今日二度目のハイウェイは、夕刻、空も赤から黒へと変化し始めた頃であった。
午前中の時とは違い、今度は静かな道中である。それもそのはず、今回車の運転をしているのは青葉繁である。もちろんもう一度国立
博物館に向かうと決まった時、真治が車を運転できるという繁に泣
き付き、今度は一緒に行くと言うミリ−ナも美里の車には乗りたが
らなかったからである。故に後部シートに真治と共に座らされた美
里は、缶ビール片手にふてくされていた。
「まず、誠君はもうちょっと調べてみてくれる?その、獣に襲われ
るってやつ。心当たりがないからこの件とどう関係しているか分か
らないけど、偶然にしてはちょっと不自然すぎるしね。なんかわか
ったら連絡して。私の携帯の番号はわかるわよね?」
「えぇ、大丈夫です。」
皆が協力を快く応じた後、ミリ−ナはそれぞれの行動について指示
していく。
「真治君と美里には私と一緒にもう一度クラウン秘宝展に行っても
らうわ。直接見てみたいし、何か手を打たないとね。」
その言葉に頷く二人。この後、前述したように一悶着あり、
「私もまだ死にたくないわ。繁君、運転できたわよね。繁君にお願
いするわ。」
と言う言葉で決着を見る。
「あの、私は・・・。」
一人残された摩耶が声を上げる。
「摩耶ちゃんは昨日と同じように誠君のサポートをしてあげて。」
それに答えたミリ−ナの後に、真治の言葉が続く。
「あ、摩耶さん、今日も夕飯作れそうにないから、家に電話しとい
てくれませんか?」
「そうね、わかったわ。」
こうして、思考の時間から行動の時間へと移ったのが、2時間ほど
前のことであった。
「さてと、もう博物館の方は閉館してるわね。どうしようかしら。」
程なく博物館の前までやってきた4人は、まずどうやって中に入る
かを考える。
「とりあえず、裏の方に回りませんか。多分、警備員用の出入り口が
あると思うんすけど。」
繁の提案に賛同して、裏へと回る。そっと裏口の方を覗きこむと、入
り口の所にある窓に明かりが見える。
「あそこは多分この博物館の受付だと思います。中にもう一部屋警備
室のようなものがあるんじゃないでしょうか。」
「あら、青葉君、やけに詳しいのねー。」
「まあ、いろいろバイトしてますから。」
美里の突っ込みに、日頃の苦労を思わせる発言をする繁。
「どうしましょう、ミリ−ナさん」
こういう事に初めてで、しかも忍び込むということにちょっと罪悪感
を感じている、不安そうな真治に、にっこりウインクして美里が行動
を起こした。
「大丈夫よん。ちょっちここで待っててね。」
そういうと、美里の姿がスッと小さく細くなっていく。一瞬後、そこ
にいたのはエメラルド色の鱗を輝かせた60cmほどの美しい蛇だっ
た。
「それじゃ、行ってくるわよん。」
スルスルと裏口の方へ向かっていき、真治達の視界から見えなくなっ
た。
「大丈夫かな?美里さん・・・」
「大丈夫よ。美里の酒気で眠らすだけだし。危ないことはないでしょ。」
「・・・いえ、美里さんじゃなくて、警備の人達が大丈夫かなと・・。
来る途中でも結構飲んでたみたいだし。」
「・・・そうっすね。行く時もなんか嬉しそうな顔してましたし。」
《うわーーー!!!》《なんだーーーー!!!!》
そんな三人の心配を裏付けるかのように、何やら叫び声のようなもの
が聞こえてくる。
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
程なくして人間の姿で美里が戻ってきて一言。
「お待たせ!あー、すっきりした。」
「まったく、あんたって子は・・・」
「あはは、ごみん。」
どうやら、わざわざ驚かせてまわったらしい。美里は体長を60cm
から6m近くまで自在に変えられるのを利用して、警備員の前に突然
巨大化して現れたりしたらしかった。特に非常灯以外は明かりのない
暗闇のなかである。失禁している警備員も何人か見受けられた。
そうこうするうちに、『ムーンラヴァー』の展示場所まで辿り着く。
「どお?ミリ−ナ。なんか感じる?」
美里が『ムーンラヴァー』の方を見やりつつ問い掛ける。
「うん、そうね・・・!!」
ミリ−ナが意識を集中しようとすると、まるで4人を待っていたかの
ようにムーンストーンが白い光を放ち始める。そしてその光の中に、
昼間、真治の見た女の子の姿が浮かび上がってきた。
その髪が月の輝きを宿したかのごとくさざめき、強い意志を感じさせ
る紅い瞳が神秘的雰囲気を高める。
誰も言葉を発することができなかった。まるで、言葉を発した途端消
えてしまいそうな、そんな幻想的な姿が目の前に現れていた。
『・・・あなたは・・誰?・・・』
突然、直接脳裏に声が響く。その声に4人は我に返る。その少女の口
は動いたようには見えなかったが、それは確かに彼女から発せられた
ものだとわかった。
『力・・主と似た力を感じる・・・・』
その紅く輝く瞳のその先には・・・真治がいた。真治とその少女は見
つめ合う。
『あなたは、私に命を下せし者?』
「え、いや、あの」
「彼はあなたに命を下せし者ではないわ。それより、あなたは何者な
の?」
事態についていけない真治の代わりにミリ−ナが答えを返し、逆に問
い掛ける。
『違う・・?・でも、同じ力の波動・・・』
しかし、まるでその場に真治しかいないかのように、その目は真治か
ら離れない。そして、突然真治に滑るように歩み寄りスッとその新雪
のように白い両手を持ち上げると、真治の頭を挟み込み、その瞳を覗
き込んだ。実体を持たない手だったが、真治にはその手に温かさがあ
るように感じられた。
その時間は1分もなかったかもしれない。が、まるで時間が止まった
かのような、それでいて何十分も何時間も経ったような、そんな感じ
だった。
初めと同じように静かにその手が下げられた時、その少女の眼には何
か見つけたような光が宿っていた。その表情も先ほどまでのものが嘘
のように穏やかになっている。
一方の真治は、何かに圧倒されたような表情で呆然と目の前の少女を
見つめ続けていた。そして、その口から言葉がもれる。
「レイ・・、僕は・・・」
「真治君?どうしたの?」
ミリ−ナの呼びかけに我に返ったように真治は振り向くと、話し始め
た。
「彼女、レイって言うんです。レイが言うには、彼女を創り出した主
の力・・というか波動のようなものが僕と似ていて、僕にも同じよう
なものがあるって・・・。それで、封印の力が破れる寸前だから、力
を貸してほしいんだそうです。」
「で、そのレイちゃんが封じているものは何か、わかった?」
「それが漠然としたことしか・・・。破壊の衝動・・黒き闇・・・死
を導くもの、そんな風に言ってます。自分はそれを封じ、浄化するこ
とが命じられ、果たしていたと。それが突然結界から持ち出されて、
封印を維持するのがやっとの状態になってしまったって。」
真治の表情に哀しみが浮かんでいた。
「何とか、彼女を助けられないんですか?ずっと一人で、長い間閉じ
込められていて、いくら重大な事だからって、そんなの・・・そんな
の・・ひどすぎる。」
レイと向かい合った時、真治はレイが自分の中に入ってくるのを感じ、
同時にレイの中に自分が溶け込んでいくようにも感じていた。
そして、その中で見たもの。それは、レイの過ごしてきた、長い時間
と変わらない光景であった。壁にある窓のようなところから交互に入
ってくる太陽の光と月の光の繰り返しだけが時間の流れを知らせてく
れる。絶対的な静寂のみが支配するそんな空間の中でレイはずっと封
印を守り、命じられたことを果たすだけの月日を過ごしてきたのだ。
『何、泣いてるの?』
レイの言葉に手を頬にやる真治。その頬は濡れていた。
「レイは・・いいの?つらくないの?一人で、たった一人だけで。」
『いい。仕事だもの。』
「でも、でも・・・」
疑似的に体験したレイの境遇が、真治自身が知る一人の寂しさ、怖さ、
辛さとダブる。真治は思う。レイはもっともっと知るべき事があると。
自分が昔そうだったように、人と触れ合うことで学べること、感じるこ
とが多くあることを知ってほしいと。
そのために自分にできる事は何か、真治は考え始めていた。
それは絶妙のタイミングだった。
ピリリリリリ ピリリリリリ
ミリ−ナの携帯が鳴り出し、皆がそちらに振り返る。
「ミリ−ナ!危ない!!」
美里がミリ−ナを押し倒すのと、ミリ−ナの立っていた場所を黒い影が
駆け抜けるのは、ほぼ同時だった。
その黒い影はそのまま止まらずに『ムーンラヴァー』を囲っていた強化
ガラスを打ち破る。警報の鳴り出した中、『ムーンラヴァー』の光に浮き
上がったその姿は、一匹の獣。光の弱まりつつある宝玉を咥えてからチ
ラッとこちらを見ると、その場にいたものが行動を起こす暇もなく外へ
と駆け去ってしまった。そいつは確かにニヤッと笑っていた。
「今のは・・・狼・・?」
あまりに突然の出来事に対処できないでいたが、警備員の何人かが警報
の音で目を覚ましたのか、数人が走ってくる足音が聞こえてきた。
「クッ、とりあえず逃げるわよ。」
「でも、レイは。」
「それは外に出てからよ。今捕まったら面倒なことになるわ。」
4人はどうにか誰にも見つかる事なく外へと出ると、博物館から少し離
れたところで立ち止まった。外はもう夜を迎え、月は新月を明日にひか
え、細い光を地上になげかけている。ミリ−ナは先程の電話を思い出し、
逃げ出すために切ったスイッチを入れると誠へ電話を掛けていた。
「もしもし、誠君?なんかわかった?」
『あぁ、ミリ−ナさん。さっきはどうしたんです?』
「ちょっとね。早く教えてくれない?時間がないのよ。」
『あ、ええっと、手っ取り早く言うとビンゴです。一連の事件に関わって
いるのは人狼、しかもおそらくもう日本に来てます。さっき、ニュースで、
空港で死体が3体見つかったというものがありました。皆、喉を噛み切ら
れてます。おそらくそっちに向かっていると思うので気をつけてください。』
「もう、遅いわ。」
『え、何ですか?』
「いえ、ご苦労様。あとはまかせて。それじゃ。」
ピッと携帯を切ると、真治、美里、繁がミリ−ナを見つめていた。
「追うわ。何が目的かは分からないけど、あいつにあれを渡すわけにはい
かないわ。おそらく、まだ近くにいるはずよ。」
ミリ−ナは意識を集中する。皆が見守る中、ミリ−ナは目的の妖力を探知
すると、本来の姿へと戻る。着せ替え人形ぐらいの大きさになり、その背
には黒地に鮮やかな青い模様の入った蝶の羽が生みだされる。
「あっちのほうよ。そんなに離れていないわ。」
真治も美里もすでに姿を変えている。美里は真治の体に巻きついていた。
繁は変化していない。繁は律子と同じタイプ、つまり器物の変化である。
本来の姿は笛。朱塗りの、つまり魔除けの横笛である。だから、滅多に元
の姿には戻らない。ミリ−ナも真治に掴まると真治と繁は走り出した。脚
力を強化した真治の走るスピードはとてつもなく速い。繁をどんどん引き
離し走っていく。
そして、目指すものはわずかながらに降り注ぐ月明かりの中、自然公園の
丘の上にいた。
丘の上にたたずむ狼の口には、もう微かにしか光を放っていない『ムーン
ラヴァー』が咥えられていた。すでに三脚の部分は外されたのか、見当た
らない。
「それを離せ!!」
ある程度距離をとりつつ、真治は銀の瞳を光らせ睨み付ける。美里も大蛇
となり右側に、ミリ−ナは隙をうかがいつつ左側に展開する。ちなみに繁
はまだ追いついてきていない。
「ふん、返すわけにはいかん。俺にはこれが必要だからな。」
人狼は足元に宝玉を置くと、油断なく気を配りながら口を開く。
「これがあれば、満月の時じゃなくとも力を発揮できる。我が妖力を注ぎ
込み、体内に取り込む。奴の言った通りならば、それで俺はいつでも人型
になれるようになるはずだ。邪魔はしないでもらおう。」
「そんなことしたら、封印が!」
『ムーンラヴァー』に集中し出す人狼に、真治達が阻止しようとその距離
を縮めようとした瞬間、3人の目の前にそれぞれ1匹ずつ血のような色の
眼を輝かせる黒蛇が出現する。
「何よ!こいつら!」
美里と同じぐらいのその黒蛇は壁のように立ち塞がる。
『・・それは・・私から漏れた・・・闇・』
「!?レイ!」
脳裏に響く声。宝玉は遠目にもだんだん黒く変色していくように見える。
途切れながらもその声は続く。
『封印を・・やぶ・る・ために・・私に・・巻き・ついて・・いた・・も
の・・』
「それじゃ、あの蛇の三脚みたいなのが!」
何とか突破しようとするが、意外にすばやい動きにことごとく阻まれてし
まう。それどころか、少しづつ押し戻されていた。
『・も・・う・もた・・・な・・い』
その声と同時に、ピシッという音が意外に大きく辺りに響き、
そして、
漆黒の霧のようなものが人狼をも覆い込み、真治達の前に出現した。
おそらく意思を持つのであろうその闇は、渦巻くように人狼に殺到する。
そして、真治達の前に立ちはだかっていた黒蛇もその中へと溶け込んでい
く。
「な、何だ!これは!く、来るな。こんなの聞いて・・な・い・・」
まとわり付き、吸い込まれるように人狼の中に入り込む。それと共に、狼
の姿だった体が膨れ上がり、別の形に変わっていく。
全てが終わった時、そこにいたものはもう人とも狼とも言えないものであ
った。頭は狼であるがその瞳は禍禍しく血の色を放ち、上半身は人型で硬
質な毛に覆われ、そして、下半身は黒い鱗に覆われた蛇のものであった。
あまりの事に呆然と立ち尽くす真治達の耳に不快感をもよおすような声が
届いた。
「クっクック。やっと、やっとだ。悠久の時間から、我はこの地に舞い戻
った。憎っくきルナリスのおかげでだいぶ浄化されたが、我はまだ生きて
いる。死と破壊をもたらし、憎しみを得、力を回復しなければ。」
自分の体を見回し、まるで体を馴染ませるように手を握ったり開いたりさ
せる。そして、ふと気が付いたように何かを拾い上げた。
「我がこんなものに封じられていたとは。クッ、忌々しい。」
それは二つに割れたムーンストーン。その輝きもすでに失せているように
見える。
「レ、レイ・・・」
真治の呟きにかつて人狼であったものの目が向けられる。
「蛇にフェアリー、それに・・鬼?・か。汝らも我が復活の邪魔をしよう
としていたな。まず、手始めに汝らから死を与えよう。」
その言葉と同時に、ミリ−ナに割れたムーンストーンが投げつけられ、真
治と美里に太い蛇の尾が叩きこまれる。ミリ−ナと美里は何とか躱すこと
ができたがムーンストーンに目をとられた真治はまともに弾き飛ばされた。
「真治君!」「真ちゃん!」
思わず、そちらに目を向けてしまった所に尾による二撃目が放たれようと
した。と、突然光が辺りを照らし出す。
「ミリ−ナさん、葛城さん、どいて!」
それは、車を走らせる繁だった。真治に付いていけないと悟った繁が車で
後を追ってきていたのだった。
「うおおぉぉぉおぉぉ!!!」
繁は雄たけびと上げるとアクセルを目一杯アクセルを踏みこんで車を突っ
込ませた。
2,3mほど吹っ飛ばされた真治は大地に横たわっていた。さすがに強化
された体でも無防備な所に叩き込まれたため、ダメージが大きかったのだ。
『・・い・・かり・く・・ん・』
微かに声がした。朦朧とした意識が一気に覚醒していく。すぐ側に割れた
宝玉が消え入りそうな光を放っていた。
「レイ、生きてる・・!」
『い・・か・りく・・ん』
今にも消えそうなその声に焦る真治。
「レイ!助かる方法は?僕になんかできないの?」
『わたし・・を・つつ・み・・こんで・・あの・・とき・・みた・い・に
とけ・・あう・・イメ・・ジ・を・・』
真治は言われるままに二つになった宝玉を両手で包み込むと、あの時、レ
イと見詰め合った時に感じた感覚を思い出す。
細く輝く月が見守る中、真治の祈るように握られた手の中から白い光が漏
れ始めた。
ミリ−ナが強い光を2,3発連続で相手の目の前に光らせ、目を眩ませる。
美里が淡いピンクがかった毒霧をあびせかけ、尻尾を叩き付ける。
繁はポケットから小型の横笛を取り出すと曲を奏でだし、それに合わせて
敵のまわりの植物が成長し、絡み付き、動きを封じようとする。
が、最初の体当たりこそ腕を一本吹っ飛ばすダメージを与えたものの、そ
れ以降、決定的なダメージを与えられず、逆にそのパワーに押されている。
「くっ、ミリ−ナ、なんか、弱点ないの?こいつ。」
相手の攻撃を躱しつつ、美里は側に寄ってきたミリ−ナに息を切らせつつ
声を掛ける。
「基があの人狼だから、多分それと同じ、心臓か頭だと思うわ」
答えたミリ−ナもだいぶ疲れた顔をしている。繁も長い集中のせいでだい
ぶ息が荒い。
「頭、ね。狙う、なら。心臓は、私達じゃ、狙えない、もの。」
その瞬間、敵の蛇の尾が上から叩き付けられた。
ドーン!!
どうにか避けられたが、その衝撃で体勢が整わない。その間に横振りの二
撃目が振るわれた。それは美里と繁には避けようのない一撃だった。
バシーン!!
受ける衝撃と痛みに耐えようと身を固める美里と繁。
しかし、それはいつまで経ってもやってこなかった。恐る恐る目を開け、
そこに見えたのは・・・光輝く壁に止められた尻尾だった。
「な、何?」
「馬鹿な!?光壁だと!!何故これが!!」
腕を一本失くした時も怒りしかその感情の浮かばなかったその狼の顔に、
初めて動揺の色が浮かんだ。
「大丈夫ですか。美里さん、繁さん。」
後ろから、聞き覚えのある心配そうな声がかかる。
「真治君!無事だったのね!」
弾けるように振り返った美里の言葉に微笑みを返す。
「えぇ、僕も、レイも無事です。」
「レイも?でも、ムーンストーンは・・・」
ニコッと真治は自分の胸を指差した。そこには強い輝きを放つ球体があっ
た。
「な、どうして・・・」
「僕にも何が何だか。ただ、」
スッと手の平を前に突き出すと、その先に先程尻尾を受け止めた光が出現
する。
「レイがこれを教えてくれたんです。そして、これであいつを倒せること
も。あいつの相手は僕がします。」
銀の瞳に強い意志が宿る。
「それがレイを解放することにも繋がるから・・」
「・・・わかった。まかせるわ、真治君。」
真治の言葉を聞き、ミリ−ナも美里も繁も後ろに下がる。そして、真治は
変わり果てた人狼と対峙した。
「光壁を操る者・・・。貴様、何者だ?」
自分と対峙する少年に問い掛けるが、答えは返ってこない。動きに警戒し
つつ睨みつける中、その少年の胸に輝く宝玉に照らされて、この時初めて、
はっきりその顔の細部までを目にした。
「!!ま、まさか・・・、お前は・・」
真治の顔に何を見出したのか、その眼が驚愕に見開かれる。
そして、その一瞬の隙を真治は見逃さなかった。
次の瞬間、真治は黒き闇の人狼の目の前まで風のような速さで移動してき
ていた。すでに蛇の尾を振るえる距離ではない.
一瞬後、我に返った人狼が拳を振るう。当たれば真治など簡単に粉々にで
きるであろう一撃。だが、その拳は破壊をもたらすことはできなかった。
そして、その人狼の背中に輝く拳がひとつ。腕の筋力を強化し、その表面
に光壁を展開した真治の拳が、黒い毛皮に覆われた胸にまるで吸い込まれ
るように打ち込まれていた。
間近で向かい合う紅と銀の瞳。そして、言葉が聞こえた。
「ぐ・・、また、我が前に、立ちふさが・るとは・・な。つくづく・・い
ま・いまし・・い奴だ・な・・・ルナ・・リ・・・ス・・よ。」
口から血が溢れ、だんだんと声が小さく、切れ切れになる。
真治はただ黙って見つめていた。
「我は・・消え・よう・・、が・・・いつ・か・・ま・・・た・・」
血色の輝きが薄れ、色褪せていく。
真治が、ミリ−ナが、美里が、繁が、身動きせずに見守る中、異形のもの
はフッとその瞳に天の細長い光をうつしだし、口を開いたが、次の瞬間、
黒い塵となり夜の闇へと消えていった・・・。
真治が目を覚ますと、そこは全く見覚えのない部屋であった。しかも、ソ
ファの上で寝ていたらしい。体を起こすと毛布がずれて素肌の肩が覗く。
側のテーブルに昨日着ていた服が置かれていた。
美里に襲われた!!・・わけではない。昨日、鬼へ変化する前に脱いでお
いたのだった。通常、ミリ−ナや美里のように服自体も妖力で取り込んで
いる場合、変身時に洋服も変化するのだが、真治は服は普通のものなので
着たままでいると破けてしまって、元に戻った時困るからである。
すばやく袖を通すと、戸を開けて廊下を抜け、人の気配のする方へ向かう。
出てきた所はバー・ネルフの店内だった。そこにはお酒を傾けてる美里、
相変わらずノートパソコンで何やらやってる誠、ギターを抱える繁、そし
て、カウンター向こうにミリーナと・・・、
「レ、レイ?!」
そう、エプロン姿のレイがいた。ミリ−ナと並んでお皿を拭いている。
「あら、真ちゃん、目が覚めた?あの後、いきなり倒れちゃったから、び
っくりしたのよ。」
真治に気付いた美里が声を掛けてくる。
「フフ、紹介するわ。今度、うちの従業員になった、綾波レイよ。」
唖然としている真治に、ミリ−ナが平然と言った。
「綾波って・・、それに、体がある・・」
「あの後、真治君が人間形態に戻ると同時に、ムーンストーンが胸からは
ずれたの。それで、この姿になったわ。多分、封印・浄化に向けられてい
た力が解放されたからじゃないかしら。それで、ほっとくわけにもいかな
いし、私がここで働くことを条件に引き取ったわけ。戸籍とかは、誠君が
偽造してくれるから問題ないし。」
なんか、あっさりと凄いことを言っているミリ−ナさん。側の誠さんがV
サインを向けていた。
「は、はぁ」
寝起きにこれで、なんだかうまく付いていけない真治。そんな真治の前に
何時の間にかレイが立っていた。実体がなかった姿の時と変わらぬ姿。だ
が、その存在感はあの時よりはるかに強く感じられる。
「碇君。」
「な、何」
真治は自分をじっと見つめる紅い瞳に、なんだか顔を赤くする。レイの頬
もほんのり赤くなっているように見える。
「・・ありがとう。」
レイの唇から紡がれた言葉に一瞬キョトンとするが、次の瞬間、真治は満
面の笑みでそれに答えていた。
展示場から消えた『ムーンラヴァー』は今、大騒動になっているらしい。
警備員の話も、大蛇だの狼だのと訳の分からないことばかりで収集が付か
ないそうだ。ただ、誠さんが今までつかんだ情報を元に情報操作をしてい
るらしく、なんか、凄く楽しそうに作業していた。誠さんの正体はコンピ
ュータ・ネットワークを使う人達の想いが生み出した「ウィルス」なのだ
そうだ。最初はあちこちでいたずらしたりしていたのが、ネットの情報に
干渉しているうちに外界に興味が出てきて、そして、あるきっかけから今
こうして人間の世の中で暮らすことになったらしい。
また、封印から解き放たれた奴が僕に対して言った言葉、「ルナリス」。
レイは自分に命じた者だろうぐらいにしかわからないらしい。当時は意識
は持っていなかったため、これはしょうがない。これについては、ミリ−
ナさんがいろいろ調べておいてあげると言ってくれた。
「そういえば、摩耶さんがいませんけど、家に戻ったんですか?」
いろいろ皆で話をした後、ふと摩耶がいないことに気付き、真治がきいた。
「あぁ、真治君が起きてくるちょっと前に昼ご飯も食べずに出ていったよ。
これを君に渡しといてくれって。なんか顔色悪かったけど・・・」
繁がそう言いつつ、一枚の紙を真治に差し出した。
そこには、
【連絡し忘れちゃった。てへっ♪ ごめんね。今日は帰らないから。
それじゃ、あとはよろしくね。〜 摩耶 〜】
「・・・・・・・・・・」
その後、弥生がいてくれたこと願いながら家に帰った真治を待っていたのは、
夕食から昼食まで3食も抜かれて飢えた狼達だった。
合掌。
「自分だけ逃げるなんて、酷いや、摩耶さん・・・」
jr-sariさんの『世界、重なりて』Vol.2 Cパート公開です。
綾波ストの皆さん大喜びのお話ですね(^^)
月の光に
輝き、
照らせれ、
祝福された。
実に魅力的なキャラ設定です。
シンジと通じ合っているし・・・・
安穏としていた
アスカ人は大あせり(笑)
絡み合う関係が楽しくなって来ました(^^)
さあ、訪問者の皆さん。
2つ目のエピソードを書き上げたjr-sariさんに感想メールを送りましょう!