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ネルフ村の平和な日常

第4話

「黒幕」


 

朝――世界が果てるその時まで常に変わらず訪れるもの。

それはこの日も例外ではなく、空にその姿を現した天空の主は、大陸全土に分け隔て無く朝の訪れを告げていた。

そして、そんな朝のひととき。

イカリ家では、家族会議が行われていた。一家の主であるゲンドウ、実は影の一家の主であるというユイ、長女レイ、長男シンジ。そして、なぜか居るシンジの幼なじみ兼未来の結婚相手(ユイ、ゲンドウ、キョウコ、イルクの4人によって勝手に決められた)であるアスカ。

ちょうどアスカの両親は3日ほど前から街に出かけていて居ないので、ユイのすすめもあってアスカはもう一晩泊まることにしたのである。

そして、アスカに部屋を取られたシンジが居間のソファで毛布にくるまって寝ていて、寝ぼけたゲンドウに思い切り上に座られたりしたのは、また別の話である。

イカリ家の家族会議の議題は、「先日シンジを襲った化け物の正体について」だ。

この辺りにもゴブリンやコボルト程度ならよく出てくるが、あんな化け物はアスカもシンジも初めて見た。

そのうえ、シンジを襲った化け物の姿をアスカが説明しても、レイはもちろんユイやゲンドウにまでその化け物についての知識がなかったのだ。

そこで、急遽「第3回イカリ家家族会議」が開かれることになったのだ。

ちなみに、1回目の議題は、「ゲンドウの髭は剃った方がいいかどうか」、2回目は、「レイの誕生会で作るケーキはチョコレートケーキとショートケーキどちらがいいか」だった。

家族会議が始まって早々、ゲンドウが重い口を開いた。

「まず、アスカちゃんの言うその化け物の姿から察するに、いま一番疑うべき人物は一人だ」

「リツコさん、ですね……」

「うむ」

家族会議は終了した。

 

 

アカギ=リツコは2年前に仲間のミサト、カジと一緒にこの村にやってきて、そのまま居着いてしまった人である。

面識こそ無いものの、昔魔法学院に通っていたリツコは、魔法学院の先輩であるゲンドウを「イカリ先輩」と呼んで、よく魔術についての相談に来ていた。

彼女が特に得意とするのは召還魔術で、よく怪しげな召還獣を呼び出している。それだけならまだ害はないのだが、なぜかその召還獣がみんなそろいもそろってシンジに襲いかかるのだ。

何も命令を与えられてない召還獣はある程度自分の意志で行動するが、全員が特定の人物に襲いかかるということは、これまで無かったことで、シンジは時々体を調べさせてもらえないかと頼まれているが、何となく身の危険を感じるシンジは、いつも丁重にお断りしていた。

ちなみに、彼の心優しい幼なじみ曰く、「あんたっていかにも殴られたそうな顔してんのよ」とのことである。この言葉を聞いたとき、シンジは感動のあまり思わず涙を流してしまったほどだ。

そのせいか、ここ2年ほどのシンジの格闘技術、攻撃魔法の上達には目を見張る者がある。本人はあまり喜んでいないようだが……

ともかく、アカギ=リツコはそんな人であった。

そのリツコの家の前に、アスカ、レイ、ゲンドウの3人は立っていた。まだ体力が完全に回復していないシンジと、その付き添いをしているユイは家だ。

ゲンドウが静かに二回、リツコの家のドアをノックする。

「はーい」

中から声が聞こえ、白衣を着た金髪の女性が出てきた。

「あら、イカリ先輩じゃありませんか。アスカにレイも……私に何か?」

「うむ、ちょっと話が聞きたくてね。……すまないが、あがってもいいかね?」

「はあ、結構ですが」

「うむ、それではお邪魔する」

そう言ってリツコの家に上がるゲンドウ。アスカとレイもその後に続く。

「あら、アスカにレイじゃない」

不意に居間の中から脳天気な声があがる。

アスカが思わず居間の中をのぞき込むと、そこにいたのは、長い黒髪を無造作に垂らし、ネルフ村1といわれるスタイルを持つ美女だった。

「ミサト!」

そう、そこにいたのは、リツコと共にこの村に居着いたカツラギ=ミサトその人だった。

「何してんのよこんな所で」

アスカが尋ねる。

「親友との親睦を深めに来たに決まってんじゃない。あんた達こそ何しに来たのよ」

そこまで言って、ミサトはアスカの後ろにいるゲンドウの姿に気づいた。

「わ! イ、イカリさん……どうしたんですか? こんな所で……」

何となくゲンドウが苦手なミサト。まあ、それが普通だろう。

「うむ、アカギ君に用事があってな」

「そ、それじゃあ邪魔になったらいけないから、私は帰りましょうか?」

「いや、かまわん。君も居てくれ」

「は、はい」

リツコはとりあえずゲンドウ達にソファに座るように促して、自分はソファとテーブルを挟んだ所にある椅子に座った。その隣にはミサトが座っている。

「それで……私に何かご用でしょうか?」

「実は……」

アスカがシンジが襲われたときのことについて話す。

リツコはそれを黙って聞いていたが、アスカの話が終わると、ぽんと手を打った。人差し指を立てて言う。

「ああ、それはきっと私がこないだ作った『サキちゃん2号』ね」

「…………『2号』?」

「1号は間違えて自爆しちゃったの」

「こないだの大爆発はそれだったのね……」

納得したように――あきれたようにも見える――レイが呟いた。

「で、それはともかく、なんでその『サキちゃん2号』がシンジを襲ったのよ!」

少し興奮しているアスカ。

「そんなこと言われてもね……だって、あれもう私の手元にないのよ」

「へ?」

思わず間の抜けた声を出すアスカ。

「どういう事よ」

アスカに変わってレイが尋ねる。

「それがねー……」

そう言って、リツコは、テーブルの上に置いてあった空のコーヒーカップの縁をもの憂げに指でたどる。

「1週間ぐらい前だったかしら。隣のゼーレ村の村長のキールって人が来てね、是非売って欲しいって言うのよ。それで……」

「売っちゃったのね」

「だって金貨500枚よー。それだけあれば私が昔から開発してる大規模惑星破壊用魔法<サードインパクト>が完成できるかもしれないじゃない」

「そんな物騒な魔法、何に使うのよ……」

疲れた顔で呟くレイ。

「わかってないわねー、レイ。惑星破壊は女のロマンよ」

「ああもうっ! 今はそんなこと話してる場合じゃないでしょ!」

突然叫ぶアスカ。どうも今までこらえていたものがいっきにでたらしい。

「だいたいリツコ! あんたあんなひたすら物騒なモン、人にほいほい売るんじゃないわよ! あれのせいであたしのシンジが怪我したんだから!」

そのアスカの言葉を聞いて、にやりと笑うレイとミサト。

「あ〜ら、アスカ。いつからシンジ君はあんたの物になったのかな〜?」

「やーねー。シンジはまだあげないわよ」

二人の言葉に思いっきり赤面するアスカ。

「な! ち、ちちちちち違うわよ! こ、言葉のあやってやつよ! そ、そう! 『あたしの幼なじみのシンジ』って言いたかったんだから!」

かなり苦しい言い訳である。

「へ〜そう〜」

なおもニヤニヤしながらアスカを見るレイとミサト。

リツコがはぁ、とため息をついて、

「二人ともそのぐらいにしておきなさい」

と言った。

「そ、そうよ! 今話すべきはそんな事じゃないはずよ!」

ややオーバーアクション気味に言うアスカ。

「ちっ、逃げたわね……」

「まあ、いいわ。後で酒の肴に問いつめてやるから」

そんな二人のつぶやきを聞こえないふりをして、リツコに向き直り、アスカは言った。

「そういえば、リツコ。あの……」

「『サキちゃん2号』よ」

「そう、その『サキちゃん2号』だけど……なんか妙な壁を張ってシンジの魔法を防いだのよね。呪文を唱えた様子もなかったし……」

「ああ、きっとそれはA.Tフィールドね」

「ええてぃーふぃーるどー?」

なぜかやたらとうれしそうに言うリツコにアスカがうさんくさげに聞き返す。

「そう。位相空間によって全ての物理的な攻撃を防ぐことが可能よ。まさに無敵の防御法。あれを人が扱えるようにすることが今の私の研究なのよ。あれは実験中の事故で偶然発見してねー。まだ人の使える段階じゃなかったから、あのA.Tフィールドを扱える召還獣を作ろうと思って出来たのが『サキちゃん二号』よ。そのおかげで、今まで作った物の中で最高の攻撃力を誇る召還獣が出来上がったわ。――ちょっと知能が低いのが欠点だったんだけどね」

「だ・か・ら! どうしてそんな物騒なモンを人に売るのよ!?」

リツコはふっと前髪をかきあげると、

「アスカ。人が生きるためにはお金が必要なの。人は魔術のみに生きるにあらずよ」

「こ・の・大馬鹿モンがぁ!」

叫ぶと同時、アスカのアックスボンバーがリツコの首にクリーンヒットした。

リツコは3メートルほどぶっ飛ぶと、むくっと立ち上がり怒鳴った。

「何すんのよ! 痛いじゃないの!」

「それ以前に何であんたあれ喰らって無事なのよ!」

ヒステリックに叫ぶアスカ。

と、その時。キールの名が出てきた辺りからずっと何か考えていたゲンドウが何かを思いだしたとでも言うようにぽんと手を叩いた。

「そうだ。思い出した」

「「「「へ?」」」」

ゲンドウの存在すらすでにほとんど忘れていた4人が一斉に間の抜けた声をあげた。

そんなことは気にせずに、ゲンドウはやや高揚した顔で続けた。

「ゼーレ村の村長のキールという男だ。どこかで聞いたことのある名前だとさっきから思っていたんだが、確か私の魔法学院時代のクラスメイトだ」

「お父さん……クラスメイトの名前も忘れてたの?」

あきれた調子で言うレイ。

「魔法学院は1クラス100人を超すからな。おまけに年齢制ではないから最年長と最年少で30歳以上年の開きがあることもあったし、クラスメイトと言ってもあまり覚えていないのだ。――しかし、そのキールという奴はよく覚えているぞ」

「思い出すのにあんなに時間かかったくせに……」

レイのツッコミを完全に無視して、ゲンドウは珍しく饒舌に続ける。

「たしか私よりも10歳以上も年上のくせに大人げなくやたらと私のことをライバル視してくる奴だった。ある日、あんまりしつこいんで校舎裏に呼び出して裸に剥いてから転移魔法で女子更衣室に放り込んでやったんだが……」

「ひ、ひどい」

思わず呟くアスカ。

「別にそれから卒業まで学院中の女子生徒に変態扱いされただけだ。それほどひどくもないだろう」

「それは十分にひどいと思いますが……」

冷や汗を垂らしてミサトが言った。

「それじゃあ、突然全裸で女子更衣室に現れる変態オヤジ幽霊ってその人のことだったんですね!」

突然リツコが感極めりといった感じで叫ぶ。

「おお、まだその話が残っていたか」

「はい。魔法学園341不思議その339番ですね!」

「私たちの頃は325個しかなかったのにな……時の流れを感じるな」

遠い目をして呟くゲンドウ。

「でも、私たちの代で何人か目撃者も居るんですよ」

「ふむ、案外趣味になったのかもしれんな」

「それはないと思うけど……」

レイがジト目で呟くが、もはや二人には聞こえて居らず、魔法学園時代の話に花が咲いていた……

 

 

リツコとゲンドウの昔話が始まってからもう1時間が過ぎていた。

そろそろ5目並べにも飽きたアスカ達が二人の話を終わらせようかと考えたとき――

「それでは、やはり犯人はキールさんですね!」

突然叫ぶリツコ。いつの間にか話が戻っていたらしい。

「うむ。まず間違いないだろう。そうとわかればアカギ君、善は急げと言う。明日にでもゼーレ村に殴り込みをかけよう」

「はい! わかりました!」

「「「……へ?」」」

3人は同時に間の抜けた声をあげた……


つづく
ver.-1.00 1997-07/25 公開
ご意見・ご感想・誤字情報などは gyaburiel@anet.ne.jpまで。


どうも、ぎゃぶりえるです(^ ^)

「ネルフ村の平和な日常」第4話「黒幕」、いかがだったでしょうか。

次は第5話――といいたいところですが、前から考えていたこのシリーズの外伝シリーズ、「英雄達の叙情詩」第1話「出会い」を次に投稿させていただきたいと思ってます。

意外(でもあまりない)な人が主人公です。

それでは、「英雄達の叙情詩」、お楽しみに〜(^ ^)/~~


 ぎゃぶりえるさんの『ネルフ村の平和な日常』第4話、公開です。
 

 事件の影に彼女あり。
 MAD色が強ければ強いほどその確率は高まる・・・・・・

 彼女の名はアカギ=リツコ。

 何処へ行っても、
 何処で出ても、
 彼女の役回りは「イかれた女」(^^;
 

 シリアスな小説でもその傾向が強いのですから、
 ギャグが入った作品ではMAD暴走は、もう、当然(^^;;;;
 

 ゲンドウと話が弾むなんてただ者ではない。
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 ライトはファンタジーワールドを語るぎゃぶりえるさんに感想を!


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