チルドレンINワールドカップ・その1
西暦2002年、日韓ワールドカップは開催されなかった。セカンドインパ
クトのためである。世界はそれどころではなかった。
西暦2006年、2010年やはりワールドカップは開かれなかった。
使徒の脅威に曝された2014年は当然である。
時は流れて西暦2026年、世界はスポーツに目をむけるだけの余裕を取り
戻していた。世界の復興を願ってサッカーワールドカップが日本で行われるこ
ととなった。
「トウジおはよう」
「シンジお〜は〜よ〜うさん」
「あれトウジどうしたの、なんか元気無いね」
「昨日嫁はんとけんかや、そんで朝めしくうてあらへん」
「なんでケンカなんか……」
「シンジのせいや」
「え!僕の……」
「この前の地区予選の最終戦のことや」
「1対0で勝った韓国戦の事?」
「そうや。あの得点シンジのアシストでワシのゴールやったな」
「そうだね」
「嫁はんワシのゴールよりシンジのアシストの方がえらいちゅうんや。それ
で頭来たよっておまえはワシよりシンジの方がいいんやなぁちゅぅたらどんぱ
ちや。それで今日は朝めしぬきっちゅうことや。それよりシンジうまそうな弁
当持ってるな」
「うん。これ彼女が作ってくれたんだ」
「あのタカピー女がか。人っちゅうもんは変われば変わるもんやなぁ」
いつもの2ばかの漫才である。
「あらシンジ君、トウジ君おはよう」
「リツコさんおはようさんです。」
「お母さんおはよう」
「まだシンジ君にお母さんって言われるのって慣れないわね」
「そのうち慣れますよ」
「リツコはん、なんでこんなとこに居ますんねん」
「なに言ってんのトウジ君。私はここの副所長よ」
「そうでしたぁNERV運動機械研究所副所長でした」
「違うわ。運動生理研究所よ。相変わらず物覚え悪いはね」
「えろうすいまへん」
「ところでトウジ君、足の具合はどお?」
「ばっちりですは。バイオなんとかレッグは」
「正確にはバイオ・クローン・レッグ。本人の細胞をクローン増殖させて、
それを分化させ……うんたらかんたら…………とんちんかんちん……という
物よ」
「ようするになんなんでっか?」
「ようするに本物と同じって事」
「さいでっか」
「なんだったら加速装置でもつけましょうか」
リツコの目が光る。
「けっこうですわぁ〜〜今でも十分世界を狙えます」
「ピンポンパンポン…………碇リツコ博士、碇リツコ博士、碇ゲンドウ所長
が所長室でお待ちです。至急おこしください…………ピンポンパンポン」
「あらあの人が呼んでるわ、じゃまた後でね」
リツコは小走りに駆けていった。
「ディープにMADや」
「我が親ながら似合いのMADなんだよ」
ため息交じりのシンジであった。
ここはNERV本部運動生理研究所付属グランド、日本サッカー代表の合宿
所であった。
最後の使徒を倒した後、碇ゲンドウは、レイを使い人類補完計画を発動しよ
うとした。しかしレイは自由意志によって拒否、人類補完計画は発動しなかっ
た。NERVはエバやクローン技術を人類の福祉のために活かすための研究組
織へと衣更えした。エバは汎用人型作業機械のプロトタイプとして、クローン
技術は臓器移植の為の技術として研究が進んだ。
「おーいシンジ、トウジ」
3ばかがそろった。
ケンスケが迷彩服に深緑の自転車というこれまたディープな姿でやって来た。
彼らは日本代表のFW、MF、GKであった。
午前の練習の後、ミーティングルームにて日本代表監督はえびちゅ片手にこ
う言った。
「この資料が本戦で戦うチームのデータよ!!」
ミーティングルームのディスプレイには、次々に相手チームの選手のデータ、
チーム戦術が映し出されていった。
「監督。このデータどないしはったんでっか」
「いい質問ね」
と監督。
「これはNERV本部の諜報員に集めさせた選手のデータ、チーム戦術など
をリツコに手伝ってもらってMAGIを使い解析したものよ」
「でもNERVってそんな事していいんですか。だって世界的な組織でしょ」
とシンジ。あいかわらず心配屋である。
「だいじょぶょ。おっとこの子だったら気にしないの。ワールドカップで、
NERVの各支部はお互い自国の為に予算器材を使っていい事になってんの。
日本本部では青葉シゲル、マヤ夫妻が主に情報をあつめているわ」
「ディープや、ディープな話や」
代表監督は続ける。
「いいあなたたちは今や世界一のサッカー選手達よ。
本戦では自信を持って戦いなさい。
おっとこの子だったら景気よく優勝よ。
優勝したらいい事してあげるわよぉ〜〜」
「うぉ〜〜がんばりますぅ〜〜〜〜」
選手達は吠えた。
この代表監督は日本サッカー史上始めての女性監督であった。ドイツに渡っ
てコーチ学を学んだ後帰国、ギャンバ新大阪の監督として活躍した。彼女の類
希なる組織統率力と作戦計画能力によりチームは連戦連勝を重ねた。そして代
表監督に就任した。彼女にはもう一つの武器があった。それはお色気である。
40を過ぎても衰えぬそのナイスバデーは、選手達を振るい立たせた。きめ言
葉は「勝ったらいい事してあげるわよぉ」だった。もっとも年下の夫に言わせ
ると「いい事とは一緒に酒を飲む事」だそうだ。とは言えこの台詞を太股あら
わの短パンで言われるとわかっていても頑張ってしまう選手達であった。
えびちゅ飲みおえ、またもう一本のえびちゅを開けながら日本代表監督は叫
んだ。
「さぁ一週間後の一回戦めざして練習再開よ」
時は過ぎて一週間後、ワールドカップの本戦一回戦対ナイジェリア戦の日が
来た。
日本代表GK相田ケンスケは、今日も朝早くから起きてロードワークをして
いた。彼の妻が好きな選手である川口能活選手はセカンドインパクト前の横浜
マリノスに所属していた。彼は毎日激しい練習と正確な体調維持で有名な選手
であった。彼を尊敬するケンスケはそれをまねていた。ちなみに今川口選手は
ケンスケの所属する新横浜マドロスのGKコーチをしていた。
「ただいま」
「おかえりなさい。あなた」
ケンスケは体調維持のため朝から大量に食べる。彼の妻は大変だった。
「あれおまえ、今日はなにか元気が無いね。」
ただでさえ色白の彼の妻ではあったが、今日の顔色は青白かった。
「そんな事はないわ。お食事テーブルに出来てるわよ」
「うんわかった」
かれは席に着いた。テーブルにはいつもの朝食が並んでいるようにみえた。
ご飯に味噌汁、卵焼き。しかしそこには普段なら絶対あり得ないものがあった。
「これは…………鳥の空揚げ」
ケンスケの大好物であった。しかし先天的に肉アレルギーである妻の為自宅
では一切肉を取らないケンスケであった。
「おまえこの為にそんなにふらふらしていたのか!!」
ソファに座り込む妻に向かってケンスケは叫んだ。
「今日はあなたにとっても日本代表にとっても大事な日。だから頑張って作
ってみたの。ねえあなた食べてみて」
「おまえ……わかった」
ケンスケは食べた。はっきり言ってまずかった。肉を食べた事の無い彼の妻
に味付けが出来る訳が無かった。しかしケンスケの心は喜びと勇気にみちあふ
れていた。
妻の頭を抱きながらケンスケは言う。
「ありがとう。おまえ。この空揚げに誓って今日の試合は勝つ。だから今日
は休んでいてくれ」
「わかったわ。あなた。頑張ってね」
妻を布団に寝かせた後、彼は試合場に向かった。
試合は膠着していた。組織力では定評の有る日本チームであったが、ナイジ
ェリアの選手達の驚異的な身体能力の前に苦戦していた。
結局、前後半延長共に0対0のままPK戦へともつれ込んだ。
「なあシンジ」
PK戦の前の一時である。
「なんだいケンスケ」
「実を言うと今日の今日まで、俺はおまえに嫉妬していたんだ」
「な、なんで」
「俺の妻は俺よりお前の事を好きなんじゃないかと。だけどお前にはあの子
がいる。その為俺と結婚してくれたんじゃないかと」
「そんなこと絶対に無いよ」
「だけど今日妻は鳥の空揚げを作ってくれたんだ。」
「え!!」
「そう肉を触るだけで倒れてしまうような妻が鳥の空揚げを、ふらふらしな
がら作ってくれたんだ。それをみて俺はうれしかった。こんなに愛されている
のかと思った。そして恥ずかしかった。妻を疑ったり、シンジに嫉妬していた
自分が。シンジ許してくれ。そしてこの試合を妻にささげる為手伝ってくれ」
「ケンスケ。PK戦頑張ろう」
「おう」
そしてPK戦は始まった。
日本の先攻で始まったPK戦は4対4でシンジに廻ってきた。彼はゴールの
右隅にきっちりと決めた。
ナイジェリアの選手がボールをペナルティーマークへと置く。ボールが蹴ら
れると同時にケンスケは左へと跳んだ。指先はボールをゴールマウスからはじ
き出した。
日本は一回戦を突破したのだった。
テレビで試合を見ていた、ケンスケの妻は、今度は酢豚に挑戦してみようと
思った。
つづく
あとがき
そうなんです。セカンドインパクトがあるとワールドカップは日本で開催さ
れないんです。それは困るという事でこれを書きました。ケンスケの妻は誰か?
はたして代表監督は?ばればれですが最終話迄秘密です。
まっこうさんの『チルドレンINワールドカップ』その1、公開です!
どこかで見たことある?
そうです、リテイク版です(^^)
元の物は
「話が性急・設定の説明で終始している」
との印象が強かったですが、グググッッと良くなりました(^^)/
早速のリテイクにまっこうさんの”やる気”が伝わってきます。
さあ、訪問者の皆さん。
まっこうさんに感想メールを送りましょう(^^)