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UN HOMME ET UNE FEMME
第3話 約束
アスカを空港まで迎えにいったシンジは、
自分の買った車の助手席に乗せることとなった。
ようやく自分に正直になったような気がしていた。
「アスカ、幌開ける?」
「オープンカーでしょ。開けなきゃ意味ないじゃない」
「でも乱れるよ、髪の毛が」
「いいわよ。あとでセットすればいいことだから」
と言って幌を開けた。
空港を後にして、ハイウェイに乗った。
ミサト仕込みの運転とヒカリから聞かされいたので
アスカはヒヤヒヤしながらも嬉しさの混じる気持ちだったが
シンジの運転は安心していられるものだった。
シンジはアスカがどういう気持ちで乗っているのかが知りたかった。
さっきは「アスカを初めて乗せたかったから」と言ってしまったからだ。
とっさに出た言葉とはいえ、シンジが思っていた言葉だっただけに
何を話しかけたらいいのか、分からなくなっていた。
アスカはというと、シンジが話かけてくれないのをじっと見ていた。
いつもならシンジの方から声をかけてくれるのに黙っている。
そんなシンジが意外にもカッコよく見えていた。
アスカは3年前に約束したことをシンジが覚えてくれているかな、
なんでシンジに惚れてしまったんだろうなどと考え込んでいた。
そんな沈黙に耐えきれず、シンジがアスカに話かけてきた。
「ねぇアスカ、3年ぶりでしょ。第三新東京に来るの」
「そうだけど」
「結構、変わったんだよ。ここも」
「ふ〜ん」
「ちょっと、寄って行きたいところあるんだけどいいかな?」
「どこに寄っていくの?」
「そこに行くまでのお楽しみだよ」
シンジはアスカにそんな期待させるそぶりを見せた。
これは加持さんから伝授された
『好きな娘を口説き落とす44の方法』の1つだった。
加持さんはこの方法を持ってミサトさんを口説いたのだそうだ。
もっともミサトさんが加持さんを口説いて落としたというのが
リツコさんによる解説だが、本当のところは逆なのだろう。
照れ隠しからそういう風に言っているのかもしれない。
そんなシンジの期待させる素振りに反論することなく従った。
昔なら「どこ行くのかいいなさいよ、シンジ」と言っていただろう。
アスカはシンジがそんなことをいう事に意外な感じを受け、
「たまには、こういうのもいいかな」とも思っていた。
アスカがドイツに行く前にこういう風になっていて欲しかったなとも思っていた。
あのときは乙女心を全く理解できないドンカンだったからだ。
まぁその頃と比べれば成長しているシンジを見て笑みがこぼれるアスカだった。
第三新東京市と第三新東京国際空港をつないでいるハイウェイを降りた。
今はシンジの家の近くまでつながっているらしい。
3年前までは工事中で完全につながっていなかったのだ。
シンジは家の近くのインターで降りるのではなく、
あえて芦ノ湖近くのインターで降りた。
湖岸の道路を走りながら、見えてくる第三新東京市を見ながら。
「結構変わったね。この街も」
「そうだね。
でもアスカがドイツに行った頃とはそんなに変わってないよ」
「そう?」
「ただ工事中なのがなくなって完成しているだけじゃない?」
「そうかもね。あのビルは?」
「あれは第三新東京市を一望できるビル。
スカイタワーっていうんだよ。アスカが行く前は工事中だったからね」
「じゃぁあそこに連れてってくれる?」
「その前に行きたいところがあるから、明日でもいい?」
「シンジがそういうなら」
「アスカも変わったね。
昔のアスカなら、『今行きたいの』って言っているのにね」
アスカは変わったつもりはなかったけど、
「シンジがワタシのためにドライブしてくれている」という事の方が重要で、
意識もしていなかったから、恥ずかしくなってしまった。
アスカは「ワタシを変えたのはアンタなのよ、シンジ」と言いたいのだが
そのコトバを飲み込んだ。
「ねぇ、もうそろそろどこに行くのか教えてくれたっていいでしょ?」
ちょっと甘えた声で言ってみた。
「もうちょっとしたら分かるよ、どこに行くのか」
シンジは素っ気なく答えた。
そんなシンジに追求をすることなく、
アスカは2人きりのドライブを楽しんでいた。
などと考えているうちに日本に着いたという安堵感と
シンジがワタシを迎えに来てくれたという嬉しさから
アスカは助手席で寝てしまった。
そんなアスカを横目で見ながらシンジは目的地を目指していた。
「アスカ、着いたよ」
「えっ?」
「着いたよ。目的地に」
「ここはどこ?」
そこはアスカがシンジにドイツに行くことを話した公園だった。
この公園は高台にあって、第三新東京市を一望できる公園でもあった。
遷都される前からここにはテレビ鉄塔があって、
そこの柵には恋人同士がふたりの名前を刻んだカギをかけて
永遠の愛を誓う名所でもあったのだ。
アスカはシンジに気持ちを知ってほしくて
ここに連れてきたのだったが、ドンカンだったので気がつきもしなかったのだ。
「ここはアスカと約束した場所だよ。
『ワタシがドイツから帰ってきたら、まずここに連れてきてね』って。
忘れちゃったの?」
「う、ううん。忘れるわけないじゃない」
アスカはうっすらと涙を浮かべていた。
シンジが約束を覚えてくれていたこと。
それを守ってくれたこと。
「アスカ、座ろう」
と言って、そっとハンカチをベンチの上にひいてくれた。
ベンチに座って、自分たちの街・第三新東京市を眺めていた。
アスカが引っ越した時と比べて、何もかもが新しくなっていた。
アスカにしてみれば新しい街を見ているようなものだった。
アスカもシンジもしばらく黙って眺めていた。
そんな沈黙はアスカにとってはすごく心地よいものだった。
「ねぇ、アスカ。アスカってばぁ」
「何?」
「重いんだけど...」
シンジはおそるおそるアスカに言った。
アスカは気がついたら、シンジの肩に頭を傾けていたのだった。
引っ越すときはアスカの方が若干背が高かったが
戻ってきたらシンジの方が高くなっていた。
だからアスカの頭はシンジの肩の高さとちょうどよかったのだった。
「ねぇ、アスカ。
何しに戻ってきたの?」
「何しにって...」
「だって、アスカはドイツで大学を卒業してきたんでしょ?」
「そうだけど」
「じゃぁ日本に戻ってきて働くつもりなの?」
アスカはどう答えていいか迷っていた。
「ユイおばさまは言ってないんだ」
そう思うと、ユイおばさまもワタシと同じこと考えているのかもしれない。
アスカは日本の中学を卒業後、ドイツのミュウヘン高校に進学。
高校を1年で卒業して、ドイツで最高峰といわれる
ニュルブルクリンク大学を2年で卒業したのだった。
日本では飛び級というシステムはあったが、
そうそう使えるものではなかったのだった。
アスカは「ワタシはシンジに会いに来たの」なんて恥ずかしくて言えないし、
「4月からシンジと同じ大学に行く、だからシンジの家に居候するの」
なんていったらどんな顔するんだろう、などと考えたあげく
「ヒミツよ」
「ちぇ、教えてくれたっていいじゃないかよー。
日本に戻って来ることだって、洞木さんには言ってあったのに」
「ちょっとシンジを驚かそうと思っただけだしー」
「驚くとかそういう問題じゃなくて」
シンジは「ボクだってアスカに逢いたかったんだよ」と
言いたかったのだが、その言葉を飲み込んだ。
「じゃぁどういう問題なのよー、言ってごらんなさいよー」
「いや、それは」
といって、シンジは目線を外してしまった。
アスカ日本に帰ってきた理由をどうにははぐらかすことを考えていた。
「ねぇアスカ、
何でここに一番最初に来たいってあのとき言ったの?」
アスカは返答に困った。
「アンタ、ここはカップルが来る場所だからよ、だからじゃない」
とは言えない。それぐらい気がつかないのかぁとも思っていた。
「ここはワタシがシンジと最後に2人で来た場所。
だから、戻ってきたとき、ここからスタートしたかったの。
それだけよ。それに...」
「それに、なに?」
「それに一番見晴らしがいい場所でしょ?ここ。
ねぇそろそろ帰りましょ。ワタシお腹空いてきたし」
「そうだね」
「シンジの料理も食べたいしなぁー。ねぇシンジ」
「明日でも作ろうか」
といって、2人は立ち上がり、車の方に歩いて行き、
車をスタートさせて、シンジの家に向かった。
どうもLAGERです。
『真っ赤なオープンカーを運転するシンジ。
助手席にはアスカを乗せて、海岸線を走る』
っていう情景を書きたくてこういう書き出しになったんです。
本当のところは(^^;;
で、何のオープンカーを使うか?ということを考えていた時に
都内某所の模型屋でFUJIMIから出ているFIAT Barchettaを見つけ、
これに乗せようと。
あとはHG-LMに付いてきた1/24のフィギュアを
キャストで抜いて...という作業が待っているだけです(^^;;
その前にHG-LMの箱が山積みされているのを片づけないと...
LAGERさんの『UN HOMME ET UNE FEMME』第3話、公開です。
3年ぶりのドライブ。
ちょっと大人になった二人のちょっと素直になったドライブ。
素直に出てくる言葉と
素直に出てこない肝心な言葉。
3年という時間を感じさせない二人の空気が伝わってきます。
でも、どうしてこの二人は3年間も音信不通だったんでしょうね?
STOで3時間の距離なのだから、逢おうと思えば直ぐでしょうし、
話しぶりからすると電話さえしていなかったようです。
・・・・この辺りに物語が潜んでいるんでしょうか?
さあ、訪問者の皆さん。
貴方も感想メールを書いてみませんか?
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