病院の廊下を歩く一人の女性。
どこかしら、いや、明らかに顔がニヤけている。
言うまでもなく、葛城ミサトその人であるが、その理由を知らないものにとっては不気味にしか映らない。
時間は少しさかのぼる。
「あら、シンジ君。どうかしたの?」
先の使徒との戦闘の事後処理に当たっていたミサトのところへ一人の少年がやってきた。
「あの、ミサトさん。ちょっとお願いがあるんですけど ・・・・」
「あら、何かしら?」
「なるほど。あなたとアスカに休暇を出して欲しいってワケね ・・・・」
「ええ、そうなんです。なんとかお願いします。アスカのためにも ・・・・」
・・・ アスカのためにも、ねぇ。
少し彼をからかってやろうかとも思ったミサトであったが、彼の真剣な表情に押されてか、とりあえずこの場はやめておいた。
・・・ まさか彼が自分からこんなことを言い出すとは、これは意外よねぇ。
返事をせぬまま一人妄想にふけるミサト。シンジが目の前にいることなどお構いなしだ。
例によって、顔に『ニヤニヤ』が浮かんでくる。
そして、
「いいわ、3日間でいいなら出してあげるわ。」
「本当ですか!? ありがとうございます。
あと、ついで申し訳ないんですけど、アスカにはミサトさんから伝えてもらえませんか?」
「どうして? シンジ君が直接言えばいいじゃない。」
「いや、それはその ・・・・」
シンジは赤くなってうつむいてしまう。
やはり自分で言うのは恥ずかしいようだ。
「もう、しょうがないわね ・・・。いいわ、ちゃんと伝えておくから。」
少しあきれた顔でミサトは返事をする。
「すいません。」
「そんな他人行儀な事言わなくていいの。それと、アスカにはシンジ君が言い出したって事言ってもかまわないかしら?」
「・・・・ 内緒にしておいてもらえますか?」
少し考え込んだ後、シンジはそう答えた。
「わかったわ。まかせといて。」
ミサトは、やっぱりねといった感じでシンジに笑みを返した。
「さてと、休暇明けが楽しみね ・・・・」
ミサトは誰に聞かれることもなくそうつぶやいた。
ただいま休暇中
「ねぇアスカ。明日から休暇だって聞いた?」
「うん、ミサトから聞いたわ。いったいどういう風の吹き回しかしらねぇ。」
シンジがアスカに声をかける。
「3日もあるし・・・、どうしようか?」
そして、休暇中何をするかをアスカに尋ねてみる。
「うーん、そうねぇ。またシンジがどこか連れて行ってよ。」
アスカはちょっと甘えた笑顔でシンジに答える。
毎度のことではあるが、こんな顔を向けられたら誰だって No とは言えないだろう。
もちろん彼も例外ではない。
「えぇー? また僕がぁ!?」
「そうよ、決まってるじゃない!! 文句ある!?」
ちょっと嫌そうに反応してみたシンジであったが、すかさずアスカの反撃が入る。
それも間髪入れずに、まるでそうなると予想したかのように。
「・・・ 嫌っていうわけじゃないけど、その、僕の主観で決めちゃっていいの?」
「だから、アンタが決めなさいって言ってるでしょ。
もうホントに、いつも人に頼りすぎなのよ。アンタってやつは!!」
・・・・ ちょっとはアタシに頼られるようになりなさいよ ・・・・
「・・・・ ごめん ・・・・」
「・・・ いいのよ ・・・」
アスカはなぜかうつむいてしまっている。
加えて、返事も普段の彼女らしくない。
「どうしたのアスカ?」
それに気づいてか、シンジが心配そうな声をあげる。
こういうところには気が利くシンジであったが、アスカもそのことをわかっているようだった。
そのせいか、アスカは顔が赤くなってしまう。
シンジはアスカの様子をうかがいながら、? な顔をしている。
なぜアスカが赤面しているのかがわからないようだ。
・・・ もう、なんで急に鈍感になるのよっ ・・・
アスカは、ちょっとだけ期待した自分に、いや、やはりシンジに対して腹を立てる。
もちろん顔には出さないけれども。
「と、とにかく!! アンタが決めるのよ、わかった!?」
少し慌てふためいた口調で言葉を返すアスカ。
シンジのほうは、いつものアスカだ、とお決まりの文句を思い浮かべながら苦笑している。
「わかったよ、アスカ。ちゃんと考えとくからさ。」
「考えておくって、休暇は明日からなのよ! さっさと決めなさいよ!!」
半ば、いや、明らかに強制的な感じのする会話だ。
「う、うん。じゃあ、あ、芦ノ湖の温泉街なんてどう?」
「 ・・・・・・ 」
殺気めいた沈黙があたりを包む。
シンジはおそるおそるアスカに尋ねてみる。
「 ・・・ 芦ノ湖じゃ嫌なの、アスカ?」
ぶちっ。
そんな音が聞こえたような気がした ・・・
「アンタばかぁ!? アタシを馬鹿にしてるワケ!?
そこはアンタとマナと一緒に行ったところでしょうが!!
どうしてアタシがそんな所へ行かないと行けないのよ!!」
・・・・ シンジと他の女が行った所なんか絶対に行くもんですか!! ・・・・
「・・・・・ ごめんね。アスカの気持ちも考えないで ・・・・」
「・・・・・・」
今度は重苦しい沈黙が二人の回りを包み込む。
・・・ ひっく ・・・
「・・・・ 泣いてるの、アスカ?」
「・・・ ぐす。ばかぁ、ばかぁ。シンジのばかぁ。
もうちょっとくらいアタシの気持ちもわかるようになりなさいよ ・・・」
アスカはその瞳から涙をぽろぽろこぼしながら、シンジに話しかける。
「・・・ アスカ、わかったら。ちゃんとアスカの気持ちわかるようになるから。
だから、お願いだからもう泣かないで ・・・・」
「・・・ ホントに?」
「うん、絶対。」
この後、もちろんシンジの提案によってだが休暇地は長野県の白馬村に決まった。
そして、そこでペンションにでも泊まってゆっくりしよう、ということになった。
シンジ曰く、
「僕だってそれくらいは知ってるんだよ!! そんなに馬鹿にしないでよ。」
だそうである。
彼もすこしは努力しているようで、これもアスカの教育(?)の賜物であろう。
そして、出発前夜(って、夜になっただけだけど)
病院から戻ったアスカはせっせと自分の荷物をまとめている。
前の修学旅行(行けなかったけど)よろしく、かなりの量であるが。
「さてと、こんなものかしらね。」
とりあえず一息ついたようで、アスカはシンジの部屋へと向かう。
「シンジ、入るわよ。」
「え? あ、うん。いいよー。」
アスカが中に入ると、シンジはS−DATに聞き入っていた。
見るところ明日の準備はもう終わっているみたいだ。
「ちょっとアンタ。荷物の準備できたの?」
「うん、できてるよ。ホラ。」
シンジはそう答えながら、部屋の一端を指さす。
確かに、荷物の詰められた旅行カバンが1つ置いてあった。
が、アスカの顔には不満そうな表情が浮かんでいる。
それに気づいたシンジが問いかけると、
「アンタ、よくそれだけで足りるわねぇ。3日よ、3日!!
まさか着替えだけしか入れてないって言うんじゃないでしょうねぇ?」
「え ・・・、ふつうそうじゃないの?」
アスカの疑惑たっぷりの視線と言葉にけろっと答えるシンジ。
はぁー、とため息をつくアスカ。
・・・ もう、どうしてコイツは ・・・
・・・ 変に気が利いたり、利かなかったり。ホント分かんない奴ねぇ ・・・
そして、すぅーっ、と息を吸い込むと、
「アンタばかぁ!? ホンっトにそれで休暇に行くつもり!?
馬鹿もいい加減にしないと、アタシ行くのやめるわよ!!」
そうシンジに怒鳴りつける。
そしてシンジは、
「そっ、そんなぁ ・・・・」
お約束だが、情けない声をあげてアスカにすがりついていた。
「ど、どうしてそんなこと言うんだよぉー
ワケぐらい聞かせてくれてもいいじゃないか ・・・・」
ミサトに無理言って出してもらった、せっかく楽しみにしていた休暇に肝心のアスカが行かないのでは、全く意味がない。
これは死活問題だ、と悟ったシンジは必死になってアスカに理由を尋ねる。
「仕方ないわ。ヒントだけあげるからよく考えて準備しておきなさい。
タイムリミットは明日の朝、出発直前まで。 それでいいわね!?」
「うん、わかったから。早くヒント教えてよぉー。」
「もう ・・・。
ヒントは、『二人だけ。邪魔者はいない。』これで十分でしょ。
じゃ、アタシ寝るから。」
そう言い残すとアスカはスタスタと自分の部屋へと戻っていった。
そして残されたシンジは ・・・・
「フタリダケ、ジャマモノハイナイ ・・・・」
呪文のようにそれを繰り返しつぶやいていた。
<あとがき>
どうも、SSとしては終わりきらない感じになってきてしまったので、連載に切り替えることにしました。
(もう一本のほうはどうする気だ ・・・・、ヲイ ・・・・)
さらに、遅れまくってすいません。定期テストがあったもので ・・・・。
しかもとどめを刺すように突然のHDD上のデータの消滅。あ゛あ゛ぁ、今まで書いた小説のオリジナルデータがぁー (泣) これはきっとディラックの海に消えたに違いない・・・。まさに、とほほな状態です。書いている途中のデータもあったのに・・・。
って、愚痴っても仕方ないんですけどね。
話変わりますが、この間劇場版のサントラ買ったんですけど、7トラック目 ・・・・ 。
うわぁ、やめてくれぇ!! そんなこと思い出させないでくれぇー!!
こんな感じになるほど思いっきりダメージ受けました。(油断しすぎだったかも ・・・ )
買われる方はご注意のほどを。
AGOさんの『ただいま休暇中』[ Rest 2 ]、公開です。
お忍びの温泉旅行の次は、
公認のペンション泊・・
幸せな奴だ・・・シンジは (;;)
ぼけぼけ〜としているシンジへのアスカのヒント。
『二人だけ。邪魔者はいない。』
ホントに幸せな奴だ、シンジは・・・
う、羨ましくなんかないやい! (;;)
さあ、訪問者の皆さん。
一瞬の油断で傷付いたAGOさんを感想メールで癒やしてあげましょう!