「ほらっ、あなた達、もう明日の準備は終わったの?」
台所を片付け終わり、エプロンを外しながらかけられた弥生の言葉に、対戦ゲームに興じる瑞希と拓也、美穂の三人が重い腰をあげる。脇でおとなしく本を読んでいた香も本を片しはじめた。
「あーあ、明日から学校か。くぅ〜、もっと休みたーい。」
腕を上に伸ばし、ぐぐぅーっと伸びをしながら瑞希が愚痴る。まぁ、学校が始まるのを心待ちにする人間はあまりいないであろうから、これは夏休み明けを迎える人間の一般的な意見であろう。
「あれっ・・?ねぇ弥生お姉ちゃん、お兄ちゃんは?」
拓也とゲーム機を片しながら、真治がいないのに気が付いた美穂が尋ねる。
「ん、夕飯が終わってすぐ部屋に戻っていったわよ。」
真治にはやることが残っていた。それは、楽しい夏休みの終わりに立ちはだかる脅威の存在。皆さんの中にも経験ある方がいらっしゃるかもしれない。そう、宿題である。夏休み中、ミリ−ナに店の手伝いを頼まれて性格上断ることのできなかった真治は、結局宿題を終わらしきれなかったのだった。
こうして、真治達の夜は深けていく。
時間はその日の午前中まで溯る。ここ、洞木家に一人の男の子が訪れていた。
「すまん。いいんちょー。お願いや。わいに宿題見せてくれ。」
玄関先で冬至が光に手を合わせて頭を下げていた。
突然の訪問ではあったが、光はあまり驚いた様子はない。
実は、毎年繰り返されている光景で、内心、こうなることを期待していたりする。
「もう、しょうがないわねぇ。」
必死で、あきれたような表情を作ってはいたが、頬が緩むのは抑えられないらしい。そんな光の耳元で小さな囁き声。
「ラブラブね。光ちゃん。」
ビクゥッッ!!!
恐る恐る振り向いた光の後ろには2人の姉妹がニヤニヤと二人を眺めていた。
そして、この日、空の上でも明日に備えているものがいた。
「京香叔母様、私、明日からすぐ学校に行けるの?」
活発そうな女の子が隣りに座る女性に声を掛ける。二人とも顔立ちが良く似ていた。赤い髪と黒い髪。蒼い瞳と黒い瞳を除けば、少女の成長した姿が隣りの女性のようであろうといえるぐらい、そっくりである。
「大丈夫よ。赤木さんが先に行って、住む場所から何から手配しておいてくださるそうよ。ちゃんとお礼を言っておかなくちゃね。明日香。」
ほんのちょっと前までベットで眠り続けていた様子など微塵にも感じさせないその様子を見やり、それに答えながら、突然自分達の下にやってきて、妹・響子の事や明日香の目覚めなかった理由、そして明日香に関わるこれからのためにも、と日本に招待してくれた赤木律子のことを思い出す。
心理学系を研究していた自分に大学の講師の職まで世話してくれた。不安がないわけではなかったが、この3ヶ月、律子と一緒に過ごしてみて信頼できる人物(?)であることは分かった。
明日香も『彼』に会えると喜んでいるし。
「ね、ちゃんと私にも紹介してね。明日香の『目覚めの王子様』」
いたずらっぽく言う京香に、見る見る明日香の顔が赤くなる。
「な、な、な、」
言葉にならないらしい。そんな様子を眺めつつ、ひとまずこの状況に楽しもうと思う京香だった。
そして、あともう一人、明日を心待ちにする少年がいた。
「デジカメはオッケー。ビデオのバッテリーも大丈夫。あとは・・・」
眼鏡を輝かせ、自分の商売道具を気合いを入れてチェックする。学校の始まるこの前日になって、彼の下に独自ルートからある情報が舞い込んできたのだった。
「へへっ、こいつも用意しとかなきゃな。」
健介の取り上げたのは、今時珍しくなってきた、自分でピントを合わせて一回一回フィルムを巻き上げながらシャッターをきるタイプのカメラであった。よく使い込まれているのか、年代を感じさせるボディやカバーなどあちらこちらに細かい擦り切れや傷が見られるものの、持ち主の大切に思う気持ちがそこに表れていた。
「扱いは難しいけど、撮れるものはデジカメにないものがあるからな。」
レンズを丁寧に磨きながら、健介はもう一度明日のための準備を見直しはじめた。
始業式も終わり、後は帰るだけの2学期の1日目。真治の回りには人の壁ができていた。正確に言うと、真治の隣りの席に座る少女に巻き込まれる形で、だが。
「ねえねえ、惣流さんってハーフ?」
「ううん。クウォーターよ。」
パチッ
「どうして日本に来たの?」
「え、ちょっと、ママの都合でね。」
パチッ
転校初日の通過儀礼、ちょっとした質問というやつである。
(それにしても・・・)
真治はにこやかに隣りで質問に答えている明日香をぼんやりと見つめながら、認識と現実のギャップを埋めるのに必死になっていた。
実際、真治は明日香に現実に会うのはこれが初めてである。そして、前回は自分よりもはるかに幼い、小さな明日香であった。それが突然同年齢の存在として目の前に現れたのである。
しかし、不思議と全く疑いの気持ちは持たなかった。これがあの明日香であるのは間違いないという確信はある。ただ、認識がそれに付いてこないのであった。
「そういえばさ、明日香さん、碇君のこと知ってるの?」
「あ、それ、私も聞きたい!」
パチッ
そう、本当の所、皆朝のやり取りに付いて興味深々だったのだ。突然やってきた美少女といえる転校生が、お互い知らないはずの、普段あまり目立たないクラスメートに声をかけたのだ。しかも、その台詞が
『約束守ってよね。お兄ちゃん。』
ときたもんだ。(Vol.1参照)
「なぁ、碇。どうなんだよ?」
そばにいた一人がぼーっとしている真治にも声をかける。それによって、やっと回りの状況に気が向いた。回りにいる皆が体を乗り出し、目をランランと輝かせて答えを待っている。
「え、な、なに。何の話?」
全く何の話かわからずちょっと引きが入る真治。
「だから、真治は転校生と知り合いかって聞いとんのや。」
やはりそばにいた冬至が真治に教えてやる。
「知り合いって・・えと、」
「前に会った事があるのよ。ね。」
ジッ カシャ
困った顔をした真治に助け船を出す明日香。
「え、う、うん。」
明日香の言葉に肯きを返す。
「じゃあ、約束って何の事なの?」
さっき、発端の質問をした女の子がまた質問する。どちらかというと、そちらの方が皆の興味のウエイトが重い。
「え、あ、それは・・・」
これまた言いよどむ真治。
「あぁー!さては結婚の約束とかー。」
「「なっっ!!!」」
壁の中の一人が声を上げると同時に回りが勝手に盛り上がりはじめた。
「えぇー、どうなの?惣流さん。」
「え、そ、その、」
ジィ カシャ
「碇にそりゃ無理なんじゃないの。」
突然の展開にちょっと赤くなりかけた明日香の肩がこの言葉にピクッっと反応した。
「そうそ、目立たない碇と惣流さんじゃなぁ。」
明日香のキュっと握られた手がフルフルと震えはじめる。
ジィ カシャ
「あー、だったら俺が惣流さんの彼女に立候補する。」
・
・
・
事態についていけずに呆然と成り行きを眺めていた真治は、勢いよく明日香に群がりはじめた男子達に囲いからはじき出されてしまった。
そして明日香は・・・
「うるっさぁーーい!あんたたち、ばっかじゃないの!揃いも揃って。」
・・・爆発した。
「おとなしくしてりゃ、言いたい放題。」
明日香が真治の側に移動する。明日香のあまりの代わりように皆目が点になっていた。
「あたしとお兄ちゃんは見えない糸で結ばれてるのよ。ね、行こ、お兄ちゃん。」
同様に目を点にしていた真治の腕を取り、引きずっていく明日香。
教室には呆然とたたずむクラスメート達が残された。
教室をでて、ズンズン廊下を進んでいく。階段を上って行きついた先は屋上である。秋に分類される9月とはいえ、まだまだ暑い真昼の日差しが頭上にサンサンと輝いている。
「まったく、嫌になっちゃうわ。ねぇ、お兄ちゃん。ん?どうしたのよ、変な顔して。」
ブツブツ言いながら真治を引っ張っていた明日香が一息つきながら振り向くと、そこにはなんとも複雑な表情をした真治がいた。
「あ、あのさ、あの・・・本当に、あの・・明日香ちゃん・・・なの?」
「へ?」
何を言われたのかすぐに理解できない明日香。
「いや、だからその・・」
「・・・お兄ちゃん、まさかあたしの事わかんないわけ?」
ちょっと、やばそうな気配が漂いはじめる。
「え、いや、そうじゃなくって、」
「じゃあなんだってーのよ!あたしはずーっとお兄ちゃんに会うのを楽しみにしてたのに!」
むんず、っと胸座を掴み挙げる明日香。
「ぁ、ぁ、ぁ、明日香ちゃん、落ち着いて、ね、説明するから。は、はなじて、く・ぐ・・ぐるじぃ・・・」
ジタバタ暴れる真治の言葉にとりあえず手を放したが、まだ目が怒っている。
「・・・それで、なんでそんなこと言うのよ。」
「ゼェゼェ、・・だってさ、僕は小さい明日香ちゃんにしか会った事ないんだよ。いきなり同い年だって言われたって、どうしたら良いのかわかんないよ!」
朝、明日香と再会してから思っていた事を吐き出す真治。まさか、そんな事を言われるとは思っていなかった明日香の表情は、次第に怒りが驚きへ、驚きが納得と安堵に変わっていった。実際以前に会った時、明日香は今の真治の姿を見ていたので何の違和感もなく、自分が幼い姿だった事など全く考えになかったのである。
「そっか。そういえばそうだったわね。間違えなく、あたしがあの明日香よ。あの時からずーっと会えるのを楽しみにしてたんだからね。お兄ちゃん。」
機嫌が直ったのか、改めてにこやかに微笑みながら真治を見る明日香。そんな明日香に、やっと現実に認識が追いついた真治の顔が真っ赤に染まっていく。
「あ、あのさ、その、お兄ちゃんっていうのは、やめてくれない、かな?なんか、同い年なのにそう言われるのって照れくさいし・・」
「そうね。・・・それじゃ、あたしはあんたの事、真治って呼ぶわ。」
真治のところでちょっと顔が赤くなる。
「うん。じゃあ、明日香ちゃんじゃあれだし、僕は・・・惣流さん。」
「明日香よ。」
有無を言わせない口調。
「え、でも・・」
「あ・す・か!」
目が、それ以外の呼び方をしたらどうしてくれよう、と語っていた。
「ぁ、明日香。」
「よろしい♪」
ちょっとずつ、明日香の性格を学びはじめる真治であった。
「いたいた。惣流さん!碇くん!」
真治と明日香がそれぞれの呼び名について合意にこぎつけた所でやってきたのは、彼らのクラスの委員長、洞木光であった。
「こんな所にいたんだ。探しちゃった。」
息をついて近付いてくる。側に来ると、ちょっと心配そうな表情をその顔に浮かべて明日香に話し掛けた。
「ごめんなさい、惣流さん。皆、悪気があってあんな騒いだわけじゃないの。」
「え、あ、いいのよ。あなたが誤る事じゃないでしょ。」
「でも惣流さん、飛び出して行っちゃったから気を悪くしたんじゃないかと思って。」
「もうっ、いいんだってば。それより、あたしの事は明日香って呼んでちょうだい。惣流って言いにくいし、なんか他人行儀じゃない?」
やっと、納得したのか光の顔にいつもの心休まる笑顔が浮かんだ。
「うん、わかったわ。私は洞木光。光って呼んで。」
「よろしく。光。」
「こちらこそ。」
お互い手を差し伸べて握手をかわすと、光は今度は脇に立って二人を見ていた真治に話しかけた。
「碇君。鈴原と相田君が教室で待ってるわよ。」
「あ、そういえば一緒に帰るんだった。忘れてた。」
あわてて教室に戻ろうとする真治にもちろん不満の声がかかる。
「待ちなさい、真治。あんた、あたしを置いてく気なの?」
またも、その蒼い目が脅迫の光を放っている。
「え、でも、明日香の家ってどこなの?」
当然の疑問。
「う、あ、あんたに関係ないじゃない!あんたはあたしと一緒にいればいいのよ。」
「なんだよ、それ!。」
いきなり険悪ムードに移行する二人。あわてて光が二人の間に入る。
「ちょ、ちょっと、明日香も碇君も落ち着いて。・・・明日香の家も四龍区にあるんでしょ。」
「・・う、うん。」
「じゃ、そこまではとりあえず一緒じゃない。だったら、皆で帰りましょ。碇君もいいわよね。」
「僕は別にかまわないけど・・、冬至達は・・」
「大丈夫。鈴原には私から頼むから。ね。」
何だか妙に張り切り出した光に圧倒され、そのまま押し切られてしまった真治と明日香だった。
「お、やっと戻ってきおった。遅いでぇ、真治。何しとったんや。」
あれから皆帰ったのだろう。教室には冬至と健介しか残っていなかった。
「お、委員長に惣流も一緒か。」
「ごめん、待たしちゃって。」
とりあえず待たしてしまった事を謝る。それから、珍しく気の利いた反応を示し、真治が明日香に二人を紹介しはじめた。
「あぁ、明日香は二人を知らないよね。こっちが冬至でこっちが健介。二人とも僕の仲のいい友達だよ。」
「わいは鈴原冬至や。よろしゅうな。」
「俺は相田健介。真治とは中学の時からの友達だよ。」
「ふーん。・・・ま、よろしくね。」
声をかけてくる二人を一瞥すると、明日香は興味なさそうに返事を返した。
「なんや、愛想ないのぉ。まぁええ、真治帰ろーや。」
冬至はちょっとしかめっ面したが、気にしない事にしたらしい。真治の方に向き直ると、すでに用意し終わったカバンを肩に掛けつつ声を掛けた。
「あ、冬至、その事なんだけど。」
「なんや。」
「あ、あの、」
切り出しにくそうな真治の代わりに光が脇から口を挟む。
「あのね、私達も今日は一緒に帰らせてもらうから。」
何でもなさそうに装っているが、やっぱり頬がほんのり赤く染まっている光。が、冬至はやっぱりそんな事気付きもしなかった。
「なんや、いいんちょ達も一緒に帰るんかいな。」
「べ、別に、一緒に帰りたいとか、そんなんじゃなくて、その、明日香さんはこの街は初めてなんだし、皆で帰った方が心細くなくっていいじゃない。だ、だから」
「わいは別にかまわへんで。健介はどや。」
「僕もかまわないよ。」
「ほな、帰ろか。」
なんとなく慌てた様子の光を気にする事なくあっさりと受け入れ、とっとと教室を出ていく冬至に、健介は苦いため息をもらし、真治は慌ててカバンを掴み、明日香は何も言わず、光は嬉しいような、残念なような表情を浮かべて後に続いた。
「明日香の家ってこっちの方なの?」
環状線の四龍駅から区内線に乗り換え、駅で皆と別れた後、真治の側には明日香が残っていた。今はバスを待っている所である。
「・・・多分。」
「え、多分って・・・わかんないの?」
「学校終わった後教えるから、あんたと一緒に帰ってこいって言われたのよ。」
「誰に?」
「赤木律子って人よ。」
「なっ!律子さん!なんで律子さんが!?」
突然思いもしなかった人物の名前に真治は驚いた。
「何でも何も、こっちに来るのを勧めてくれたのも、真治と同じ学校に手配してくれたのもみーんな律子がやってくれたのよ。」
「じゃ、律子さんはだいぶ前から明日香がこっちに来るのを知ってたのか。教えてくれれば良かったのに。」
律子さんが海外に行っていたのは知っていたし、10日程前に帰ってきていたのも知っていた。考えてみたら誠さんとなんかやっていたし、やけに誠さんも律子さんもなんか企んでいるような顔をしていたような気がする。
(そうか、二人とも今日の事を知ってたんだ。誠さんと一緒だったからあんまり気をつけてなかったけど、今度から誠さんにも注意しなくちゃな。)
うーん、と不満そうな顔をして新たに注意人物リストに一つ名前を加えている所でバスが来て、二人はそれに乗りこんだのであった。
「おはよう、冬至。」
「おぉ、おはようさん。」
教室に入って冬至に声を掛ける真治は、自分にクラス中から好奇と嫉妬の視線にさらされているのを感じていた。
「しんじぃ〜、さっそく惣流と一緒に登校かぁ〜。」
「な、あ、それは、明日香の家が僕の家の隣りだったから、それで・・・」
昨日、真治の家で待っていたのは律子と京香、そして真治の家族達であった。
そして、はじめましての挨拶と自己紹介が始まり、どういう理由でこうなったのか簡単な説明を律子が行った。もちろん、真治と明日香の出会いなどは全く違う
話がされた。小さい頃にしばらく一緒にいた幼なじみだということになっている。
この後、明日香と京香は一緒に食事をし(途中、京香と律子が真治と明日香をからかったりし、妙に瑞希と弥生の機嫌が悪くなったりした)、遅くに律子が用意した隣りのマンションに帰っていったのだった。
そして、今日の朝、明日香が真治を迎えに来て引っ張り出され、一緒に登校したのであった。
「しかしのぉ、」
ニヤニヤしながら言葉を続けようとした冬至に慌てて真治は遮って、話を別の方向に持っていこうとする。
「そ、それよりさ、なんか健介の様子が変だけど、どうかしたの?」
「あぁ、健介のやつ、昨日こっそり惣流の写真を撮っとったらしんやけど、なんやうまくいかんかったらしいんや。そんで、あのとおりや。」
「写真!?写真なんか撮ってたの!」
冬至にとっては何でもない話であったが、真治にとっては大事だった。
どういうわけか、妖怪に対して機械はうまく反応しないのである。写真、ビデオ、テープ等に自分の痕跡を残すには強く意識しなくてはならなかった。一般的には肉体構造が人間と異なるからといわれている。実際、他にも困る事がいろいろあるのだ。例えば、健康診断。真治は毎回律子に頼んでごまかしてきていた。採血したとしても、肉体から離れた血液が気化消滅してしまったりするためである。
真治は机にペッタリへたりこんでいる健介の下に駆け寄ると、勝手にカバンをあさりはじめる。
「なんだぁ、真治。一体どうしたんだ?」
そんな真治にのっそり健介が頭を起こした。
「健介。昨日撮ったっていう写真、見せてくれない?」
「あぁ、ふぅ・・ほら、これだよ。ばっちり撮れてると思ったのになぁ。」
朝現像してきたのか、健介はカバンから写真の入った袋を取り出した。
「初めはデジカメで撮ってたんだけど、なんか変にぼやけるんだ。だから、感光式のカメラに換えて撮ったんだよ。全くいつも通りに撮ったはずなのに、できて
きた写真は失敗作。この俺がだぜ!!はぁ・・」
写真は昨日皆に囲まれて質問されていた時のものだった。確かに明日香を中心に撮ったのであろうが、明日香がぼやけた感じになっている。しかし、健介は失敗した事にショックを受けて気がつかなかったらしい。ぼやけているのは明日香だけなのだ。回りの人間ははっきり写っているのである。
そして・・・
「あっ!」
「なんだ、どうかしたか?」
「え、あ、ううん、何でもないんだ。ねぇ、健介。これもらってもいいかな?」
「失敗した写真をか?別にかまわないけど・・・、そんなかに真治のお目当てかなんかがいるのか?」
ちょっと興味がわいたらしい。健介の目にちょっとだけ光が戻った。
「ありがとう。え、あ、なんか言った?健介。」
が、真治は何かに気を取られているのか、礼だけ言うと自分の席に戻っていく。
健介は後でもう一回ネガをチェックして誰が写っていたか確かめる事を決意した。
真治の見つけた写真。その中には、ぼやけた明日香の横にもう一つ、明日香よりもはっきりしていないが白い人影があった。そしてその頭と思われる部分には、突起のようなものが写っていた・・・・・。