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ネルフ村の平和な日常

第6話

「それも平和な日常」


夜――世界に昼が存在する限り、まさに光と闇のごとく変わらず存在し続けるもの。

その夜を支配する闇の中、いくつかの人影がうごめいている。

言わずと知れた、シンジ達御一行様である。

シンジ達は全員、戦闘態勢に入っていた。

とりあえず、ここで全員の格好を説明しておこう。

シンジは黒で統一された格好をしている。これはどちらかというと、本人の希望と言うよりもゲンドウの趣味らしい。あえて逆らわない辺りがシンジらしいが。黒のシャツと同じ色の革ズボン、その上にこれも黒のマントを羽織っている。

アスカは、目の覚めるような真っ赤な革鎧を着ている。革鎧とはいっても、キョウコが現役時代に使っていた物なので、かなり強力な魔法が付与されていて、下手な甲冑などよりもよっぽど防御力は高い。さらに、背中に背負っている剣は、片刃で反りの入っているというかなり変わった形状をしていた。これもキョウコの使っていた物で、『カタナ』という武器らしい。なかなかの業物で、普通の剣よりもずっと切れ味がいいため、アスカは好んでこの武器を使っていた。キョウコから聞いた話によると、『焔雪(ほむらゆき)』という名前があるらしい。

ゲンドウは、闇の色のローブを着ていて、その下の服装は見えない。手には魔術師が好んで使う奇妙な形にねじくれた杖を持っている。別にこの杖が魔法に必要というわけでは全くないのだが、ゲンドウはこの形が気に入ったため、この杖を愛用していた。

レイは、ゲンドウとは対照的に純白のローブを着込んでいた。色以外はゲンドウの物と全く同じで、下の服装も同じように見えない。レイは杖の代わりに、女性の力でも片手で扱える小剣を持っていた。

ユイは、現役時代に好んで使った緑色のマントを普段着の上に羽織っている。彼女もレイと同じように小剣を持っているが、それを使う気はあまりないらしい。

リツコに関しては、いつもの白衣姿になにやら怪しげな魔術書を抱えているだけである。、

ミサトは、鎖かたびらにごく一般的な長剣というさすらいの剣士スタイルだった。

カジは全身を覆う真っ黒い服を着ていた。それを何というのかシンジ達は知らなかったが、ゲンドウ達は知っていた。それが暗殺者の好んで着る服だという事を……

イルクは、全身を覆う板金鎧に刃の部分だけで彼の身長と同じくらいありそうな大剣だった。普通の人間ならその二つを身につけているだけで一歩も動けないような代物だが、イルクはその姿でも軽々と動き回っている。

キョウコの方は、あまり積極的に戦うつもりはないらしく、装備は魔力も何も付与されていないただの革鎧だけである。

こんな姿をした一行は、今キールの邸に向かっていた。

「さて、どうしましょうかね」

邸のすぐ側に着いたところでカジが言った。

「うむ、まずはアカギ君に頼もう。それから、相手にはただの村人も多い。殺しはするなよ」

「つまり、半殺しならいい……と」

「うむ、問題ない」

同時にニヤリと笑うゲンドウとイルク。

はっきり言ってかなり恐い。

「それじゃあ、まずは私からいかせてもらいますわ。幾億の目を持ち、世界の全てを見守りし者。全てを知り、全てを見る者。我が呼び声に応え、汝が姿、我らが前に具現せん事を――<THOUSAND  EYES>!」

ぶおうっ。

大気が振動するような音を立てて、先ほどまで何もなかった空間に突如物体が出現する。その物体は、一言で言えばボールのような形をしていた。その黒光りするボールには、びっしりと無数の目が刻まれている。その全てに視力があるのかどうか怪しいが、不気味さという点ではこれ以上無いほどだった。

一瞬にしてゼーレ村はパニックに陥った。

村人達が先を争うように家から飛び出して逃げまどう。

いつの間にかその召還獣の上に立っているリツコは高笑いをあげながら村人達を次々に召還獣の目から発射される光線で倒していった。

「ほーほっほっほっほっほ! さあ、存分に逃げまどうがいいわ。あなた達はみんなこの『千里眼』の餌食となるのよ! ほーほほほほほほ!」

完全に悪役のセリフである。

「『千里眼』……?」

「……多分、目が千個あるからじゃないかな……」

「……それって意味違わない?」

「……まあ、リツコさんだし……」

「……それもそうね」

割と冷静に分析するシンジとアスカ。

一方、『千里眼』の光線を受けた村人達はばたばたと倒れていく。

「……殺して、ないわよね?」

「……さあ。何せリッちゃんだし……」

「そうね……」

これはカジとミサト。

「よし。今のうちに邸に忍び込もう。全員が固まっていると危険だ。まず、シンジとレイとアスカちゃんとカツラギ君で一つ目のパーティー。それから私とユイ。キョウコとイルク。カジ君は単独行動だ」

ゲンドウが全員に指示を出す。

「私とユイは裏口から忍び込む。シンジ達は正門で陽動を頼む。キョウコとイルクは外の自警団を。カジ君は自分で行動してくれたまえ」

「「「「「「「「了解」」」」」」」」

全員が同時に応えた。

「それでは、作戦開始」

ゲンドウとユイは迅速に裏に回る。

カジはいつの間にか消え、キョウコとイルクはまわりの自警団と戦っている。

後はシンジ達のパーティーが正門の前に残るだけだ。

「さて、それじゃあ行きましょうか」

「じゃあ、行くわよ。大気に眠りし始源の力。我が意志によりて収束せよ。我らが前にはいかなる障害すらも赤子のごとく無力。全てに大いなる破壊を与えんことを! <ポジトロン・カノン>!」

呪文の完成と同時、レイの両掌から青白い光が放たれる。

やがて光は収束し、邸の門を大音響と共に破壊した。

「よっし!」

ガッツポーズを取るレイ。

「なんだなんだ!」

「侵入者だ!」

わらわらとキールの私兵らしき人影が集まってきた。

「こういうのも侵入って言うのかしらねー」

そう言いながら背中の焔雪を抜き放つアスカ。

その表情はこれから始まる戦いへの期待に輝いていた。

「武器があれば負けないんだから!」

「……やっぱぼくも戦わなくちゃいけないのかな……?」

そう言いながら、アスカとは対照的にひたすらやる気のなさそうにファイティングポーズをとるシンジ。

「あったり前でしょ」

呪文の用意を構えるレイ。

「さーて、久しぶりに一暴れしますか」

ミサトもやる気は十分だ。

(何で僕のまわりの女性は好戦的な人が多いんだろう……)

シンジは半ば絶望的にそんなことを考えていた。

 

 

そのころ、キョウコとイルクは。

「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!」

気合いの声と同時に大剣を振り回して自警団を薙ぎ払うイルク。

ちゃんと殺さないように剣の平で叩いている。

「すてきよー。あなたー」

後ろから脳天気な声援を送るキョウコ。

そのキョウコに向かってガッツポーズを取るイルク。

――と、そんなイルクに突然後ろから自警団が襲いかかる!

「おっと」

それをまるで後ろに目がついているかのように振り向きもせずにかわすと、イルクは思い切り剣の柄で殴って昏倒させた。

「くっ」

自警団の団長らしい人物がキョウコの元に駆け寄る。

戦闘力のなさそうな女性を人質にとろうという魂胆だ。

だが――

「うあああああああ!」

次の瞬間、その男は地面に突っ伏していた。

その両足にはナイフが刺さっている。

「女なら勝てると思ったかしら?」

そのナイフを投げた体勢のまま、からかうような口調で言うキョウコ。

「くそっ」

ごん。

男の脳天に鉄拳を入れて黙らせるイルク。

「さすがだな」

「あら、腕が片方無いんだから、あなたがちゃんと守ってくれないと」

「へいへい。わかりましたよお姫様」

「うむ。くるしゅうない」

そんな軽口をたたき合いながら、二人はすぐそこまで来ている2隊目に備えていた……

 

 

音もなく走るゲンドウ。

その横にぴったりとユイもくっついている。

ずがぁぁぁぁん。

正門の方から大音響が聞こえた。

立ち止まる二人。

「うむ。レイ達も始めたようだ」

「そうね。私たちも早く行かないと」

「ああ、わかってるよ。ユイ」

二人は再び走り出した……

 

 

「とおおおおおお!」

ずがっ。

焔雪のみねの部分で思い切り殴りつける。

「あーん、もお。殺しちゃいけないなんて欲求不満になりそうよ」

焔雪をぶんぶんと振り回しながらかなり危険なセリフをはくアスカ。

「何言ってんのよ。まだ人を殺したこともないくせに」

「一生殺さなくていいからね。アスカ」

そんなアスカに応えるミサトとシンジ。

<オーガ・スライサー>!」

しゅぱしゅぱしゅぱぁぁん。

レイの手から放たれた魔法の刃が、天井のシャンデリアを切り落とす。

私兵達が何人かその下敷きになった。

ミサトも、剣の平の部分で私兵達を次々に昏倒させている。

シンジはといえば、アスカの側で戦ってそれとなくアスカをフォローしている。

「ああ、もう、きりがない。勇ましき風の精霊よ。我らが古の盟約によりて、荒れ狂う風となりて我が敵に裁きを与えよ。<暴風乱>

シンジのまわりに風がまきおこり、まわりの私兵達を一気に吹っ飛ばす。

「きゃあああああああああ!」

アスカも一緒に吹っ飛ぶ。

「アスカ!」

反射的にその足首をつかむシンジ。

その状態で風がやむとどうなるか。

べちゃ。

哀れアスカは邸の床とキスする羽目になってしまった。

――やばい。

そう考えるよりも早く、シンジはアスカに思いっきりひっぱたかれていた。

「こんのバカシンジィ!」

すぱぁぁぁぁん。

体重の乗った、今世紀最高のビンタを喰らったシンジは、思いっきり吹っ飛び、壁に激突した。

「何馬鹿なことやってんのよ」

呆れた声で言うレイ。

(そんなこと言われたって……)

シンジは薄れ行く意識の中で言い訳を探していた……

 

 

その頃、カジ。

カジは、一人の男と向き合っていた。

銀髪を長くのばして、後ろで結わえた男だ。その目は、何人も人を殺した者だけが持つ冷たい輝きに満ちていた。

(――同業者か)

そう考えて、ふと思い直す。

(いや、『元』同業者だ)

そう。彼はもはや暗殺者ではないのだから。

「村長に雇われたのかい?」

「暗殺者は雇い主を明かさないものだ」

「そりゃそうだ。まあ、キール村長の雇った用心棒……てとこかな」

カジは肩をすくめてみせた。

――と、同時。男が跳んだ!

空中から突き出されたナイフを紙一重でかわし、男の脇腹に膝蹴りを入れるカジ。

「ぐっ」

脇腹を押さえて床に着地したおとこに、カジはすかさずラッシュをかけた。

蹴りや拳が嵐のように吹き荒れる。

男はその何発かはかわしたが、そうそう全てをよけられるわけがない。ダメージは確実に蓄積されていく。

「はあっ!」

男は素早く足払いをかけた。

なすすべもなく転倒するカジ。

男の突き立てるナイフを転がってかわし、素早く立ち上がって間合いを取った。

「なかなかやるじゃないか。……名前ぐらいは聞いておこうか」

男はニヤリと笑うと答えた。

<shadow star>……」

「何!?」

カジの顔が一瞬驚愕に染まる。

「馬鹿な! <shadow star>は死んだはずだ!」

<shadow star>――2年前に突然姿を消した、伝説とまでなった暗殺者だ。

「ふ、俺がそうなのだから仕方がない」

カジは心の中で舌打ちをしていた。

(そうか。こういった輩も出て来るんだな……)

「それじゃあ、<shadow star>の腕前、見せてもらおうか」

男は無言で飛びかかってきた。

カジは左手だけを突き出すようにして、体を後ろに反らした。

男のナイフがカジの心臓を貫こうとした瞬間――

どうっ。

硬い物がめり込むような音を立てて、男が吹っ飛んだ。

カジの左手があった部分には、左手の代わりに黒い筒のような物がついている。

そこから魔力を発射して男を倒したのだ。力を調整したから死んではいないだろうが、肋骨の2本か3本ぐらいは折れているだろう。

念魔銃――人の魔力を具現化する古代魔法帝国の遺産である。使い手の意志により、どんな形状の物体でも生み出し、体の一部分さえ創ることが可能という、まさに最強の武器だ。

そして、男の知る限りではその銃を持つ男は大陸にただ一人。

<shadow star>……」

「……その名前はもう捨てた。だが、お前ごときが名乗れる名じゃあない」

そう言ったカジの目は、いつになく険しい物だった……

 

 

その頃、ゲンドウとユイはキールの部屋の前にいた。

シンジ達の陽動が効を制したようで、敵らしい敵にも逢わないまま、二人はこの部屋にたどり着いたのだ。

「それでは、行くぞ。ユイ」

「はい」

そう言って、派手に扉を蹴り開けるゲンドウ。

その視線の先にはキールが悪趣味な椅子に座っていた。

初老の、ややずんぐりとした老人で、目を隠すバイザーが特徴と言えば特徴か。

キールは、苦虫を噛み潰したような顔をしていった。

「何をしに来た。ゲンドウ」

「ふ、知れたこと。息子の仇を討ちに来たのよ」

一応口実は覚えていたらしい。

「息子? ほう、貴様、息子が居たのか」

「とぼけるな。アカギ君から買い取った怪物で、シンジを襲わせただろう。もう証拠は挙がっているんだ」

「? 一体何のことだ?」

「あくまでとぼけるつもりか……まあ、いいだろう。腐海の底に潜みし蛇の王。憎悪と恐怖を司りし者。我と汝の力もて、我が宿敵に高貴なる滅びを与えん。全ては闇の御心のままに――<セカンド・インパクト>

「ちょ、ちょっと待……」

ちゅどーん。

「ふ……勝った……」

「身も蓋もないわねー」

呆れたように――多分、本当に呆れているのだろう――言うユイ。

「ふ。正義は勝つのだ」

ゲンドウはガッツポーズを決めながら言った……

 

 

 

 

「いやーこれでシンジの仇が討てたわねー」

伸びをしながら言うレイ。

シンジ達は、ネルフ村に続く山道を歩いていた。

遥か遠くには、『千里眼』の上に乗って高笑いをあげているリツコが見える。

もう誰にも止められないということで、置いてきたのだ。

「仇って……僕、死んでないんだけど……」

「いいじゃないの、細かいことは」

アスカが横から声をかける。

「それより、早く家に帰るわよ。あたし疲れちゃっ……」

そこまで言ったとき、不意にアスカの表情が凍り付く。

その青い目は驚愕と恐怖に見開かれていた。

「? どうしたの、アスカ?」

「あ、ああああああれ……」

アスカの指さす方向を向くシンジ。

すると――

「嘘……」

その視線の先には、黙々と土を掘っている『サキちゃん2号』の姿があった。

「ね、ねねねねね姉さん!」

「ん? どうしたの、シンジ?」

「あそこ、ほら!」

「え? あの召還獣がどうかしたの?」

「あれが僕とアスカを襲った奴だよ!」

「えええええええええええ!? 本当なの!?」

「本当だよ!」

「でも……何してるのかしら?」

「さあ……なんか掘ってるみたいだけど……」

「ふむ……とりあえず行ってみましょう」

「え? でも……危ないよ?」

「だーいじょうぶよ。あんたごときに負けるような奴に私が負けるわけ無いじゃないの」

「まあ、そりゃあそうだけど……」

だが、そんなシンジの返事を待たずにレイは『サキちゃん2号』に近づいていった。

慌ててシンジとアスカもその後を追う。

その様子に気づいた大人達も3人の後を追った。

近づいてみると、そこには『サキちゃん2号』だけではなく、何人かの男達もその横で土を掘っていた。

「あのー、少しお伺いしたいんですが……」

おそるおそる話しかけるシンジ。

「ああ? オラ達になんか用か?」

「いえ、あの……何……してるんですか?」

「何っておめー、そりゃ決まってるだべ。温泉掘ってんだよ」

「温泉……ですか」

「おう。キール村長が魔法でこの辺りに湯脈を見つけたっていうからオラ達がこうして堀りに来たんだべさ」

「あの……それじゃあ、あの怪物は?」

『サキちゃん2号』を指さしておそるおそる尋ねるシンジ。

「ああ、あれは1週間ぐらい前に村長が隣村から買ってきたんだべ。もう、めしも食わんのに休みもせずによく働いてなー。それで、3日ぐらい前に少し休ませようと思って命令を解除したらふらりと居なくなりやがってな。少ししたら、全身に火傷おって帰ってきたんだべ。いやーあん時はホント、ぶったまげただ」

男の話は、途中からもはやシンジの耳には入っていなかった。

完全に固まっているシンジ。

その肩をゲンドウがぽんと叩いて言った。

「まあ、誰にでも失敗はある。あまり気に病むことは無いぞ、シンジ」

「あんたが言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ちゅどーん。

 

 

 

 

ネルフ村は、今日も結構平和だった。

 

 


つづく
ver.-1.00 1997-08/03 公開
ご意見・ご感想・誤字情報などはgyaburiel@anet.ne.jpまで。


どうも、ぎゃぶりえるです。

『サキちゃん2号編』ようやく完結です。

次回からの新展開も、どうやったってシリアスになんてなりっこない(^ ^;

ところで、今回冒頭に各キャラの説明シーンがありますが、そこを見ると作者がどのキャラに力を入れているのかが分かります(笑)

本作のカジのモデルは、剣心+コブラ(腕だけ)です。

彼の過去が語られるのかどうかは作者の気分次第(笑)(^ ^;

ではでは。


 ぎゃぶりえるさんの『ネルフ村の平和な日常』第6話、公開です!
 

 よくぞ死人が出なかった(^^;
 ・・・・いや、見えない所で出ているのかもしんない、
 何しろあの性格で、あの攻撃力を持った面々のアタックだったんだから(^^;;;;
 

 アスカの剣技、
 レイの魔法、
 渋いカジ、

 大活躍しているんですが、

 何と言ってもインパクトあるのが・・・リツコさん・・・

 あんな物ほって行かれたゼーレ村の面々に同情します(笑)
 その前に、今回の「敵討ち」自体勘違いだったわけですよね(^^;
 

 さあ、訪問者の皆さん。
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