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コンテストからも解放されて、大学も夏休みに入っていた。
朝起きて、食事をしてといういつもとは変わらない生活を送っていたが
変わっていた点といえば、時間にせかされることがないことぐらいだった。

そんなに朝は早く起きることはなかったので夜更かしをするような状態だったのだ。
アスカがレイから借りたゲームにシンジがつき合わされるという毎日が続いていた。

「夏休みだしさぁ、どこかに行かないって思ってね」
「アスカはどこか行きたいところでもあるの?」
「...温泉」
「温泉?温泉だったら箱根の湯があるじゃないか!」
「箱根の湯っていたって、毎日入っているようなものでしょ。
 そうじゃなくて、どこかの温泉地に旅行に行って
 ゆっくりとするのってどうかなぁっておもってさぁ...」
「そうだねぇ、どこか行きたい温泉ってある?」
「第二東京の方にいろいろあるって聞いたんだけどさぁ」
「さっそく調べて見ようか」

シンジはそういうと自分の端末から検索システムにアクセスした。
チェック項目を選んで、最後に温泉を打ち込んで結果を待った。

しばらくすると、温泉の効能別や地方別、ホテルや駐車場の完備とか詳細にかかれた
リストが表示された。中には混浴の有無についての回答もあった。

「これじゃぁ悩んじゃうわねぇ」
「アスカはどんな温泉に行きたいの?」

(まったく鈍感なやつなんだから。ワタシはアンタと一緒ならどこだっていいのよ。
 まぁ中学の頃に比べれちっとはマシにはなったけど。
 シンジのやつが選んでくれるまで、じらしてみようかな?)

「どこっていうのはないだけどねっ。ワタシはシンジと一緒ならどこだっていいのよ」

アスカがそうシンジの目を見て真剣に言うと、
シンジも何か悟ったかのようにどこがいいか決め始めた。

(そうよ始めからそうすれば問題ないものを、まったく)

(アスカがそういうだなんて。行きたいところでもあるのかと思っていたのに。
 どこにしようかな。変なところを選ぶと何を言うか分からないし。
 アスカと一緒なら車でドライブしながらでもいいんだなぁ。
 ちょっと遠出してみようかな?家以外で2人きりっていうのもなんかいいし。)


そんなことを思いながらシンジは端末に出ている検索結果をよく読んでいた。
アスカはそんな姿を見てかまってくれないことにちょっとだけ苛立ちを覚えていたが、
ワタシのために真剣に考えてくれるシンジを見ていると抱きしめてあげたくなっていた。

あれこれ考えた末にシンジはこれという場所を決めたみたいだった。
シンジが決めた場所は第二東京の近くの温泉だった。
外湯がたくさんあって、湯巡りをできるような場所を選んだ。
あとはアスカは嫌がるかもしれなけど、露天風呂のある場所でもあった。
これは男としてのシンジが女のアスカに興味があったからだ。



「ねっどうかな?ここなんかさぁ...」
「いいんじゃない、やっぱり車で行くんでしょ?」
「そのつもりだけど。休みのときぐらい車に乗ってあげないと
 スネちゃうかもしてれないからさっ」
「ワタシはとっくにスネているのに、気がつかないで...」
「何か言った?」
「言わないわよぉ!でも混浴があるのって...」
「ドキッ」
「まさかシンジそんなことを考えていたの...」
「そ、そんなことあるわけないじゃないか!ボクが混浴のあるところなんて選ばないよ。
 た、たぶん偶然じゃないかなぁ...」
「怪しいわねぇ。まぁいいわよ、そういうことにしておきましょう。
 どっちにしてもシンジのエスコートにだからね」
「ちぇっアスカに我侭にはついていけないよなっ」

アスカはワタシの我侭に付き合ってくれるシンジに感謝していた。
言葉では嫌々な感じを受けるんだけど、なんか許してくれている感じで。
そんな心の広いシンジに惚れたのかもしれないと再考するアスカだった。

シンジは我侭をいうアスカに惚れたのかもしれないと感じながらも
時には可愛く大人しくてもいいんじゃないか?とも思っていた。


結局シンジが選んだ場所に愛車FIAT Barchettaに2人きりで行くことになった。

毎日2人きりで生活しているとはいえ、同棲しているという感覚はない。
生活をするパートナーでしかない状態だった。

確かにレイが泊まりにしてもちょっとイヤだなぁとは思っても
逆に一緒にいた方が楽しいと思っていた。アスカは特にそう思っていた。

あんまり2人きりだからといって、毎日がラブラブな日々ってことはなかった。
2人のどこかで一線を引いてるところがあったのだ。

こんな状態だからこそアスカは妙にはしゃいでいて、
シンジははにかみながら荷物を車に積んでいた。

「ったく、どんだけ荷物をもっていけばいいんだよぉ」
「ぬぁんですってぇ!女の子にはねぇいろいろと必要なのよ!」
「何を持って行くんだよ、こんなにも?」
「だって温泉プールもあるんでしょ、だから水着でしょ。
 それにいろいろなところに行くんだからとびきりのおしゃれもしないとね」

アスカはウインクをしてシンジの追求をごまかしてみた。

(だって夜にシンジがワタシのことを...ってなったら綺麗な姿をみてもらいたいし。
 まぁシンジはそんなんで逆に驚いちゃうかもしれないけど。
 でも早く『ボクはアスカのことがスキだ』って言ってくれないのかしら。
 レイが言うように女の子の方から攻めないとまずいのかなぁ....)

(こんなに荷物を持ってかなくてもいいじゃないかなぁ。
 泊まるっていったて2泊3日なのに、この荷物は1週間ぐらいの分あるよなぁ。
 アスカがその気だったら他の温泉の足を伸ばしてもいいんだよなぁ...)


愚痴愚痴言いながらもトランクに荷物を入れているシンジだった。
アスカはというともう助手席に座っていて、
専属ドライバーがシートに座るのを待っていた。

シンジはエンジンを回すと一路目的地へと車を走らせた。
車は第二東京を目指す形で高速を飛ばし、途中で一般道を走り山間部にある秘湯だった。
秘湯といっても結構有名な温泉街でだった。

この辺りはだいぶ気候の戻ってきたにほんとはいえ、雪が降ることはなかった。
セカンドインパクト前の遺産ともいうべきスキー場のゲレンデが温泉街を囲んでいた。

さすがに高速運転中は幌を開けてることはなかった。
アスカはどっちでもいいよとは言っていたがシンジは何故か開けるのを拒んだ。

(アスカの髪が乱れるのって何かヤダなんだよな。
 風でぼさぼさの髪になっしまうじゃん。アスカには綺麗な髪でいて欲しいし)


アスカが帰国して迎えに行って以来、長距離でドライブすることは久々なことだった。
近場に車で行くことはあっても、それはドライブという感じではないし
世間の目というのもあって、そんなにいちゃつくこともできないのだ。

車の中では他愛もない話をしていた。
昨日のドラマはどうだっただの、ゲームが上手く攻略できないなど
ほとんどアスカが一方的に話していて、シンジが聞き役に回るとう状態だった。

「シンジも何か話しなさいよ、ワタシばっか喋っているじゃない!」
「ちゃんと聞いているよ。それにアスカがここぞとばかりに話しているのを見たら
 邪魔するの悪いかなって」
「それじゃぁ会話じゃないでしょ」
「そうだけどさぁ。でもアスカがニコニコしながら嬉しそうに話すのって
 DJの時には見せなかったから。なんか嬉しくてさっ」
「シンジ、よそ見運転してたの?」
「そんなことしないよ、ここにアスカのことを見れるミラーを付けておいたんだ」

シンジがそういうと、アスカの目の前のフロントガラスに
小さいバックミラーがついていた。
アスカがその鏡を見るとシンジの顔が良く見えた。

今まで外の景色とか話に夢中で目の前にあった鏡になんか気がつきもしなかった。
今度はアスカが鏡を見ながら話をしていると、シンジはなかなか見てくれない。
シンジは進行方向に目線を据えたまま、ハンドルを握っていた。

(ちぇっつまんない、どうして見てくれないのよ!
 ワタシはシンジと目線が合うことを期待しているのぃ)

そんなことを思って鏡から流れる景色に目線を移そうとした時、シンジと目が合った。

(あれ、なんかドキドキする。
 ただ目線が合っただけなのに、ちょっと胸が締め付けられる思いが...
 何でなんだろう、さっきまで期待していたのに、実際に見つめられると)

シンジは鏡越しにアスカと目が合うとニッコっと笑っていた。
アスカは顔を赤らめて外を向いてしまった。
やれやれという顔をすると、シンジは

「もうちょっとでサービスエリアに入るからね。お嬢様」

と、からかってみせた。お嬢様という言葉を聞いてさっきまでの話す勢いは
どこかに行ってしまい、顔をうつむいたままだった。

(アスカに悪いことしちゃったかなぁ。ちょっとからかっただけなのに。
 いつもならすぐ怒ったりするのになぁ。妙に静かだと逆に恐いなぁ)

そう思いながら、シンジはサービスエリアに車を進入させた。
サービスエリアの休憩所に近い場所に赤い車は止まった。
シンジが車から降りて鍵をかけようとすると、アスカはまだ車に乗ったままだった。

「どうしたんだよ、サービスエリアに着いたけど降りないの?」
「お嬢様なんだから、ドアを開けてくれないと降りられないの」

と、微笑みながら座っていた。
はぁと溜息をつくと、シンジは反対側のドアにいき

「どうぞ、お着きになりました。アスカお嬢様」
「どうもありがと」

スカートをふあっと持ち上げるように車からおりた。
その姿が妙に滑稽で思わず信じは吹き出してしまった。

「何笑っているのよ!シンジがお嬢様っていったから、その通りしただけじゃない!」
「だってさぁ、アスカがそんなことをいうとは思わなかったんだもん」
「何よ、自分から『お嬢様』って言ったくせに!」
「だからといって実行することないじゃないか。
 さっき車の中で俯いているときは可愛く思ったのにさっ」
「何をいうのよ、いきなり。
 それじゃぁ今は可愛くないって言っているようなものじゃない!」
「そ、そんなことないよ。今だって可愛いよ。今日の服も似合っているし...」
「今頃そんなこといったって何にも出ないからねっ」

アスカはピンクの生地に小さな花柄がプリントされたワンピースを着ていた。
いつもとはちょっとだけ違うのは強い日差しを避けるために
麦わら帽子を被っていたことだった。

一見すると避暑地の深窓のお嬢様みたいに見えるのだった。
シンジは普段家にいるときの格好のタンクトップに切ったジーパンという姿とは
違う格好に心が奪われていた。

そんな『ワタシはお嬢様なんです』という格好をしていたからこそ
アスカにお嬢様といったのだった。

アスカはただ単にシンジにいつもとは違う姿を見てもらいたかっただけなのに
お嬢様と言われてすごく嬉しかった。
車の中では『そんな風に見えるかな?』と思いふけっていた。


サービスエリアで休憩をして、そこからは予約のしてある温泉街の旅館まで飛ばした。
朝に第三新東京市を出発していたので、休憩していたとしてもお昼すぎには着いていた。

旅館に着くと、車を駐車場に止め、カウンターに向かう。
すでに端末から予約をしてあったので、カウンターで自分の名前を伝えると
仲居さんが荷物を持って部屋まで案内してくれた。

部屋はそんなに広いというわけでもなく、狭いということもなかった。
部屋の外には渓流が流れていて、第三新東京市では見られない自然に感動していた。

仲居さんが簡単に温泉の効能とかこの近くの観光地などを説明し
浴衣のサイズを確認して、何かありましたら電話でお呼び下さいと伝えた。
部屋を出る間際にシンジは心付を渡した。

しばらくシンジはお茶を自分で入れながら、温泉饅頭を食べていた。
ジーパンのベルトを緩めて、部屋でくつろぎながらテレビを見ていた。

アスカが窓の外に広がる人工にはできない自然が織りなす姿を見ながら

「シンジ、シンジったら!」
「何?」
「温泉行こうよ。ほら混浴もあるみたいだしぃ〜」
「食事してからでもいいじゃないかなぁ。この辺の郷土料理って美味しいらしいさぁ。
 興味あるじゃない、こういうところの料理って」
「シンジらしいわね、そういうところ。シンジがそういうならそうするわ」

結局、アスカはシンジの言うことを聞くことになり、テレビを見ていた。
第三新東京市とほとんど同じ番組を放映していたが、
違うところというと地元密着型のニューズを見ていると地方に来た感じがした。


しばらくすると仲居さんがお膳を運んできて、料理を説明しながらの食事となった。
仲居さんに「2人きりで旅行なんて婚前旅行かなにかですか?」と言われて
顔を赤くしながらも、アスカは「そう見えます?」と聞き返していた。
シンジもちょっとだけ赤くしていたが“そんな風に見えるのか”と実感していた。

このあとの予定を聞かれ、仲居さんに「ここの露天風呂は景色も綺麗ですし、
最高の眺めですよ」と勧められるがままに、行くことになった。
露天風呂は『混浴』とおいう言葉が、2人の頭の中に占めていたために
“ドキドキ”と“ウキウキ”の相反する心が戦っていた。

(ここの露天風呂って混浴なんだよなぁ。
 混浴ってことはアスカと一緒に入るってことだろう。
 アスカと一緒にお風呂に入るのなんか幼稚園の頃以来じゃないのか?

 でもドキドキするなぁ。
 アスカって中学の頃から他の女の子より胸大きかったりするんだよなぁ。
 妙に色っぽくてさぁ、最近はお化粧もするようようになったから、
 たま〜にドキっとさせられることもあるしなぁ...)


(シンジと一緒のお風呂に入るの?!なんかドキドキしちゃうなぁ。
 でもワタシはシンジといつまでも一緒にいられることがいいと思っていたから
 こんなチャンスは絶対に家じゃないものねぇ。
 家のお風呂じゃぁ2人一緒に入るっていうのは無理だけど、
 たまには肌と肌のふれあいっていうのもいいのになぁ。

 シンジったらワタシのことどういう風に思ってくれているのかな?)


部屋でしばらくの間くつろいだあと、
仲居さんに勧められるがままに2人は露天風呂に向かった。
さすがに洋服では風情もあったものではないので、
部屋で浴衣に着替えて行くことになった。

アスカは着替え様とした瞬間にシンジの視線を感じて、
とっさにシンジを部屋の外に追いやった。
別に覗くという気持ちでいたわけではなかったが
「なんだよぉ、まったく」と愚痴をこぼしながらしょうがなくシンジは、
内風呂の更衣室で着替える羽目になった。

シンジが中のアスカが着替えたのを確認すると、
アスカは「どう、似合うかしらん?」とはしゃいでいて、
モデルのファションショーの様に浴衣の裾をひらひらさせていた。

ひらひらさせている浴衣の裾から見えるアスカの足にシンジは目を奪われていた。
見えるといってもヒザまでだけなのだが、妙な興奮がシンジを襲っていた。
アスカもシンジの視線が気がつくと、はしゃぐのをやめてしまった。

シンジもアスカも着替えてはみたが着慣れていないというのが
はっきり分かる着方をしていた。
二人とも見よう見まねで着てみたのはいいが、なんかしっくりとしていなかった。

シンジはアスカの着替えが入った袋と自分の着替え、2人分のタオルなどどを
持たされて、近くにあるという露天風呂に向かった。


露天風呂はシンジ達が泊まっている旅館の脇を流れいる渓流のほとりにあった。
そう遠い位置でもなかったが、人は誰一人としていなかった。
濡れたすのこが、さっきまで人がいたという事を示す証拠にはなっていたが。

露天風呂の前まで2人は来た。
露天風呂の混浴という文字が気になって2人とも入れないでいた。

シンジの頭は、その『混浴』という言葉の『妄想』と変換された言葉で
ドキドキ、ワクワク、ニヤニヤとフラクタル模様の様に変化を見せていた。

「ねぇシンジ、ここが混浴だって知っていて選んだでしょ?」
「そんなぁことないよぉ」
「とぼけたって無駄よ、顔がにやついているわよ。イヤらしいんだから。
 でもシンジだけならワタシの体見せてあげてもいいんだけどなぁ」
「何を言うんだよ、アスカは」
「ちょっとは期待していたでしょ?」
「そ、そんなことないよ!」

アスカはそういってシンジをからかってみせ、思った通りのリアクションをしてくれた。

でもシンジになら、ワタシの体を見せてあげてもいいとは思っていた。
シンジはアスカの言ったことがすべて当たっていたわけではなかったが、
遠からず近からず当たっていたので、否定のしようがなかった。

図星を突かれただけに否定することなくアスカを置いて脱衣所に1人で向かった。

「素直になれないシンジって可愛いぃ。こんな一面もあっただなんて」

アスカは母性本能がくすぐられるような感じだった。
シンジの純情そうなリアクションをみて、妙に可愛いって思ってしまったからだ。
置いてかれたアスカもシンジが待っている脱衣所に向かっていった。

先に来ていたシンジはアスカが来ないのを確認すると、
アスカの荷物と自分の荷物を違うカゴに入れ、浴衣の帯を緩めて下着を脱ぎ、
タオルで前を隠しながら誰もいない露天風呂に入っていった。

アスカもシンジが先に湯船につかったのを確認してから
ちゃんとたたんであるシンジの浴衣に揃えるようにし、
髪の毛をアップにして、アスカも湯船に向かった。

(綺麗にたたんでいるなんてシンジらしいわよねぇ。
 ワタシも見習わなくてはいけないんだけど。

 今日はちょっとだけサービスしちゃおうかな?
 こうやって2人で旅行に来ていることだしぃ...)


シンジはアスカが入ってくるということで心臓がドキドキしていているのが分かった。
アスカの「入るよ」との声でますます緊張が高まっていき、後ろを振り向けない。

(アスカが入ってくるよ、何かドキドキするなぁ。
 見たら殺されそうだけど、アスカの体って見てみたいよなぁ。
 だってボクだって男だし、そういう願望だってあるし。
 今日の夜、迫ってみたらどうなんだろう...)


妙な気持ちを抱きながら、アスカがかけ湯をして湯船に入ってきた。
シンジはそのお湯がはじける音を聞いて隅の方に移動した。

「ねぇシンジ、どうしてワタシから離れるのよ」
「だって...」
「もしかして緊張しているのぉ」
「そ、そんなことないよぉ」
「...でもワタシはシンジがその気だったらいいのにぃ」
「今、何て言ったの?」
「だからアンタはバカなのよ。ワタシの思いなんか知らないで。
 ワタシは気がついたらシンジの事が好きになっていたのよ。
 でもそういうのはやっぱり、アンタから言ってもらいたかったのよ。
 だから、ドイツに行ってもずーと待っていたのにぃ...」
「アスカ...」
「ワタシだっていつまでも待っていられないんだからねっ!」

今まで思っていたことをシンジに言うと、アスカは背中をシンジの背中に合わせた。

お互いの心臓の音が聞こえる以上に自分の心臓もドキドキいっている。
背中越しに伝わる体温が、さらに緊張感を高める。
水面を横切っていく風が2人の心の中を通り過ぎるかのようだ。

(アスカはボクの事がスキだったのか...。
 ボクもアスカの事が一番好きだし、こういうのはやっぱり男から言うべきだよな)

(あっ、遂に言っちゃった。でもワタシがスキだから、それを受けては欲しくない。
 シンジに言われて「ワタシもスキだから」って言いかったかのに。
 リードはシンジに取ってもらいたかったな)

2人の想いが錯綜する間、湧き流れ込んでくる温泉の音が更に迷いを誘う。
それは風で舞い上がる湯気のように、所々で渦を巻いていたりするようなものだ。

実際の時間はそれほど経っていなかったけれど、
2人にとって長く感じられた時間のピリオドを打ったのはやっぱりシンジだった。

シンジは自分の右の手のひらを開いたり閉じたりしていたが
ケジメをつけるかのように、ぐっと握りしめると
アスカの背中から離れて、左に並ぶような形になった。

横に並んだ瞬間、アスカの左腕とシンジの右腕がちょっとだけ触れた。
2人ともビクッと体を震わせた。
シンジは顔をアスカに向けることなく、目線を遠くに据えながら口を開いた。

「ボクは...アスカのことが...スキだ。守ってあげたいと思う。
 だから、その...ボクと付き合って...くれる?」
「シンジが...そういうのなら...付き合ってあげるわ」
「ありがと」

それからシンジもアスカも何もいうことなく、ただ温泉につかっているだけだった。
シンジは自分が言ったことの責任を感じていて、
アスカは受け止めた言葉の想いを噛みしめていた。


(遂に言っちゃたよ、アスカにスキだって...
 いつかは言わなくてはと思っていたことだしなぁ。
 アスカは“いいよ”って言ってくれたけど、意識しちゃうよなぁ....)

(ついにあのバカシンジから“スキ”って言わせたわよ。
 まったくあの鈍感を気がつかせるのも一苦労ねっ。
 シンジとキスしたこともあるけど、告白されると何してもOkeyだとはいえ、
 妙に意識しちゃうわよねぇ。普通に接しることが出来ないというか...)

そんな思考の時間を止めたのは今度はアスカだった。

「そ、そろそろあがりましょう。じゃないとのぼせちゃうから」
「そ、そうだねぇ。じゃぁ先にあがって待っているよ」

シンジはそう言うと、アスカを湯船に残して先にあがって浴衣に着替えていた。
着替えるとき、ちらっとだけアスカの下着が目線に入ったが、
変な妄想は断ち切って何も考えないようにしていた。

シンジの「もういいよー」という声でアスカも風呂からあがり、
この日の為にってうぐらいの1番のお気に入りの下着をつけて浴衣に着替えた。

シンジが待っているところまで行くと、アスカはまともに顔が見れなかった。
シンジもまた同様にアスカの顔を見ることはできなった。

でもシンジは自分がスキだと言った以上、アスカをどんなことがあっても
守っていかなくてはいけないというのと、夜の暗闇がシンジを大胆にさせていた。

恥ずかしがっているアスカの腕を取ると、自分の元に引き寄せて、
シンジは右腕をアスカの細い腰に回していた。

アスカは引き寄せられた時も、腰に手を回されたときもえっという顔をしていたが、
さっきの出来事もあったいつものアスカとは違う、大人しいアスカだった。

シンジに抱かれるような感じで旅館に帰ってきた2人は、
自分たちの部屋に入ると布団がすでにひいてあった。
仲居さんが気を使ってくれたのか、ちょっと大きめの布団に枕が2つならべられていた。

最初に部屋に通されたときに言われた婚前旅行と間違われていたのかもしれない。

アスカはその光景を見ると恥ずかしくなって、
シンジの腕から逃げるように布団の中に滑り込んでしまった。
シンジはやれやれという顔をして、備え付けの冷蔵庫からジュースを2本取り出すと、
アスカの横に寝そべるかのように一緒の布団に入った。

「アスカ、喉乾いているだろ」

シンジはそう言って寝ているアスカを半身起こして手渡した。
どういう反応をして良いか分からないアスカだった。
シンジはニッコリ微笑むだけで、アスカの様子を見ていた。
2人はただ黙っていながらジュースを飲んでいた。

寝て起きたカッコだったので、ちょっとだけ胸元がはだけて
アスカが自慢する胸の谷間がシンジの視界の中に入り込んできた。
アスカはシンジの目線に気がついていたが、それでも襟を正すことはしなかった。

シンジはリモコンでテレビをつけた。
つけた番組は地元のローカルニュース番組だった。
特に目立ったことをはやっていなかったが、近くに花火大会が予定されているらしく
その特集を組んだコーナーを流していた。

今までジュースを飲む音しかしなかった空間にニュースというノイズが混じっていた。
しかしそのノイズは気になるものではなかった。
アスカはジュースを飲み干すと、シンジが飲み干すのを待っていた。
シンジが空になった缶を畳の上に置くと同時にアスカが口を開いた。

「ねぇ本当にワタシなんかでいいの?」
「何を言っているんだよ」
「だってワタシはシンジのことをぶったりとかする女なのよ!」
「ボクは気にしてないよ」
「それにワタシは我侭だしぃ...」
「我侭じゃないアスカはアスカじゃないもの」
「ワタシなんかよりももっといい人が、例えばレイとか」
「綾波は友達だよ。いろいろと相談できる友達。敵には回したくないけどね」
「こんな取り柄のないワタシでいいの?」
「そんなアスカをスキになったんだと思うよ。
 アスカの我侭だってボクのことをぶつのだった、ボクのことが気になるからだろ?」
「...うん」
「ならそれでいいじゃないか。
 加持先生に言われたたんだ。アスカはシンジくんのことで心がいっぱいらしい。
 昔からアスカはシンジ君のことをみていたんだぞって。
 だからシンジ君にはアスカのことを守ってやる義務があるんだって」
「加持先生が?」
「アスカが加持先生のことを憧れていたのは知っていたけど、
 加持先生はそんなのはハシカみたいなものだって言っていたし。
 今思えば、ボクもそうだと思うし。ミサト先生に憧れもあったこともあるし」
「ワタシもちょっと前にミサトに言われたわ。
 そろそろ素直にならないとシンジ君もいつまでも待ってくれないわよって。
 もう子供じゃないんだからって。だから今日は素直になろうって決めていたの」

アスカが言い終わるとシンジはその会話の続きをすることなく、
アスカを抱きしめていた。

そして長いキスをすると、抱き抱えたまま布団に倒れ込んだ。
テレビからはいつしか放送終了のクレジットが流れてきていた。

NEXT
ver.-1.00 1997-08/21公開
ご意見・感想・誤字情報などは lager@melody.netまで。

LAGERですぅ。

前回の更新よりどれくらいの時間がかかったのでしょうか?
予想ではもっと早く書き上げるつもりだったのですが、
妙に仕事のほうが忙しくなってしまい書いている時間がなかったんです。

この話で終わちゃったかな?という感じが否めないのですが、
とりあえずこの後も書くつもりです。

この話の最後で、シンジとアスカが一緒に寝ているシーンがありますが、
この後、大胆になったシンジがアスカを襲ったか、
はだけた浴衣を見てトイレに駆け込んだシンジが「ボクって最低だ」と言ったか、
アスカがシンジを誘ったか、1人で悶々としていたかは想像に任せます(笑)

この辺は読者にゆだねるということで>逃げている(^^;)

 LAGERさんの『UN HOMME ET UNE FEMME』第12話、公開です。
 

 浴衣の裾から見える膝下って妙に色っぽいですよね、
 着物の裾から見えるくるぶしってのも・・・・

 見える範囲が狭いほど良いかもしんない(^^;
 

 浴衣の乱れた胸元ってのもグーですよね。

 ・・・なんかオヤジっぽいコメントだなぁ(^^;
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 シンジを男にしたLAGERさんに感想メールを送りましょう!
 

 ・・・男になっているよね?
  あそこで止められるわけがない(爆)


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