いつのまにやら3000ヒット。
みんなありがとう!
アスカな人に捧ぐ一作
僕がアスカとキスした日
雨の降りしきる中、4組の足音が水をはねながら響いている。
「あーん、もう! 道に迷った上に雨まで降り出すなんて最低!」
「天気予報の嘘つきぃぃぃぃぃ! 洗濯物干したままなのにぃぃぃぃ!」
「……………………」
「と、とりあえず雨宿りできる場所を探しましょう!」
群の先頭を走る女性、葛城ミサトが、上着を頭に掛けて雨を防ぎながら言った。
「あ、ほら! 見て、あそこ!」
2番手につける少女、惣流アスカ・ラングレーが前方を指さしながら叫ぶ。その指の先には、古びた洋館が建っていた。
「ミサトさん! とりあえずあそこで雨宿りしましょう!」
アスカの横を走る少年、碇シンジがミサトに提案する。提案されるまでもなくミサトはそうするつもりだったが。
「……………………」
最後尾を走る少女、綾波レイは、特に何も言わなかった。
事の起こりは、一昨日の事だった。
「「家族旅行!?」」
シンジとアスカの声がぴったりユニゾンする。どうも第七使徒戦の後遺症か、何かにつけて行動のそろいやすい2人だった。
「そうよ、わたしもたまには家族サービスでもしなくちゃと思ってね」
彼らの保護者は、そう言うと手に持ったBOAビールを一息に飲み干した。
「それで家族旅行って……一体どこ行くのよ?」
アスカの問いに、ミサトは破顔して、
「それはもちろん! 温泉よ温泉!」
びしぃっと親指を立てて断言する。
「……近場ですませましたね……」
シンジの冷静なつっこみもものともせず、ミサトはいつの間にか出したパンフレットの隅の方を指して、
「ほらほら、この辺りって温泉名所だから、結構色々あんのよ。ここなんてどう? 山が近くにあるからハイキングもできるわよ」
「へぇ、ハイキング。いいわね、それ」
「でしょ? でしょ?」
アスカは結構乗り気のようだった。
シンジに関しては同居人2人の意見に逆らう気などさらさらないし、何よりミサトやアスカが躊躇せずに自分たちの間柄を『家族』と呼んでくれるのが嬉しかった。
と、いうわけで、第1回葛城家家族旅行の実施が決定したのだった……
……だが。
「あーんもう、ずぶぬれじゃないの! どうにかしなさいよバカシンジ!」
「そ、そんなこと言われても……」
「……碇くんをいじめないで……」
「なによあんた! だいたい何でファーストがいんのよ!?」
出発の時と同じ事を言うアスカ。
ミサトが「旅の連れは多い方がいい」と言って半ば強制的につれてきたのだ。
もっとも、ミサトとしては、
(この子たち見てると飽きないのよねー)
と、いうのが本音だろうが。
洋館は、外観こそ古びていたが、中は割とこぎれいで、水道やガスなども通っていた。
ミサトのいうには――たった今気づいたらしいが――、ネルフが職員達の慰安旅行などのためにいくつか購入して、定期的に掃除していた物件の1つらしい。
台所やシャワーもあり、とりあえず一晩か二晩過ごすのには、何の問題もないようだった。
ただ、一つだけ問題点をあげるなら、大きさの割に寝室の数が少なく、2人部屋が3つあるだけなのだ。
しかもそのうちの1つは、床が腐っていて――ミサトが身を持って証明した――、とても使えるような状態ではない。つまり、使える寝室は実質2つだけと言うことになる。さらに言うなら、このメンバーで男はシンジ1人であった。
つまり――誰か1人だけが、シンジと同じ部屋で寝る権利を得ることが出来るのだ。
それを聞いて火花を散らすアスカとレイ。そんな2人を見て、ミサトは楽しげに微笑んでいる。シンジは色々と文句がないこともなかったが、この場に置いて彼の意見が通るとも思えないので、何も言わないことにした。
「それじゃあ、部屋割りは公平にくじで決めましょうか」
「くじ?」
「そう、こう、紙を4つに細く切って、そのうちの2つに赤く色を付けとく、と。これで、同じ色を引いた人どうしが、同じ部屋で寝るのよ。それじゃあ、みんな一つずつ選んで」
「それじゃあ、あたしはこれ!」
「……わたしはこれでいいわ……」
「えっと……んじゃ、僕はこれでいいです」
「分かったわ。それじゃあ、わたしはこの残ったやつね。はい、みんな引いて!」
ぐっ。
3人が一斉にミサトの手からくじを引き抜く。
その色は――シンジは赤、アスカとレイは白。
「「「――と、いうことは……」」」
そう言って振り向く3人に見せつけるように、ミサトは赤いくじを高らかに掲げて見せた。
不機嫌そうに部屋に荷物を置くアスカ。
レイも、表情すらいつもと変わらないものの、その全身からは殺気にも似たオーラが漂っていた。
アスカはひとしきり壁をけると、多少は気が晴れたのか、レイに、
「あたし、先にシャワーはいるわよ!」
と宣言して、バスタオルとパジャマを持ってシャワー室に入っていった。
「まったくあのバカシンジは……ミサトのやつ、シンジに変なことしてないでしょうね……」
ぶつぶつ言いながら服を脱ぐ。
来ているものを全てその辺りに脱ぎ捨て、シャワーに入ろうとしたとき、アスカはふと鏡を見た。
そこにうつっていたのは――
「――キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
悲鳴をあげて、シャワー室から飛び出すアスカ。
呆然としている――表情は変わらないが――レイを気にもせずに、一目散に部屋を飛び出す。そして隣の部屋に飛び込み――
「シンジィィィィィィッ!」
がしっとシンジに抱きつく。
「ア、アアアアアアアアアスカ!?」
思いっきり狼狽するシンジ。
そりゃあそうだろう。突然女の子が産まれたままの姿で部屋に飛び込んできて、自分に抱きついてくるという、非常に非現実的な状況に立たされているのだから。
「ど、どうしたの? アスカ」
アスカは扉の方を指さして口をぱくぱくさせるが、ショックのあまり声が出ないらしい。
「どうしたのシンちゃん? って、あーらアスカ、大胆ねぇ」
裸でシンジに抱きついているアスカを見て、シャワーからあがったミサトが下世話な笑いを漏らす。
「わ! ミミミミミミミミサトさん!」
あわててベッドの上の布団を掛けてアスカの体を隠す。だが、その姿はちょうどシンジが裸のアスカをベッドの中に引きずり込んだようにも見えた。
そして、シンジがアスカを引きずりこん……もとい、アスカの体を隠した瞬間、レイが入ってきた。レイはしばらくシンジと、それにしっかりしがみつくアスカを観察していたが、やがてつかつかと歩み寄り、
「……碇くんから離れて……」
ぐいとアスカを引っ張る。
「あ、綾波!」
アスカはレイに引っ張られると、いやいやをしてシンジの首にかじりつく。
その光景を見て、レイの周りの空気が一瞬ひしゃげる。既に闘気だとか殺気だとか言うレベルを完全に超越して、障気とでも言うべきオーラを発しながら尋常ではない力で再度アスカを引っ張る。
これまたアスカも、尋常ではない力で必死にシンジにしがみつく。
「あ、綾波……落ち着いて、ね?」
必死に牽制するように右手を挙げながらレイを説得するシンジ。
後にミサトはこの光景をこう語る。
「亭主の浮気現場に奥さんが乗り込んだようだった」
と。
まあ、それはともかく。一応シンジの説得が通じたらしく、レイは渋々アスカから手を離す。
「で、アスカも落ち着いて、一体何があったの?」
アスカはのろのろと掛け布団で体を隠しながら立ち上がった。
「……お化けよ……」
沈黙。
「ひゃははははははははは!」
最初に沈黙を破ったのは、やはりと言うべきかどうか、葛城ミサトその人だった。
「な、なによ! 何で笑うのよ!」
ミサトは必死に笑いをこらえながら、
「あのねー、アスカ。この科学万能の時代にお化けなんているわけないじゃないの、あー苦しい」
「だ、だってホントに見たのよ! 鏡に、こう、ゾンビみたいのがうつってて、あたしのほう見てニヤリって笑ったんだから!」
「はいはい、シンジ君に抱きつきたいのは分かるけど、もうちょっとましな嘘ついたらどう?」
「だから本当に本当なんだってば! 本当に見たのよ! こう、全身の肉が腐ってて、右目が糸を引いてぶらさがってて、ところどころ落ちた肉の隙間から骨がのぞいてて……そう!ちょうどこんな感じ――」
そう言って自分の右にいる人影を指さし――硬直した。
「あ、ども」
朗らかに笑って手をあげた、全身の肉が腐っていて、右目が糸を引いてぶらさがっていて、ところどころ落ちた肉の隙間から骨ののぞいた――ありていにいえばゾンビを見て、こんどこそアスカは悲鳴もなく気絶した。
「……で、どういうことなの?」
ミサトがそのゾンビに問いかける。
その横では、なんとか息を吹き返したアスカが、頭から毛布をかぶってシンジの後ろに隠れるようにしながらゾンビをにらみつけている。
「いやー、それがですね。私、50年ほど前にこの屋敷の主だったんですが、使用人という使用人に手を出してたら、恋人に刺されてしまいまして。はっはっは」
「はっはっはって……で、なんでその50年前に殺された人が今頃ゾンビになってこの家をうろついてるわけ?」
「ゾンビとは失礼ですな。せめてリビングデッドと言ってもらいたい」
大まじめな顔で言うゾンビ――いや、リビングデッド。
ミサトは額に手をやり、深い深いため息をつくと、質問を続けた。
「わかったわ、リビングデッドさん。それで、あなたのお名前は?」
「名前ですか?……はて、ここ50年ほど使ってなかったからなぁ。なんだったっけ……」
「……脳が腐ってんじゃないの?」
リビングデッドにぎろりと睨まれて、アスカはあわててシンジの後ろに身を隠した。
「そうそう、思い出しました。たしか……そう! アスカです!」
どんがらがっしゃーん。
「な、なによそのふざけた名前は!」
「人の名前をふざけた名前とは失礼ですね。飛ぶ鳥と書いてアスカと読むのですよ。格好いいじゃありませんか」
1人でうんうんとうなずくリビングデッド――アスカ。
「へぇ、よかったね、アスカ。同じ名前だよ」
「少しもよくないわよ!!」
本気でぼけたシンジをかかと落としで黙らせつつ、アスカ――人間の、だ――は、そのアスカ――リビングデッドの方――に向き直り、
「あんたみたいな腐りかけがこのあたしとおなじ名前だなんて絶っっっっっっ対に許せないわ!」
「いや、そんなこと言われてもですな。名前を付けられたときはまだ腐ってませんでしたし」
至極当然のことを言ってくるアスカ。
「そんなことは問題じゃないのよ! それよりもあんたがあたしと同じ名前だって言うのが問題なの! 改名しなさい! 今すぐ!」
無茶なことを言うアスカ。
「ふむ、改名といわれましてもな……それではこんなのはどうでしょう。区別するために私をアスカ。あなたをヨサクと……」
「誰がヨサクかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
延髄蹴りをアスカにたたき込むアスカ――ああややこしい――。
もはやそのアスカ――リビングデッド――を怖がっていたことなど、忘却の彼方に葬り去ってしまったらしい。
アスカは、むっくりと起きあがると、
「お気に召しませんでしたかな? それではタゴサクなど……」
「まだ言うかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
素早く後ろに回り込んで、グッチ式バックドロップを決める。
なにやらがきょっとかいう音が聞こえたが、それについては誰も何も言わなかった。
「……で、その……アスカさん。なんでさっさと成仏しないで、こんなとこでこんなことやってるんですか?」
人生に疲れた表情のミサトの問いに、リビングデッドアスカは光のごとく早さで復活し、ふっと遠い目をして答えた。
「実は……心残りがあるんです」
「ほう」
ミサトが興味津々といったふうで、身を乗り出した。
「実は私……キスをしたことがないのです!」
ずるっ。
一斉にコケるシンジたち。
ミサトが何とか体勢を立て直して言った。
「キ、キスって……だってさっき恋人とか、使用人に手を出したとか……」
「いえ、恋人とは手をつなぐまでの関係でしたし、使用人に手を出したと言っても、ちょっとお尻を触ったりする程度でしたから」
「……セクハラ上司か……あんたは……」
アスカが「もう、どうだっていいわ」という気持ちを表情でめいっぱい表現しながらつっこんだ。
「まあ、それはともかく。せめて一度だけでもキスをしないと浮かばれません! どうか、私とキスしてもらえませんか?」
ぴしっ。
女性陣3人が塩の柱と化す。
「あたしは絶っっっっっっっっっ対にいやよ!」
「……碇くん以外の人となんて、いや……」
「わ、わたしだってやーよ」
シンジは我関せずといった感じで、女たちがそれぞれにキスを押しつけようとする様を眺めていた。
――と、そこで。
リビングデッドアスカが困惑したように、
「いえ、あの、あなた達ではなくて……」
「へ?」
リビングデッドアスカは、ほんのりと頬を赤く染めながら――かなり不気味である――、シンジに熱い視線を送っていたりした。
……まあ、つまり、そういう趣味の人だったと、ただそれだけのことである……
そして。
舌を入れられたかどうかは定かではないが、シンジが卒倒し、リビングデッドアスカが満足げな顔で安らかに天に昇っていったことを最後に追記しておく。
作者「どうも、ぎゃぶりえるです。さて、今回は3000ヒット記念ということで、やられたらやり返せ! 受けた怨みは500倍! にくいぜベイベー!(意味不明)――と、いうわけで、素晴らしいゲストをお迎えしております! それでは早速出てきていただきましょう。十二宮の守護星、天空の散歩人、天狼星ことシリウスの――!」
月丘「ども、月丘です」
作者「……テンション低いっスね」
月丘「まあ、これも一つの終局の形、ということで」
作者「また訳のわからんことを……まあ、それはともかく。いい話だと思いません? うんうん」
月丘「……まあ、どうでもいいけど。僕アヤナミストだし。でもあのタイトルであの内容は、ひんしゅくもんだよ」
作者「そ、そうかな……」
月丘「そうだよ。どうせ『これでカウンタを稼ごう』とか、せこいこと考えてるんだろうけど、まあ、所詮無駄なあがきだね(フッ)」
作者「……なんかキャラクター変わってません? 別にいいけど。まあ、とりあえず。さて、この話を読んで『おおっ! 俺はこのリビングデッドアスカに惚れたぜ!』とかいう方、一緒に『新アスカ派』となりませんか?」
月丘「居ないと思うけど……」
作者「さあ、そこのあなた! リビングデッドアスカ親衛隊にあなたも入りましょう! いまなら抽選で先着10名様に桜島大根1年分プレゼント!(嘘です。期待して送らないで下さい)」
月丘「おーい……」
作者「さあさあ早いモン勝ちだよ! 早くメールを送らないと売り切れるよ!(しつこいようですが嘘です)」
月丘「ほほう、この僕を無視するとは……」
作者「はっ! 殺気!?」
月丘「神竜拳!!」
だだだん だだだん だだだんだん!
作者「……い、今……三本締めが……」
月丘「気のせいだよ(きっぱり)」
作者「そ、そうかな……(がくっ)」
月丘「(脈を取って)えーと、ぎゃぶりえるくんが不慮の事故により完全に沈黙したので、この後書きはひとまずこれで終わりです。それではみなさん、ちゃお♪」
――血まみれになったぎゃぶりえるを残して、静かに幕が引いていく……
ぎゃぶりえるさんの『僕がアスカとキスした日』、公開です。
裏切ったな! ボクの気持ちを裏切ったな!!
・・・なんて、べたな感想を叫んでしまった(^^;
シンジとアスカちゃんのあまーい話を期待していたのに (;;)
ゾンビアスカが「キス」という単語を出した辺りでイヤな予感がして・・・
気が付くのが遅い?
・・・そうかも(^^;
鋭い人ならゾンビの名前が出た時点で気が付いていたかも。
私も薄々そうかなとは思っていたんですが、
LAS人のしての欲求がその考えを受け入れられない形になっていた(^^;
まあ、裸で抱きつくという素晴らしいシチュエーションがあったからいいか(^^)
・・・
アスカちゃんは”口直し”をして上げたのかな?(爆)
さあ、訪問者の皆さん。
LASを振り回す(^^;ぎゃぶりえるさんにメールを送りましょう!
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