【 TOP 】 / 【 めぞん 】 / [ぎゃぶりえる]の部屋に戻る / NEXT
そこは闇だった。
生命の暖かみを感じさせない、無機質な闇。
世界の始まりの風景とはこんな感じだったのではないだろうか。
そんな――彼女に言わせれば――愚にもつかないことを考えながら、黒の中に浮かび上がる白と金――赤木リツコは歩いていた。
ここはネルフの中でも、彼女と指令、副指令のみが入ることを許される一室。ターミナルドグマ。
その部屋の中心には巨大な円柱形の水槽が置かれている。
今は見えないが、彼女を取り囲む水槽には、綾波レイの形をしたモノが無数に浮いているはずである。
2人目の綾波レイが実験中の事故により大破してしまったため、新しいレイを取りに来たのだ。
「まったく、ちょっと体内に7億度のプラズマが発生したぐらいで燃え尽きちゃうなんて、結構もろいのよね、あの子」
そんな勝手なことをのたまいながら手元のスイッチを入れる。
ばんっ。
シャッターの落ちるような音を立てて水槽の中のライトがつく。そのライトに照らされて、無数の綾波レイの形をしたモノが浮かび上がる。
「どれにしようかしら……なるべく生きのいいのがいいわね。目が血走ってるのは駄目なのよね」
魚ではない。
その時、リツコの足下に落ちていた熱帯性の果物――バナナの皮に、リツコは思い切り足を乗せた。
つるっ。
ぽち。
「あ゛」
ぼろっ。
ごぼごぼごぼっ。
ファーストチルドレン、綾波レイ。予測不能事故により、
全滅
ファーストチルドレン 赤木リツコ
「赤木博士、すまないが、もう一度説明してくれ」
ここは、ネルフ司令室。
普段感情を出さないこの男にしては珍しく、頭を抱えながらゲンドウは言った。
「えーと、その……つまり、ターミナルドグマにバナナの皮が置いてあって、それですべった拍子にですね……」
「ダミープラグの破壊スイッチを押してしまった、と」
同じく頭を抱えながらゲンドウの横の冬月が言った。
リツコは、ばつが悪そうに頷いた。
「ヤシマ作戦の実行まで時間がない。この責任をどうとるつもりかね、赤木博士」
「それは……」
いいごもるリツコを見て、冬月は何か途方もないことを決心したような顔で、ゲンドウに言った。
「こうなったら、碇。方法は一つだな」
「ああ、問題ない」
「……と、言いますと?」
訝しげに問うリツコに、冬月は、
「決まっているだろう。君が乗るのだ」
「…………へ?」
「どーお、リツコォ、調子は?」
わざわざ大人用に改造されたエントリープラグの中に、旧友の脳天気な声が響く。
リツコは気だるげに、
「まあまあよ。それでどう、シンクロ率は?」
「うーん、23ってところね。まだ実践投入としては不安が残るけど、とりあえず動けば良しとしましょう」
「動けば良し……ね」
「そ。それじゃあ次はちょっとラジオ体操第2をやってみて」
リツコは、ラジオから流れてくる軽快な音楽に合わせて、がに股で腕を上下させる運動をやりながら、
(遊びでチルドレンの特訓メニューにラジオ体操第2なんてつけるんじゃなかったわ……)
と、激しく後悔していた。
「ふう、やっと終わったわね」
リツコは全ての特訓メニューを終え、エントリープラグから出てきた。
あの後リツコとマヤで作った特訓メニューの、どじょうすくいとか、フラメンコとか、『ハイプレッシャー』の振り付けだとかを全てこなしたのである。
その成果か、彼女のシンクロ率は46――シンジの初戦闘の時のそれとほぼ同じ値にまで上がった。
十分白兵戦闘にも耐えられる数字である。
「リツコ、お疲れのところ悪いんだけど、シンジ君迎えに行ってくれるかしら」
シャワーをすませ、普段の姿に戻ったリツコにミサトが声をかけた。
「シンジ君を?」
「そ。さっき使徒にこっぴどくやられたでしょ。そろそろ目を覚ます頃だと思うから。ついでに着替えと、あと作戦概要も伝えといてね」
そう言うと、ミサトはリツコの返事も聞かずに行ってしまった。
「あ、ミサト! ……もう、仕方がないわね……」
言って、リツコは集中治療室に向かって歩き出したのだった……
うっすらと、視界が晴れていく。
ぼやけた視界に、意識して焦点を合わすと、そこには見知らぬとは言えないが、見慣れたとも言えない白い天井が広がっていた。
まだ頭は動き出していないが、半ば直感的にここは病室だと悟る。
しばらくすると、自分の気を失った原因――第伍使徒の無機的なフォルムが頭に描かれ、わずかに顔をしかめる。
ぷしゅう。
ドアの内側と外側の気圧差によって起こる音が、シンジに訪問者の訪れを告げた。
「リツコさん……」
「具合はどう?」
優しく声をかけるリツコ。
「……悪くは、ないです……良くも、ありませんけど……」
「そう。……明日午前零字より発動されるヤシマ作戦のスケジュールを伝えるわ」
そう言って、懐からメモを取り出すリツコ。そんなリツコを、シンジは唖然とした表情で見ている。
「碇、赤木の両パイロットは本17時30分、ケイジにて集合。18時00分、エヴァンゲリオン初号機、及び零号機、起動。18時05分、出動。同30分、二子山仮設基地に到着。以降は別命あるまで待機。明日0時00分、作戦行動開始。……はい、これ、新しいのよ」
新しいプラグスーツの入った袋をシンジに手渡す。シンジは複雑な面持ちでしばらくそれを眺めていたが、ふとなにかに気づいたかのように顔を上げた。
「……あの、リツコさん。さっきの、最初の所もう一回言ってくれませんか?」
「……いいわ。碇、赤木の両パイロットは……」
「ちょ、ちょっとストップ! あ、赤木ってなんでリツコさんが……」
やはりそうきたかと思いつつ、リツコは言った。
「それはね、シンジ君。実はレイはスポポイカ教の修行をするためにブータン王国へ行ってしまったのよ」
「そうだったんですか……」
(納得するなよ)
心の中でつっこむが、それは表情には出さず、
「それで私がレイの代わりに零号機のパイロットをすることになったわ。よろしくね」
「は、はあ……」
「……それとシンジ君」
がらでもなく頬を赤く染めたりしながら、リツコは言った。
「……寝ぼけてその格好で来ないでね」
「え? わ、わああああああああ!」
慌ててシーツをかぶるシンジ。
彼は何故かバニースーツを着ていた。ちゃんと網タイツとウサギの耳もついている。
その頃、ゲンドウは病室の扉の陰で涙を流しながらうなずいていた。
(うんうん、立派になったな、シンジ。その格好をしているとユイを思い出す)
……貴様のしわざかい。
――ヤシマ作戦、前日。
「いい、シンジ君、リツコ。これがヤシマ作戦であなたたちに使ってもらうメガ粒子砲よ」
「……ミ、ミサトさん……そんなものどっから持ってきたんですか……?」
「それは企業秘密よん♪」
シンジたちの前には戦艦から直接ひっぺがしたような巨大な大砲が置かれていた。
一応トリガーなどもついて、エヴァでも扱えるようにはなっている。
リツコはなにやら頭を抱えていたが、そんなものは全く気にせずミサトは次の説明に入った。
「ほんでもって、これが使徒の荷電粒子砲を防ぐための、天空の盾よ」
その巨大なエヴァサイズの盾は、やや細長で中心部に竜の首があしらってあった。
「……本当にこれで使徒の荷電粒子砲が防げるの?」
「大丈夫よ。マスタードラゴンに封印を解いてもらったから」
「……あ……そう」
リツコはもはや文句を言う気力すらなくしてしまったようだった。
車の中でシンジとリツコはプラグスーツに着替えていた。
きちんと服をたたんで着替え終わったシンジは、カーテンの向こうで着替えるリツコのシルエットを気にしていた。
なにせやたらとはっきりシルエットが浮かび上がって、リツコの着替える様があまりにもよく見えるのだ。シルエットだけというところが健康な少年の想像力を刺激する。
だが、なにせ体にぴったりとくっついているプラグスーツである。体の一部分が膨張したりすれば、外からよくわかってしまう。
なんとか気を他のことに向けようと、目をそらしながらぼそっと呟く。
「これで死ぬかもしれませんね……」
「どうしてそういうことを言うの?」
「…………」
「あなたは死なないわ。……私が改造してあるもの」
「ええええええええええええっ!?」
それだけ言うと、車から出ていくリツコ。
残されたシンジの顔には、数え切れないほどの縦線が入っていた……
――闇が、静まっている。
そのあまりにも静かな闇の中、二体の巨人はじっと息を潜め、覚醒の時を待っていた。
指揮車の中の時計が、00:00を示す。
「作戦開始!」
ミサトの号令のもと、動き出す二体の巨人――初号機と零号機。
初号機は、メガ粒子砲を肩に担ぐと、正八面体の使徒に狙いをつけた。
「発射!」
ミサトの声に合わせて、トリガーを引く。
だが、その砲口から放たれた光の帯は、使徒の展開したATフィールドに阻まれ、あっさりと霧散した。
「くうっ!」
思わず立ち上がるミサト。
「……やはりブレストファイヤーでなくては駄目だったか……」
「……いや、ゲッタービームの方が……」
ゲンドウと冬月がかなりずれた会話をしている。
「使徒の体内に高エネルギー反応!」
「何ですって! リツコ、急いで!」
言葉の後半はエントリープラグ内のリツコに向けられたものだ。
「分かってるわよ!」
素早くシンジの前に回り込み、盾を構える零号機。
使徒の荷電粒子砲が放たれる。
零号機に向かって一直線に光が伸びてきた。
「いやんっ。こわいっ☆」
ばっ。
突然横に逃げる零号機。
「へ?」
ちゅどばしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!
2発目を準備していた初号機に、なすすべもなく荷電粒子砲がヒットする。
ぷすぷすと煙を上げながら撃沈されるシンジ。
「リツコぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 何やってんのよあんたはぁぁぁぁぁ!!」
「ふっ。まだまだ甘いわねミサト。これは作戦なのよ!」
「作戦?」
「そう。1度ならず2度も同じ攻撃で倒れることによって、シンジ君の闘争本能を……」
「…………初号機パイロット、死亡しました」
……………………
「リツコォォォォォォォォッ!!!」
「……お、おかしいわね……ちゃんと改造してたのに……」
「何よ改造ってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「だ、大丈夫よミサト。こんな事もあろうかとちゃんと第2の策を用意しておいたわ」
「第2の策?」
なぜか一瞬背中に悪寒を感じるマヤ。
隣のマコトとシゲルも同様のようだ。
「ふっふっふっふっふっふっふ……」
怪しげな含み笑いを漏らしながら、何処から取り出したのか赤、青、黄色の三色のスイッチのついたリモコンを取り出すリツコ。まず、赤いスイッチに指を伸ばす。
「ぽちっとな」
ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!
突然マヤ、マコト、シゲルの椅子が火を吹いて指揮車から飛び出す!
「嘘ぉぉぉぉぉぉぉ!!」
マヤの必死の叫びも虚しく、3つの椅子は3人を乗せて使徒に迫る。
かっ!
使徒の荷電粒子砲がきらめき、シゲルは塵となった。
「青葉さん!」
「……ちっ。ユニットAはやられたか。まあいいわ。まだユニットIとH<が残っているもの」
2人を乗せた椅子は、使徒のすぐ側まで接近した。
タイミングを見計らって、今度は青のスイッチを押す。
すると、マヤとマコトの両手両足に吸盤が現れた。
ぺたっと使徒にくっつく2人。
このとき、マヤの言葉を聞いている者がいたら腰を抜かしていただろう。
「サザエでございます」
この言葉をずっと、繰り返し、呟いていたのだ。
マコトはその隣で『星条旗よ永遠なれ』を詠唱していた。
パニックだとか、混乱だとか、そういったものをとうに通り越してしまった2人。
「第2段階まで終了。これで最後の仕上げよ」
最後に残った、黄色のスイッチに指を伸ばす。ピンク色の爪の付属した細い指にかすかに力がこもる。
そして――それは、押された。
だんっ。
岩を打ち付けるような音を立てて、マヤとマコトの背中が文字通り開いた。
その空洞になった場所から、うぃぃぃんとかすかな機械音と共にアフターバーナーがはえた。
次の瞬間にはアフターバーナーは火を吹き、2人の体を使徒ごと重力の制約から解き放つ。
そのまま高度を上げていき、地上100メートルに達したところで、急激に速度を上げる。
音速を超えた2人と1体は、天上で高く燃える灼熱の星へと向かっていった。
「僕、ドラえもん」
それがマヤの最期の言葉だったという…………
2人のチルドレンと3人のオペレーターを失い、3日後に12体同時に攻めてきた使徒によってネルフが壊滅したのは、また別の物語である。
作 者「どうも、『フィフスチルドレン碇ゲンドウ』が意外に(こらこら)好評だったため、調子に乗って第2段、『ファーストチルドレン赤木リツコ』です」
リツコ「……あなたねえ……」
作 者「おや、リツコさん。いたの」
リツコ「いたのって……まあ、いいわ。それよりも何なのよこの話は。……まったく、大家といい、作者といい、みんな私のことをなんだと思ってるのかしら」
作 者「イかれた女(きっぱり)」
リツコ「………………ねえ、サナダムシっぽい生物に生きたまま少しずつ食べられるのと、強力な溶解液で足下から徐々に溶かされるの、どっちがいい?(にっこり)」
作 者「………………(今度こそ本当に死ぬかも知れない……)」
ぎゃぶりえるさんの『ファーストチルドレン 赤木リツコ』公開です。
MADMADMAD−−−−
赤木のりっちゃんはMAD女〜〜♪
レイ・・・もうBodyが無い・・・魂は何処を彷徨っているんでしょう
シンジ・・・マヤ・・・ (;;)
みんな逝ってしまった(^^;
エーと、後は? ああ、メガネとロンゲもいたっけ(爆)
全てを犠牲に突き進むリツコさん。
貴方のためにある言葉だ、”MAD”は(^^;
ここにアスカがいなくて良かった(^^)
彼女はドイツで幸せに暮らして・・・・いるんでしょ?(^^;
・・・・殺すときはひと思いにお願いします(^^;;;;
さあ、訪問者の皆さん。
ぎゃぶりえるさんは虫に食われたので、メールを出しても返事は帰ってきませんよ(嘘;;)
【 TOP 】 / 【 めぞん 】 / [ぎゃぶりえる]の部屋