリはレイを見続けるままだった。




 「だから仲直りした方がいいと思う。それに好きな人っているととてもいい事。きっと。だから鈴原君と仲直りした方がいいと思う」
 「でも……」
 「だったら怒ればいいと思う。悪い事したから。きっとそれでうまくいく」
 「…………」
 「ヒカリお姉ちゃん何うじうじしてるのよ。お姉ちゃんらしくないよ」




 ノゾミだった。いつのまに居間の出入り口に立っていた。




 「レイお姉ちゃん。話し聞いちゃった。絶対誰にも話さないよ。きっと秘密なんでしょ。ねえヒカリお姉ちゃん、何からしくないよ。いつも鈴原お兄ちゃんの事好きって言ってるじゃない。だったらお兄ちゃんと仲直りしちゃえば。気分が収まらなかったら、ぶん殴って蹴っとばしちゃえば。だってお姉ちゃん怒ってるけど仲直りしたそうだよ。昨日から鈴原が鈴原がしか言わないし。ほらほら立って着替えた着替えた」




 ノゾミはヒカリの手を掴み引っ張り上げる。




 「……ノゾミ」
 「洞木さん……私も昨日からずっと泣いてたけど……とにかく行こうよ。どうなるか判らないけど」
 「…………うん」




 ヒカリは俯いたまま立ちあがるとノゾミに引っ張られていった。












 「センセ、惣流とイインチョどうしてる。ワシらの前素通りや」
 「全然振り向いてもくれないんだ」
 「さぁ〜〜、やっぱり辛そうだったよ。アスカさんなんか昨日からずっと泣き通しだし」
 「さよか」
 「はぁ」
 「一応僕や綾波も被害者なんだけど。僕はいいとしても綾波は女の子なんだし」
 「センセスマン。判ってはいるんやが」
 「綾波はショック少なそうだし」
 「そうかなぁ。ただ表情に出てないだけだよ」
 「そうやな。しっかりあやまらにゃあかんやろうな」
 「そうだよなぁ」




 トウジとケンスケは困っていた。 




 ゴツン
 ゴツン




 「うわ」
 「イテ、だれや人の頭どつきおって」




 受付で話していた三バカの内トウジとケンスケはいきなり頭を後ろから小突かれた。三人は後ろを振り向く。




 「あノゾミちゃん。痛いなぁ」
 「痛いなぁじゃないよ、ケンスケお兄ちゃんもトウジお兄ちゃんも。昨日大変だったんだから。ヒカリお姉ちゃん泣き通しだよ。僕困ったじゃないか。二人とも責任とってよ」
 「責任……」
 「……って」
 「え〜〜と、トウジお兄ちゃんは週末には家に来て力仕事を手伝う事。僕の家男手無いでしょ。ケンスケお兄ちゃんは今度一緒に軍艦見に連れて行ってくれる事」
 「なんで僕がノゾミちゃんと見に行くんだぁ」
 「だって見てみたいんだもん。私とお姉ちゃんは一身同体だからいいの。とにかく女の子泣かせたんだから当然。気が弱い子だったら一生男性不信や対人恐怖症になっちゃうよ」
 「……」
 「……」




 トウジとケンスケはぐうの音も出ない。




 「だいたいトウジお兄ちゃん鈍すぎるよ。まったく気付いてないんだから。お姉ちゃんの事」
 「イインチョのなにをや」
 「……これだもん。もうとにかく責任もって何とかしてよ。それとケンスケお兄ちゃん誰でもパチパチ写真取るからこんな事になるんだよ。僕ならいつでもモデルになってあげるよ」




 ノゾミは頭に手をやりポーズを取る。が、いかんせん体型がお子様の為きまらない。




 「そうそう、僕が頼んでおいた戦自の空軍の制服ってどこ。ケンスケお兄ちゃん案内してよ」
 「え、でも受付だから」
 「ケンスケ行って来たら。受付は僕とトウジでやるから」
 「そやこの際ノゾミちゃんでもいいから頼らんと」
 「良く判ってるね、トウジお兄ちゃん。さぁ行こう」
 「じゃシンジ、トウジ案内してくる」




 ケンスケはノゾミに引っ張られるように会場に向かった。












 その日の試着会、試食会共に好評に終わった。用意された衣装は皆満足行くものだった。少々の不満も出たが仕立て直し範囲で何とかなるものだった。試食会は衣装を片付けたホールで行われた。おおむね好評であった。その場でアンケートが配られその結果はケンスケが集計し学園祭当日のケーキやコーヒーの味の調整に使われる事となった。












 「鈴原……」




 皆でリツコの自動機械を置いてある部屋を掃除している時であった。みな小さな彗で掃いていた。大ホールの方はリュウの部下達が片付けた。こちらの方は子供達で掃除する事になった。リツコとマヤはリュウと何やら相談する為部屋にはいなかった。




 「な、なんやイインチョ」




 トウジは珍しくおどおどした感じで聞いた。何度ももう一度謝ろうとしたが言い出せなかったからである。ケンスケも同じだ。
 ヒカリはトウジの前に来た。今まで俯いていた顔を上げる。奇麗な瞳には涙が光っていた。




 「……トウジの……バカバカバカバカ……………………」




 バサバサバサバサ




 ヒカリはトウジを小さな彗で叩きはじめた。無論ヒカリの力は強くは無いのでスピードも叩く力も強くなかった。トウジは避けなかった。




 「ケンスケ君もバカよ…………うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんうぇぇんん」




 アスカもケンスケを彗で叩きはじめた。




 バサバサ




 シンジとレイと居座り続けていたノゾミも唖然としていた。




 バン




 ケンスケのメガネがふっとんだ。ヒカリとアスカは叩き続けた。トウジとケンスケは黙って立って耐えた。彗の掃く部分で叩かれている為そう痛くは無いがむしろヒカリとアスカの涙が二人を痛め付けていた。




 ザク




 「いてぇぇぇ」




 トウジが突然大声を上げた。涙でほとんど前が見えなくなっていたヒカリとアスカはトウジの顔を見た。シンジとレイ、ケンスケとノゾミもである。
 トウジの左の頬には一本の筋が付いて血が溢れ出していた。彗の毛の部分を覆うブリキが少し曲がっていて切れ端が尖って刃物のようになっていた。それで頬を切ったのである。さすがに痛いのかトウジは頬を押さえ顔をしかめている。手が見る間に血に染まる。




 「……あ……あ……鈴原…………」




 ヒカリは目を見開いてそう呟くと急に視線が泳ぎ出し膝ががくんとなった。失神したみたいだ。彗が転がった。




 「イインチョ」




 ヒカリが前のめりに危うく顔を床にぶつける寸前トウジが抱き止めた。おかげで二人とも血だらけだ。




 「私博士呼んでくる」




 レイが部屋を駆け出していった。




 「トウジ大丈夫か」
 「ワシは大丈夫や。男ならこんな傷なんともあらへん。それよりイインチョ大丈夫やろか」
 「トウジの出血見て気絶しただけだよ。今リツコさんが来て診察してくれるよ」
 「とにかくトウジ血止しろよ。それじゃ委員長まで血だらけだ。委員長は僕とシンジでソファに運ぶから」




 ケンスケが言う。シンジはトウジが支えているヒカリの上半身を支えた。ケンスケはポケットから大き目の迷彩バンダナを取り出しトウジに渡す。ケンスケがヒカリの足を持ちシンジと二人で近くのソファにヒカリを寝かせた。アスカは呆然とヒカリとトウジを代わりばんこに見ていたが、彗を床に置くとトウジに近付き言う。




 「……ぐすん……トウジ君傷口上にしてしっかりバンダナを当てて圧力をかけて押さえて……ぐすん……」




 アスカはトウジの頭を持つと左頬が上になるように曲げる。




 「惣流さんトウジの傷は僕が見るから委員長の血を拭いてあげてくれない」
 「……ぐすん……うん……」




 ケンスケに言われてアスカはヒカリの様子を見に行った。ケンスケが代わりにトウジの頭を押さえていた。ノゾミはさっきからきょろきょろしていたがトウジの元へ来る。目のあたりをこすっている。




 「お、お兄ちゃん大丈夫。まさかお姉ちゃんほんとにやっちゃうなんて。僕気分が晴れなかったらお兄ちゃん達叩いてでもうさ晴らししたらって言ったんだ。そしたらこんなになっちゃって」




 いつもは男の子みたいに元気なノゾミが半ベソをかいている。




 「ノゾミちゃんのせいやない。ワシとケンスケが悪いんや。なかんといてや。おなごに泣かれるのが一番苦手なんや」
 「そうだよ悪いのは僕たちなんだから」




 トウジとケンスケは言う。




 「でもほっぺに傷が……」
 「大丈夫や。傷は男の勲章や」




 そこへリツコとマヤ、レイが部屋に入って来た。




 「マヤあなたはヒカリちゃんの様子見て。私はトウジ君の傷見るから」
 「リツコはん。ワシはいいです。イインチョ見てやってや」
 「マヤが見るから大丈夫。あれでも私の愛弟子よ」




 マヤはヒカリの脈を取ったり体温を計ったり汗の具合などを見ていた。




 「先輩大丈夫です。ショック症状は起してません。このまま寝かせておけば大丈夫です」
 「了解。あらトウジ君は結構傷深いわ。このままだと跡が残るわね。すぐネルフで手術しましょう」
 「ワシいいです。そんな大げさな……」
 「トウジ君がよくてもヒカリちゃんがね。トウジ君の顔に傷が残るなんて知ったらヒカリちゃんの心が傷つくわ。とりあえず血止めと殺菌」




 リツコは鞄よりスプレーを取り出すとトウジの傷口に吹き付ける。見る間に血が止まる。




 「トウジ君傷口上にしてその格好のままでいてね」




 リツコはポケットより携帯を取り出した。




 「あ、もしもしあなた。実は怪我人が出たのよ。トウジ君よ。……え……痴話喧嘩よ。で簡単な手術したいから第一手術室開けといて。……うん……そうその程度の準備でいいわ。汎用人工皮膚も用意しておいてね。また後で。じゃトウジ君すぐ行くわよ」
 「でもリツコはん」
 「さっきも言ったけど傷が残ったら悲しむのはヒカリちゃん。それでもいいの」
 「……それは……」
 「じゃあ行きましょ」
 「はい」
 「マヤ後は頼むわね」
 「はい先輩」




 トウジとリツコは部屋を出ていった。
















 翌日はくもり空だった。シンジとアスカは並んでいつもの通学路を歩いていた。二人は話さなかった。




 「碇君、惣流さんおはよう」
 「おはよう綾波」
 「おはよう綾波さん」




 レイはいつものベンチに座っていた。文庫本をしまうと立ちあがる。三人は学校に向かう。
 しばらく三人で静かに歩いて行くとトウジとケンスケが待っていた。三人は立ち止まる。トウジの頬は大きなプラスチックの覆いで覆われていた。




 「惣流、綾波、シンジかんにんや。昨日の事でよう判った。ワシらがやった事がどないな事か。もう絶対せえへん。ゆるしてや」
 「俺もだ。許してくれ皆」




 辺りはセミの音だけになる。周りを他の生徒達が不思議そうな顔をして通り過ぎていく。




 「私はいい。勝手に写真撮らなければいい。今度は私も返事をする」
 「私も……私はまだ怒ってる……けど皆は初めてのお友達。だから無くしたくない。だから一度だけ許してあげる」




 レイとアスカが静かに言った。




 「僕はいいよ。今度から絶対あんな事しちゃだめだよ」




 シンジも言う。




 「ありがとう」
 「ありがとう」




 トウジとケンスケは頭を下げた。ずっと下げていた。




 「鈴原君、相田君そろそろ学校に行きましょう。もういいわ。後はこれから態度で示してね」




 アスカは目をごしごしこすりながら言う。少し涙が滲んでた来たらしい。




 「おう判ったで」
 「俺も」




 トウジとケンスケはやっと顔を上げた。




 「じゃ行こうか。綾波もいいの」
 「うん」
 「ありがとう」
 「ありがとう」




 トウジとケンスケは改めてレイとシンジにも頭を下げた。




 「もうこんな時間。早く行かないと」




 レイが言った。皆は学校に向かって歩き出した。












 「あ、ノゾミちゃん」




 校門にはノゾミが立っていた。今日はセーラー服の為ほんの少しだが女の子らしく見える。ノゾミは第壱中の一年生である。




 「お兄ちゃん達おはよう。もう仲直りした」
 「大丈夫だよ」




 言いにくそうなトウジやケンスケ、アスカに代わりシンジが言う。




 「よかった」
 「トウジお兄ちゃんごめんなさい。僕が変な事言ったばっかりにお兄ちゃんに怪我させちゃって」
 「大丈夫や。ネルフの最新技術を使って手術したよって三日で治るそうや。だいたいノゾミちゃんのせいやない」
 「うん。ありがとう」




 少し暗い顔をしていたノゾミであったが、やがてにっこりと笑った。なかなか可愛い。




 「じゃ次っと。お姉ちゃん出てきなよ」




 ノゾミがそう言い。校門の後ろに周る。ヒカリを引っ張って来た。ヒカリはまた俯いている。




 「ほらお姉ちゃん」




 ノゾミはヒカリの荷物を持つとトウジの前にヒカリを押し出す。




 「鈴原……」




 トウジとケンスケが話し出す前にヒカリが口を開いた。




 「女の子を心配させたり怒らせたり最低よ。ケンスケ君もそう。最低、最低、最低、最低、最低……」




 ぽかぽかぽかぽか




 今度ヒカリは片手で目の辺りを押さえつつ片手でトウジの胸を叩いた。軽く軽く。
 やがて後ろを向いてしまった。




 トウジとケンスケは謝るきっかけを失った。




 「だから……」




 ヒカリがまた口を開いた。




 「最低だから私が見張っててあげるわ。そうしないといつまた悪い事するか判らない。だから友達でいるわ。女の子をいじめる様な事は絶対許さないんだから。私委員長だから。絶対に見捨てないけど悪い事もさせないわ」




 ヒカリは黙ってしまった。トウジとケンスケも黙ったままである。




 「もうお姉ちゃん素直じゃないな。翻訳するよ。私はまだ怒っています。だけど許してはあげます。友達でいようと思っています。絶対にこれからは今度のような事はしてはいけないわ……だよ。ほらお兄ちゃん達」
 「ああ、イインチョほんまスマンことした。ワシ今度の事でおなごにああいう事するっちゅうのがどうゆう事かよう判ったわ。かんにんや」
 「俺もしみじみ痛感したよ。許してくれ」




 ノゾミの通訳で謝るきっかけを掴んだ二人である。




 「いいわ…………。私委員長だから先に行ってる」




 ヒカリは荷物をノゾミから受け取ると小走りに校舎に向かって駆けていった。残りの皆は少し後にやはり小走りに校舎に向かい駆けていった。












 お昼になった。あの後のヒカリは特に普段と変わり無く委員長の公務を果たしていた。皆はいつもの様に机を動かし寄せていた。




 「鈴原、ケンスケ君座りなさい」




 いつもと違い鋭いヒカリの声が学食の購買部に行こうとしたトウジとケンスケを制止した。ケンスケが学食に行くのはいつもの事だがトウジはさすがに今日弁当を貰えるとは思っていないからだ。




 「は、はい」
 「はい」




 さすがに逆らえない二人である。今日は二人とも昼飯抜きを覚悟した。




 ドン




 トウジの前にいつもの大きな弁当箱が置かれた。




 「イインチョ……」
 「誤解しないでよ、鈴原。鈴原みたいな野蛮人は飢えるとなにするか判らないから……あくまで残飯整理の餌だからね」
 「……アリガト」
 「あくまで残飯整理よ」




 ヒカリは顔をそむけて言った。




 「素直じゃないなぁ」
 「あノゾミちゃん」




 一年生のノゾミが何故か2−Aの教室にひょっこりと顔を出していた。




 「ケンスケお兄ちゃん、今度僕お弁当作ってみたんだ、でも試食係がいなかったんだ。そしたらお姉ちゃんが罰としてケンスケお兄ちゃんにやらせようって言うんだ。酷いよね。実の妹の腕信用してないんだよ。でもケンスケお兄ちゃんっていつも学食の購買でしょ。だからさぁ、試食係やって」




 ノゾミはそう言うと両手にぶら下げた弁当箱を二つケンスケの机に置いた。空いてる椅子を持って来て無理矢理ケンスケの隣に割り込む。




 「でもノゾミちゃん1ーAだし……」
 「屋上で食べてる人もいるんだもん。いいんだってば」
 「そ、そう……ありがとう」




 なんとなくノゾミのおかげで場が和やかになった。




 「じゃ食べようよ」
 「そうね」
 「じゃ」
 「「「「「「「いただきまぁす」」」」」」」
















 それから学園祭までの一週間シンジ達とクラスの仲間は手分けして準備をした。当日調理を担当する者は放課後毎日ネルフのホールでケーキを作った。そのケーキはネルフで配られた。ネルフの職員達は皆喜んでいた。他にも食器を用意する者看板を用意する者様々だった。トウジの頬の怪我も三日後には治っていた。そして学園祭の初日の土曜日が訪れた。




 「まだ開店に10分も有るのにお客さんが並んでる」
 「そうね」




 初日の初めはアスカとレイがレジ係をする事になった。教室の入り口近くにトウジとケンスケが作ったレジ台が置いてあり、その後ろに二人は居た。まだ二人とも学校の制服を着ている。教室内は落着いたインテリアで飾られていた。幸い隣のクラスが教室を使用しないのでそこを借り調理と衣装代えと休息の場所とした。10時開店の予定だが既に教室の前は十人ほどの客が並んでいた。やがて十時になり入り口のカーテンを開くと客が入って来た。




 「水出しコーヒーの予約したいのですが」
 「はい。ありがとうございます。ただ希望者が多数の場合抽選になりますが」
 「かまいません」
 「ではここにお名前をどうぞ。なお申し込まれた方が抽選に来られた時のみ有効です。抽選はおひる丁度です」
 「判ってます」




 並んでいる客は全て水出しコーヒーの抽選予約の客だった。その客達は店に改造した2ーAの教室に入るとみんなブレンドコーヒーを頼んだ。
 いろいろな衣装を身にまとった2ーAの生徒達がコーヒーを頼んだ。客は皆コーヒーを味わう。




 「おおコーヒーメーカーのブレンドでこの味とは……さすが赤木女史が関わっているだけ有りますな」
 「ええそうですな。これは期待ができます」
 「ほんとです」




 客達は口々に言う。一部の客はケーキも頼んだ。




 「なんで宣伝もしていないのに水出しコーヒーの事がこんなに知れ渡っているのかしら」
 「私知らない」




 アスカとレイは不思議に思った。初めの予約客が席につくとレジは暇になった。まだまだ本番は先だ。




 「それの理由はだな……」
 「あ副司令……」




 声の主は冬月であった。今日はネルフの制服ではなく灰色の落着いた背広だ。




 「アスカちゃんここでは副司令ではないよ」
 「じゃなんて呼べばいいですか」
 「そうだね……」
 「冬月先生がいい」




 レイが言う。




 「冬月先生か……懐かしいな」




 レイの言葉に微笑む冬月である。




 「じゃ冬月先生に決定ですね」
 「そうだな」




 アスカが言うとまた微笑む冬月である。




 「キョウコ君もそう呼んでいたな……」
 「ママがどうかしたんですか」
 「いやなんでもないよ」




 冬月はレジの近くの席に座る。たまたま客は他にいない。




 「いらっしゃいませ。何をご注文でしょうか」




 クラスメートの一人が注文を取りに来た。




 「ふむ。これがメニューか。タコ焼きセットを貰らおうか」
 「はい。タコ焼きセットですね。しばらくお待ちください」




 その子は婦人警察官の格好をしていた。




 「ふむ面白いな。アスカちゃんレイちゃん先程の話は……」




 冬月はレジの方に向き言う。




 「赤木君はコーヒー通として第三新東京市に名前が知れ渡っているのだよ。彼女が複数回行った事があるコーヒー店が名店だと言われるぐらいに」
 「そうなんですか」
 「その赤木君がコーヒー製造器を作ったのだよ。コーヒー通を気取る者にとってこの場にいないという事は資格が無いと言われるに等しいのだよ」
 「博士凄い」




 レイも驚いたようだ。丁度そこに浴衣の娘がお茶とタコ焼きのセットを持って来た。ヒカルである。




 「お待たせしました。タコ焼きセットです」
 「……美味しそうだな。……君は確か洞木さんだったかな」
 「あれなんでご存じなんですか」
 「洞木さん。この人ネルフの冬月副司令なの」
 「始めまして。いつもシンジ君達と仲良くしてくれてありがとう」
 「あ、いえこちらこそいつもお世話になりっぱなしです」




 ヒカリはどう対応していいのか判らず慌てている。それを見てとったか冬月が言う。




 「それでは冷めないうちに頂こうかな」
 「え、あ、どうぞ」




 ヒカリは慌てておじぎをすると調理場に戻っていった。




 「今日は朝食がまだなのだよ。では頂くとするか」




 冬月は楊枝が刺さっているタコ焼きを一つ口に入れる。




 はふはふはふはふ
 ごくごくごくごく




 「うむ。さすが赤木君だ。自動でこの味を出しているとは。お茶もなかなかだな」




 はふはふはふはふ
 ごくごくごくごく




 冬月は見る間にタコ焼きセットを平らげていった。




 「うむ美味しかった。材料の仕入れと調合もしっかりしている。皆の努力の結果が判るタコ焼きだね」
 「よかった」




 レジでアスカが言う。冬月はハンカチで口を拭うと立ちあがる。レジの前に来る。




 「美味しかったよ。では私はネルフに出勤と行くか。お代はいくらかな」
 「○○○円です。カードも使えます」
 「そうか。まあこういうころでカードもなんだろう」




 冬月は小銭でぴったりと支払う。




 「二人とも頑張りなさい。シンジ君にもよろしく言っておいてくれたまえ」
 「「はい」」




 冬月は余裕のある雰囲気を漂わせながら去っていった。
 冬月が居なくなったあたりから徐々に店は込みはじめて来た。ケーキ目当ての女子生徒、コーヒー目当ての教師達、タコ焼きを飯がわりにする人、衣装が目当てな者、皆満足しているようだ。出前もなかなか好調である。
 リツコの技術力、ナイの身を挺した試食、ネルフの原料調達能力、マヤのコレクションなどの大人達の力とそして何よりも子供達の努力が店を素晴らしいものにしていた。












 「繁盛しているわね」
 「あリツコさん」




 アスカがバスガイド姿でウェイトレスをしているとリツコが店にやって来た。リツコは部屋の真ん中あたりの席に座る。今日も青いボディコンに白衣である。




 「やっぱり朝私が来る必要はなかったわね。ちゃんと店は機能している様だわ」
 「はい」
 「レイちゃん達は」
 「シンジ君と綾波さんは出前に行きました」
 「そう。まあいいわ。それじゃ注文しようかしら。私はマンデリンとショートケーキでケーキセットね」
 「はい判りました」




 アスカはミニスカートを翻して調理室に向かう。




 「さすがアスカちゃんは何着ても似合うわね」




 と言うと脚を組んで辺りを見回す。店は適度の客と適度の空きが有った。コーヒーを味わっている客をさり気無く観察する。美味しそうな表情をしているのを見て満足する。




 「お待たせしました。ショートケーキとマンデリンです」




 アスカがケーキセットを持って来た。




 「美味しそうに出来ているわね。そうそうアスカちゃん一つ頼まれてくれない」
 「何ですかリツコさん」
 「これでレイちゃんやシンジ君アスカちゃん達の働いてる所の写真撮って欲しいのよ」




 リツコはそう言いハンドバックよりコンパクトカメラを取り出した。




 「うちの旦那がほんとは来たがってるのよ。だけどレイちゃんがまた発作を起すと困るでしょ。だから写真を撮って持っていってあげたいの」
 「そうなんですか。判りました」




 アスカはコンパクトカメラを受け取るとポケットに入れる。




 「じゃあさっそく頂こうかしら」
 「ごゆっくり」




 リツコは優雅にコーヒーカップのとってを摘まむとコーヒーを口にした。アスカはリツコの表情をうかがっていた。リツコは少し味わった後微笑んだ。




 「きちんと装置を使いこなしている様ね」
 「よかった」
 「次はケーキっと」




 リツコはフォークでショートケーキを少し切ると口に入れる。




 「ちゃんとスポンジ部分も焼けているしクリームも良く出来ているわ。なかなかね」
 「それは洞木さんがリーダーで作ったんです」
 「そうなの。あの子は得意そうね」




 その後アスカはクラスメートに断りリツコと会話を楽しんだ。




 「そろそろおいとましようかしら。仕事抜け出して来たし。じゃあ写真の件お願いね」
 「はい。判りました」




 リツコはレジで代金を払うと帰っていった。




 「これどうしようかなぁ」
 「惣流さんそのカメラどうしたの」




 休憩室からスチュワーデスの格好をしたヒカリが出てきた。




 「リツコさんが私や綾波さんやシンジ君の写真を撮って欲しいって」
 「ふぅ〜〜ん」
 「どうしようかなぁ。私得意じゃないし」
 「ねえ、相田君に撮ってもらったら」
 「相田君」
 「うん。ケンスケ君あれからカメラ断ちしてるじゃない」
 「そうね。持っていないもんね」
 「今度はちゃんとした目的もあるし、悪用しないとしたらカメラの腕は彼が一番だし」
 「そうね」
 「だからそうしたら」
 「うん。いいかもしれない。じゃ渡してくる」




 アスカは調理場に向かった。そこではケンスケやトウジその他のクラスメートがケーキやタコ焼きの生地や元を作っていた。ケンスケはパイの生地らしきものを作っていた。




 「相田君」




 一心不乱に生地を作っていたケンスケはやっと気が付いた、




 「あなんだい惣流さん」
 「じつはリツコさんに頼まれたのだけど私やシンジ君や綾波さんの写真を撮ってもらいたいの。リツコさんの旦那さんが写真見たいんだって」
 「そう……いいのかい」
 「ええ。だって悪用する訳ではないし、カメラが一番うまいのはケンスケ君でしょ」




 にこっ




 アスカは微笑んだ。




 「判ったよ。俺頑張る」




 ケンスケは言う。




 「よかったやないか。またカメラ触れて」
 「うん。え〜〜とこれはオリンピャスOM1000だね。小型のデジタルカメラながらレンズの構成を1眼レフなみにおごってしかも分解能は16384*12288あるなかなかの逸品だね。さすがリツコさんいい趣味している」
 「何だか良く判らないけどお願いね」




 アスカは店に戻っていった。




 「じゃまずトウジそのエプロン姿を一枚……」
 「ワシのかぁ……」












 「私達ご飯食べてきます」
 「一時半になったら戻ってきてね」
 「うん」
 「屋上で食べるから」




 水出しコーヒーの抽選会も終わり一息ついた所でクラスの皆は三分の一ずつ昼食を取る事となった。アスカとシンジ、レイ、ケンスケ、ノゾミは屋上で昼食を食べる事となった。トウジとヒカリは機械のトラブルの時の為に残った。ノゾミは昼食前にいきなりやって来てケンスケにくっついてまわっていた。




 「あの辺りがいいね」




 屋上は昼食を食べる人がけっこう居る。給水タンクのある建物の横に皆は陣取る。




 「ケンスケそれ着替えないの」




 ケンスケはネルフの制服を着続けていた。他の皆は学校の制服である。




 「やぁ〜〜だってこの制服を家の外でおおっぴらに着れるのはこういった時ぐらいだし」
 「確かにそうだね」
 「ケンスケお兄ちゃんとっても似合ってるよ。さすがだね」
 「そ、そうかい」




 ケンスケは少し照れる。皆はお弁当を広げて食べている。最近はケンスケも素直にノゾミのお弁当を食べている。見た目は相当悪いが味は結構いいらしい。




 「そう言えばノゾミちゃんクラスの劇の主役なのよね」
 「うんピーターパンやるんだよ」
 「すごい」
 「でもレイお姉ちゃんの歌の方が凄いってヒカリお姉ちゃんが言っていたよ。明日の歌唱コンクール出るの」
 「出るわ」
 「僕楽しみだぁな」
 「そう。頑張るわ」




 昼食はのどかに進んだ。




 「ねえシンジお兄ちゃん」
 「なあにノゾミちゃん」
 「アスカお姉ちゃんとレイお姉ちゃん、どっちが恋人なの」
 「!!!!」
 「!!!!」
 「!!!!」




 アスカ・シンジ・レイは固まっていた。




 「三人とも仲いいからどっちがお兄ちゃんの彼女か判らないんだもん」




 三人は固まったままだった。




 「ノゾミちゃん三人とも奥手だし、別に惣流さんと綾波さんはり合ってる訳ではないし。まだそんな仲じゃないよ、きっと」




 ケンスケが小声でノゾミに囁く。




 「そうなの。しまったぁ。またやっちゃった」




 小声でノゾミがケンスケに囁き返す。その間アスカ、シンジ、レイの三人はぶつぶつと小声で呟き目があらぬ方を向いている。




 「あの、僕たちまだそういう関係じゃないから…………」




 シンジが小さい声で言う。言葉の末尾はほとんど聞こえないぐらいだ。




 「「まだ」」




 アスカとレイが瞬時にほぼ同時に反応する。凄い反応速度でシンジの方を振り向く。




 「あ……いや……その……」




 シンジが真っ赤になり俯く。アスカとレイもその後その後真っ赤になる。振り向いたのが恥ずかしかったのだろう。
 ノゾミはその光景を見て冷や汗が流れるのを感じた。ヒカリに発言がばれたら折檻物だと思った。




 「え〜〜と、あの、あ、お兄ちゃんお姉ちゃんご飯の時間そんなにないし、ほら僕そろそろ着替えとか行かないと……」




 と言いつつ素早くお弁当を片付ける。




 「それじゃまた後でねぇ〜〜」




 と言いつつその場から逃げ出していった。その瞳はケンスケお兄ちゃんごめんと言っていた。見返すケンスケの瞳は酷いよノゾミちゃんと言っていた。四人はまた固まった。












 「ねえケンスケ君なんか三人が変なんだけど。どうしたの」
 「そやそやセンセも惣流も綾波も何か変や。固くなってるちゅうか……」




 確かに三人は変だった。三人とも目が合うと操り人形みたいになっていた。おかげでウェイター、ウェイトレスの時何度もトレイを落としそうになっていた。




 「ケンスケお前何かやったんか」
 「やってないよ」
 「…………ノゾミね。あの子又なんか変な事言ったでしょ。一言多いから」
 「べ別に何にも言っていなかったよ」
 「いいえ。そうに違いないわ。後でまたお説教しとかなきゃ」
 「それにしてもなんでケンスケがかばうんや。…………ケ、ケンスケ、もしかして飯に釣られてイヤーンな関係か」
 「……そ、そんな事ある訳ないだろ」




 トウジにだけは言われたくないとケンスケは思った。一方確かにお弁当のお礼はあるかなぁ〜〜と思った。




 「なんでそこで言い淀むのよ。もしかしてケンスケ君本当にノゾミと…………ふ不潔よぉ〜〜」
 「違う〜〜〜〜俺は無実だ」




 既にアスカ達の事を忘れている三人であった。そんなこんなで色々あったが無事初日は終了した。












 「アスカちゃんシンちゃん今日はどうだったぁ〜〜」




 えびちゅ3本目のミサトが聞く。今日の夕食はタコ焼きだ。作ってしまった原料が余ったので貰らってきたものだ。もっとも具にはタコ以外も入れているが。タコ焼きをつまみにビールをかっくらい片手で尻をぼりぼりと掻くミサト。ある意味では色っぽいのかもしれない。




 「うまくいきました。コーヒーの評判は完璧に近かったです。出前もひっきりなしでした」
 「ただタコ焼き余っちゃたんです。ケーキは三時頃に無くなって。私も食べたかったなぁ」
 「さすがにその辺りの完璧な予想は難しいわよね。コーヒーは完璧か……まそうよね。リツコのコーヒー豆のストック一挙に出したもんね」
 「一目でコーヒーマニアだと判る人が何人もリツコさんを紹介してくれって僕やアスカさんや綾波に言ってました」
 「う〜〜んなんでリツコとアナタ達の関係まで知ってるのかしら。恐るべきはマニアの情報収集能力ね、諜報部顔負けだわ。ところで何かアナタ達不自然ね。どうしたのかしらぁ〜〜」
 「な、なんでもないです」
 「そそうよ、ミサトさん」
 「なぁ〜〜んかあやしいなぁ〜〜〜〜。シンちゃぁ〜〜んとうとうアスカちゃんとキスでもしたのかなぁ」




 妖怪のような顔で顔でニタつくミサトである。




 「ミミミサトさんが……いじめるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。うわわわわわわわわわわわわわわわわわわん」




 あいもかわらず賑やかな葛城家である。
















 翌日学園祭第二日目も店は賑わった。前日のコーヒーの旨さが広まったらしく客がひっきりなしだった。また女性客も多い。これはケーキ目当てである。思ったほど衣装目当ては少ない様である。その為これは客集めというより2−Aの皆の楽しみとしてする事になった。そのせいでアスカはアン○ラ、レイは男装、シンジは航空機パイロットと自分の気に入った格好をしていた。ちなみにヒカリは浴衣、トウジは阪神ウルフズ、ケンスケはネルフの制服だった。時々ピーターパンの格好のままのノゾミが遊びに来ていた。




 「ノゾミちゃん昨日の舞台格好よかったわ」
 「何かアスカお姉ちゃんに言われると僕照れちゃうなぁ。アスカお姉ちゃんのその衣装もばっちりだもん」
 「そうありがとう」




 アスカはスカートの裾を持ちくるっと回る。今度は大丈夫である。ちゃんとアスカの胸にも耐えられるように強化しつつ仕立て直されたらしい。店の中の男の視線がいっせいに集まる。一方ノゾミはタコ焼きセットを食べている。タコ焼きは二皿目を注文している。育ちざかりだ。ただタコ焼きを食べるピーターパンはいささかシュールである。




 「はい。おまち」




 ケンスケがタコ焼きの追加を持ってくる。




 「お兄ちゃんも少し食べない。全部は僕無理だもん」
 「いいの」
 「うん」
 「じゃちょっとお邪魔するよ。惣流さん俺休憩時間使うから」
 「うん判った」




 アスカは店の端に戻っていく。そこにはレイとヒカリもいた。トウジとシンジは調理室だ。




 「洞木さん。いつからノゾミちゃん相田君とあんなに仲いいの」
 「知らないわ。ノゾミのタイプって相田君だったのね」
 「くっついている」




 レイが言う通り。顔がくっつきそうな距離で話している。どうやら戦艦や空母の話らしい。




 「来週一緒に戦艦見に行くって家でもはしゃいでるわ。戦艦見に行くのとケンスケ君と一緒に行く事とどっちが嬉しいのって聞いたらどっちもだっていけしゃあしゃあと言ったのよ」




 やれやれと言った感じでヒカリが言う。




 「意外な所に相田君のファンがいたのね。でもはっきり言えてうらやましいなぁ」
 「「うん」」




 アスカのぽつりと言った言葉にすぐ反応するヒカリとレイである。三人は自分の発言に気が付いたらしくすぐに頬が赤くなった。




 「え〜〜と。あ綾波さんそろそろ歌唱コンクールの時間じゃない」
 「……そうね」
 「じゃあ行って来たら。後で皆で行くわ」
 「……判った。ここお願い」




 そう言うとレイは休憩所の方へ歩いて行った。












 「あっ加持さん、ミサトさん」
 「いょ。アスカちゃんどうだい」
 「うまくいってる〜〜」




 加持とミサトはいつものネルフの制服でやって来た。相変わらず加持は不精髭だ。二人は窓際の席に座る。




 「ご注文は」




 思いっきり可愛くポーズを付けて聞くアスカ。




 「まずは君の笑顔。次は君自身」




 バキ




 ミサトが左手で加持の首を掴んで思い切り右のフックをあごに突き刺す。加持撃沈。




 「か加持さん。だ大丈夫…………しくしく……うっくひっく」




 白目を向いて仰向けに椅子にもたれかかる加持を見てアスカが早速泣き出す。




 「大丈夫よ、このバカは。注文はこいつにはタコ焼きセット。私はケーキセットをブレンドコーヒーとチーズケーキで。アスカちゃんが注文を伝えて戻ってくる頃には起きてるわよ」
 「う、うん」




 最近加持とミサトの夫婦漫才に慣れて来ているのか素直に調理場に行く。




 「アスカちゃん奇麗になっていくな」
 「そうねってあんたもう復活、今の普通なら首折れてるわよ」




 と、とても危ない事を言うミサトである。加持は首をこきこきと捻っている。




 「慣れだね。あと微妙に打点ずらしたから」
 「さすがね」




 ミサトの目が光った。微妙な所で避けられたのを知ったからだろう。




 「おっと。お手軟らかに。ここではなんだろ。後でベッドの上で頼むよ」
 「……なんか真面目に相手する気がなくなったわ」




 ミサトは言う。




 「たしかにアスカちゃん奇麗になっていってるわ。普段でもね。レイちゃんもそうよ。はぁ」
 「葛城、もっと明るくいこうや」
 「でもさぁ……あんな子達を戦わせてるって考えるとね……それも……」
 「おっとそれ以上は。葛城はずぼらなくせに妙に気が優しかったりする時があるからな。指揮官が弱気じゃ作戦はうまく行かないぜ」
 「まあね」
 「何話してるの」
 「いやぁアスカちゃん。アスカちゃんも大人っぽくなってきたなって事だよ」




 戻って来たアスカにウィンクしながら話す加持である。




 「アスカちゃん気を付けてよ。こうやって何人毒牙にかけた事やら。私もこんな奴に騙されなければねぇ〜〜」
 「こんな事言ってるけどこいつ俺にべた惚れだったんだぜ。一日中おねだりされたもんだよ」
 「な、なに子供の前で言ってるのよ」
 「あ〜〜だ」
 「う〜〜だ」




 二人は口喧嘩を始めた。アスカはぼーっと見ていた。




 「やっぱり仲いいんだぁなぁ。ミサトさんて加持さん取られたくないんだ。加持さんも」
 「え、いやあの〜〜」




 ミサトは返事に困る。




 「わるいなぁ〜〜アスカちゃん。アスカちゃんまだ十三だし今口説くと俺おまわりさんに捕まるよ。だから五年ぐらい後に……」
 「大丈夫よアスカちゃん五年後にはこんな髭面よりずっといい彼氏ができてるから」
 「そうかなぁ……」




 アスカが首を捻っているとちょうどケンスケがタコ焼きセットとケーキセットを運んで来た。




 「葛城三佐、加持一尉ケーキセットとタコ焼きセットをお持ちしました」




 ケンスケはテーブルにそれらを置くと直立不動で立っている。




 「うむごくろう相田君……なんちって。ケンちゃんなかなか似合うじゃない。将来は私の部下にしたあげるわよぉん」
 「部下にケンちゃんでありますか。光栄であります」




 ミサトの発言に感激のケンスケである。




 「ケェェェェンちゃぁ〜〜ん、そ言えば聞いたわよ〜〜。可愛い彼女出来たんだってぇ〜〜〜〜。しかもヒカリちゃんの妹なんだってぇ」
 「えっそれは…………」
 「ふぉぉ。やるなケンスケ君紹介してくれよ」
 「え、いや、あの……」




 ケンスケしどろもどろである。




 「まあ今度にしようか。おっこんな時間か。ぱっぱと食べてレイちゃんの歌聞きに行かないとな」
 「あらそうね。じゃいただきます」




 ミサトがコーヒーをすする。




 「じゃあ私達仕事に戻りますから」
 「頑張ってね」
 「「はい」」




 アスカとケンスケは戻って行った。












 「綾波さん今日の歌最高だったわ。それに衣装もぴしっと決まっていたし」
 「ありがと」
 「すごかったよレイお姉ちゃん。僕感動しちゃった。一等は当然だったね」
 「そうだね。俺またカメラ写し損ねる所だった。ただ今度はしっかり写したからリツコさんに渡しとくよ」
 「うん」
 「綾波ますます歌と踊りうまくなっていくね。ほんと奇麗だった」
 「あ、ありがと」




 シンジの一言で赤くなるレイである。皆は下校の途中である。最近はノゾミもひっついてくる。




 「綾波さんうらやましいなぁ。私凄く音痴だもん」
 「でも惣流さん運動神経抜群、頭いい、スタイルが凄くいい」
 「まぁ誰でも得手不得手長所短所があるっちゅう事やな」
 「鈴原ってなにか得意とか長所ってあった」
 「なんやてイインチョもう一度言うてみぃ」
 「あ〜〜あ、お姉ちゃん素直じゃないなぁ」




 今日も夕焼けが奇麗であった。
















 翌日は学園祭の最終日であった。その為午前中だけである。シンジとアスカがケーキとコーヒーの配達を終えて帰ってくると意外な人物が店にいた。




 「とうさん」




 シンジが言う。店の真ん中辺りの席にはゲンドウが座っていた。いつものネルフの制服姿で脚を組み座っている。白い手袋をしたままコーヒーカップを摘まんでいるが意外と似合っている。
 シンジは横を通り過ぎる。




 「シンジ明日は行くのか」




 ゲンドウが低い声で言う。シンジは立ち止まる。




 「……行く……つもり」




 シンジは振り返らず言う。ゲンドウは立ちあがる。




 「コーヒー旨かった、アスカ君」




 ゲンドウはレジで支払いを済ますと店を去っていった。シンジはまだ立ち尽くしていた。




 「おじさま、シンジ君の事待ってたのかしら」
 「知らないよ、そんな事」




 シンジは呟いた。












 アスカ達の学園祭は無事終了した。材料にいいものを使い過ぎた為いささか苦しかったが2−Aの皆の衣装代ぐらいは出た。リツコの作った自動機械はネルフの食堂で再利用するという口実で運搬等の費用をネルフの雑費で落とす様にリツコが手配したせいもある。後片付けも三時には終わった。これは女子の着物の着付けを手伝っていたリュウのメイド部隊が手伝った為もある。もちろんメイドは直接手は出さなかったがアドバイスをしたおかげでスムーズに進んだ。
 後片付けが終わると自由に帰宅できる為、アスカ、シンジ、レイ、ヒカリ、トウジ、ケンスケ、ノゾミはファーストフードの店で打ち上げをしていた。




 「では2−Aの喫茶店の成功を祝って乾杯」
 「「「「「「「乾杯」」」」」」」




 ケンスケの音頭でジュースで乾杯である。




 「大成功やったなぁ。初日はタコ焼きあかんかったが。二日目はよう売れたで」
 「そうね鈴原。二日目はご飯として食べる人やお土産として持っていく人が多かったわね」
 「ケーキ売れたわ。コーヒーも」




 レイが言う。




 「そうね。あのコーヒーとケーキ美味しかったから。リツコさんさすがだわ。ねえシンジ君」
 「……ん、あ、そうだね」
 「ねえ、シンジ君なんだか元気ないわ。どうしたの」
 「そうだよシンジ。何か元気ないぜ」
 「うん。碇君なにか変」
 「何でもないよ」
 「さよか。何か知らんがまあ明日は休みやさかいゆっくりすれば元気もでるやろ」




 明日は代休で休みである。




 「そうだ鈴原、ノゾミが遊園地行きたいって前から言ってたから明日連れてってくれない。この子うるさいのよ。この子の監視役で私も行くから」
 「なんでワシやねん。ノゾミちゃんやったらケンスケやろ」
 「ケンスケ君と二人だったらノゾミが危険でしょ」
 「なんで俺がノゾミちゃん襲うんだ。俺はロリコンじゃないぞ」
 「ケンスケお兄ちゃんひどい。僕だってもう大人だぞ。去年からブラジャー付けたんだよ。だいたいヒカリお姉ちゃん僕をだしにして……」
 「何言ってるのノゾミ。あんた行きたいって言ってたじゃない……」




 騒がしいヒカリ達とは対照的にシンジ達は静かだった。




 「シンジ君大丈夫」
 「碇君」
 「うん大丈夫だよ」




 シンジはやはり俯いていた。












 「で、シンちゃん明日は行くの」




 その日の夕食後お茶をすすりつつミサトが聞いた。




 「ええ行きます」
 「シンジ君どこに行くの」




 なんとなく聞きづらい雰囲気であったがアスカは思い切って聞く。




 「……明日母さんの命日なんだ。墓参りに行くんだ。…………父さんもくるんだ」
 「そうなんだ」




 なんとなくアスカは言葉が続かなかった。部屋はお茶をすする音だけになった。




 「シンちゃん。いい機会だから大変でしょうけど司令……お父さんと話してみたら。私やアスカちゃんと違ってあなたはまだ話せるんだし」
 「…………うん」




 また部屋は静かになった。
















 「じゃあ行ってきます」
 「行ってらっしゃい」




 シンジは墓参りに出かけた。ミサトは既に出勤している。アスカは一人になった。












 「暇だなぁ」




 ゴロゴロ




 アスカは居間を文字通り転がっていた。




 「やっぱり洞木さん達と一緒に遊園地行けばよかったかなぁ」




 結局トウジとヒカリ、ケンスケとノゾミは遊園地に行っている。レイは何か用があると言って行かなかった。アスカもなんとなくシンジの様子が変だったので理由を付けて行かなかった。




 ゴロゴロ




 ゴロゴロ




 洗濯も掃除も漢字のドリルも終わってしまった。




 ゴロゴロ




 ゴロゴロ




 そのうちアスカは眠り込んでしまった。












 アスカが気が付くとタオルケットが掛かっていた。居間の端っこの方に寝ていた。反対側にはシンジが仰向けで寝ていた。




 「シンジ君が掛けてくれたんだ」




 少し頬が赤くなった。そっと立ちあがるとシンジの側に行く。静かにうつぶせに寝転がると頬杖をつく。シンジの顔がすぐ横にあった。
 シンジは少し疲れたような顔をして寝ていた。そうアスカには見えた。




 「シンジ君何か辛いのかなぁ」




 アスカは呟いた。
 ふとアスカはこれまでの事を思い出した。一緒に戦った事、家の事、レイとの事、ネルフの皆の事、そしてシンジの事。そして思った。




 「ねえシンジ君…………私やっぱりシンジ君好きみたい」




 アスカは自分でもこんな事を言うのが不思議だった。シンジが寝ているせいかと思った。




 「シンジ君は私と……綾波さんのどっちが好きなの」




 寝ているシンジは答えない。




 「きっと綾波さんね。いつも見てるもん」




 少し視界がぼやけてきた。




 「いけない。泣いたらシンジ君おきちゃう」




 瞳を拭う。




 「そうだ。キスしてあげる。寝ているシンジ君なら怖くないわ。きっと」




 アスカはそう呟くと体を動かしシンジの顔の上に自分の顔をもってくる。少しづつ唇と唇を近付ける。アスカは自分でも震えているのが判る。




 もう少しで唇が触れ合う時アスカは動きを止めた。そして顔を引くとシンジの寝顔を見る。




 体をずらすとまた頬杖をついた。




 「やっぱり卑怯よね。綾波さんにもシンジ君にも……」




 そしてアスカはシンジの顔を眺め続けた。












 「ただいま」




 今日はなんとなく静かにミサトは帰ってきた。




 「あれ誰もいないのかしら。靴は有るわよね」




 ミサトは静かに探した。




 「あら」




 明かりもついていない居間では仰向けにシンジが側にまるまってアスカが寝ていた。ミサトはしばらく二人を眺めていたが、タオルケットを取ると二人に掛けた。エアコンを丁度いい具合に調整した。




 「さて自分で夕飯作らないと」




 ミサトはそう言いキッチンへ向かった。












つづくわよぉ〜〜ん










NEXT
ver.-1.00 1998+09/08公開
ご意見・感想・誤字情報・らぶりぃりっちゃん情報などは akagi-labo@NERV.TOまでお送り下さい!




あとがき




 え〜〜とアスカちゃんとシンジ君キスしませんでしたね。ほんとはシンジ君にふられて本当にめそめそするアスカちゃん書くつもりだったんですけど、やっぱり可哀想なんで止めました。でキスの話は外伝で……。ではまた。








 合言葉は「めそめそアスカちゃん」




 ではまた



 まっこうさんの『めそめそアスカちゃん6』、公開です。




 ううう・・行きたいぃ なぁ


 最高レベルの模擬店。

 いや、ふつうに街にある店の中でも間違いなく最高レベルですよね。



 うまい飲み物。
 うまい食い物。


 ウエイトレスs・・・


 あああ・・・行きたいなぁ〜





 トウジとケンスケの告白で、子供達の間に嵐が吹いたけど、、
 ちゃんとなったね。良かったね(^^)


 友情があったかいです☆



 宝だよね。





 さあ、訪問者の皆さん。
 ケンスケも忘れないまっこうさんに感想メールを送りましょう!





 #LHR :ロングホームルーム だよね。

   すわっ 今度はなんの略語なんだろうかと一瞬考えちゃった(笑)






TOP 】 / 【 めぞん 】 / [まっこうの部屋]に戻る