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ネルフ村の平和な日常

第7話

「少年少女の青春」


「なあ、頼むよ、シンジ」

夏の日差しが眩しいネルフ村の村はずれで、気の弱そうな少年――イカリ=シンジに一生懸命両手を合わせて拝むように頼んでいる少年がいる。

背はシンジと同じくらいか、眼鏡をかけていて、なかなかひょうきんな顔立ちをしているものの、どこか不幸そうな少年――シンジの親友の一人であるアイダ=ケンスケである。

「そんなこと言われても……駄目だよ、ケンスケ。命が惜しければそれはやめた方がいい」

「シンジ。俺は自分の信念のためになら命すらも惜しくはないんだ。だから頼む!」

(ケンスケは惜しくなくても僕は惜しいんだけどなあ……)

そんなシンジの結構薄情な思考も意に介せず、ケンスケはさらに頼み込む。

「なあ、頼むよ。お前がレイさんの私物をちょっと失敬してくるだけでいい儲けになるんだ。悪い話じゃないだろう?」

「そりゃあそうだけど……でも、ばれたら絶対殺されるよ」

ふとシンジの脳裏を、以前レイの分のホットケーキを食べてしまった時に3日間逆さ吊りにされた記憶がよぎった。

「だからばれなきゃいいんだろ? 簡単じゃないか。留守の時を見計らってそっと……」

「へえ、それはなかなかいいアイディアね」

「だろ? そう思うだろ? レイさんのファンクラブに売りさばけばちょっとしたハンカチとかでも安くても銀貨3枚は確実なんだ。下着なんて金貨数十枚で取り引きされるんだぜ!」

「……それで、今までどれくらい売り払ったのかしら?」

「そうだなぁ……ハンカチを6枚ほど、ちょっとした身の回りの物を12、3個。それからブラを4枚にパンティーは3枚ってとこかな」

そこまで言ってから、ケンスケはシンジの顔が恐怖にゆがんでいることに気づいた。

まるで魔神にでもあったような顔をしている親友に、ケンスケはいぶかしげに声をかけた。

「? どうしたんだ、シンジ?」

シンジは口をぱくぱくさせながらケンスケの後ろを指さした。

「うん? 後ろになんかあるのか?」

そう言って後ろを振り向いたケンスケは――凍り付いた。

そこには、イカリ=レイが天使のような――あるいは悪魔か――微笑みを浮かべて立っていた。

「あ、あああああ、あああああああ」

完全に腰の抜けてしまったケンスケ。もはやまともな言葉を発することもできない。

「……なかなか荒稼ぎしてるみたいねぇ、ケンスケ君?」

「え、あ、いや、そ、そのですね、これは、その普遍的かつ絶対的な魔力的物質に起こりうる事象の密度の要素的反応の絶対零度的に共時的な過去の芳醇かつ郵政制度の極みが……」

「あらそう。それは良かったわね」

もはや自分でも何を言っているのか全くわかっていないケンスケに優しく微笑みかけるレイ。

後に彼はこう語る。

「ああ、こっちにおいでよパトリシア

……まだ精神状態が崩壊中のようである。

万物の源たる始源の物質よ。我が意志によりて真の力となり、愚かなる者共に真なる恐怖と苦しみを与えよ。それは終わりなき断罪の賛歌。今高らかに鳴り響かん! <ヘル・プリズナー>!」

ごうっ。

ケンスケを囲むようにして青白い光が球状に展開される。

それから約0、7秒後、その光の玉の中からこの世の者とは思えないような悲鳴が聞こえてきた。

言うまでもなく、ケンスケの物である。

「さ、シンジ。なんかお父さんが呼んでたわよ。早く帰りましょ」

もうケンスケの存在など最初から無かったかのようにシンジに微笑みかけるレイ。

「う、うん」

シンジは何とか立ち上がると、友人の冥福を祈りながらレイの後について家路をたどった……

 

 

5時間後――

「な、何で俺だけ……」

幻のように消えた球の中から、身も心もぼろぼろになったケンスケが出てきた。

「ちくしょおおおおおおおおおお!! 何でやっと出番がまわってきたと思ったらこんな役回りなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

じたばたじたばた。

負けるなケンスケ。所詮君はどこまで行ってもケンスケでしかないのだから。

「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ばたっ。

お、どうやら力つきたらしい。どれ、少し寝言に耳を傾けてみるか。

「へへへ、そんなところ触るなよ、橋本龍太郎

…………さようなら、ケンスケ。君のことは忘れない。

 

 

 

 

「ジオフロントに?」

「ああ、これから出かける。お前達も準備しろ」

「……でも、何でまたそんな急に?」

「別に急ではない。前から決まっていたことだ。ただ、お前達に話したのがその当日だったと言うだけの話だ」

以上、既にケンスケを向こうの世界に旅立たせたことなど冷めたコーヒーを捨てたほどにも思っていないレイと、そんな性格の娘を育て上げたゲンドウの会話である。

「でも……、なんで僕たちまで行かなくちゃいけないの?」

シンジが尋ねる。

ちなみにジオフロントとは、古代魔法帝国の名をそのまま取った、大陸一の魔法都市である。

大陸一の魔法学院も存在する都市で、ゲンドウとリツコはそこの卒業生なのだ。

「……それには、まあ、色々と大人の事情という物があるのだ」

珍しく口を濁すゲンドウ。

「そうそう、それとシンジ、アスカちゃんもつれてこい」

「へ? なんでアスカを?」

突然脈絡のないことを言いだしたゲンドウに、シンジがいぶかしげに聞き返した。

「なんでもアスカちゃんが買いたい物があるらしくてな。イルクの奴に今度街に行くときは連れていってやってくれと頼まれているのだ」

「まあ、いいけど……」

「それでは、早く呼んでこい。どうせお前の準備は5分で終わるだろうが、女の子は身だしなみに時間がかかるものだ」

昔ユイとデートしたときのことを思い出しながら言うゲンドウ。

「わかったよ……行けばいいんだろ」

「よかったじゃないシンジー。アスカの家に行くオフィシャルな口実が出来てー」

「な、何言ってんだよ! そんなんじゃないよ!」

顔を真っ赤にして叫び返すシンジ。

こう毎回毎回同じ反応しかできないからレイやミサトのいいおもちゃになっているということにまだ気づいていないようだ。

「全く……じゃあ、行って来るよ」

口調はいやいやでも顔がゆるんでいるシンジ。

もう勝手にしてくれって感じだ。

 

 

こんこん。

ソウリュウ家の木製の扉を遠慮気味に叩くシンジ。

しばらく待ってから、軽快な足音と共に現れたのは、彼のよく知る幼なじみではなく、その母親のキョウコだった。

「あら、シンジ君。ちょっと待ってね、今アスカ呼んでくるから」

シンジが何も言う前にアスカを呼びに再び家の中に戻るキョウコ。

まあ、これはいつものことなのでシンジも特に気にしない。

キョウコやイルクに用があるときは二度手間になってしまうので困るのだが、シンジの用はまず99.89%アスカのため、実際こっちの方がはるかに手間が省けるのだ。

「なによ」

扉を開けて仏頂面で出てくるアスカ。

表面は無愛想だが、不自然なほどに早く出てきてしまったという事にこの少女は気づいてないらしい。

「い、いや……アスカが街に用があるっていうから……これから僕達ジオフロントまで行かなくちゃいけないからさ、一緒に行かないかと思って……」

「これから? ずいぶん急ね」

「うん……僕もついさっき聞いたんだ……」

アスカはしばし顎に指を当てて考えると、ゆっくりとうなずいて言った。

「わかったわ。それじゃあ、あたしこれから準備するから」

「うん、それじゃあ30分後に村の入り口で」

「わかったわ。じゃあね」

扉を閉めて幼なじみの姿が完全に消えると、アスカは急いで風呂場へと向かった。

「まったくバカシンジは……女の子の用意が30分で終わるとでも思ってるのかしら、あのバカ……」

そう文句をつけながらも、アスカの目は笑っていた……

 

 

「ただいまー」

とりあえず幼なじみを誘うという大任を終え、無事に帰ってきたシンジを出迎えたものは、いきなりシンジの視界をふさいだいくつかの布だった。

「ぷはっ。なんだこれ?」

みると、それはどれもシンジのよそ行き用の服だった。

水色のシャツと黒のジーンズ、その上に着る黒のジャケット。

「お前の服だ。着るなら早くしろ、出なければ帰れ!」

自分の家からどこに帰るんだろうとシンジは思ったが、これはもう使い古されたネタなので特に反論はしなかった。

黙って自分の言ったことに従う息子を見て、ゲンドウは何となく寂しそうだった。

「シンジー。私のお気に入りのスカート知らない?」

ブラウスとパンツだけというケンスケあたりが見たら卒倒しそうな格好で出てくるレイ。

「さあ……洗濯しちゃったんじゃない?」

別にそんな格好も見慣れているシンジはこともなげに答えた。

どうも女性上位の家庭では女性の羞恥心という物は薄れるらしく、レイやユイはよくこんな格好で家の中をうろついていた。

シンジも今更姉や母の裸に欲情などしない。

ただ、ユイはいつまでも20代で十分通用する容姿とスタイルを保っているのでゲンドウはうれしそうだったが。

「えー、あれ来てこうと思ったのにー」

ちなみに、レイは家事の類を全くしないため、イカリ家の家事は主にユイとシンジの役目だった。

「しょうがないじゃないか。あっちの水色のやつは大丈夫なはずだからそっち着てってよ」

「むー」

レイは少しふくれたようだが、特に言い返しもせずに自分の部屋に戻っていった。

そんな仕草が子供っぽくて妙に似合っている。

自分の服に着替えながら、シンジはふと思った。

「そういえば……アスカの買いたい物って何なんだろう?」

 

 

 


つづく
ver.-1.00 1997-08/05 公開
ご意見・ご感想・誤字情報などは gyaburiel@anet.ne.jpまで。


どうも、ぎゃぶりえるです。

いやー「ネルフ村の平和な日常」第7話「少年少女達の青春」いかがだったでしょうか?

今回、ちょっとタイトルに悩んだんですが、まあ、このタイトルは冒頭のケンスケに捧げます(笑)

次回かその次辺りにはフユツキ先生とマヤさんが登場する予定です。

フユツキとオペレーター3人組に関しては予告編に記述がなかったのですが、3人組の残り二人は実は既に村に住んでます(^ ^;

まだまだ出さなくちゃいけないキャラはいくらでも居ますからねー。

とてもオリキャラを作るひまなんて無い(^ ^;

というわけで、どなたか暇な方メール下さいm(_ _)mまだ全然来てないんですよぉ (;o;)


 ぎゃぶりえるさんの『ネルフ村の平和な日常』第7話、公開です。
 

 ケンスケ登場!
 ・・・ケンスケ退場!(^^;

 まあ、
 セリフがあって、
 レイちゃんとの絡みがあっただけでも彼の取っては分不相応です(笑)

 この先登場機会は・・・あるのでしょう・・・無くても別にいいけど(^^;
 

 家の中ではそのレイが凄い格好で・・・
 それに慣れてしまったシンジは不幸なのか何なのか(笑)
 

 さあ、訪問者の皆さん。
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