どうやら今夜は、月が出ているようだ。
少年はそっと体を起こすと、音を立てないように気を付けながらベッドから窓際へと向かった。
そっとカーテンを開ける。
そこには、眩いほどの光を放つ満月と、それに照らされる寝静まった街があった。
辺り一面、淡く青白い光に包まれ、部屋の中にまでそれは届いていた。
少年は、ただ窓の外を眺めていた。
う・・・・ん・・・・
少年の後ろで、寝返りを打つ音が聞こえる。
振り返る少年。
ベッドの上にいたのは、少年だけではなかった。
う・・ん・・
どうやら、月明かりに目が醒めつつあるらしい。
少年はカーテンを閉めるでもなく、そっとベッドの上へ視線を送る。
う・ん・・
ゆっくりと少女の目が開かれる。
微笑みを浮かべて、少年は少女を見つめている。
少女の目に映ったのは、月明かりを背にした少年のシルエットだった。
「・・・シンジ?」
「ごめん、起こしちゃったね」
「ううん、いいの、それより、どうしたの?」
「いや・・、月がきれいだからさ・・」
少女はベッドから起き出すと、少年の隣に立った。
「ほんとね・・・」
辺り一面を、淡く照らし続ける月。
空には、雲ひとつ無い。
少年は少女の肩を抱きながら、少女は少年の肩にもたれながら、じっと、月を眺め続けた。
「・・・きれいだね・・・・・アスカ」
「うん・・・」
「ね、シンジ、外に出てみない?」
少女の突然の提案に少し戸惑う少年。
「うん、いいよ」
しかし直ぐに、微笑みをもってそれに応えた。
「じゃ、行きましょ」
軽やかな足取りで玄関へと向かう少女。
少年は慌てて声を掛ける。
「ねえ、このままの格好で行くの?」
二人はTシャツにホットパンツといういつもの寝巻き姿だ。
「そうよ」
微笑みながら事もなげに言う少女。
「こんな夜中に人に出合うわけないでしょ」
「そうだね」
少年も納得したようで、二人はそのままの姿で外に出た。
人々に漠然とした恐怖を感じさせる夜の闇は、今や月の光によって打ち消され、淡く照らし出された幻想的な世界を作り出している。
二人はそっと並んで、光に淡く浮かび上がるアスファルトの上を歩いていた。
柔らかい風が、二人を心地好く包んでいる。
いつも見慣れた風景。
時には喧嘩しながら、時には走りながら、ただ行き過ぎるだけの風景。
そして、月明かりに照らされた、幻想的な今の風景。
こんなにじっくりと、風景を楽しんだことは、二人にはなかった。
見慣れているはずなのに、ちっとも飽きない。
淡く、幻想的。
いつも鳴いている蝉の声でさえ、神秘的に聞こえる。
「きれいだね」
「そうね」
「月があんまり明るいから、星が出てないや」
「ほんと、あ、でも、少しは光ってるじゃない」
「そうだね」
他愛の無い会話もまた、二人を心地好くする。
少年はふと、隣を歩く少女の顔を見る。
いつも見る顔、見ない日なんて無い顔、罪なまでに均整の採れた美しい顔、そして最愛の人である顔。
それは少年にとって見慣れたモノのはずなのに、月明かりに照らされるその穏やかな顔は、少年を魅了するのに充分だった。
少年は、その顔に吸い込まれたように視線を外すことが出来なかった。
少女は、そんな少年の様子に気付く風でもなく、辺りの景色を眺めていた。
「うわっ」
どでーーーん
縁石につまずき転ぶ少年。
少女は一瞬驚いた顔をみせたが、少年の無様な格好を見て笑い出した。
「あはははは、アンタバカァ?ちゃんと下くらい見て歩きなさいよ。ホント、いっつもぼやぼやっとしてるんだから」
転んだ原因の一つが自分にあるとも知らずに無邪気に笑う少女。
少年は恨めしそうに少女の顔を見上げるが、直ぐに立ち上がると恥ずかしそうな顔をして言った。
「だってさ、アスカがあんまりにも綺麗だから・・・」
その言葉に少女の顔が、月明かりの下でも明らかにそれと分かるくらい、赤く染まっていく。
「バ、バカ、なに言い出すのよいきなり」
「ゴ、ゴメン、でも、本当に綺麗だよ、アスカ」
お互い真っ赤になって俯いてしまう。
「バカ」
実に嬉しそうにそっと呟く少女。
少女が突然少年の腕を捕る。
「さ、帰るわよ」
そして、赤い顔のままで言った。
「え?」
少女のその行動に戸惑う少年。
「これ以上見惚れられて、アンタに大怪我でもされたんじゃたまんないからね」
「アスカァ」
「それにほら、ここんとこ擦りむいてるじゃない」
「あ、うん」
「帰ろ」
「うん」
そして二人は、家路についた。
寄り添って歩くふたりを、
月が淡く照らし続けて。
ver.-1.01 1997-09/14 公開
ご意見・ご感想は
こちらまで!
どうも、たこはちです。
8/27深夜26時頃、めぞんのチャットに綴った、私の独り言をベースに書き上げたSSです。
私、満月に浮かび上がる風景って好きなんです。
ですから、二人に満月の下を歩いてもらいました。
月といえば綾波ですが、なんせ私、大家さんをしてLASの救世主とまで言わせた男ですから、
そんなことお構いなしです(^^;。アヤナミストの皆さん、ごめんなさい。
最後になりましたが、ログを録って下さったOhtukiさん、大変有り難う御座いました。
こんな風に締めてみました。いかがだったでしょうか。
では、ご意見・ご感想等お待ちしております。
今回の題字の場所についてもご意見・ご感想をお聞かせ下さい。
たこはちでした。
たこはちさんの『月の下で』、公開です。
よしっ!
これで【月】もアスカちゃんの物だ!
【太陽】これは元々アスカちゃんの物。
【星】これも・・・アスカちゃんの物だ・・(^^;
うむ。
天で輝く存在、全てを制覇したぞ(^^)/
さあ、アヤナミストの皆さん。
たこはちさんに何らかのメールを(^^;
さあ、アスカ人の皆さん。
たこはちさんに感謝のメールを!