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光を阻む闇の支配する時は終わり、世界は再び光に包まれようとしていた。
地平線の彼方から、天の王たる太陽がその身を今日も天頂まで押し上げようと顔を出す。
数刻もすれば、街の人々も目覚め、今日もいつもと何一つ変わらない一日を過ごすのだろう。
今は、まだ街は静かだった。かすかに朝の訪れを告げる小鳥たちの鳴き声は、むしろ静かさをきわだてているといえる。
朝の光に祝福されるように、彼女も目覚めた。
水色――光のかげんによっては銀色に見えなくもない――の髪を短く切りそろえ、雪ウサギを思わせる真っ赤な目はまだ半開きのままである。
彼女――レイは、一度大きく背伸びをして、ベッドから立ち上がった。
「うーん、今日もいい天気ねー」
窓を開け放ち、静かな街を見下ろしながら言った。
「なんか久しぶりに熟睡して、気分爽快、って感じよねー。例によって昨晩の記憶はないけど、ま、大したことじゃないわね」
彼女に言わせれば、自分が半裸で父のローブにくるまってたりしたことも大した問題ではないようである。
レイは意味もなく腕をぶんぶんと振り回しながら着替えを取りに行った。
宿に着いたときにシンジに自分たちの荷物を部屋まで運ばせたので、レイとアスカの荷物はほとんど女性部屋に置いてある。
なんとなく屈伸などしながら――これにも特に意味はないのだろう――、服を選ぶ。
結局白のワンピースに決めた彼女は、さっさと着替えると、洗面所の鏡でかるく髪をなおし、鏡に向かってにっこり笑いかける。
「おし。今日も可愛いぞ」
ユイの、「美しくなるコツは、まず自分にそう思いこませる事よ!」と、いう人生哲学に基づいて、12の頃から欠かさず続けてきた儀式である。
この光景を目撃して、愚かにも「何馬鹿なことやってんの?」と、いう暴言を吐いたイカリ=シンジは、何故かその後30分間の記憶が抜け落ちているらしい。
とりあえず朝にやるべき事を全てすませてしまったレイは、しばらく暇を持て余していたが、やがて一人しりとりにも飽きたのか、隣のベッドで幸せそうに眠っている未来の妹を叩き起こすことに決めた。
「うーん、シンジィ……」
何も知らずに惰眠をむさぼるアスカ。
ばっ。
突然全身に衝撃を感じて、自分の結婚式の夢から一気に覚醒する。
アスカが目覚めて一番最初に目に入った物は、床に脱ぎっぱなしになっているパジャマだった。
次に安っぽいクローゼット、そして3番目ににっこりと笑うレイの顔。
「ア・ス・カ。朝よ♪」
「朝……?」
「そ。朝」
まだ目の覚めていないらしいアスカに繰り返す。
レイにシーツを引っ張られてベッドから落ちたのだ。
アスカは緩慢な動作で部屋の中を見回した。目的の物を見つけたらしく、首の動きも止まる。
アスカはしばらく首の動きを止めて、一点を見つめていた。
やがて、壊れた仕掛け人形のように首を動かして視線をレイに戻し、
「あんたねぇ……なんで朝の5時に起こされなくちゃいけないのよ……?」
まだ怒鳴るだけの元気がないのか、必死に何かに耐えるような表情で呟く。
「だって私は目が覚めちゃったんだもん」
「だ・か・ら! なんでそれにいちいちあたしが付き合わなくちゃいけないのよ!?」
そろそろ頭が覚醒してきたらしく、もっともなことを言うアスカ。
だが、ネルフ村の住人に――アスカも含めて――、『もっともなこと』など通用するわけがない。
レイはさも当然とでも言うように
「だって退屈じゃない」
「〜〜〜〜〜!!」
アスカは不条理に耐えるように髪をかきむしると、「あたし、寝るっ!」と宣言して、布団の中にもぐりこんだ。
「しょうがないわねー。……それじゃあ、シンジでも襲ってこようかな☆」
どんがらがっしゃーん。
ふたたびベッドから転げ落ちるアスカ。
「な、なななななななな、何言ってんのよ!」
「あら? 私、何か変なこと言った?」
「思い切り言ったわよ! あんた自分の弟を襲おうだなんて一体何考えてんのよ!!」
「あら、知らないの? 『レイとシンジの禁断の兄弟愛が見たい』っていうリクエストも来てるのよ」
「なんなのよ、その変態なリクエストは!」
「分かってないわねー、アスカ」
ちっちと人差し指を振ってみせる。
「人は『駄目だ』って言われると余計に萌えるものなのよ♪」
「それを変態って言うのよ!」
少女達は今日も朝から騒がしかった。
レイとアスカが不毛な言い争いを繰り広げている頃、その原因のようなそうでないような少年、イカリ=シンジはまだ幸せそうに布団の中にくるまっていた。
「う〜ん、あ、だめだよアスカ、そんなとこ……」
どんな夢を見ているのかなんとなく気にはなったが、ゲンドウはとりあえず無視することにして朝の準備体操を再会した。
(昔はこんな事はしなかったのだが……)
結婚してから、ユイに付き合わされて始めた健康法である。
ユイの言うには、「早起きもできて、体も丈夫になって一石二鳥☆」と、いうことらしい。
最初の頃は不満たらたらやっていたものだったが、今では毎朝これをやらないと一日が始まらない。
思えば、この年まで病気らしい病気もしないで元気にやっていけたのも全てユイのお陰である。
ゲンドウは、体を思い切り反らせながら、ユイも家で同じことをしているのだろうと考え、少し幸せな気分になった。
「買い物?」
朝食に出されたソーセージをほおばりながらシンジが言った。
「そうだ」
ゲンドウの答えは素っ気ない。
「それじゃあ、私たちは服でも見てくるわ。父さんはどうせ本でも買いに行くでしょ。……シンジはどうする?」
「僕?」
突然話を振られて、シンジは少し考えた。
ふと家での会話がよみがえる。
「そう言えばアスカ、何か買う物があるって言ってたよね。何買うの?」
「え? あたしは……水着よ」
「水着?」
シンジは――アスカの予想通り――、訝しげな顔で聞き返した。
「なんで? 去年のはどうしたの?」
男の風上にも置けないようなセリフである。
「去年のはその……入らないのよ」
「え? でも、アスカ、去年から身長あまり変わってないって言ってたじゃないか」
そう。去年まではアスカの方が背が高かったのだが、やはりそこは成長期の少年、一年で10センチ以上伸びてあっと言う間にアスカを追い越したシンジとは対称的に、アスカは去年からほとんど背は伸びてないのだ。しかし、アスカも成長期の少女ではある。
「だから……その……身長じゃなくて……」
言いにくそうにもじもじしているアスカ。
だが、シンジの顔には一向に理解の色は浮かばない。
「アスカ……もしかして、太ったの?」
「違うわよっ!」
叫ぶと、アスカのハイキックがシンジの顔面をとらえる。
ずがっ。
一撃で沈黙したシンジに、レイは呆れたように告げた。
「シンジ……あんた本気でもう少し女の子のことを勉強した方がいいわ……」
「まったく、あのバカシンジは!!」
アスカは憤慨やるかたなしといった形相で歩いていた。
その後ろからレイがなだめている。
「ほら、どうどう、落ち着いてアスカ」
「あたしは馬か!?」
「いいからいいから。シンジぐらいの男の子じゃあ、女の子の体の事なんて分からないわよ。アスカも正直に言っちゃえばよかったのに。『胸が入らない』ってさ」
「そ、そんな……恥ずかしいこと言えるわけないじゃない!」
「恥ずかしいねぇ……」
レイは深々とため息をついた。
「だめよ、アスカ、そんなことじゃ。わざわざ水着を買うからには、思いっきり魅力的なのを買わないといけないんだから」
「……う、うん」
アスカはレイの言う『魅力的』の意味を正しく理解してはいなかった。
とりあえず2人は手近な店に入っていって、水着を探したのだった。
「さて、と。それじゃあ、水着を選びましょうか」
「なにこれ、ハイレグ?」
「そ。見て見て、この革命的なデザイン! 脇の所まで切れ込みが来てるのよ♪」
「…………パス」
「これは……ビキニ? でも、上の方は?」
「何言ってんのよ。トップレスに決まってるじゃない☆」
「…………パス」
「これは……なに、これ? 紐?」
「違う違う。れっきとした水着よ♪」
「…………パス」
「あら、これは結構普通ね」
「そうでしょ? しかもこれ、水に濡れると透けるのよ☆」
「…………パス」
「…………これは?」
「Tバック♪」
「…………パス」
数分後、2人の足下には水着の山が出来ていた。
「なかなか決まらないものねー」
「……あんたがろくなモン持ってこないんでしょーが……」
「なにいってるのよ! アスカ!」
疲れたようにうめくアスカに、レイが芝居がかったしぐさで両手を広げて叫ぶ。
「水着ってのは男を誘惑するためにあるのよ!」
断言。
「暑い夏の日差し。寄せては返す波。恋人達の戯れる砂浜。夏――男も女も開放的になる季節! こんなチャンスを逃す手はなし! 一度コトにおよんでしまえば、あとは既成事実で最後まで一気に押してけるわ! さらに言うなら……」
「待て待て待てぇぇぇぇぇい!」
とても16歳のうら若き乙女とは思えないようなことを口走りはじめたレイをアスカが慌てて制す。
「なによ」
レイは話の腰を折られて少なからず不機嫌になったようだった。
「なによじゃないわよ! あんた花も恥じらう乙女でしょ! なんなのよ『コトにおよぶ』とか、『既成事実』とか!」
レイはきょとんとして、
「……意味が分からなかったんだったら詳しく教えたげるけど?」
「ち・が・うぅぅぅぅぅ!」
足を床にだんだんと打ち付けながら叫ぶアスカ。
「もういいわ! あんたに頼んだあたしがバカだったわ。自分で選ぶ!」
「ちょっと待ちなさい、アスカ!」
制止の声に半ば反射的にふりむく。そこにあったレイの顔は、今までのようなものでなく――何か重大なことを言うような、そんな雰囲気を漂わせていた。
「……最低条件としてビキニ。これ以上はまからないわ。ワンピースなんか着てった日には、実るものも実らなくなるわよ!」
あくまで真顔で言う。
「……分かったわよ……」
アスカは力無く頷いた。
結局、アスカはビキニとしてはかなりおとなしめの――それでも去年までのワンピースとは比べ物にならない――、赤地に白の水玉模様のものを買った。
レイは、トップレスにしようかどうか真剣に迷っていたようだが、やはりまだ早いと思ったのか、布地の小さめの白のビキニを買った。
だが、少女たちの買い物はまだまだ続くのだ……
本の世界だった。
視界は全て本で埋め尽くされ、その分厚い革表紙は全ての浅学の士を拒むかのように、堂々とそびえている。
ここはジオフロント一の書店と言われる、その名も『ジオフロント書店』。そのすさまじいまでに安直なネーミングを頭に思い浮かべながらシンジは、
(――まあ、わかりやすいのは確かだよな。店の名前なんて何を売ってるのか分からないようなのじゃ意味がないんだし――それにしても、なんか、こう……物足りないというか雅に欠けるというか……)
その思考が途切れる頃、シンジの前を歩いているゲンドウが思いついたように突然――まさに突然――立ち止まる。
考えごとをしながら歩いていたシンジは、なすすべもなくその背中に顔をつっこむ。
「ぷはっ、いきなり止まらないでよ、父さん」
ゲンドウから返事は帰ってこない。
一冊の本を取りだし、一心不乱に読んでいる。
シンジは嘆息した。こうなるともう、(ゲンドウの言う)雑音は一切耳に入らない。放っておけば何時間でもこうしているだろう。
自分にも分かりそうな本を探しながらシンジは思った。
(やっぱり姉さんやアスカと一緒に行った方がよかったかなぁ……?)
それはそれでまた色々と不幸な目に遭うのだろうが。
とりあえずシンジは、目の前に見つけた『幸福を引き寄せる法』という本でも読んで時間をつぶすことにしたのだった……
楽しい時間とは早く過ぎる。
女性にとって服選びはなによりも楽しい行事だろうし、読書を趣味とする人間にすれば本を読んでいる時間以上に幸せな時間はない。
と、いうわけで、一行はおおむね全員――シンジ除く――が、この街で過ごした数時間に満足したようだった。
もう日は沈みかけ、一日の終わりが近いことを告げている。
行きの数倍に膨れ上がった荷物を必死に背負いながら、シンジは歩く。
やはりその前では行きと同じようにレイとアスカが談笑し、ゲンドウは黙々と歩いている。
ただ、アスカがさっきからちらちらとこちらを気にしてはいた。
だが、今のシンジにそんなことを感じる余裕はなく、冗談ではすまされないほどに大量の荷物を、バランスを崩さないように運ぶだけで精一杯だった。
――と、ふと荷物が少し軽くなる。
シンジがもしかして何か落としたかと危惧しながら荷物を見上げると、ちょうどアスカと目が合った。
見ると、アスカは上の方に積んであったリュックを2個、両手に持って、シンジと目が合うと照れくさそうにぷいと顔をそむけ、
「べ、別にあんたのために持ってあげたんじゃないからね。あんたに倒れでもされたら荷物持ちがいなくなっちゃうからなんだから」
シンジは破顔して、
「……うん。アスカ、ありがとう」
「――!……べ、別に礼を言われるほどのことじゃないわよ……」
顔が真っ赤なのは夕日のせいだけではないらしい。
夕日は、ただ優しく、2人の世界を作りつつあるシンジとアスカと、その2人を見てほくそ笑むレイ、そして、もう少し気の利いたことは言えないものかと我が子のふがいなさを胸中で嘆くゲンドウを照らしていた……
どうも、ぎゃぶりえるです。
ああ、また何の脈絡もない話を(^^;
後の展開とか全く考えないで書き始めるんで、話を締めるのにも一苦労。
まあ、とりあえず次からは別の話になると思います。
カヲルが出てくる……かも(笑)
ぎゃぶりえるさんの『ネルフ村の平和な日常』第11話、公開です。
アスカちゃん・・・
レイのお薦め水着を着てみない?(爆)
なんて(^^;
LAS人としては
その様な格好をシンジくん以外に見せて欲しくはないんだけど・・・・
アスカ人としては、
その様な格好をぜひ見てみたいと(^^;
うーん、
板挟み(爆)
さあ、訪問者の皆さん。
貴方が絵描きでしたら、「アスカ大胆水着姿」のCGをぎゃぶりえるさんと私に!(^^;
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