アスカ、僕にはやらなくちゃいけないことがあるんだ ・・・・
惣流・アスカ・ラングレー、彼女の記憶に残る一人の少年の言葉。
少年はその言葉を残し、彼女の元を去った。
あの事件の後、消息を断った碇ゲンドウ、冬月コウゾウ、そして赤木リツコの3人の真意を確かめるべく ・・・・
「あーあ、今日も連絡無しか ・・・・ 」
飾り気のない士官室の中で、それとは対照的な真紅のスーツに身を包んだアスカがつぶやく。
先週までは毎日定時連絡が入っていた。それが、今週に入ってからはさっぱりなのである。
「バカシンジ ・・・・ 」
そして彼女はその少年の名を口にする。いや、もはや少年と呼べるような年齢ではないのだが。
あれから既に4年、
最近は定時連絡のときにモニターに映る姿、それだけがシンジの無事を伝えてくれる唯一の、アスカにとっての幸せなひとときであった。
ピーッ
机上の電話から呼び出し音が、思いにふけっていたアスカを現実に呼び戻す。
「はい。」
「惣流副司令、葛城司令がお呼びです。」
「・・・ 分かりました。」
そう受け答えると、彼女はすぐに部屋を後にし、その場所へと向かった。
『別離』 After Story
虚空への前奏曲
第一話
長い通路、そこを一人歩くアスカ。
今、彼女は4年前を回想していた ・・・・
シンジ君が行方不明ですって!
お願い、アタシをひとりにしないで・・・・
碇司令、そろそろ本当のことを話してくださいませんか?
ゼーレはサード・インパクトを起こそうとしている・・・・・
アスカ、僕のじゃまをしないでよ。
お願いシンジ、アタシの話を聞いて!!
もしかして、アタシも殺すつもりだったの ・・・・?
・・・・ そんなことできるわけないじゃないか ・・・・
ありがと、アスカ・・・・
「もう4年も経つのね ・・・・」
どこか寂しそうにつぶやくアスカ。
・・・・ あのときで、全て終わったんじゃないの? ・・・・
・・・・ どうして行っちゃったの、シンジ? ・・・・
・・・・ アタシを一人にしないでって言ったのに ・・・・
シンジと同じく、彼女も真実を知らない一人だった。
だが彼は、ゼーレと接触していたことのある人間である。少なからず、アスカよりは真実に近いだろう。
そのことに気づいているのか、真実を追い求めるシンジに対し、4年間何もできなかった、いや、彼の力になれなかったことが悔やまれてならなかった。
「アタシも弱くなったものね。」
自嘲ぎみの言葉を漏らす。
今までの彼女から考えれば、とっくにシンジと共に飛び出しているはずである。が、あのときのシンジの言葉の前では何も言えなかった。そして、どうして何も言えなかったのか分からなかった。
あのときのシンジの瞳、そこには有無を言わせない意志と、寂しげな光の二つが灯っていた。とてもあの彼が見せるような表情ではなかった。そして絶対に見たくなかった。
通路に響く足音が『司令室』と書かれた部屋の前で止まる。
一呼吸置くと、インターホンを取って、
「ミサト、入るわよ。」
「ああ、アスカね。どうぞ。」
そう言うと、アスカはその部屋の中へと入る。
司令と副司令、そんな肩書きがついていても、彼女たち二人は以前と同じように名前を呼んでいる。実際、その肩書きは成り行き上、そうなったものなので、あまり意識はしていないのだが。
「何かあったの?」
アスカが最初に口を開く。
「まあ、ちょっちね。ほら突っ立ってないで座んなさいよ。」
「・・・ はいはい。」
ホント、司令・副司令たる者がする会話ではない。
「実は奴らが動き始めたらしいのよ。」
「えっ? まっさかぁ ・・・・、冗談でしょ?」
「冗談言うためにわざわざ呼び出したりしないわよ。ホントのことなのよ!」
「でもなぜ今頃 ・・・・?」
「それが分からないから困ってるのよ。あなたの天才的頭脳で分かんないかしら?」
「分かるわけないでしょ!! 絶対的な情報量が少なすぎるのよ!!」
「それはどうしようもないわ。加持とシンジ君が調べてる情報だけなんだから。」
「もう! もっと、優秀な諜報部員を増やせばいいのに。
そんな危険な仕事を二人だけでしてるなんて ・・・」
「あら〜、やっぱりシンちゃんのことが心配なの?」
いまとなっても、からかいモードは忘れていないようだ。
「ちっ、違うわよ!!」
否定するアスカ。だが、顔が真っ赤では信憑性は低いが。
「ふふふ、まあいいわ。
確かにそれも考えてるんだけどね ・・・・」
「何よ、何か問題でもあるの?」
「忘れたのアスカ? こっちの動きは奴らに筒抜けだって。」
「そうね、その問題があったわね ・・・・」
「まぁ、もともとネルフの上層機関だったから仕方ないんだけどね。」
「じゃあ、さしあたって、その昔からのコネクションを切るところから始めるわね。」
・・・・ これでアタシもシンジの力になれる ・・・・
・・・・ だから、シンジもがんばって ・・・・
「お願いするわ。くれぐれも気を付けるのよ。」
「分かってるわよ、ミサト。」
「でもなんか嬉しそうねぇ。そんなにシンちゃんの役に立てるのが嬉しいの?」
「ちょっ、ばっ、馬鹿!! 何言ってんのよ!!」
またも真っ赤では信憑性低いって。
ピーッ
そんなやりとりの中に、呼び出し音がなった。
「何?」
事務的な口調でミサトが受ける。
「司令にお会いしたいという方がいるのですが、どうしましょうか?」
「私に? で、名前は?」
「少々お待ちください。ちょっとすいま ・・・・、あれっ?」
電話の向こうで慌てている様子が伺える。
どうやら、その人物の姿が見あたらないようだ。
「どうしたの?」
「いっ、いや、申し訳ありません。その方の姿が消えたんです。」
「消えた?」
・・・・ まさか ・・・・
「まぁいいわ。ご苦労様。」
「はっ。」
「何かあったの?」
「私に会いに来たって人が消えたらしいのよ。」
「消えたぁ? まっさかぁ。」
「・・・・・・・・・・」
無言で答えるミサト。
「・・・・・・」
アスカも黙ってしまう。
ほどなくして。
ピシッ! と空が音を立て始める。
「な、な、何?」
アスカは突然のことに慌てているが、
「・・・・」
ミサトは先ほどと同じく無言のまま、音の鳴るほうを見つめている。
ピシッ!! ピシッ!!
さらに音が大きくなり、空間が歪みはじめる。そして ・・・・
「・・・ やはり、あなただったのね ・・・」
「お久しぶりですね、葛城ミサトさん。」
突如空間の歪みの中から現れた一人の少年。
銀色の髪、そして紅いルビーのような瞳。
フィフスチルドレン、そして最後のシ者、 渚 カヲル ・・・・・・
「フィフス ・・・・ 」
「フィフスって、ミサト ・・・・」
ミサトはじっとカヲルのほうを見ている。アスカの言葉は耳に入っていないようだ。
「ご安心を。今日はシンジ君に伝言を頼まれただけですから。」
「シンジ君に?」
「そうです。それとセカンドチルドレンにも。」
「アタシに?」
「そう、分かったわ。でも一つ聞いていいかしら?」
「どうぞ。」
「どうして敵のあなたが、シンジ君の味方に付いているのかしら?」
「簡単なことですよ。愛する人のためならいくらでも寝返る、それだけですから。」
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよぉ!!
愛する人って、一体どういうことよ!!」
アスカがいきなり大声を上げる。
「言葉どおりだよ。それ以外の何でもない。」
平然と答えるカヲル。
「アンタバカぁ? アンタは男でしょうが!! そんなの認めないわよ!!」
「それは偏見だね。愛に性別は関係ないよ。」
「で、伝言って何かしら?」
話がシンジを巡る争いに変わってるのを見て、ミサトが話を元に戻そうとする。
「ああ、そうでしたね。」
苦笑いを浮かべながら、ミサトのほうへ向き直るカヲル。
「じゃあ、シンジ君からの伝言を伝えるよ ・・・・・」
<あとがき>
ども、ご無沙汰してました。AGOでございます。
えー、「『別離』の謎を明らかにして!」というメールが多く届いたので、それにお答えして続編の連載開始です。
タイトルは暗そうですが、もちろんテーマは「チルドレンに幸せを!!」で行きます。シリアスかつ、らぶらぶな展開にしようと思ってます。
あと、今回カヲル君が僕の小説に初出演でしたが、彼にはシンジ君のパシリになってもらおうかなぁ(笑)と思ってます。こういうふうにしてくれ、という意見などありましたらメールください。
ではまた。
AGOさんの新連載『虚空への前奏曲』第一話、公開です。
前作で残された”謎”。
それらの解決も目指した連載ですね(^^)
真実を探し続けるシンジ。
司令になったミサト。
副司令としてだけでなくシンジをサポートするアスカ。
どの様な展開になるのでしょう・・
さあ、訪問者の皆さん。
新連載を始めたAGOさんに色々な意見を!