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寝静まった街並み。

空に浮かぶ満月が、そんな家々のシルエットを闇の中にぼんやりと浮かび上がらせる。
そしてそんな夜道を、帰るべき場所へと歩くその二人にも、月は淡い光をもたらしていた。

幸せそうにしている二人に、微笑みかけるように。










少女はさっきからずっと少年の腕を捕っていた。

少年は左腕に少女の重みを感じながら、さっき、自分の言ってしまった台詞に顔を赤く染めていた。
それは、月明かりに浮かび上がる朧気な少女の姿。
口をついてでた言葉は、『綺麗だよ』。

少女はというと、やはり少年と同じように頬を染めていた。
そしてその表情は、限りなく嬉しそうだった。
なぜなら、少女のせがみ無しに少年がそんな言葉を言うのは、そうは無いことだったから。

さっきまで楽しんでいた朧気な月下の風景も、既に二人の目には入っていなかった。

少女は、視線を落としてアスファルトばかりを眺めながら、さっきの少年の言葉を反芻していたし、少年は少年で自ら発した言葉に頭の中を真っ白にしていた。




「ねえシンジ」

下を向いていた少女が、おもむろに顔を上げると少年に声をかけた。

「なに?」

少女の不意の言葉に少し意表を突かれた体で言葉を返す少年。

「・・・・何でもない・・・」

僅かな間、少年の顔を見つめていた少女は、軽く微笑むと曖昧な返事をした。

「そう?」
「うん」

怪訝そうな少年をよそに、
少女はその少年の腕を、愛おしそうに大事そうに、さらに強く両の腕で抱え込んで再び視線をアスファルトに落とした。

少年はというと、
そんな少女の仕草に疑問符で答えながら、さらに強烈に感じられる少女のぬくもりに、今更ながらに顔を赤くした。

いったん意識しだすと、そこは健康な若い男。
少年は、腕から伝わる柔らかい感触に、自分の男としての部分が呼び起こされるのを意識せずにはいられなかった。

「あ、あのさ」

それを誤魔化すかのように声を出す少年。

「なに?」
「・・・」

ほんのり頬を朱に染めている少女が、打てば鳴る鐘のごとく言葉を返してくる。
その汚れのない表情に言葉が続かなくなった少年。

「なによ」

少女は、少しじれたように言葉を投げる。

「ううん、なんでもない・・・」
「ふふっ、なにそれ・・」

苦笑いにも似た表情で発言を取り下げる少年に対し、少女はクスリと笑った。

「ははは、なんでもない」
「アタシの真似したってわけ?」
「・・・うん」

少女の笑みに、思わず肯定してしまった少年。
そんな少年の心を知ったか知らずか、少女は悪戯っぽい笑みを浮かべて言葉を続ける。

「へぇー、じゃあ、アタシが何言おうとしたのかも分かったわけ?」
「んん〜〜〜・・・」

ここで誤魔化せられるほど、少年は口が上手くなかった。
少女は、そんな不器用なところも彼の魅力と認めているのではあったが、偶には上手く誤魔化して欲しいときもある。

「なによ、ホントになんでもなくて声掛けたと思ったの?」

だから、少し声を荒げてしまった。

「ごめん」

途端に謝ってしまう少年。そんな少年の言葉に、大げさに悲しんでみせる少女。

「あー、酷い! アタシの気持ちはいつもシンジに通じてると思ってたのに・・・」
「あ、でも!」

少年は咄嗟に言葉を続けた。

「なによ」

ジト目で少年を見やる少女。

「僕は、アスカと、アスカの声が、聞きたかったから・・・」

少年にしては上出来な台詞だったが、物事にはタイミングという物がある。少年の言葉はいささか遅かったようだ。

「ふん、今更そんなこと言われても嬉しくないですよ〜だ!」

ベーっと舌を出して少年の言葉に応える少女。

「あ、えっと、その・・・」

少年は、少女の機嫌を損ねた様子にしどろもどろになる。
そんな少年の様子に、少女は不機嫌そうな声をかける。

「なによ、なんなのよ」
「い、いや・・・」

「なにか言いたそうね、言ってごらんなさいよ」
「いやぁ、その、・・・・腕にね、・・・・・いや、やっぱ、ぃぃ」

少女に促されるままに、なにも今更言わなくていいことを口にしかけた少年。

「ん?.....あっ! このスケベ!!」

その言葉を聞いて、はじめ疑問符を頭上に浮かべていた少女だったが、自分が少年の腕を抱え込んでいることに気が付いた途端、顔を真っ赤にして慌てて少年から離れた。

「だ、だってっ」

慌てて言い訳を始めようとするが、少女は構わず言葉を続ける。

「しんじらんない!人がせっかく二人っきりを楽しんでたっていうのに、そんなことしか考えてなかったなんて!」

「だってしょうがないじゃないか、僕だって男なんだから!」
「だってじゃないわよ!もう、こうなったらお仕置きよ!」

そう言うなり少女は少年の後ろに回り込み、その背中にダイブした。
少年の首に自らの腕を巻き付け、しっかりとしがみつく。しかも体を擦り付けるように。

「あっ、ちっちょっと、そんなことしたらもっと胸が当たっちゃうよ!」
「うるさい!嬉しいくせに、抵抗するんじゃない!」

もがく少年にさらに強く抱きつく少女。

「ちょっ、アスカぁ!」
「どう?さっきよりもっと感じるでしょ。アタシの胸」

「やめてよぉ」
「やめて〜? なに言ってんのよ! だいたい、今更胸が当たるくらいでドギマギするんじゃないわよ」

「だってさぁ」
「だってじゃない! 今日だって一緒に寝てたんだからね!」

「だからぁ!ほら、こんな月の下でこういう事しなくても」
「なによ、そのいい雰囲気を壊したのはアンタなんだからね!」

「そりゃそうかもしれないけど・・・」
「そうよ。ホント、男ってやあね〜」

「〜〜〜」

少女の台詞に、遂に返す言葉を失う少年。

「ふふ、まあいいわ。そんなシンジも可愛いわよ」

少年の首筋辺りに頬ずりをしながら言う少女。

「・・・・・・・
 アスカも可愛いよ」

「!・・・・な、何言ってるのよ。アタシが可愛いのはいつものことでしょ。それにアタシが言う前に先に言いなさいよね」

言葉とは裏腹に、その顔は嬉しさに溢れている。

「うん、でも、ホントに」
「二度目は言わないの!」

そう言うと、少女は背中から離れて少年の正面に回る。

「え!?」

「言う代わりに、・・・・する事があるんじゃない?」

艶っぽい笑みを浮かべて上目遣いに少年の顔を見る少女。

「?」
「ほらぁ」

なんのことか分からない様子の少年の首にそっと腕をまわす。

「あっ.....うん」

やっと少女の意図を理解した少年は、少女の腰に腕をまわして彼女を抱き寄せる。



そして、

二人の距離は

零になった。














名残惜しそうにしながらも、ほんの少しだけ距離をおく二人。

「でも、やっぱり言うよ。
 可愛いよ、アスカ。大好きだ」

目の前の少女を愛おしそうに見つめる少年。

「うん、アタシも大好きよ、シンジ」

微笑んで、それに応える少女。



「でも、スケベなシンジは嫌いよ」

ウインクしながら発せられたその言葉が、
そのままの意味を持っているかどうかは些か疑わしいかもしれない。














少女は再び少年の左腕を捕ると、少年を促すようにして歩き出した。

柔らかい笑みをもって、それに倣って歩き出す少年。

そんな二人の姿に、

月は微笑みを絶やすことはなかった。
















月夜だから

















家へ帰ろう

ver.-1.00 1997-10/14 公開
ご意見・ご感想は こちらまで!



<あとがき>

どうも、たこはちです。

今更ですが・・・、『月の下で』からそのまま繋がるSSを書きました。
えーと、題名の『月夜だから』ですが、"だからこんな事したんだよ"っていう言い訳です(^^;

しかし、甘いねぇ。
実に久しぶりに、自分の部屋のSSをUPしたわけですが・・・、甘すぎる・・・なんの脈絡もなく(笑)。
まあ、なんの脈絡も無かろうと、LASなんだから良しとして下さい(爆)。

たこはちでした。



 たこはちさんの『月夜だから』、公開です。
 

 ソースを見たところ、
 moon3へのリンクがさりげなく作られていました−−−
 

 この続きとなると、やっぱり・・
 いい雰囲気のまま部屋に帰って・・・

 「今日だって一緒に寝てたんだからね!」
 と言っていることだし、また一緒に寝るんでしょ・・・

 「今更胸が当たるくらいで」
 なんだから、当然そういう関係でしょうし・・
 

 18禁に突入か?!
 

 月の灯は人の野生を呼び覚ますそうですので、
 きっと激しい−−−−(爆)

 
 

 さあ、訪問者の皆さん。
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 下ネタで空気を汚す大家にお叱りのメールも・・(^^;


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